新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議(第5回)議事要旨

1.日時

令和2年2月6日(木曜日)15時00分~18時00分

2.場所

文部科学省3階 3F1特別会議室

3.議題

  1. インクルーシブ教育システムにおける障害のある子供の学びの場の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

宮﨑主査,岡田主査代理,朝日委員,阿部委員(代理尾上氏),石橋委員,市川委員(代理大塚氏),一木委員,大出委員,川髙委員,木村委員,滝口委員,竹中委員,田村委員,野口委員,日詰委員,廣瀬委員,佛坂委員,真砂委員,山中委員,吉藤委員(代理尾崎氏)

文部科学省

佐々木政務官,浅田総合教育政策局長,蝦名大臣官房審議官(初等中等教育局担当),俵特別支援教育課長,佐々木特別支援教育企画官,青木初等中等教育局視学官,若林特別支援教育課課長補佐

オブザーバー

西牧オブザーバー,梅澤オブザーバー

5.議事要旨

【主査】まず、障害のある子供の就学手続きの在り方についての御議論を頂きたい。総合的判断に基づく就学先決定をどんなふうに改善していったらいいかということが主なポイントになる。教育委員会事務局の就学の手続きに大きな様々な影響を与えるので、是非教育委員会の事務局に関わった方々に課題等をお話しいただければありがたい。
また、障害の種類や程度に応じたこれについても議論ができればいい。
加えて、就学後の弾力的な行き来というか、一回措就学手続きである学校に就学したとしても、その子の状態に応じて転学ができるという仕組みが、現行の就学先決定の考え方だったが、そのあたりがどうなっているかといったようなことなども併せてお話いただきたい。

【委員】5点論点がある。1点目はインクルーシブ教育システムの評価について。事務局からインクルーシブ教育システムの定義等について御説明いただいたが、委員の中でも、インクルーシブ教育システムの構築ができているかをどう判断するのかという共通理解が持てておらず、それを今後どのように評価していくのかを決めなければいけない。交流及び共同学習をもって特別支援学校も含めてインクルーシブ教育システムが構築できているとするのであれば、可能な限り共に学ぶということがどこまで実践されているか、その量や質を測っていくべき。
2点目は就学先決定の在り方について。現在、株式会社LITALICOは、LITALICOジュニアという放課後等デイや児童発達支援事業所に8,000人の子供が通っており、就学相談を受けている。そのときに、本人や保護者が地域の学校を希望しても、通常学校でその子が学べる環境が整えられていないとか、保護者がずっと子供のそばについていなければ通常の学校への在籍は認めないという話をよく聞く。また、本当は地域の学校に通いたいけれども、通常の学校にて合理的配慮が受けられないがゆえに、消極的に特別支援学校を選択しているという事例をたくさん聞く。そのため、手続きそのものも大切だが、そもそも通常の学校においてどのような支援が受けられるかを明確にしていくとともに、それが足りていないのであれば、通常学校の中で合理的配慮や環境整備をもっとしっかり行うための施策を考えるべき。まずは、毎年、学校教育法施行令第22条の3に該当すると判断された児童が毎年3,000人の子供たちが公立学校に通うという選択をしているということなので、そういった子供たちが今どういう実態なのか、課題はどんなところにあるのかというところを把握できるといい。
3点目は、特別支援学級や通級による指導の質の向上についてである。これらを上げないまま、特別支援学校と通常学校を選んでくださいというのは、保護者や本人にとって非常に酷な選択なので、通常学校で学べる仕組みをしっかり整えていくことが必要。例えば、学校現場では、情緒障害児が在籍する特別支援学級と知的障害児が在籍する特別支援学級の教育課程がごちゃ混ぜになっているという課題がよくある。情緒障害児の特別支援学級にいるにもかかわらず、通常の教科を学べていないという事例もよくある。こうした課題に対して、例えば、ICTを活用して、より質の高い個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成できるような仕組みを作っていくということや、通級による指導や特別支援学級の担任をスーパーバイズすることができるようなスーパーバイザーを中学校区に1人配置するとか、そういったような施策、通常学校の支援の質を上げていく具体的な施策というのを検討していかなければ、就学先決定の手続きがどんなにいいものであっても、消極的な選択になってしまうのではないかということを懸念している。発達障害の専門性を今後整理していくと思うが、その中でも、特別支援学級や通級による指導の担当教員も含めた専門性を整理し、その上で、その専門性を免許や別のものも含め担保していくかを検討していく必要がある。
4点目は、特別支援教室構想にも関わってくるが、通常学級の特別支援教育の力をどのように上げていくのかを考えたときに、例えば、アメリカでは今Response to Interventionという仕組みがほとんどの州で導入されている。これは、90年代、2000年代にLDの診断がものすごく増えて、支援学級にリファーされる子供たちが増え過ぎてしまい、本来、通常学級で少し工夫をすれば学べる子たちも、皆、別の場で指導を受けることになってしまったという経緯がある。その内容は、通常学級の中でエビデンスのあるユニバーサルな指導や支援をした上で、その中でできる、可能な限りプラスアルファの支援を追加していき、それでも難しい場合に、通級や支援学級を検討する対象となるという仕組みであり、本当にその子に別の場での支援が必要なのかというのを学校組織としてエビデンスに基づき判断し、その子に合った支援を届けるという仕組みであると思う。
5点目の特別支援教室構想については、次の論点だが、3で挙げた個別の教育課程の作成を支援するシステムやスーパービジョンの制度、あとは、4で挙げたようなRTIのような仕組みが整えば実現可能ではないか。一方で、個別に教育課程を編成することになると思うので、現状の学習指導要領の中でどのように実施していくのかというところは、具体的に検討していく必要がある。

【委員】就学については、地域の違いもあるかもしれないが、保護者の強い希望で合意形成ができず、子供の実態に合わない判断がなされるケースも生まれていると聞いており、できるだけ子供の実態に合った教育が受けられるようなシステムが必要だと考える。
配布資料にもあったが、副次的な籍や、地域でも専門的にも学べる環境が必要ではないかなと思う。

【委員】就学先の決定については、平成25年に法令が改正されたが、まだその考え方が浸透していないという現状ある。保護者と丁寧な相談を進め小学校や中学校といった通常の学校も含めて就学先を考えていくことや、上から決めるものではないというところがまだまだ浸透していない。
1つは、就学先決定の制度に関する理解を進めていくということ。その上で、小学校や中学校でも障害のある児童生徒への支援体制があることを明確に保護者に説明していくこと。加えて、特別支援学校を選択する保護者ももちろんいるので、特別支援学校や小中学校それぞれで教員の専門性を高めるということが重要。自分の学校に障害のあるお子さんが来たら、こういう教育ができますということをきちんと説明できるというのも専門性だと思う。今はそこが曖昧になっているので、保護者もなかなか学校を選びかねるというような状況もある。
2つ目は、小中学校の方の支援体制も進めていくこと。
3つ目は、それぞれの学校の専門性を高めるということ。
4つ目は、小中学校の通常の学級から特別支援学級、特別支援学級から特別支援学校というように、障害の重い方へ移るというケースが多いと思うが、逆のケースも増やす必要がある。特別支援学級や特別支援学校を選んだら行ったきりになってしまうというような保護者の心配も多い。なので、交流及び共同学習等も含め、双方向に行き来できる、場合によっては学籍を変えられるというような事例ももっと増えていく必要がある。

【委員(代理出席者)】JDFは、13の全国的な障害者団体で構成されており、先日、様々な団体の意見を集約して障害者権利条約に関するパラレルレポートを作成し国連に提出したところ。本日はパラレルレポートに記載した内容を基に意見を述べる。
1つ目の障害を持つ子供の就学手続きの在り方に関しては、障害者権利条約に基づき、障害のある児童生徒も原則として自分の住む地域の通常学校・学級に通うこととする原則インクルーシブ教育制度への法制度の改革を進めるべきである。また、学習指導要領で「インクルーシブ教育」や「合理的配慮」についての記述を追加すべきである。
2つ目の通級による指導と特別支援学級の垣根を越えた特別支援教室構想については、13の多様な団体内で議論中であるため、改めて意見を申し上げたい。
1点目については、私どもの方にも、就学時の相談で地域の学校へ行きたいと言うと、「じゃ、お母さん、付き添ってくれますか」あるいは、「給食のときは来てくださいね」というようなことを言われたりすると聞く。障害者権利条約は、基本、自分の地域の通常学校や学級に通うこと、その原則インクルーシブな教育制度を求めている。このことをまずしっかり共有したい。原則インクルーシブな教育制度に対応した就学先決定ということで言うと、10月1日時点の住所で学齢簿を作成する時点で、障害があってもなくても、皆まずはそのお住まいの小中学校への就学通知を出して、その上で、本人や保護者が特別支援学校を希望される場合は申し出て、総合的な判断の上で就学先が決まり、特に何も申し出がなければ当たり前に合理的配慮や基礎的環境整備がなされている地域の小中学校に就学できという仕組みにすべきではないか。先進的な自治体では、10月31日までに作成する学齢簿に基づき、まずは全員に小中学校への就学通知を出し、特別支援学校の申し出があったときには教育相談を行い、納得した上で就学先を選んでいただく仕組みとなっている。そういった自治体でも混乱事例は聞いておらず、十分実施が可能な仕組みではないか。是非、この権利条約に基づく仕組みにしていただければと考える。

【一木委員】以前就学指導に関わる機会があったので、その経験も踏まえて申し上げる。
手続きそのものの変更というわけではないが、総合的判断を行う際に教育上必要な支援の内容も含めて行うこととされているが、場の選択というのは、実質的には教育内容の選択になる。つまり、通常の教科を学ぶのか、知的障害児への教科の方が学びやすいのか、あるいは、自立活動がどの程度必要なのかといった教育内容の選択だということが、もう少し浸透していくとよい。
そのために、2つのことが大事。1つは、特に特別支援学校において、教育内容の学びの成立を図る専門性、具体的には、教科の学びについてどれだけ保証できるか。また、自立活動について、どれだけ子供に適した指導ができるかということ。
2点目は、多くの場合は12年間子供たちの教育を担って送り出しているため、この学校に入学した暁には、子供がどのような力を身に付け卒業するのか。保護者には描きづらい子供の育ちの見通しを描けるような情報提供、具体的には、教育課程に込めた意図を情報提供できるかということが特別支援学校に特に求められる。

【委員(代理出席者)】就学手続きの際の総合的判断をする期間が2か月ほどしかないが、各教育委員会もリソースと時間が限られている中で、全国で約1万人の対象者個人個人に合わせたカスタマイズをしていくということは、多くの時間を要するし、属人的になったりしてしまう可能性があると感じた。一部はもっと早期から相談をすることができる項目もあるのではないかなと感じており、親も教育委員会の方も制約がある中で、短期間で決めなければいけないということは、本人にとっても良い結果にならないことも多々あるのではないかと思う。十分な情報提供が行われていることは理解しているが、遅延しているケースもあるというなら、部分的に先に取り組めれば、そういうケースも少なくなるのではないか。

【委員】副次的な籍を希望して居住地域の小中学校と交流及び共同学習を行う場合、1回目は特別支援学校の教員が付いて行けるが、2回目以降は特別支援学校が休みの土曜日や開校記念日でなければ保護者にお願いせざるを得ない状況。受け入れ先の小学校としては、保護者が手話通訳を行うか手話通訳を雇うなどして聴覚障害の情報保障をする準備ができなければ、お子さんを受け入れて交流を行うのは無理ということは当然。
また、特別支援学校から小学校に行く、あるいは、いろいろ問題を抱えて特別支援学校に戻ってくるケースがあるが、清水の舞台から飛び降りる覚悟で小学校に行ってみて、相当苦労してうまくいくか、あるいは、傷付いて帰ってくるかというのが実態。小学校に就学した障害のある子供がその子に応じた教育を受けるためには、小学校の先生の理解を得るだけではなく、その子の学校生活を調整する役割の人材が必要。特別支援学校の教員も時数目いっぱい授業等があり、とても学校を出たり入ったりすることができない。これからの時代の特別支援教育の在り方を考える検討の会議であるので、通常の学校の特別支援教育コーディネーターの役割の再検討や、特別支援学校でも担任を持たずに交流及び共同学習を推進する新たな職員の配置を検討することなどが必要。
例えば、人工呼吸器をしているが通常の学級で学びたいという肢体不自由のお子さんが、受け入れるかどうかは、環境があるかないかで決まってくる。そういった子供の学びを支えていくため、小学校・中学校あるいは特別支援学校の努力や親御さんに委ねている部分を世の中全体としてこれをうまく担うための仕組みづくりの検討が必要。

【委員】教育委員会で長く就学相談に携わっており、今、特別支援学校の校長としても何校も経験してきた中で、様々なケースに立ち会ってきたが、例えば、障害の重い方、知的障害が大変重い方、視覚的に重い方そして身体的にも重い方など様々な方が通常の学級に行かれるケースも少なくはない。そうした中で、この総合的な判断という新たな仕組みが保護者の意向を重視するものであるため、就学相談の担当者が、保護者が言うままに判断することが大変多い。この総合的判断は、障害の状態、教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制、例えばその学校にエレベーターがあるか、支援の内容には教育指導の内容も含めた支援になるので、付き添いの介助員が置けるか、横になって休んでケアができるスペースがあるかとかという環境も含まれるが、一番大事なのは義務教育や高校の教育で読み書き・算数、基礎学力をきちんと付けることができるか、社会に出るときに共通した判断力、考え方、コミュニケーション手段を得ることができるかということが最も重視されるべきである。様々な要素が並列で並べられると、一番大事な教育指導の中身ではなく保護者の意向と環境調整がどうしても表に出てきてしまいがちである。通常の学級に行った場合には、40人程の児童生徒に先生が1人で教える中で、配慮するにしても介助員が付くにしても、中身が分からない授業に行くということを十分に検討していかなくてはいけない。
新しい特別支援学校の学習指導要領の知的障害を伴うお子さんに対して、モノの有る無し、見比べて同じか違うか、記憶・判断の基礎の基礎から入って、小学校の学習につながることや文字に入るところまでが規定されたので、今回の改訂は、革命と思えるほどの変化があった。知的の算数・数学の1、2、3段階では文字量が31倍、1巻の本が31巻になったということですから、一般的には2割増しでも重視と言われ中で、すごいことが起きている。この中に学習資料が細かく段階的に書かれているので、ある程度のところが段階まで学習すれば、小学校1年生の内容につながるが、通常の学級では、本人が意欲は持っていったとしても、一番大事な時期に分からない授業を受けているということになりかねないのではないか。通常の学級で適切な学習内容が用意できるかどうかというところを、この総合的判断の中にきちんと明示すべき。
また、保護者の意向を重視するということ関しては、就学相談の中で十分にそれぞれの教育の場の説明をしたり、卒業後どういうところで社会参加しているかまで説明した結果、当初の判断が大きく変わってきたというケースも多く、保護者から「ありがとうございました」といわれたケースも多くある。保護者の意向というのも、当初の意向と誤解されがちであるが、最終的に理解が深まった中で、教育委員会、教育を用意する側と保護者の意見が一致して、お子さんがここなら適した教育を受けられ前向きに進めるというところを見出すというところが大事。そこがもう少し分かるように、この総合的判断の説明を工夫ができないか。
もう一つは、就学相談の専門性の向上について。区市町村での就学相談の開始に当たって、校長先生や教員の多数いる中で研修を頼まれることがあるが、「初めてきいた。そういうことだったんですか」という反応が大変多い。保護者に膨大な資料を配布していると思うが、実際の相談の方が区や市の中にある様々な教育の場のメリット・デメリットを俯瞰して説明できる中で、親に響く言葉で説明できるかどうかという点での就学相談の専門性の向上は重要。

【委員】事務局の説明に、就学に当たって正確な情報が必要だという話があったが、その中には、医学的な知見というのも含まれるべき。例えば、盲ろう児を例に取ると、専門的な盲ろう児教育がないというのが根本問題で、そうした現状の中では、盲学校がよいのか、ろう学校がよいのかということを親御さんは選ぶ状況がある。その際に、音声によるコミュニケーションがよいのか、手話によるコミュニケーションがよいのかということは、子供の障害の現状と将来の可能性についてどう考えるかということが非常に重要なことである。このため、医学的な見極めというプロセスを経ながら考えていくということが重要であるが、現状、なかなかそこまでできていないというのが実態である。

【委員(代理出席者)】就学先決定手続きにおける総合的判断は、学校を決めるのみならず、就学先決定後も柔軟に見直していくことも含まれる。インクルーシブ教育システムを進める中で、御本人の状態に応じた柔軟なシステムをきちんと保障していくということや、多様で柔軟な仕組みを整備することが果たしてどこまで実現できているかが問われている。
総合的判断によって、1つの仮説ではあるけど、こういう方向で行きましょうと決定したとしても、就学先決定後になかなかうまくいかなかったりした場合に、柔軟な相談支援や第三者の介入によってそれを解決する仕組みも考えていきたい。合理的配慮や紛争解決や相談が教育のシステムの中だけではやはり限界があるので、少し違う立場から建設的対話の中で解決していくような仕組み、第三者性を考えていただきたい。

【委員】教育を選ばれて入ってこられている私立学校でも、当然いろいろな相談を受ける。公立の小学校や中学校の保護者の方と会うこともあるが、特別な教育を受けることは特別でないのだということを保護者の方に分かってもらわないと進まないような気がする。日本人なので、特別なことは嫌で周りと同じことをしようという意識は非常に強いが、アメリカ等では、スペシャルエデュケーションを受けられることの良さや、それが当たり前という意識の違いを感じる。
日本の幼稚園ぐらいの保護者を見ると、未発達な部分があったりすれば、当然、そこに向けて特別な指導や保育を求める方が増えているようにも思う。義務教育段階を考えているかもしれないが、就学については幼稚園ぐらいの保護者から目を配っていく必要がある。
また、就職、就労していくうえで、高校選びで迷われている保護者や生徒が多いので、そこも検討するとより良いと思う。

【委員】就学指導というより就学の相談に当たっては各市町村の教育委員会が責任を持って最終的には決定することとなっているが、日本で一番小さい香川県でも、各市町によって、就学の判断が大きく違っていると感じている。それぞれの教育支援委員会の委員さんの判断が、市町によってまちまちで、その地域に特別支援学校があれば非常に幅広い子供が特別支援学校に入学しているという状況も見られる。県内でさえそうなので、日本全体を見ると、この辺の判断の幅が広くなっているのかと感じる。その幅が広いのは、それぞれの地域の特徴や状況が違うので、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれないが、ある地域にいると十分な支援が小学校、中学校で受けられるけれども、違うところに引っ越すとそういう支援が受けられないという状況は避けなければいけないと感じる。
県教委が市町村の教育相談の担当者を集めて、就学についての説明会や研修会を行っているが、残念ながら、行政では2年、3年で担当者が替わっていく。そのたびに、何回も何回も同じことを説明しても判断がずれていくというところが課題。

【委員】総合的判断に当たって、どういった内容を伝えていけばよいのかということに関して、本当に中身の濃い議論ができていると感じているが、やはり、それを誰が担うのか、具体的に誰がその情報提供を担っていくのかということも考えていけるとよいと思う。

【主査】私が今手元に持っているのは東京都教育委員会の就学相談の手引きで、これを各市町村の就学指導担当者や学校の先生方など就学相談に関わる人たちに配布するとともに説明会を実施している。大変熱心な会になっているが、就学相談の担当者が頻繁に替わってしまい、人によって考え方がずれてしまうという点が課題。教育委員会の就学相談に対する体制をどう考えるかというのも大きな課題。
また、大きな都市と地方では就学相談を受ける人数に大きな違いがあり、多くの人数に対応しなければならない東京近辺は大変御苦労されている。この就学相談を担当する学務の仕組みをどうするかというのも大きな課題になる。
次に、特別支援教室構想の具体化についての御議論を頂ければと思うが、先ほども交流及び共同学習の内容の議論があったが、今後、特別支援学級、通級による指導との連携をどうするかという点がポイントになると思う。また、特別支援教室を先に走り出している神奈川県や東京都の取組も踏まえつつ、特別支援教室を担う教員の専門性や配置が課題になると思うので、このあたりについても御議論を頂きたい。

【委員】特別支援教室構想については、教員の専門性や移動、あるいは教員の配置についても恐らく多くの教員が必要になるだろうし、教室の確保などが担保されるという方向性であれば、前向きに前進させていくべき。
教員の養成機関も少なく、希少な障害である盲学校の視点から言えば、特別支援教室がどのような制度になったとしても、その専門性の核としては盲学校が中心になると考えている。その根拠となる学校教育法74条の見直しも含めて、特別支援学校のセンター的機能を強化するも併せて検討していけたらよい。

【委員】東京都の特別支援教室と国の特別支援教室構想とは異なる。東京都の特別支援教室は通級による指導の一環で、対象を自閉症、LD・ADHD等の発達障害に特化しており、どんな子供でも入れているということではない。対象となる子供をはっきりさせて、教員の方が巡回するので子供が移動しなくて済むという形なので、指導を受ける子供の数が爆発的に増えている状況がある。
通常の学級に籍を置きながら必要な部分だけ特別の指導を受けられる特別支援教室構想は、将来的には非常によい制度だと思うが、実現させるためには、クリアしなければいけない課題が余りにも多い。今、小中学校での特別支援学級のお子さんが増えていて、特に自閉症、情緒障害のお子さんの数が、平成30年度には知的障害を上回る状況で、通級による指導でも、LD・ADHD・自閉症という発達障害に関係するお子さんがすごく増えています。そういった状態の中で多様な学びの場として特別支援学級や通級による指導があるが、なかなか教員の専門性が追いついていない状況がある。専門性を向上させるために、特別支援学校教諭の免許を取得すべきか、何か他の資格を取得すべきか分からないが、特別支援教育を担当している先生方は学校内でも少数派で校内研修もままならず、担当する子供もいるので外部の研修にお参加できないという状況が続いている。
全国特別支援学級・通級指導教室設置学校長協会での調査では、5年前と今を比べると、特別支援学級において、知的障害の特別支援学校の教育課程をきちんととっているという学級が減り、当該学年の教科を教えているという学級が増えているなど、知的障害の特別支援学級でやらなければならないことを先生方が把握して教育課程が編成されているのかという危機感は拭えない。このような状況の中で、全ての障害が一緒の特別支援教室の中で指導されることになったとして、そこで、今まで日本が培ってきた、障害に応じ、特性を把握した指導が行われ子供が成長できるのかという懸念がある。
そこまでの道筋を明確にしないまま特別支援教室構想を進めてよいか危惧している。

【委員】東京都は学校が近いが、従来は自校に通級指導の学級があると、通級による指導を受けるお子さんが多かった一方で、他の学校に通うことになる場合は利用者が少なくなっており、どの学校にもそのソースがあれば支援が必要な人が公平に広く活用できるという意味では、教員が巡回する現在の特別支援教室は非常に成果を上げていると思う。一方、全国で考えたときには、東京都のように教員が巡回するという形が必ずしもできるわけではないので、全国のどこの学校であっても特別な支援が必要なお子さんが通級的な支援を受けられるシステムというのは引き続き検討が必要。
また、知的障害を伴うお子さんの教育課程を見せてもらうと、届け出上では、小学校の教育課程そのままになっているが、実際の指導内容は明らかに小学校の学習指導要領とは異なると思うケースが多々ある。先ほど就学相談の仕組みとも裏表だが、実際には、その教育課程についてアドバイスをできる人がいないので、区市町村ではそのまま受理して終わっているというケースが固定学級で多い。お子さんによっては、生活丸ごと特別支援が良い場合と、一部の時間特別の支援を受けるのがよい場合があり、このグラデーションをお子さんによって様々作っていくというのが特別支援教室構想だと思うが、例えば2段階では境目のお子さんがどちらにも合いづらくなってしまうので、何段階か用意する、あるいは、斜めにいろいろ移行できる時間数を変えていくなどということは引き続き検討が必要。

【委員】発達障害に関わる者として、この構想は、非常に柔軟に個別に対応できる方向性であり、とてもありがたい。ただ、色々なところを行き来することになると、恐らく、その調整や連携が複雑になる。そういう調整や地域のみんなと一緒にやっていくこと、更には先ほどの就学の問題についても、専門性が必要になるが、結局よく分からないけれども何となくできそうな人が、また1つ仕事が増えていくという感じで、先生方は、また大変な仕事が増えるという印象を持たれるのではと感じた。担当教員の養成という点も併せて考えていかなければ、器はできたが、中の人がみんな必死にとってつけたようにやらざるを得ないということになっては良くない。

【主査代理】特別支援教室構想について、今、小中学校でその役割を担っているのは、恐らく通級による指導と特別支援学級の先生方いう状況。実際の特別支援学級では、年度途中での子供変化を吸収したり相談しながら、最終的に次の年度に、特別支援学校に入ったり、あるいは普通学級に戻したり、あるいは特別支援学級で継続的な指導をするという判断をしている。
通級による指導の先生方は、地域によって若干異なるが、例えば、言語の先生相談や通級による指導で子供と関わりながら、知的障害や発達障害等の有無に気づいた場合には、特別支援学級や他の通級につないだりしているが、なかなかフィルターにかけにくいお子さんもいる。また、精神疾患のお子さんや化学薬品過敏症のお子さんなど今までの範疇の中にないようなお子さんたちへの対応は、先生方が支援をしたくても、教員の定数にも限りがある中で必ずしも専門性のある教員を配置できず、手立てを持っていない。そういうお子さんたちを支援するためには、この特別支援教室という枠にきちんと定数が配置されていることが必要。

【委員(代理出席者)】特別支援教室(仮称)については、非常に期待するものがあるが、そのコンセプトは複雑で、場であるとか、あるいは、その機能であるとか、担う人だとか、複雑な問題を整理しながら解決していくことが重要。
場としては、通級による指導の拡大版として、柔軟で多様な教室があって、そこが様々な方のニーズに応じるということであれば、非常に可能性がある。特にそれが普通の小中学校にあるということは、よりインクルーシブなものとして期待できる。
その機能という観点では、それぞれのニーズに応じた専門性が必要になるため、例えば発達障害という観点からいけば、発達障害の方にきちんと対応できるような能力や専門性を持った教員の配置していただきたい。そのための免許や、そもそもの大学教育できちんとやっていただきたい。
さらに、重複障害や行動障害等の困難な事例に対しても専門性を持って対応できるシステムも作っていただきたい。

【委員】大きくは2点申し上げる。
1点目は、特別支援教室構想の実現に向けた課題を整理し、具体的な改善策を講じるためには、これまでの取組についての総括も必要なのではないかと考える。1つは、交流及び共同学習について、交流学習から交流及び共同学習になった経緯があり、交流だけではなく、学びの成立も必要だとした。しかし、実際の取組では、特別支援学級の子供が通常学級に入るときに、実態の異なる子供を想定した授業の構想や個々の目標に対応した学習評価がつぶさに記録される実践報告はなかなか見受けられない。交流及び共同学習を通して、目標水準の異なる子供一人一人の学びの保障について、これまでどこまで成し遂げられたのか、その成果と課題を整理する必要がある。2つ目は、特別支援学校になり並置校が増えている中で、教師のOJTが機能しにくく特定の障害に対する先生方の専門性の向上が図りにくい状況があるが、その中で学校として多様な障害に対応していこうという現状にあると、現場ではどのような課題に直面しているのか。また、その課題の背景は何か。このあたりの分析をしっかり行わないまま、障害の多様性への対応というものはなかなか実現しにくいのではないか。
2点目です。今後の特別支援教室構想を考えていく上で、必要な条件整備が幾つかあるかと思いますが、2点挙げると、1つは、教育課程編成の主体、実質的に誰が責任を持つのかが気になるところ。学校では、卒業までを見据えながら、教育内容の選択や配当時数の検討を行うが、特別支援教室構想が実現した場合、恐らく通常学級の先生がそれを担うことになると想定すると、1、2年で担任の先生が替わる中で、誰がその子の在学期間の教育課程に責任を持つかという点が大きな課題になる。2点目は、より流動的で連続性のある学びの場というものを追求し、多様な子供からなる学習集団の指導をしっかり行っていこうということを考えると、今回の学習指導要領改訂に先立っての議論でもあった、教育課程の一本化、教科の一本化の議論抜きに、特別支援教室追求というのは難しいのではないかなと考える。

【委員】この特別支援教室構想は、例えば10年後の実現に向けて、真剣に実現のために何をすればよいのかこの会で考えるべき。ラグビーの日本チームが強くなったのは監督が外国人で、何人も強い選手がいたから、一緒にいるチームの日本人選手も強くなって、自信を持ったから。特別支援教室の先生等の自信がないと、どういうふうに闘っていいか分からない。ただやれ、成果を上げろと言われているだけでは、強いチームは作れない。なので、色々な方策を考えながら、基本的には、特別支援教室を10年後この日本に定着させるために、色々なアイデアを出せばよい。
例えば、人事交流について、東京都の特別支援教室などの通級による指導で活躍している人の経歴を見ると、過去に特別支援学校での勤務経験がる場合が多く、特別支援教育の本流をある程度味わっていたり、腹をくくって色々な苦労をしながら区市町村の中で関係を作っていたり、子供たちのためにというぶれないものがあった。そういう方たちを育てるために、人事交流をたくさんやればいい。また、特別支援学校も、小中学校の教科の専門性に学ばなければいけないところがたくさんある。特別支援学校において特別支援学校教諭免許状保有率100%を目指す中で、今後、特別支援学校の免許を持たない小中学校の教員が入ってくることに対して門戸が閉ざされていくが、この構想のためには、積極的に人事交流を行う仕組みが必要。
もう一つは、民間の力でLITALICOさん等が行っている心理検査等のアセスメントについて。以前は発達検査、WISC等で子供の教育課題を把握していたが、今は心理士等の資格がある方にお願いをしてフィードバックをもらうようになったが、自分でやっていないため分からない部分がある。専門家をきちんと配置したうえで、子供の学習指導を担う教員と日々意見交換しながら対応していく中で成功事例を出し根付かせていくことが重要。

【委員】アメリカにはESL(English as a Second Language)というクラスで、英語を第二言語とする人が通う、通級のようなところがあり、私もアメリカで取り出し指導を受けていた。そのほかにも、ソーシャルワークの通級や障害のある子供への通級や学級のような仕組みもあった。
特別支援教室構想により、特別支援教育を受けるハードルが低くなると思う。先ほど就学相談の議論で、特別支援教育に対する保護者の方のスティグマ、偏見のようなものがあるのではないかという意見があったが、そういった点は緩和できるのではないか。私は取り出されていたが、自分が理解するために特別に指導を受けていたので、非常に感謝していた。なので、特別支援教室構想は、準備ができれば、私も10年後ぐらい先であればと思うが非常によい取組になるのではないのか。
ただ、やはり個別の教育課程を編成していかなければならないことになると思うので、それが実現できるような仕組みや専門性養成の課題への対応は必要。例えば、人数の多い障害種については、常駐でその専門家が常に学校にいるようにして、人数の少ない障害種に関しては巡回をできるようにすれば、これまで培ってきた障害種ごとの専門性も継承できるのではないか。そういった仕組みが整えば、非常にいい仕組みになるのではないか。

【委員】私の学校は、通常学級が2クラス、自閉症児の学級が3クラスあり、通常学級の間に自閉症児のクラスを配置している。障害のある子供たちのクラスが通常学級のすぐ隣や間にあるということが非常に大事で、子供たちが普段から交流したり話しかけられる環境があることが、インクルーシブ教育や特別支援教室や通級というものを推し進めるのではないかなと思う。教室不足に関しても、通常学級の教室が余っているのであれば、そこを半分ぐらいに分けて、その2教室を通級で使ったり特別支援学級で使える部屋にして、障害のある子供たちが中央にいるということを是非目指すべき。

【主査】重度・重複障害児への支援体制の在り方については、特別支援学校での発達障害と他の障害を併せ持つお子さんの学級編制上の扱いをどうするかというような論点もあるので、子供の支援の実態などを踏まえて、御意見を頂ければありがたい。
また、強度行動障害等の重度障害や精神障害の支援についてどう考えるか。
単一か重複かという基準だけで支援体制の線引きをするのではなく、特別な支援の必要支援量という観点で支援体制が構築できるという考え方もあるのかもしれない。

【委員】盲ろうという障害は、独自の障害であり、その独自性に合わせた専門性の高い教員が必要。盲ろう障害は、視覚障害と聴覚障害の重複障害ではあるが、目と耳というのは、情報収集の観点から補完関係にあり、その両方に障害があるという意味では、重複障害の中でも特異な形態の重複障害と言える。
障害者権利条約の24条では、特に盲人、ろう者、盲ろう者という3つの障害分野を区分して、その教育の在り方について規定しており、これは極めて重要な意味があると考えている。盲ろうは、重複障害の一つではあるが、意思疎通あるいは情報収集の障害という点では、一つの障害であり、例えば、盲には音声、ろうには手話というように、盲ろうにはこれといった情報障害を乗り越える教育手法が確立されれば、健常者や視覚障害者あるいは聴覚障害者と同じような教育効果が期待されると考えており、そういう意味でも、盲ろうに関する高い専門性のある教育手法の確立が望まれる。

【委員】知的障害の方について、単一障害の児童生徒、肢体不自由、病弱等を併せ有する児童生徒が共に学ぶ環境を現在整備中であるが、医療的ケアが必要な児童生徒や、重度・重複障害児の受け入れ前提とした教育課程の編成、指導体制、施設整備の充実、保護者の負担軽減のための宿泊学習等での看護師の同行、肢体不自由を併せ有する児童生徒数の増加に伴う指導空間の確保、現状では教室が足りないという課題がある。
肢体不自由の方については、医療的ケアの体制整備、看護師増員による保護者、待機解消、教職員研修、ヒヤリハット事例の蓄積・分析、保護者や医療機関との連携等に取り組み、事故防止に努めているが、校外学習に同行する看護師が、日常的なケアだけでなく、緊急時の対応もできるようになると、毎回同行している保護者の負担や心配が減り、教職員も安心できる。また、修学旅行には、県から派遣された看護師が同行しているが、普段から学校の教育活動に関わりのある看護師が同行できると、生徒の健康状態がよく分かり、緊急時にも適切な判断が対応できるのではないか。
自閉症の方については、障害の程度・多様化・重複化により、通級指導教室の担当や特別支援学級担任その他の教員に、より専門的な知識が求められるが、日常の指導やその準備が多く、知識向上のための時間が取れない場合が多い。また、専門的な知識を備える教員の不足や、教員の高齢化が進んでおり、担任や担当ができる教員の育成が急務。

【委員】2点申し上げる。
1点目は、学級編制基準について、標準法の見直しが必要なのではないかなと思っている。標準法が昭和33年に制定された法律で、その頃から比べると、格段に医療が進歩しており、制定当時には考えられなかったようなお子さんがちゃんと生き続けて、教育を受けられているという現状がある。特に特別支援学校の小学部に在籍している児童は、意思疎通が困難で日常の生活行動に頻繁な介助や援助が必要な子供もおり、小学部も中学部も同じように3人、あるいは6人の子供に教員が一人という標準法が果たして妥当かどうか。
今回、新学習指導要領が充実し、各教科や自立活動で教員の専門性を生かした、個に応じた丁寧できめ細やかな指導が求められるようになっている時代に、この標準法は時代に合わない。
2点目は、医療的ケアについて。京都府では、学校へ看護師を適正に配置しており、看護師さんはケアが必要な児童生徒の教室に日常的に出向いている。また、看護師だけではなく、担任の先生も必要な研修を受けて、看護師と担任とが連携しながら、授業中でも日常生活の中でも、必要なときに迅速に対応できる体制を整えている。これにより、子供たちは、授業の場を離れてケア・ルームのようなところにいくのではなく、授業を受けながら看護師もしくは担任の先生から痰の吸引をしてもらえる。先生は「楽しい授業をしてくれる人」だけではなくて、「自分を楽にもしてくれる人」でもあり、生理的な側面からも信頼関係がより構築でき、それが学校生活に安心感をもたらしている。その結果、重度・重複障害のある子供たちも含め、子供たちの学習やコミュニケーション能力が育っていると実感している。看護師を配置するだけではなく、看護師と担任の先生と子供たちとが連携をしながら、子供の生活を作っていくということが非常に大事だが、子供たちに必要な看護師の確保については国レベルで体制構築していただくことが必要。

【委員】盲学校とろう学校の多くに幼児部が設置されているが、この幼稚部の重複についても、早期教育の重要性から、指導体制の検証、特に定数配置について考える必要があると思う。早期の対応をしっかり充実をさせるべきだと考えている。
また、強度の行動障害等についても、大変厳しいだろうと考えられるので、こちらも定数の見直や加配の在り方の検討が必要。

【委員(代理出席者)】学校教育の中で「盲ろう」を独自の障害と明確に位置付け、カリキュラムの開発や専門性の高い教員の養成・育成などに向けて、具体的な取組を進めるべき。先ほども、この盲ろうは一つの独立した障害のカテゴリーであるという話があったが、障害者権利条約24条の3の(C)では、deafblindというのが、日本政府の公定訳においても視覚・聴覚の重複障害という訳ではなく、盲ろうと正しく訳されております。政府としても、この権利条約が求めているのは、盲ろうに関する教育ということを認識していただいているので、是非、独自の障害と位置付けた上で、具体的なカリキュラムの開発や専門性の高い教員の養成・育成などの取組を進めていただきたい。

【オブザーバー】教育の中で重度・重複というのは、主に知的障害と身体障害の重い方を指すが、強度行動障害のように、知的障害と自閉症がありそれが重い場合や、発達障害の中でも二次障害が重い場合は明らかに精神疾患であり、日常的な医療が必要な方もいる。また、最近では、小児がんの子供さんも治療が終わって在宅もしくは通常の学校に行かれても、厳しい治療を継続している方もいる。
このように、医療的ケアという概念が拡大していく方向性があるので、厚労省の政策や教育政策でも医療的ケアの概念を広げて、様々な子供たちが含まれるインクルーシブ教育システムになるよう議論を進めていただきたい。

【委員】国立のぞみの園では、重度の強度行動障害の方に全国からお越しいただき、地元に戻るまでの取組をしている。来られる方のデータを見ても、中学、高校の時代が一番激しく、御家族がお困りだというデータが出ている。これは学校の対応が間違っているということだけではなく、本人が体の変化に対応できず混乱している時期だということもあると思う。
我々の取組の中で、環境を整えたり誤学習になっていた部分を見直していただいたりするが、そのほかに、自傷してもあまり痛くないとか、音や光がある程度コントロールできるといった施設の整備も行っており、これが非常に重要と考えている。人材育成も含め施設整備についても、もう少しサポートが得られるようならなければ対応が難しい部分がある。今後、災害時の避難所として学校の整備が進められ、バリアフリー化が進められていくことも含め、環境整備も重要な要素として検討していただければと思う。

【委員(代理出席者)】ハワイ大学では、腕と足に麻痺があり車いすを使われている方が入学後の面談で、「あなたには機能として何が必要ですか」と聞かれたとのこと。その方は手が動かないので、メモを取ってくれる方の確保や、行けない校舎があるなら、そこまでの移動手段を確保してくれたりという機能が当たり前に付いてきて、その方が学内で何の不自由なく、教育に専念できたと聞いた。ハワイ大学は、特にそうした配慮が進んでいるらしいが、先ほどの施設面の充実等に加えて、機能面の教員現場でのサポートも充実させた方が良い。日本の現状では、ほとんどそのサポートを教員がやられていると思うが、それでは教員の負担が増えすぎでしまうので、教員でなくてもできるものも洗い出せしてうまく分担する体制を整えるとよい。

【委員】就学基準の学校教育法施行令第22条の3では、知的障害の遅滞があり、意思疎通や日常生活に頻繁に援助が必要な者が特別支援学校に相当となっており、そこに至っていなくても、社会生活への適応が著しく困難な者は認めるという規定もあるが、知的障害があり、かつ社会生活への適応が著しく困難なお子さんについては想定されていない。
特別支援学校では単一障害の普通学級では6人、重度・重複障害学級は3人になるが、重度という言葉に抵抗のある保護者の方もいるので、少人数で固定的な人間関係を作り意思疎通を行う学級、より大きな人間集団の中で社会につながる色々な人とのやりとりを行う学級と説明をすると納得していただきやすい。ですから、学級の対象者と共に、その名称をどうするかということも考えたい。
重度・重複障害の学級は先生一人が3人を見る形になるので、人間関係が非常にシンプルになるとともに、それぞれのお子さんが様々な刺激に弱い場合等の環境調整がしやすく、少人数と安定した指導環境というのはセットになるかと思う。そうした中で、知的障害のお子さんの学校では自閉傾向が強いお子さんもいるが、今では単一障害と捉えられており、学校のやり繰りでやっているが、実際には少人数の学級で指導せざるを無い状況の中で、学校は大変苦慮しているところもある。重複障害だけでなくて、単一障害でも著しい困難性がある場合には、重複障害と同様な扱いをできるような改善・工夫ができないか。

【主査代理】特別支援学校の重度・重複のお子さんたちの中に、訪問で家に学校の教員が伺い指導しているお子さんたちがいるが、訪問しているお子さんと、学校の中で生活している重度・重複のお子さんとが合算された数で教員の定数配当がされている。これは定数的に非常に困難性が高いと思っており、きちんとこれを分けて、訪問学級は訪問学級で定数配当、重複の子は重複の子で定数配当していただかないと十分な指導ができない。
同じく、小中学校で特別支援学級を病院の中に設けることはできるが、特別支援学校と同じように、退院したばかりで1か月間療養しなければいけないというお子さんに対して、小中学校、高等学校の先生が訪問して子供に対する指導をするということができていないので対応できるようにしていく必要がある。
それと、3点目が、知的障害の特別支援学校高等部では、民間企業に就職していくような生徒も、障害の程度が重く手をつないでいなければ危険で目が離せない生徒も8人で1学級の編制だが、ある程度線引きしたうえで子供の困難性に応じて、柔軟に学級編制ができるような工夫ができないものかと思う。
最後に、5月1日の在籍人数で教員の定数配当が行われるが、4月から5月にかけて健康診断が行われ、6月以降に子供たちが入院したりするので、病弱の学校では例年在籍者が一番多いのは10月前後になると思う。生徒も教員も少ない人数で年度が始まったとしても、それがだんだん膨らんでいくので、その子たちに十分な進路指導や教科指導等を行った上で、元の学校に戻していくことを考えると、例えば、前年度の10月を基準にした定数配当が考えられないか。

【委員】神奈川県の平塚養護学校を卒業された木村英子参議院議員さんが、「社会に出たときに学校と社会との壁が大きかった」おっしゃっていたと伺ったことがある。医療的ケアの充実をお願いすることに対する社会の受け入れ体制の整備が急務のように感じるとおっしゃっていたそう。
私立の学校は補助金がない中、私費でバリアフリー化を進めているが、数年前には高機能化施設整備事業という国の補助金を頂きエレベーター設備を設置したことがあった。ただ、その補助金では、エレベーターの設置以外の、スロープや手すりの設置やドアの開閉の整備は補助の対象外で私費を出さなければならないものであってため困った。
また、重度・重複に限らず自閉傾向のお子さんも本校では多いが、環境が変わることになかなか適応できないところがあり、教室をどうするか、教員が高等部の3年まで必ず1名は変わらずに残る体制の整備なども必要。小規模校の特性も生かし、教員が一人でクラスを見ていくのではなく、学校全体で見ていく取組を進めている。

【主査】特別支援学校における教室不足への対応に関しては、学校の設置基準を検討する際に障害の種類に応じて留意すべき点などがもしあればお話をいただきたい。また、将来推計の把握の仕方等の観点も含めて御意見をいただきたい。

【委員】盲学校では在籍者数の減少があり、実は多くの学校で空き教室が生じている状況。このため、全国の盲学校では、知的障害の特別支援学校の分教室を盲学校内に設けているところが出てきている。その際、見えない子供たちの安全確保やそれぞれの子供同士の交流、特別教室の相互利用など、想定される課題について慎重に対応しているところ。
今後、空き教室を特別支援学校教室不足対策として活用する際は、そのような先行事例を参考にして、どのような形で一緒に利用したらよいか、しっかりと検討しながら進めたらよい。

【主査】平成19年に特別支援教育が発足をするとなったときに、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の施設整備指針は、特別支援教育仕様に見直しが図られていることを念頭に置きながら、設置基準の在り方について御意見を伺えればありがたい。

【主査代理】千葉県も教室不足が多い中で計画を立てて高等学校や地域の小中学校の空き校舎や空校舎などを使って教室を作ってきた。結果、廃校になった高等学校の校庭にも校舎を建て、二つの特別支援学校がもともとあった校舎と新しく建てた校舎を分けあうという例もあった。また、高等学校等の校舎や教室を使うと言っても、人口が多い地域では小中学校も高等学校もいっぱいで活用できる状況ではない。
設置基準を学校種や障害種に応じて作っていくと困難が伴うので、色々な障害種等の要素があるものをベースに作っていただけるとよい。一方、これは財政的な困難性が非常に高いとは思う。千葉県では、盲学校や盲学校は県内に1校しかないが、特別支援学校と小中学校を組み合わせたネットワークを作り、通級やサテライトのシステムを用いて、県内どこにいても、どんな障害種でも教育的な支援が受けられるようにするための取組を進めている。重度・重複のお子さんも、知的の学校でも肢体不自由の学校でも、一番近い学校で、通学の負担がないようにしていこうとしているので、どこの学校でも重度・重複障害や聴覚や視覚に障害があるお子さんたちを受けられるような設置基準でなければ、全県的なサービスが提供できないと感じている。

【委員】京都府は南北に距離があるが、北部の過疎化しており南部は宅地開発が進んでいる。それも見込んで、府の予算の中で頑張って南部に新たな特別支援学校の開校を来年度予定しているところ。

【委員】将来の推計がなかなかできない状況があり、香川県では教室不足に対してどのように整備を進めていくかがまだ定まっていない状況。本当に一年一年、予想が違ってくるという現実があり、10年程前に推計したときは、平成30年あたりピークを迎えて、そのまま落ち着くという予想であったが、実際には増える又は高止まりの状態で、途中で推計も変えてみたが、またどんどん増えていくという状況が続いている。そうした中、どのように学校を建てる又は教室を確保していくかというところに苦慮している。

【委員】知的障害や肢体不自由も若干増えているなど障害によって違いがある。東京都は推進計画を3年ごとに見直しながら、教室不足の解消に向けて計画的に取り組んでいるところ。

【委員(代理出席者)】通常学校・学級において、障害児童生徒を受け入れる教育カリキュラムの準備や施設や設備の導入、障害特性のニーズを充足させる合理的配慮の提供や環境整備を進めるための数値目標も含めた実効性のある計画を立案すべき。先日閣議決定された改正バリアフリー法で、小学校、中学校もバリアフリーの対象にしていただけるという大英断していただいたと思っているが、このタイミングで是非、基礎的環境整備と合理的配慮の提供を含め、どこでも安心して学べると思えるような状況を作っていくために、数値目標も含めた実効性のある計画を、通常学校・学級も含めてお願いしたい。
また、高校において、障害当事者や家族に自己負担が強いられている現状を改善し、少なくとも義務教育課程での合理的配慮の水準を維持すべき。 高校では、まだ残念ながら、地域の学校への就学を希望された親御さんに「じゃ、付き添ってくださいね」みたいなやりとりがより一層あるような状況があります。義務教育段階では合理的配慮を提供いただいていても、それが高校になると、入学するのも大変、入学してからも大変という状況なので、後期中等教育段階の学校として、小学校、中学校と同じような水準で必要な支援や合理的配慮が得られるようにしていただきたい。
あと、障害者権利条約に関してパラレルレポートを出してきた立場から今後の進め方についてお願いをしたいことがある。まず1つ、国連の障害者権利委員会から、去年の10月に日本政府に対して事前質問事項が出されており、教育についても質問項目があるが、その回答期限が6月8日に迫っている。また、今年の8月から9月にジュネーブで開催される国連の障害者権利委員会で、日本政府の審査が控えているので、この有識者会議や他の分科会も含めて、事前質問に答えられるような論点設定や検討が必要なのではないか。この有識者会議や、初等中等教育分科会の論点案に、障害者権利条約やインクルーシブ教育についての言及がないというのが正直残念なところ。障害者権利条約でいうインクルーシブ教育について、この有識者会議はもちろん他の分科会も含めて、初中局全体の問題として議論していただけるような論点設定をお願いしたい。今の時期にその議論をしていかないと、事前質問や日本政府審査が後手後手になってしまうという危機感を持っている。

【委員】特に知的障害の特別支援学校は、今回の学習指導要領の改訂で、重複障害者等に関する教育課程の取り扱いの規定で必要に応じて通常の教科を教えることができるとされた。それを、それぞれの学校現場がどこまで行い、その結果、就学状況がどう変わっていくかという点も視野に収めていくということが大事。
教員の専門性に関して、特別支援学校の現状を見ると、教員の基礎免許の教科の偏りが非常に大きい。教員養成部会では、今後、小学校の5・6年生から専科制を敷いてはどうか、そうすると免許の在り方をどうするかという議論もある中で、特別支援学校で学ぶ子供たちの教育の質をどう担保するかといったときに、やはり教員が大事になるので、この課題をどのように解消していけばよいかということも検討していくことが必要かと思います。

【オブザーバー】トライアングルプロジェクトで発達障害に係る教員や支援者の専門性について議論を進めている。このプロジェクトで、今後大きな課題になるテーマとして、女性の発達障害への対応に関する資料を作成しホームページにアップしたところ。是非、学校現場で御活用いただきたい。

―― 了 ――

お問合せ先

文部科学省初等中等教育局特別支援教育課企画調査係

(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課企画調査係)