いじめ防止対策協議会(令和元年度)(第1回) 議事要旨

1.日時

令和元年9月13日(金曜日)15時~17時

2.場所

文部科学省15階 15F特別会議室

3.議題

  1. いじめの重大事態の調査組織の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

伊藤委員,栗原委員,栗山委員,高田委員,佐藤委員,新海委員,笛木委員,布施委員,松谷委員,道永委員,森田委員,八並委員,渡部様(日本弁護士連合会)

文部科学省

蝦名初等中等教育局審議官,大濱児童生徒課長,松木生徒指導室長,伊藤児童生徒課専門官

5.議事要旨

※議事に先立ち、座長及び座長代理の選出が行われた。その後、蝦名大臣官房審議官(初等中等教育担当)・座長より挨拶があった。
※事務局より資料の確認と資料の説明があった。

≪議題(1)いじめの重大事態の調査組織の在り方について≫
 ※事務局及び委員より資料に基づいて説明があった。

【座長】 それでは、事務局から説明があった、今年度の「いじめ防止対策協議会の進め方について(いじめの重大事態の調査組織の在り方について)(論点メモ)」等に関し、いじめ防止対策推進法の枠組みや、運用全体に関わる問題意識について、フリートーキングに入りたい。
【委員】まず、調査組織の整理について、一つは「第三者委員会」という言葉や「調査組織」という言葉が使われているが、基本的に、学校内の調査組織(いじめ防止対策推進法第22条に定める学校いじめ対策組織のこと。これが同法28条に定めるいじめの重大事態の調査組織を兼ねることもある。以下同じ。)と、利害関係のない第三者が入る第三者委員会(同法第28条に定めるいじめの重大事態の調査組織の形態の一つ。以下同じ。)をしっかり区別して論じていく必要がある。例えば、不登校重大事態の調査の進め方について、不登校になって、これからどう登校を促すか、支援をどうすべきかといった、現在進行形のまさに今問題になっているようなケースを取り扱う場合がある一方、同じ不登校でも、もう転校し、別の学校に通っている場合や自死事案など、むしろ過去を検証するケースがある。例えば、こうした現在進行形の事案を本当に利害関係のない第三者委員会でやるべきなのか、または、現在進行形だからむしろ学校内の調査組織でしっかりやって、そこに第三者を入れる形にするのかなど、調査組織の在り方というのはやはりケースごとに違うので、その辺りの組織の在り方について、調査スケジュールも含め議論した方がいい。というのは、現在進行形の事案の場合にはいかに短期間で調査を行うかが問題になるが、それを第三者委員会で早くやれと言ってもそれは難しい場合があるため、こうした現在進行形の事案についてはどの組織が主体的に対応すべきかという点について考える必要がある。
 また、いじめの事実認定の問題について、私自身も第三者委員会の委員を務めたり、委員を経験した弁護士と交流しているが、様々な意見を聞く。いじめ防止対策推進法のいじめの定義は、心理的又は物理的な影響を与える行為を行って被害者が傷付けば、そこでいじめになる構図になっているが、これがいじめか、いじめではないかということを認定しようとするとき、本当にこの定義で当てはめていこうとすると、結構ありとあらゆるものが、これはいじめではないかというふうになってきてしまう。法律上のいじめ定義に該当すると判断したところで、果たして調査報告書の目的に沿うのかという疑問が出てくる。法律上のいじめ定義に該当する行為の全てを拾い上げるのではなく、いや、ここは取り上げるのをやめようというふうに、どうしても第三者委員会の判断としては取り上げるべき問題をセレクトしながら実際には判断しているんじゃないかと思っている。実際に調査報告書を見ても、定義はいじめ防止対策推進法の定義を使っているが、その基準だけではなくて、取り上げるべきものを考えてセレクトしていることはあるかと思う。
 そのため、確かにいじめの定義について関係者間で認識を共有することは必要だが、この定義が余りにも広いので、それをただ認定するだけでは物事の本質に踏み込んでいくことができないと思う。その点、調査組織の目的とも関連して、第三者委員会が何を認定していくべきなのか、ただ単に子供が傷付いたということを認定するだけではなく、例えば背景の人間関係の分析や、本人がどの程度継続的に苦しんできたかなど、何を調査していくのかということをしっかり位置付けていく必要がある。
 一部の調査報告書では、これはいじめに該当すると書いてあって、背景調査が全くない場合がある。ただ単にこれはいじめですと、その定義に当たるかどうかだけを判断しようとすると、余り本質的に踏み込んだ議論ができなくなる。第三者委員会が、定義に該当するかだけではなくて、何を更に突っ込んで判断すべきなのか、ということについてしっかりその指針を示すことができればよい。 
【委員】  先ほどのいじめの定義の件についてだが、確か、いじめ防止対策推進法の早期発見という観点から、または文科省の概念の歴史を辿っても、いじめは早期に対応しないと重大な事態になるから、ある意味一定程度政策的な目的もあり、いじめの概念が広がってきて、そのような概念を広めることによって先生の発見の機会を増やすと、そのような経緯があったかと理解している。そういう観点からも踏まえ、第三者委員会において、いじめの概念が有用かどうか、確かに議論の余地があると思う。
 事案ごとによって様々なパターンのいじめがあるため、通常ではこたえない言葉でも子供によっては大きいダメージを受ける場合や、これを言うと彼はもう折れてしまうだろうみたいなことを加害者が認識してやっている場合もあるので、加害者と被害者との人間関係を細かく把握していかないと、ただ単に現象だけ、いじめかどうかという捉え方では第三者委員会はかなり薄いものになると思う。
【委員】  いじめの定義について、圧倒的に強い人間が弱い者をいじめるような、一方的に加害者が悪く、被害者が気の毒だというような今までの社会通念上のいじめと、昨今の友達関係の有意差の中で行われるようないじめを含む法律上のいじめとの、多少乖離があるというのは事実だろうと思う。
 現場では、いじめられる方にも様々な問題があるとの声もよく聞かれる。例えば、ルール違反をしていて、それでやっぱりみんなの中に入れてもらえないというのは、ルール違反をした本人にも問題があるのではないかということがよく議論されるが、法律上のいじめの認知としては、仲間外れにされてつらいと言っている人間がいるのであれば、それはもういじめとして認知することになる。重要なのは、そういうことで今苦しんでいる、悩んでいる子供たちが社会性を学んでいくときに、そういうことについて自分の方で間違いがあったらそれを修正して、正しく身に付けるための支援ではないか。
 だから、不登校の子供たちがそのような様々な困難を抱えているのであれば、その問題を解決してあげる必要があって、それがいじめに該当するかどうか単なる定義の当てはめだけではなく、実際に不登校で学校へ行けないことを解決できるよう、学校や社会が支援するための法律である必要がある。特に自殺の場合、遺族の何があったか知りたいという心情をきっちり理解した上で、委員会の目的である、そういうことを二度と起こさないための再発防止策が必要である。いじめが原因だということになったら、ある意味敵討ちのように加害者を責めるみたいなことになると、子供たちの成長ということから考えれば望ましくない。
【座長】 法律的な議論のほか、実際に当事者の子供の気持ちや、受けた様々な被害がある。そういう状況の中で調査組織(同法第28条に定めるいじめの重大事態の調査組織のこと。)をどう位置付けていくかという観点から意見をいただいたが、こうした観点についてはどう考えるか。
【委員】 確かに、第三者委員会の調査が加害者を責めるかのような効果もあると思うが、そこで、学校の役割が重要であり、第三者委員会が活動しているからといって、何もしたらいけないということではない。加害者に対し、必ずしも法的観点からではなく、教育の一環として継続して、分かっている範囲で、第三者委員会の活動状況について保護者を呼んで議論することなどが考えられる。私が関わった事件では、正直学校側において加害者指導が行われていることを実感したことがない。
 現にある事件で、いじめ自死になって、何人かの加害者の保護者や児童生徒に来てもらったが、学校への不信感を述べる方が多かったり、全体の事実の1割しか認めなかったりする。いじめの調査の過程で、学校教育におけるいじめの加害者の指導というのが、大津でも問題になった。学校は全然その児童生徒をフォローしていない。調査過程における加害者に対する指導の中身の充実化は、第三者委員会の調査をより意味あるものにするために必要不可欠である。
【座長】  学校現場からのご意見としてはいかがか。
【委員】  第三者委員会が入るような事態に直面したことがないが、何か事が起こった際、当然、一番初めに学校で当事者間の関係を把握したり、必要に応じ保護者に話を聞いたり、事実関係の整理から始まり、指導を続けていくことになるが、感覚的に言うと、一旦、第三者委員会が立ち上がると、学校はその後、指導を従来通り続けていいのかどうか、判断できないような状況に陥ることも、もしかするとあるのかもしれない。
 例えば、教育委員会等から、第三者委員会としては様々な調査を並行して実施していくが、学校は学校で指導を続けるよう具体的な指示があるなど、学校が判断できるような明確な状況があれば、やはり学校の役割として、指導をしていって解決をしようということになるのかもしれないが、その辺よく分かっていない状況があるのではないか。
【委員】  いじめ防止対策推進法の制定以降、義務教育現場ではいじめに対しての認識というものが大変高くなっており、何かあると、校長や教育委員会に報告があり、現場はぴりぴりするが、いい状況だと思う。
 いじめが発生する場合、加害者と被害者両者が出てきてしまい、事実は一体何なのか食い違いが発生するのが常であるため、そういう意味で第三者委員会の必要性は大きい。
 第三者委員会の委員の人選について、加害者、被害者、学校現場、報告を受けた教育委員会、それぞれの言い分がある中、第三者委員会は、一定以上の権限を持って、依頼または指示を出していろいろなことを報告してもらい、そこから事実がどういうことなのか一つ一つ認定していくことになる。その点、被害者側、または加害者側、それぞれの推薦枠をどうするかという点については、公正・公平さを高く保った第三者委員会でなければならない。
【委員】 突然子供を失った親は、一般的・専門的に言えば、悲嘆状態に陥り、学校との関係では、遺族からすると、学校はほとんど答えてくれないように感じてしまう。学校等が事実を隠す中で、彼らが言う「二次被害」に遭い更に傷つき、精神科医の専門家が調査報告書の内容について説明したときには、自分を維持できなくなってしまう。そのため、大津の事案でも、遺族はそういう状態であるからこそ、学校を含む調査関係者に対しては、可能な限り遺族に説明し、事実を知ることが彼らの回復の一歩になること、そして遺族から要望があれば、それを踏まえて調査することになるが、その結果を恣意的なものにするということではない旨説明しながらやっていた。また、ある第三者委員会では、被害者側から推薦された委員について、被害者と常時接触することを通じ、信頼感を醸成し、第三者委員会への信頼へとつないでいく役割を果たしたなど、色々なメリットもあった。また一方で第三者委員会は徹底した、かつ中立・公正な事実調査をするのが使命だと思うので、それに徹すれば、私は中立・公正は保てると考えている。
【委員】 私も、遺族推薦の委員と、第三者委員会の設置側が推薦した委員が一緒になった第三者委員会を経験しているが、遺族推薦の委員だからといって、個別の事案に関してもともと事実関係を知っていたり、また遺族の方と特別な関係があるというわけでは必ずしもなく、また議論の中でも、決して遺族側推薦だから遺族側の主張通りに判断するわけではない。やはり判断については、専門家ごとのそれぞれの判断でしっかりやっていると思う。遺族の無理な主張については無理だとはっきり言うし、そういう意味では、遺族推薦だからといって、委員会の運営または判断が偏ってしまうことは現実的にもあまりないだろうと思う。
なぜ遺族推薦が求められてしまうのかといえば、例えば、裁判であれば、当然当事者が裁判官を選ぶことはできないが、なぜ裁判はそれでも当事者から公正さが見えるかというと、中身が全部見えるからである。第1回から第2回、第3回、裁判に参加すれば、何が主張として出されていて、何が証拠として出されているのかが見えるので、どのような判断過程で、何を発言しているのかということが全部見える。一方、いじめの第三者委員会は、私も遺族から言われたが、全てがブラックボックスである。そもそも何を議論しているのか、何が発言されているのか、何が証拠なのかということが全く見えない中で、遺族がどうやってこの委員会を信頼したらいいだろうかと考えたときに、せめて、自分が信頼できる委員が入っているということが、この委員会を信頼できることになっていくのではないかと思っている。本来、人選については公正・中立だということを考えた場合、誰かの意向が入っていくのは確かに普通ではないかもしれないが、現在の第三者委員会の在り方自体が、すごく見えにくい、不透明な状況の中でやっていることが、不信感を抱かせてしまっている。最終的な結論が出ても、一体何の証拠に基づいてこれを判断したのかということすらも分からない状況であり、そういう意味で、信頼性の担保の一つとして遺族推薦というものがあると思う。
【委員】 臨床心理士の立場からだが、臨床心理士が遺族の推薦で出ることは、あまりないのではないかと思う。私も、遺族側の推薦であっても、それぞれの委員は公明に対応するとの点についてはそう思う。推薦団体側からすると、遺族側、学校側、行政側などの観点ではなく、専門性を持って中立的に判断できる人を推薦しているつもりである。なぜ遺族が、学校の推薦なり、学校が立ち上げた第三者委員会の委員であれば学校寄りの判断をすると思うのか、そういう根本的な部分での不信感、今までの経過があるのではないか。
【委員】  実際に起こっている事案を見ると、第三者委員会については、どちらか寄りではないかという評価が一般的になされがちだが、どちらからの推薦ということではなく、今後も、誰からも公正・中立を保っている委員会だと見てもらえるようにしていただきたい。
【委員】  公開形式の第三者委員会を経験している。運営は結構きつかったが、全部公開ではなく、一部は非公開、個別の協議をする場面になったとき、会議の終盤に、非公開でお願いしますということで、前段階のほとんどは公開で、傍聴者は誓約書を書いて、外には漏らしませんという形にした。被害者の家族は毎回来ていて、最終的な報告書をまとめる段階になると、被害者の保護者としては、大体こういう方向で議論が進んできたから、こういう話になるだろうということで、最終的な報告書に関しては、表立って特にこれといったことなく収まり、結果として大きな問題は発生しなかった。これは一つの参考事例になろうかと思う。
 もう1点、事実認定に関して、被害児童生徒本人の要因(病気、家族の状況等)について、やはり、これは一通り網羅的には調査しておかなければ、全体の様子が見えなくなってしまうと思う。例えば、児童生徒本人が発達障害や知的障害を持っている場合、明確な障害として保護者も理解していればいいが、境界事例の子供が、小学校高学年、中学校と思春期を迎えて、上手く学校生活に適応できず、友人関係を保てないような状況で、様々なトラブルが生じる場合、やはり相対的な環境の中で生じたことであるという因果関係が把握できなければ、なぜこのような事案が発生したのかという点が、委員会としても調査報告書で表現できない。ただし、表現方法は、保護者が認めていない場合はかなり苦労するが、ともかく事案の全体像が見えないと、きちんとした調査報告書がまとめづらくなるのではないかと思う。
【委員】 被害者推薦の委員については、専門家はそれぞれの立場で調査するため、被害者から推薦があったからということで内容が変わるということもなく、また被害者に寄り添うといったという面もある。第三者委員会の設置という段階に行くと、被害者側にはかなり不信感があって、学校や教育委員会側に対して、信頼できるのか、自分の声がきちんと届いているのかといった不信感から被害者推薦という話が出てくるのだと思う。状況によっては、話を聞いて被害者推薦も採用していっていいのではないか。
 また、第三者委員会全体について、学校や教育委員会が調査を委員会にそのまま丸投げすることはやってよいことではなく、調査という業務を委託するのであれば、仕様書をしっかり作成することが重要。いじめの定義や、今どのような概要で、どのような情報が学校に上がっていて、子供たちの状況はどうなっているのかといったその時に把握している情報について説明した上で、今後の取組の方向性、仕事のボリューム、スケジュール感といったものをしっかりと共有した上で第三者委員会をお願いすることが非常に大事だと思う。
 本来、事実をしっかり確認し、何が原因で発生したのかを見極めて、再発防止策を提言する委員会なので、その再発防止策の実行をいかに担保するかといった視点を持って、この第三者委員会に取り組んでいくことが重要である。本県でも、調査報告書が出たら、その後の再発防止策の実行について、具体的な進捗管理を行いながら進めている。
 また、被害児童生徒本人の要因については、私も、本人の要因によるものが今回の事案の要因になるものであれば、全く触れないということにはしてはいけないと思う。個人のことなので、配慮した書きぶりになると思うが、それをなかったかのようにして全く書かないということになると、恐らく後々問題が出てくる。書きぶりに注意しつつ、そういった事実があったということについては書いていくべきではないか。
【座長】  いろいろな論点が出てきた。第三者委員会の公開・非公開の件については、議論の場は非公開だが、その後、座長が簡単なブリーフィングを行うというパターンもある。通常個人情報が多く含まれてるので、会議が終わってからすぐにというわけにはいかないが、その点に留意しつつ、何らかの形で外に出していくことも考えられるのではないか。大津の事案でも、最初からこのような対応をされていなかったか。
【委員】  大津の事案では、委員会を遅くまでやると、遺族が遅くまで待っておられて、具体の内容までは中々踏み込めないことについては断りつつ、可能な限り今どういう状態かということを、毎回説明した。それによりどの程度信頼を得たかは分からないが、毎回そのようにやっていた。
【委員】  再発防止の点について、先日、鳴門教育大学にお話を聞いたところ、様々な事例について、子供たちに話し合いをしてもらって、クラスでできるいじめ対策はどうしたらいいんだろうということで、親が話すわけではなくて、子供たち同士で対策を考える事例が、今全国でかなり出てきているという話を聞いた。これも大変有効な手段かと思う。
 もう一つは、今、いじめが起きてしまったときの話をしているが、学校現場もしくは家庭において、いじめはだめだ、絶対やってはいけないことだという教育の部分をについて、どんな指導をしていけばいいのかという点も、いじめ防止対策協議会の中で併せて議論に入れていただければ幸いである。
【委員】  事実認定や因果関係についてどの程度まで認定するかという点については、基本的な事実的因果関係という発想でいいと思う。裁判の場合、事実的因果関係程度の認定において、いじめはいつ何時、誰がどうしたかまで厳密に認定する一方、いじめの第三者委員会は法的責任問うものではなく、再発防止策や事実認定を教育の現場に返していって再発防止につなげていくことにその趣旨があることから、いつからいつまでこういうことが繰り返されたということで、一定程度の事実的な因果関係や範囲内で、例えば家庭の私的な問題に関する調査が必要かどうかも判断すればいいのではないか。
 また、委員の選任について、精神科医の人材を確保することに現場はかなり困っていると思う。大津の事案の場合、精神科医は入っていなかったが、様々な要因について調査する関係で問題になり、その道に堪能な先生を委嘱してもらって、事案をあらかじめお示しして、意見を聴取し、それを報告書に反映した。そのように、不足する分を補いながらやっていくようにした。
 再発防止については、残念ながら、学校、教育委員会と遺族との不信というのは極限状態にあり、こういう事実が出たからお互いここで共感して、次こう行きましょうというところまで中々いかないのが調査報告書公表以後の状況である。一方、教育現場で不信が続くことはよくないわけで、調査報告書の中に、当事者と学校との信頼関係を回復するためにこうするようにといった提言を入れることなどを考えてもいいのではないか。お互いが、ここをこうしていきましょうと議論する過程で当事者は学校を信頼していくと思う。
【座長】 
 精神科医の人材確保の問題が出たが、この点について他に意見はないか。
【委員】 日本医師会に、児童精神を専門とする大学の先生が所属する学校保健委員会という組織があり、その先生方に相談したが、児童精神を扱っている先生の絶対数が全国で少ないということは事実であり、全ての第三者委員会に精神科の先生に入ってもらうことは難しい。ただ、児童精神科でなくても、精神科の先生で構わないと思うし、または学校医の先生に第三者委員会に入っていただき、どうしても精神科的な意見が必要なときは、医師会の精神科の先生に相談することも考えられる。無理に精神科医を入れなくても、医者であれば大丈夫ではないか。
 また、被害児童生徒本人の要因に関する調査は絶対必要だが、今の時代、保護者が個人情報保護の観点から、学校に自分たちの情報をほとんど知らせない実情がある。学校にとって、子供たちや保護者の環境を把握することはとても大事なので、もちろん公表することはできないが、学校がそういう事実を持たないというのもいかがなものかと思う。
 再発防止については、子供たちに戻して、子供たちに考えてもらうのが一番いい。自分たちの仲間のことなので、親や大人が何か言うよりも、子供たちが自立的・自発的に色々なことを考えていくことが、将来の自分のためにもなるし、これが本当の教育だと思う。
【委員】  学校医を第三者委員会に入れるのはいいが、保護者と学校の関係に関して、保護者からすると、学校医は学校の中の一部であって、第三者委員会を立ち上げるまでの段階になったときには学校寄りの人間だと判断されるのではないか。
【委員】  それも事実だが、例えば、いじめがあるかもしれないというときに、その状態で学校医の先生を話し合いの中に入れていただきたい。学校医以外の他の先生が急に来て話をするより、学校医が子供や教員と話し合いの場を持つことがとても重要で、重大事態になる前の段階で学校医とコンタクトをとってほしい。
【委員】  学校内のいじめ防止委員会(いじめ防止対策推進法第22条に定める学校いじめ対策組織のこと。以下同じ。)にはスクールカウンセラーや、学校医が既に入っている。被害者の保護者が不信感を抱くのは、我が子が人権を無視されるような不当な扱いをされているときに、そのことをやめさせてもらえないから不信感を抱くことになるので、その段階で、学校としては、その被害者の保護者からの情報提供を踏まえ、加害者と被害者双方それぞれの成長のために学校現場として指導できれば、被害者もこのことをプラスに、また、加害者も自分の行いを修正していける。それをしてもらえなかったという思いが被害者の保護者にあるから、ずっと不信感を抱くことになる。こう訴えたのに何もしてもらえなかった、いじめをやめさせてもらえなかったということが不信感のもとにあるのではないか。
【委員】  調査組織の一般的なパターンだと、いじめが発生した場合、基本的には学校の先生方が事実関係を明らかにしていくが、不登校が続いてしまう形で、次第に保護者と揉めてしまう場合がある。そうした早い段階で第三者を入れていただきたい。文部科学省の基本方針にも校内のいじめ対策組織に弁護士等の外部専門家を入れることが好ましいことが書かれているが、実態として、我々弁護士等が関わっていく段階は、もう少し時間がたって、第三者委員会を立ち上げる段階からである。もっと早い段階で関わっていければ、事実はこういうふうに見るべきではないかといった形で第三者的なアドバイスもできる。このようにできないかということを地元の自治体にも話をするが、お金がないといった話になってしまう。結局は初期段階で事実関係をしっかり把握することが大事なので、そこを学校の先生だけに任せてしまうのではなく、第三者の目もしっかり入れて、早目に事実を確定していくことができれば、より後々のトラブル防止にもなると思う。
【委員】  学校による初期調査の充実や、事実認定とも関わってくるが、実際、その事案に関わっていくときに、我々第三者委員会の委員に事案の全体像が見えないことが多い。時系列での全体の流れや学校いじめ防止委員会の議事録、時系列での各教員の対応メモや記録、またはアンケート、聞き取り調査、スクールカウンセラー等の対応記録なども含め、事実認定や事案を考えるときのベースになる情報が学校できちんと整理されていないことが非常に多い。逆に、いじめ被害者側の保護者等の時系列の記録は非常に詳細に記録されている。要は、そこで学校側の記録と被害者側の記録をすり合わせて矛盾が出て、そこで不信感が生まれ、事実認定が非常に難しくなる。限られた時間の中で第三者委員会の委員が調査を実施していくに当たって、学校における初期調査の充実など学校側の情報の整理なり管理が必要だと思う。最近のいじめ関係のニュースを見ると、例えば、市の規定があるにもかかわらず、アンケート調査を保護期間内に全部廃棄してしまった事例や、他の地域では教員が対応メモを廃棄したなど調査で一番鍵になる情報が消えてしまっていて、どうにも認定のしようがない場合がある。そういう意味で、第三者委員会が全体像を把握し、事実認定を行っていく際には、学校側の情報の整理・管理を徹底してもらうといいのではないか。
 また、今、公立学校が前提になっているが、国立や私立の場合、少し違う形になっていくので、設置者別の調査の在り方も検討の余地があるのではないか。
【委員】 記録の保存はとても重要で、大津の事案の場合、学校の先生方が調査して、そのメモがかなり詳細で時系列に整理してあるものが役に立ったし、こういう生徒がしゃべっていれば、この事実は彼・彼女から聞こうとか、初期調査で、そういう調査を可能な限りして、記録として期間を決めて保存し、それを第三者委員会に引き継いでいくことが必要ではないか
【委員】  記録の関係で、公立の小・中学校に限って言えば、通常、第三者委員会を立ち上げる段階で、各学校の校長は、教育委員会に事故報告書を出さなければならないが、今その記録がないということを聞いてちょっと驚いた。記録があることが普通で、事が起こったときの記録が全くないということになると、これは学校現場の怠慢であり、問題が小さかろうが、大きかろうが、学校として記録はしっかり残すべきである。
【委員】  今の教育委員会への報告書だが、私も何回か情報公開で取り寄せたが、エッセンスだけ時系列で羅列している。原資料のメモを見せてくださいと言ったら、あるかないか答えられないとか、最近は、こうした報告書には、いじめについてどういう認定をしたかも書かれていない。保護者とこういう折衝をした、何人から聴取したといった時系列の報告書だけでは全く実態が分からない。
【座長】  記録をめぐっては非常に複雑な過程があり、私も学校現場や第三者委員会の方々から話を聞くが、重大事案に至るケースには、最初は軽微ないじめがかなり含まれており、そうしたいじめも事実認定に関わってくることがある。重大事案の場合にも被害児童生徒本人の背景調査が必要との意見があったが、単にいじめの定義を各事案に当てはめるだけではなく、コンテクストの中で事案を把握していく必要がある。いじめは常に最初の軽微なさや当てから、色々出てくる。確実にいじめであると判断するものだけを指導するわけではなくて、学校現場では常々、児童生徒のそのような軽微な事案の場面に遭遇すれば指導に当たっていく。それを校内の学校いじめ対策組織へ報告していくことが必要だが、校内組織への報告をA4何枚など余りにも形式的な書式で求めるのでは、逐一報告することは難しい。むしろ事実関係のみ、またはどのような指導を行ったかという対応について、5W1Hを踏まえてメモ書きでいいから、当該校内組織がファイリングしていく。その児童生徒に関してファイリングしていけば、最初は軽微なものばかりが続いたとしても、この児童生徒に関してこういうものが集中しているというのは恐らく分かる形になるので、初動段階で留意すべきだということになれば、指導の場面では、それがいじめであるかどうかということは通常は余り議論しないで、その場面場面で、状況に対応しながら、児童生徒を指導していく。いじめであるかどうかの事実の判断は組織が行うことになるが、その組織がしっかりとそれらのメモを扱いながら、これはこうだということで、そこでスクリーニングがかかってくると思う。ただ、そういうものがかなり重大な事態または揉め事にならないと、学校の場合、記録がない点が問題であり、重大な事態になる前の段階の記録が欠けているので、事実認定が非常に難しくなる。そこで、そこを上手く情報管理もやっていただきつつ、学校の組織がもう少しその点で機能すれば、記録または事実認定に関して、もう少し初期の段階から動けるのではないかと思う。
その後、それが重大事態に当たると判断すれば、法に基づき教育委員会に報告し、または法に基づいて行う以外に、現場ですぐさま重大事態に至るようなものであると判断すれば、その時点で教育委員会とすぐ相談することが重要である。その上で、教育委員会と学校現場の関係の中で、事実をクリアにしていく必要があるが、そのときに、重大事態に至るような場合、学校による調査が必要だが、その調査を行う学校いじめ対策組織と第三者調査委員会とは、使い分けていく必要がある。悩ましいのはマンパワーの問題があり、地域差もあるため、国の基本方針を策定した際も、そこのところを融通が利くようにして、第三者調査委員会は学校の調査を兼ねることができるなどと確か書いてあったと思う。その辺が少々曖昧なので、少し整理する必要がある。
今回議論いただいた流れで、現実の中で、学校の指導の場面と調査組織の判断、この辺りは、子供たちの発達段階等の観点からも、少し分けておいた方がよい。指導といっても、子供の成長、発達を目的とした指導でなければいけないので、ここは大事な視点である。
【事務局】  今後の協議会の進め方等については、本日、委員から頂いた意見を踏まえ、議論の内容を事務局で整理しお示ししていきたい。次回の日程は、日程調整を行った上で、後日御連絡させていただく。
【座長】  この会議、大体何回ぐらいを予定しているか。
【事務局】  現時点で、5回程度で、姿が見えるところまで行ければいいと考えている。
【座長】  以上をもって、今年度第1回の会議を閉会させていただく。各委員におかれては、会議進行にご協力いただき、深みのある議論も随分出てきた。次の論点整理に生かしたい。
―― 了 ――


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