全国的な学力調査のCBT化検討ワーキンググループ(第2回)議事要旨

1.日時

令和2年6月8日(月曜日)15時~17時

2.場所

Web会議(文部科学省 東館9階 総合教育政策局会議室)
※YouTube配信にて公開

3.議題

  1. 全国学力・学習状況調査CBT化のパターンやシステム等について

4.出席者

委員

大津主査、石田委員、礒部委員、宇佐美委員、川口委員、柴山委員、寺尾委員、冨山委員、耳塚座長

5.議事要旨

議事1:全国学力・学習状況調査CBT化のパターン

(1)全国学力・学習状況調査CBT化のパターンやシステム等について

・資料3に基づいて、寺尾委員より説明があった。関係委員の意見は以下の通り。

【委員】
 学力調査をCBT化するにあたっては、IRT(項目反応理論)の導入が前提になるのではないか。仮に、IRTを導入せずにCBT化を設計・検討していく場合、学力調査としてできることが狭まっていき、厳しいのではないかと考える。
 WAN方式の場合、国がサーバーを用意することになるため予算面で厳しく、USB方式の場合、調査ごとにUSBを用意する必要があるため、これもなかなか厳しいと考える。これらをふまえると、中間サーバー方式で、各自治体がサーバーを持つという形が現実的であると考えるが、予算面について、なにかご教示いただけないか。

(寺尾委員)
 現状として、多くの学力調査ではCBT化とともにIRTも導入されている。小規模の学力調査では、IRTを導入せず、1つのフォームで一斉実施している事例もある。個人的な意見としては、大規模調査になると、同時刻に一斉実施できる人数に限りがあるため、どうしても調査の実施を分散させる必要があると考えている。技術的に可能な水準と予算を考慮して検討すべきと考える。例えば、サーバーの負荷の点から考えると、様々な負荷分散の技術があるが、自分は50万人や100万人規模の実証研究をやったことがないため詳細は答えられないが、負荷分散についてどういう技術を活用するかについても予算との兼ね合いになるだろう。負荷を分散させることでサーバーの稼働率が上がり、さらにIRTを導入することで児童生徒の得手不得手も即時に分かるようになるというメリットもある。全国学力・学習状況調査の規模(約200万人)を最終的な目標とするならば、IRTを念頭に置いた方がいいのではないか。
 個人的には1つの落としどころは、中間サーバー+LAN方式になると考えている。一方で、これまでの学力調査で使われているTAOシステムの基本設計は、セントラルサーバー方式であり、間にサーバーを仲介することは考慮していない。どのようなデータをどういう方法で集めるか、同時に実施する人数はどの程度の規模なのか、またサーバーの負荷を分散させるのかを踏まえ、どのように設計するかによってシステム構成は変わってくるだろう。

【委員】
 CBT化に向けての詳細な論点を提示していただいた中で、人的・経済的な面やサーバーの負荷について実現可能性をふまえた検討が必要だと考えている。様々な課題がある中で、見通しよく議論を進めていくためには、改めて調査理念や目的を捉え直していくことが重要になるのではないか。個人的な意見として、学力調査は、国や教育委員会にとって重要になる児童生徒の学力の把握に焦点化して検討していいのではないか。
 学力調査のCBT化について検討する際、膨大な経費やシステムエラーについての議論が出てくる。これは悉皆で調査を行う場合、特に大きな課題になるのではないか。
 学力調査のCBT化とIRTの導入については、本来別々に考えるべき論点ではないか。抽出調査であれば、現場の負担の問題も抑えられ、問題の公開非公開についてもかなり柔軟に対処しやすいのではないか。CBT化するにあたって、調査を徐々に変化させていくことが大事だと思っている。少なくとも試行や予備調査については、抽出を前提に行ったほうがよいのではないか。その上で、いろいろなネットワークの運用方式のもとで、規模が拡大した場合の実現可能性が高い方法を検討していくことになるのではないか。

(寺尾委員)
 調査理念と実証実験は両輪のように回していく必要があると考えている。実証実験について、コンテンツに関する調査はもちろんのこと、実施方式についての調査も様々な規模で綿密に計画していく必要がある。それを踏まえた上で、調査理念についても議論を積み重ねていくことが必要であり、並行して議論していく必要がある。

【委員】
 乗り越えなければならない課題がこんなに多いのかと改めて圧倒されている。CBT化した後の日々の学習をイメージしたとき、IRTの導入ではカバーしきれない学力を見るための問題等も開発されるだろう。現状、BKT(Bayesian Knowledge Tracing Model)やDeep-IRTなどの新たな技術が開発されているが、実用段階には至っていない。CBT化については、やれるところからやっていくべきである。個人的には、IRTは項目管理のために導入せざるを得ないと考えている。

 

(2)CBTシステムの全国化に向けた課題

・資料4に基づいて、国立教育政策研究所の佐藤次長、片岡課長よりご説明。関係委員の意見は以下の通り。

【大津主査】
 今日の報告にあったシステムは、国研で開発している途中にあるものという認識でよいか。

(国研)
 今回提示したシステムは、あくまでもシミュレーションとして紹介したものである。国研として開発途中のシステムではない。

【委員】
 今回の報告にあったシステムは、現行の紙で行っている全国学力・学習状況調査をそのままコンピュータにのせているように感じたが、そのような理解でよいか。
 また、CBT化した場合、いろいろな出題方法が可能になるが、作問はどの機関で行うべきと考えるか。個人的には、教科に関わる専門的な知識だけでなく、コンピュータに関する知識が必要になってくると考える。例えば算数・数学の専門家だけではなく、別途チームで作るようなイメージでいいのか。

(国研)
 今回の報告したシステムは、あくまでもシミュレーションなので、今後の全国学力・学習状況調査の在り方の議論に沿って、CBTシステムの在り方についても、同時に検討していく必要があると考えている。これから作問と一体となったCBTシステムの開発を進めていかなければならないと考えている。これまで作問とシステム開発は別々の機関で行われてきたが、ある程度一体となって測定したいものがきちんと測定できる、そういう仕組みを一緒に作っていくことが重要であると考える。

【座長】
 誰に対するどういうサービスをデザインして、システム開発をしていくのか。他の委員もおっしゃっていたが、現行の調査形態をそのままCBTにするという前提があるように感じた。今後、システムを開発するにあたって、出題方法や解答形式といったミクロな事柄から開発していく方針と考えてよいか。出題方法や解答形式よりももっと大きなシステムの開発が必要になると思うが、どういう条件があれば、開発が進むのか。

(国研)
 今回の報告は、あくまでもシミュレーションとして過去の全国学力・学習状況調査の問題文を使用した。今後、全国学力・学習状況調査の在り方に合わせて、それにふさわしいCBTの仕組みを設計していくことが大切だと考えている。この調査でどのような能力を測ろうとするのか、それをどのようにCBTシステムを使って測定するのかという議論と調査問題の作成は、一体となって行う必要がある。先行事例については、是非参考にしていきたいと考えているが、学力調査の在り方とも大いに関係しながら、システムの開発も同時並行的に行う必要がある。システム開発の手法として、資料でもご紹介したように開発しながら考えるプロトタイプやアジャイルといった方法がある。そうした手法を取り入れながら、実証実験として、小さなシステムにおけるサイクルを何度も繰り返しながら開発を進めていくことになるのではないかと考えている。

【委員】
 CBT化した場合、現行の紙による調査ではできなかったことがどの程度できるようになるかについて、現状、国研ではどの程度研究が進んでいるのか。

(国研)
 まだCBTシステムの開発、設計等については進んでいないのが現状である。PISAやTIMSSといった国際調査でのCBT化の経験があるため、調査研究を進めながら、全体のCBTシステムの開発に生かしていきたい。

【委員】
 要件定義について、このプロジェクトは今までにないかなりクリエイティブな、大きなプロジェクトだと認識している。そのため、要件定義について進めていく際には、需要を掘り起こし型の方向で進めていかざるを得ないのではないか。
 全国学力・学習状況調査は児童生徒、保護者、学校の先生方を一番優先して考えなければならないと考える。そのユーザー目線で見たときの期待や要望について、マーケティング調査のようなものを行うと、要件定義がすごくスムーズに行くのではないか。

【主査】
 調査問題や得られた解答データに関して、QTI(Quastion and Test Interoperability)規格等を使ってレンダリングシステムをベンダーに提供してもらう形になるかと思う。日本学術会議の報告等を参照すると、アメリカやイギリスで教育データの標準形式についての議論がかなり進んでいるという印象を持っている。一方、個人情報保護に関しても、計算機の能力が非常に上がって、統計データを公開するだけでも個人ベースの情報を復元できる可能性も上がってきている。
 このワーキンググループでは、調査の実施方法に焦点が当たっているが、得られたデータの利用について、何らかの見通しはあるのか。

(国研)
 今回の報告は、調査問題が解答者に解かれることによって、その問題自体が様々な属性情報を持っていくという説明をした。その問題がどの程度使われたのか、解答状況から推定される難易度といった情報を持ち、問題自体に価値が付いていく。別の視点として、解答者の解答内容やスコアといった情報も、システム内でデータが収集されていくことで、ユーザーのスタディーログの活用が可能になる。これは、解答者自ら、学習を深めるために自分のデータを活用することになると認識している。
 CBT化の議論にあたって、情報の所有や管理といった情報の取扱い、セキュリティなど、様々な事項について検討する必要があることは認識している。

【委員】
 国語科が専門なので、縦書きのスクロールがかなり厳しいことを改めて感じた。CBTで測ろうとしている学力は、現行の紙で行っている学力調査で測ってきたものとは別のものであるように感じた。
 全国学力・学習状況調査のCBT化を検討していくにあたって、システム開発を先行して行うことも必要であるという言葉が印象的だった。GIGAスクール構想の推進に伴って、学校現場で行われている教育の成果や課題について、検証してもらう材料を提供することが重要になる。紙による調査で測れる学力とCBTによる調査で測れる学力があることを前提に、できるところから、オプションという形も含めて、全国学力・学習状況調査の中に取り入れていくことが大事ではないか。

【主査】
 全国学力・学習状況調査で出題するかどうかは別として、CBTにおいて古文や漢文の表記等はできるのか。

(国研)
 まず、コンピュータ上での日本語の表記が難しいという特性がある。特にウェブの世界では、縦書きの文化が残っているのは日本のみといえる。漢字の表記だけでなく、縦線、波線、二重線といったテスト文化の中で築き上げられた出題方法についても、画面上で引き続き使うのか、それとも別の方法で実現していくのか、そうした表記方法についても課題になる。

【座長】
 CBT化に関して、今後の実行可能性を重視して、実験や試行を繰り返しながら準備していくという方向性については賛成である。資料1・2に記載されている「児童生徒が日常的にICT機器を使用した学習に慣れることが重要で、それがCBT化の前提になる」という点について、今後、国としてICT機器を使用した学習についての調査の予定はあるのか。

(事務局)
 現状、直ちに調査を行う予定はない。GIGAスクール構想の進展に伴って、児童生徒がICT機器を使いながら日々学習をしていく状況が増えてくることが予想され、その中で学習の在り方や、ICT機器を活用するにあたって必要になる工夫等について併せて調査・検討をすることになると考えている。児童生徒の学習状況も併せて把握できれば良いのではないか。

【委員】
 実施方式の開発と解答データの回収とを同時並行でやろうとすると、かなり厳しいタスクになるのではないか。どこを重点化するのか、また調査計画や検討期間について慎重になるべきではないか。実施方式と解答形式の開発を同時に行う場合、限られた予算を案分することになるため、どちらも思うように進んでいかない可能性がある。
 資料4に掲載されていたように、問題作成システム、オーサリングツールが重要になる。問題作成者が想定する解答形式について、解答システムを似せるような形で問題作成システムに反映させていく必要がある。その問題作成システムを使う場合も、問題のバージョン管理に関する課題がある。問題作成と実施方式に関する検討の進め方について、かなり綿密な計画が必要になる。

【主査】
 実際にシステムを開発し、実施・運用を行っていく場合に、どのような契約になるのか。例えば現状では、実施・運用等について毎年入札で民間企業が受託している。CBTで調査を実施する場合、委託企業が異なるからといって、調査システムを毎年変更するわけにもいかないだろう。それをどういう形で委託企業と分担していくのか、また、仮にIRTを導入した場合大量の問題を継続的に管理する必要があるが、問題の管理等についてはどうするのか、何か見通しはあるか。

(国研)
 開発システムの管理、委託企業との役割分担や問題バンクの管理といった点については、今後の課題として認識している。今後、様々な調査研究を進めていく際に、将来的な実施・運用についても検討しながら、整理していきたい。

【委員】
 調査をCBT化した場合、児童生徒のどんな能力を測れるのか、または測ろうとしているのかという議論の大枠は、とても重要になる。出題形式や解答方法が変わることで、一概に測定している能力やスコアが変わるとは言えないので、予備調査で定性的・定量的な検討が必要になる。
 また、調査理念について、個々の学校、教育委員会、国という3つに対して、等しく焦点化することは難しいだろう。これからの調査理念などについて、国として進展している議論はないのか。

(事務局)
 全国学力・学習状況調査においては、平成31年度(令和元年度)から新学習指導要領の趣旨を踏まえて、知識と活用を一体的に問う形で問題を作成している。今後どういった形で出題するのか、技術的な進展も踏まえてどういった問い方ができるのかといった点は大きな論点になる。

【主査】
 非常に重要で難しい問題である。調査目的を明確に焦点化して、それに合った調査の実施方法も考えていく必要がある。

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総合教育政策局参事官(調査企画担当)付学力調査室

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