主権者教育推進会議(第5回) 議事録

1.日時

平成31年3月18日(月曜日)

2.場所

文部科学省 3F1特別会議室(東館3階)

3.議事録

【篠原座長】 定刻となりましたので、ただいまから、第5回主権者教育推進会議を開催いたします。本日も御多忙の中、お集まりいただき誠にありがとうございます。
 本日は、近藤委員、佃委員が御欠席となっており、6名の委員の皆様に御出席をいただいております。
 また、本会議につきましては、報道関係者の会場の撮影及び録音の申し出があり、これを許可しておりますので、御承知おきください。
 それでは、本日の配付資料について、事務局から説明をお願いいたします。
【大内学校教育官】 おはようございます。本日もどうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、配付資料の確認をさせていただきます。本日の配付資料でございますけれども、議事次第にございますとおり資料1から3を配付させていただいております。また、机上の方でございますけれども、本日御発表いただきます日本新聞協会さんの方からリーフレット2種類と、それから、資料の一番最後の方になりますけれども、NIE委員会の名簿の方を頂戴しておりますので、これを配付させていただいております。過不足等ございましたら、事務局にお申し付けください。
【篠原座長】 それでは、議事に入ります。
 本日は2つの関係団体からのヒアリングを行います。前回御欠席の委員もいらっしゃいますので、まずは事務局から前回の主な意見などについて報告をお願いします。
【大内学校教育官】 失礼をいたします。それでは、お手元に資料1、5ページ目をお開きいただければと思います。資料の1、5ページ目のところに家庭教育との連携というのがございますけれども、前回第4回の会議におきまして、本会議の検討事項に家庭や地域における取組に係る事項ということを追加したことを踏まえまして、御意見を頂戴したものでございます。
 主な意見を御紹介させていただきます。
 まず、家庭教育との連携のところの上から3つ目の中点のところでございますけれども、本校には近隣にある6校の小・中・高等学校のPTAが学期ごとに1回集まる仕組みがあると。先生方と、それから、保護者の代表の方が集まることによって、高校から小学校が見えると。校種を超えてそれぞれの取組が見えるというようなことから、非常に有益ではないかというような御意見を頂戴しております。
 また、その次の中点でございますけれども、高等学校のPTA連合大会が行われたという御紹介をいただきまして、その際に、主権者教育について初めて分科会で取り上げられたということで、高等学校の演劇部が生徒会選挙と町の町長選挙を絡めて演劇を実施したということで、それを御覧になられた保護者の方の反応が非常によかったと。こうしたことから、単に選挙に連れていくというようなことだけではなくて、生徒が主権者教育に関わる活動をするところを保護者が見るというような視点、こういった視点も、家庭との連携の手法として考えられるのではないかというような御意見を頂戴しました。
 また、5ページ目、最後の中点ですけれども、主権者教育を進める際の家庭の役割を明確にすべきではないかということでございます。また、全国的な組織であるPTA連合会や地域ごとのPTAの取組、こういった取組にも期待をしたいというような御意見を頂戴したところでございます。
 1枚おめくりをいただきまして、6ページのところです。地域との連携という小見出しのところでございますが、そこの一番上の一つ目の中点でございます。中学校の実践で、生徒が複数の政党を作り、校内の様々なテーマについて議論をして選挙を行う、あるいは、総理大臣になるというような活動を模擬的に行っているということでございます。そういった学校の取組が大学の先生に注目され、その先生が今度区の方と連携を取って、区長と直接議論をするというような取組も行っているというような例がありました。生徒にとって学校のある地域の様々な問題を取り上げて議論をするというような機会があるというのは非常に有意義であって、主権者教育というのが地域の様々な問題を包括的に見るという姿勢が求められていることから、有益ではないかというような御意見も頂戴しております。
 また、その次の中点でございますけれども、大学には様々な形で地域の人が知見を求めて相談に来ているということがあるので、小・中・高等学校が地域とつながるには、大学を媒介するような手法、大学を活用するという視点が大事ではないかというような御意見を頂戴しております。
 2つほど飛びまして、6ページの一番下の中点でございますけれども、学区の活動として行われるイベントに子供たちが参加するというような、参加をする側で招かれるというだけではなくて、様々な活動を子供たちが主体的にやる、あるいは、その中身を実際に一緒に考えていくというような活動をすることが、主体的な考えが生まれ、あるいは、その子供たちを様々な活動に参画させていくというような点から重要ではないかというような御意見を頂戴しました。
 また、7ページ目のところですけれども、そうした活動を保護者が見る、あるいは、地域の人が見ることによって、子供たちが主体に動くというようなことを学ぶ機会になっており、家庭教育や大人の学びにもつながっていくのではないかというような御意見を頂戴しました。
 7ページ目の次の一つ飛びまして、2つ目の中点のところですけれども、主権者教育はまず社会に対してどう関心を持たせるかというところが大事だと思うと。子供たちは身近な問題に一番興味を持ちやすく、区民便りを題材にして学習をしているような例もあるので、身近な行政とのタイアップが非常に重要ではないかというような御意見を頂戴いたしました。
 また、1枚おめくりいただきまして、8ページのところでございます。前回諸外国の調査報告もございましたので、8ページのところの諸外国の状況についても御意見を頂戴したところでございます。
 2つ目の中点のところで、イギリスは政権交代に伴い主権者教育の推進に向けての勢いが弱まっている印象があるが、生徒が自分で民主主義について発言、発表できたり、そうした場が用意されているというようなことから、主権者教育という考え方が根付いていると感じているというような御意見でありますとか、その次の中点ですけれども、ドイツはボイテルスバッハ・コンセンサスの原則のもとに着実に行われていると。特に学校の授業で、国の財政に関する授業であったようですけれども、学校の授業では議論が非常に活発で、全員の手が挙がるというような姿を見て、こうした教育が日本の各教室でも当たり前に行われるとよいというふうに感じたというような御意見。
 それから、次の中点ですけれども、政治的中立性の担保についてはどこの国も悩んでいて、結論は出ていないと感じていると。ドイツでは超党派の委員会を作っているが、それが全体で中立性を担保するというところまでは行っておらず、また、そういう機能も果たせていないというような状況の御意見を頂きました。出版物や副教材などのチェックをその一部の超党派で実施しているというような状況の御意見を頂戴したところでございます。
 資料の1については以上でございます。
【篠原座長】 それでは、主権者教育を熱心に推進されている団体からのヒアリングを行いたいと思います。
 本日は公益社団法人経済同友会政治改革委員会の委員長の中村さんと、一般社団法人日本新聞協会NIE委員会の町田委員長にお越しをいただいております。ありがとうございます。
 まず初めに経済同友会から御発表を頂き、続いて新聞協会から御発表を頂いた後、まとめて質疑応答と意見交換を行いたいというふうに思っています。
 まず、経済同友会では昨年度から主権者教育のあり方を検討してきておられると聞いております。その検討状況を含めて、20分程度で御発表いただければありがたいと思います。
 それでは、中村委員長、よろしくお願いいたします。
【中村経済同友会政治改革委員会委員長】 座長、ありがとうございます。皆さん、おはようございます。経済同友会政治改革委員会で委員長を務めております中村でございます。本日はこのような貴重な場にお招きいただきましてありがとうございます。
 経済同友会としては、代表幹事が、戦後100年目に当たる2045年に、目指すべき社会像、「Japan2.0最適化社会に向けて」を提唱しております。その中で、政治改革委員会では、施策の一つとして主権者教育のあり方について検討してきました。その一環で、2月3日には御省の初等中等教育局教育課程課長の松永様と、学校教育官の大内様に来ていただいて、「我が国の学校における主権者教育について」と題して講演していただき、意見交換もさせていただきました。
 2045年ごろに社会の中核を担う今の子供たちが、自ら考え、判断する力を備え、社会の諸課題の解決に向けて主体的に政治参画する主権者となるためにどうすればよいのかについて、現在提言を取りまとめているところでございます。
 提言の中身については、まだ公表前ですので、詳しくお話しすることはできませんが、本日は提言に至る問題意識や、解決の方向性についてお話しさせていただきます。
 提言は4月中旬に公表する予定ですので、皆様もぜひ一読のほどよろしくお願いをしたいと思っております。
 初めに、我々の問題意識について御説明申し上げます。
 現在、世界ではデジタル化やソーシャル化の流れの中で、既存メディアやデジタルメディア上にフェイクニュースを含め、多くの情報が氾濫しています。それがインターネットを通じて順次拡散することで、欧米諸国を中心にポピュリズムが台頭したり、極端な情報や思想に流される傾向が助長されたりと、移ろいやすい世の中になっています。
 このような状況の中で、国民一人一人が偏った情報に安易に流されず、正しく判断する力を持つことがとりわけ重要であります。
 しかしながら、我が国の現状を見るとそうはなっておりません。国民全体、特に若者は政治に関心が低く、また、具体的政策課題を考え議論する能力も弱いことから、日本の民主主義は今まさに危機的状況にあります。
 こういった問題意識を背景に、本会では主権者教育の在り方について検討してまいりました。
 総務省の有識者会議の取りまとめに記載されたものを引用させていただきましたが、主権者教育とは、「社会の出来事を自ら考え判断し、主体的に行動する主権者を育てること」とされております。まさにこれが今の日本には必要なわけですが、主権者教育を行う上で解決すべき課題が多数あります。
 また、主権者教育により国民一人一人に身につけさせるべきものもあります。ここに代表的なものを8つ挙げさせていただきました。
 まず、主権者教育で最も重要な目的である政治的リテラシーや政治的効力感の不足をどのように解決していくのか。次に、主権者教育を実践する上で教員や教材が不足しているという課題もあります。また、教育に際しては、政治的中立性の確保が求められます。さらに、主権者教育を行う上では、学校の教員だけでは不十分と考えられますので、民間人材やテーマをどうするか、現在の有権者である大人たちはほとんどが主権者教育を受けていない世代ですが、その層に向けてどのように教育をしていくのか、また、デジタル時代に即した主権者教育や政治参画の推進も課題の一つです。
 次に、これらの課題に対してどう考えているか御説明を申し上げます。
 まず、政治的リテラシーや政治的効力感をどう向上させるかという課題についてですが、やはり現状のように高校で急に主権者教育を実施してもそう簡単には身につかないと考えられます。特に効力感を高めたり、議論をする能力を身につけたりするには高校からでは遅過ぎるので、初等教育や就学前教育からカリキュラムに組み込んでいくべきと考えております。
 次に、主権者教育を行う上での課題です。従来の詰め込み重視の教育に慣れた教員は、主権者教育を行う上で最も重要な、「自身の主義主張を押しつけない」、「少数意見も含め、生徒・児童の意見を尊重する」、「対等な関係で議論する」、これらの態度を身につけていないと考えられます。これは本人には全くそういうつもりがなくても、無意識にそうなってしまっている可能性が高いと思われます。
 また、教材や補助教材についてはこれから準備されていくものと思いますが、時代の流れが非常に速いため、更新頻度の低い検定済みの教科書だけではなく、時事問題も積極的に扱って、生徒・児童の関心を高める工夫をすべきだと思っております。
 やはり重要なのは、「政治」が、時事問題を含め、全ての社会課題と密接に関わっているということを主権者教育で伝えていくことです。例えば、就職活動や消費税増税、環境問題などの身近なみんなが関心を持ちやすいテーマも政治と密接に関係していて、政治を中心に真剣に議論されており、決して自分に無関係なものではなく、自分事として伝えていくことが重要であります。
 次に、政治的中立性の確保についてです。これは非常に難しい問題で、皆さんも頭を悩まされているところだと思います。皆さん御承知のとおり、1960年から70年にかけて、時代背景の影響があり、50年近く教育の場で具体的な政治的事象の取り扱いが実質的に制限されてきました。しかし、2015年の18歳以上への選挙権年齢引き上げが行われたことを契機に、この制限が取り払われました。これは主権者教育を行う上で非常に大きな一歩であり、皆さんの御尽力の賜物だと考えております。
 しかし、政治的中立性をどう確保するのか、これが非常に重要ですが、ここでは問題提起だけをさせていただきます。
 次に、民間人材の不足と今の大人たちの世代への主権者教育についてです。やはりこれらは特に社会全体が一丸となって取り組む必要があると考えています。次のページで詳細を述べますが、本会では1995年に「学校から合校へ」という提言を公表しております。また、企業従業員への研修などを通じて主権者教育をしていくということも経営者として取り組むべきであると考えております。
 先ほど言いました「学校から合校へ」という提言について簡単に御紹介します。「合校」とは初等中等教育における新しい学校のコンセプトです。多種多様な教育機能を併せ持ち、生徒も先生も、子供たちも大人たちも、それぞれがお互いに学び合い、様々な関係を築き合う場となることを究極の姿として想定しており、学校、自由教室、体験教室で、「合校」というネットワークを形成するとともに、教員だけではなく、多様な人々や機関が参加して運営管理すべきであるとしております。つまり、この「合校」という概念が主権者教育を推進する上でまさに求められているものだと考えております。
 この提言をきっかけとして、本会では1999年度より学校と経営者の交流活動を実施しております。ほかにも幾つか関連したイベントを開催していますので、後ほど事務局より御紹介をさせていただきます。
 最後に、デジタル時代に即した主権者教育や政治参加の推進についてです。こちらの表は総務省の調査資料から引用した主なメディアの行為者率を示しております。テレビ、新聞、ラジオといったメディアは世代が若いほど利用者の数が減少しており、特に新聞を読んでいる人は40代から下は30%もおらず、10代、20代に至っては10%もいないという状況です。それに替わって、インターネットやソーシャルメディアは世代が若いほど見ている割合が高いという結果となっております。
 このような時代の移り変わりを考慮し、主権者教育や政治参画を推進していくべきであると考えております。
 ここからは経済同友会で行っている活動について、事務局より御紹介をいたします。
 それでは、よろしくお願いします。
【経済同友会事務局】 それでは、簡単に御紹介をさせていただきます。
 主権者教育そのものではないのですが、経済同友会の活動の中で、子供たちが自ら考え、判断をし、社会の問題を考えていく、そういったものの一助になるのではないかということでプロジェクトを御紹介させていただきます。
 お手元の「みんなで描くみんなの未来プロジェクト」というものがあるのですが、こちらは2016年に、先ほど委員長から御紹介ありましたが、2045年の社会を考えていこうといったときに、経営者だけで30年後の未来を考えていていいんだろうか、もう少しその30年後に社会の主役となっている若い人たちがどう考えているのか、こういった声をぜひ取り上げる、取り込んでいくべきではないか。あるいは、社会課題が非常に複雑になっていく中で、企業の経営者だけではなくて、様々なステークホルダー、政官学はもちろんですけれども、地方だったり、海外だったり、そこに出かけていって、経済同友会の特徴である自由闊達な議論をオープンな形でやっていこう、そういった形で始まったのがこの「みんなで描くみんなの未来プロジェクト」でございます。
 その中で、特に次世代、中学生、高校生、大学生、こうした皆さんにそういった考える機会を一緒に作っていこうというものが幾つかございますので、紹介させていただきます。
 一つ目が、先ほど紹介がありました、これはプロジェクトが始まるかなり以前、もう20年ほどの実績があるものなのですけれども、学校と経営者の交流活動でございます。こちらは経営者が学校現場に出張授業の形で訪問させていただきまして、単にその企業とか経営のあり方ではなくて、様々な先の見えない、正解のないこの社会の中で、学生、生徒さんたちがこれからどういうふうなことを考えて生きていかなければならないのか、社会をどういうふうに考えていかなければいけないのか、こういったものを経営者の皆さんから問いかけながら授業を行っていくというもので、これは、実は御好評いただきまして、年間100件以上の出張授業を行っております。
 その関連した事業としまして、ここ数年毎年1回教育フォーラムというのを実施しております。こちらは中学生、中学の先生、それから、保護者の皆さんに集まっていただきまして、グループディスカッションのような形で様々な社会課題を取り上げまして、こういったものをどういうふうに解決をしていくのか、そういったものを、経営者も交じりながら、ディスカッションしながらまとめていくという、そういった活動もしております。これも実は3月に毎年やっておりまして、今週開催される予定になっております。
 そのほか、大学生に対しても、最近どうしても大学生と企業の関係となりますと、就職活動というような形になってしまいますが、そういったものではなく、大学生がやはり今後どういうふうに働いていくのか、この社会をどういうふうに考えていくのか、こういった機会を積極的に作っていこうということで、「未来とのダイアログ」ということというふうなものを開催したり、あるいは、その左側、ちょっと多少本論とはかけ離れるかもしれませんが、インターンシップも、これも単に就職のためのインターンシップではなくて、きちんと単位化をし、きちんと企業のほうでプログラムを作り、特に大学1、2年生を対象に、企業の現場で起こるいろいろな課題について、そこに一緒に入っていただいて、授業の一環としてやっていただく、そういった機会もいろいろ作っております。
 こうしたものが主権者教育に直接に関わるかどうかはわかりませんけれども、やはり自ら考え、判断をし、正解のない回答を出していく。それから、いろいろな社会の課題について、今何が起きているのか、そういったものを一緒になって考えていく、そういった機会を同友会としても今後とも続けていきたいと考えております。
 以上です。
【中村経済同友会政治改革委員会委員長】 経済同友会からは以上でございます。ありがとうございました。
【篠原座長】 中村委員長及び事務局の方、ありがとうございました。
 続いて、日本新聞協会から御発表いただきたいと思います。日本新聞協会では以前よりNewspaper in Education、NIEの推進に取り組んでおられますので、その取組状況や新聞活用と主権者教育との関わりなどについて、これも20分程度で御発表いただきたいと思います。
 それでは、NIE委員会の町田委員長、よろしくお願いいたします。
【町田日本新聞協会NIE委員会委員長】 よろしくお願いいたします。日本新聞協会NIE委員会、委員長の町田でございます。本日はこのような貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 それでは、早速お話をさせていただきます。
 まず、日本新聞協会の御説明もさせていただければと思います。新聞協会は全国の新聞・通信・放送、計129社が加盟する団体で、新聞倫理の向上や報道界の共通利益のために様々な活動を行っております。
 その一つが、学校現場などで新聞を教育に活用するNIE、いわゆるNewspaper in Education、「教育に新聞を」の推進でございます。
 本日は主権者教育の推進に新聞がどのような役割を果たし得るか、NIEの実践例を交えて御説明をさせていただこうと思います。
 説明内容については、1 NIEについて、2 新聞が育む主権者に求められる資質・能力等、3 主権者教育に求められるポイント、4 さいごに――の順に御説明させていただきます。
 NIEは1930年代にアメリカで始まりまして、世界で80カ国以上が実施しております。日本では85年に提唱されました。以降、教育界と新聞界が協力し、全国で展開しております。
 NIEは大きく3つの分野で構成されております。まず1番目として、授業などで新聞記事を使う新聞活用学習、それから、2番目として、学んできた知識、技能をもとに新聞形式での情報発信を学ぶ新聞制作学習、そして、3番目として、新聞の働きやジャーナリズムの役割、他メディアとの比較など、メディアリテラシーを学ぶ新聞機能学習であります。
 これらの活動を通して、社会性豊かな青少年の育成、活字文化と民主主義社会の発展を目指しているのがNIE活動でございます。
 つまり、NIE推進の目的は主権者教育の目的と合致するものであります。我々といたしましては、NIEのより一層の推進が主権者教育の推進にもつながるものと考えております。
 新聞協会のNIE推進事業について簡単に御説明をさせていただきます。
 新聞協会では、授業などで新聞を活用してもらうために、小・中・高校へ新聞を提供する新聞提供事業を行っているほか、研修会の開催、ガイドブックの制作やウェブサイトでの情報提供などで実践教師のサポートをしております。
 また、今年で10回目となる「いっしょに読もう!新聞コンクール」を主催しています。コンクールについては後ほど述べさせていただきます。
 ここでは新聞提供事業について若干御説明をさせていただきます。
 新聞提供事業は協会と各新聞社が購読料を負担し、全国各地のNIE実践指定校に一定期間学習用の新聞を届ける仕組みです。1996年から実施しておりまして、毎年500校以上、これまで延べにして1万校以上の小・中・高校に新聞を届けています。基本的には、配達できる銘柄全てを届けているのがこの事業の大きなポイントです。地域によって多少のばらつきはありますが、平均して6.5紙を各校に届けています。様々な新聞を読み比べ、多様な意見を知り、多面的、多角的に物事を捉えられることが重要だという考えに基づいております。
 NIEの効果についても御説明をさせていただきます。
 学校教育で新聞を活用する意義は様々あります。新聞協会では新聞の閲読習慣がある子供ほど学力テストの点数が高い傾向にあるということを訴えています。文部科学省「全国学力・学習状況調査」の調査結果では、新聞を読む頻度が高いほど各教科の平均正答率も高い傾向を示しています。スライドは平成28年度のデータをもとに作成したグラフですが、この傾向はずっと変わっていません。
 ただ、今回は主権者教育に関してNIEがどのような資質、能力を育成できるのか、学びに向かう力を育めるのかといった観点でお話をさせていただきます。
 新聞が育む主権者に求められる資質・能力などについて御説明いたします。主権者に求められる資質・能力とは何でしょうか。文科省と総務省が作成している副教材では、次の4点に整理されています。1 論理的思考力(とりわけ根拠をもって主張し他者を説得する力)、2 現実社会の諸課題について多面的・多角的に考察し、公正に判断する力、3 現実社会の諸課題を見出し、協働的に追求し解決(合意形成・意思決定)する力、4 公共的な事柄に自ら参画しようとする意欲や態度。これらの主権者としての基盤となる資質・能力はNIEによって育むことができます。
 実践例を交えて御紹介したいと思います。
 まず、論理的思考力です。論理的思考力を育むのに新聞は適した教材と言えます。結論から先に、分かりやすく簡潔に、データなどで根拠を示して、事実と意見を区別する、これらロジカルシンキングの基本的な部分は全て新聞記事から学べます。新聞記事は大事な内容から先に書く逆三角形のスタイルでできており、見出しやリードなど、重要な内容を分かりやすく簡潔に伝えるための工夫が詰まっています。日常的に新聞を読むことで論理的思考力が育まれます。
 ここでNIEタイムの実践を御紹介したいと思います。
 NIEタイムは始業前の朝の時間などに継続して新聞を読む活動です。短い隙間の時間を活用して手軽に取り組めます。週1回程度継続して行うことで、活字に親しむとともに、読む力、書く力を伸ばすことができます。
 NIEタイムの基本的な活動が新聞スクラップです。新聞を読み、好きな記事を選んで切り抜き、シートに貼り付け、コメントを書く活動です。これだけですが、続けることで、児童・生徒の力は確実に伸びていきます。写真を見ていただくと分かるように、小学校低学年からもできる活動で、いろいろな教育者からも御評価をいただいております。
 スライドは小学5年生のスクラップです。
 この小学生は住民グループが廃校を利用して高齢者向けの弁当宅配サービスを始めたという記事を選び、「優しさでこのような活動をするのはとてもよいことだと思いました。また、廃校となった学校でこのようなことをするのは、場所を有効に使っていると思います。このような活動がいろいろな場所に広がってほしいです。自分の参加できるボランティアなどがあれば参加したいです。」というコメントを書いています。
 次のお子さんは、トキの野生復帰事業が順調に進み、デッドリストのランクが改善したという記事を選び、復帰事業が成功してよかったという感想を書いています。
 どちらもごく普通の子だそうですけれども、低学年から続けてきたことで、15分間あればこのような社会的な話題で感想が書けるようになります。
 ここでまた全国学力テストのデータですが、NIEタイムを実施している小学校10校の平均正答率が全国平均より6ポイントほど高かったという新聞協会の調査結果もあります。国語だけでなく、算数の点数も高いことについて、当協会の関口修司NIEコーディネーターは、「継続的に新聞を読むことで、論理的に文章を読み解く力がついたのだと思う。問いを正確に理解する力がついたことで、算数の正答率も上がったのだろう」と分析しています。
 次に、現実社会の課題を多面的、多角的に考察し、公正に判断する力を養う上でも、新聞は実力を発揮します。まず新聞で現実社会を知る、考える意味ですが、教科書に掲載されている内容だけではやはり現実社会の課題を知るには不十分ではないでしょうか。今子供たちの目の前で日々起きている問題について考えることも重要です。
 しかし、世の中には様々なメディアがあります。その中で、なぜ新聞なのか。理由の一つは信頼性の高さです。もちろん新聞も間違うことはあります。ただ、記者、デスク、整理記者、編集長など、複数の目で事実関係に誤りはないかチェックする体制をとっているメディアはそう多くはありません。学校教育の場で活用する上で、一定の信頼性は欠かせません。教育としての新聞の価値はここにあると言えますし、複数を採用することでより多角的な判断もできるかと思います。
 もう一つに、新聞の一覧性の高さが挙げられます。インターネットは目的の情報を探すのにたけたメディアですが、新聞は幅広い知識を効率よく得ることに適したメディアです。主権者として社会の諸課題を考える上では、考えの土台となる幅広い知識が必要になってきます。話題のニュースや興味があることばかりでなく、様々なニュースに触れることが重要です。新聞をめくることで意外な自分の関心事に気づかされることも多々あります。子供の世界を広げてくれるのが新聞なのです。
 多面的、多角的に考察する上でも新聞は力を発揮します。物事には様々な側面があり、立ち位置が違えば見え方も異なってくるということを、新聞の読み比べで学ぶこともできます。
 秋田市で行われたNIE全国大会の公開授業の実践を紹介したいと思います。高校1年生の国語科と地理・歴史科の授業で、日本とオーストラリアの経済連携協定、いわゆるEPAが大筋合意した際の北海道新聞と神戸新聞の社説を読み比べ、ディスカッションした授業です。EPAが畜産業の弱体化につながりかねないとする北海道新聞と、自由化を逆手にとった攻めの農業戦略を訴える神戸新聞の主張の違いを読み取った上で生徒が討議いたしました。
 最初はそれぞれの主張の納得できる点、問題点などを指摘し、どちらを支持するかという視点での意見交換でしたが、議論が進むと、農家の視点での主張か、消費者目線も入っているのかの違いがある。北海道は農産物の国内需要が大きくダメージも大きいが、神戸の牛肉は世界需要があるので前向きになるなどの意見が出され、同じ事柄でも取り上げる情報によって内容が変わる、地域や読む人が置かれている状況によって社説の判断が変わってくるなど、双方の立場を理解する方向に議論は発展していきました。
 授業を通して、それぞれの抱える背景を理解することの重要性、様々な情報を入手した上で批判的に考察することの大事さに生徒たちが気づいた実践だったと思っております。
 こうした姿勢は、新聞情報に限らず、ネット情報を見極める上でも重要な視点です。情報があふれる現代だからこそ、様々なメディアに接し、読み比べ、批判的な視点で情報を読み解くことが求められております。
 そのためにも、まずは信頼性の高い新聞を用い、異なる立場からの主張を読み比べることで、クリティカルシンキングを養っていくことが重要です。新聞には争点のある事柄について異なる主張を掲載し、読者に様々な視点を提供するオピニオン面などもあります。ネット社会だからこそ、新聞で学ぶことが重要なのです。
 課題を見出し、協働的に追求し解決する、社会に参画する意欲や態度を育むということについても御説明をさせていただきます。
 これからの社会を生きていく子供たちは、自ら問いを見つけ、解決に向けて主体的に協働して行動することが求められています。それには、社会に参画する意欲、態度が欠かせません。こうした資質・能力を育むことこそ、新聞を学習に活用する大きな意義があります。
 新聞は児童・生徒の学びと社会、地域の現実、課題をつなぐ存在であり、社会への興味、関心を喚起する力があります。自らの学びが社会や地域で起きている様々な出来事とつながっている、他人事ではない自分事なのだという切実感を伴ったとき、子供たちの目の色は変わります。
 例えば、小学6年の社会で地方自治を学びますが、教科書では自分たちの住む地域のことは取り上げられていません。そこで、新聞で探した地元の題材を取り上げます。それだけで子供たちの関心は高まります。題材は子供たちにとって身近なもので、争点があればなおさらです。
 スライドは、昨年東京都北区立の小学校で開かれた公開授業の写真です。写真のグループは幅広い人が住みやすいまちづくりについて議論し、外国人労働者に関する記事などをもとに考え、発表しました。外国人労働者の存在を身近に感じていたからこそ、この記事を選び、いかに共生していくかを考えています。まさに教科の学びを自分事として捉えた事例です。
 子供が変わるのは切実感だけではありません。人との出会いにも子供たちを変える力があります。そして、新聞が伝えているのは人です。新聞を通してよりよい社会を創造しようとしている人の熱を感じ、人を通して社会への希望を見つけてもらうことも新聞が果たし得る役割だと感じております。
 福井県の小学校6年の道徳の事例です。パリの同時多発テロで妻を亡くしたアントワーヌ・レリスさんが、SNSに、「君たちは最愛の人を奪った。でも、憎まない。」と投稿したという記事をもとに、レリスさんの発信に共感できるか、納得できないかを話し合いました。児童は許せない、憎しみは何も生まないなど、真剣に考え、思いを伝え合いました。友人との対話はもちろんですが、記事を通してレリスさんと、そして、自分とも対話し、自分たちが生きていく社会をよりよくするにはどうしたらよいかを真剣に考えた結果です。
 これからの時代は多様な人と協働し、合意形成する力が求められています。多様な意見を認め、異論にも耳を傾け、意見を交わしていく力を育む上でも、新聞は活用できる教材です。そして、これこそがグローバル化にも対応していく力を養うことになると思います。
 御覧いただいたように、子供の学びに向かう力を、新聞は育むことができます。主権者教育においても有効に活用してほしいと考えております。
 主権者教育に求められるポイントについても御説明させていただきたいと思います。
 これから主権者教育に求められるポイントを2点挙げたいと思います。
 一つ目は、義務教育段階からの主権者教育の推進です。主権者意識、社会参画意識の涵養は一朝一夕ではなりません。義務教育段階から社会と自分がつながっていることに気づかせ、主体的に関わっていく意識を育てることが必要なことは論をまちません。
 そこで、新聞です。これまで御紹介してきた事例でもわかるとおり、新聞は小学校から活用できます。中には幼児教育で実践している例もありますし、新聞を活用し、早い段階から自分と社会との接点を意識させていくことが重要になります。
 早く始めることも重要ですが、さらに重要なのは続けることです。小学校から教科横断的に、校種を超えて主権者教育を進めていくことが重要です。社会、道徳、国語といった各教科領域の学習を主権者教育の視点で再構成し、新聞でつなげていくことで、一貫した主権者教育が実現できるのではないでしょうか。そうした積み重ねが主権者教育にとって非常に重要なことだと考えております。
 また、主権者教育は高校を卒業して終わりではありません。18歳に比して19歳の投票率の低下が課題となっていますが、新聞界ではNIEだけではなく、NIB、Newspaper in Businessという活動もしております。前述した主権者に求められる資質・能力は、就職し、働いて行く上でも必要な力です。一方で、大学生や社会人も新聞を読まなくなっており、大学や企業の現場においても、新聞閲読が学生や社員の能力開発に役立つとして注目が集まっております。学校教育のその先を見据えて新聞教育を行っていくことが主権者教育の推進にもつながると考えています。
 2つ目のポイントとして、連携がございます。主権者教育は、ある教科だけ、ある校種だけでよいわけはありません。各教科、各校種で連携することが重要です。ほかにも学校図書館との連携、選挙管理委員会やNPOなど、外部機関との連携、地域や家庭との連携など、社会全体で取り組んでいくことが重要になります。
 ここで新聞社との連携事例を御紹介いたします。
 昨年8月に長野県知事選がありました。地元紙が早稲田大学マニフェスト研究所の考案した立候補者の政策や主張を比較しまとめたマニフェストスイッチを活用した記事を掲載し、新聞活用に取り組む教師の自主組織、長野県NIE研究会が記事を活用した授業と模擬投票を呼びかけ、県内の高校6校の約1,200人が参加しました。昨年は猛暑で、選挙戦の争点の一つに県立高校へのクーラー設置もあったことから、高校生の意識も高く、実際の投票率も高かったようです。研究会の会長が勤務する松本市の県立高校3年生の投票率は78%、市の高校3年生全体で54.4%、市の有権者全体だと38%で、18歳が市の全世代を通じても最も高い投票率だったと聞いております。
 次に、家庭との連携事例として、当協会の「いっしょに読もう!新聞コンクール」を御紹介させていただきます。
 新聞記事を読んで感想を書き、記事の内容について家族や友人と話し合い、意見を聞いて書き、話し合いを通じて自らの意見がどう変わったか、変わらなかったかを書くという記事作文、感想文コンクールです。学校で友人と話し合って応募される事例もありますが、夏休みの課題として取り組まれるケースが多く、両親や祖父母などと社会課題について新聞記事をもとに話し合う貴重な機会となっています。毎年優秀な作品が応募されてきますが、審査過程で感じるのは、家庭で親子で話し合うことで、同世代で話し合うよりも意見の広がりや深まりが見られることです。
 昨年の高校部門の最優秀受賞者を御紹介します。「飲んだ瞬間体重減」との見出しに驚いた高校1年生が記事を読み、景品表示法に違反する広告表現が増えていることを知り、企業側に非があるとの感想を持ちました。記事について母親と話し合ったところ、企業側だけを責めるのではなく、すぐに飛びついた自分にも心の隙があったことも反省すべきだという意見をもらいます。これで消費者側の責任について考えたこの生徒は、情報を批判的に考察することの重要性、情報発信者としての自覚にまで思いを至らせたという内容です。
 このように、人生経験の異なる世代と話すことで新たな気づきが生まれてくるケースは多々あります。争点のある政治的な課題について話し合い、最も身近な親子間でも意見が分かれることに気づき、理由を話し合ったという作品も寄せられています。
 新聞というメディアを媒介させることによって、家庭でも主権者教育が可能になります。新聞は学校と社会、学校と地域、学校と家庭をつなぐ存在になり得ます。主権者教育を推進するための環境整備として、学校にも、家庭にも、新聞のある環境づくりが必要なのではないかと存じます。
 最後に、主権者教育推進の鍵は日常化だということを御説明させていただければと思います。
 今後の主権者教育のポイントを2点申し上げました。1点は幼少期から大人になっても主権者教育が必要だという時間軸のお話、2点目は、学校だけではなく、様々な立場の人たちが連携して主権者を育てる必要があるという環境のお話です。いつでも、どこででも、日常的な主権者教育の実現が推進の鍵です。
 そして、その解が新聞にあると我々は考えています。幼児期から新聞に親しむ活動を通して、読む楽しさや知る喜びを実感し、新聞を読むことが生活の一部となることで、生涯にわたって豊かに学び続ける習慣が身につきます。新聞を軸にした主権者教育を推進することで、生涯にわたって社会に関心を持ち、自ら問いを見つけ、学び続ける人間を我々はこれからも育てていきたいと考えております。
 御清聴ありがとうございました。
【篠原座長】 ありがとうございました。
 それでは、中村委員長と町田委員長のいずれの御発表に対してでも結構ですので、御質問、または、御発表を受けての自らの御意見など、御自由に御発言をいただきたいと思います。
 前回同様、また御発言の際には、恐縮ですけれども、名札を机上に立てていただく、そして、御発言の後には名札を元に戻していただくという動作をやっていただければ幸いです。
 それでは、いかがでしょうか。どうぞ、皆さん、どなたからでも。
 どうぞ、小玉委員。
【小玉委員】 小玉です。どうもありがとうございました。NIEの方に質問なんですけれども、経済同友会の方の御発表の中でも、政治的中立性の確保ということが論点として出されていて、これは非常に重要な御指摘だと思いまして、それについて、このNIEの取組との関係でちょっと伺えればと思ったことがあります。先ほど新聞提供事業のところで、大体1校につき平均6.5紙提供させていただいているというお話がありました。東京都の都立学校に対して東京都がやはり6紙の新聞を学校図書館に配置するのに必要な予算を措置しているということが報道されて話題になったことがあります。それは主権者教育という点で重要なことだと思うんですけれども、都立高校の先生方とお話をすると、逆に6紙全部取り上げないと中立性が確保されないということになり、現場の先生方が萎縮するみたいなこともちょっと伺っているところです。
 それから、文科省の調査ですと、実際の高等学校の学校図書館への新聞配置というのは大体2.8紙ということが調査で出ておりますので、実際には恐らく6紙全部読み比べるということを全ての学校で行うことはかなり難しいんじゃないかというふうに思います。先ほどの実践例でも、2紙で読み比べたという。
【町田日本新聞協会NIE委員会委員長】 神戸新聞と北海道新聞ですね。
【小玉委員】 はい、神戸新聞と北海道新聞を読み比べたという話があったと思うんですね。私も中立性の確保というのは、結局万遍なく全部見ることが中立性なのではなくて、まさに論争的な問題において何が論点になっているかということを深く知ることが本当の意味での中立性だと思うので、それで言うと、万遍なく見ることも一つの方法かもしれないけれども、典型的な2つを比べることで、より深い問題の本質に迫ることができるということを考えれば、2つ比べるだけでも十分なんじゃないかというふうに思うんですけれども、そのあたりぜひ新聞協会さんのほうでも、ステートメントを出していただければ、現場の先生方もより萎縮しないで、2紙でいいんだなという形で取り組むことができるんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。
【篠原座長】 どうぞお答えください。
【町田日本新聞協会NIE委員会委員長】 御要望の趣旨はよく分かりましたので、NIE委員会として対応できるか、戻りまして相談させていただければと思います。
 まさにおっしゃるとおり、形式的に6紙なり、10紙なりというふうに読む新聞の数にばかりこだわることが、必ずしも主権者教育に資するとは、私自身は個人的には考えておりません。先ほどもお話がありましたように、現実的対応として最低限複数紙を読むことで、それぞれの新聞の視点が違うということを子供たちが発見し、世の中に様々な角度からの考え方があるということを、日常的にグループディスカッションなどを通じて学ぶことが、大切だと思います。現実社会には多くの意見があることを知り、それを乗り越えて意見をまとめていくことが授業にも生かされれば、6紙といった数にこだわらなくても、複数の視点を持つということにもつながると思います。それをどういう形で、我々の委員会で発表できるかはまた別の話ではございますが、御主旨はよく分かりますし、個人的には賛同したいと思います。
【篠原座長】 ほかにいらっしゃいますか。
 小原委員、どうぞ。
【小原委員】 経済同友会への質問なんですけれども、年齢が低いほど新聞を読まないということになっていますけれども、今読んでいる50代、60代の人の割合も増えているのか減っているのか、そこはもう一度調べていく必要があると思います。と同時に、若い世代にとってメディアはマルチになってきていますので、新聞を読まないからといって若い人たちが社会の情報から離れているということにはなっていないと思います。ですから、主権者教育を行っていく上で、その課題、どういう媒体を使って情報を得て行動しているかというところまで踏み込む必要があると私は考えております。
 それともう一つ、学校でということですけれども、小学校、中学校、高等学校、大体週の学習時間というのは限られています。ですから、正課でやることなのか、それとも、正課外でやるのか、二つに分けた方が今後説得力が出てくると思います。特に免許を持っていない人が関わってくるということになると、それは正課外で行うことは非常に難しいことになりますので、そこははっきりと分けていただきたい気がします。
 それから、小学校からという、それは趣旨は分かりますが、現状小学校はもう手一杯なことが課せられています。最近になって、道徳、それから、英語、プログラミングというように、増えてきているにもかかわらず学習時間数は全く増えていない。ですから、ここに主権者教育というものが入ってくると、もう現場の方は混乱しか起きてこないということになりますので、先ほど言った、正課と正課外との区分けというものを述べていっていただければと思います。
 それから、新聞協会の方ですけれども、なぜ新聞が読まれなくなってきたのかという、その反省が新聞社にないのではないかという気がします。信頼性があると言いますけれども、信頼性があるかないかというのを一番よく知っているのは親ではないでしょうか。現に新聞を読まなくなってきた、取らなくなってきたというのは、子供が読まなくなってきたのではなく、親が読まなくなった。それはなぜか。新聞は騒ぎ立てるけれども、その後のフォローアップがないとか、あるいは、何か間違ったときの訂正がえらい小さい。そういうところから、徐々に不信感というのが広がってきているのではないでしょうか。
 確かに新聞を読まない子というのは語学力が低くなるというのは、これはわかっていることですけれども、ただ、NIEがどうも現場からするとうさんくさいんですね。ある大手の新聞社が新聞を提供してくれました。子供たちは読んでいたのですけれども、あるとき学校宛てに請求書が来たのです。このNIEというのはいいんですけれども、何となく新聞社の販売促進に使われているのではないかという不信感が学校の方にもあるのも事実です。今後、そういう不信感をどう解消していくかというのが、新聞協会の課題ではないかなと考えております。新聞に対する批判というものも出ています。ですから、そこはきちんと捉えた上でこういった形で学校教育に協力をするという趣旨はわかりますが、手段が何となく裏がありそうな誤解を与えていることもよく認識しておいていただければと感じております。
【篠原座長】 では、まず中村委員長からお答え願えますか。
【中村経済同友会政治改革委員会委員長】 まさに小原委員がおっしゃったとおり、小学校の現場サイドでは、私も小学校の先生が友達にいるので、もうたまんないという悲鳴はちょっと聞こえてくるのですけれども、ですから、正課、非正課という部分があるのですけれども、これは全教科にわたって、教師の皆さん方にやはりその意識をつけてほしいなと。だから、今まではやはり受験主体で押し込み教育をやっていた部分があるのですけれども、やはり児童の各々の意見というものを尊重するというような、マインドを変えていくという、教え導くから議論をして意見を合成していくというような、こういう仕組みをいろいろなことで、全教科を通じてやれればいいなという部分があります。
 それともう一つ、我々経済同友会は「合校」という言葉を使わせていただいたのですけれども、出張授業みたいな形で、経済人がどういうことで各々学校に行って、いろいろな業種の方々に行っていただいて、それなりの話をして、実態の世の中というのを知っていただくと。それがまた先生たちにもかなり刺激があるということで、今後とも続けていこうということでやっておりまして、正課、非正課という部分で、やはり今の新聞協会さんの部分では、新聞はそうでもないのですけれども、テレビの方を見ていますと、何というんですかね、もうこのニュースは嫌といってチャンネルを変えても、変えても、変えても、全部同じニュースをやっていると。ある面じゃ国民を洗脳しているようなことになりかねないなという、その恐怖感もあるものですから、やはりそういったときに政治リテラシーということをしっかり身につけておかないと、変なふうな形で洗脳してしまうということになる可能性があるなという、ちょっと感じがしております。
 以上でございます。
【篠原座長】 町田委員長どうぞ。
【町田日本新聞協会NIE委員会委員長】 今様々な御意見を頂いたことにつきましては、NIE委員会でも共有させていただきたいと思います。NIEについては、私どもは営業的な観点ではなくて、あくまでも子供たちが新聞に触れることが様々なリテラシーを育てていく上で重要だという観点から全国で取り組んでいるわけでございます。
 ただ、指定校などになり、無償配布がある一方で、一部で有料化をめぐるトラブルが起こっているということがもしあるとすれば、ちょっとフライング気味なことがあったのかなとは思いますが、全体としてのNIE活動の趣旨については、そこは誤解がないようにしていただければと思います。
 ただ、おっしゃるとおり、最終的にはやはり新聞を読んでいただきたいという気持ちがあることも事実でございまして、ただそれは、先ほど申し上げたような、教育だけに限らずですけれども、新聞は役に立つということを我々は考えてやっているということでございます。
 それから、1点だけ、先ほどの「いっしょに読もう!新聞コンクール」の中で、高校生の事例をお話ししましたけれども、例えば、今回の小学校の最優秀に輝いた子供は、ペットを飼いたいとずっと思っていて、ペット工場の記事を読んで、それを親と話し、おじいちゃん、おばあちゃん、あるいは、親戚のおじさんと話すことで、ペットを自分はただ飼いたいだけだったけれども、ペットというものはどういう形で社会の中で今問題となっているのか、ペットを飼うのには権利だけでなく義務も生じるなど、様々なことを考えたということが、受賞につながりました。
 そういう意味では、授業で多くの時間を割かなくても、去年のNIE全国大会で講師の大学の先生がおっしゃっていましたけれども、朝の10分とか15分を使うだけでも、子供たちが低年齢からいろいろな社会のことを学び、深く考えることができるようになるとのことでした。そして、子供たち同士で対話する時間があれば、さらに考えを深めていく力が養えるというお話もでておりました。ぜひそこはトラブルだけで判断をしていただくのではなく新聞のよさを見つめていただきながら、御一緒によりよい社会を目指していけたらと思っております。
【篠原座長】 よろしいですか。
【小原委員】 いいです。最後に1点ですけれども、これはいわゆる学校現場で当然中心になるのは教員ですので、このあり方を教員養成をやっている側、それから、現職の教員を対象としている教職員支援センター(NITS)にも呼びかける必要があると思います。現場にこういったものをやれやれと言っても、実際どのように進めていいいかわからない。また、新聞活用にしても、どのようにして新聞の記事を使うかという問題もあります。むしろ現場に直接話をかけるよりも、今後こういった形で教育を進めていくための養成に関して、大学に呼びかけ、これをもう少し積極的に行っていただければと思います。よろしくお願いいたします。
【中村経済同友会政治改革委員会委員長】 今のは大変重要なことで、冒頭お話しした4月の提言に向けて、検討している中では、その辺も触れさせていただいているんで、ぜひ一読をしていただければと思っております。
【篠原座長】 では、植草委員。
【植草委員】 中村委員長さん、町田委員長さん、本当にありがとうございました。私の方から両方の委員長さんにお願いという形になるかと思います。先ほど経済同友会の方でお話しいただいた、様々な取組をやってらっしゃる、私も初めてお聞きしたりするというのもありまして、本当にありがたいなと思っています。実際にいろいろな場面で見ると、様々な機関がこういう機会でヒアリング等をやっていただくと、本当に学校の中にもう入り込んできて、やっていただいています。
 ただ、この会議でも何回か、過去の会議でも話ししているんですけれども、やはり校種を超えて見えないんですね。高校現場からいると、小・中それぞれで多分他機関がやっている内容というのはあまり見えていない。これはもちろん高校が努力不足、さらにそれぞれの校種の努力不足もあるんでしょうけれども、もし可能であれば、外部の機関の方から、ぜひ校種を超えたという枠組み、こういうのをどんどんやっていただけると本当にありがたいな。例えば、教育フォーラム、先ほどの経済同友会さんの方の資料の13ページ目、この教育フォーラムについても、中学校の先生、生徒、保護者というふうに対象となっていて、非常にそれよろしいかなというふうに思うんですけれども、ここに、例えば、小学校が少し入る、高校が入るとなると、また少し面白い試みになるんじゃないかなというような感じがします。なかなか規模の問題等があるかと思うんですけれども、校種を超えたというところ、その辺がすごくあったらいいなという感じがします。これが1点です。
 あと、新聞協会さんの方ですけれども、今NIE、非常に様々な学校で取組、小・中・高、やはり同じように新聞協会さんの方に入っていただいてこうやっていただいている。すごくいいなという感じがします。ただ、先ほど小玉先生からありましたように、政治的中立性というとどうしても教員は6紙来れば6紙比べなきゃいけないんじゃないか、そうすると、決まった部分の中で6紙詰め込んだりとか、または、その比較、検討という中ですごく難しい部分があります。ただ、先ほど小玉先生からありました、やはり比較ということをきちんとやっていけばという話があったので、すごく僕は参考になりました。
 あと、実はこれ可能なのかどうかわからないんですが、以前の学校で、新聞記者さんがあるテレビのインタビューのようなものを見た上で、新聞記者の視点でどうこれを記事にまとめるかということを講演していただいた。これ非常に生徒はよかったんですね。ですから、新聞としての最終形の成果物の新聞を比べるというのも大事なんだけれども、記者さんがどういう形でそれを記事にまとめているか、ここにもやはり政治的な中立性とか、その辺の問題はあるかとは思うんですけれども、これは非常に役に立つかなという感じがします。特にやはりどうしても国語に対して苦手意識を持っているような子供たちも、非常にその記者の目線という形、子供たちが、ああ、そうなのかというようなところもあったという経験がありますので、もしそういったものの御検討、もしくは、もしもうそれをやっていますよということであれば、ちょっとお話頂ければと思います。
 以上です。
【篠原座長】 では中村さんの方から。
【中村経済同友会政治改革委員会委員長】 植草さんからの意見というのは大事なことだと思います。今年度は今週の土曜日にやってもう満杯なので、来年度に貴重な意見として検討させていただきたいと思います。
【篠原座長】 どうぞ、町田さん。
【町田日本新聞協会NIE委員会委員長】 今のお話も大変示唆に富んでいてありがとうございました。
 まず、出前授業というのは実は各社ともやっていまして、その内容は、もちろん新聞の読み解き方というのもあれば、まさに記者の視点でどういうふうに記事化していくかというものもあり、様々なニーズにお応えする形で実施しております。先生の学校で「新聞の読み解き」であれ、文章構成力であれ、ご希望を言っていただければ、それに合わせた形での出前授業も可能かと思います。
 また、子供記者というのもあります。これは各地方紙も含めてですけれども、子供新聞や、子供対象の企画紙面などを持っているところでは、例えば、お子さんに新聞記者を経験していただき、その体験を通じて、取材能力や文章力を育成する取り組みも行っています。また、その記者体験を多くの子供たちにも広く知っていただくことで、リテラシーをさらに磨いてもらうというようなことも併せてやっております。
【植草委員】 ありがとうございます。
【篠原座長】 では、田村さん。
【田村座長代理】 お二人の委員長の先生の御活動に心から敬意を表したいというふうに思っております。
 これは、学校というのはなかなか実は20年、30年後に働く人たち、活躍する人たちの教育をしているんですけれども、仕組みとしては非常に保守的になっちゃうんですね。内向きになってしまう傾向があります。ですから、なかなか、今時代が大きく変化しているときには対応し切れない部分がどうしても出てきますので、ぜひ今後も御活躍をいただきたいと思うんですが、今心配している点として、一つだけは申し上げておかなきゃいけないことがあります。
 それは、既に質問の中にも出ていましたけれども、膨大な量の情報を整理して、新聞なり、テレビなりに発表する際、実はデジタルが非常に進んでいるものですから、どの項目にどれぐらい興味があるかというのは瞬時にわかっちゃうんですね。そうすると、それを中心にして番組を編成するわけです。だから、先ほど中村委員長もおっしゃったように、どのテレビを見ても同じ項目を放送しているというのは、これは人気があるものを記事にすればみんな読むからそういうふうにしているという仕組みですね。何とNHKもそういうことをやっているというふうに聞いて、もう愕然としたんですけれども、NIEの活動も、いろいろな種類の新聞が関わっているので意味があるというふうに思うんですが、これも下手をすると、デジタルの発達で、もう同じような形になりかねない。何といっても、消費者は神様だから、みんなそれを一番気にするわけですね。やはりその辺のところをどう判断するか。その判断が正しいかどうか、していいのかどうかという問題もあるし、難しいんです。
 私の感じでは、要するに、この手の仕事というの、発信を考えると、要するに、セルフですね、個人的なニュースというのが一番関心が高いわけですね。ですから、アメリカなどで地方紙を見てみると、大体近所の人の結婚とか、死亡とか、病気になったというのが記事の主旨になっているんですね。それで新聞が発達していったんだろうというふうに思うので、ですから、個人のニュースというのが基本にあるというのがスタートだと思うんですが、その個人というと、日本の場合はまさにプライベートセルフというか、個人、自分のことという、その人のことというのが個人だと思っちゃうんですね。実は今の時代は個人のかなりの部分がパブリックセルフなんですね。つまり、個人個人の力が強くなってきたんで、1人の考え方、行動がものすごく大きな影響を及ぼすという時代になっているということで、パブリックセルフをきちんと報道して、それに関わるいろいろな出来事をいろいろなマスコミが伝えていくと。
 ということになると、僕は新聞は、自分の意見があるならそれをはっきり出した方がいいというふうに思います。それは選ぶ方が読めばいいわけであって、ですから、同友会さんでおやりになるときも、御自分の考えを遠慮しないで書くと、それを読ませてもらおうという形にしていただいた方が、むしろ聞く方は納得すると思うんですね。
 先ほど記者の人が記事を書くためにこういうことをやっているよということを現場で生徒に話ししたら、すごい評判がよかったというのはまさにそれだと思うんですね。その人がプライベートセルフとパブリックセルフをどう区分けしてどういうふうに扱っているかということが記事の中身になりますから、それこそが非常に感激するというか、感動するというか、必要なニュースになるんだろうというふうに思うんです。
 ですから、その辺のところはあまり遠慮されずに、ぜひどんどんやっていただきたいと思いますが、何しろデジタルが発達しちゃったものですから、全部同じような方向に行く。ポピュリズムというのはもうそのことなんだろうと思うんですね。ポピュリズムというのは、本来みんなの意見を聞いて行動するんですから正しいんです、いいことなんだけれども、結果はよくなくなるのは、結局パブリックセルフとプライベートセルフが区分けできていない。何となくそのときの感情でやっちゃっているというのが、多数意見になると全体がそうなっちゃうという、まずいことが起きてしまうということなんだろうと思うので、その辺ははっきり意識して、むしろ力強く発言していただいた方がいいという気がします。
 そういう意味で言えば、NIEの活動というのは、中でそういう議論をされているんでしょうかね。その辺のところをもしお伺いできればと思っています。意見が明らかに違うわけですからね、新聞と。
【篠原座長】 お二方へのご質問ですね。
【田村座長代理】 ええ、両方、御意見があれば、御感想があれば。
【篠原座長】 それでは中村さん、どうぞ。
【中村経済同友会政治改革委員会委員長】 おっしゃったように、非常に膨大な情報の中から個人が何を選ぶのかというのが、非常にやはり我々も、先ほどちょっとデータも出させていただいて、その年代別に何を重要視しているかというところから、将来的にはデジタル化されたメディアをうまく利用した中で、逆にプラスにそれを使いたい、使うべきだねということをちょっと言わせていただいているので、これを全部負と思わないで、プラスのこともあるよねというようなことで考えております。
 また、アメリカの大統領選挙等で大きな影響力を持ったと指摘されているデジタル化に関する勉強は今後ともやはりこの主権者教育の中でも入れていくべきだろうというふうに思っております。
 それと、ローカルにおいて流すニュースの内容と全国版で流すニュースの内容については、ニュースの重さなどを踏まえ、取り扱い方を考えるべきと思います。
 それから、田村先生おっしゃった、我々も初めて、2045年という、あるべき姿ということで、約30年の歳月を代表幹事からいただいたものですから、初めてこの主権者教育というか、教育について論じようという話になったので、それまで、政党問題だとか、政治資金の問題ですとかということで、いろいろ提言書を出してきたのですけれども、なかなか届かないと。ただ、今回は30年という時間軸をいただいたので、これはもう教育しかないねと。この政治的リテラシーを上げるためにどうしていくのだというようなことに取り組むことができたということで、4月にその提言書を出させていただこうかなというふうに思っております。
【篠原座長】 ありがとうございます。
 どうぞ。
【町田日本新聞協会NIE委員会委員長】 先ほどちょっと御説明しましたように、新聞社というのはいろいろな意見を提供するとともに、その議論の場を提供するという役割も重要です。そういう意味で言うと、私ども(朝日新聞)の紙面の例で恐縮ですけれども、耕論やオピニオン面などを通じて、いろいろなぶつかり合う意見や、深堀りの意見を掲載していて、この方向性も重要かなと思っています。
 と同時に、先生がおっしゃるように、多分これは129社の加盟社全部に確認したわけではございませんけれども、恐らく今のグローバル化、そして、膨大な量の情報が流れる中で、いかに情報リテラシーを磨いて、その中から適正な情報を収集していくか。フェイクニュースなどに踊らされないようにする所作を身につけていくことが重要だということも共通認識として新聞協会は持っていると思います。
 そういう中で、例えば、私ども(朝日新聞)では、署名記事を増やすことで一人一人の記者が思っていることを一人一人の顔の見える形で発信していくということが増えています。まさにいろいろな議論を明確に出していくということです。ただし、それぞれの意見はイコール新聞社ではなくて、様々な記者が自らの名前で意見を書いていくことで、全体としては多くの意見があるということを見てもらうということにもつながっているのではないかと思っております。
 そしてまた、主権者教育という観点から申し上げますと、先ほど申し上げた一つ一つの切り抜き作業自体が重要なのではなく、その一つ一つを短時間でも続けることで、毎日毎日多くの社会的な問題に気づき、そこから課題を見出し、そこで一旦少しでも考えることで自分の意見を持っていく。それを、例えばお友達や親御さん、あるいは、おじいちゃん、おばあちゃんとお話をすることで、違う意見も含めて、自分なりに考えを磨いていく。そういう作業を続けていくことが大切です。その様な習慣を長い期間続けることによって初めて投票行動が意味を持った形でなされていくのだと思います。その事も含めて、投票することや1票の大事さなども認識していくことにつながっていくのではないでしょうか。そういう中で、新聞が、もちろん自らを正しながらですけれども、お役に立つ場面が多くあるのではないかということで、今私どもとしてはNIE活動に取り組んでいる次第でございます。
【篠原座長】 では次は、寺本委員。
【寺本委員】 今日もいろいろと、経済同友会の方々、NIEの方々、本当に貴重なお話を聞かせていただいてありがとうございます。
 まず、今日お話をいただいた経済同友会の活動、本当に長い時間軸を考えて、やはり教育だろうというふうに考えていただいたのはありがたいことです。私たちPTAという社会教育関係団体ですが、まさにみなさんがされていること自体が社会教育だと思うんです。学校教育以外の組織的な活動、教育活動が社会教育ですから、この部分に目を向けられて活動を進められているというところについては非常にありがたいと思います。
 同じ社会教育という観点で言うと、今度は学校教育だけでできないから周りも巻き込んでやろうというのがこの主権者教育なんですね。主権者教育をやっていく上で、じゃあ、学校以外というと、ここには社会、家庭と書いてありますが、要は、地域社会を構成しているのは、もちろん家庭も入っていますし、我々PTA等の団体も入っているんですが、そのそれぞれの団体を構成している方々というのは、やはり国民であり、、民間の社員かもしれません、公務員かもしれません、様々な立場を経験されてリタイアされた方かもしれません。
 経済同友会さんの立場で言うと、企業の経営者の方々で、当然社員の方々がお見えです。そういった皆さんが社会教育の場で活躍される重要なお一人お一人になっていくと思います。企業の中での社印教育だけではなくて、さらに社会に出て、地元の地域社会に帰って活動をどんどん進めていくということも、この主権者教育を進めていく上での大きなベースになっていくと思うんです。
 例えば、PTAをやってきたかどうかとか、そういう様々な経験を実際に実践してきたかどうかということも、学んでいく上でのベースに非常に強く影響されていくと思います。学校を出てそのまま会社に入って、そういった企業の中だけしか知らないという立場よりも、様々広く知っていた人の方が、この社会教育を推進していく上で、主権者教育を推進していく上で大変重要なことだと思います。そういった点でこの主権者教育の推進に当たってという観点や社会教育という観点から、地域でもっと頑張って活躍していこうということなど今後のお考えなどもありましたら教えていただければと思います。
 一つの具体的な例で言うと、明太子で有名なふくやさん、こちらは、今会長さんになられましたが、従業員の方々にどんどんとPTAとか、地域の活動だとか、やってこいということで、それは有給休暇ではなくて、もう社員としてその時間を割いて行ってこいということで、どんどん進めていたんです。その結果どうなったかというと、様々な知識、経験、知見を得た社員が社内にフィードバックをしてくれて、社内が非常にいい状態になり、また、業績もよくなっていったというお話をされています。
 実はその活動自体が社会教育なんですよと言うと、初めてその会長さんも、そうだったのか、これが社会教育だったのか、これでよかったんだということにお気づきになったということもあるものですから、こういったことも含めて、今後どういうふうに進めていかれるのかという点をお願いしたいということがあります。
 それから、マスメディアに関しては、先ほどNIEさんが各紙とありましたが、東京都はたまたまお金を出していただいて、各学校に6紙入っていますけれども、そうじゃない地方には実際は入っていないわけですね。であるならば、企業のCSR活動として学校にそれぞれの加盟社が無償で配布をしてというベースをまずつくっていただくのも大変ありがたいことだろうと思っています。
 それから、今度は、先ほど新聞からそうではないマスメディアのほうにどんどんと移っているという中で言うと、今度はまた同友会さんになるかもしれませんが、スポンサー側としてのコントロールができるんじゃないかというふうに思うものですから、そこもちょっと頭の中に置いていただいて、スポンサーとしてはこういうことを報道してほしいということがあってもいいんじゃないかというふうに思っています。
【篠原座長】 時間が押していますので、松川委員にも御発言いただいて、まとめてお答えをいただきたいと思います。
【松川委員】 時間が押しているようですので、1点だけ質問させてください。NIEの活動ですけれども、大変熱心に、私ども地元岐阜ですけれども、やっていただいております。ただ、学校でやることには限界があるわけですので、学校でやったことがその後子供たちの学びにどう生きていくかということですが、残念ながら、教員も含めて、40代よりも若い層で、御家庭で新聞をとってらっしゃらないというお家が増えてきているということは、中村様の御発表の中の資料でも明らかなことだと思うんですね。
 新聞社も電子版を出してらっしゃいますよね。有料の電子版の購読者というのもどのくらいいるのかということと、それから、フリーのニュースもネット上にたくさんあります。各種新聞社がやっているウェブニュースを見ることができます。ペーパーのものと、それから、デジタルのニュースとの違い、双方にメリット、デメリットがあると思います。ネット上のものはやはり速報性というものがありますし。
 紙の新聞のよさというのは私も十分理解しておりますけれども、こういう時代になってきている以上、デジタルニュースというのを皆さんが見る傾向はこれからも高まると思われます。そのあたりの見方ということも併せて御研究いただくというようなことはされているんでしょうか。紙のよさはもちろんあるんですけれども、デジタルのよさももちろんあって、デジタルニュースの見方ということについても、やはり紙のものと比べて教育していくようなことが私は今後必要ではないかというふうに思っております。
 それから、先ほどほかの委員の方もおっしゃいましたけれども、テレビも含めて、新聞はページで紙面を区切っていますので、社会面だとか何とかと分かれていますが、今はテレビのニュースも、ネットも、何か芸能もスポーツも政治もパラレルに提示されてきます。そういうものに慣れていくということと、それから、自分で教育欄とか、文化面とかというのを選んで見ていくというのとは違うと思いますが、そういうことも含めて、トータルでのニュース媒体をどう使うかということに切り込んでいかないと、私はNIEだけでは限界があるのではないかと思っております。
 以上です。
【篠原座長】 よろしいですか。
 お二方よりお願いします。中村さんの方から先に。
【中村経済同友会政治改革委員会委員長】 寺本さんから大変貴重な御意見を頂戴したと思っています。我々も、まさに今で言う従業員というのは主権者教育を受けていないというか、何となくある程度制限された中でしか、20歳になったら突然選挙行けよみたいな話ぐらいしかあまり受けていないみたいな世代でございますので、そういう面では、従業員に対して自分の主権者たる勉強、研鑽をしなさいというようなことの中では、今言われた地域とのつながりですとか、PTAの参加ですとかというのは非常にいいことだと思いますので、そういうことも含めて持ち帰って検討していきたいというふうに思っております。ありがとうございます。
【篠原座長】 町田さん、どうぞ。
【町田日本新聞協会NIE委員会委員長】 いろいろな御指摘、ありがとうございました。特にデジタルの読み方等について、これからやはり考えていく必要があるというのはその通りかと思います。
 今、新聞各社は電子版にも力を入れており、有料での会員数も増えています。
 その上で、いろいろ御指摘がございましたが、デジタルの特徴としては、自分の好みの記事、あるいは、人気のある記事が優先的に表示される機能などもあります。また、速報性が非常に重視されていて、紙とはそこに大きな違いがあると思います。
 新聞社としては、やはり一次情報だけではなくて、深く読み解くための様々な議論の場を提供したり、あるいは解説記事を書くことで、一次ニュースだけでは分からない、そのニュースの背景を知らせることを重視しています。紙とデジタルと両方出している新聞社では、そういう紙の媒体としての特性も十分に意識しながら、組み合わせつつ報道しています。当然ながら電子版のスマホ対応もしています。あるいは、スクラップ機能をつくるなど工夫しており、各新聞社のそれぞれのデジタル戦略の中で進めているという状況でございます。
 これはちょっと個人的な考えになるかもしれませんが、主権者教育で一番大事なのは、一人一人の子供たちが、社会が自動的に進行しているわけではなく、自分たち一人一人が自ら考え、自分たちの手でこの社会を作っていくという当事者意識を持つことだと思います。そのためには、やはり日々の楽しいニュース、人気のあるニュースだけではなくて、様々な社会の問題がわかるようなニュースを、自分たちなりに情報を収集し、多角的な視点からそれを咀嚼して考えていくことが必要です。この社会を当事者意識を持って生きていくということが重要だと思います。そういう意味で、新聞協会としては多角的視点に資する形での教育に、少しでもお役に立っていきたいと考えている次第です。
【篠原座長】 ありがとうございます。
 最後に、私から一言よろしいですか。 今日お二方の御発表を聞きまして、我が意を得たりという部分もかなりありました。例えば、義務教育段階からやはりしっかりと教育をしていかなければいけないということです。主権者教育についてね、そういう点はこのお二人とも共通されていたように思いますし、それから、やはり政治教育ということを最初にうたうんじゃなくて、この経済同友会の紙にも最初に書いていますように、社会の出来事を自ら考え判断し、主体的に行動する主権者を育てると。教育基本法もほぼ同じようなことを書いているんですね。このため、あくまで社会の動きに子供のころからどう関心を持たせ、そして、自分が社会の形成にどう参画して寄与していくのか、こういう態度を養うというのが僕は主権者教育の肝だと思っています。あくまで選挙というのは出口だと思いますので、もし中村さんのところで、4月におまとめになることがあるのでしたら、そうした位置づけをしっかりしてもらいたいなというのが要望として一つあります。
 それから、もう一つは、最後は結局政治的中立性をどう担保するかという問題にかかるんですね。僕らもドイツやイギリスの例も見てきたんですけれども、今の段階ではまだ中身は言えないんだと思うんですけれども、そこをぜひ我々に資するような提言にしていただきたいなという、これも要望でございます。どういうふうに担保していくかということですね。
 それから、町田さんのところについては、やはり家庭でのNIEといいますか、そういう取組、先ほど御紹介もあったんですけれども、学校での取組の方が非常に目立ちますので、家庭でのNIEというのにもっともっと力を入れていただきたいなという感じがします。
 それから、松川委員などからも出ましたけれども、やはりデジタルメディアとの共存、すみ分けですね。やはり新聞というのは主権者教育を行う上で大きなツールだと思っています。これはもう間違いない事実だと思いますけれども、しかし、これだけメディアが多様化してきますと、特に若い人たちはデジタルメディアの方からまず入っていくという傾向が非常に強く、更にこれからも強くなると思うので、そことのすみ分け、あるいは、コラボ、協働というか、そうしたこともぜひ考えていっていただきたいと思います。
 主権者教育に限らず、教育というのは学校と家庭のコラボですから、そこに地域もあります。だから、そういう面でなかなか正解はないんですけれども、やはりそれぞれで考えて、それを提言し、みんなで議論していくということでこの主権者教育の問題、一歩一歩進めていければなと思っていますので、要望も含めてでございますが、よろしくお願いします。特にお答えなくて結構ですが、もし何かあればお願いします。
【中村経済同友会政治改革委員会委員長】 本当に今座長の言われたとおり我々も感じておりますので、しっかりやっていきたいなと。それで、選挙の投票率ばかり追いかけているんじゃ意味がないので、本当にしっかりとした判断力を持つ子供たちを、教育ですから、成果は30年、40年、50年後に出るということを期待して、一歩一歩進めていきたいと思っております。
【篠原座長】 未来への投資ですからね。
【中村経済同友会政治改革委員会委員長】 はい、以上でございます。
【篠原座長】 町田さんはよろしいですか、何か一言ありますか。
【町田日本新聞協会NIE委員会委員長】 いろいろ御指摘ありがとうございました。引き続き応援をよろしくお願いいたします。
【篠原座長】 あとはよろしいですか。発言されていない方はいませんよね。では、どうもありがとうございました。貴重なお話をいろいろ伺わせていただきました。
 本日予定していた議題はここまででございます。
 最後の次回の予定などについて、事務局から説明をお願いします。
【大内学校教育官】 どうもありがとうございました。
 次回でございますけれども、第6回の日程につきましては、来年度の実施とさせていただきたいというふうに存じます。つきましては、別途日程の方調整をさせていただきますので、また御確認いただければと思います。
 なお、本日につきましても、お気づきの点などございましたら、また追ってメール等によりまして御意見等をお寄せいただければというふうに思っております。よろしくお願いいたします。
 以上でございます。
【篠原座長】 それでは、本日はこれで閉会といたします。委員の皆様、あるいは、中村さん、町田さん、お忙しい中ありがとうございました。

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