(資料1)主権者教育推進会議(第7回まで)における主な意見等

【主権者意識の涵養】

・新学習指導要領に示されたことを,どのように具現化するのかが課題。特に小・中学校において政治や経済が自分の生活に身近に感じられるような指導が必要である。
・生徒は,選挙の大切さは分かるが,自分の生活に影響するかを認識するのは難しい。そこをどうするかが課題である。
・新しい必履修科目である「公共」で育成しようとしている,“パブリック・マインド”をどう育てていくかが重要である。
・人口減を乗り越えるのは今の中・高校生である。そのスタートは,変えるのは自分という意識をもつことである。
・最終的に自分の意見を持つことが主権者教育では重要。社会への関心を持つことが,そのための第1歩である。
・18歳から投票立会人ができる仕組みがある地域もある。若い人を客体から主体にすることが重要。
・投票所において高校生に運営を手助けしてもらう取組はとても効果があり,投票に前向きになるという成果がある。
・投票の結果のビジョンが見えないから,選挙に行かない生徒もいる。自分たちが実行したことで,何かが変わるという実感,自信を付けさせることが大事。
・投票しても,結果的に自分たちが思ったようにはならなかったということになると,投票に行かなくなる。主権者意識の涵養や投票行動につなげるには,例えば,自治体や小さなコミュニティの単位で,若者だけが主権者として選択をして,その結果,「変わる」ということが実感できる経験を繰り返していくことが必要と考える。
・自分たちの意見や行動によって世の中を変えることができるという体験や実感を味わって社会に出ていくプロセスが必要。子供たちが客体から主体になるための実感のある学びができるよう,地方自治を身近な素材として扱うべきではないか。
・市職員,市議会議員,商工会議所等をつなぐNPOの協力を得て,高校生が市議会議員と討議したり議会で話したりする取組を行ったことがある。例えば,市にある病院に産婦人科医や小児科医がいないことにどう対応策を立てていくのがよいかなど,医療や福祉に関わるような問題1つを取り上げても,高校生が住んでいる地域の事柄にいかに目を向けさせていくかが重要。特に地方では人口減少が急激に進んでおり,高校の進路指導やキャリア教育とも絡めて主権者教育を進めていくことが必要と考える。
・OECDが新しい教育改革の方向性として示しているEducation2030では,生徒をAgency,つまり,変革を促す主体にしていくという視点が書かれている。これからの時代には,その主体の育成に学校教育がより関わっていくべきという方向性であり,その中心的な軸として,この主権者教育は重要だと思う。
・人工頭脳にとって一番難しいと言われているのが,Sense of Agencyという問題だと思う。これは今のところ人間にしかできないことであるため,Agencyをかき立てるような教育をしていく必要がある。
・これからの世界は,個人,すなわちセルフが基盤になる社会であり,そのセルフをパブリック・セルフとプライベート・セルフが支えている。日本人はプライベート・セルフがセルフだと思っているが,実は重要な部分でパブリック・セルフがある。
・社会を変えていくのは若い世代の生徒自身であるという,OECD 2030におけるAgencyの議論と,学習指導要領にある「主体」という概念は結び付けて考える必要があると考える。そうすることで,単なる客体ではない主体を育てるというところが新しい学習指導要領のポイントであり,主権者教育が位置付いていくことが明確になると思う。
・社会の出来事を自ら考え判断し,主体的に行動する主権者を育てることが大切。社会の動きに子供の頃からどう関心を持たせ,自分が社会の形成にどう参画・寄与していくのか,こういう態度を養うのが主権者教育の肝だと考える。また,こうした主権者教育の推進は義務教育段階から行うべき。
・高校で急に主権者教育を実施してもそう簡単には身に付かない。特に効力感を高めたり,議論をする能力を身に付けたりするには高校からでは遅過ぎるので,初等教育や就学前教育から取り組んでいくべきではないか。
・親や教師,指導主事,社会教育主事など,各教育の指導者によって既に行われてきた取組であっても,それが主権者教育の一翼を担っているという意識を醸成することが必要だろうと思う。
・家庭教育,学校教育,社会教育の全てのステージにおいて,主権者教育を一体となって推進していくためには,関係者が主権者教育についての共通の認識を持つことが重要。教育現場に立つ者が,主権者教育を念頭に置きながら,保護者や児童生徒が自身を取り巻く課題を身近に感じてもらい,自分の力で考えるきっかけを提供することが重要。
・主権者教育について都市部と地方とでは意識が全然違うと思われる。東京近郊であれば,住んでいる町がなくなるというような意識は持つことはなく,地域のために自分たちが何かしなければ,といった意識を持たせるのは難しい。都市部では,普通に大学に行っていいところに就職できればよいといったあたりに親の意識もとどまっていて,そうした点は非常にやりにくいと思う。また,地方では過疎化が進み,地域の産業を起こしながら残っていく人材を育てる必要があるが,そのためには子供に自分の有力感,有用感みたいなものを地域で活動しながら持たせることが必要。親や周りの大人におんぶに抱っこでは,自立せよと言ってもなかなかできないだろう。
・親子で勉強すると言っても,学校の中でいじめられたら困る,といった話にとどまっていて,学校を卒業してから生きていく地域があるのか,地域のために何ができるのか,といった話には結びついていない。自治体の格差が広がっている中で,一律に主権者教育と言っても,大変難しいものがあると感じた。
・大人にどれほどの切実感があるか,そもそも親が地域のために自分は何ができるのかを考えているかどうか,こうしたことが子供の意識にも伝わっていくのではないか。

【学習内容や指導方法等】

・主権者として政治を考える上で,一番重要なものは中身である。「一人一人の生活がよくなること,快適に生活すること」以上に“公共”というものを取り上げることが重要である。そのことを,高等学校公民科の「公共」だけで扱うのではなく,小・中・高を通じて扱うべきである。
・主権者教育は,例えば,租税教育といった具体的なものから「個人の利益と公共の利益の調整」まで含んでいる。学校教育全体を通じて,総がかりで取り組む必要がある。
・主権者教育とは,リベラルアーツによる全人格的な教育の上に,個人の利益と公共の利益とのバランスをどうとっていくのか,人間としてどうあるべきかということを,個人個人が考えていくことではないかと考える。
・欧米で言うシチズンシップ・エデュケーションでは「義務」についても教えていると思うが,主権者教育が,その一部なのか,もっと包括する概念なのかを,主権者教育を推進していく上で検討すべきと考える。
・主権者教育について,単に投票すればいいという権利の行使だけで終わらせるのか,市民としての必要な知識を授けるのかということを考えていかなければならないと思う。
・新学習指導要領の新しい科目「公共」も含め,学習指導要領全体の中を貫く軸として,このような政治的リテラシーの涵養を大きな柱として据えていくことが必要と考える。
・今でも様々な主権者教育の取組が展開されているが,散発的であって体系化されていないと感じる。小・中学校を通じて何を教えていくのか,そのための具体的なカリキュラムは何か,ということがまとまっていないと思う。
・ある県では,これからの社会を担う自立した社会人を育成するということを目的とし,積極的に社会参画するための能力と態度を育成する実践的な教育をシチズンシップ教育と位置付け,育成したい能力・態度を,責任ある社会的な行動をとるような態度,地域社会に積極的に参加する姿勢,社会や経済の仕組みについて理解し,諸課題の解決に主体的に取り組んでいく力を養うこと,とした取組などもある。このシチズンシップ教育は,政治参加教育,司法参加教育,消費者教育,道徳教育という4つで構成されている。
・ある区では,主権者教育のねらいとして,児童生徒が政治や選挙に関する理解を深めていく,我が国の地域の課題を理解して,課題について多面的・多角的に考えられる,自分なりの考えをしっかりと形成させる,さらには,根拠を持って自分の論を説明し,友達の発表なども聞いて意見を交わし合う,こうしたことをねらいとしている。自分で実際に実践をしてみてどうなのか,常に自分の生き方を見直しながら,区民としての生き抜く力を育てたいということをねらいとしている。
・高校よりも前の小・中学校段階で鍛えていくことが大事であると考えると,小学校の先生にもっとアピールする必要があると思う。新しい若い先生方に張り切って取り組んでいただけるよう,資料集や実践事例のようなものを具体的に示す必要があると考える。
・小・中・高の学校種を超えた連携が重要になると思う。先日,小学校の公開授業を見てきたが,研究協議の際に,例えば,模擬投票を小学校のうちから繰り返し何回もやっていいのだろうか,小学校でやる,中学校でやる,高校でもやる,それでいいのだろうかという意見があった。また,小学校ではどこまでやればいいんだろうか,中学校ではどこまでやればいいだろうか,高校はどういうことをやっているのだろうかと,小・中・高でお互いに見えていないことが現実問題としてある。このため,例えば,小・中・高をまとめて研究指定したり,学校外のコーディネーターを活用したりすることが必要ではないか。
・主権者教育については,中学校と高等学校と連続していると非常に取り組みやすいと思う。
・学習内容としては,中学校第3学年が,主権者教育に関する活動に取り組むのに適していると思われるが,中高一貫校でない場合,高校受験があるため,取り組むことが難しくなると思われる。
・高等学校における現実問題としては大学入試があり,主権者教育に関する様々な活動が入試にどれだけ役に立つのかということを解決しなければならないと思われる。
・探究的な活動を行う際に,課題をどのように設定するかや,グループをどう動かすかの指導が難しいところである。
・政治的中立性を確保しなければならないといったことも含めて変えていかないと,主権者教育は本物にならないと思う。ただ,これを変えていくことは相当大変なことだと思う。諸外国が行っている例を,そのままストレートに当てはめるのは,成り立ちからして不可能な部分も相当あると考える。
・学校現場での政治的中立性について考えると,先生も人間である以上,自分自身の考えや思っていることを発表するなど,中立である必要はないと思う。自分はこの問題についてはこう思っている,君たちはどう思うか,隣の先生はこう言っていたよ,という言い方をして赤裸々な議論をした方が,むしろ中立というものは何か,公正というものは何かといったことについて,議論が深まっていくのではないか。
・まずはどれか一つを徹底的に学び,学ぶ力が身に付けば,大人になってからも同じように学ぶことができるはずである。
・身近な課題に取り組ませて解決させるといった現場での実体験を伴う学習が重要。全ての内容を取り上げる必要はなく,例えば,ごみの問題などの1つのテーマを入口として,社会とのつながりを感じられる学習ができればよいと思う。
・例えば租税教育では,税金によって自分たちが生かされている,将来は税金を納められる経済的に独立した大人になりたいという受け止めはあるが,その先の納めた税金がどのように使われているのかをチェックするという考えが弱いと感じる。
・政治が,時事問題を含め,全ての社会問題と密接に関わっているということを主権者教育で伝えることが重要。例えば,就職活動や消費税増税,環境問題などの児童生徒が関心を持ちやすい身近なテーマも政治と密接に関係していて,政治を中心に真剣に議論されており,決して自分に無関係なものではなく,自分事として伝えていくことが重要。
・選挙に1票を投じることだけが世の中を変えていくというのは非常に単純な思考であり,主権者として,地域や世の中を変えていく様々な武器(例えば,区長にメールを送る制度や陳情や請願等を議会に出すなど)を持っていることを学ぶ教育が不足していると思う。
・模擬選挙,模擬請願,模擬議会,高校生と県や市の職員との意見交換会,市町村議会議員との対話集会,市町村職員の出前講座,検察庁,裁判所への見学などを行ったことがある。こうした活動は,社会科や公民科の先生だけが担当するのではなく,学校を挙げて全体として取り組んでいくような試みが必要だと思う。
・学校の学習時間は限られており,教育課程に位置付けて行うのか,教育課程外で行うのか,分けて考えることが大切。
・主権者教育を行う上で最も重要なことは教員自身の主義主張を押し付けない,少数意見も含め児童生徒の意見を尊重する,対等な関係で議論する,こうした態度を教員も身に付けるべきではないか。
・教材や補助教材については,時代の流れが非常に速いため,更新頻度の低い検定済みの教科書だけでなく,時事問題も積極的に扱って児童生徒の関心を高める工夫をすべきではないか。
・小学校において,学校をよりよくするための活動,委員会で話し合って決定したり計画が実現できるよう教師や関係する方々にプレゼンをしたりするといった活動を通して児童の主体性があがったという成果報告がある。
・中学校で,「人口減少を食い止めるには?」というテーマを掲げ,村役場や地域の方々からのお話を聞く,村の人口問題を自分たちの課題として捉え,課題の解決策を考えて,班ごとにまとめて発表をした後に,学級の中での意見交換を行ったという学級活動もある。
・公民科の職員だけでやるということではなく,学校全体で生徒に身に付けさせたい資質・能力,その育成のためのカリキュラムの検討を行い,各教科等で共通理解を持ちながら進めることが重要。
・高校における模擬投票が単なるイベントで終わらないよう事前事後の指導が重要。そのため,例えば選挙における政策争点を生徒自身に設定させた上で,架空の政党・政策を立案する活動を行い,その後,模擬投票を経て選挙結果を振り返る取組をおこなったが,なぜそのような結果になったのか等生徒自身が選挙結果と向き合うことによって社会へ参画する意識を持つという取組になる。
・特別支援学校の高等部では,障害に合わせて,選挙とはどのようなものか体験する活動を行っていくという事例,具体的には,選挙管理委員会の協力を頂き,架空の候補者による選挙公報を作成し,それを基に学習をしていったという事例もある。
・明るい選挙推進委員会と大学と連携した,小学校における模擬選挙の例として,大学生が5年生・6年生にどんなまちにしたいのかをヒアリングし,子供達も自分の意見を述べるということを最初に行う。その上で,大学生が子供たちの意見に基づく候補者を立てマニフェストを説明,子供たちは大学生と意見交換をして,自分たちの意見を最も取り入れてくれている候補者はこの人なんだという実感を持って,模擬選挙を体験するといった取組もある。実際に自分たちの意見を吸い上げてもらって,さらに候補者とやり取りをすることを小学校段階からやることによって,自分たちのまちをよくしていくんだという当事者意識を育てることにもつながるのではないか。また,こうした体験をした子供たちが,この後中学生になったときは,自分たちの生徒会活動や,更に自分の生き方としてどのような進路を選んでいくのかといったところにもつながっていくことがねらいである。
・本区においては児童会と生徒会の各校の役員も全区で集まり,児童会・生徒会役員懇談会も毎年1回やっている。小学生・中学生だけではなくて都立高校の生徒会の方も呼んで,高校生と一緒に意見を交わす,そのようなところまで今スタートを切って,更に深めるための工夫をしているところである。
・自治体が小中学校9年間一貫して行っていた教育の成果が,高校教育につながっていくことが大切。
・大学と小学校が連携して,大学生が関わりながらマニフェスト作りを行っているような取組に高校の生徒も参加するという場面があると,高校の生徒にも勉強になるのではないか。
・小学校の教育課程においては外国語やプログラミング教育など新たな内容も入っているので,主権者教育を新たに上乗せするということではなくどう位置付けるか工夫が必要。
・高校の新科目「公共」の指導において,思考実験自体は生徒は興味を持つと思うが,そこだけにクローズアップせず,その後の指導にどうつなげるかを考えることが大切。
・主権者教育の中で司法参加教育を扱うことも重要。将来,裁判員になる可能性もあるので,そもそも裁判員制度とはどういうものなのか理解しておくことは必要であり,例えば弁護士から解説を聞いた上で,弁護士会が作成した架空の裁判のシナリオに基づき裁判員として有罪か無罪か論理的に考え判断するという取組もある。
・公立の小・中学校では,政治的中立性を保ちながらしっかり主権者教育を行っていくという部分にまだ不安が多いと思う。
・高校の現場では,萎縮するような雰囲気が明確にあるという感じではないと思う。
・小・中学校では萎縮を感じるよりも,まず学校の管理職側が学校経営するときに,根拠となる部分をしっかりと持って,基準を持ったうえで取り組まないと不安なのかなと考えている。
・各中学校でスマートフォンを持っているか・いないか,どのように使っているか,何時間使っているか,各中学校で代表者の生徒が意見を集め,それを市内の8中学校でケータイ・スマホ子どもサミットという形で発表する取組を行っている。現状を踏まえて,どういうルールを作っていくのが良いかを考える取組となっている。
・国際会議で感じるのは日本の高校生が非常に幼いこと。他国の高校生は,学校関係を含めたいろいろなものについて積極的に議論をするし,大学生とほぼ変わらないような実感がある。世界を見据えると日本では子供を教える対象としてしか見ていないという所が,主権者教育になると弱みになるのかなと感じる。
・「主権者教育」の「教育」と言った瞬間に,教える側と受ける側との関係,正しい解を求める,導くといった教える側の力が強く作用しているような感じがしてしまい,受ける側も思考停止しているようなところがある。結果として振り返ったら主権者意識が育まれていた,多様な解があることに気が付いたという位の感覚や温度感であってもよいのではないか。
・選挙教育と同じだという主権者教育は,やめて頂きたいと思う。社会の動きも含めて,子供の頃からどう関心を持たせて,自分が社会の中にどうこれから関わっていくのかという意識を持たせることが大切。主権者教育は入口であり,選挙はあくまで出口であると捉えることが大切。

【基盤となる資質・能力の育成】

・議論して,互いの違いを理解し,それに基づいて自分たちが何を選択するかということが,投票行動に結びついていく。まさにアクティブ・ラーニング(「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善)を,主権者教育に関わる全ての人が推進していくべきである。
・メディアリテラシーも含め,社会全体の課題に対して正しい認識や判断をする力や,議論のルールやロジックなど,主権者としての基盤的な力を高校生までの間に身に付ける必要がある。
・不特定多数のメディアから情報を整理し判断する力が必要になるため,リベラルアーツによって基盤となる資質・能力を育むことが重要。その際,議論による教育,自ら能動的に学ぶという教育が大切。
・様々な情報の中から自分で判断をし,ものを決めて行動する力を育成することが,主権者教育の一番大本になると思う。
・学ぶ力やプロセスを学習することが,高校までの主権者教育だと考える。

【メディア・リテラシーの育成】

・若者がどういうところから情報を得ているのか,を知っておく必要がある。新聞を取っていない家庭が増えてきており,ネットを通して情報を得ることが進んでいる中で,主権者教育についても,若い主権者がどのように情報を得て自己の意見を形成していくのかという点にも注目したい。
・ネットメディアは,見出しからそのニュースを選ぶと,次からは,それに関連するニュースばかりが表示されるようになるなど,自分が選んでいるようでいて,実は偏りのある情報にしか接しないような仕組みになっていることがある。そういったことに気を付けながら,ネットメディアを前提にしてリテラシーを高めていく必要がある。
・大人,子供を問わずネットで情報を収集しネットで発信するということが強くなってきているため,もう少しネットを意識した情報の取扱いについて,明確に打ち出すべきではないか。
・ネットメディアなどに対する色々なリテラシー能力を付けると同時に,活字メディアに対するリテラシー能力の努力も放棄すべきではないと考える。新聞も偏っていることを前提に教材として使えば,リテラシー能力が育めると考える。
・新聞を読み比べる際に,万遍なく全紙を見るのではなく,典型的な2つを比べることでも問題の本質に迫ることは十分できるのではないか。
・多くの授業時間を割かなくても,朝の10分,15分を使って,社会で起きている事柄について子供たち同士で対話をする時間をつくるなど,社会に関する学びを深めることができるのではないか。
・新聞を読み比べるということも大事だが,記者がどのように記事にまとめているかという視点も役に立つと思う。
・世の中には様々なメディアがあるが,新聞のメリットは信頼性の高さや一覧性の高さである。
・非常に膨大な情報の中から個人が何を選ぶのかが問題。デジタル化されたメディアをプラスに使っていくことが大切であり,デジタル化の視点は今後の主権者教育の中でも取り扱うべきと考える。
・膨大な量の情報が流れ込んでくる中で,いかに情報リテラシーを磨き,フェイクニュースのような情報に踊らされないようにしていくかが重要。
・日常の中で,社会的な問題に気付き,課題を見出し,自分の意見を持っていくことが重要。また,それを友達や家族と話をすることで,違う意見も受け止めながら,更に自分の考えを磨いていく,そうした作業を続けていくことが投票,一票の大切さにもつながっていくのではないか。
・紙のニュース,デジタルのニュース双方にメリット・デメリットがあり,デジタルニュースについても,紙のものと比べるなどして教育していくことが必要ではないか。テレビでは芸能もスポーツも政治もパラレルに出てくるので,自分で教育欄や文化面を選んで読むのとは異なるが,トータルニュース媒体をどう使うかということを考える必要がある。
・子供の頃から,自分たちが社会を作っていくという当事者意識を持つことが重要。そのために様々な社会の問題点が分かるようなニュースについて情報を収集し,多角的な視点から考えていくことは重要。

【外部の専門家や関係機関等との連携】

・学校の先生方の負担軽減の観点からも,外部の専門家との連携は大切である。選挙管理委員会を呼んで模擬選挙を行うだけでなく,税理士を呼んで租税や財政について学ぶなど,政治そのものに関わる学習の充実が重要であり,学校現場ではすでに色々な取組を行っている。
・様々な分野において出前授業が行われているが,講師となる各分野の専門家が,主権者教育ということを頭において授業を行う必要がある。
・学校現場においては,政治的中立性をどう担保するかが問題である。ドイツのように,超党派の機関や,議論はあるものは議論あるものとして扱うといった基本原則に倣うのが良いと思う。
・政治的な教養を育む教育を進める際,学校現場では政治的な中立性ということに配慮する必要があるため,リアリティーのある政治又は選挙の教育には,どうしても制限が掛かってくる。このため,いわゆる候補者のところに教員が生徒を連れて行くようなスウェーデンのような活動を行うことは,現状,日本では難しい。
・学校の中で,似たような考えを持っている同級生同士で話したり,先生と生徒だけで対話したりするのではなく,学校外の人たちと対話しなければ深まらない。このため,主権者教育をするのであれば,学校外の人たちを巻き込んで行う必要があると考える。
・教員自身が知識が深いことは望ましいとは思うが,教員が全てを抱えるのは現実的ではないので,例えば会計士や税理士,明るい選挙推進協議会などのゲストティーチャーを招いて学べるよう支援することが大切。
・外部との連携について,例えば税務署から地方と国の税の違いについての資料や,今後の社会保障費の負担に関する最新のデータを提供してもらったり,子供達が話し合っている場面で専門性に基づいてアドバイスをしてもらうなど,考えを深めさせる際に関わっていただくという講義以外の手法もある。

【家庭教育との連携】

・社会の動きにどう関心をもたせるか,家庭と連携して取り組んでいくことが重要である。
・学校では「私たちが拓く日本の未来」等が配付され,主権者教育が行われていることも家庭は意外と知らない。家庭において話題にしてもらい,学校の取組を後押ししてもらうためにも,子供が受けている授業を保護者に知ってもらう必要がある。
・本校には,近隣にある6校の小・中・高等学校のPTAが学期に1回集まる仕組みがある。教員とそれぞれの保護者の代表の方が集まることにより,高校から小学校が見え,小学校から高校が見えるということで,有益に感じている。
・昨年,高等学校のPTA連合大会が佐賀県で行われ,初めて主権者教育について分科会で取り上げられた。その際,高等学校の演劇部が生徒会選挙と町の町長選挙を絡めて演劇をやったが,それを見た保護者の反応が非常に良かった。単に選挙に連れていくということだけでなく,生徒が主権者教育に関わる活動するところを保護者が見るという視点からも,家庭との連携があると考える。
・主権者教育を進める際の家庭の役割をクリアにしたい。また,全国的な組織であるPTA連合会や地域ごとのPTAの取組にも期待したい。
・保護者と一緒に選挙に行くというのは,子供の将来的な投票行動につながると思うので,よいと考える。
・若い人と言われている人の親の世代が,既にネット世代になっている。大学生以下だけでなく,その親の世代,40代ぐらいまでも含めて,変わっていく必要がある。
・海外では,家庭で政治の話を当たり前のようにすると聞くので,親の世代も含めて取り返していく必要がある。
・家庭教育は非常に大事。家庭教育を学校教育とどのように連動させながら,主権者教育を進めていくかを考える必要がある。
・学校での取組だけでなく,新聞というメディアを媒介させることにより,家庭において,争点のある政治的な課題について,最も身近な親子間で話し合ったり,意見交換したりするなど家庭におけるNIEにもっと力をいれていただきたい。
・学校での生活,友達との過ごし方を含めて,家庭でこういった会話を子供に投げかけてくださいと呼びかけるような家庭教育ハンドブックを各家庭に配布する取組を行っている。
・家庭教育は,子供の豊かな情操や基本的な生活習慣,家族を大切にする気持ちや,他人に対する思いやり,命を大切にする気持ち,善悪の判断などの基本的倫理観,自制心,自立心などの,生きる力の基礎的な資質や能力を育成するものであり,全ての教育の出発点である。
・親向けの講座で,投票について考えること等を取り入れるには,同時に子供の発達段階に配慮する必要等があるが,保護者や児童生徒が様々な課題に対して自らの意見を持つことや,自分とは異なる意見があることに気付くことは子供の学習だけでなく親の学習としても大切。
・夏休みの宿題や自主的な学習の場面では,新聞記事について親や友達と感想を交流し,自分の考えを書く活動に取り組んでいる。家庭で新聞の内容を話題にすることで,他者の意見を傾聴する力や,尊重する力を養うことができる。
・選挙管理委員会と連携して,小学6年生を対象に,給食に出すデザートを選挙で選ぶことを行っている。子供に選挙を身近なものとして感じてもらうとともに,家で保護者と選挙について話し合うきっかけになればと思っている。
・教育長,担当課長,小中学校のPTA連合の会長,高校のPTA連合の会長等が集まり,主権者教育の視点から小中学校に求められるものは何か,家庭の中で主権者という意識を持たせ自立した社会人に育てていくためには,どのようにしていくのか,という懇談会を行った。この中では,世の中で大切にされていることを体験させると良いのではないか,親が政治に関心を持つことが大切ではないか,教師は政治的中立性を確保しなければならないため自分の意見を言えないのではないか,学校での統一した授業はなかなか難しいのではないか,といった意見が出た。
・学校ごとの単位PTAでは,地域住民参加型の多様な活動の実施や,地域の多様な人材を構成員としたネットワークの構築,子供の生活習慣づくりの推進,そうしたことを多く行っている。主権者教育をこうした活動の中で広げていくこともできるのではないかと思う。
・PTA,自治体の長,児童委員の子供達などが一緒になって地域の問題を考える活動を通して,子供の変容としては規範意識の高まりが,地域の変容としては,子供達は地域で育てようという意識の高まりがそれぞれある。また,校区の中で,他の学校のPTAと連携するという意識も高まっている。
・高校が中心となっているが,小中学校での取組の充実が今後の課題である等の意見があった。
・家庭の在り方については,まちづくり等のボランティア活動を通じて成長していってほしい,子供が意見を持つようにし,親が決めつけない,保護者が手を出し過ぎると社会で生き抜く力が養われない,大人自身が変わらなければいけない等,過保護であったり,親の言うとおりにさせるようなことをしているのではないか,といった意見や,家庭において,保護者としてもこうしたことを意識しないといけないのではないか,といった意見があった。
・家庭の姿自身が変化している。単身世帯も増加しており,こちらが家族の姿として想像する姿とは相当変化しているのではないか。親子は一つのキーワードであるが,必ずしも親子でない世帯も増えており,職場や地域といったことを含めて,重層的に意識しておかないといけないのではないか。
・学校の先生と保護者が協働する組織というのはPTA以外にはなく,学校教育と家庭教育の両輪を考えて,連携していく意味で大変大きな役割があると思う。

【地域との連携】

・中学校の実践で,生徒が複数の政党を作り,校内の様々なテーマについて議論して選挙を行い,総理大臣になるという活動を模擬的に行っている。その活動が大学の先生に注目され,その先生が中心となって学校の所在地である渋谷区と連携を取ってくれて,「渋谷区をどうするか」をテーマに区長と直接議論をする取組が行われた。そうした意味で,学校教育とは,小・中・高等学校だけではなく,大学までつながっているものと考える。また,生徒にとっては,自分の住んでいるところではないが,毎日通っている学校のある地域の様々な問題を取り上げて議論するという機会が得られて,非常に良かったと思う。また,主権者教育というのは,地域の様々な問題を包括的に見るという姿勢が求められていると思う。
・大学には,様々な形で地域(自治体)の人が相談に行くが,小・中・高等学校に行くことは多くないと思われる。このため,小・中・高等学校が地域とつながるには,大学を活用するという視点が必要だと思う。
・地域と学校で協働する際の課題として,小・中学校は市町村教育委員会の所管,高等学校は都道府県の所管であることが多く,所管している行政機関が異なるため,地域との協働で教育を進めていく際,こうしたことを意識して調整していく必要がある。
・自分が住んでいる地域に小・中・高等学校が9校あるが,保護者も通る学校の通学路をPTA関係者が集まって話し合い,児童生徒や先生が一緒に清掃する活動を行っており,子供たちが,地域をより知ることができたり横のつながりができたりしている。特に高校生は,自分たちが地域に何ができるのか,という思いから,地域の活動に自主的に参加する生徒たちもいて,こういった自主的・主体的な発想や行為が主権者教育につながっていると実感している。
・学区の活動として行われるイベントに子供たちが参加するというだけではなく,例えば,子供たちがポスターを描き,学区内に貼って地域の人に周知をしたり,イベントの司会をしたりするなど,活動の中身自体を一緒に考えて行うということをしている。そうすると,子供たちに,次はこうしたい,ああしたいという主体的な考えが生まれるので,色々な場面で子供たちを参画させ,考えていることを具体的に実施させたり,次回に向けて改善させたりしている。こういったことの一つ一つが主権者教育に資すると考える。また,それを見ている保護者や地域の人にとっても,こういう活動をさせることによって子供たちが主体的に動くということを学ぶ機会になっており,家庭教育や大人の学びにもつながっていると思う。
・本校のある市は,出前授業をしてくれたり,選挙の際に,各投票所の選挙事務に生徒を参加させてくれたりするなど,高校から地域にアプローチすると,地域も協力してくれると感じている。
・主権者教育は,まず社会に対してどう関心を持たせるかというところが第一歩だと思う。子供たちは身近な問題に一番興味を持ちやすく,区民便りを題材にして学習している例もあり,身近な行政とのタイアップは非常に意味があると考える。このため,主権者教育の第一歩になるという意味で,全国的にそういった取組が増えるとよいと思う。
・現在の有権者である大人たちはほとんどが主権者教育を受けていない世代であるが,その層に向けてどのように教育をしていくのか。
・企業従業員への研修などを通じて主権者教育をしていくということも経営者として取り組むべきではないか。
・地域社会を構成しているのは,家庭,PTA等の団体,企業など様々あるが,例えば企業においても,企業の中だけで教育をするのではなく,地元の地域社会での活動に関わっていくことも大切。社会教育という観点から,地域での取組をもっと進めて頂きたいと思う。
・公民館活動への参加を通して,子供達が受動的ではなく,地域に積極的に働き掛けられる子供を育てようという取組を行っている。イベントのボランティアだけでなく,中学生が理事として,事前の会議への出席もして運営に携わっている。地域の方々が温かく,忍耐強く見守り,チャンスを与えることで,子供達の自信につながったり,地域の一員としての意識の高まりにつながったりしている。

【教員養成,教員研修】

・教育課程を具体化するために,教員養成課程や教員研修との連携が必要である。
・小・中・高校の教員は,それぞれ課題意識が異なるため,教員研修においては,小・中・高の教員を一同に会して研修を受け,他の学校種のことも知ることができるような取組も重要ではないか。
・教員養成と採用と研修を一体のものとして考えると,主権者教育を進めるに当たり,教員養成の内容から研修の内容まで,どのようにすべきかを一貫して考えておく必要がある。
・教員養成を担う大学や,現職の教員を対象にした研修を実施する研修センターにも新聞活用を積極的に呼びかけるべきではないか。

【選挙関係】

・若者に潜在的な政治参加意識があり,投票に行こうという気持ちを持っていると感じている。選挙公報等において,投票に必要な判断材料をそれぞれがばらばらに出すのではなく,若者にも分かりやすいような示し方をしないと,具体的な若者の投票行動に結び付かないのではないか。
・争点が明確だと投票率が上がるというのは,主権者教育的にも重要な意味合いがある。政治というのは,争点があって初めて政治になるので,争点が明確であるということは,主権者教育の側の問題であると同時に,政治を創り出していく私たち自身の課題でもある。
・投票率の低下については,他の国と比べると非常に危機的であると言えるかもしれないが,行政が淡々と進めていけば国は安定していくという感覚が,この投票率の低下に表れているのではないか。これは日本の強さという見方もできる。
・「お任せ民主主義」という言葉があるが,若い人たちにとっては,今うまくいっているし,放っておいてもやってくれるしと思っているのではないかというのが,自分がもつ深い危機感である。
・日本の選挙では禁止されている事項が多く,国際標準からするとオーバースペックではないかと思う。
・18歳の投票率よりも19歳,20歳の方が低いという実態は,大学生が実家から離れているということが決定的に影響していると思う。住民票の問題やインターネット投票などを真剣に考えれば,投票率だけなら上がると考えている。
・若者の投票率が下がっている理由については色々あると思われるが,若い時代に自分たちが行動したことが色々ないいことになっていくという経験が少ないのではないか。意見を表明したり,交流したり,何らかの行動をしたりすることで,いいことがあったという体験が少ないのだと思う。
・保護者の方がまず投票に行っていただきたい。子連れ投票を活用し,まず子供を投票所に連れて行って,こんなものだよという現場を見て体験させるということが非常に大事だと思う。
・各政党が出している子供向けの政策集がある。イラストなども入っていて小中学生でも読めるような内容になっている。こうしたものは親子で話す一つの材料になると思うので,家庭において活用してもらえると良いと思う。

【諸外国の状況】

・海外における主権者教育の状況把握も必要。
・イギリスは政権交代に伴い,主権者教育推進に向けての勢いが弱まっている印象もあるが,生徒が自分で民主主義について発言・発表ができたり,そうした場が用意されていたりすることなどから,主権者教育という考え方が根付いていると感じる。
・ドイツは,ボイテルスバッハ・コンセンサスの原則の下に,着実に行われていると思われる。特に学校の授業(国の財政に関する授業)では議論が非常に活発で,全員の手が挙がる姿を見て,こういう教育が日本の各教室でも当たり前のように行われるとよいと感じた。
・政治的中立性の担保については,どこの国も悩んでいて結論は出ていないと感じている。ドイツでは超党派の委員会を作っているが,それが全体で中立性を担保するというところまでいっておらず,また,そういう機能を持たせていない。むしろ出版物や副教材などのチェックを一部超党派で実施している状況であった。
・ドイツにおいて,大学進学に政治教育の科目が必修になっていることからすると,中等教育の学習が高等教育につながっているというのがあると思う。逆に言えば,中学校や高等学校で行う教育に学術的根拠を持たせるには,大学につながる教科でなければならないのではないかと感じた。
・アメリカの大統領選挙の時期にテキサスの学校に行った際,政治の授業を視察したが,教員は政治的中立性を守るように言われており,本日の報告からイギリスやドイツも,また日本も,同様であると感じた。他方,生徒の活動については,アメリカでは,校内でも政治的活動をしてもよいとのことだった。

【その他】

・小・中・高・大の接続が課題である。
・大学生や高校に進学しない生徒への対応も考慮する必要がある。
・モデル校等を指定し,小・中学校からしっかりと行っていくことが重要である。

お問合せ先

初等中等教育局教育課程課教育課程総括係

電話番号:03-5253-4111(代表)(内線)2073