「高校生のための学びの基礎診断」検討ワーキング・グループ(第4回) 議事録

1.日時

平成29年10月24日(火曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省3階 3F1特別会議室

3.議題

  1. 関係者ヒアリングについて
  2. 「高校生のための学びの基礎診断」に係る民間事業者の意見等について
  3. 「高校生のための学びの基礎診断」の認定基準及び手続等について
  4. その他

4.出席者

委員

(主査)荒瀬克己委員

(委員)岡本委員,長塚委員,根岸委員,前川委員,

文部科学省

高橋初等中等教育局長白間大臣官房審議官,滝波高校教育改革PTリーダー
桜井国際教育課長補佐,田中高校教育改革PT専門官,中村高校教育改革PT専門官

5.議事録

(1)関係者ヒアリングについて

 

【荒瀬主査】それでは,最初の議題といたしまして,百合田先生と玉川高校,滋賀県教育委員会からヒアリングを行いたいと思います。質疑につきましては,全ての説明が終わってから,まとめて時間をお取りいたします。では,まず,独立行政法人教職員支援機構次世代型推進教育センターの百合田上席フェローに御発表いただきます。よろしくお願いいたします。

 

【百合田上席フェロー】御紹介にあずかりました百合田と申します。どうぞよろしくお願いします。

 私,もともと背景が政治哲学と歴史哲学の人間で,それを社会基盤としての教育を対象に学際的に活用する形で研究等を行っております。その観点から,本日,基礎診断検討ワーキング・グループの公開資料に基づいて考察した点等を御紹介させていただこうと思います。どうぞよろしくお願いします。

 本日,トピックとして,まず1点目としては,希望参加方式というものが取られていること。その中で,基礎診断の実効性をどう確保していくかという点。二つ目が,既存の学力診断及び学力測定ツールとの差別化をどう果たしていくか。この点が非常に重要になってくること。三つ目としては,コンピテンシーベースの学力,つまり,これから求められてくる学力が,従来の学力測定で測定できない学力になってくる。その中で新しい学力をどう測定していくことが求められるのだろうかという点,この三つでお話をさせていただこうと思います。

 途中,幾つか,時間の関係でスライドを飛ばすと思いますけれども,お手元の資料にありますので,また,御質問等ありましたら教えていただければと思います。

 まず,希望参加方式の下での基礎診断の実効性,これ,結構難しいことだと思いました。まずは,多面的な評価の推進を目的に,それぞれの学校の判断によって適切な診断ツールを活用することが第2回議事録等で書かれておりますけれども,拝見している限りにおいては,基礎診断を実施しないという選択余地が十分にあるだろうと思われます。基礎診断というのは,どちらかというと多くの学校が参加する方が有効性が高くなる。実施しないという選択余地を強制的に狭める必要はないと思うのですけれども,魅力あるものにして選択されるようにしなければならない。

 そのためには,幾つかの障壁等がある。一つ目が参画障壁。これは負担の問題ですね。費用負担及び労力負担の問題。その次に参画不安。一番大きなものがここだと思うのですね。学習者起因ではない学校起因の学校序列化になるのではないだろうか。つまり,今までの学力診断であれば,学習者の問題で学力差があるという形で認識されてきたものが,学校の問題で学力差があるという形で認識されかねないという不安があるということですね。実際そうなるということではなくて,そういった不安が基礎診断に参画することをためらわせることになるのではないか。

 一方で,参画圧力というのもあるだろうと考えます。これは,学校を序列化するための情報を求めるというのは社会一般に多くあることですので,この基礎診断が学校序列化にどう役に立つのだろうかという要求はあると思います。また,更にそれで積極的に序列化していこうというような形の学校序列化の参画圧力があると思う。そして,今現在のところ,明確に見えてないのが,参画動機を確実にするための手立てというところですね。これは,やはり基礎診断の活用,いわゆる出口イメージが余り明確になっていない。出口イメージをはっきりさせなければ,インセンティブというものが生まれてこないだろうということを考えております。

 これらの問題は,一つのことによって解決できると考えています。まずは,参画不安と参画圧力に関しては,従来のEvaluationというもの,学力評価のEvaluation的側面を否定する。つまり,その人間の価値とかその学校の価値というような価値判断評価というものを否定する。その代わりに何を入れていくかというと,Assessment評価の保証ですね。アセスメントというのは,情報を収集することを目的とした評価。つまり,何かしらを改善していく。どういう状況か理解していくためには,Evaluationの価値観からAssessmentの価値観に学力評価というものを変えていかなければならない。そのための工夫が必要だろう。

 そして,それによってどうするかというと,そのためには多元的評価軸を設計し,序列化機能を明確に排除することが必要になってくると思います。特に今回,民間に作問等を委託する場合において,序列化機能というものに,今まで民間の学力試験というのは十分貢献してきた。そこの部分を明確に否定するための手立てが必要であると考えます。そうすることによって,多面的な診断ツールとしての保証ができる。この二つが可能になってくると,今度は基礎診断というものを実施する合理性が確保できる。合理性が確保できれば,費用負担や労力負担にもきちっとした説明ができる。そういう意味では,ここの一つ目と二つ目を確保することによって合理性を獲得していくことが必要になるだろうと考えております。

 従来の学力診断の問題点にはどういうものがあったかというと,従来は学力というのが単一評価軸で測定されていたことがほとんどであった。そのために,高い学力を持った人たちが選抜されていく。つまり,選抜機能を持つ学力測定が一般的に見られていた。一方で,このときに大きな問題が出てくるのが,ここの低いところにいる学習者というものが諦めてしまうわけですね。どんな試験をやったところで,大体低いままに終わってしまう。ということは,時間がたてばたつほど,低いところにある学習者が諦めていきかねないというような形になっていく。つまり,学力を単一軸で評価しているということは,こういった格差の拡大や維持に比較的つながりやすくなっていく。そして,学力の上位層から選抜されていって,選抜ツールとして学力が使われていく。学力差が機会格差というものにつながっていくということで,このタイプの学力測定が有効だったのは,労働者育成を前提とした場合。つまり,たくさんの仕事があって,そこに労働者を選抜していく。よりすぐれた労働者を選抜していくときには,この一つの軸によっての選考は比較的有効であった。

 ところが,現在は国際的にも,特に我が国においても,そういった学力測定は必ずしも適当ではない。それは倫理的に適当でないだけではなくて,現実的に適当でないことが明らかになってきた。そのために,学習指導要領の改訂等でも学力の3要素,確かな学力を形成していこうという形で,こういう三つの要素が示されてきて,何ができるようになるかというのが重要になってきた。

 変化が激しくて予想困難な社会において,知識を基盤に新しい知を創出するという知識基盤型社会を考えていくときに,受動的に与えられたものを学んでくるという客体としての学習者から,能動的に学びを活用する主体というものが必要になってくる。これは議論をまたないことだと思います。  ここで重要で,よく見逃されている観点というのが,何ができるようになるかということなのですけれども,これを個人で捉えるのか,社会集団で捉えるのかによって大きな違いが出てくると思います。我が国で今現在行われている学力の3要素関係の議論においては,何ができるようになるのかを個人で捉えています。これは,今までの学力観のときと同じですね。選考,選別される個人という形で捉えているものが,そのまま学力の3要素となって,個人で捉える。

 学校教育では,実は社会集団として何ができるようになるかというのを捉えるべきではないだろうか。従来的な学力測定と学力観の限界は,この何ができるようになるかというのを一つのコミュニティーとして捉えたときに,その(単一軸で測定する学力観の)限界が明らかになってくる。

 では,どういった学力観が今求められるのだろうかというと,これが先ほど示した従来の学力観です。これに対して新しい学力観というのが,ここにそれぞれ分布されていた学力というものがどうなっていくかというと,活用能力,意識・態度,従来の知識・技能という3軸の中の3次元空間の中に配置されていくという形に学力観は変わっていくのではないだろうか。

 このときにどういうことが言えるかというと,従来,ここの知識・技能のところで高い学力を持っていた人は,そのまますぐれた人と言われていましたけれども,実際は必ずしもそうではないのではないかと。実は活用能力においては非常に低いのではないだろうか。実はここの人は,活用能力にとっては非常に高いのでないだろうか。例えば,ストリートスマートとか言われる人ですね。学校で余りたくさん知識を吸収していないけれども,経験則などで,限られた知識を十分に活用して社会生活を送っている,そういう学力,能力は余り認められてないのではないか。

 そして,更にここ,意識・態度。医者を養成するときにおいても,いろいろな医者がいますよね。非常に能力の高い医者という形で医者の人が選ばれていきますけれども,医者になった後でも,どんな医者になるかという問いが出てくるはずです。お金もうけをする医者もいるでしょうし,研究に力を注ぐ医者もいるでしょうし,医者がほとんどいないような無医村に行くような医者もいる。そういった形で,意識・態度,主体性・多様性・協働性というところですぐれた能力を持っている人がいる。

 こういった様々な学力を持つ人たちが協働することが,3次元の学力観では,この中の協働において新しい価値を創造していこう。つまり,社会集団として何ができるようになるかという新しい学力観がイメージできると思います。この学力というのは,「知識・技能×活用能力×意識・態度」,それぞれを併せたものが新しい個人の学力になるだろう。そして,これらそれぞれ多様な学力を持つ学習者というものの協働を図って,新しい社会に向かっていこう。そういった国民,市民を作っていくのが,学校教育が求めていくような新しい学力というものになる。基礎診断は,実はこういった能力を測れるようにすることが一番求められているのではないだろうか。こうすることによって,新しい学び方,新しい教え方,そして新しい学習者評価の在り方が見えてくるだろう。このための工夫をしなければならないと考えております。

 これ,実はDavid F. Labareeが1997年に書いているのですけれども,学校教育の目的というのは,この三つがある。市民的平等の形成。社会配分というのは,能力に応じて学習者をいろんな職種に分配していくということです。もう一つが社会階級移動。学校で頑張って成功すれば,よりよい生活ができるという。この公共善と私的善というものが組み合わさった形で学校教育というものは三つの目的を持っていると論じています。

 多くの場合,私たちの今までの学びというのが交換財として学びを捉えていた。つまり,学ぶことによっていい成績を取り,いい学校に行き,いい職業に交換していく。交換財として知識,学びを捉えていた。その場合に求められてきた学力とは何かというと,知識量と,より早く正解にたどり着く技能ですね。効率的に解を得る技能というのが捉えられている。つまり,フレミングの法則が何かとかよく分かってなくても,このときにはこれを使えばいいんだなということが分かっていれば学力は高くなるというような形であって,では,それをどう活用するか,それがどういう意味を持つか。そこまでの関心を育む必要性がほぼなかったということですね。

 私たちが,これから豊かさを追求していくときに,従来の消費力で測る豊かさ,これを,否定するものではないのですけれども,生産を伴わない消費力は25年程度で消失していきますので,生産力で測る豊かさを足していかなきゃいけないのではないか。消費力で測る豊かさというのは,今現在の社会でどういうことが起きているかというと,ここ10年,15年ぐらい,B級グルメ及び格安ブームがありますよね。お金をたくさん使わなくてもグルメが楽しめる。これは実はどういうことかというと,実際の消費力が減退している中で,消費の質を落とすことによって感覚上の消費力を維持しようと。つまり,消費をしているという状態を維持しようということです。そうすると,豊かさを感じられる。ただ,実際の消費力は減退していっていますので,実態の消費力に基づく豊かさの感覚はこれからどんどん低くなっていってしまう。  実は,学校教育,大学教育等においても同じ現象が起きつつありますね。つまり,今,大学で高いものを求めようというよりも,就業を求めよう。やはり目指すところがどんどん低くなっていく。そして,より効率的に学位を取得していこうという指向性が助長される。ここで作っていかなきゃいけないのは生産力になるのですけれども,なぜ消費力のみの場合は25年で減退するかというと,こういうデータがある。  製造業が仕事全体の何割ぐらい担っていったかの推移を示すグラフですが,ずっと減退しています。こちら,韓国を見ていただくと,1970年頃から上がって,1990年ぐらいに今度は下がり始めている。中国が2002,2003年ぐらいにまた上がり始めて,今現在,皆さん御存じのように下がり始めている。

 工場労働というものを誘致することは,たくさんの仕事を作りますので,国全体の消費力がアップするのですね。だから,経済が豊かになっていくわけです。ところが,ある程度豊かになってくると,労働賃金が高くなってきますので,工場が,外に出ていってしまう。そうすると,工場労働で働ける人が少なくなってくる。ここで,産業転換をしていないと,国の経済は落ち込んでいくということ。

 別のグラフもあるのですけれども,大体多くの国,アメリカやヨーロッパなどがどういう形で産業転換をしてきたかというと,知識・基盤型産業に変わってきたことが示されています。今までの工場に置く備品とかそういったものに資材投資から知識投資に変わったことが伺えます。つまり,インフラから職業訓練とかパテントとかそういったものに投資対象が変わってくる。投資対象が変わると経済レベルは維持できるけれども,投資対象が変わってない国,我が国は実はそうなのですけれども,経済力を維持できなくなってくるということです。

 消費による豊かさというものは実は非常に面白いことがあって,消費力に依存していくとどうなっていくかというと,消費力に基づく豊かさというのは,よりよいものを作ろうとか向上心というものには必ずしもつながらないわけですね。先ほどのB級グルメも一緒ですけれども,消費できなくなれば,もっと消費できるようになろうではなくて,消費の質を落とそう。そうすれば,消費力が維持できるとなるでしょう。その結果というのが何となく見えてくるのが,我が国の青少年の持つ将来の希望ですね。他国の場合,こういう形で変動しているのですけれども,我が国,ずっと顕著かつ特異な低下傾向,非常に特徴のある形が表れている。

 そのほかにも,今回の選挙の結果をうけて現時点ではちょっと違ってくるかもしれませんけれども,「私が参加することで,変えてほしい社会現象が変えられるかもしれない」というのは,我が国は「変えられないかもしれない」の人が多いわけですね。韓国も同じなのですけれども。こちら,「将来の国や地域の担い手として積極的に政策決定に参画したいですか」の設問では,我が国の場合,「参画したくない」が多いです。ここ,韓国が違うのは,韓国は「参画したい」の方が多いわけです。ということは,我が国の場合は,自分が参加したところで社会は変わらないし,だから,参加したくないという答えが出ている。これは,ある意味で,我が国の公教育というものが,社会集団というものを必ずしも十分に想定し切れなかったのではないのかということが考えられます。こういった形で学力というものが捉えられてきたことは,ここで一度見直して,基礎診断なんかを作るときに,従来の学力診断と違うものを測って,違う能力を育むための工夫が必要だろう。

 そこで考えているのが,コンピテンシーベースの学力の測定の在り方があるだろう。早口で申し訳ないですけれども,その場合に,ワーキング・グループの資料には,多様な測定ツールから適正な測定ツールを選択しようと示されています。そして,国語,数学,英語教科外への展開も想定されています。さらに,難易度別の測定ツールというのが想定されていますけれども,私見ですけれども,これらの在り方というのは必ずしも得策ではということをここで御提案したいと思います。

 基礎診断に求められているものというのは,この三つだと思っています。教育スタンダードの達成状況を個別次元で定期的にチェックする。個別次元というのは学習者の個別次元を定期的にチェックする。これ,学習診断機能です。もう一つ目が,それぞれの学校で行っているプログラムの成果を確認する。PDCAを回すために必要なものですけれども,評価・改善根拠の取得ということです。そして,もう一つ目が,各学校の強みと弱みを踏まえた促進措置。つまり,全ての学校が同じ能力を伸ばす必要はないわけですね。3次元ありましたら,その中の得意な能力を伸ばしていけばいい。そういったストレングスとウィークネスというものを見る。それは学校の個別診断機能に活用できる。この三つが基礎診断で狙えるものではないだろうかと考えています。

 その場合には,難易度別の測定ツールなどよりも,カットスコア制を使った方がいいだろうと考えます。スタンダードを作ることによって,最低到達基準を設定する試験がベターではないだろうか。その際に,これが求められる理由としては,もう一つ,数値化された相対的な学力比較による競争の抑止が求められている。そして,学習フェーズごとの到達目標を可視化して,理性的な,感情的なものとか競争的なものではなく,また煽動的なものでもなく,理性的な結果診断と分析,いわゆるマクロな教育モニタリングというものが求められてくると考えています。

 その際に,今現在,もう一つ,マクロな教育モニタリングとして,国際的に行われているPISAやTIMSSなどの活用があります。これは,システムからの質向上を図る。基礎診断はどういったことができるだろうかというと,ローカル・プラクティス,つまり,現場の実践からの質向上のための一つの資料になるだろうと。つまり,PISAなどが社会のマクロな方から学校教育改善というものの力になってきている。基礎診断は,それに対してローカル・プラクティスからの質向上のツールになり得るだろうと考えています。そのための具体的方策などは,また後ほどお話しします。そして,もう一つは学校の指導力診断ツールとしての可能性がある。その学年集団がどのように学んでいるのか。つまり,知識をただ吸着している学びをしているのか,それとも活用的な学びをしているのか。その程度がどの程度あるのか,そういった様々な幅を見ることができるだろう。そして,保護者などはそこから選んでくることもできるだろう。

 そして,その場合には悉皆型が一番ベターである。だから,多くの学校が参加することがベターです。学校開発と授業開発の診断的テストがこれでできることになるだろう。各学校の自律的な改善行動と,それに伴う力量形成に活用することができるのではないか。その場合には,従来的な評価軸のみでは不適当であり,塾化を回避するための作問や分析ストラクチャーが必要になってくると考えています。

 そうすると,今現在検討されている案のこの2点については再考が必要だろうと思います。つまり,他教科への展開を図るとどういうことが起こり得るかを考えますと,単一評価軸を用いた測定ツールが複数作成される。簡単に言うとどういうことかというと,国語,数学,理科,社会,英語とか様々な教科で,それぞれ単一評価軸を作ったものがたくさんできるだけだろうと危惧します。つまり,単一評価軸で学力が正規分布のような形で評価されるのがいっぱい出てくるだけではないだろうか。現時点の検討では,その危険性を回避するための具体的手立てがまだありませんよねという話ですね。

 さらに,そこでは教科ごとに与えられた知識・技能の定着を学力として測定する,つまり,従来の学力試験と余り変わらないものになってしまうのではないかということを懸念します。そして,難易度別の測定ツール,これはどういうことが起こり得るかというと,実はここが一番怖いところでして,こういう形になるのではないか。つまり,今の学力分布はこうなっている。この中で,学習者個人の責任に応じて学力が分布する。厳密に言うと,学習者の社会経済状況とかそういうのがいろいろ影響しているのですけど,何だかんだと言って,学習者本人の問題として学力差が捉えられる。ところが,基礎診断を,例えば,二つのレベルに分けました。低難易度,高難易度の試験をそれぞれの学校が選べますよとした場合に,低い難易度で選んだ学校は出来の悪い学校ということになってしまうだろう。そのときに,この中でどれだけよい成績を収めたとしても,社会一般的なイメージで言うと,こういう形の学力差がもうできてしまって,学校責任による,つまり,どこの学校に行っているかによって完全に分断されて,社会移動機会が失われてしまう可能性がある。この非連続性を防ぐ手立てを取らないで難易度別にすることは,実は個人起因ではなくて学校起因格差という形の新しい格差を生んでしまうのではないか。ここが実は,私,非常に懸念しているところです。

 そのために,実際にはどういった形の試験形態が求められるだろうかというときに,こういった形の試験ができるのではないか。ここで今,一応,「Level」と書いているのは便宜上です。ここが5なのでこちらも5にしただけなのですけれども,本当は2か3ぐらいでもいいと思っています。こちらの縦,これが既存の学力の測定軸です。難易度が低いから難易度が高いまで,ここまでは私たち,非常にイメージしやすいと思います。

 次の測定軸というのが,ここは活用する力,Level1からLevel5まで用意していますけれども,ここが単教科問題。例えば国語の問題であれば,国語の問題だけで知識確認問題と国語の応用問題をやっていく。そして,更にここに合教科問題。国語の問題に数学や理科や社会といった様々な要素を含めていった,2教科を含めた問題,3教科的な知識を含めた問題という形を形成していく。これ,飽くまでイメージですので,実際にはもっといろいろあると思います。

 Level5のところは社会課題。学校教育で必ずしも扱ってないけど,日常生活をしていれば耳にするよねというような課題ですね。例えば,環境問題であったりとか南北問題であったりとか,そういった様々な課題。こういったものを含んだ問題を形成する。そうすると,どういうことになるか。ここに複合的な難易度が出せてくると考えます。

 特にドイツなんかでは,正答率予測というのを学校にさせて,実際の正答率との比較をすることによって,教員や学校の予測診断力評価などをやっています。なぜ予測診断力評価が重要かというと,真正な学習者のアセスメントというのは適正な教育実践に必要であるという揺るぎない事実があるからです。つまり,学習者がどの程度の学力を持っているか,どの程度まで解答できるのかということをきちっと予測して,その予測がここで一致するかどうか。それを見ることは,教育を実践する上で非常に重要である。つまり,教育力向上への具体的ツールとして基礎診断を応用するためには,こういったものも必要ではないだろうか。こういう形で試験というものを考えていくことによって,従来の試験と異なる,先ほどの3次元の学力のうちの2次元まではこれで測定できるのではないかと考えています。

 これを更に,CBT(Computer Based Test)なんかに使われているItem Response Testなんかを利用すると,これが今度,3次元でできるのではないのか。つまり,その試験問題にどれぐらいの時間を掛けたか,どれぐらい,その試験問題をスキップしているかしてないか,どういった形で取り組んでいるだろうか,そういった様々なデータを組み込むことによって3次元化も可能ではないだろうか。3次元化にすると,3次元空間の中に学習者の学力が含まれてくる。学校の先生などは,その中で自分の教室にある学力,どういった領域に自分の生徒がたくさんいるだろうかということを理解して,更にそれぞれの生徒を組み合わせて新しく創造的な学習を組み込んでいく,協働させていく。また,学校間の協働なんかもそういったところでできていく。若しくは,自分のところの学生は活用能力は低いなとなると,活用を伸ばす取組を行い,また,次回の基礎診断のときにそこがどれぐらい変化しただろうかと見る。つまり,そういった形の学力の見方ができるのではないだろうかと考えます。

 なぜ,こういった形の試験をお示ししていますかといいますと,先ほど,第3回ワーキング・グループ資料のプロジェクト校で作成された試験問題,特に思考力,判断力,表現力の測定を目的とした設問案というものは,実はこれまでの文章題に図表を加えたものにすぎないのではないだろうかと考えられるからです。実は,思考力などを測る問題にはなり得てないと感じました。

 例えば,これですけれども,委員の皆さんは御存じだと思います。この問題というものは,予定された解の導出にとどまっていて,従来的な文章題の延長線である。そういう意味では,思考力,判断力,表現力等を求めているとは言い難いだろうと。なぜそうなのかというと,解の導出に必要な情報のみが提示されていて,出題者が設定した意図に従順な単一解を要求していると言えます。つまり,その点において従来の学力試験問題と余り変わらない。出題方法は若干違うかもしれないけれども,そこで求めている学力は全く同じものである。解の構築につながる情報を取捨選択する余地がない。

 つまり,その中に,物を買うとき,商品を選別するときに重要な情報,ただ,その人が取捨選択する情報,例えば,環境負荷の問題,リサイクルの際の問題,それがどこで作られたかという問題,どういう労働者を使って作られているかという問題,その企業の信用度とか様々な情報を組み合わせて,その中でよりよい選択をしていくのが21世紀の社会に求められていく消費者だと思うのですけれども,また,生産者を支持する,つまり,こういう企業を支持したいというような形で消費対象を選別していくことも知的な教養のある消費者には求められていく。そういった様々な情報を含めずに,出題者が設定した意図をそのままに選択していくことが求められている。これは必ずしも思考力等を求める問題とは言えないと感じました。

 そこで,お手元の資料にあります幾つかの事例として,一つ,GREから,これはアメリカの大学院入学基準学力テストみたいなものですけれども,レベルで言うと,日本の大学のセンター入試より若干易しいかなという程度の問題ですけれども,一つ,こういった問題が資料1-3のところに付けてあります。昨日,東北大の先生からもコメントを頂いて,それにお答えしたのですけれども,これ,単純な知能テストに見えるのですね。コップの中にどのボールが隠れているでしょうか。こういう条件のときにボールの順番はどうでしょうか。これ,知能テストに見えるのですけれども,実は結構深遠な学力を問うています。

 どういうことかというと,ある条件が設定されたときに,その条件の下で論理的に考えると,どういう解が,どういうものが結論として出てくるだろうか。そういうことを考える練習をふだんからしていないと,こういった問題はややこしくて解こうともしなくなる,解けなくなる。

 1-3のところを見ていただくと,いっぱい問題があって,これが4のところで閉じていますけど,5,6ぐらいまであります。様々に条件設定を変えたときにどうなるだろうか。これに対する解答意欲及び解答速度,また正確さ,この三つが求められる。これは,Computer Based Testにすれば3次元で測れてくるものになってくるだろう。つまり,日常の学習活動,教育活動において,ある複雑な条件というものを設定し,それを基に,しっかりと論理的に,どういうものが正しいかということを考えていくことが求められています。

 これを応用した大学の授業などで,例えば,妊娠中絶なんかをめぐるときの社会的な議論で,そのときにどういった立場があるのだろうかという考察があります。複雑な立場は,複雑なボールで表されます。複雑な立場,そして,そのときに様々な条件,それぞれの条件を設定したときに最適解は何だろうかと探していく。その練習と全く同じものになってくる。つまり,単なる知能テストではなくて,要するに,思考力及び態度のテストになってくる。

 その次のところに,今度は短文があって,その短文に基づいて質問をしてある試験があると思います。これも非常に簡単な論理テストに見えますけれども,このテストは,まず英国史を知っているかどうか。そして,『アーサー王物語』という,英語学習者であれば大体知っているだろうという物語を知っているだろうか。そして,歴史と伝承の連続性,つまり,物語の中には歴史的事実が含まれているかもしれない,含まれているだろうという類推,そういったものの背景知識があるかないかで,この問題は解くスピードが変わってくる,また,解き方が変わってくる。

 そういった形で,ここで測られているのは,学校生活に限らず,日常生活を通した教養レベルなのです。より多くの本を読んだり,より多くのものを見て類推的に考えたりする習慣が付いていれば,この短文を見て,すっと答えていける。ところが,そうでない児童・生徒というのは,なかなかこれを答えることができなくなる。これ,文章題に当たりますけど,実際に読んでいる文章は3行にすぎないというところで,試験問題の在り方としても非常に興味深い参考事例だと思われます。また,その次のところには,社会的事情,つまり,二酸化炭素排出と二酸化炭素の回収の事例を活用した問題を事例として出しています。

 最後に,机上配布のものですけれども,これは都立高校の先生が作られた問題です。実際に都立高校等でもこういった問題をやろうと努力はしておられますけれども,なかなか学校のほかの先生たちの合意が取れない。つまり,これは学校の授業でやってないよねという情報が入っていると試験問題にしにくいという現状がある。

 そういうことを考えたときに,この基礎診断というもののテストの作り方,つまり,今ある国語,数学,英語という三つのコアな教科と,そのコアな教科のコアな質問だけを設問するのではなくて,そこにいかに複合的知識を含めていくか。そして,いかに教養というものをそこに含めていくか。つまり,そうすることによって,教師であり,学習者であり,親でありが,子供の知的好奇心や関心,教養を育むことに投資をしようという意図を作っていく。また,思考力などを求めるような問題を形成していく。それが,こういった問題を解くときにどうつながるかを明確に認識してもらう。それによって,学力というものを従来の単一軸ではなくて複合的な軸で捉え,そして,そこの中にある多様な学力を認識させていくための一つの大きなツールになるのではないかという期待を込めて,皆さん,もう既に議論された内容もたくさんあるでしょうけれども,御紹介をさせていただきました。

 大体時間どおりだと思います。早口で申し訳ありません。どうもありがとうございます。

 

【荒瀬主査】大変興味深い内容を分かりやすく御説明いただきました。ありがとうございました。続きまして,滋賀県立玉川高校の中村校長先生,吉嶋研究主任,そして,滋賀県教育委員会事務局高校教育課の池澤指導主事,よろしくお願いいたします。

 

【吉嶋研究主任】滋賀県立玉川高等学校から参りました吉嶋と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 では,お手元の資料2-1を御覧ください。こちらを基本に,こちらに従って説明をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

 まず,本日の配布資料ということで,本資料を入れまして4種類御用意をさせていただいております。

 まず,学力とは,学力向上とは,なぜ,何のために学ぶのかということでございますけれども,これは,私たち現場の教員にとって, 問い続けながら日々授業作りをしている永遠のテーマではないかと考えております。

 また,高校はどんな場所で,高校の役割とはということでございますが,特に文部科学省からのこの事業を頂きまして,卒業後に生徒たちが出ていく社会,その社会が急速・急激に変化していることを照らし合わせながら学びを考えていく必要があると痛感しております。

 本日は,お手元の資料,コンテンツにございます四つのことを軸に御説明させていただきます。

 まず,今,どのような学力が求められているのかでございますが,本校の取組等を御説明申し上げる前に,まず,事業指定を頂きまして,その取組の方向性のよりどころとしたものについて少し触れさせていただきたいと思っております。

 平成21年3月に高等学校の学習指導要領が改訂されまして,そして,生きる力,言語活動の充実等が出てまいりました。その前段階としまして学校教育法が改正され,学力の重要な3要素,生涯にわたり学習する基盤が培われるようにということが明確にされました。ここで示されました基礎的な知識及び技能,それらを活用して問題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力,活用能力,そして主体的に学習に取り組む姿勢,学習意欲,それが学力の重要な3要素である。しかも,それが生涯にわたってということでございますので,教科書の知識を詰め込む,増やす,貯蔵量だけでなく,受験や就職対策を一心にするだけでなく,その先がある,社会につながる学びという観点で,これからは考えていかなければならないということを,この改訂によって私たちは感じたわけでございます。

 そして,それがより一層明確になりましたのが,この次の学習指導要領ではないかということでございます。ここで示されている学力,資質・能力というものをどんなふうにイメージすればいいかなと考えてみてください。生徒たちによくしている説明なのですけれども,私は英語教師でありますので,例えば,皆さん,まちを歩いていて,観光に来られた方が歩いておられると。海外から来られた方がおられたら,皆さん,そこでどうしますか。例えば,すごく単語を知っていて,すごく流暢に話せてということがあったとしても,皆さんが動けなければ,それはこれからの求められている学力ではないのですよと。その人は何が困っているのかな,どうしてあげたらいいかなということを考えて判断して,そして,分かりやすく表現する。そしてさらに,困っている人を何とかしたいというホスピタリティーなど,そういうものが含まれていて初めて学力なのだということを説明しております。

 また,授業をする中で,よく学校の先生方から質問を受けるのですが,「現行の学習指導要領からいろいろとキーワードが変わっているような気がするのですけれども,これって今やっていること,今までやってきたこととこれから先やっていくことで大きく変わるのですか」ということをよく聞かれます。特に「言語活動の充実」から「アクティブ・ラーニング」であったり,「主体的・対話的で深い学び」であったり,言葉が変わっているので,先生方,いろいろ心配されるのですけれども,それは流れが大きく変わったのではなくて,より一層変化を促しているということであったり,方向性がより一層生徒目線の学習者主体の学びに明確になったりということだと考えて,今までのことを全否定するのではなく,これまでの積み上げに加えてやっていきましょうと声を掛けて,みんなでやっているところです。

 また,もちろんこの文部科学省事業,頂いております事業が高大接続システム改革の中の1事業でございますので,高大接続システム改革の中でお示しいただいていることを踏まえて授業づくりに取り組んでいるところでございます。三位一体でこそ意味があるところでありますとか,また,指導の結果だけでなく,指導の過程の見取りや評価がより一層重視されていることを実感しているところでございます。

 なお,先ほどから,「だけでなく」というのを繰り返しているのですが,実は本校での取組の一つのキーワードが「だけでなく」になっておりますので,また,この後,何回か出てまいります。

 では,続きまして,本校の紹介を少しさせていただきたいと思います。滋賀県南部に位置する普通科高校でございます。ビブリオバトルなどにも取り組んでおります。なお,45分×7限で授業をしておりまして,ここの45分×7限のところは現在本校でも,今後これをどうしていくかというところを検討しております。

 そして,玉川高校の目指すところはということで,学校案内から抜粋をさせていただきましたのが7枚目のシートでございますけれども,教育方針に示されているものを目指して日々取り組んでいます。そんな本校の生徒の長所というのが,お手元の資料,モニターにも示されているような,真面目,穏やか,心優しい,丁寧,指示にはしっかり従うなどです。生徒自身も自己分析で,こう答えていますし,先生方の実感でもそうであるわけなのですが,でも,社会の動きとか学びの方向性からすると,それってどうなのだろうと。それが課題に変わってきてないかなということを感じているところです。それはアンケート調査等でも洗い出されたもので,これらの疑問点が出てまいりました。

 続きまして,8枚目のシートでございますけれども,今あるデータ,つまり,既存の測定ツールで見られることが今どんなことなのかということを紹介しながら,本校の紹介も兼ねていきたいと思います。こちら,スタディーサポートというものを持ってまいりましたけれども,基礎の定着度を見ることを目的としているテストでございます。いろいろとデータ提供がなされまして,例えばですが,昨年度の生徒と比べるとこうですよ,今の学年の生徒さんの経年変化はこうですよ,あるいは,学習量はこうですよね,学習習慣はこうですよね。また,テストの後の振り返りはこんな形でやっていますね。学習計画,自分で立てたことをちゃんと見直し,改善できているかどうかはこうですよというような分析結果が出てまいりますので,学校としては,それをCに位置付けて,活用することが可能です。

 また,9枚目のシートでございますけれども,これはGTECと言って,英語の技能テスト,本校ではリーディング,リスニング,ライティングの3技能型で今現在受検しているところなのですけれども,これも詳細なデータ提供がなされておりまして,例えば,半年に1回受検しますので,その半年でこうですよということが出てまいりましたら,それをCにしまして,では,学校としてはどうしていったらいいのか,どの取組が効果的だったのかなどなど,CからA,P,Dにつなげていくことが可能であるツールが,既存のものとしては今現在もある状況でございます。

 そうなりますと,今求められている学力に沿った測定ツールとはどのようなものかというところを我々自身も今,試行錯誤しながら考えているところなのですけれども,学びの成果,変化・変容を見取って,これからどうしていったらよいのかということが確認できて,PDCAサイクルのCに位置付け,生徒とも結果を共有しながら活用できるものということから,「高校生のための学びの基礎診断」はどのようなものになるのかというところを,私たちも非常に待ち遠しく,期待を持っているところでございます。

 では,続きまして,本校の取組の具体をもう少しお話しさせていただきます。先ほど,10枚目のシートのところで本校生徒の長所を挙げさせていただきましたように,長所も過ぎれば課題になってしまいかねないのではないかという声が出始めた中,平成28年度,昨年度に「高校生の基礎学力の定着に向けた学習改善のための調査研究事業」の実践研究校として指定いただきました。「Do it here, not later!」というのは,「いつやるの? 今でしょ」という,ちょっと前の言葉ですけれども,そんな気持ちで,文部科学省事業を受けたことのない学校だったこともあり,非常に不安もありましたけれども,やってみようということで取り組み始めました。

 その時に,最初に描いたビジュアル図がこちらでありましたけれども,教育目標,重点目標を土台にした足し算であると。これまでのいろんな先生方の頑張りを否定するのではなくてこれからどういうことをしていかなければならないかを,だけでなくというところで。あとは掛け算,バッテン印になっているところですけれども,学校教育活動全体を通して,つまり学習指導を軸には置くのだけれども,それらが全て相乗効果的に結び付くようなものになればよいということでスタートしました。

 そして,12枚目のシートでございますけれども,調査研究の組織図です。これは今年度もほぼ同様でございますけれども,全ての教科を挙げて,全校挙げて取り組んでいくことが必要ではないかということで,学力向上研究委員会という組織が軸となっており,そこには全ての教科の代表の先生が入っていただいております。

 そして,そのシートの右側に,昨年度の軸となったものを三つ挙げさせていただいております。その軸となりましたものの中の一番左側に,評価問題研究というのがございますけれども,この評価問題といいますのは,各学期の考査で必ず5教科・各2科目で思考力・判断力・表現力を問う記述式問題を作っていきましょうということで実施しています。

 その当該の設問については,少なくとも100点中の10点以上とし,生徒に点数を示すときには,思考力・判断力・表現力が,それぞれ何点取れたかということを点数表示するようにしています。また,分析シートというのを作っておりまして,点数を入力する以外に,出題の狙いでありますとか問題の妥当性,事後の感想や今後の取組への具体的な方策などを書くようにしております。

 そして,そのように1年目が慌ただしく通り過ぎてまいりまして,やり始めたからこその不安や悩みを抱えつつ,試行錯誤しながら,今現在,2年目に来ているところです。知識だけでなく,学ぶ方法や姿勢を身に付けること,答えを引き出すだけでなく考えを引き出す授業,知る,覚えるだけでなく理解する,考える授業,そして,進路実現のために必要な学力はもちろん必要なのだけれども,それだけでなく,大学や社会につながる学びを行うことが必要だということで,2年目を迎えて,今現在取り組んでいるところでございます。

 そうしまして,そういうところで,お手元のプリント,そして,モニターにお示ししているような調査研究の視点を二つ持って,資料2-2でございますが,このシートの右側にお示ししました形で今年度は取り組んでいるところでございます。

 そして,これはお手元の資料には入れておりませんけれども,本校の取組に指導,助言を頂いている先生方が,事業指導委員としまして4人の先生方,奈良教育大学の赤沢早人先生,龍谷大学の大西俊弘先生,産業能率大学の小林昭文先生,そして,立命館大学の山岡憲史先生。そして,今年度はその名4名の方々に加えまして,6月の教員研修で京都大学の溝上慎一先生,そして,7月,11月に立命館大学の井上雅彦先生にお越しいただくことになっております。

 次のシートでございますけれども,学力の土台について,二つ,学校の中で定めました。こういうところが必要であろうというものです。それに従いまして,シートの右側でございますけれども,ここに書かれているような,28年度から取り組んできたことに加えまして,太字になっている部分ですけれども,生徒による授業評価の更なる活用や基礎診断テストの活用,そして,この後,別の資料でお示しします「生徒の成長モデル」(評価指標)の作成や校内公開授業月間の工夫,ICT関係の整備や「授業づくりBOOK」の作成,カリキュラムの見直し,そして,学びの土台となりますものを育成するに当たりまして,総合的な学習の時間やロングホームルーム等の見直し・再編についても検討しているところです。

 また,今年度新たに始めましたものの一つとしまして,高大接続研修の実施,関西大学での現地研修でございますけれども,関西大学におかれましては,文部科学省指定「大学再生加速プログラム」という事業をおられまして受けておられまして,その中の取組と本校の事業の取組が一致したところで,今年度から御協力を頂いております。

 シート16枚目でございますけれども,これは,本校が今後最も“てこ入れ”が必要な部分なのですが,既にしていること,今やり始めていること,今後すべきことを整理して,様々な段階でPDCAサイクルを好循環で回して,カリキュラムデザインを確立することが今後必要かと考えているところでございます。

 また,シート17,18枚目につきましては,細かい説明は割愛させていただきますけれども,8月開催の事業連絡協議会の資料でございますが,他校の実践研究の取組にも学んだり教わったりしたいと思っております。

 では,最後に,「高校生のための学びの基礎診断」に期待することでございます。こちらでございますけれども,まず,昨年度,試行調査を実施した結果ということで,お手元の資料に挙げさせていただいているような感想や状況が校内で出てまいりました。それを踏まえまして,★印二つの項目,これらのことを期待しているところでございます。

 やはり教職員が意義,目的を十分に理解して,それを生徒,保護者に説明する責任があるということ。また,★印の二つ目につきましては,生徒の学力向上と教職員の指導改善・授業力向上に生かせるものであるかどうかというところに非常に期待をしているところでございます。

 また,シートの21枚目に書かせていただいております状況でございますけれども,これらの感想や状況を踏まえまして,★印の一つ目でございますけれども,受検することが目的になったり,まして,学校間の序列化,先ほどのお話にもありましたけれども,いろんなイメージの固定化が行われたりするようなものになれば,学校としては受検を躊躇するところがあるのではないかということ。また,事前,実施,事後の流れの中で,生徒の達成感,自己肯定感が上げられ,また,教職員にとっても成果と課題を確認して励みになればと思っております。

 そして,「本校の取組,試行錯誤の中から……」ということでございますけれども,お手元の資料,シート23枚目に教師の声を三つ,そして,生徒の声も挙げさせていただきました。やはりやり始めたからこそ,いろんな声が出てきている状況でございますけれども,その中から,星★印三つに挙げさせていただいたような“既存のツールとの差別化”もありますし,また,クロスして活用できればと思っております。あるいは,社会につながる学びの実現に向けては,進学先で求められる資質・能力や社会人基礎力等で示されているものとリンクする。また,教職員自身にとっても学びや発見があるものであればということを期待しております。

 そして,外部試験以外に,例えば,既存の測定ツールとしてどういうものがあるのかということで紹介させていただくのが,資料2-3にお渡ししておるものなのですけれども,滋賀県で作成しております英語の4技能に関する「CAN-DOリスト」というものがございます。こちらについても,「高校生のための学びの基礎診断」や学校で作成途中の評価指標とクロスしていきたいと思っています。詳しくは,資料2-3を御覧いただければと思います。

 もう一つが,資料2-4にございます「生徒の成長モデル」(評価指標)でございますけれども,目指す生徒像に従いまして,生徒に付けたい力を,本校では,ここに挙げましたカテゴリーとしては三つ,項目としては六つ掲げております。これらの項目は,次期学習指導要領を踏まえつつ本校生徒にこれが必要であろうということが,実際にアンケート結果の中から挙がってきたものです。

 知識・技能については3段階で示しております。なお,表の一番右のところに,「各教科でのアプローチ」ということで色の濃淡があるのですが,こちらは教科を挙げてやるのだけれども,特に自分が担当する教科では,ここが得意分野だ,重視するというものを挙げていただいて,それらが全て合わさると,玉川高校での一つの人材育成,学びが出来上がるというイメージで作っています。

 そして,最後でございますけれども,「高校生のための学びの基礎診断」の位置付けですけれども,Cを起点に,A,P,Dにつなぐための評価,見取りのところの非常に重要な機会,ツールになると私たちも大変期待をしているところです。そして,最後に,また最初の問い掛けに私たちも立ち戻って,いろいろ考えたいと思っています。

 御清聴,どうもありがとうございました。

 

【岡本委員】お二方から,とても面白い話を頂きまして,ありがとうございました。2点ほど質問させていただきます。

 まず1点目は,百合田先生の方なのですけれども,基本的なことなのかもしれないけれども,パワーポイントの16ページのところで,「コンピテンシーベースの学力の測定」というグラフがあります。基本的には,私,おっしゃっていることには9割ぐらいは賛同して,同じ意見なのですけれども,ちょっとお伺いしたいのは,要するに,コンピテンシーベースの学力の測定で,現状は上みたいになっていて,上みたいなのを想定してやっていくと下みたいになってしまうという御説明だったように思うのですけれども,伺いたいのは,現実に現在,学力の分布を見たら,本当に上みたいになっているのでしょうか。そういうデータってあるのでしょうか。私の実感からちょっと離れているので。どういう物差しで測っても下みたいになっているのではないかというのが私の実感なので,ちょっと教えてください。

 

【百合田上席フェロー】ありがとうございます。おっしゃるとおり,現在,我が国の学力に関してはフタコブラクダ型とよく言われますけれども,全体量を測定したわけではないですけれども,イメージとしてはフタコブラクダ型になっているのではないかとは思います。

 ただ,ここで二つあると思うのです。一つ目は,まずは,これは,イメージであるということ。通常,たくさんの量をやると正規分布になっていくというところで,イメージでこういう形で,便宜上示しているということです。もう一つ目は,フタコブラクダ型(の学力分布)に今なっているからといって,難易度を二つに分けて基礎診断を実施することで,それを学習者起因の学力差というところから学校起因にしてしまうことの危険性を示すことが大きな目的です。つまり,学習者起因であれば,様々な研究や対処ができてくると思います。貧困家庭においては学習支援をしていくとか,様々なことがあります。ただ,これが学校起因になってしまうと,つまり,様々な社会的な支援を検討することは非常に難しくなる。また,学校間格差が固定化してしまう。そういった課題があるために,難易度別試験を基礎診断で行うことには危険性があるのではないだろうかというところの要点をお示しさせていただいたものですが,御質問ありがとうございます。

 

【岡本委員】そこはもうよく分かりました。大事なことなので。いずれにせよ,フタコブであろうと,実際の高等学校に入ってくる子供たちは,きっと上みたいに,どっちにしろ,下の絵で言えば,これをずっとこっちへ寄せていくのがとても大きなことであろうということなのですけれども,もう1点,これは細かいことなのですけど,コンピテンシーベースのあれで,問題に対する批判のところで,1点気になったのは19ページなのですけど,私自身,数学なので,この問題がどうこうということではなくて,難易度をどういうふうに考えるのかということなのですよ。

 数学で言うと,数学の難問というのは,別に世界的な難問ではなくて,高校生にとっての難問というのは,知らないことがあるから知らないと解けないというのではなくて,実は非常に情報の余地がたくさんあって,そこから取捨選択するという範囲が入ってくれば入ってくるほど難問であると,私はそう認識している。そうすると,おっしゃっていることは100%,ここの部分については賛同するのですが,要するに,コンピテンシーベースの学力測定モデル,例えば,この問題を出すと,確かにそうなのですけれども,むしろこれは難しくなっちゃうという不安を持っています。それは,難易度に関する考え方が違うのかもしれないですけど,私はそういうふうに思っています。これは意見みたいなものなので,反論していただければと思います。

 

【百合田上席フェロー】喜んで。ありがとうございます。難易度に関しては,従来の学力試験などで言われている難易度というものに関しては,私,専門外ですので何とも言い難いところがあります。ただ,今岡本委員がおっしゃるように,数学に関しては,例えば,プラグマティックイシュー,より現実的,日常的な問題を入れ込みましょう。そうすると,より理解することができていくというような考え方があると思います。

 同じように,先生がおっしゃるように,いろんな情報があるから難易度が高くなっていく。正にそのとおりだとは思います。それが,17ページのようなイメージにつながってくるのだと思います。より複合的なものを入れ込むことによって難易度を高めていく。つまり,今,ここの19ページで出されている問題は,一つの問題に対して解が一つ。それでもう終わってしまう問題ですけれども,ここに複合的な問題を入れていけばいいですね。例えば,この状態であれば,どっちの冷蔵庫がよいでしょうかと。さらに,A子さんは最近の新聞記事などで国連のCOP何々を聞きましたと。そういった観点から考えたときに,いろいろそこから情報を付加していくと,ある一定の水準で解けること,解けないことが出てくると思います。そういった形で考えていくのが,思考力などを測るテストではないだろうかと考えています。ここでお示しした19ページの問題の大きな課題点というのは,その問題が現状においては,従来の学力測定とほぼ変わらないものになっていると。これが,国が管轄して試験問題を作るのであれば,その辺,しっかりコントロールができると思うのですけれども,やはり民間に委託して試験問題を作っていくときに,そこのガイドラインを明確にしていく必要があるのではないだろうかというところの御提案でございました。反論ではなくて,全くおっしゃるとおりだなというところに付け加えさせていただいたという形ですけれども。

 

【岡本委員】おっしゃること,よく分かりました。

 

【長塚委員】百合田先生に質問があります。御説明を伺っていて,学力の3要素というのを前提に,コンピテンシーを3次元でうまくまとめる方策を御提案いただいて,ちょっと驚いたのですが,ある種,タキソノミーのような形式かなと思いつつ,今示されている17ページ目について尋ねたいわけですけれども,既存の調査軸だけでなく,合教科や社会課題といった複合問題の軸を持つことによって,少なくとも学力の二つの要素はカバーできるという実現可能性のあるような御提案だと思いました。ただ,もう少しお聞きしたいのは,合教科とか社会課題となっていくと,これは記述問題が中心になるのではないかと考えられます。つまり,基礎診断の中で,共通テストでも議論していることと同じように,解が一つに定まらないような問題をどんどん出していくことを意味します。記述問題を出すことは私も賛成ですけれども,また,そうすることも含まれているとは思うのですが,これでコンピテンシーがどう付いたのか,出題する問題としてはこうなのかもしれないけれども,どういうコンピテンシーが付いたのかということまで言い切れるのかどうかは,私にはまだ見えない。

 あと,縦軸も,知識のレベルを,五つではなくても三つでもいいとおっしゃったわけですが,これもそのレベルをどう設定するのがいいか。どの程度付いたかということについての指標みたいのがないといけないのではないかということについて,何か先生から補足というのでしょうか,教えていただけることがあれば,お願いしたいと思います。

 

【百合田上席フェロー】ありがとうございます。試験問題等を作成される専門家の方がたくさん後ろにおられる中で大変説明しづらいところではあるのですけれども,私,その辺,専門ではないので。ただ,一つお話しできるのは,資料1-3の3ページ等が,例えば,コンピテンシー等を考えるときの合教科問題に当たるのではないかな。また,後ろの方には回っていないと思うのですけれども,机上配布の問題なんかは,そのための一つの参考事例にはなるのではないか。様々な社会状況とか社会情報とかデータとかを活用して国語の問題に答えさせていくというようなものになっていますけれども,そういった形の出題の仕方ができるのではないだろうかとは考えています。

 また,どのようなコンピテンシーが付くかとおっしゃっておられましたけれども,コンピテンシーというのを細分化して考えるというのは,実は従来的な学力観に基づいてコンピテンシーを理解すると,そうなるのですね。ただ,OECDなどで検討しているPISA型学力等々で考えておられるコンピテンシーというのは,総合的な資質能力という形でコンピテンシーと捉える,そういった捉え方から,3次元で捉えたものをコンピテンシーという形で言っているというところで,「コンピテンシーベース」という形でお話ししています。

 つまり,コンピテンシーも今度,思考力だ,判断力だ,表現力だという形で細分化してしまうと,従来の試験と同じように,一つの評価軸をたくさん用意するという形のものになってしまって,複合的な学力というイメージとの違いが付きにくくなる。つまり,ここでお話ししているのは,今まで私たちが言っている学力という概念を置き換えるものとして,「コンピテンシー」という言葉を使わせていただいているという形なのです。それが恐らく,先ほどの滋賀県の高等学校の先生の御発表にありましたように,「様々な」とか「複合的な」とか,そういった形の学力という意味でのコンピテンシーと御理解いただけると思います。こういったレベル別に分けているものをどう評価していくかというところに,いろいろアイデアが専門の方から出てくるのではないかという期待を込めて,こういう形でさせていただいています。

 

【前川委員】やはり百合田先生にお伺いしたいのですけれども,20ページのスライド,これなのですけど,これというのは,学力の3要素と言われているものの中の論理的思考力を測ろうという試みなのでしょうか。お話を伺っていて,ちょっと古い言葉なのですけど,流動性の知能とか結晶性とかありますよね。これは,知識に依存しない,どっちかというと流動性の方を若いうちに鍛えとかなければならないという,そういうお話のようにもうかがえたのですが,逆にそれを教科として日本では教えてませんよね。だから,そこのところの整合性とか,果たして独立に測れるのかとか,その辺のところを教えていただければと思います。

 

【百合田上席フェロー】ありがとうございます。その辺りは,先ほども申し上げましたが,私の専門ではないのですけれども,資料1-3の1を図式化したものが,こういうものになります。文章だけで書いてあると,ちょっと分かりにくいので,イメージを付けたのですけれども,これだけ見ると,おっしゃっておられるように,若干違うと感じられると思います。ただ,これが問題の一例なのですけれども,こういった形の問題が,なぜ大学院で学ぶ資質・能力があるかという試験で求められているかということをお考えいただいたときに,つまり,日常的に論理的に思考する訓練を受けてないと,問題を解くことすらできない状態になってしまう。つまり,問題自体がややこしくて,それを解こうという意識さえも起きないという状況になる。

 つまり,この問題というのは,先ほど,ちょっと事例でお知らせはしましたけど,人工中絶などの問題をめぐる議論の中で非常によく使えるのですね。人工中絶をするという方の条件を考えたときに,いろんな条件が考えられる。また,それを支持する,反対する,それも様々な条件が考えられる。そういった条件を一つ一つ球のように,ボールのように整理していって,それぞれの条件というものを組み合わせていって,どの条件が,どういった形の判断基準が社会的に一番合理的だろうかという最適解を考える練習というのは,アメリカの場合は中学生ぐらいからずっとやるわけです。  そういった練習が行われてきている学校の生徒であれば,こういったものは結構スムーズに解けていく。つまり,一つ一つの課題というものを,自分の感情ではなくて,一つ一つのツール,道具として考えて,それを置き換えていって,数式などを立てていって検討していく。そういった技能をここで測定するというもので,これはボール以外にも,例えば,国際会議の席順というやつでもあるわけですね。この国とこの国とこの国とこの国が参加しています。この国とこの国は今,交戦中ですという形で,どういった形で並べればよいでしょうかと。そういった比較的,いわゆる試験というものに対して既成概念のある生徒でもパズルのように考えていくことができる。そういう意味では,思考力,判断力を測定していく一つのやり方ではないか。これが正しいと言っていることではなくて,こういった形の考え方もあるのではないだろうかというところで,一つの案として御提案させていただいたものです。

 

【根岸委員】先ほどの生徒起因とか学校起因という話は面白いと思ったのですが,今まで生徒起因の要因が語られることが多くて,学校起因となったときに,誰がどういうふうに評価結果から,その要因を考察するのかというのはちょっと難しいかなと思ったのです。また,自分がやった調査で申し訳ないですが,今年と去年と,先ほど,英語の方で紹介があったGTEC for studentsというあのデータを使って,学校ごとの伸びを全国データで見たのですが,実際に見てみますと,かなり伸びている学校がある一方で,ほとんど伸びていない学校があるのですね。多分,ずっと何年も学校としてはやられてきていると思うのですが,結構伸びてない学校が学年をまたいで伸びていなかったりするということがあるのですが,私が知る限りでは,そういう学校であっても,その問題に余り気付いていないと。生徒の得点は見ているけれども,学校としてどうだというようなことに余り気付いていないであるとか,特定の技能が伸びていないことにも気付いていないということがあると思うのですね。

 PDCAを回すというときに,先ほどの高校の方にもあったのですが,Cというのは結構重要なのですけれども,それが全員なのかもしれないのですが,どういう形で誰が見えるようにするのかというのが知りたいということと,それから,もう一つ,先ほどの前川先生の御発言とも少し関係があるかもしれないのですが,17ページの,先ほど皆さんが見たところで言うと,複合的な難易度という方向に向かった場合なのですけれども,PDCAのCの話で言うと,ある種の診断が学校だったり個人に対してなされる場合に,複合的な度合いが高まるほど診断が難しくなるかなという印象があるのですが,診断そのものが教育評価の中では常に言われているのですが,実はちゃんとした診断,私,英語ですけれども,英語の診断なんかでも,テスティングの教科書には必ず診断テストってあるけれども,ほとんど研究されてきてないみたいなことが最近も言われていて,それが更に複合的な形になったときの診断のイメージをどういうふうにするのか。複合的なものの結果を診断したとして,それが現場の教室というか,先生であるとか生徒にどういう形で返っていくのかという辺りが,もしイメージがあれば教えていただきたいと思います。

 

【百合田上席フェロー】まず,学校起因と生徒起因のところですね。学校起因と生徒起因で学校起因のところの問題を挙げさせていただいたところは,まず,難易度別試験をやったときに出てくる大きな問題というところでの「学校起因問題」があります。一方で,難易度別試験にしなかった場合,基礎診断の結果は学校起因の問題を明確にするという点が基礎診断の強みだと思います。つまり,全ての学校で複合的な難易度を持つ試験を行うことからは,基礎診断の優位性が見えてくる。一方で,基礎診断を,難易度の違う試験を幾つか用意して,学校に選択してもらいましょうということになると,今度は学校起因のところが見えなくなるがために非常に危険な結果につながってしまうのではないだろうかというところです。

 ですから,根岸委員のおっしゃるとおり,基礎診断を用いて,生徒起因及び学校起因の両方を見ることができる。さらに,学校起因に限らず,学級起因まで見えてくるのではないだろうかというところで,基礎診断には大きな期待をしているところであります。ただ,その期待があるために,難易度別試験という形で学校起因の格差が固定化していくような仕組みや可能性については,きちっと批判していかなきゃいけないだろうと考えています。  二つ目ですけれども,こちらの評価の在り方というのは,これは非常に難しいと思います。特に,今,横軸の試験,測定軸というものを,今まで作ったところがほとんどないと思います。OECDなどでも,いろいろ頑張ってやっていますけれども,相当な予算を投入していますので,やはりそれだけ費用がたくさん掛かる。このため,そこで作られたものを参考にして作っていくというのは一つのやり方かとは思いますけれども,ここの横軸を考えるときには,もっと専門的な方とか,もっと国外のアイデアをたくさん入れていく必要性があるだろうと考えます。特に我が国の場合は,縦のものが非常に長い歴史を持って実績がありますので,横軸に関しては,よその国の事例などを参考にする必要があるかと考えています。

 ただ,一つイメージとしては,先ほど,ドイツの場合がありましたけれども,この升目をもう少し少なくするというのが一つ目ですね。ドイツの事例のように,正答率予測を各学校でやっていく。そして,正答率と比較をしていく。もう一つ目は,正答率というのをカラーコードなどにして,色が濃くなる,薄くなるなどしていくような形で,満遍なく,その場合は升がもうちょっと大きくなっていく,小さくなっていくと思いますけれども,色別なんかで,強みが色で見えてくるような形にしていくと,学習者も評価を見たときに比較的分かりやすいかとは感じます。

 もっとよいのが,CBTのアイテムレスポンステストを使うことです。そうすることによって,より細かく解答状況とか,解答する努力をしたか,してないかというところまで見えてくるので,その辺までが見えてくると,こういった形での評価の活用可能性がもうちょっと見えてくるかな。ただ,ここでお示ししたのは,具体的にこうしましょうというような案というよりも,こういう形で見ていく必要が今あるのではないだろうか。こういう形で見ていかなければ,恐らく基礎診断というのが従来の学力診断と余り変わらない形で出てきてしまうのではないだろうか。そうすると,危険なのが,基礎診断を活用しようというモチベーションが形成されないのではないだろうかという点です。やはり活用されて初めて有効ですので,従来型の試験と差別化を図る意味で,複合的にある必要は必ずしもないと思うのですけれども,横軸というものを何かしら検討して,コンピテンシー的な形で学力を測定していく取組を依頼する作問基準とかが必要になってくるのではないだろうかという御提案になります。お答えになっているか分かりませんけれども,ありがとうございます。

 

【長塚委員】滋賀県の玉川高校の方にお聞きしたいのですけれども,次期の学習指導要領改訂を踏まえた意欲的な取組をなさっているので非常に驚きました。吉嶋研究主任は英語科の先生だということもあって,最後に御紹介いただいた滋賀県モデルのCAN-DOリストの活用についてお尋ねします。このモデルは12のレベルになっているわけですけど,これは先生たちが相当意識して指導されているのか,玉川さんにおいてでもいいのですが,あるいは,生徒にこれをあらかじめ示すようなことがあるのかというのが1点。

 もう一つは,CEFRが最近この基礎診断でも英語学力の基準に据えられようとしているわけですけど,CEFRというのは分析的な,4技能に分けたようなものではなくて,全体として英語力を捉えて,それがどの程度かということを意識して表示されています。そこで,CEFR段階というものがこんなふうにあるんだよなんていうことを,生徒に示すことがあるのかどうか。先ほど百合田先生から,コンピテンシーは細分化して考えるよりも総合的に捉えた方が適切ではないかという御指摘も頂きましたが,CEFRの段階記述は非常にシンプルに書かれているわけですけれども,そこのところの関係を,もし何かあれば教えていただきたいと思います。

 

【吉嶋研究主任】まず,CAN-DOリストの使い方でございますけれども,こちらは中高で12段階という設定になっておりますので,まず高1の段階で,入学時でどの程度か,それぞれの技能でどのぐらいの力があるのかを測る一つの物差しになりますのと,その後,生徒たちをどういう形で卒業させたいのかということを定めて,バックワード的に計画して実践することに使うことができます。

 本校におきましては,まだまだこれを完全に活用し切ってはいないと思うのですけれども,生徒たちのそれぞれの活動状況でありますとか,様々な評価やテストをする際に,今の段階では教師の参考資料という形で使っている状況です。ですので,今後としましては,これをもともと作りました意図は,実は私もこの作成に参画したのですけれども,生徒に夢や将来の見通しとか,こういうことができるようになりたいという目標を持たせるためのものでありましたので,今後はより一層,生徒と共有して,生徒自身が振り返る物差しとして活用することについて,より一層てこ入れしなければならないと思っております。

 それと,もう一つ,CEFRについてでございますが,このCAN-DOリストを作成する際に,CEFRも参照いたしましたCEFR自身が,いわゆる生活するための英語力に軸を置いたものでありましたので,直接的にこのCAN-DOリストにその文言等を移し換えることはなかったのですけれども,このCAN-DOリストについては,能力記述文の中に使われている条件や状況,言語の使用場面についてはCEFRで見ているところと共通するところがございますので,それを生かすような形で作成しております。  生徒に示しているのかというところでございますけれども,本校ではまだそこまではできておりません。ただ,現在,各試験団体のデータとCEFRの対照表等も出ておりますし,今後,4技能型のテストとのCEFRの対照表も出ると聞いておりますので,そういったことも踏まえまして,より一層,生徒目線の活用に生かせるように努力してまいりたいと思っております。 (2)「高校生のための学びの基礎診断」に係る民間事業者の意見等について(意見交換は議題(3)「「高校生のための学びの基礎診断」の認定基準及び手続等について」と併せて実施) 【事務局】資料3を御覧ください。資料3は,先月22日に,「高校生のための学びの基礎診断」に係る民間事業者等説明会を開催しまして,当日の意見交換,そのときに実施しましたアンケート調査の結果を御報告するものです。

 1枚目を御覧ください。1枚目は,当日の意見交換における主な意見をまとめたものです。一つ目の項目なのですが,記述式問題や英語の4技能を盛り込んだ場合に,そのコストが受検料に転嫁されてしまう。今回の基礎診断を受検される御家庭の経済的な状況を考えたときに,かなりのギャップが生まれるのではないかという御意見がありました。  二つ目に,申請書に記載する情報の中には,出題や運営に関する事業者のノウハウ,すなわち企業秘密に該当する情報が含まれているように見受けられる。この点については配慮をお願いしたいということでした。

 三つ目としては,これは授業内に終わるように実施時間を設定することが求められるという説明だったと思うが,申請書の様式の記載例では,英語の実施時間が4技能合わせて70分となっているが,この実施時間についてどう考えているかということでした。

 四つ目としては,こちらはスケジュールのお話ですが,多くの学校が秋から冬に掛けて次年度のスケジュールを組むため,夏に申請,秋に審査,初冬に認定・情報提供という形で進めると,次年度のスケジュールを組み終わった後に認定された測定ツールの情報が公開されることになるのではないかと懸念しており,春に申請,夏に審査,秋に認定・情報提供のようなスケジュール感で進めることができないかという御意見でした。  最後に,五つ目ですが,申請書では,主にPDCAの「C」を書くような内容となっているが,高校現場の先生の立場からすると,テストの内容だけ示されても,PDCAをどう回すのかが分かりにくいので,PDCAをこのように回すということを示さないと学校に選択いただけないのではないかという御意見でした。

 2枚目を御覧ください。2枚目はアンケート調査の結果のポイントです。民間の19機関より回答いただきました。その主な内容について紹介しております。

 「認定要件について」の一つ目にあります記述式問題の出題については,3機関が「認定を受けるか否かの判断に影響がある」要件として回答いただきました。その理由としては,採点の公平性の担保に懸念があることや,そもそも採点するシステムがないことなどが挙げられました。また一方で,学びの基礎診断の目的にのっとると,記述式問題については,思考力・判断力・表現力をしっかり問えるものにするべきであるという御意見もありました。

 次に,英語4技能の測定について,9機関が「認定を受けるか否かの判断に影響がある」要件として回答いただきました。その理由としては,「聞く」「話す」技能を測定できるツールを持っていないことや,「話す」技能を測定するシステム開発に掛ける投資コストを回収できる保証がないこと,タブレット等の機器を学校に貸与する場合にそのコストを受検料に転嫁することになるために,受検料が高額になってしまうといったことが挙げられました。

 また一方で,特に英語のスピーキングについては,「思考力・判断力・表現力」の測定をベースにした「話す力」を測定できることが重要であるため,音読や復唱などを音声判定で行う程度では4技能のスピーキングの要件を満たすことにならないのではないかということを明示いただきたいという御意見もありました。

 それから,申請書・事業概要報告については,企業の機密情報やノウハウに相当する可能性があるために慎重に検討いただきたいという御意見がありました。

 一番下のところですが,認定に係る検討状況についても意向の確認をいたしました。認定を受けることについての検討状況として,「認定を受ける方向で検討する」と回答いただいたのが9機関,「認定を受けない」として回答いただいたのが3機関,「検討中」として回答いただいたのが4機関でした。

 さらに,申請を検討している測定ツールの具体的な内容につきましては,新規に開発するものが7件,既存の測定ツールを改良するものが10件,既存の測定ツールそのものが3件という結果でした。

 3枚目につきましては,アンケートを通じて得られた疑問点を御紹介しているところですが,時間の関係で説明は割愛させていただきたいと思います。

 資料4が,このアンケートの詳細な結果をまとめたものになっておりますので,こちらも併せて御覧いただければと思っております。

 

 

(3)「高校生のための学びの基礎診断」の認定基準及び手続等について

 

【事務局】資料5を御覧ください。資料5につきましては,「高校生のための学びの基礎診断」の認定基準・手続等を取りまとめるに当たって,その骨子案となるたたき台を示すものです。御覧いただいていますように,大きく3部構成を取っておりまして,第1部,ローマ数字1のところですが,「『高校生のための学びの基礎診断』の認定基準・手続等」ということで,認定の基準・手続の大きな枠組みを網羅的に記載することを想定したものです。  ローマ数字2の部分につきましては,「高校生の基礎学力の定着に向けたPDCAサイクル構築に向けた測定ツールの効果的な選択・活用」ということで,いわゆる測定ツールの活用のところに重点化したような節になっております。中身としましては,基礎診断そのものの具体的な活用方法や基礎診断以外の測定ツールを含む多様な測定ツールの効果的な選択・活用といったことが想定されます。

 ローマ数字3,第3部としましては,「基礎診断に望まれる事項」ということで,運用開始当初から,望ましいという事項や,将来的な検討課題といったものに至るまで,基礎診断自体若しくは基礎診断の制度自体に望まれる事項として挙げられるものをここにまとめることを想定しております。

 続きまして,資料6を御覧ください。資料6は,「高校生のための学びの基礎診断」の測定内容の区分に関して,一定の類型を設けようというもののたたき台になってございます。御覧いただいていますように,民間事業者は,測定ツールが提供する問題全体として適当なタイプを選択いただいた上で申請いただくといったことを考えております。基本タイプ,標準タイプ,二つのタイプを用意していまして,基本タイプは義務教育段階の学習内容の定着度合いを測定することを重視したタイプ,標準タイプは,高等学校段階の共通必履修科目の学習内容の定着度合いを測定することを重視したタイプを考えております。

 参考として,英語におけるCEFRの目安を示しておりますが,御覧いただいているようなA1からA2,B1に至るような,こういった幅の目安として考えております。このタイプ別に,学校等の選択に資するように,文部科学省で情報提供する際にタイプ別の情報提供を発信していきたいと考えております。

 こちらにつきましては,特に基本タイプの部分の義務教育段階の学習内容の定着度合いを測定することを重視するといったことに関しましては,上の赤枠の点線の箱の中に,前回のワーキング・グループでお示しした認定要件を抜粋しているのですが,対象教科を国語,数学又は英語として共通必履修科目を中心に出題するということをたたき台とし要件のたたき台としてお示ししましたけれども,この要件を一応かけた上で基本タイプは義務教育段階の学習内容の定着度合いを測定することを重視するといったことを,現時点では考えているのですけれども,義務教育段階をどれぐらい重視するのかといったことについては,共通必履修科目をどれぐらい含めるのかといったこととの兼ね合いが出てきますので,この辺りにつきましても,できれば御意見,御議論を頂ければと思っております。

 資料6の参考といたしまして,別紙を付けさせていただいております。別紙1,別紙2,別紙3は,それぞれ国語,数学,英語に関する参考資料になっておりますけれども,国語,数学に関しましては,現行の学習指導要領の,いわゆる「系統表」と呼んでおりますけれども,各学校段階,学年において指導する事項を網羅的に記載し,それらの系統が分かりやすく表にされたものでございます。

 このような形で,例えば国語であれば,中学校段階と高校における国語総合の段階で,このような各領域別に指導事項が高度化されていくといったような学習指導要領の体系になってございますので,これに基づいて問題を民間事業者に作成いただいて,それが基本タイプなのか標準タイプなのかといったものを申請いただくといったことを考えております。

 数学についても同様の考え方でして,英語につきましては,学習指導要領そのものではありませんけれども,先ほどのCEFRの参考資料を付けさせていただいております。

 

【荒瀬主査】今のことに関しまして,本日御欠席の竹内委員から御意見が出ておりますので,これも併せて御説明いただけますでしょうか。

 

【事務局】机上配布させていただいております「『高校生のための学びの基礎診断』検討WG(第4回)に係る竹内委員の御意見」を御覧ください。こちら,机上で配布いたしておりますけれども,傍聴者には配布いたしておりませんので,このまま読み上げさせていただきたいと思います。

   「議題2:民間事業者の意見等について  アンケート調査の結果から,多くの民間事業者が英語4技能への対応が困難である旨を回答していますが,もし技術的な側面で困難ということであれば,これは,その事業者の問題であり,新学習指導要領の流れにも逆行することになるかと思いますので,認めるべきではないと思います。

 しかし,受検料の問題となると,一定の理解を示すことも可能です。この場合は,例えば,診断の枠組みと方法は示しておき,Speakingの診断を採用するかどうかは,各学校や生徒個人(許されるのなら)が選ぶという考え方,つまりオプションとする方法もあり得ると思います。

 開発費用・期間との関連となると,例えば,3年間,簡易なSpeakingの測定方法(たとえば音読力,復唱力)でも(本来は望ましくはないのですが)OKとするなど,一定の猶予を行うこともあり得ると思います。しかし,この場合も,将来は本格的な4技能へ移行するということが前提となるかと思います。

 議題3:認定基準及び手続等について  認定基準の4(1)マル3に関わることですが,前回の会議でも申し上げた通り,フィードバックの方法確立が今回の診断の最重要ポイントかと思います。我々委員も,文科省との協力のもと,このあたりの議論を深めていき,明瞭な基準を提示していく努力が必要かと考えています。」  以上です。

 

【根岸委員】竹内さんと,この週末会って,直接話して,そのことがある程度反映されています。少し補足と,あと,自分のコメントも含めてですが,要するに,スピーキングですが,お金が掛かるのは実施と採点なのですね。なので,そこのお金の枠があるということであれば,一番お金が掛かるその部分を,ここで言うようなオプショナルとするかどうかですね。ただ,枠としては,枠というか,人間がやればという人間の案の方を買うと。つまり,学校側の先生が自分で対面でやる。そして,採点基準はこれで,それに基づいて採点するという,そういうキットというような形ではどうだろうかと。これも一番は,いろんなオプションがあって,やらないというオプションと,やる場合はキットに沿って先生方がやるというオプションと業者の方で全てやるというオプションもあると思うのですが,業者が全てやるという間で考えたのは,これは別の,19年度の英語の全国学力の中で議論も出ていたことですが,採点基準と実際の採点例のようなものを示した上で,幾つかをモニターするということで,先生の採点力のようなものもチェックするという,そういうシステムもあるのではないか。

 実際,ヨーロッパのどこの国だったか忘れてしまいましたが,それはそういうふうにやっていると。先生方が基本的にやるのだけれども,その1割,2割は機関がチェックして,例えば,採点の基準がずれているとかパフォーマンスが安定しないとかという先生に対しては,そのフィードバックが行くというようなパターンもある。つまり,業者としては,キットだけは一番手間が掛からないパターのですが,フルにやるのはやるというので,もちろん問題だけ提出といっても,それはただで提出にはならないと思うので,スピーキングに全くお金が掛からないわけではないのですが,そういう考え方もあるのではないかと思いました。

 もう一つは,学校の予算の問題をどう考えるかなのですが,先ほどの基礎診断とは何かという話ともちょっと関わるのですが,学校には模擬試験というのがあって,従来型の学力把握をしてきたと思うのですね。そのときに,この基礎学力のテストが入ったときに,模擬試験の予算と別なのか,枠は決まっているでしょうけれども,どういう形の関係性になるのかということをちょっと思いました。

 というのは,英語はこれから4技能型に移行した場合は,模擬試験が4技能にならないのは考えられないとすると,模擬試験の4技能化が起こるとすると,そちらの予算も結構上がる可能性があるのですね。そうしたときに,こちらとの関係が,この中身とかテストの性格の問題もありますけれども,予算の中でどういう配分になるのかという辺りも,これは高校の先生たちの調査とかも必要なのかと思いましたが,以上,感想です。

 

【長塚委員】資料4の8ページのところに,評価をルーブリックや能力記述文で示すことの可否を各業者の方が答えておられて,できるという回答が8機関もあるということで,非常に前向きな回答があるので安心したとともに,実際にそういうふうになればいいなと思っています。恐らく英語系のテストを開発される業者さんが中心なのかなと思いながら,できるという方向性があることは非常に有り難い。そういうものがないと,先生も生徒もレベルをきちっと意識したような形で,基礎学力の診断結果の把握ができないことにつながるのだろうと考えます。

 一方で,お配りいただいた資料6には,英数国各教科に関する基準表みたいなものがあるわけですが,改めて言うまでもなく,資料6の最後のCEFRの表を見ますと,非常に大ざっぱな表なのですよね。A1は英検の3級から5級ぐらいに当たると英検協会は言っているわけですが,中学3年生が3割ぐらいしか3級レベルに達していないという英語力調査結果からすると,高校1年生の入学段階では6割方はA1に達しているかどうかが何とも言えないような状況で来ている。その中で,この目標は,これに達しているかどうかだけ見ると,実は学力診断にはほとんどならなくて,CEFRだけではやはり使えないのだろうなと心配します。CEFRをもっと,先ほどの滋賀県のモデルのような12段階のレベル,しかも4技能に分けている。ああいうモデルが,いわゆるルーブリック型で出されてないと,生徒も先生もつかめないのではないかという思いがいたしました。

 一方で,この前に国語と数学があるのですが,これはもうコンテンツを表にしているだけで,レベル表示ではないと言えます。特に数学は,それ以外,現状ではないと言えばないのだろうと思うのですけれども,何かしら数学や国語についても,ルーブリックができると業者の方がおっしゃっている,その意味合いが英語以外のところにも広がっていけばいいなという思いがします。

 ということで,特に基本編の診断で,義務教育の範囲をどの程度のものにするかという先ほどの事務方からの論点では,よく7・5・3と言われていて,中学段階は5割しか理解しないまま卒業して高校に入っている可能性はある。また,県単位で行われている公立高校の入学試験で言えば,大体6割ぐらいが平均点とされている。つまり,4割の部分は取れなくても,間違っていても入学しているわけですけれども,その4割の部分というのは,中学の段階で,義務教育の段階で習得しておくべきものだとすれば,4割ぐらいの内容理解がないまま高校に入っているということが言えるので,基本編の方は義務教育の内容を50%近くまで確認するようなものであってもいいのかなという,ざっくりとした印象を持っております。

 

【岡本委員】これは根岸先生の質問にもなるかもしれないのですけれども,高等学校で4技能をきっちり身に付けさせるというのは指導要領も決まっていて,これはいい。そのときに,高等学校は3年間で高等学校の先生たちがいろいろ努力して,そういう教育を付けていくわけですよね。基礎診断って,入り口のところでどこまで必要なのかということは,3年間の結果とは違うと思うのですね。もちろん4技能といったって,四つが分かれていて,ここまでが基礎でこっちがあと応用と,そういうものではないだろうと思うのだけれど,それぞれの段階において基本的なものがあるのではないかと思うわけです。

 特に,先ほどの議論でも出てきたのだけれども,例えば,学校ごとのプログラムの認定とか,あるいは,各学校の強み,弱みを含めた学校ごとにプログラムしてやっていくのだというのは,もともと高大接続システム会議の基本的な考え方だったわけですよね。そういう点から見ると,余り4技能を全部,もちろん必要なのだけれども,基礎診断でどこまで必要とするのかと。

 もう一つは,高等学校3年間,2年間になるのかもしれないけど,そういう4技能をしっかり総合的に身に付けていくための基礎は何が必要なのかも考えておかなきゃいけないのではないかなと。その辺,経験がないので質問させていただきます。

 

【根岸委員】これは皆さんで議論すればいいことだとは思うのですが,情報提供として言いますと,英語は全国の英語力調査というのが行われていて,これは中学と高校で,最初,高校だけだったのですが中学校も行われて,4技能の調査,7万人規模で行われています。話すことはもう少し少なかったかもしれません。

 もちろん,このデータの結果は様々な解釈が可能だと思うのですが,自分も報告書を書いた立場なので,私なりにこの結果を見ると,中学校はどちらかというと,4技能のバランスが悪くないのですね。その状態で高校に入って,高校の卒業時,3年生のデータを見ると,話すこと,書くことは,CEFRのレベルに照らした場合,山がないのですね。テストデータ上も山が,先ほどの山の話で,フタコブではなくて,話すと書くは0点のところに何十%かいて,あとは山がないストレートな平らな状態です。

 少なくとも技能のバランスの在り方を考えても,中学校はこのようになっていないのですね。これは,更に解釈を踏み込めば,大学入試などの直接,間接の影響がとても大きいと思われるのですね。つまり,ある程度のバランスを持って中学を卒業してきたところが,そこからスピーキングはほとんど伸びない。ほかの技能,あるいは英語についての知識が上積みされているというようなデータに私は見えてしまいます。直接的にCEFRで尺度が,つなぐこともできなくはないですが,報告書はつないではいないので,スピーキング力は直接的に伸びてないと結論を下すのは慎重であるべきかもしれませんが,少なくともバランス上は,中学校のバランスと高校のバランスはかなり違うということがあって,そういうことからすると,評価しなければ指導しないというのが今までの100年ぐらいの英語教育の歴史なので,必要なのではないかなというのが。個人的には,そんなのがなくても,みんな,話すことをやるでしょうという,そういう健全な姿が一番いいとは思うのですが,そうでないことが明らかな感じがしますので,やはり入れなきゃいけないのかなとは個人的には思います。

 

【岡本委員】もちろんそこは全然反対しないのですけど,一つの大きな違いとして,出口の方ですよね。それは,希望者の共通テストという形にしろ,それを見るわけですよね。それは大きな違いだろうと,私は思うのですよ。つまり,出口のところでもそういうのを測定するとなると,やはりこういう井戸型の分布では済まなくなっていくわけですよね。そうすると,前提は出口で見る,入り口で何を見るかということだろうと,私の趣旨はそういう趣旨なのですね。

 もちろん見なくていいなんていうことを言っているわけではなくて,現実に開発をしたりするときに,ここから先,個人的な意見を言うのですけど,余りがちがちにしてしまうと,みんな動きが取れなくなってしまうのではないかということです。だから,そういう意味では,ある程度,オプションというやり方もあるし,時間を掛けて,あしたからするというのではなくてやると。いろんなオプションの可能性を残しておいた方がいいのではないかというのが私の意見です。

 

【根岸委員】出口が分かるというのは,何のことでしょうか。

 

【岡本委員】少なくとも,いわゆる共通テストですよ,大学入学共通テストのところで見るわけで,4技能で英語の部分は民間に委託するとか,いろいろあるけれども,少なくとも国立大学協会では平成32年度から両方見ましょうと言っているわけで,恐らく一番大きいのは,36年に新学習指導要領に対応したテストを実施するときに,では,両方見るのをやめます。その後,選択テストがどうなるかという問題もありますけれども,4技能をやるのを全く見ませんということはないわけですね。だから,私が言っているのは,高等学校3年生の出口のとき,みんながみんな大学を受験するわけではないけれども,50万人ぐらいは受験するわけで,出口というのはその意味です。

 

【荒瀬主査】ありがとうございました。一つ確認をさせていただきたいと思いますのは,スタート時点でどうするのかということと,新学習指導要領に入っていく時点でどうしていくのかということと,あるいは段階的にどうしていくのかということ。これらを併せて考えながら進めていくということで,取りあえず本日は,まとめにならないまとめですけれども,そのような形でよろしいでしょうか。本日は非常に興味深いお話をお聞きしました。ありがとうございました。それでは閉会といたします。

 

【事務局】次回,第5回は12月上旬の開催を予定しています。開催案内は,後日,改めてお送りいたします。また,教育委員会向けの説明会を,12月8日金曜日14時から文部科学省の3F2特別会議室で開催する予定でございます。 ワーキング終了後も,御意見等ございましたら,事務局に御連絡いただきますようお願いいたします。

 

―― 了 ――

お問合せ先

文部科学省初等中等教育局高校教育改革プロジェクトチーム

中村,野呂田
電話番号:03-5253-2338(直通)

電話番号:03-52534111(内線3482)
メールアドレス:syokyo@mext.go.jp

(文部科学省初等中等教育局高校教育改革プロジェクトチーム)