(資料2)SNSを活用した相談体制の構築に関する当面の考え方(中間報告)

SNSを活用した相談体制の構築に関する当面の考え方(中間報告)


SNSを活用した相談体制の構築に関する当面の考え方
(中間報告)




平成29年8月28日

SNSを活用したいじめ等に関する相談体制の構築に係るワーキンググループ

 
1 基本的考え方
○ いじめは、いじめを受けた児童生徒の教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるものである。平成25年に成立した「いじめ防止対策推進法」にのっとり、平成6年に我が国が批准した「児童の権利に関する条約」、平成27年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)の趣旨も踏まえつつ、児童生徒の尊厳を保持する目的の下、国、地方公共団体、学校、地域住民、家庭、民間団体その他の関係者が一丸となって、いじめの問題の克服に向けて取り組むことが強く求められる。
○ こうした中で、いじめを含め、様々な悩みを抱える児童生徒に対する相談体制の拡充は、相談に係る多様な選択肢を用意し、問題の深刻化を未然に防止する観点から、喫緊の課題となっている。文部科学省においても、平成28年度より、24時間子供SOSダイヤル(音声通話による相談)について通話料を無料化するなど体制の整備に努めているところである。その結果、平成28年度中の24時間子供SOSダイヤル相談件数も約4万件と前年度と比較して約2倍に増加している。
○ 一方、スマートフォンの普及等に伴い、最近の若年層の用いるコミュニケーション手段においては、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)が圧倒的な割合を占めるようになっており、音声通話のみならず、SNSを活用した相談体制の構築を行うことが強く求められている。
○ 将来的には、全国全ての児童生徒がSNSを用いて相談できる体制が構築されることが望ましいが、現時点では、児童生徒千人当たりの相談の件数、一回当たりの平均相談時間、ひいては体制構築に必要な相談員のマンパワー等について正確に想定することは困難である。
 ○ また、昨今、一部のSNS事業者や相談受付を行う民間団体、地方公共団体において、試行的なものを含め、様々な新たなSNS等を用いた取組が始まりつつあるところ、全国の地方公共団体が行うべき相談体制の在り方については、共通のプラットフォームを構築すべきかを含め、それらの実績や判明した改善点等を踏まえ、更なる詳細な検討が必要である。
○ したがって、まず、国によるモデル事業の実施等により試行的に一部の学校や地域で実施し、その結果を検証し、技法の改善を図った上で、全国展開について検討すべきと考えられる。そのような考え方の下に、来年度を目途に国において試行的に行う相談の実施に際して留意すべき点について、即応性が求められるSNSを活用した双方向による相談の仕組みを中心として、以下に示すこととする。ただし、以下で考えられる対応等として示している項目については、実際の運用において、地方公共団体が学校や地域の実情等に応じ、本中間報告を参考にしつつ適切に設定する必要がある。
○ なお、今年度においても、幾つかの地方公共団体が独自の取組の実施を検討しているところ、文部科学省としても、それらの取組を支援しつつ、その実績や判明した改善点等を把握し、今後の各地方公共団体の取組を拡大する際に、積極的に各地方公共団体にフィードバックすることが求められる。
 
2 相談体制の在り方

(1)相談対象者
○ 将来的には、24時間子供SOSダイヤルと同じく児童生徒に加え、保護者も対象とすることも考えられるが、一般に、児童生徒と保護者では、相談の内容や求める答えの性質が異なることから、SNSを活用した相談技法等が十分に確立されていない現時点においては、まずは児童生徒のみを対象とすることが考えられる。
○ また、保護者については、4(2)に記載する一方向の通報等の仕組みを利用する場合のみ、対象とすることが考えられる。

(2)相談受付時間
○ 将来的には、24時間365日相談を受け付けることも考えられるが、試行実施においては、児童生徒にスマートフォン等を学校に持ち込ませること及び深夜に用いさせる弊害や、現在の24時間子供SOSダイヤルでは、午後5時台及び午後9時台の相談件数が最も多いこと等を踏まえ、相談員の人件費等のコストを勘案し、当面は、例えば、児童生徒が相談しやすい時間帯である平日の午後5時から午後10時程度に限定して受け付けることや、児童生徒の気持ちが落ち込みやすい長期休業明け前や日曜日などに相談を受け付けることも考えられる。その際、児童生徒に対してその趣旨等を説明し、理解の確保に努めることが重要である。
○ 一方、コストの観点から可能であれば、緊急の相談かそれ以外の相談かを児童生徒に選択させた上で、緊急の相談に限り24時間365日受け付ける方法も考えられる。
○ 上記のように時間を限定して受け付ける場合には、時間外に児童生徒が緊急の相談をするためにSNSで相談を持ち掛けたものの、応答がないままに、不測の事態に発展してしまうことが懸念されることから、1 時間外には応答できないこと、2 緊急の相談の場合には必ず24時間子供SOSダイヤル等を用いてほしいことを、自動応答機能等を用いて分かりやすく伝えなければならないと考えられる。また、これに加えて、SNSを活用した相談窓口の周知の際の配布物や利用開始時に確認を求める利用に関する案内(以下「利用案内」という。)等にこれらの点について児童生徒に伝わりやすいように工夫し分かりやすく明記し、周知することが必要不可欠と考えられる。

(3)相談の流れ
  ○ SNSを用いた相談は、若年層にとって、日常使い慣れているコミュニケーション手段を用いることができ、文字や絵文字等を用いて自分の思いを気軽に伝えやすいとともに、スクリーンショットを用いることにより児童生徒同士のSNS上のトラブル等を正確かつ容易に相談員に伝えることができるというメリットがある一方、テキスト情報等のみであり、音声情報を伴わないことから、相談員にとって声から推測できる児童生徒の心理状態が把握しにくいとともに、絵文字の一部は個人によって用い方が異なるため、相談員が児童生徒の気持ちを誤解するおそれがあるというデメリットもある。
  ○ したがって、特に相談員において音声通話により児童生徒の状況を確認する必要があると判断する場合は、児童生徒の了解を得た上で、音声通話や面接における相談につなげることも考えられる。その際、SNSによっては、文字や絵文字等のやり取りからすぐに音声通話に切り替えられるシステムもあり、それらを活用することも考えられる。ただし、SNSを活用した相談対応を行うことの意義は、本来、音声通話や面接における相談に踏み切れない児童生徒の相談を受け付けることであることを十分に理解した上で対応する必要がある。特に、即時の問題解決を求めるのではなく、まずは、悩みをじっくり聴いてほしいという相談のケースも多くあることから、そうした場合には、SNSでしっかり児童生徒の悩みを聞き取ることにも意義がある。

(4)相談員
○ 24時間子供SOSダイヤルでは、一般に、相談業務に関する知識及び経験を有する臨床心理士や教員経験者等が相談に対応しているが、その多くは、電話によるコミュニケーションに慣れている世代である。一方、SNSを活用した相談においては、若年層によるメッセージの言葉遣いや絵文字の解釈ができる能力が求められる。したがって、例えば、「電話世代」の相談業務に関する知識及び経験を有する者に加えて、「SNS世代」の学生など、若年層によるコミュニケーション事情に精通した者を組み合わせた相談体制を整備することが効果的であると考えられる。
○ また、相談の質を向上させるため、相談員間で子供たちを取り巻く最近の状況や相談の背景事情、相談対応事例等を共有する場を設けることも有効である。
○ なお、SNSをめぐる環境は、日進月歩であり、相談員は、その変化にフォローしていく必要がある。そのため、相談業務を行う地方公共団体は、民間団体と連携するなどして、相談員に対して、定期的な研修の機会を設けることが望まれる。

(5)相談内容の守秘
○ 児童生徒が安心して相談できるように、相談内容等のプライバシーが確実に守られることを明確に示すことが必要である。
○ ただし、児童生徒の生命、身体等の安全が害されるおそれがある場合や緊急の対応が必要な場合においては、例え、相談者である児童生徒から誰にも言わないでほしいと言われたとしても、当該児童生徒を守るために学校や関係機関と情報共有しつつ対応する必要があり、事前に、利用案内等においてその旨児童生徒に分かりやすいように工夫して示すことが必要である。
○ ただし、そうした場合でも、実際に、個別の相談内容を学校等に伝えようとするときは、できる限り児童生徒に丁寧に説明し、理解を得る努力をすべきである。
○ また、学校等に相談内容を伝える場合には、その後の学校や教職員の対応が児童生徒の望むものと異なり、相談した児童生徒をめぐる状況が悪化することがないよう、相談業務を行う地方公共団体は、学校等と適切な情報共有を行うなど、細心の注意を払うべきである。

3 緊急時等の具体的な対応要領

(1)緊急時対応(自殺をほのめかす等、命に関わる相談で地域が特定できない場合)
○ 自殺をほのめかす等の緊急の相談については、まず、SNS上の会話により落ち着かせることとし、相手の了解を得た上でできるだけ早く音声通話による相談への切替えを図るべきである。ただし、SNSを用いて相談をしてきた児童生徒にとっては、音声通話による相談への切替えが困難である場合があり、その場合には、SNS上の相談を継続し、その中で対応することが求められる。
○ また、可能な限り、相談者の氏名や所在地を聞き出し、必要に応じて学校や警察等の関係機関にも通報することが求められる。電話相談の場合と同様に、緊急時の対応要領、連絡体制等について事前にマニュアルを作成しておくことが必要である。また、緊急の相談については、相談を直接受けている相談員は、当該相談対応に集中し、関係機関への連絡等を同時に行うことが困難になる場合があることから、できる限り、二人以上の相談員の体制で相談を受け付けることが望ましい。
○ なお、位置情報の開示は原則困難であること、そもそも端末の設定によって位置情報が取得できない場合もあり、相談者が自殺をほのめかす等の緊急時の場合で地域が特定できないことも考えられることから、地方公共団体において、そうした場合の対応要領等について事前に決めておく必要がある。
 
(2)時間外に相談が来た場合の対応
  ○ 2(2)で述べたように、時間外の相談への対応について、自動応答機能や利用案内等で児童生徒に伝わりやすいように工夫し分かりやすい形で明示することが必要である。

(3)同時に複数の相談が来た場合の対応
  ○ 現在の主要なSNSのサービスにおいては、同時に来る相談が一定の件数を超えないように調整することは難しいと考えられ、また、同時に来た複数の相談全てに即時に対応する体制をとることは、一般に、相談員の人的コスト等の観点から困難な場合が多いと考えられる。
○ したがって、(2)と同様、1 同時に複数の相談が来た場合、すぐに対応できない場合があること、2 相談員がすぐに対応できない状況で、かつ、緊急の相談の場合には必ず24時間子供SOSダイヤル等を用いてほしいことを、自動応答機能や利用案内等で児童生徒に伝わりやすいように工夫し分かりやすく説明することが必要不可欠である。

(4)在籍校の所在地が分からない児童生徒や実施地方公共団体以外の地域に在住する児童生徒からの相談が来た場合の対応
○ 各地方公共団体がSNSを活用した相談体制を構築する場合は、通常当該地方公共団体に在籍校がある児童生徒や当該地方公共団体の住民である児童生徒が対象になると考えられる。その際、相談を受け付けるSNSのIDやアプリのダウンロード方法については、通常当該地方公共団体にある学校を対象として周知することが考えられる。
○ 一方で、SNSのIDやアプリのダウンロード方法について、ネット上に流出することも考えられ、他の地方公共団体に在籍校がある児童生徒からの相談を受けた場合やなりすましの場合等を想定した対応マニュアルを用意しておくとともに、相談内容について学校等で真偽を確認した上で対応することが重要である。
○ 仮に、他の地方公共団体に在籍校がある児童生徒からの相談があった場合の対処については、相談の開始時にまず、地方公共団体名、学校名等を選択させるなどにより、自殺をほのめかす等の緊急を要する相談を除き、少なくとも当該地方公共団体を選択等した場合にのみ相談を開始することとし、それ以外は24時間子供SOSダイヤル等を紹介するような仕組みが考えられる。
○ また、SNSやアプリによっては、登録の際に地方公共団体名や地域を事前に確認する機能を活用することも考えられる。

4 相談システム

(1)相談システムの選定
○ 相談システムに用いるSNSやアプリ等の選定に当たっては、児童生徒への普及の度合い又は学校等を通して多数の児童生徒に普及させることの実現可能性や、児童生徒の活用のしやすさ、命に関わる相談を含め、児童生徒からの相談等を受け付けた後、適切かつ円滑に内容に応じた対応を行うことができるか等を勘案すべきであると考えられる。
○ このような観点を踏まえつつ、各地方公共団体が異なる機能を有する多種多様なSNSやアプリ等の中から、財務規則等に基づいて具体的に選定することが望ましい。

(2)一方向の通報等のみを可能とするシステムの可否
○ SNSを活用し双方向による相談の仕組みではなく、アプリ等を活用した一方向の通報等の仕組みも考えられる。これは、一部の地方公共団体で既に実施されており、児童生徒の相談や悩みにその場で回答できるという即応性には欠けるものの、児童生徒が音声通話では話しにくいことを匿名で伝えられるほか、人的コストが少なくて済むというメリットがある。こうした仕組みについては、翌日以降に学校や地方公共団体等に引き継ぎ、必要に応じて当該学校等において対応できる体制を整えれば、一定の効果があると考えられる。なお、一方向の通報等の仕組みについても、用いるシステムや通報等をどのように処理するのか等の仕組みに応じた適切な相談体制を構築する必要がある。
○ ただし、こうした仕組みを構築する場合には、1 即時の返信ができないこと、2 緊急の場合には必ず24時間子供SOSダイヤル等を用いてほしいこと、を分かりやすい形で明示すべきであると考えられる。
○ また、SNSを活用した双方向による相談の仕組みとアプリ等を活用した一方向の通報等の仕組みを時間帯等によって切り替えるなどして、両者を組み合わせた体制を構築することも考えられる。
○ さらに、通報者に対して、SNSを活用した双方向による相談の仕組み構築の希望等についてアンケートなどを用いて調査することにより、今後の相談体制の充実に向けた参考とすることも考えられる。

5 民間団体等との連携・協力

(1)民間団体との連携による相談業務
○ 昨今、一部の民間団体等においてもSNSを活用した相談の取組が始まりつつあることから、そうした知見や技術を有する民間団体等に対して、地方公共団体が相談業務を委託したり、一定の相談の場合に引き継ぎ・紹介等をする旨の取決めを結んだりすることにより、地方公共団体と民間団体等が連携しながら、相談を実施することも有効であると考えられる。
○ また、現在各地の弁護士会においてもいじめ等の相談を行っていることを踏まえ、弁護士会との連携ができる体制を構築することも考えられる。
○ さらに、心理・福祉・医療・教育等の関係学部を有する大学と相談員の人材確保や相談技法の確立等において、連携体制を構築することも考えられる。

(2)SNSやアプリ等の事業者の協力
○ 上記に述べたとおり、SNSを活用した相談体制の構築に向けた取組は、始まったばかりであり、実現には複数の課題も存在する。そのため、試行実施に当たっては、システムの設計、構築を含め、SNSやアプリ等の事業者のできる限りの協力が得られることが望ましい。

6 その他の留意点

(1)情報管理(児童生徒の氏名、学校名や相談内容の漏えい防止等)
○ 児童生徒の氏名、学校名を含めたSNSによる相談内容に関する通信ログについては、児童生徒の個人情報に該当する場合が多く、各地方公共団体の個人情報保護条例等を遵守した上で厳格に管理する必要がある。
○ また、相談内容に関する通信ログについては、各地方公共団体の公文書管理条例等に基づいて適切に保存されるべきものであるが、指導要録の指導に関する記録又は「児童生徒理解・教育支援シート」(平成28年9月14日付け28文科初第770号文部科学省初等中等教育局長通知「不登校児童生徒への在り方について」)の保存期間を参考にして、保存期間を5年間と定めることも考えられる。
○ また、児童生徒の事前の同意を得た上、個人情報を除いた相談に関する通信ログを蓄積し、将来的に、分析・研究を行うことにより、相談対応能力の向上につなげることも考えられる。しかしながら、この点については、万が一、相談内容等が流出した場合には、児童生徒からの信頼を大きく損ねかねないことを十分に勘案した上で、慎重に検討する必要がある。

(2)いじめ防止等に関する情報発信
○ 多くの学校や地方公共団体においては、いじめ防止の取組として、様々な教材や資料を作成し、活用している。一部のSNSについては、情報発信の機能を有することから、いじめ対処方法の紹介や各地方公共団体におけるいじめ防止対策の取組等、いじめ防止に関する様々なコンテンツを提供することも効果的である。

(3)スマートフォン等を所有しない児童生徒への配慮
○ 特に小学校低学年の児童には持たせないなど保護者の方針等の家庭環境等により、スマートフォン等を所有しない児童生徒も多くいることから、SNSを活用した相談体制の構築に当たっても、こうした児童生徒の相談の機会が不当に失われることとならないように、24時間子供SOSダイヤルの周知を改めて強化するなど、適切な配慮を行うことが望ましい。すなわち、SNSを活用した相談体制に加えて、現在実施されている多種多様な相談窓口が悩みを持つ児童生徒の選択肢となり、相乗効果を生み出すことが望ましい。
○ また、将来的には、地方公共団体が特定の場所に共通端末を設置して一般の児童生徒に開放し、スマートフォン等を所有しない児童生徒も相談できる環境を整備することも考えられる。

(4)関係各者から成る協議の枠組みの設置
○ SNSを活用した相談体制をより充実したものにするために、文部科学省、地方公共団体、民間団体、学識経験者等から成る協議の枠組みの設置又は既存の枠組みの活用を検討すべきである。その枠組みにおいて、関係各者による取組についての情報交換を行いつつ知見を共有し、相談体制の改善につなげることが考えられる。


お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課