小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)

平成28年6月16日
小学校段階における論理的思考力や
創造性、問題解決能力等の育成と
プログラミング教育に関する有識者会議

(有識者会議における議論の視野)


○  本有識者会議は、各界の専門家が分野を越えて知見を持ち寄り、特に小学校段階におけるプログラミング教育の意義や在り方について認識の共有を図り、各小学校における今後の円滑な実施につなげていくことを目的としたものである。


○  小学校段階におけるプログラミング教育については、学校と民間が連携した意欲的な取組が広がりつつある一方で、コーディング(プログラミング言語を用いた記述方法)を覚えることがプログラミング教育の目的であるとの誤解が広がりつつあるのではないかとの指摘もある。“小さいうちにコーディングを覚えさせないと子供が将来苦労するのではないか”といった保護者の心理からの過熱ぶりや、反対に“コーディングは時代によって変わるから、プログラミング教育に時間をかけることは全くの無駄ではないか”といった反応も、こうした誤解に基づくものではないかと考えられる。


○  プログラミング教育とは、子供たちに、コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験させながら、将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる力としての「プログラミング的思考」などを育むことであり、コーディングを覚えることが目的ではない。こうしたプログラミング教育についての考え方や、小学校段階における具体的な在り方等を、下記3.や4.において示している。


○  また、こうしたプログラミング教育を実施する前提として、言語能力の育成や各教科等における思考力の育成など、全ての教育の基盤として長年重視されてきている資質・能力の重要性もますます高まるものであると考えられる。こうした資質・能力の育成もしっかりと図っていくこと、また、小学校におけるプログラミング教育の実施に当たっては、ICT環境の整備や指導体制の確保等の条件整備が不可欠であること等についても下記2.や5.において提言している。


○  小学校段階におけるプログラミング教育について議論をまとめるに当たっては、人工知能の進化等にみられる、近年の急速な情報化の進展が教育に与える影響や、そうした中で教育課程全体としてどのような力を育成していくことが求められるのかといった、情報化の進展と教育課程全体との関係について整理しておく必要があった。こうした点については、中央教育審議会における次期学習指導要領改訂に向けた議論も踏まえながら、下記1.や2.において整理している。


○  今後、有識者会議における議論の内容が、中央教育審議会や関係会議等に引き継がれ、プログラミング教育とは何かが適切に周知されることを期待するとともに、この取りまとめが示す方針が、小学校で2020年(平成32年)からの実施が見込まれる新しい教育課程において、外国語教育の教科化等に向けても備えなければならない小学校現場の不安感を少しでも軽減し、プログラミング教育の円滑な実施に資することを期待するものである。


1.いわゆる「第4次産業革命」は教育に何をもたらすのか


○  今後の社会の在り方について、とりわけ最近では、「第4次産業革命」ともいわれる、進化した人工知能が様々な判断を行ったり、身近な物の働きがインターネット経由で最適化されたりする時代の到来が、社会の在り方を大きく変えていくとの予測がなされているところである。こうした変化は、様々な課題に新たな解決策を見いだし、新たな価値を創造していく人間の活動を活性化するものであり、私たちの生活に便利さや豊かさをもたらすことが期待されている。


○  その一方で、“人工知能の進化により人間が活躍できる職業はなくなるのではないか”“今学校で教えていることは時代が変化したら通用しなくなるのではないか”といった不安の声もあり、それを裏付けるような未来予測[1]も多く発表されているところである。教育界には、変化が激しく将来の予測が困難な時代にあっても、子供たちが自信を持って自分の人生を切り拓き、よりよい社会を創り出していくことができるよう、必要な資質・能力をしっかりと育んでいくことが求められている。


○  学校教育が目指す子供たちの姿と、社会が求める人材像の関係については、長年議論が続けられてきた。現在、社会や産業の構造が変化していく中で、私たち人間に求められるのは、定められた手続を効率的にこなしていくことにとどまらず、自分なりに試行錯誤しながら新たな価値を生み出していくことであるということ、そして、そのためには生きて働く知識を含む、これからの時代に求められる資質・能力を学校教育で育成していくことが重要であるということを、学校と社会とが共通の認識として持つことができる好機にある。


○  こうした資質・能力の育成は、学校教育が長年目指してきたことでもある。現在、中央教育審議会においては、教育課程がどのような力の育成を目指しているのかを可視化し、それを社会と共有し連携・協働しながら育成していこうという、「社会に開かれた教育課程」の実現に向けた検討が進められているところである。


○  急速かつあらゆる領域に影響する情報化といった社会的な変化が、教育にどのような効果や影響をもたらすのか。教育はそうした変化をどのように受け止め、未来の創り手となる子供たちに何を準備しなければいけないのか。こうしたことを踏まえながら、新しい教育課程の在り方が議論されていくことが求められている。


[1]今後10年~20年程度で、半数近くの仕事が自動化される可能性が高い(マイケル・オズボーン氏(オックスフォード大学准教授))との予測や、子供たちの65%は将来、今は存在していない職業に就く(キャシー・デビッドソン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授))といった予測がある。人工知能が職業を奪うという可能性が指摘されている一方で、人工知能が新たな職業を生み出す可能性も指摘されていることに留意が必要である。


(1)「学ぶ」ことの意義と、これからの時代に求められる力の再確認


○  近年の人工知能は、人間が物事を認識して理解していく学習の過程を模した「深層学習」によって飛躍的に進化したと言われている。人工知能が、大量のデータから共通する特徴を自ら見いだして概念的なものを獲得し、それを未知のデータにも当てはめていくという過程は、人間が様々な概念を獲得し物事を理解していく学習過程に似ていると考えられなくもない。


○  こうした人工知能が、与えられた目的の中での処理を行っている一方で、人間は、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え出すことができる。多様な文脈が複雑に入り交じった環境の中でも、場面や状況を理解して自ら目的を設定し、その目的に応じて必要な情報を見いだし、情報を基に深く理解して自分の考えをまとめたり、相手にふさわしい表現を工夫したり、答えのない課題に対して、多様な他者と協働しながら目的に応じた納得解を見いだしたりすることができるという強みを持っている。


○  このために必要な知識や力を成長の中で育んでいるのが、人間の学習である。今後の教育の在り方を議論するに当たっては、私たちが物事を学ぶ学習過程の重要性を改めて認識しながら、子供たちが複雑な情報を読み解いて、解決すべき課題や解決の方向性を自ら見いだし、多様な他者と協働しながら自信を持って未来を創り出していくために必要な力を伸ばしていくことが求められる。また、その過程において、私たちの生活にますます身近なものとなっている情報技術を、受け身で捉えるのではなく、手段として効果的に活用していくことも求められる。


○  現在、中央教育審議会では、子供たちが学校で「何を学ぶのか」という学習内容に加えて、それを「どのように学ぶのか」という学習過程の在り方や、その成果として「何ができるようになるのか」という資質・能力の在り方が総合的に議論されているところである。各教科等の学びを通じて身に付く、物事の捉え方や考え方の枠組みといった「見方・考え方」とは何かを明らかにし、それを学びの中で活用した「主体的・対話的で深い学び」を実現するというアクティブ・ラーニングの視点を位置付けること、そうした学びを通じて、生きて働く知識・技能の習得や、未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成、学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養(かんよう)につなげていこうという改革の方向性は、これからの時代に求められる教育の在り方として極めて重要である。


(2)「次世代の学校」の在り方


○  情報技術の進展は、これからの時代に求められる教育の実現を大きく後押しすることが期待されている。ICTが持つ特性や強みとしては、以下のような点が上げられる。
(1) 多様で大量の情報を収集、整理・分析、まとめ表現することなどができ、カスタマイズが容易であること(観察・実験したデータなどを入力し、図やグラフ等を作成することを試行錯誤しながら繰り返し行ったり、発表内容を効果的にまとめて共有したり、個々の子供の学習ニーズに応じた学習内容を組み立てたりできること)
(2) 時間や空間を問わずに、音声・画像・データ等を蓄積・送受信できるという時間的・空間的制約を超えること(距離や時間を問わずに児童生徒の思考の過程や結果を可視化したり、学習過程を記録したりできること)
(3) 距離に関わりなく相互に情報の発信・受信のやりとりができるという、双方向性を有すること(教室やグループでの大勢の考えを距離を問わずに瞬時に共有したり交流したりできること)


○  こうした特性や強みを学校教育の中で効果的に生かすことが、「主体的・対話的で深い学び」の実現や、個々の能力や特性に応じた学びの実現、離島や過疎地等の地理的環境に左右されない教育の質の確保に大きく貢献することが期待されている。また、効果的な学習評価の実現や校務環境の改善等にも、ICTの役割が期待されているところである。


○  当然のことながら、ICTの導入によって全ての教育課題に道筋がつくわけではなく、実験・観察等を実際に体験することや直接的な交流の重要性等も踏まえ、子供たちに必要な学びをデザインする中でICTを効果的に活用し、子供の学びを価値あるものとしていく教員の役割は、これまで以上に重要となる。教員の授業力の向上や学校の機能強化に資するICT環境の在り方を念頭に置きながら、アナログかデジタルかを対立的に捉えずに、「次世代の学校」にふさわしい環境整備と新しい教育課程の在り方を併せて議論していくことが求められている。


2.これからの時代に求められる資質・能力とは


○  将来の予測が困難な時代の中で、これからの子供たちに求められるのは、これまでにないような全く新しい力ということではなく、従来からも重視されてきている読解力や論理的・創造的思考力、問題解決能力、人間性等について、加速度的に変化する社会の文脈の中での意義を改めて捉え直し、しっかりと発揮できるようにすることであると考えられる。


○  特に、情報化の進展という社会的な変化の中では、以下のような資質・能力が重要になると考えられることから、こうした力の育成が教育課程全体を通じて実現されることが強く求められる。


(1)情報を読み解く


○  複雑な情報を読み解くために必要な読解力は、時代を超えて常に重要なものであり、これからの時代においてもその重要性が変わることはない。情報化が進展する社会において求められる情報活用能力(世の中の様々な事象を情報とその結びつきとして捉えて把握し、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力)の基盤となるのも、こうした読解力である。


○  情報化が進展し身近に様々な情報が氾濫する社会の中で、ますます高まる読解力の重要性とはうらはらに、視覚的な情報と言葉との結びつきが希薄になり、知覚した情報の意味を吟味して読み解いたりすることが少なくなっているのではないかとの指摘もある。子供たちが教科書の文章を読み解けていないのでないかとの問題提起[2]もあるところであり、全ての学習の基盤となる言語能力の育成を重視することが求められる。


○  中央教育審議会では、言語能力を構成する「テクスト(情報)を理解するための力」や「文章や発話により表現するための力」の要素を専門的に整理した上で、国語教育等において、語彙を豊かにすること、情報と情報の関係性を論理的に捉えるなど情報を多角的・多面的に精査し、構造化する力などが、発達の段階に即して系統的に育成されるよう、小・中・高等学校を見通して教育内容の充実を図ることが検討されている。プログラミング教育を含む全ての教育の前提として、こうした言語能力の育成に向けた国語教育等の改善・充実を図っていくことが不可欠である。


[2]国立情報学研究所が実施している中高生を対象とした調査による。


(2)情報技術を手段として使いこなしながら、論理的・創造的に思考して課題を発見・解決し、新たな価値を創造する


○  これからの時代を生きていく子供たちには、ますます身近となる情報技術を効果的に活用しながら、複雑な文脈の中から読み解いた情報を基に論理的・創造的に考え、解決すべき課題や解決の方向性を自ら見いだし、多様な他者と協働して新たな価値を創造していくための力が求められる。ここで言う「創造」とは、グローバルな規模でのイノベーションのような大規模なものに限られるものではなく、地域課題や身近な生活上の課題を自分なりに解決し、自他の人生や生活を豊かなものとしていくという様々な工夫なども含むものである。


○  子供たちが、情報技術を効果的に活用しながら、論理的・創造的に思考し課題を発見・解決していくためには、コンピュータの働きを理解しながら、それが自らの問題解決にどのように活用できるかをイメージし、意図する処理がどのようにすればコンピュータに伝えられるか、さらに、コンピュータを介してどのように現実世界に働きかけることができるのかを考えることが重要になる。


○  そのためには、自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力が必要になる。


○  こうした「プログラミング的思考」は、急速な技術革新の中でプログラミングや情報技術の在り方がどのように変化していっても、普遍的に求められる力であると考えられる。また、特定のコーディングを学ぶことではなく、「プログラミング的思考」を身に付けることは、情報技術が人間の生活にますます身近なものとなる中で、それらのサービスを受け身で享受するだけではなく、その働きを理解して、自分が設定した目的のために使いこなし、よりよい人生や社会づくりに生かしていくために必要である。言い換えれば、「プログラミング的思考」は、プログラミングに携わる職業を目指す子供たちだけではなく、どのような進路を選択しどのような職業に就くとしても、これからの時代において共通に求められる力であると言える。


○  また、「プログラミング的思考」には、各教科等で育まれる論理的・創造的な思考力が大きく関係している。各教科等で育む思考力を基盤としながら「プログラミング的思考」が育まれ、「プログラミング的思考」の育成により各教科等における思考の論理性も明確となっていくという関係を考え、アナログ感覚を大事にしていくことの重要性等も踏まえながら、教育課程全体での位置付けを考えていく必要がある。


(3)感性を働かせながら、よりよい社会や人生の在り方について考え、学んだことを生かそうとする


○  人間に備わるみずみずしい感性は、現実の物事を捉えながら、それを超えて想像を膨らませたり、相手の感情や考えに思いを馳せたり、まだ見ぬ未来の社会や人生の在り方について思いを巡らせたり、まだ存在しないものをつくりだすために創造的に考えたりすることを可能とする。


○  こうした人間ならではの感性を働かせながら、よりよい社会や人生の在り方について考えること、学んだことをそうした人生や社会の在り方に生かそうとすることは、私たちが人間らしく生きていくために重要な営みであると同時に、社会や産業の構造が変化し成熟社会に向かう中で、社会が求める人材像にも合致するものとなっている[3]。


○  現在、中央教育審議会では、資質・能力の三つの柱((1)何を理解しているか、何ができるか(知識・技能)、(2)理解していること、できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力)、(3)どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等))が重要であるとの議論がされているところであり、知識・技能や思考力等のみならず、「学びに向かう力、人間性等」についても重視し、教育課程全体の中でバランス良く育んでいくことが期待される。


[3]シリコンバレーではIT教育以上に人間教育を重視する傾向にあるとの指摘もある。


3.学校教育におけるプログラミング教育の在り方とは


(1)コンピュータと人間の関係に関する展望と、時代を超えて求められる力


○  私たちは現在でも、自動販売機やロボット掃除機など、身近な生活の中で意識せずとも、様々なものに内蔵されたコンピュータとプログラミングの働きの恩恵を受けている。このような人間とコンピュータとの関係は、人工知能の急速な進化等に伴い、今後ますます身近なものとなってくると考えられる。


○  そうした生活の在り方を考えれば、子供たちが、便利さの裏側でどのような仕組みが機能しているのかについて思いを巡らせ、便利な機械が「魔法の箱」ではなく、プログラミングを通じて人間の意図した処理を行わせることができるものであり、人間の叡智が生み出したものであることを理解できるようにすることは、時代の要請として受け止めていく必要がある。


○  学校教育、特に義務教育段階は、子供たちが将来どのような職業に就くとしても普遍的に求められる資質・能力を育んでいくことが求められる。社会の変化を踏まえた時代の要請を、教育がどのように受け止めていくかを議論する際には、目の前の変化に柔軟に対応しつつ、長期的な視野も持ちながら、子供たちに時代を超えて普遍的に求められる資質・能力とは何かを見極めていくことが重要である。


○  特定の技術や個別のプログラミング言語については、時代の変化や技術革新の中で移り変わっていくことが予測される。ここ十~数十年の間において、プログラミング言語が果たす役割が大きく変わるわけではないが、将来的には、私たちが日常的に用いる自然言語で論理的に書いたり話したりすることで、コンピュータに指示できるようになるのではないか、との予測もある。


○  仮にそのような時代になったとしても、社会でコンピュータが果たす役割を理解しながら、「プログラミング的思考」を発揮し、その時代の情報技術を効果的に活用して問題を発見・解決していくことの重要性は変わらないものと考えられる。子供たちには、コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験させながら[4] 、時代を超えて必要となる資質・能力を、発達の段階に即して身に付けていくことが求められる。


(2)学校教育として実施するプログラミング教育は何を目指すのか


○  学校教育におけるプログラミング教育の在り方については、上記のようなコンピュータとの関係に関する見通しを持ちながら、上記2.に記したような資質・能力の在り方(特に「プログラミング的思考」の在り方)を踏まえつつ、子供たちに求められる普遍的な力とは何かを明確にし、認識の共有を図っていく必要がある。その際、次期学習指導要領に向けては、現代的なテーマに焦点化した教育も含め、どのような資質・能力の育成を目指すのかを三つの柱((1)何を理解しているか、何ができるか(知識・技能)、(2)理解していること、できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力)、(3)どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等))で整理していくとされていること等に留意することが必要である。


○  プログラミング教育とは、子供たちに、コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験させながら、発達の段階に即して、次のような資質・能力を育成するものであると考えられる。
【知識・技能】
(小)身近な生活でコンピュータが活用されていることや、問題の解決には必要な手順があることに気付くこと。
(中)社会におけるコンピュータの役割や影響を理解するとともに、簡単なプログラムを作成できるようにすること。
(高)コンピュータの働きを科学的に理解するとともに、実際の問題解決にコンピュータを活用できるようにすること。
【思考力・判断力・表現力等】
・ 発達の段階に即して、「プログラミング的思考」(自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力) [5]を育成すること。
【学びに向かう力・人間性等】
・ 発達の段階に即して、コンピュータの働きを、よりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を涵養すること。


[4]体験する中で、コンピュータによる処理と人間の活動それぞれのよさに気付くことなども重要と考えられる。
[5]いわゆる「コンピュテーショナル・シンキング」の考え方を踏まえつつ、プログラミングと論理的思考との関係を整理しながら提言された定義である。


(3)発達の段階に即した資質・能力の育成


○ 中学校及び高等学校では、それぞれの学校段階における子供たちの抽象的思考の発達に応じて、構造化された内容を体系的に教科学習として学んでいくこととなる。中学校では技術・家庭科において、高等学校では情報科において学ぶこととなるが、現在、中央教育審議会においては、中学校及び高等学校におけるプログラミング教育の充実についても議論されている。


○ 具体的には、中学校技術・家庭科技術分野の「情報に関する技術」において、計測・制御に関するプログラミングだけではなく、コンテンツに関するプログラミングを指導内容に盛り込むことによって、プログラミングに関する内容を倍増させること、高等学校情報科に共通必履修科目を新設し、全ての高校生[6]がプログラミングを問題解決に活用することを学べるようにすることが検討されている。


○ こうした小・中・高等学校を見通した充実が図られる中で、小学校においては、身近な生活の中での気付きを促したり、各教科等で身に付いた思考力を「プログラミング的思考」につなげたりする段階であることを踏まえた、小学校教育の特質に即した在り方が必要となる。


○ また、学校教育においては、通常の学級、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」において、子供たちの十分な学びを確保していく必要があり、一人一人の子供の障害の状況や発達の段階に応じた指導や、一人一人の困難さに十分配慮した指導を充実させていくことが必要であること等にも留意する必要がある。


[6] 現在、プログラミングを問題解決に活用することを学ぶ「情報の科学」は選択必履修科目であり、その履修率は高校生の約2割にとどまる。


4.小学校教育におけるプログラミング教育の在り方


(1)小学校教育における実施の在り方


○  小学校においては、「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎」を培うこと及び「国家社会の形成者として必要とされる基本的な資質」を養うことを目的とする義務教育のうち、基礎的なものを施すことが目的となる。小学校教育の改善は、新しい時代における社会や職業の在り方を見据えつつ、子供たちが、将来どのような職業に就くとしても生かすことができるような資質・能力を育む、ということを目的として行われなければならない。


○  小学校の6年間の間に、子供たちは、幼児教育を通じて身に付けたことを生かしながら、身近な生活の中での豊かな体験を通じて、具体的な物事を捉え、次第に抽象的な思考力を高めていく。こうした発達の段階であることを踏まえ、小学校教育では、各教科等の学びにおいても、身近な生活との関わりや体験的な学習を重視してきており、このような子供の成長や発達に寄り添う視点が極めて重要である。


○  また、小学校は上記のような発達の段階であることを踏まえ、中学校や高等学校と異なり、各教科に専門性を有する教員が教科ごとに教える教科担任制ではなく、基本的に学級担任が全ての教科を担当する学級担任制がとられている。そうした指導体制の違いも踏まえながら、小学校におけるプログラミング教育の在り方を考えていく必要がある。


○ 小学校におけるプログラミング教育が目指すのは、前述のように、子供たちが、コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験しながら、身近な生活でコンピュータが活用されていることや、問題の解決には必要な手順があることに気付くこと、各教科等で育まれる思考力を基盤としながら基礎的な「プログラミング的思考」を身に付けること、コンピュータの働きを自分の生活に生かそうとする態度を身に付けることである。


○  中学校や高等学校の段階では、簡単なプログラムの作成や、コンピュータの働きの科学的な理解などを目指し、技術・家庭科や情報科において構造化された内容を体系的に学んでいくことが必要となる。一方で、小学校におけるプログラミング教育が目指す、身近な生活の中での気付きを促したり、各教科等で身に付いた思考力を「プログラミング的思考」につなげたり、コンピュータの働きが身近な様々な場面で役立っていることを実感しながら自分の生活に生かそうとしたりするためには、学級担任制のメリットを生かしながら、教育課程全体を見渡した中で、プログラミング教育を行う単元を各学校が適切に位置付け、実施していくことが効果的であると考えられる[7]。


○  プログラミング教育の実施に当たっては、コーディングを覚えることが目的ではないこと[8]を明確に共有していくことが不可欠である。また、「主体的・対話的で深い学び」の実現に資するプログラミング教育とすることが重要であり、一人で黙々とコンピュータに向かっているだけで授業が終わったり、子供自身の生活や体験と切り離された抽象的な内容に終始したりすることがないよう、留意が必要である。楽しく学んでコンピュータに触れることが好きになることが重要であるが、一方で、楽しいだけで終わっては学校教育としての学習成果に結びついたとは言えず、子供たちの感性や学習意欲に働きかけるためにも不十分である。学習を通じて、子供たちが何に気付き、何を理解し、何を身に付けるようにするのかといった、指導上のねらいを明確にする必要がある。


○  なお、プログラミング教育を教育課程全体の中で位置付けることについては、各学校における実施につながるのかどうかとの懸念もある。次期学習指導要領においては、各教科等を束ねる総則の規定を抜本的に見直し、教育課程全体を見渡した教科横断的な取組が実施されるよう、各学校の「カリキュラム・マネジメント」が明確に位置付けられる方向で検討が進められている。各学校が地域の実情や子供たちの姿、指導体制の現状等を踏まえながら、最善のプログラミング教育が提供されるよう、総則の規定において明確に位置付けるとともに、具体的な実施の在り方については、学習指導要領の解説や指導事例集を広く普及させることで、各学校における具体的な実施をしっかりと確保していくことが求められる。


○  こうした全ての小学校を念頭に置いた実施に加えて、地域の特性等に応じて、研究開発学校や調査研究校、民間企業やNPOによる各種事業の実施校等におけるプログラミング教育を重点的に進めていく取組も、併せて推進し、その成果を広く普及していくことが求められる。また、義務教育学校等において小・中学校段階を通じた効果的な実施の在り方を検討していくことも有意義であると考えられる。


[7]教育課程に関する制度等が日本とは異なるため単純な比較はできないが、諸外国における情報教育(プログラミング教育に限られない)の実施状況を見ても、イングランドのように新たに教科を設置する対応だけではなく、フィンランドのように教科横断的に実施する国、韓国のように既存の教科の中で対応する国なども見られる。
[8]順次、分岐、反復といったプログラムの構造を支える要素についても、それを知識として身に付けることは中学校教育の指導内容に盛り込まれている。小学校教育では体験の中で触れるということで十分であり、それ自体を教え込んだり、知識として身に付けることを指導のねらいとしたりする段階ではないと考えられる。一方で、小学校での学習を通じてプログラミングに興味を持ち、プログラムの構造を支える要素についても詳しく知りたいという知的欲求を抱いた子供たちが発展的に学ぶことのできるよう、民間とも連携して多様な学習機会を整えていくことが求められる。


(2)各小学校の実状を踏まえた柔軟で学習成果のある教育内容の具体的な在り方


○  各小学校においては、各学校における子供の姿や学校教育目標、環境整備や指導体制の実情等に応じて、教育課程全体を見渡し、プログラミング教育を行う単元を位置付けていく学年[9]や教科等を決め、地域等との連携体制を整えながら指導内容を計画・実施していくことが求められる。


○  各小学校が見通しを持ってこうした計画・実施を行うことができるよう、国は、2020年からの新しい教育課程の実施に向けて、教育委員会や小学校現場、関係団体、民間や学術機関等と連携しながら、指導内容の在り方を検討して指導事例集としてまとめることや、各教科等における教育の強みとプログラミング教育のよさが結びついた教材等の開発・改善を、その先の教育の在り方も見据えながら行っていくことが求められる。


○  プログラミング教育を実施することとなった教科等においては、上記の指導事例集等を参考に、各教科等の指導内容を学びながら、コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験[10]することを、各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせた「主体的・対話的で深い学び」の中で実現し、各教科等における教育の強みとプログラミング教育のよさが相乗効果を生むような指導内容を具体化していくことが望まれる。


[9]小・中・高を見通した観点からは、高学年での実施が中学校との接続に効果的と考えられるが、中~高学年の幅の中で、各学校の教育目標や子供たちの興味・関心等を踏まえた対応が求められる。
[10]こうした体験については、コンピュータを活用して行うことが原則になると考えられるが、「アンプラグドコンピュータサイエンス」の考え方のもと、コンピュータを使わずに紙と鉛筆で行う教育も提案されているところであり、小学校段階における具体的な教材や指導方法、その効果等について検討が求められる。


○  現時点でこうした指導内容のイメージと留意点について、様々な取組の実例や、各教科等における「主体的・対話的で深い学び」とプログラミングを体験することとの関係を踏まえつつ示すとすれば、例えば以下の通りである。ここに掲げていない教科等においても、実施の在り方が今後議論されることが望まれる。


【総合的な学習の時間】
・例えば、情報に関する課題を探究する中で、自分の暮らしとプログラミングとの関係を考え、プログラミングを体験しながらそのよさに気付く学びを取り入れていくことなどが考えられる。
・実施に当たっては、プログラミングを体験することが、総合的な学習の時間における学びの本質である探究的な学習として適切に位置付けられるようにするとともに、子供一人一人に探究的な学びが実現し、一層充実するものとなるように十分配慮することが必要である。また、課題は各学校が学校教育目標等に照らして設定するものであることから、情報に関する課題以外にも、地域の課題や環境に関する課題などにも対応できる教材の開発が強く求められる。


【理科】
・例えば、身の回りには、電気の性質や働きを利用した道具があることをとらえる学習を行う際、プログラミングを体験しながら、エネルギーを効果的に利用するために、様々な電気製品にはプログラムが活用され条件に応じて動作していることに気付く[11]学習を取り入れていくことが考えられる。
・実施に当たっては、プログラミングを体験することが、理科における学びの本質である、自然事象について問題を見いだし、より妥当な考えを導き出す学習過程として適切に位置付けられるようにすることとともに、子供一人一人に探究的な学びが実現し、一層充実するものとなるように十分配慮することが必要である。
・また、実際の実験・観察をおろそかにすることがないように留意することが必要である。言うまでもないが、生物を模したコンピュータ上のモデルやロボットの動きを見ることで、生物に関する学びに代えることはできないことなどは、改めて確認しておく必要がある。


[11]例えば、外が暗くなると照明の明かりが自動的に明るくなったり、一定の時間が経過すると自動的に消えたりすることなど。


【算数】
・「計算する」という過程は、算数・数学の学習においても、日常生活においても、繰り返し行うことが必要となる場面である。繰り返し行うことが必要となる場面というものは、プログラミングで実行する必要性につながりやすいため、“計算することをプログラミングで教えればいいのではないか”と考えられる可能性ある。
・しかしながら、私たちが計算するときには、プログラミングで表現しなくても、人間の文明が生み出した遺産である「筆算」で計算することができる。小学校で筆算を学習するということは、計算の手続を一つ一つのステップに分解し、記憶し反復し、それぞれの過程を確実にこなしていくということであり、これは、プログラミングの一つ一つの要素に対応する[12]。つまり、筆算の学習は、プログラミング的思考の素地(そじ)を体験していることであり、プログラミングを用いずに計算を行うことが、プログラミング的思考につながっていく。
・算数において、プログラミングの体験をどこに位置付けていくかについては、こうしたことを踏まえながら、効果的な場面を考えていかなければならない。例えば、図の作成等において、プログラミングを体験しながら考え、プログラミング的思考と数学的な思考の関係やそれらのよさに気付く学びを取り入れていくことなどが考えられる。
・実施に当たっては、プログラミングを体験することが、算数における学びの本質である数学的活動として適切に位置付けられるようにすることとともに、子供一人一人に探究的な学びが実現し、一層充実するものとなるように十分配慮することが必要である。プログラミングを体験することによる数学的活動が、算数における「深い学び」の達成に寄与するものになることが求められる。
・なお、言うまでもないが、算数における文章題の解決は、文章から数量の関係について情報を読み取り、それらの関係を明らかにし、解決の方法を立案して解決するという過程を体験する活動であり、文章題のストーリーをプログラミングによって単にアニメーション化するようなことは、数学的活動とはならないことなどは、改めて確認しておく必要がある。


[12]コンピュータ科学等でも用いられる「アルゴリズム」とは、筆算といった計算の手続も含む、問題を解決する手順を定式化して表したものを指す。筆算は数学の歴史の中で初期から存在したものではなく、長い年月をかけて人類が生み出したアルゴリズムであり、そうしたものを生み出す人間の数学的な思考が、人工知能の動きや働きなどを支えるおおもととなっている。これからの算数では、筆算が所与のものではなく、こうした意義を持つものであることなどを学ばせることも重要ではないかと考えられる。


【音楽】
・例えば、音楽づくりの活動において、創作用のICTツールを活用しながら、与えられた条件を基に、音の長さや音の高さの組合せなどを試行錯誤し、つくる過程を楽しみながら見通しを持ってまとまりのある音楽をつくることや、音長、音高、強弱、速度などの指示[13]とプログラムの要素の共通性など、音を音楽へと構成することとプログラミング的思考の関係に気付くようにすること、また、デジタルによる演奏と生の演奏から感じる違いなどに気付くようにすることなども考えられる。
・実施に当たっては、低学年における音遊びなどの経験を基盤として、プログラミングと関連付けた音楽活動が、音楽の学びの本質に照らして適切に位置付けられるようにするとともに、子供一人一人に創造的な学びが実現し、つくる学習とそれを実際に音や声で表す学習が一層充実するものとなるように十分配慮することが必要である。


[13]反復記号なども含めた音楽に関わる用語には、順次、分岐、反復といったプログラムの構造を支える要素と共通する性質があるものと考えられる。


【図画工作】
・図画工作科においては、子供たちが材料の形や色、質感、性質などの特徴を捉えたり、イメージを持ったりしながら、豊かに発想や構想し造形的に表すことが極めて重要である。例えば、そのような学習過程において表現しているものを動かしてみることにより、新たな発想や構想を生み出したり、異なる視点からよさや美しさを感じ取ったりすることができるよう、プログラミング教育を実施していくことが考えられる。
・それを具体化するためのソフトウェア等の在り方について、関係者の知見を結集して早急に検討していく必要がある。プログラミングを学ぶためにすばらしい教材が、必ずしも図画工作科のねらいの観点から価値が高いとは限らない。子供一人一人に創造的な学びが実現し、一層充実するものとなるよう、我が国の技術力と教育力を結集して、子供たちの感性が豊かに働く教材の開発につなげていくことが求められる。


【特別活動】
・子供たちが自分の興味・関心に応じて活動を選択し自主的・実践的な活動を行うクラブ活動において、例えば、既存のクラブ活動にプログラミングを体験する学習を取り入れたり、子供の姿や学校・地域の実情等に応じて、プログラミングに関するクラブ活動を運営・実施できるようにしたりしていくことなどが考えられる。
・実施に当たっては、プログラミングを体験することが、特別活動の学びの本質である自発的・自治的な活動として適切に位置付けられるようにするとともに、子供一人一人に自己実現を図る学びが実現し、一層充実するものとなるように十分配慮することが必要である。


○  プログラミング教育を行う単元を教育課程に位置付けていくに当たっては、総合的な学習の時間においてプログラミングを体験しながら社会における役割を理解し、それを軸としながら、各教科等における多様なプログラミング教育につなげていくことが効果的であると考えられるが、具体的な実施の在り方については、各学校における子供の姿や学校教育目標、環境整備や指導体制の実情等に応じた、柔軟な対応が検討されることが望ましい。総合的な学習の時間と教科学習の双方で実施したり、教科学習のみで実施したり、総合的な学習の時間のみで実施したりするなど、柔軟な在り方が考えられる。


○  いずれの場合であっても、プログラミング教育が各教科等における学習上の必要性に支えられながら、無理なく確実に実施され、子供たちに必要な資質・能力が育成されるよう、前述の「カリキュラム・マネジメント」を徹底するとともに、学習指導要領の解説や指導事例集を広く普及させることが求められる。


○  また、プログラミング教育を行う単元に最大限の効果を発揮させるには、「プログラミング的思考」が国語[14]や算数等で身に付ける論理的な思考力とつながっていることや、社会科における社会の情報化に関する学習など、各教科等における学びとのつながりを教員自身が認識し有機的につなげていけるようにすることが求められる。新しい教育課程の議論の中で、こうしたプログラミング教育と、それにつながる各教科等の学びとの関係性が分かりやすく示されていくことを期待したい。


[14]説明文を読んでその構造を捉えることなどは、フローチャートの作成につながる力であり、こうしたつながりを意識することが重要である。一方で、国語においては、自らの頭脳を使って思考し表現する言語活動を通じて、情報を多角的・多面的に精査し、構造化する力等を育むことが重要であり、こうした国語の本質的な学びとして、プログラミングを体験することを位置付けていくことは、言語能力の確かな育成の観点からも、慎重に考える必要がある。


(3)教育課程外や学校外の学習機会とのつながり


○  小学校におけるプログラミング教育で、プログラミングに触れたことをきっかけとして、個人的に更に深く学んでみたいと思ったり、プログラミングに携わる職業を目指して学びたいという夢を持ったりする子供たちが増えてくることも期待される。


○  プログラミングに興味を抱いた子供が、多様な才能を伸ばしていくことができるよう、民間で実施されている多様なプログラミング教育の機会や、土曜学習等における学習機会を個別に活用できるよう、都市部だけではなく全国を視野に入れ、官民連携して体制を整えていくことが求められる。


5.小学校における効果的なプログラミング教育のために必要な条件とは


○  今回の有識者会議における議論は、小学校で2020年(平成32年)からの実施が見込まれる新しい教育課程における実施を目指したものである。円滑な実施のためには、2020年に向けて、次期学習指導要領に向けた議論と並行して、プログラミング教育の趣旨に関する情報発信や、実践例の蓄積と普及を進めていくとともに、ICT環境の整備をはじめとする条件整備を計画的に行い、随時更なる改善を図っていく必要がある。


(1)ICT環境の整備


○  ICT環境については、学校差や地域差が大きい現状がある。プログラミング教育の実施に当たっては、こうした現状を改善し、全ての小学校において必要な環境整備が図られる必要がある。


○  次期学習指導要領に向けた検討の中で、プログラミング教育も含め、情報活用能力を育成する新しい教育課程を実現するため、最低限必要なICT環境[15] とは何かを明確にし、全ての小学校等において確実に整備を進めていくことが求められる。


○  また、一人一人の児童の障害の状況等に応じた確実な学びができるよう、ICT機器を効果的に活用した指導方法等の開発なども求められる。


[15]具体的には、次期学習指導要領に基づく指導内容や学習活動を想定したノート型コンピュータ、タブレットの配備、無線LAN環境の整備、安全性の確保されたネットワークの構築等が考えられる。また、子供たちが頻繁に活用する思考ツールとICTを結びつけたアプリケーションの普及や活用なども求められる。


(2)効果的なプログラミング教育を実現する教材の開発と教員研修等の在り方


○  効果的なプログラミング教育を実現するためには、各教科等の指導内容を学びながら、効果的にプログラミングを体験することが、各教科の「主体的・対話的で深い学び」として実現されるような教材の開発・改善が求められる。各教科等における教育の強みとプログラミング教育のよさが結びつき、小学校教員が活用しやすい教材等が開発されるよう、あらゆる分野の関係者が連携し、我が国の技術力と教育力を結集して当たることが必要である。


○  また、そうした教材や授業実践例が集積され、全ての教員や関係者が活用できるようなプログラミング教育のポータルサイト[16]を構築していくことも考えられる。


○  こうした教材や授業実践例は、教員研修にも活用しやすいものであることが望まれる。民間で提供されている様々な機会も活用しながら、国や教育委員会による研修と各学校での校内研修が効果的に組み合わされ、教員の資質向上につなげていくことが求められる。加えて、教員がこうした新たな教育課題に対応できるよう、養成段階からの充実が図られることも望まれる。


○  教員の養成・研修に当たっては、ICTやアプリケーションの使い方そのものが目的ではなく、プログラミングを経験させるなど、子供たちに育む「プログラミング的思考」の意義や、質の高いプログラミング教育を実現するための授業の工夫や在り方等についての研修が図られるべきであること、また、コンピュータ科学分野の高度な知識が必要というわけではないこと等に留意が必要である。


[16]学校現場がインストールせずに使うことのできるWebサービスなど、活用しやすい工夫が求められる。



(3)指導体制の充実や社会との連携・協働


○  プログラミング教育の実施に当たっては、「社会に開かれた教育課程」の観点から、社会と連携・協働しながら様々な人的・物的資源を生かして実現していくことが必要である。


○  より効果的なプログラミング教育の実施のためには、既存の指導体制では対応が困難な場合があることから、担当教員の追加配置や専門人材の参画を含めた指導体制の充実を、「チームとしての学校」の在り方などを踏まえつつ検討することが重要である。


○  また、質の高いプログラミング教育の実施や指導体制の確保には、社会との連携・協働が必要不可欠である。効果的なプログラミング教育の実施が、都市部だけではなく全国で偏りなく可能となるよう、官民連携したコンソーシアムなどを通じて体制を整えていくことが求められる。プログラミング教育の意義等を社会と学校が共有し、実施に当たって外部から学校をサポートしやすくするような体制を整備していくことが重要である。


○  加えて、意欲ある子供たちが学習の成果を実感しながら学んでいくことができるよう、小学生を対象とした全国規模の各種大会等が開催されていくことも期待される。

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