資料3-1 全国都道府県教育長協議会提出資料

全教委連発第87号
平成27年8月4日

文部科学大臣
  下村 博文様

全国都道府県教育長協議会
会長  中井 敬三
 

選挙権年齢引き下げに伴う学校における教育活動の適正な実施に関する意見について
 


平成27年7月8日付け事務連絡で依頼のありました標記の件について下記の通り意見を申し上げます。

 本年6月に「公職選挙法等の一部を改正する法律」が成立し、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことに伴い、これからの社会を担う若者の政治への参加意識を高めるため、学校教育において、選挙や政治についての理解を深める政治参加に向けた教育の一層の充実が重要である。政治参加に向けた教育の実施に当たっては、「高等学校における政治的教養と政治的活動について」(昭和44年10月31日付け文部省初等中等教育局長通知、以下「昭和44年文部省通知」という。)において、留意事項等が示されているところであるが、今後の政治参加に向けた教育や高校生等の政治的活動の在り方等に関し、文部科学省は、学校が安心して政治参加に向けた教育を実施できるよう、以下の各項目について、具体的な事例も含めて、考え方及び方針を示されるよう要望する。

1 政治参加に向けた教育の在り方について
 文部科学省は、国会答弁等において、授業において「模擬投票」など現実の政治に即した教材、素材を活用して、政治参加に向けた教育を推進する必要性を述べている。一方で、学校においては、教育基本法に定めるとおり、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
 政治的中立性を確保しつつ、学校が政治参加に向けた教育を適切に推進していくため、文部科学省ができるだけ早い段階で、通知、補助教材等により、考え方等を示すことが求められる。

(1)政治的中立性の確保について
 「模擬投票」「模擬議会」「ディベート」などの体験活動は、児童生徒の政治参加への意識を高める上で教育効果が見込まれるため、今後、学校で積極的に展開していく必要がある。
 これらの活動を、政治的中立性を確保しながら学校で進めていくことができるよう、文部科学省は、補助教材等の選定方法、教員の指導上の留意点、授業の一般公開の在り方等について、通知や教員向け指導書等により具体的な方針を示す必要がある。その際、例えば、授業においてディベートを行う際に実在の政党、公約等を用いることの是非や用いる場合の留意点、模擬投票を行う際の教育上の配慮点や公職選挙法等との関係等について示されたい。
 また、学校において政治的中立性を確保しながら指導をすることは当然であるが、学校における日々の授業に対して政治的思想や政治的主張が外部から持ち込まれることはあってはならず、この点についても通知等の中で示されたい。

(2)具体的な授業実践のための支援について
 学校において政治参加に向けた教育が混乱なく進められるよう、模擬選挙や模擬議会、ディベート等の体験活動にすぐに使えるワークシートなどの補助教材を全ての高校生等に配布していただきたい。
 また、授業等において、現実の具体的な政治的事象を取り扱うことは、高校生等の政治への関心を高めるため、積極的に推進されるべきであることや、そうした政治的事象を取り扱う際の補助教材の選定に当たっての考え方等についても、通知や教員向けの指導書の中に盛り込む必要がある。

(3)各学校における指導方針の確立のために
 現実の具体的な政治的事象を取り扱う場合、取り扱い上慎重を期さなければならない性格のものも多く、校長を中心として学校としての指導方針を確立する必要がある。そのため、学校が安心して政治参加に向けた教育の充実に向けて取り組むことができるよう、確立すべき指導方針の具体的な例と留意点等を示されたい。

(4)次期学習指導要領における、政治参加に向けた教育の位置付けについて
 現在、中央教育審議会において審議が行われている次期学習指導要領の中に政治参加に向けた教育を明確に位置付け、児童生徒の発達の段階に応じた、育成すべき資質・能力・態度や、指導内容・方法等について明確に示すことが求められる。
 また、現在、創設が検討されている高等学校等における新科目「公共(仮称)」の指導内容等についても、各方面の専門家の意見も十分に踏まえながら議論を進め、学校において混乱なく実施ができるよう留意していただきたい。

(5)教員の指導力及び法的素養の向上に向けた研修等の実施
 政治参加に向けた教育に関する指導においては、政治的中立性の確保を徹底する必要があり、教員個人の考えを児童生徒に押し付けることがあってはならない。
 教員による適切な指導のもと、教育効果の見込まれる体験活動(模擬投票、模擬議会、ディベート等)を取り入れた授業を積極的に行い、児童生徒に主権者意識を醸成するためにも、文部科学省には、教員の指導力や法的素養の向上に向けた研修の機会を創設することが求められる。その際、知的障害のある児童生徒に対しての指導、支援に関する指針、教職員への研修等についても十分な配慮が求められる。
 また、政治参加に向けた教育に重点的に取り組む高等学校や教育委員会等を公募により指定し研究開発を行い、先進事例の開発、収集に努め、全国の学校に情報提供していくことで、政治参加に向けた教育の普及、充実を図る必要がある。

2 高校生等の政治的活動について
 高等学校等は、教育基本法に則って政治的中立性を確保する必要があるものであり、また、学校教育法等に則って高校生等の教育を行う機関である。
 本来、高校生等の政治的活動(選挙運動を除く)については、法律上の制約はないものであり、このたびの公職選挙法の改正により、18歳以上の高校生等は適法に選挙運動を行えるようになった。
 昭和44年文部省通知では、高校生等の政治的活動について、学校教育活動に支障が生じる場合は制限、禁止できること等を定めているが、公職選挙法の改正に伴い、当該通知を適切に見直し、今後の考え方について、平成27年度のできるだけ早い時期に、具体的に示されたい。

(1)学校内における政治的活動について
 高校生等の政治的活動については、昭和44年文部省通知において、学校の教育活動や学校内における政治的活動を制限できるとしているが、18歳以上の高校生等が選挙運動を行えるようになったことに伴い、改めて考え方を明確に示す必要がある。その際、政治的中立性の確保の観点から、生徒会活動などの特別活動も含めて、許容される学校内における政治的活動について、学校が適切に指導できるよう、文部科学省において考え方や具体的な事例を示されたい。
 また、18歳未満の高校生等に対する選挙運動の制限についても、適切な指導ができるような考え方や具体的事例を示されたい。

(2)学校外における政治的活動について
 昭和44年文部省通知は、学校外における政治的活動については、「望ましくない」として指導することを求めているが、公職選挙法が改正されたことや、高校生等の政治的活動が暴力行為等に結び付いていない現状等を踏まえると、今後は適法に行われる学校外での選挙運動や政治的活動を尊重することが必要と考えられる。
 一方で、特に政治的教養を養う段階にある高校生等に対しては、学校外の活動とはいえども、学校が一定程度指導・関与することも必要な場合があると考えられる。このため、学校を欠席して政治的活動を行う場合の対応や期日前投票を行う場合の出欠の取り扱いなど、どのような場合に、どのような指導・関与が求められるのかについて、その具体的な事例を文部科学省において示されたい。

3 家庭や地域等との連携について
 政治参加に向けた教育は、選挙や政治についての理解を深めるのみならず、社会人としての「主権者意識」を育むことが大切である。そのためには、家庭や地域の協力を得ながら、小・中学生のうちから社会に関心をもって主体的に参画する意識をもたせることが重要となる。
 特に選挙権年齢が目前に迫る高等学校等においては、家庭との連絡を密にし、生徒の政治的活動に対する学校の指導方針について保護者の理解と協力を求めるとともに、適切な機会を通じて絶えず家庭や地域、関係各方面との連携を図ることが必要である。
 また、生徒にとって一番身近な親の「主権者意識」を高め、「良き有権者」として政治に関心をもって行動するための啓発活動等を、具体的に示す必要がある。

4 その他
 公職選挙法の規定については、教員をはじめとする大人にも十分に理解されていない実態があると思われるが、今後は、高校生等が違法な政治的活動を行うことや高校生等に外部からの政治的圧力がかかることのないよう、保護者に対する意識啓発も含めて、適切に指導を行うことが必要になる。これについては、学校内外における具体的な場面を想定しながら、公職選挙法等に関する留意事項と対応事例集を文部科学省・総務省で連携の上、作成し、明確に示されたい。

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