学校図書館の整備充実に係るこれまでの意見を踏まえた論点整理(案)

0 現状と課題、対応策の方向性

(現状と課題)
○ 学校図書館の利活用の状況は学校間、地域間の格差が大きい。
○ 図書館資料の面では、図書標準の達成率は向上したが、内容が陳腐化している可能性がある資料も少なくない。
また、アクティブ・ラーニングの視点からの不断の授業改善、いわゆる「主権者教育」の推進、小学校英語、特別支援教育や外国人対応等、学校現場の新たなニーズに応える必要がある。
○ 人材の面では、まずは、司書教諭が十分な役割を果たすことが重要。また、特に学校司書の専門性に学校間等の格差があり、改正学校図書館法の附則を踏まえつつ、水準の確保に向けた取組が必要。

(対応策の方向性)
○ 学校間等の格差の解消のためには、図書館資料の整備の在り方や学校司書となる要件等、学校図書館の運営上の重要な事項について「標準」化を図るガイドラインを国が示すことが必要。
○ 国においては、地方公共団体等における取組の「標準」化を推進するため、様々な支援を継続・充実していくことも必要。

【今後更なる検討が必要と考えられる事項】
○ ガイドラインに盛り込む事項としては、1.以下の内容について、学校等に対し示すものとして適切な事項を整理していくことが必要。


1 学校図書館に関する基本的な考え方

○ 学校図書館は、学校図書館法に定められているとおり、学校教育において欠くことのできない基礎的な設備であり、学校教育を支える重要な機能を持つ。その目的は、学校の教育課程の展開に寄与するとともに、児童生徒の健全な教養を育成すること。
そのためには、学校図書館が、「読書センター」、「学習センター」、「情報センター」としての役割を果たすことが求められる。
○ 義務教育機関である小・中学校はもとより、いまや98%の進学率となった高等学校における学校図書館の整備充実も重要な課題。

2 図書館資料について

【基本的な考え方】
図書館資料の計画的・組織的な整備の推進が必要。また、教育課程の展開に直結する図書館資料を整備することが必要。

【具体的な事項についての考え方】
(図書館資料の選定)
○ 学校図書館の図書館資料は、児童生徒の発達の段階等に応じたものであることが必要。また、教育課程の展開に寄与する資料構成とすることも重要。図書館資料の購入等が適切に行われるよう、各学校において、明文化された選定の基準や、基準に沿った図書選定を行うための校内組織の整備が必要。
○ 学校図書館には、「文学(読み物)」が多く配架されているが、教育課程の展開に寄与するという観点からは、自然科学や社会科学等の分野の図書館資料の割合を高める等、蔵書構成の見直しを進めることが必要。

(図書館資料の廃棄・更新)
○ 学校図書館には発行から10 年以上経過した図鑑等が配架されているが、児童生徒にとっては最新の正しい知識に触れる環境が適切。
このような環境の実現・維持のためには、図書館資料の適切な廃棄と更新が重要であり、各学校等においては明文化された廃棄の基準を設けることが必要。

(新聞の配備)
○ 「主権者教育」の充実の必要性等を踏まえれば、学校における新聞配備の充実も重要な課題。

(ICT の活用)
○ 特別支援教育や小学校英語等に資するデジタル教材を充実することが重要。

【今後更なる検討が必要と考えられる事項】
○ 廃棄と更新を進めるに当たって、貴重な資料が失われないようにするための取組としてどのようなことが考えられるか。
○ 学校図書館の施設設備面での工夫について、学校等に配慮を求める事項はないか。


3 学校図書館の運営を支える専門的人材について

【基本的な考え方】
採用時の要件や研修の水準を全国的に高めることにより、司書教諭や学校司書の専門性を確保し教育水準の向上を図ることが必要。

【具体的な事項についての考え方】
(司書教諭と学校司書のそれぞれの職務、役割分担)
○ 司書教諭と学校司書の職務や役割分担については、平成26 年3 月の報告書(別紙)における整理を前提とすることが適当。

(司書教諭)
○ 司書教諭が学校図書館の利活用の促進に十分な役割を果たすことができることが必要。このため、教職員の協力体制の確立や校務分掌上の工夫などの配慮が重要。

(学校司書としての資格の在り方、その養成の在り方等)
○ 学校司書には、学校図書館の「運営・管理」に関する職務に携わるための知識・技能と児童生徒に対する「教育」に関する職務に携わるための知識・技能が必要。
このような学校司書の資質能力は、採用時や配置換え時の資格の確認のみによって確保することには限界があり、現職研修との組み合わせで伸ばしていくことが必要。
○ 学校司書については、独自の新資格を求める意見がある一方、早急に新資格を創設することは現実的ではなく、また、学校司書の配置は地方自治体や私立学校の自主的な取組により進んで来た経緯があること等に配慮すべきとの意見がある。
これらの意見を踏まえつつ、既存の様々な資格が存在する状況の下で学校司書に係る共通基盤を作っていくという観点からは、学校司書の要件について、例えば、各地方公共団体等において以下のいずれかを求めていくことが考えられる。

  1. 教諭等として任用されていれば司書教諭となることができる者については、教員となる資格を有し、かつ、図書館情報学についても一定の知識を有する者であり、「教育」及び「運営・管理」について一定の知識を有するものと考えられることから、学校司書としての採用時等の要件を必要十分に満たす者と位置付けること
  2. 公共図書館等の司書となる資格を有する者については、図書館情報学等について一定の知識を有する者であり、「運営・管理」に関する知識技能は有していると考えられることから、「教育」に関する知識技能については採用後の研修等で補うことを前提としつつ、学校司書としての採用時等の要件を満たす者と位置付けることが考えられる。また、現に学校図書館に勤務する者や非常勤の学校司書については、
  3. 司書教諭となる資格や公共図書館等の司書となる資格を有していない者についても、学校ボランティア等として「運営・管理」等に関わる経験を有している者もあり、
    「教育」及び「運営管理」に関する知識技能を研修等で補うことを前提としつつ、一定の経験等に基づき採用時等の要件を満たす者と位置付けることが考えられる。
    また、今後は、大学における履修証明や地方公共団体の実施する講習等の活用も考えられる。

○ なお、以上の要件に関しては、学校司書の配置が地方公共団体や私立学校の自主的な取組により進んで来た経緯があり、また、実際の職務に当たっては資格や経験に加えコミュニケーション能力等の資質も重要であること、
また、公共図書館や大学図書館において司書としての役割を果たす者の要件については任命権者の判断に委ねられていること
等を踏まえれば、文部科学省はこれらの要件をガイドラインとして示すことが適切。

(学校司書の研修について)
○ 現職研修は、採用時等の要件では確保しきれない資質能力を補うもの。また、一人職であることが多い学校司書が学校外の取組を知る機会としても重要。
小規模の地方公共団体等においては単独で準備することも困難であること等を踏まえれば、国においてモデル的な研修プログラムを作成することが必要。


【今後更なる検討が必要と考えられる内容】
(司書教諭について)
○ 司書教諭の専門性の向上のためにどのような施策が考えられるか。

(学校司書について)
○ 現状、常勤の学校司書と非常勤の学校司書が存在するが、当面、求められる職務の内容や役割分担をどのように考えるか。
○ 学校司書の専門性を高めることと併せ、その専門性を踏まえた職務の安定性・継続性等への配慮を進める方策としてどのようなことが考えられるか。
○ 例えばアメリカの学校司書は識字障害を有する者に対する読書指導を行える等の指摘があるが、我が国における学校司書の在り方を考えていく中で、他の教職員が有していない専門性をどのように確保していくか。
○ 学校司書については、新資格を考えるべきとの意見や、大学・公共図書館の司書との関係で共通性を整理すべきとの意見があるが、こういった意見についてどのように考えていくか。

4 学校図書館の運営について

【基本的な考え方】
校長をリーダーとする学校運営全体の中で学校図書館を適切に位置付けるとともに、その運営を地域の視点も入れたPDCA サイクルの中で改善することが必要。

【具体的な事項についての考え方】
(運営体制の在り方)
○ 校長をリーダーとする学校運営全体の中で学校図書館を適切に位置付けることが重要。
○ また、学校司書がその役割を果たすとともに、学校図書館の利活用が教育課程の展開に寄与するかたちで進むようにするためには、学校司書が職員会議や学校におかれる各種組織に参加することも重要。

(利活用の在り方)
○ 学習指導要領等を踏まえ、各教科や総合的な学習の時間等の中で、学校図書館を積極的に利活用すること。その際、各教科等を横断的に捉え、学校図書館の利活用を基にした情報活用能力を学校全体として計画的かつ体系的に指導することにつながる観点も重要。
○ 学校図書館は、学校になじめない子供の居場所となること等も踏まえ、登校時から下校時までの開館に努めることが重要。

(評価の在り方)
○ 学校図書館の利活用の状況の評価は、予算の投入量ではなく、アウトプット(学校目線の成果)・アウトカム(児童生徒目線の成果)ベースで行われるべき。
[評価項目の例]
(アウトプット)学校図書館を活用した授業の実施状況、学校図書館の開館状況、図書の貸出冊数等
(アウトカム)読書習慣の確立(不読率の低下、読書好きの児童生徒の増加、学校図書館の利用者数)等
○ 評価は組織的に行うことが必要。また、学校運営協議会(コミュニティ・スクール)の活用等、外部の視点を入れることも重要。

【今後更なる検討が必要と考えられる内容】
○ 学校ボランティアの位置付けをどのように考えるか。

5 その他の論点について

(教育委員会による支援、公共図書館等との連携について)
○ 教育委員会は、域内における学校図書館の利活用の標準化の観点から、教育委員会における担当組織の明確化、司書教諭及び学校司書に対する研修の実施、各学校における学校図書館の運営状況の評価の推進等を行うことが必要。
○ 図書館資料の利活用促進のための域内のネットワーク化に関し、公共図書館と各学校図書館をつなぎ、図書館資料の相互貸出等を円滑に進められる仕組み作りが必要。

(民間事業者との連携について)
○ 現在、学校図書館支援員の派遣により学校図書館の運営を支援する実績のある民間事業者があり、これらの事業者との連携を図る地方公共団体等がある。
○ 他方、民間事業者が派遣等する者は、学校図書館法上の学校司書ではないとの位置付け。また、学校図書館は校長のリーダーシップの下で適切に運営されることが重要。
○ こうしたことを踏まえれば、民間事業者との連携は、事業者における法令遵守はもとより、当該事業者による学校図書館支援員の研修等を前提に、
アウトプット・アウトカムベースでの学校図書館の利活用の状況の向上の観点から、その有効性等が判断されることが必要。

【今後更なる検討が必要と考えられる内容】
○ 公立図書館の司書が学校図書館の整備充実に果たしている役割をどう考えるか。公立図書館の司書を学校図書館に派遣する取組をどう評価するか。



(別紙)

「これからの学校図書館担当職員に求められる役割・職務及びその資質能力の向上方策」
(平成26年3月学校図書館担当職員の役割及びその資質の向上に関する調査研究協力者会議報告)

(司書教諭の職務)
○ 司書教諭は,学校図書館の専門的職務をつかさどるための所定の講習を受講し,単位を取得した有資格者として,学校図書館の経営に関する総括,学校経営方針・計画等に基づいた学校図書館を活用した教育活動の企画・実施,年間読書指導計画・年間情報活用指導計画の立案等に従事する。
○ また,司書教諭は,学校図書館を活用した授業を実践するとともに,学校図書館を活用した授業における教育指導法や情報活用能力の育成等について積極的に他の教員に助言することが期待されている。

(司書教諭と学校司書の役割分担)
○ 学校図書館の経営・運営に関する方針や,利用指導・読書指導・情報活用に関する各種指導計画等は,教育課程とどのように結びつけるのかということが重要である。したがって,一般的には,教育指導に関する専門的知識等を有する司書教諭がその立案・取りまとめに従事し,学校図書館担当職員は,図書館資料とその利活用に関する専門的知識等に基づき,必要な支援を行うという形態が想定されるが,実際には両者は協働して当たることが求められる。
○ 司書教諭と学校図書館担当職員は,それぞれに求められる役割・職務に基づき,連携・協力を特に密にしつつも,具体的な職務分担については,各学校におけるそれぞれの配置状況等の実情や学校全体の校務のバランス等を考慮した柔軟な対応も必要となる。

(学校司書の職務)
○ 前節においては,学校図書館の主たる3 機能に応じた標準的な職務を
1児童生徒や教員に対する「間接的支援」に関する職務,
2児童生徒や教員に対する「直接的支援」に関する職務,
3教育目標を達成するため
の「教育指導への支援」に関する職務として例示したが,こうした学校図書館担当職員に求められる資質能力の観点から,学校図書館担当職員に求められる最も基本的な役割を再整理すると以下の2 つとなる。
・ 児童生徒の読書活動や学習活動,教員の教材研究等,利用者が使いやすく,求める資料を探しやすいよう,学校図書館を日常的に整備するとともに,利用者から資料に関する質問を受けた際には適切な資料の提供及び利用の支援を行うこと。(学校図書館の「運営・管理」に関する役割)
・ 学校図書館を活用した授業等の教育活動を推進・充実させるため,教員等と日常的にコミュニケーションを図りつつ,児童生徒の発達の段階や学習指導要領に基づく各学年・各教科等の学習内容に応じ,図書館資料の活用や教員との協働等を通じて,授業等の教育活動に協力・参画すること。(児童生徒に対する「教育」に関する役割)
○ これらの全てを学校図書館担当職員が単独で扱うという趣旨ではなく,職務の内容に応じて,司書教諭等の学校図書館に関係する教職員と協働・分担して当たることが求められるものである。また,個々の学校や学校図書館の状況,校種により,それぞれの学校図書館担当職員が担う職務の優先順位や校内における役割の分担方法は異なってくる。

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初等中等教育局児童生徒課