資料1 全国的な学力調査(英語4技能調査の実施)に関する意見・要望等

平成28年2月2日

全日本中学校長会長
伊藤俊典

全国的な学力調査(英語4技能調査の実施)に関する意見・要望等

全国的な学力調査(英語4技能調査の実施)に関して、全日本中学校長会では下記のとおり意見・要望等をまとめました。「全国的な学力調査に関する専門家会議」において御検討くださいますようお願い申し上げます。



1 趣旨には賛成


英語調査に関するワーキンググループにおける「英語調査に関する論点整理(案)」(以下「論点」とする。)では、次のように示されている。
(英語調査の目的)
・国、都道府県、市町村における英語教育改善のためのPDCAサイクルを構築する
・生徒の4技能における英語力を把握し、その分析結果を活用して各学校における指導・評価の改善を促すとともに、生徒の英語力を着実に向上させる等
(期待される効果)
・英語4技能の妥当性・信頼性のある測定
・学校での授業指導・学習評価や生徒の学習状況の改善・充実に活用
・国、都道府県、市町村における英語教育改善のための施策に活用
・教員がスピーキング等の採点に関わることを通じた教員の指導・評価の改善
・学校のグローバル化推進における活用
(例えば、留学、ICT活用による海外の学校との交流等、英語を用いた活動経験などの把握・分析)等

(全日中の意見等)これらの趣旨は、生徒の英語力を着実に向上させるための英語教育改善には欠かすことができないことと考える。よって、趣旨には全面的に賛成する。この趣旨について丁寧な説明を行うことによって周知徹底を図ることが何より重要である。併せて、学校での授業指導・学習評価や生徒の学習状況の改善・充実に活用するという趣旨を周知していただきたい。高校入試の資料として使用するようなことは絶対に避けなければならない。
また、コミュニケーション能力育成の観点から、4技能の目指す方向を示すことが必要である。併せて、今後の授業の在り方や方向性についても明示していただきたい。



2 予想される課題=いかに運用するか?

(1)今後のスケジュール


「生徒の英語力向上推進プラン」では、次のように示されている。
(中学) 全国的な英語4技能を測る「全国的な学力調査」
・27 年度~ 中学3 年生の英語力調査(フィージビリティ調査:6 万人)
・29・30 年度~ 調査設計・予備調査
・31 年度~ 「全国的な学力調査」実施

「高大接続改革実行プラン」(平成27年1月16日策定)に基づき、高大接続システム改革会議における議論の中で英語4技能による新テストについて検討中。
・27 年度~ 高校3 年生の英語力調査(フィージビリティ調査:7 万人)
・28 年度~ 調査設計
・29・30 年度~ プレテスト準備・実施
・31 年度~ 「高等学校基礎学力テスト(仮称)」導入(予定)
・32 年度~ 「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」導入(予定)

(全日中の意見等)実施までに、次期学習指導要領との関係や教科化される小学校との関連及び高大接続改革を見据えた高等学校との関連を明確にしていく必要がある。フィージビリティ調査を基にして実現可能性を吟味したり、配慮したりすることも必要である。また、調査の意義・概要の周知徹底を図り、体制整備を進めていかねばならない。

(2)実施時期・期間


「論点」では以下のように示されている。
・国語・数学と同様、中学3年生の4月を起点とし、別の日程での実施について検討が必要(特に、スピーキング)
・中学校の行事日程などへの配慮
・どの程度の期間を想定するか

(全日中の意見等)英語調査の実施により現在より実施時間が増加する。特にスピーキングを別日に実施するとなると、学校行事との日程調整が今まで以上に必要になる。学校現場は、授業時数の確保のために、行事の精選をはじめ様々な工夫をしているが、年度初めの一層の多忙化を招くことも考えられる。また、様々な教育施策や課題への対応にも追われている。したがって、実施期間は可能な限り短期間とし、実施時期は早めに決定していく必要がある。少なくとも次年度の計画を立てる前に全容を知らせてほしい。
(例)・修学旅行の新幹線の利用日決定は実施の1年半から2年程度前となっている。
       ・都道府県、市区町村独自の学力調査を実施している場合がある。
       ・中体連関係の大会日程に重なると準備や体制づくりに課題が出てくる。

(3)実施方法・体制(特に、スピーキング、ライティングの試験、評価方法等)


「論点」では以下のように示されている。
・民間の試験団体の活用を検討(国の一定の方向性を踏まえた問題作成・採点・実施運営等)。
・スピーキング、ライティングについて、教員の指導・評価の改善の観点から、教員による試験実施・採点も検討。
・スピーキング、ライティングの採点体制の在り方に関する検討(例えば、評価に関する研修、採点に必要な人数、他校との連携など)
・採点者の研修の在り方に関する検討(例えば、ICT活用による研修・研修後のスキルチェック機能など)
・スピーキング・テストについては、インタビュー形式や生徒同士のペア・パフォーマンスを見る形式など、実施方法についても体制と合わせて検討

(全日中の意見等)教員によるスピーキング、ライティングの試験実施・採点の検討、採点体制、採点に関する研修に関しては、教員の評価者としての力のバラツキをどうフォローするかが課題となる。一定程度の基準を超えさせるためには、力量向上のための研修が必要になってくる。しかし、教員の多忙が叫ばれている中、いつ、どのように研修を実施するかについての検討が重要になってくる。英語教員に過重な負担がかかる可能性も出てくる。時間の確保、評価基準の統一等から考えるとかなりの困難を伴うことも考えられる。これらの課題を解決できなければ、教員による採点は難しい。
また、特にスピーキング・テストの採点に関わる人数をどこまで確保できるのか、他校との連携とは具体的にどのようなものなのかについて、明確にしていく必要がある。
併せて、スピーキング・テストを別日程で行うのであれば、英語教育改革及び英語調査実施の意義に加え、スピーキング・テスト導入の意義について、校長や他教科の教員、保護者等に対していかに周知徹底を図っていけるかが重要なポイントとなってくる。

(4)実施頻度及び調査結果の分析・検証


「論点」では、以下のように示されている。
・複数年に一度実施
・経年変化の分析や質問紙の分析(施策の検証、生徒の経済的環境と英語力の分析も含む)
・IRT(注1)をベースとした分析
・CEFR(注2)等の世界基準の参照などによる生徒の英語力の到達度を測るものだけでない、生徒の学力・学習状況を把握・分析し、教育施策の成果・課題を検証し、改善に役立てる方法等について検討(現在の全国学力・学習状況調査分析・検証の在り方を参考にする)
(注1)Item Response Theory(項目反応理論)の略称。この理論を用いることによって複数回受検する場合に回ごとの試験問題の難易度の差による不公平を排除することが可能となる。なお、その導入のためには、事前に難易度推定のために全ての問題について予備調査することや多量に問題をストックすることが必要。(例TOEFL、医療系大学間共用試験等)
(注2)CEFR(外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠)は、語学シラバスやカリキュラムの手引きの作成、学習指導教材の編集、外国語運用能力評価のために、透明性が高く分かりやすい、包括的な基盤を提供するものとして、20年以上にわたる研究を経て、2001年に欧州評議会(Council of Europe)が発表した。欧州域内では、国により、CEFRの「共通参照レベル」が、初等・中等教育を通じた目標として適用されたり、言語能力に関する調査を実施するにあたって用いられたりしている。

(全日中の意見等)英語の学力調査なので世界基準の参照などによる英語力の到達度を図ることは有効であるが、生徒の学習意欲、学習状況、経済環境等を総合的に評価できるような調査にしていくことが重要である。
また、学習指導要領にある「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成やコミュニケーション能力」と関連づけた結果の分析・検証も必要となる。

(5)その他


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初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)