参考資料4 中央教育審議会生涯学習分科会 今後の放課後等の教育支援の在り方に関するワーキンググループ取りまとめ(案)

6月6日開催「今後の放課後等の教育支援の在り方に関するワーキンググループ」(第9回)配付資料

中央教育審議会生涯学習分科会 今後の放課後等の教育支援の在り方に関するワーキンググループ取りまとめ(案)
~社会総掛かりでの放課後や土曜日等の教育支援の充実に向けて~

1 社会の動向と子供の教育環境をめぐる現状

1.1 社会の動向

  •  我が国は、現在、急激な少子化・高齢化のまっただ中にあり、2060年には、人口は、平成22年(2010年)比約3割減の9,000万人に、うち4割が65歳以上の高齢者となることが予想されており、我が国の労働力人口は平成10年(1998年)をピークに減少しつづけ、2060年には約5割となることが予想されている。
  •  また、同時に、今日の世界においては、社会、経済、文化のグローバル化が急速に進展し、国際的な流動性が高まるとともに、新興国の台頭による国際競争の激化、生産拠点の海外移転等、我が国をとりまく経済環境は厳しさを増し、国際競争力の低下、国際的な存在感の低下が懸念される。
  •  さらに、科学技術の爆発的な進歩と社会の高度化、複雑化や急速な変化に伴い、過去に蓄積された知識や技術のみでは対処できない新たな諸課題が生じており、これに対応していくため、新たな知識や専門的能力を持った人材が求められている。
  •  その一方で、かつてのような終身雇用、年功序列といった安定的な雇用環境は一変し、非正規雇用の割合は、昭和60年(1985年)には16%(655万人)だったものが、平成22(2010年)には35%(1,813万人)にのぼるなど、雇用情勢も厳しさを増して
    いる。
  •  あわせて、都市化、過疎化の進行、地域間格差、経済的格差の拡大が指摘されており、格差の再生産・固定化が進み、社会の不安定化、地域の活力の低下につながることが懸念される。

1.2 子供たちの教育環境をめぐる現状

  •  都市化、過疎化の進行、家族形態の変容等により、子供たちの教育環境には、近年大きな変化が生じている。
  •  家庭をめぐる状況としては、世帯の構成が、昭和61年(1986年)から平成23年にかけて、三世代世帯が15%から7%に減少するとともに、夫婦と未婚の子のみのいわゆる核家族世帯も41%から31%に減少するなど、家族の小規模化が進んでいる。
  •  また、全世帯に占める子供のいる世帯も61%から45%に減少し、半数を割るとともに、15歳未満人口は今後においても減り続けることが予測され、平成24年に約1,650万人であるものが、40年後には、約900万人に減少するなど、少子化の影響は子供の教育環境にも大きな影響を与えると考えられる。
  •  加えて、共働き世帯は、昭和55年(1980年)には、いわゆる専業主婦世帯(男性雇用者と無業の妻から成る世帯)の半数であったのに対し、平成8年(1996年)付近より逆転し、平成23年(2011年)では1.2倍となるなど、一層の女性の活躍促進のためには、こうした変化に対応し、子供たちの教育を支える仕組みづくりが急務となっている。
  •  学校の状況としては、1学校あたりの学級数が、小学校で12学級以下(1学年2学級以下)の学校が全体の51%(平均で1学校7学級)、中学校で9学級以下(1学年3学級以下)の学校が全体の41%(平均で1学校3学級)となっている。
  •  さらに、不登校児童生徒数や特別支援学級・特別支援学校に在籍する児童生徒数、要保護・準要保護児童生徒数、日本語指導が必要な外国人児童生徒数が増加するなど、より多様な児童生徒の状況に配慮した指導が必要な状況に置かれている。
  •  地域としても、こうした少子高齢化や都市化・過疎化の進行、家族形態の変容、ライフスタイルの多様化を背景として、地域のつながりの希薄化や孤立化が懸念され、親子や教員と児童生徒といった縦の関係、子供同士の横の関係だけでなく、親や教員以外の大人と触れあう「斜めの関係」がますます必要になってきている。

1.3 学校週5日制の経緯とその後の成果と課題

  •  学校週5日制は、学校、家庭、地域が連携して、土曜日や日曜日を活用して、子供たちに、家庭や地域で生活体験、社会体験や自然体験など様々な活動を経験させ、自ら学び自ら考える力や豊かな人間性などの「生きる力」を育むことをねらいとして、平成4年9月からの段階的実施を経て、平成14年度から完全実施された。
  •  それに伴い、学校教育においては、学校週5日制の完全実施に合わせて行われた学習指導要領の改訂において、新たに設けられた「総合的な学習の時間」などを活用し、各教科等の学習で得た知識を様々な体験活動等の中で実感をもって理解することや、学び方やものの考え方を身に付けさせるなど、生涯学習の基礎となる「生きる力」を育てていくこととされた。
  •  また、家庭や地域では、学校とともに、豊富な生活体験、社会奉仕体験、自然体験などを経験させ、子供たちに豊かな心やたくましさなどの「生きる力」を育むことため、地域で子供を育てる環境を整備することとし、平成11年度から13年度まで「全国子どもプラン」、平成14年から「新子どもプラン」を実施し、関係省庁の協力を得つつ、子供たちの体験活動の充実に資する各種施策が推進されてきた。
  •  さらに、平成19年度からは、厚生労働省との連携により、「放課後子どもプラン」が推進され、厚生労働省の放課後児童クラブと連携しつつ、放課後や週末等の子供たちの安心・安全な居場所を設け、すべての子供たちに学習や体験・交流活動等の機会を提供する取組を推進している。
  •  こうした中、地域の高齢者や子育て経験者をはじめとする多様な人材の参画を得て、子供たちに様々な学習や体験活動を行う取組が全国で推進されるなど、地域全体で子供たちを育む体制づくりは着実に進んできたところである。
  •  しかしながら、土曜日に様々な経験を積み、自らを高めている子供たちが存在する一方で、必ずしも有意義に過ごせていない子供たちも少なからず存在するとの指摘等があることを踏まえ、平成25年3月に文部科学省に「土曜授業に関する検討チーム」が設置され、同年9月に取りまとめが行われた。
  •  その中で、「土曜日において、子供たちに、学校における授業や地域における多様な学習や体験活動の機会などこれまで以上に豊かな教育環境を提供し、その成長を支えることができるよう、学校、家庭、地域のすべての大人が連携し、役割分担しながら、取組を充実する必要があること」が提言されている。
  •  今後の放課後や土曜日の教育活動の在り方の検討に当たっては、こうした経緯やこれまでの取組の成果を踏まえつつ、これからの子供たちが直面する、多様で変化の激しい社会を生き抜いていくための力を身につけていくため、新たな方策を検討していく必要がある。

2 社会を生き抜くために必要な力と放課後・土曜日等の教育への期待

1.1 社会を生き抜くために必要な力

(1)「生きる力」を育む新しい学習指導要領の基本的な考え方

  •  学校・家庭・地域が連携協力して、子供たちの教育に取り組んでいくためには、各学校の教育課程を編成する際の基準を定める「学習指導要領」の考え方を踏まえることが重要である。
  •  平成20年度の学習指導要領の改訂では、生きる力を育む基本理念は、知識基盤社会の時代においてますます重要となっていることから、これを継承し、生きる力を支える確かな学力、豊かな心、健やかな身体の調和のとれた育成を重視している。
    ※「生きる力」(平成8年中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」)
     ・基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力
     ・自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性
     ・たくましく生きるための健康や体力
  •  特に、確かな学力を育成するためには、基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させること、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力等の能力を育むことの双方が重要であり、これらのバランスを重視する必要がある。
  •  このため、各教科において基礎的・基本的な知識・技能の習得を重視するとともに、観察・実験やレポートの作成、論述など知識・技能の活用を図る学習活動を充実することとしている。また、これらの学習を通じて、その基礎となるのは言語に関する能力であり、国語科のみならず、各教科等においてその育成を重視している。さらに、学習意欲を向上させ、主体的に学習に取り組む態度を養うとともに、家庭との連携を図りながら、学習習慣を確立することを重視している。

(2)第2期教育振興基本計画における基本的方向性

  •  教育振興基本計画は、教育基本法に示された理念の実現と、我が国の教育振興に関する施策の総合的・計画的な推進を図るため、政府として策定するものであり、平成25年6月に第2期の教育振興基本計画が閣議決定されている。
  •  その策定に当たっては、「変化の激しい社会にあって、個人の自立と活力ある社会の形成を実現するためには、どのような資質・能力が必要か」との検討がなされ、同計画では、「自立・協働・創造に向けた一人一人の主体的な学び」が大きなテーマとして掲げられている。
  •  また、教育行政の基本的な方向性について、「社会を生き抜く力の養成」、「未来の飛躍を実現する人材の養成」、「学びのセーフティネットの構築」、「きずなづくりと活力あるコミュニティの形成」の四つの方向性が打ち出されている。
    ※「社会を生き抜く力の養成」社会が激しく変化する中で自立と協働を図るための能動的・主体的な力を誰もが身に付けられるようにする。
    ・「未来への飛躍を実現する人材の養成」
    変化や新たな価値を主導・創造しイノベーションを実現する人材,グローバル社会において各分野を牽引できるような人材を養成する。
    ・「学びのセーフティネットの構築」
    厳しい経済情勢において社会的格差等の問題が指摘される現在,上記2点を達成するための基礎的な条件として,安全・安心で充実した教育機会にアクセスできるようにすること
    ・「絆づくりと活力あるコミュニティの形成」
    社会のつながりの希薄化などが指摘される中にあって,学校教育内外の多様な環境から学び,相互に支え合い,そして様々な課題の解決や新たな価値の創出を促すコミュニティの形成を図る。

(3)OECDにおける「キー・コンピテンシー」の考え方

  •  国際的な動向としては、OECDで提言された「キー・コンピテンシー(主要能力)」という考え方があり、「コンピテンシー(能力)」とは、「単なる知識や技能だけでなく、技能や態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活用して、複雑な要求(課題)に対応することができる力」とされている。
  •  そして、その中でも「キー・コンピテンシー」とは、グローバル化と近代化により、多様化し、相互につながった世界において、特に、人生の成功や正常に機能する社会のために必要な能力として定義され、具体的には、「言語や知識、技術を相互作用的に活用する能力」、「多様な集団による人間関係形成能力」、「自律的に行動する能力」、「これらの核となる『考える力』」の内容で構成されている。

(4)「社会人基礎力」の考え方

  •  今後の多様で変化の激しい社会を生き抜いていくためには、子供たちが日頃の学校等における学習を更に自ら深めさせることや、実社会とのつながりを学ぶ機会の充実や、実社会で役立つ力を育成していくことが重要である。
  •  社会に求められる資質としては、例えば、平成19年に経済産業省が提唱したものとして、「社会人基礎力」があげられる。
  •  「社会人基礎力」は、「職場や地域で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎力」であり、「基礎学力」や「専門知識」に加え、それをうまく活用していく力としての「社会人基礎力」を意識的に養成していくことが重要であるとされている。
  •  その内容としては、1.「前に踏み出す力」~一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力~(主体性、働きかけ力、実行力)、2.「考え抜く力」~疑問を持ち、考え抜く力~(課題発見力、計画力、創造力)、3.「チームワーク力」~多様な人々とともに、目標に向けて協力する力~(発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、規律性、ストレスコントロール力)とされ、それらは、人間性や基本的な生活習慣を土台としつつ、基礎学力や専門知識と相互に影響を及ぼしつつ、能力の全体像を構成するとされている。

2.2 放課後・土曜日等の教育活動への期待

  •  こうした社会の動向や子供たちの教育環境を巡る現状等を踏まえ、今後の放課後や土曜日の教育の在り方を検討するに当たっては、学校・家庭・地域が連携し、役割分担しながら、社会総掛かりで教育に取り組む仕組みづくりの一環と捉えるとともに、全体として子供たちの教育環境を豊かにし、「生きる力」を育むという視点が重要である。
  •  そのため、放課後や土曜日は、学校教育との連動性を意識しつつも、学校教育だけでは実現しにくい、実生活・実社会とのつながりを体験的・探求的に学習できるよう、創意工夫に富んだ教育活動が行われることが期待される。
  •  例えば、教員だけでない子供と関わる人材の多様性をはじめとして、異学年や異学校種も含めた学習集団のつくり方、学習時間の長さや実施場所など、様々な面で多様性・柔軟性等を生かした工夫が可能である。
  •  こうした前提を踏まえつつ、今後の放課後や土曜日等の教育への期待としては、以下の観点が考えられる。

(1)学校での学びが深まり、広がる学習、体験の機会の充実

  •  放課後や土曜日は、学校における学びを更に深めることや、児童生徒の興味関心に応じて、更に広がる機会となることが期待される。
  •  また、学校における学習が、生活や社会とどのようにつながっているのかを体験的・探求的に学ぶことができる機会として、その後の学習活動の動機付けとなることも期待される。

(2)安心して産み育てられる環境づくりとしての放課後・土曜日の教育活動の充実

  •  放課後や土曜日は、社会全体の要請や子供たちの多様なニーズに応えていく機会としても期待される。
  •  例えば、安心して子育てや仕事を両立できる環境づくりの観点から、子供たちが放課後や土曜日に、家庭だけでなく、地域の多様な大人と触れあい、多様な学習ができるよう、学習やスポーツ・体験活動の機会やプログラムを充実していくことが期待される。
  •  また、特別な支援を必要とする児童や、外国人の児童、児童養護施設の入所児童など、様々な事情から特別なニーズのある子供たちへの学習機会を、教育と福祉の連携をこれまで以上に深めて、充実していくことが重要である。

(3)子供たちの主体性を引き出し、実社会で役立つ力を培う学習・体験機会の充実

  •  放課後や土曜日は、子供たちが与えられたプログラムをこなすだけではなく、子供たち自身の意欲や参画を重視し、主体性を引き出す機会とすることや、自らの取組が様々な学びにつながっていくことが期待される。
  •  また、実社会とのつながりを感じ、将来の目標をもって学ぶ機会となるよう、多様なロール・モデルや「本物」に出会う機会を充実することが期待される。

(4)学習意欲・学習習慣形成・学力向上の観点からの学習機会の充実

  •  放課後や土曜日は、子供たちが「学ぶ楽しさ」に出会い、学習意欲の向上や学習習慣の形成につながる機会となることも期待される。
  •  例えば、就学前の学校生活の入口の時期の学習習慣の形成や、学校での学習の理解が必ずしも十分でない子供たちが「学ぶ楽しさ」「わかる喜び」を感じ意欲を高めることや、学習が進んでいる子供たちが発展的な学習とする機会とするなど、補充的又は発展的な学習の機会として活用することも期待される。

3 今後の放課後・土曜日等の教育活動の基本的方向性

 こうした放課後や土曜日等の教育への期待等を踏まえ、社会総掛かりでの教育の実現に向けて、現在各地域で実施している取組を生かしつつ、今後、更に充実していくべき放課後や土曜日等の教育活動の基本的な方向性について、以下の通り整理する。

3.1 学校と放課後・土曜日等の学びがつながる仕組みづくりの推進

  • 学校・家庭・地域の連携・協働による教育活動の発展的展開
    ・放課後子供教室や学校支援地域本部、学校運営協議会等の連携強化や一体的実施の推進
    ・就学前から中学校までなどの学校間連携を意識した仕組みづくりの推進
  • 学校や子供たちを核とした地域づくりの推進
    ・多様な関係者がつながる学校施設の複合化・共用化
    ・子供に関わる大人の学びのコミュニティ化の推進と地域の活性化

3.2 教育と福祉の連携促進による放課後等の支援の充実

  • 女性の活躍促進に向けた放課後等の支援の充実
    ・男女が共に子育てや仕事を両立できる環境づくりの観点からの放課後対策の充実
  • 学校や放課後子供教室等と放課後児童クラブの連携強化
    ・放課後子供教室と放課後児童クラブの一体的実施の推進
    ・学校施設の活用促進
    ・すべての子供たちを対象とした多様な学習・体験プログラムの充実
  • 特別なニーズのある子供たちへの支援の充実
    ・特別な支援を必要とする児童、外国人の児童、児童養護施設入所児童等への放課後等の支援の充実

3.3 多様な主体の参画による土曜日の教育活動の推進

  • 地域人材や保護者、企業・団体、NPO、民間教育事業者、大学等の多様な主体が教育活動に参画する仕組みづくりの推進
    ・企業等の人材が教育活動に参画するための仕組みづくりの推進
  • 学校と地域・企業・大学等の多様な主体をつなぐコーディネート機能の充実

3.4 実社会につながる「土曜日ならでは」の多様なプログラムの充実

  • 子供たちの主体性を引き出し、実社会につながる学習機会・内容の充実
    ・地域や社会で役立つ経験・体験の機会の充実
    ・企業等との連携による実社会での経験を踏まえたプログラムの充実
    ・多様な大人・ロールモデルに出会う機会の充実
  • “学ぶ楽しさ”に出会い、学習意欲・習慣の形成につながる学習機会の充実
    ・学ぶ基礎を培う就学前の教育機会の充実
    ・習い事や学習塾等の民間教育事業者等との連携による補充・発展的な学習機会の充実
  • 「地域ならでは」のプログラムの充実と“全国どこでも学べる”体制づくり
    ・「地域ならでは」の特性を生かした教育機会の充実
    ・ICT の利活用による学習プログラムの充実

3.5 持続可能な体制づくりの推進と全国の取組の活性化

  • 持続可能な仕組みづくりのためのコーディネート機能の強化
    ・コーディネーターの配置の充実や研修の体系化・充実
  • コーディネーター等の活動を支えるサポートシステムの充実
    ・スーパーバイザーの配置や社会教育主事によるコーディネーター等への助言体制の充実
  • 全国の取組の活性化に向けた中間支援機能の強化
    ・コーディネーターや放課後・学校支援関係者等の全国的なネットワークの形成等に必要な中間支援機能の強化
    ・子供の教育活動に係る人材や財源が、公的支援だけでなく民間も含め継続的に集まる仕組みづくりの推進

4 基本的方向性を実現する具体的方策1
 ~社会総掛かりでの放課後等の教育の充実に向けた新たな方策~

4.1 学校と放課後や土曜日等の学びがつながる仕組みづくり

(1)学校・家庭・地域の連携・協働による教育活動の発展的展開

  •  未来を担う子供たちを健やかに育むためには、学校、家庭、地域住民等がそれぞれの役割と責任を自覚しつつ、社会総掛かりで教育に取り組むことが重要であり、この趣旨は平成18 年に改正された教育基本法にも明記されている。
  •  「社会総掛かりでの教育」を実現するためには、それぞれの主体が子供の教育に関わる重要性等についての理解を深めるとともに、学校・家庭・地域が連携・協働して教育活動を展開するための具体的な仕組みが必要である。
  •  そのための具体的な仕組みとして、地域住民が放課後の子供たちの教育活動を支援する「放課後子供教室」、学校の授業や部活動、学校行事等を支援する「学校支援地域本部」、保護者や地域住民が学校運営に参画する「学校運営協議会(コミュニティ・スクール)」等の取組が全国で広がりつつある。
  •  平成25 年度には、放課後子供教室は公立小学校の51 %の10,376 教室、学校支援地域本部は公立小中学校の28 %の3,527 本部、コミュニティ・スクールは1,570 校の公立学校で取り組まれ、年々増加しており、それらの取組の効果が広まり、学校・家庭・地域の協働体制の構築や地域とともにある学校づくりが進んできているといえる。
  •  第2期教育振興基本計画においても、今後取り組むべき具体的方策として、「全ての学校区において、学校と地域が連携・協働する体制が構築されることを目指す」としており、更なる取組の充実を図る必要がある。
  •  また、放課後の支援と学校支援等の連携や学校との情報共有が十分でないなどの課題もあり、これらの機能を有機的に組みあわせた発展的な仕組みづくりを進めていくことが重要である。

(2)学校と放課後等の学びがつながる“横の連携”の仕組みづくり

  •  子供の時間は、学校と放課後や週末もつながっており、「学校で学んだことを、放課後もう少し調べてみたい」と思うような、学びや遊びの連続性を意識した教育活動の支援が重要である。
  •  また、子供の教育活動に地域の住民が関わることにより、学校以外で見せる子供の多様な側面に気づき、教員とは違った視点から子供を多面的に見ることができる。その情報を教員と共有することにより、学校教育に活かすことにつながる。
  •  そのため、放課後等の支援活動に関わる者と学校関係者や学校支援に関わる者が日常的に情報を共有したり、課題を話し合ったりする機会を設けることが重要であり、例えば、学校区ごとに、放課後子供教室、放課後児童クラブ、学校支援地域本部、学校関係者等からなる協議会を設けたり、その協議会を基盤として学校運営協議会(コミュニティ・スクール)に発展させることで学校・家庭・地域の組織的・継続的な連携・協働体制を確立することも一つの方策である。
  •  その中で、教育目標や育てたい子供像、子供たちの状況などの情報、アクション(実際の支援活動)の方向性など、子供たちを総掛かりで育むための基本的な方向性を共有し、理解を深めることが重要である。

(3)就学前と小学校、小学校と中学校など“縦の連携”が生まれる仕組みづくり

  •  学校・家庭・地域が連携・協働する上で、学校区をひとつの地域単位とする仕組みづくりは、3者が当事者としての意識や役割を持ちやすく、顔の見える関係として思いや行動を共有でき、効果的である。
  •  一方、一つの学校区だけで仕組みづくりを進めることは、その学校区だけに地域が閉じてしまい、小学校から中学校に進学すると、これまでの目標や情報、活動がつながらないといった課題もあり、子供たちの発達段階を通じた縦の連携を意識することも大変重要である。
  •  子供たちを取り巻く社会の状況が様々に変化し、課題が多様化、複雑化してきている中、学校においては、複数の学校段階間で連携して課題解決に当たることがより一層求められており、幼児期の教育と小学校の連携や小学校と中学校の連携・一貫教育などを進める動きもある。
  •  学校間連携は、学びの連続性を意識した体系的な教育の実現や、進学によって新しい環境での学習や生活に移行する段階での諸問題の発生(いわゆる中1ギャップ)の抑制といった効果があり、地域連携と併せて取り組むことで大きな効果が期待できる。
  •  例えば、ある自治体(奈良市)では、中学校区を単位として、学校支援や放課後支援を行う仕組みづくりを行い、自治会や社会福祉協議会等の地域の各種団体の代表者、PTA、教職員等からなる「地域教育協議会」(学校支援地域本部)を中学校区に設置し、その中学校区にある、幼稚園、小学校、中学校にそれぞれ「運営委員会」を置き、学校支援活動や放課後子供教室の活動に取り組んでいる。
  •  中学校区を単位とすることで、学校と地域だけでなく各学校間の連携が促進され、地域や各学校園の現状や課題が共有でき、幼稚園と小学校、中学校の接続がスムーズになり、義務教育9年間を見通した子供たちのよりよい学びのための校区の基盤づくりにつながっている。
  •  なお、こうした仕組みづくりを進めるに当たっては、地域と学校が連携することの効果を関係者が理解し合うことが重要であり、取組により子供や学校がどう変わったか、といった効果を客観的に把握できるよう、数値も含めた成果を蓄積していくことが必要である。

4.2 学校や子供たちを核とした地域づくり

(1)多様な関係者がつながる学校施設の複合化・共用化

  •  子供たちに関わる多様な関係者がつながり合い、社会総掛かりで子供たちを育んでいくためには、学校施設の複合化・共用化を進め、物理的に交流できる場づくりを推進していくことも一つの方策である。
  •  例えば、ある自治体(千代田区)では、一つの空間の中に幼稚園と保育所、認定こども園をつくり、その上に小学校と放課後子供教室があり、夜は地域住民が活動するコミュニティ施設になるという事例があり、それらの関係者が定期的に情報共有を図っている。
  •  また、ある自治体(横浜市)では、中学校内にコミュニティスペースが併設されることにより、乳児から小学生、高齢者までがそこに集うことができ、学校の中に、“地域の縁側”といった地域施設の機能を果たす場所があることにより、学校と地域をつなぎ、地域全体で子供たちを育む環境ができている事例もある。
  •  被災自治体(岩手県大槌町)においても、将来の町を担う子供たちが、郷土に誇りを持ち、文化の継承と復興に取り組む価値を見いだす教育づくりとして、「ふるさと科」を導入し、学校・家庭・地域の協働による小中一貫教育を推進しているが、新たに建設する学校施設の中に、「井戸端会議室」という地域連携室を設置し、地域の大人が集うとともに、災害時の防災拠点となる開かれた学校づくりの計画が進んでいる。
  •  既存の学校施設においても、学校と地域が共用できるスペースを設けるなどの工夫を進めるとともに、今後、新たに学校施設の新築・改築が進められる際には、地域の人々の交流の場などを備えた地域コミュニティの拠点としての学校施設の整備も意識して計画がなされることが期待される。

(2)子供に関わる大人の学びのコミュニティ化と地域の活性化

  •  子供たちは、家庭や学校、地域、企業等をはじめとする多くの大人とのつながりの中で育つものであり、子供に関わる大人が、如何に自らの生活・社会経験や知恵等を子供に伝えていくかが重要であり、そのために大人も学び、学ぶためにつながっていくかが必要である。
  •  また、そうした子供との関わりの中で、大人の学びのコミュニティも創っていくことが重要であり、それが子供たちの未来を育むことにもつながり、街の未来にもつながることとなる。
  •  「いいまちはいい学校を育てる」、「いい学校がいいまちをつくる」というように、学校は地域づくりの一つの大きな核であり、コミュニティが学校を育て、学校がコミュニティを育てるという関係性が定着していくことが望まれる。

4.3 教育と福祉の連携促進による放課後等の支援の充実

(1)女性の活躍促進に向けた放課後等の支援の充実

  •  男女が仕事と家庭を両立するための環境整備の推進等により、共働き家庭は増加し、国は、保育所の「待機児童解消加速化プラン」等に取り組んでいるが、小学校入学で、これまで勤めてきた仕事を辞めざるを得ない、いわゆる「小一の壁」の存在が課題となっている。
  •  共働き家庭等の子供たちの放課後等の居場所づくりについては、厚生労働省の放課後児童クラブ等による整備が進められ、平成25 年度現在、21,482 箇所の放課後児童クラブを889,205 人が利用しているが、利用できない児童(いわゆる待機児童)が8,689人(平成25 年度)存在しており、厚生労働省が市町村に聞き取りを行った調査によれば、平成31 年度時点の利用ニーズは約120 万人と推計され、新たに約30 万人分の受け皿を拡大する必要がある。
  •  「日本再興戦略(平成25 年6 月閣議決定)」の改訂に向け、本年1月に閣議決定された「成長戦略進化のための今後の検討方針」においても、今後取り組むべき重要課題として、「小学校入学後も、子どもが安心して過ごせる居場所を確保し、子どもを持つ女性等の就業を更に促進する観点から、待機児童解消等に向けた学童保育の充実等」が挙げられており、対応が急務となっている。
  •  また、共働き家庭に限らず、少子化や都市化等の影響により、すべての子供たちにとって、異年齢の子供たちと交流する等、親や教員以外の大人と触れあう機会が少なくなっており、放課後等に学校の級友以外の友達や多様な大人と交流できる居場所の確保は共通の課題である。
  •  さらに、放課後に習い事や塾等の多様な学習機会を活用する子供たちがいる一方、そうした機会を有意義に活用できない子供たちとの間での学習機会の格差も指摘されており、すべての子供たちに豊かな学習・体験の機会が提供される環境づくりを進めていくことが必要である。
  •  これらに対しては、平成19年度より、文部科学省と厚生労働省が、放課後子供教室と放課後児童クラブを連携または一体的に実施する「放課後子どもプラン」を推進してきているが、依然として一体的実施や連携、学習プログラムが十分でないなどの課題があり、「放課後子どもプラン」の更なる充実が求められる。

(2)学校や放課後子供教室と放課後児童クラブの連携強化

1) 新たな放課後対策の基本的な考え方

  •  小学校入学後の待機児童解消に向けた検討については、政府全体としても、産業競争力会議(議長:内閣総理大臣)を中心に行われ、本年5月28日の同会議課題別会合において、文部科学大臣と厚生労働大臣の共同により、新たな放課後対策として「放課後子ども総合プラン」が提案され、両省において具体策の検討が進められている。
  •  新たな提案においては、いわゆる「小一の壁」を打破し、共働き家庭等の児童にとって安心・安全な居場所を確保する観点と、次代を担う人材の育成のため、全ての子供たちが多様な学習・体験活動を行うことができる環境の整備を図る観点の両面から、総合的に放課後対策の推進を図るため、放課後児童クラブと放課後子供教室の一体的な実施を強力に推進する方向性が示されている。
  •  具体的には、平成31年度までに約30万人分の放課後児童クラブの新たな受け皿を拡大するため、全小学校区で放課後児童クラブと放課後子供教室を一体的に、又は連携して実施すること、そのうち約1万カ所以上を一体型とすること、基盤となる放課後子供教室を全小学校区で整備すること等が提案されている。
  •  また、そのためには、学校施設の一層の活用を図り、新たに開設する放課後児童クラブの約80%の学校内での実施を目指すことや、全ての子供たちを対象としたプログラムの充実を図ること等が打ち出されており、この具現化に向けた方策が求められる。

2) 学校施設の活用の促進

  •  学校施設は、子供たちが放課後に校外に移動せず安全に過ごせる場所であり、学校の教育活動だけでなく、放課後の活動においても、可能な限り、余裕教室や放課後等に一時的に使われていない教室等を有効に活用することが重要である。
  •  学校施設を放課後児童クラブなどに転用する際の財産処分手続きは既に大幅に弾力化され、平成21年度には、放課後子供教室や放課後児童クラブの実施に際して、余裕教室等の活用促進を図る通知も発出されているところである。
  •  しかしながら、学校施設管理上の理由から、教育委員会や学校の理解が得られない場合があるなど、教育と福祉の関係者の間に意識の壁があるのではないかとの指摘もある。放課後児童クラブが学校内の余裕教室や専用施設等で実施している割合は、平成25年度時点で約50%となっており、今後新たに開設する放課後児童クラブについては、その割合を大幅に高めていく必要があると考えられ、より一層の活用促進が求められる。
  •  そのためには、放課後の活動の管理運営上の責任体制を明確化するとともに、事故がおきた際の対応や、学校が当該スペースを使用する場合の取り決め事項等を協定で締結するなどの取組を行っている自治体もあり、こうした好事例の共有により、教育委員会や学校の不安を払拭していくことが求められる。
  •  また、余裕教室は、文部科学省の調査(平成25年5月現在)によると、小学校で約43,000教室あり、99%が既に活用されているが、そのうち92%は当該学校の施設として、学習方法・指導方法の多様化に対応したスペースや、特別教室、授業準備のスペース、教職員のためのスペース、地域への学校開放を支援するスペース、学校用備蓄倉庫等に活用されており、これらのスペースについて、各自治体において放課後対策のために利用できないか検討することも重要である。
  •  放課後対策は、実施主体にかかわらず、同じ学校に通う児童生徒の健やかな成長のため、立場を越えて連携して取り組んでいくことが重要であり、教育委員会と福祉部局の行政関係者、学校関係者、放課後子どもプランの関係者等からなる委員会を設け、学校施設の活用に関する計画を協議し、状況を公表していくことや日頃の活動の中で信頼関係を高めていくこと等を通じて、関係者間の理解の促進を図ることも重要である。
  •  なお、現在国会において審議中の新たな教育委員会制度において設けることとされている総合教育会議を活用し、首長と教育委員会が総合的な放課後対策について十分協議し、放課後児童クラブと放課後子供教室の一体的実施を進めていくことや、学校施設の積極的活用を促進することなども期待される。

3) すべての子供たちを対象とした多様な学習・体験プログラムの充実

  •  放課後等における子供たちの豊かな教育環境の実現のためには、居場所の確保や自由な遊びだけでなく、学校で学んだことを深めたり広げたりする学習や、補充学習、文化・芸術に触れあう活動、スポーツ活動、地域の歴史や伝統を学ぶ活動など、子供たちの興味関心やニーズに応じた多様なプログラムが提供されることが望ましい。  また、共働きか否かに関わらず、全ての子供たちがこうした多様な学習・体験プログラムに参加できることが重要であり、基盤となる放課後子供教室をこれまで以上に充実させ、原則として全ての小学校区で実施できるよう計画的に整備していくことが必要である。
  •  そのためには、地域住民等の一層の参画を促すとともに、これらの人材に加え、大学生や企業OB、地域の高齢者、子育て・教育支援に関わるNPO、習い事や学習塾等の民間教育事業者、文化・芸術団体などの参画を促進していくことが重要である。  また、多様なプログラムを展開するためには、学校の図書館、体育館、校庭等の多様なスペースを活用することが有効であり、余裕教室だけでなく、これらの施設の一時利用を積極的に促進していくことが必要である。
  •  その際、図書ボランティアやスポーツ活動ボランティアを充実するなどして、それぞれの場の安全管理を図る工夫も必要であり、これらの人材の確保に当たって、学校支援に関わるボランティアの放課後への参画を促すことも有効である。  なお、学校の長期休暇中は、家庭や地域で過ごす時間が長く、この機会のプログラムを充実したり、地域の様々な団体が実施する学習や体験活動と放課後子供教室が連携するなどして、参加児童が有意義に過ごせるような工夫も重要である。

4) 一体型を中心とする放課後対策の推進

  •  新たな放課後対策の推進に向けては、現在、既に同じ学校内で放課後子供教室と放課後児童クラブを実施している場合には、共通のプログラムの実施や相互交流等を通じて、速やかに一体的実施を進めるとともに、新たに設置する場合にも、可能な限り学校施設を活用しつつ、一体的実施を想定した整備を進めることが求められる。
  •  その検討にあたっては、地域の実情やニーズに応じて、実施頻度や場所等について、持続可能なものとなるよう進めることが重要である。
  •  例えば、学校内で行う一体型の取組であっても、実施頻度については、地域のニーズ等に応じて、毎日、放課後子供教室を実施し、一定の時間まで共通のプログラムを提供し、その後は放課後児童クラブの児童の生活の場も確保する地域もあれば、放課後子供教室は週1~2回程度とするなど、定期的に開催する地域なども考えられる。
  •  また、実施場所についても、放課後児童クラブが児童館等で実施する場合など、やむを得ず同一の場所で実施できない場合には、例えば、放課後子供教室の開催日には、小学校等で行うプログラムに参加した後に児童館等へ移動する、といった連携を進めることも重要である。
  •  いずれの場合においても、全ての子供たちが多様なプログラムに参加できるよう、原則として、全ての小学校区において、放課後子供教室と放課後児童クラブとの一体的実施や連携を進めることが求められる。
  •  その際、放課後の子供たちの様子を学校の教職員や保護者と共有できるよう、定期的・日常的に、放課後児童クラブや放課後子供教室の関係者と学校の教職員との情報共有を図る仕組みづくりをあわせて進めることが重要である。
  •  また、保護者が放課後の子供たちの様子を把握し、家庭教育に生かしたり、家庭での子供の状況を放課後児童クラブや放課後子供教室の関係者が把握したりすることは極めて重要であることから、保護者との対話や連絡帳のやりとり等を通じて保護者との連絡を密にしていく工夫も必要である。

(3)特別なニーズのある子供たちへの放課後等の支援の充実

  •  すべての子供たちの豊かな教育環境の実現のためには、特別な支援を必要とする児童や、日本語指導が必要な外国人児童及び日本国籍であるが日本語指導が必要な児童、児童養護施設等で暮らす児童など、多様な子供たちの状況に配慮した、きめ細かな支援も必要である。
  •  特に、特別支援教育の対象となる児童や、日本語指導が必要な児童は近年増加しており、学校の教育活動の一環としての支援に加え、こうした子供たちが放課後の活動に参加しやすい工夫を行うことも重要である。
  •  例えば、コーディネータやボランティアに対する研修の中で、発達障害に関する理解を深めるテーマを取り上げたり、特別支援学校における放課後子供教室において、教育学部や福祉学部等の大学生の参画により、特別なニーズを有する子供たちに配慮しつつ支援を行っている事例もある。
  •  これらの事例を共有するとともに、今後の放課後のプログラムの充実を図る中で、特別支援学級や特別支援学校に在席する子供たちとの交流を促進する活動や、障害の理解や国際理解を深めるプログラムを充実することも考えられる。
  •  また、児童養護施設で暮らす児童も増加しており、厚生労働省や自治体の福祉部局を中心にこれらの児童への支援の充実を図っているが、大学等への進学率が全ての高等学校卒業者に比べて著しく低いなどの課題もあり、厚生労働省と連携しつつ、学校教育だけでなく、放課後等において学習意欲や学習習慣の形成を支援することも重要である。
  •  そのための一方策として、学校施設等で行う放課後等の活動に参加しやすい工夫を行うだけでなく、例えば、こうした子供たちへの支援を行うNPO 等と連携するなど、出前教室のような形で施設等に出向いて行う形式等も考えられる。
  •  これらの特別なニーズを有する子供たちの支援の充実に当たっては、今後一層、教育と福祉の連携を深め、行政の縦割りの役割分担にとらわれない新たな方策等を検討していくことが期待される。

4.4 持続可能な仕組みとするためのコーディネーターの育成・機能強化

(1)学校と地域をつなぐコーディネーターの役割や位置づけ

1) コーディネーターの役割と効果的な配置・位置づけ

  •  学校と地域、学校と放課後の活動をつなぐためには、コーディネーターの役割が重要であるが、コーディネーターが一人で多くの調整を担い、後継者不足等が課題としてあげられるなどの課題もあり、持続可能な体制づくりが必要である。
  •  ある自治体(奈良市)の例では、中学校区の「地域教育協議会」に「総合コーディネーター」を、幼小中の「運営協議会」に「代表コーディネーター」を位置づけ、各学校区間での協力体制を築いている。
  •  また、ある自治体(小平市)では、一つの学校区内に、活動ごとに学習支援部会、部活動支援部会、家庭教育支援部会などの部会を設け、各部会にコーディネーターを置き、コーディネーターの連絡会を設置している例もある。
  •  また、コーディネーターが活動しやすい環境づくりとして、職員室に学校支援地域本部のコーディネーターの席を置き、日頃から教員と情報を共有したり、職員会議や学校運営協議会への参加等を通じて、学校との協力関係を深めている例もある。
  •  活動をより充実させるためには、コーディネーターが学校とイコール・パートナーとなりつつ、地域の人材の発掘・確保、保護者の協力を得ていく必要があり、その活動をNPO が支援したり、事務処理にかかわる負担の軽減を図ることも重要である。
  •  例えば、被災地のある自治体(福島県楢葉町)では、厳しい状況にある子供たちの学習環境の改善のため、行政との連携のもと、放課後の学習支援を東京のNPO法人が中心となって立ち上げ、コーディネートを担いつつ、その活動に地域住民が参画することにより、ノウハウを学び、地域の人材育成につながっている例もあり、行政とNPO、地域住民・団体との連携を推進していくことも効果的である。

2) 学校のコーディネーター(地域連携担当の教員等)の位置づけの明確化

  •  学校と地域の協働を進める上で、教員の理解の不足や、教員の人事異動により継続性が担保されにくいといった課題がよくあげられる。
  •  そのため、地域側の窓口としてのコーディネーターだけでなく、学校側の窓口として、地域連携担当の教職員を置く例や、地域連携の業務を校務分掌に位置付ける例もあり、効果的である。
  •  また、初期の段階では、校長などの管理職がリーダーシップを取り、次第にこうした体制づくりにつなげていくということも一つの方策である。
  •  なお、学校の体制づくりは、学校独自の取組だけでなく、自治体全体の体制づくりの一環で行われることも重要であり、例えば、行政での社会教育主事の経験のある教員を学校に配置していく仕組みづくりを都道府県全体で進めている事例もあり、こうした行政による体制づくりが進められることが期待される。

(2)コーディネーターの育成・機能強化に向けた研修の充実

  •  持続可能な仕組みづくりのためには、コーディネーターの育成やスキルアップのための研修の充実やコーディネーター同士が情報を共有し合えるネットワークづくりが重要である。
  •  研修はその内容、回数、対象等については、都道府県レベルで検討・実施されており、年に数回、市町村からの推薦によるコーディネーターに対して実施されているものが多くみられる。
  •  今後のコーディネート機能の強化に向けては、これからコーディネーターになる人、始めたばかりの人、地域のコーディネーターのリーダーや総括を務める人などでは課題や役割も異なることから、そうした対象ごとの研修を設けたり、経験豊富なコーディネーターと情報共有できる機会を設けるなど、コーディネーターが資質向上を図れるような仕組みを構築することが重要である。
  •  また、コーディネーターの研修だけでなく、教員の研修、学校支援や放課後子供教室のボランティアや放課後児童クラブの指導員の研修、これらの人材が共に参加し、ネットワークを構築できる共通の研修を充実することなども重要である。
  •  研修を実のあるものにするためには、希望者が参加しやすいように配慮しつつ、今後、その地域が進めていきたい体制づくりに見合った人材育成が行えるよう、各自治体において、年間や将来を見通した研修の体系を構築していくことが期待される。

4.5 全国の取組の活性化のための中間支援機能の強化

(1)スーパーバイザー等の配置によるコーディネーターへの助言体制の構築

  •  持続可能な仕組みづくりのためには、コーディネーター等の活動を支える、サポートシステムを充実していくことも重要である。
  •  例えば、各都道府県などある程度広域の範囲に、スーパーバイザーやアドバイザーといった、コーディネーターに助言ができる人材の配置を進めていくこともひとつの方策である。
  •  また、こうした役割を社会教育主事が担い、行政と学校、地域をつなぎ、コーディネーターの活動を支えていくことも重要である。

(2)中間支援機能の強化

  •  社会総掛かりでの教育を絵に描いた餅にせず、具体化し、そして持続可能なものとしていくためには、こうした活動を支える広域的な基盤づくりも必要であり、地域単位だけでなく、全国のスーパーバイザー、コーディネーターを始め、学校支援や放課後支援に係る人材、NPO などのネットワーク形成を図る中間支援組織の創設を視野にいれることも必要である。
  •  また、国や都道府県、市町村が必要な支援策を講じることと併せて、例えば、寄附や基金など、教育支援にかかる人材やもの、財源が、公的資金のみならず、民間も含めて、継続的に集まるような仕組みの構築も重要である。
  •  さらに、新たな課題や方策に取り組む自治体や学校区や一定の機能を満たしている取組に対し、国や中間支援組織が一定の認証や呼称を付して取り上げたり、その成果を全国に普及していくなど、全国の取り組みの充実に向けた新たな方策が期待される。

5 基本的方向性を実現する具体的方策2
 ~土曜日の豊かな教育環境の実現に向けた新たな方策~

5.1 これまでの経緯と土曜日の教育活動の理念

  •  土曜日における教育活動の理念については、文部科学省に設置された「土曜授業に関する検討チーム」において、昨年9月に、次のとおり整理された。
    ・学校、家庭、地域の三者が連携し、役割分担しながら社会全体で子供を育てるという理念は、普遍的に重要。
    ・学校週5日制は、このような基本理念を踏まえて導入されたものであるが、一方で、土曜日を必ずしも有意義に過ごせていない子供たちも少なからず存在するとの指摘。
    ・子供たちにこれまで以上に豊かな教育環境を提供し、その成長を支えることができるよう、学校、家庭、地域が連携し、役割分担しながら、学校における授業や地域における多様な学習、文化、スポーツ、体験活動等の機会の充実に取り組むことが重要。
  •  このような観点から、学校における学習機会の提供の一つの方策として土曜授業を捉え、設置者の判断により、土曜授業を行うことが可能であることをより明確化するため、昨年11月に学校教育法施行規則の一部改正が行われた。
  •  また、土曜日の教育活動の推進に当たっては、質の高い土曜授業の実施のための支援策を講じるとともに、地域における学習やスポーツ、体験活動など様々な活動を一層促進するための方策など、子供たちの土曜日を全体としてより豊かで有意義なものとするための施策についても検討する必要がある、という基本的な考え方が示された。
  •  これらを踏まえ、新たに、平成26年度より、国として土曜日の教育活動の推進に係る方策を実施することから、土曜日の豊かな教育の実現に向けた新たな方策については、以下のとおりまとめる。
  •  なお、ここで示す内容は、新たな方策として考えられる事柄を網羅的、かつ、より良い方策として示したものであり、子供たちの豊かな教育環境の実現に向けては、地域の実情に応じて、まずは、できることから始めていくことが重要である。

5.2 土曜日の教育活動の実施主体や特徴

(1)土曜日の教育活動の形態と実施主体

  •  土曜日の教育活動については、その実施主体は扱う内容等により、以下のような幾つかの形態に整理できる。
    ・児童生徒の代休日を設けずに土曜日を活用して教育課程内の学校教育活動を行う「土曜授業」
    ・学校が主体となって、希望者を対象として学習等の機会の提供を行うなど、教育課程外の学校教育を行う「土曜の課外授業」
    ・教育委員会など学校以外の者が主体となって、希望者に対して学習等の機会を行う「土曜学習」
  •  このうち、「学校支援地域本部」や「放課後子供教室」などが主体となって、土曜日の教育活動を行う場合は、「土曜学習」に該当し、原則として市区町村教育委員会等(高等学校や特別支援学校の場合には都道府県等)の責任の下、学校や地域、企業等との連携により行われるものとなる。
  •  また、「土曜授業」や「土曜の課外授業」は、学校が主体となって行う形態であるが、「学校支援地域本部」や「放課後子供教室」などが協力し、学校の教職員が行う教育活動に地域や企業等の外部の人材が連携して実施する場合も考えられる。
  •  なお、こうした実施形態も含め、各自治体等においてどのように土曜日の教育活動を進めていくかについては、これまでの学校や地域での土曜日における教育活動の実施状況やニーズを踏まえつつ、都道府県や市町村の教育委員会等において、十分な検討を行うことが必要である。
  •  本ワーキング・グループでは、土曜日の豊かな教育環境の実現に向けて、主として、教育委員会など学校以外の者が主体となって、希望者に対して学習等の機会を行う「土曜学習」を中心に、今後の新たな方策の在り方について提案するものである。

(2)土曜日の教育活動の推進に係る関係者の理解の促進

  •  土曜日の教育活動の実施に当たっては、行政だけでなく、学校や保護者、地域の関係者との間で、その教育的価値について互いに理解し合うことが大切である。
  •  そのため、教育委員会、学校、保護者、地域の教育・福祉等の関係者、企業、NPO等が、その地域におけるこれからの教育についての思いを共有し、その実現のための取組の一つとして、土曜日の教育活動の在り方等について話し合うことが重要である。
  •  また、各学校区における土曜日の教育活動の実施方針等について、例えば、学校支援地域本部や学校運営協議会等の関係者が集う場を活用しつつ、校長等と連携・協力して検討を進めていくことも考えられる。
  •  さらに、具体の教育活動の実施に当たっては、子供たちの教育環境を整えていくため、学校区などを範囲に活動するコーディネーターが、校長や教職員等と相談しながら、学校の教育課程との関連などの要望と地域や企業側のプログラム内容等を組み合わせ、十分な調整を図りながら行っていくことも重要である。

(3)土曜日ならではの特徴や教育効果

  •  土曜日には、平日には参加が難しい現役の社会人も含め、保護者、地域や企業の多様な人材が参画することが可能であり、実社会の経験や生活体験を踏まえたプログラムが可能となる重要な日といえる。
  •  また、学習集団としても、学校の学級単位等だけでなく、異学年や異学校種も含めた多様な集団を形成することが可能であり、学習等のプログラムの内容等に応じた効果的な工夫がなされることが期待される。
  •  実施場所についても、学校施設だけでなく、地域の公民館、図書館、博物館、体育館等の社会教育施設や、児童館、企業が有する施設など多様な場所を活用することにより、子供たちの学校での学びが深まり、豊かな体験につなげることが重要である。
  •  なお、土曜学習においては、子供だけではなく、保護者や地域住民とともに学べる機会とすることも可能であり、子供たちの学びや育ちに関する保護者や地域住民の理解が促進され、学校・家庭・地域の連携・協働により、社会総掛かりで子供を育む体制づくりが推進されることが期待される。そのため、国や都道府県、市町村が、土曜学習の意義や取組内容を普及するフォーラムなどを行っていくことが重要である。

5.3 土曜日の豊かな教育環境の実現に向けた具体的方策

(1)多様な主体が土曜日の教育活動に参画する仕組みづくり

1) 地域人材の参画促進

  •  身近な地域には、地域の歴史や文化・産業等に詳しい人材や、スポーツ指導者、在外経験者、農業や林業、漁業に関わる人材、個人事業主を始め多様な職業経験を有する人材、子育て経験者、PTA 経験者など、豊かな社会経験や指導力を持つ多くの人材がいる。
  •  土曜日の教育活動の推進に当たっては、こうした多様な地域人材が、自らの経験や知識を生かし、土曜日の教育活動に参画できるような仕組みを構築する必要があり、例えば「学校支援地域本部」や「放課後子供教室」などの仕組みの活用も効果的である。
  •  また、これまで社会教育・生涯学習分野で養成されてきた「生涯学習講座」等の修了生や、日頃から地域で多様な活動を実施している自治会、婦人会、社会教育団体や青少年団体、子育て支援等の団体や商工会、まちづくり関係団体等の多様な地域組織と連携することも効果的である。

2) 保護者の参画促進

  •  土曜日は、日頃仕事等で忙しい保護者にとっても、休日である方が多く、平日に比べて参加しやすい日であるといえるが、教育活動に参加したくても参加の仕方がわからない、といった保護者も多い。
  •  特に、働く保護者は、現役の社会人でもあり、多くの保護者が参画することにより、それぞれの職務経験に基づく多様な知識・経験を子供たちの教育に生かすことが可能であり、企業等との連携だけでなく、保護者が参画しやすい仕組みの構築やPTA、おやじの会等の仕組みを生かすことも重要な視点である。
  •  また、働く保護者だけでなく、土曜日をきっかけとして、これまで学校や地域の行事に参加できていない保護者や父親の参画を促すことにより、他の保護者や子供たちとの関わりを通じて、子育てを振り返り、喜びや学びにつながるなど、家庭教育の支援にも役立つ可能性がある。
  •  社会総掛かりで教育に取り組む体制づくりを進めるためには、子供に関わる大人をどう育てるかが重要であり、こうした保護者の土曜日の教育活動への参画がきっかけとなり、自らの子供の教育だけでなく、地域の子供を育てるという意識が高まり、子供が卒業した後も、地域の子供の教育に関わる人材が育っていくことが期待される。

3) 企業・団体等の連携・協力の促進

 i ) 学校のニーズと企業等の取組のマッチング

  •  土曜日の教育活動の実施に当たっては、学校における学習が実社会にどのようにつながっているかを学べるよう、また、学校における教育をより効果的なものとするため、保護者や地域人材の個人の参画だけでなく、企業や団体の協力を得ることも効果的である。
  •  近年、企業等においては、業務として学校における出前授業等を実施し、経済団体等が企業のプログラムのポータルサイトを作成するなど、教育支援のプログラムを実施してきている。
  •  しかしながら、個々の学校からの要請に応じた実施にとどまるなど、一部の学校や地域に限られており、広くすべての子供たちが土曜日ならではの生きた学習プログラムに参加することができるよう、学校の要望と企業等のプログラムや人材をマッチングできる仕組みが必要である。
  •  そのための方策として、土曜日の教育活動の実施方針を企画・立案する委員会組織等への、経済団体や企業等の関係者の参画を促進することや、学校や企業・団体等のニーズを把握し、調整を行うコーディネーターが配置されることが重要である。
  •  また、例えば企業等との連携が進んでいる自治体においても、「外部団体がどのような教育プログラムを持っているのか詳しい情報がわからない」「事前打合せの時間を確保することが難しい」といった声が多く、学校側のニーズと企業側のプログラムの双方の情報が共有できるような仕組みを国や都道府県等が構築していくことが必要である。

 ii ) 企業等の人材が教育活動に参画するための職場環境づくりや研修の必要性

  •  企業等の人材の参画に当たっては、経営者等の理解が重要であり、例えば、経済同友会の「学校と経営者の交流活動推進委員会」の取組のように、経営者等の教育活動への参画を促す仕組みも効果的である。
  •  また、経営者だけでなく、多様な人材が教育活動に参画できるよう、ワーク・ライフ・バランスの推進や、企業内のボランティア登録制度の構築など、職場環境づくりを推進していくことが重要である。
  •  なお、産業界の視点から考えると、個人のボランティアやCSR(社会貢献)としての参画に加え、持続性の観点からも、業務の中やプロボノ(職業上持っている知識・スキルや経験を生かして社会貢献するボランティア活動)として教育活動に関わる仕組みも必要である。
  •  企業等の人材の参画を促進するためには、例えば、企業内研修等において、学校や地域における教育支援活動に関する情報提供を行うことや、教育委員会等が行う研修に企業等の人材が参画し、学校組織や教育活動の理解、子供たちとの接し方等について事前に学習できる体制を構築し、教育活動に関わっていくきっかけづくりを行うことも重要である。
  •  特に、これまでの職業経験を生かして、退職後に子供たちの教育に関わりたいと考えている人材が、速やかにその意欲や能力を発揮できるよう、在職中からの研修等の機会の充実が期待される。

4) NPO、民間教育事業者等の連携・協力の促進

 i ) 特定非営利活動法人(NPO)等との連携の推進

  •  NPO 法人の認証数は、年々増加しており、過去10年間で約3倍となっており(平成15年度:16,160、平成25年度47,973。内閣府調べ)、そのうち、子供の健全育成や社会教育の推進、まちづくりの推進、保健・医療又は福祉の増進を図る活動を行う法人は、それぞれ2万法人を超えている。
  •  NPO 法人は、行政と民間の両者の特徴を併せ持つところがあり、幅広い関係者や団体等の人的なコーディネートや寄附金等の資金を集める仕組みやノウハウを有していることも多い。
  •  しかしながら、現在の「放課後子供教室」においては、NPO 法人との連携は1%に留まっており、多様な企業や団体等の協力を得て、土曜日の教育活動をより豊かなものとするためには、NPO 法人等との連携を積極的に進め、例えば、コーディネート機能の一部をNPO 法人等が担うことも期待される。

 ii ) 民間教育事業者との連携の推進

  •  民間教育事業者は、学習塾のほか、書道・そろばんなどの習い事や、スポーツ、音楽、語学の教室など、公的部門だけでは対応が困難な幅広い教育分野において、重要な役割を果たしており、その従事者はそれぞれの分野で高い専門性を有している場合も多い。
  •  こうした民間教育事業者のリソースを積極的に活用することは、子供たちの多様で豊かな学びを促進するとともに、子供たちが「学ぶ楽しさ」に出会い、学習意欲の向上や学習習慣の形成の支援にも大きく寄与することが期待される。
  •  行政と民間教育事業者が連携するに当たっては、行政の公平性・中立性の担保の観点から、公平・適切な手続等を踏まえるとともに、必要に応じてその情報を公開するなど、保護者や住民からの信頼を損なわないよう留意することが重要である。
  •  また、例えばある自治体では、公益社団法人全国学習塾協会との連携により、協会の会員塾又は協会が認証する学習塾から講師が派遣される仕組みをつくっており、許認可なく活動を行うことができる民間教育事業者が公の役割を果たす際の工夫を設けることも効果的である。

5) 大学等の連携・協力の促進

  •  大学等は、高度な教育研究拠点として、また地域活性化の中核的拠点としての多様な教育・研究資源を有しており、例えば、先端分野で活躍する研究者やポストドクター等の人材が、土曜授業における理数系の学習や外国語等の特定の専門性が必要な学習プログラム等に参画することが期待される。
  •  また、専修学校や高等専門学校等も、特定の専門性を有し、職業等に必要な能力の育成を図る機関であり、その専門性や技術を生かした多様なプログラムの展開が期待できる。
  •  なお、子供たちにとって、大学生・大学院生等は身近で接しやすいロールモデルとしての効果も期待されるとともに、とりわけ教育・福祉など子供に関わる分野を専攻する学生やスポーツ・文化・芸術など特定の技能を有した学生等にとっては、その専門性を生かしたり、学生自身の将来の仕事につながる学習や実習としても大きな役割を果たすことから、持続的に学生が土曜日等の教育活動に参画できる仕組みづくりを行っていくことが重要である。

(2)学校と地域・企業・大学等をつなぐコーディネート機能の充実

1) コーディネーターに求められる役割・人材

  •  「学校支援地域本部」や「放課後子供教室」などの取組における「地域コーディネーター」には、学校と地域をつなぐ人材が求められ、学校の組織や教育活動と地域の多様な人材・団体に精通した、PTA 役員経験者や自治会関係者、教職員経験者等が担っている例が多く見られ、効果的である。
  •  土曜日等の教育活動の推進に当たっては、学校と地域に加え、多様な企業や団体等の協力が得られるよう、産業界に精通した企業の退職者組織、経済団体や商工会議所関係者等がコーディネーターとして参画することや、NPO 法人がコーディネート機能の一部を担うことも期待される。
  •  また、学校と地域や企業等、多様な主体をつなぐコーディネート機能が充実するためには、例えば、学校の窓口として地域連携を担当する教員を、地域の窓口として地域コーディネーターを、企業の窓口として「企業コーディネーター」をそれぞれ配置するなど、複数のコーディネーターを配置しつつ、互いに連携し合うことにより、学校の要望に応じて、地域と企業の両面から多様な参画が得られるよう工夫することも考えられる。
  •  なお、企業等の連携により教育活動を行う場合には、企業等のプログラムが学校の教育活動のどこと関連するのか、その地域にあったものかなどを検討しながら調整を図っていくことが、学校側にとっては教育効果を高めていく上で、企業側にとっては子供のニーズにあったものにしていく上で重要であり、今後のコーディネーターの役割の一つとして期待される。

2) コーディネーターの研修や行政の支援の重要性

  •  学校と地域をつなげるコーディネーターの養成は多くの自治体で行われているが、地域だけでなく、民間企業やNPO 等のリソースの活用の仕方まで含めた育成がなされている例は少ない。
  •  今後は、学校や地域の関係者だけでなく、企業や企業の退職者組織、経済団体、NPO、大学等の関係者も含めた学び合いや好事例を通じた学習などを通じて、多様な主体をつなぐコーディネーターの育成や研修を行っていくことが必要である。
  •  また、学校や地域、企業等の様々な組織のコーディネート機能を持つ人たちをつないでいくことも必要であり、広域的なネットワークにつなげる中間組織も必要である。
  •  そのため、行政の役割として、社会教育主事やそれに準ずる者が中心となって、多様な地域団体、企業の退職者組織、経済団体、NPO 等に対し、土曜日の教育活動への協力の呼びかけや、多様な関係者が学び合う研修の機会を設けるなど、コーディネーターの円滑な活動や能力向上に必要な支援策を講じることが求められる。
  •  また、多様な主体が教育活動に参画していくに当たり、学校の教職員の負担が増大することなく、開かれた学校づくりが進むよう、教育委員会において、安全管理体制や運営体制を検討するとともに、教育現場における教職員とコーディネーター等との連携の円滑化のため、社会教育部局と学校教育部局の連携、教育委員会と首長部局の連携など、行政内の関係者の連携を図ってくことも重要である。

(3)「土曜日ならでは」の多様なプログラムづくり

1) 体系的・継続的なプログラムの基本的な考え方

  •  土曜日は学校での授業だけでなく、地域や企業の協力を得て、実社会での経験を踏まえた「土曜日ならでは」の生きた学習等のプログラムが行われることが期待される。
  •  「土曜日ならでは」のプログラムの検討に当たっては、大人からの視点だけでなく、子供たちを主体者として捉えていく視点が重要であり、土曜日の教育活動は、子供たち自身の意欲や参画を重視し、自ら積極的に「やりたい」と感じる多様性に富んだものとしていくことが重要である。
  •  特に、土曜学習ならではの良さを生かし、例えば、失敗を恐れずに挑戦することや、ないものを創り出したり工夫すること、子供同士で学び合い、子供自身で学習を振り返る姿勢を重視していくことなども重要である。
  •  これらを踏まえ、学校での学習が実社会とどうつながっているかを体験的に学ぶことができるよう、例えば、総合的な学習の時間で学んだことを継続して、深める機会としたり、在外経験者や外国人の協力を得て、英語だけでなく国際理解につながるプログラムとするなど、学校の教育課程と連動した体系的なプログラムを、コーディネーターが中心となって、教職員と地域や企業等の人材が連携して構築していくことが重要である。
  •  また、学びを深めていくためには、その場限りのイベントにとどまることなく、子供たちが継続的に学べるよう、例えば、年間を通じたテーマ設定を行うなど、一定の期間を通じて計画的に学習を進めることが重要である。
  •  さらに、オリンピックやパラリンピックなど国際的、全国的な行事から地域の行事なども含め、その時期に合った話題性や時事、社会環境等も考慮し、子供たちの興味関心を引き出す内容を取り上げるなど、柔軟な工夫がなされることが期待される。
  •  具体的なプログラムの計画、展開、評価等を行うに当たっては、学校や地域における子供たちの特性や問題などを踏まえ、より効果的なものになるように関係機関で十分協議するとともに、取組によって子供や学校、地域等がどう変わったのかなど、効果を把握できるデータを蓄積していくことも重要である。

2) 実社会につながるプログラムの在り方

  •  教育の一つの目的を子供の自立と捉えると、実社会で役立つ経験をたくさんすることが重要であり、地域や社会の中で生きた経験をすることが子供たちの豊かな育ちにつながる。
  •  特に、地域等においては、多様な体験プログラムが提供されているが、与えられたプログラムを子供がこなすという受動的なものではなく、子供たちの主体性を引き出し、社会で力を試すような経験や地域課題に大人と協働して取り組む経験をたくさんできるプログラムであることが重要である。
  •  例えば、プログラムを子供自らが企画し、運営等を担う経験をするなど、子供が持っている力を発揮する機会を創造することにより、主体性や企画力、創造性等が培われ、「自ら考え、判断し、表現する力」といった、いわゆる「生きる力」が育まれる機会となることが期待される。
  •  また、小学校・中学校段階から、地域や企業等で活躍する社会人に出会うことにより、将来の目標を持って学ぶきっかけとなるよう、多くのロールモデルに触れる機会をつくることが重要であり、様々な分野の本物に出会う機会を通じて、本物のすばらしさや仕事の喜びや厳しさなどが感得されることも期待される。

3) 企業のリソースを生かしたプログラムの在り方

  •  企業等においては、学校内や教職員だけでは教えることが難しい、実社会の知識・経験に裏付けられたプログラム、教育課程の単元のねらいと合致したプログラムの提供が期待される。
  •  また、ボランティアやCSR としてのプログラムだけでなく、業務にもプラスになるプログラムであることが、企業にとっても、子供たちの本気を引き出す上でも重要である。
  •  例えば、企業の中には、企業の特性を生かし、環境教育、キャリア教育、理科教育のプログラムを開発しており、経済団体によるの出張授業では、働くことの意義、学ぶことの大切さ、これからの社会で求められる力、社会の仕組み、国際理解・グローバル化などのテーマを中心に実施するなど、それぞれの企業リソースを生かしたプログラムが展開されている。
  •  さらに、出前授業だけでなく、企業が開発した教材を学校やコーディネーター研修等に提供することや、企業財団等によるフォーラム、○○全国大賞といった表彰の実施なども効果的であり、子供たちの教育活動への多様な参画が考えられる。

4) 学習意欲・習慣の形成につながるプログラム

  •  土曜日の教育活動の推進に当たっては、子供たちが「学ぶ楽しさ」に出会い、学習意欲の向上や学習習慣の形成が図られるようなプログラムが展開されることが重要である。
  •  その一つの方策として、小学校入学段階から、新たな集団生活に順応し、豊かな学習・学校生活を送ることができるよう、就学前の子供を対象として、小学校等を活用して、平仮名の読み書きや読み聞かせ、集団遊びなどのプログラムを、例えば親子参加のもとで実施していくことも考えられる。
  •  特に、就学前の段階から、学校等で行う教育活動に親子で参加する経験をすることは、他の保護者や子供たちとの触れあいを通して、保護者同士も学び合いが生まれ、親としても、地域の大人として育っていくことや学校への理解にもつながり、家庭教育支援の観点からも重要である。
  •  また、学校での学習の理解が必ずしも十分でない子供たちを対象として、例えば、振り返り学習プログラムを実施し、学ぶ楽しさやわかる喜びを感じることや、学習が進んでいる子供たちを対象として、発展的な学習を実施し、創造性や企画力を養うといった、補充的・発展的学習の充実を図ることも考えられる。

5) 「地域ならでは」のプログラムの充実と“全国どこでも学べる”体制づくり

  •  都市部と地方部では課題やニーズ、地域資源も多様であり、全国一律でなく、各地域が「地域ならでは」の特性を生かし、自律的に教育活動を進めることが重要である。地域の「どのような子供たちを育てたいのか」という目標を踏まえ、「ふるさと教育」などの地域の特性を生かしたプログラムや、「学力向上」などを目的としたプログラム、特定のテーマに限定しない多様なプログラムを実施するなど、地域の実情に応じたプログラムを展開することが重要である。
  •  ただし、地域間格差によって子供たちの学習機会の格差が生じないよう、ICT の積極的な活用等により、「届けるプログラム」の充実を図るなど、全国どこでも学ぶことのできるコンテンツと支援体制の充実などが求められる。

5.4 今後の土曜日の教育活動の持続可能な体制づくりにあたって

  •  今後の土曜日の教育活動の推進に当たっては、全ての子供たちの土曜日の教育環境が豊かで有意義なものとなるよう、全国各地で、”土曜日ならでは”の生きた学習プログラムが実践されていくことが重要である。
  •  また、様々な企業が実施する効果的なプログラムの事例や、”地域ならでは”のプログラムの事例、コーディネートの手法などの先進事例について、全国の多様な関係者が共有することにより、工夫・改善が図られていくことが重要である。
  •  そのため、国が、全国のコーディネーターや、教育委員会、学校、企業、NPO、社会教育団体や青少年団体等の多様な関係者に働きかけ、効果的な事例や課題等を学び合う研修やフォーラム等の機会、全国の関係者のネットワーク組織を設けていくことも重要である。
  •  また、子供たちの土曜日の教育環境が豊かなものとなるためには、これらの取組が継続的に実施されるための、持続可能な仕組みづくりが必要であり、国や都道府県、市町村が必要な支援策を講じるとともに、行政だけでなく、例えば寄附や基金など、活動資金が多様な主体から継続的に、子供たちの教育活動のために集まるような仕組みを構築していくことも考えられる。
  •  あわせて、例えば、官民連携による普及啓発やポータルサイト等による全国の好事例の蓄積・発信、表彰制度の構築等を通じて、学校、家庭、地域、企業、NPO、民間教育事業者、社会教育団体や青少年団体などの多様な主体の連携・協働を一層促進し、人的資源やプログラムなどのコンテンツを充実していくことが必要である。
  •  また、土曜日の教育活動の充実のためには、行政内部における首長部局と教育委員会が一層の連携を図り、効率的・効果的な総合的な支援策を講じていくことが必要である。
  •  こうして、多様な大人が子供の教育活動へ参画することを通じて、大人も学び会う環境が育まれ、社会総掛かりでの豊かな教育環境の実現が図られることが期待される。
  •  なお、本ワーキンググループとして、「V.土曜日の豊かな教育環境の実現に向けた新たな方策」については、土曜日の教育活動の在り方について取りまとめたものであるが、取組の充実や学校・家庭・地域の連携・協働体制の構築が図られる中で、平日の放課後の教育活動や、将来的には、学校教育の在り方にも生かされていくことが期待される。

6 おわりに~皆の“あったらいいな”を形にする夢の教育~

 これまでまとめてきたとおり、放課後や土曜日は、学校教育との連動性を意識しつつも、学校教育だけでは実現しにくい、実生活や実社会とのつながりを体験的に学ぶ機会として、多様性・柔軟性等を生かした工夫が可能な時間である。

 その視点に立ち、学校・家庭・地域の連携・協働による社会総掛かりでの教育の実現に向けた新たな試みについて、皆で話し合い、考える仕組みをつくり、放課後や土曜日の柔軟性の高い教育活動の中で取り入れてみることも一つの方策である。

 例えば、「放課後や土曜日は、“子供たちが学びたいこと”を実現する時間」と位置づけ、子供たちの“あったらいいな”の提案を募集し、それを地域の大人とともに実現するプロジェクトを行うことも考えられる。

 また、地域レベルで、子供や保護者、市民、教職員、行政関係者等が、共に学びながら「我がまちの教育」について考えるミニ集会等を実施したり、そのまちに古くから伝わる文化や伝統を生かした教育の姿を再現したりすることも興味深い。

 国は、こうした各地域の試みを事例として取り上げ、情報の蓄積や発信の役割を担うことにより、全国の取組の活性化が図られることが望まれる。

 そして、こうした放課後や土曜日の教育活動における様々な試みの中から、改めて子供たちにとって必要な学習や学校・家庭・地域の連携・協働の在り方が検討され、子供たちの教育に生かされていく好循環が生まれることを強く期待したい。

お問合せ先

初等中等教育局参事官(学校運営支援担当)付

(初等中等教育局参事官(学校運営支援担当)付)