大津由紀雄
英語教育の在り方に関する有識者会議(第2回)
2014年3月19日
言語獲得(=第一言語獲得)に臨界期が存在するのではないかという見解を広く知らしめた著作として、
Lenneberg, E. 1967. Biological Foundations of Language. Wiley.
言語獲得/学習と臨界期の問題についての、簡潔ながら信頼できる解説として、
Newport, E. L. 2005. “Critical Periods in Language Development.”Encyclopedia of Cognitive Science, Vol. 2, 737-740.
(多少古いが)日本語で読める信頼できる解説として、
榊原洋一. 2004. 『子どもの脳の発達 臨界期・敏感期 --- 早期教育で知能は大きく伸びるのか?(講談社+α新書)』講談社.
言語を身につける3つの形態:
これら3つをしゅん別した上で議論をすべきである。ことに、狭義の第二言語獲得と外国語学習を混同してはならない。
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イメージ |
A 第一言語(母語)獲得 |
日本に生まれ、日本で育った赤ちゃんが日本語を身につける |
B(広義の)第二言語獲得 |
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(1)(狭義の)第二言語獲得 |
日本に生まれた子供が3歳でアメリカへ移り住むことになり、英語も身につける(疑似的ケースとしてのイマージョン教育) |
(2)外国語学習 |
日本に生まれ、日本で育った子供が英語を学習する |
【論外1】アメリカでは赤ちゃんだって英語を話している。だから、早くから英語の学習を始めなくてはならない。
【論外2】日本の家族が駐在員としてアメリカへ行くと、まず、学齢前の子供が英語を話すようになり、続いて、小学生、中学生の順で話すようになる。高校生だとなかなか話せるようにはならず、大人は駐在期間が終わりに近づいてもまだ英語がものにならず、「このままでは日本に帰ってはずかしいから」と英語学校に通うようになったりする。
狭義の第二言語獲得と臨界期の問題についてよく言及される論文として、
Oyama. S. 1976. A Sensitive Period for the Acquisition of a Nonnative Phonological System. Journal of Psycholinguistic Research 5. 261-283.
外国語学習と臨界期の問題にも言及した文献として、
Bialystok, E., and K. Hakuta. 1994. In Other Words. BasicBooks.
Singleton, D., and Z. Lengyel. 1995. The Age Factor in Second Language Acquisition. Multilingual Matters.
【大津見解】
いわゆる脳科学は近年、脳機能画像法の開発、進展と相まって、著しい進歩をとげたが、言語の脳科学の研究成果で現実の言語教育、ことに、外国語としての英語教育に関する政策や教授法に直接示唆を与える研究成果はいまのところない。もちろん、関連する研究は数多くあり、それらの成果に目を配ることは重要ではあるが、脳科学研究は、言語理論研究同様、飽くまで基礎研究であって、現実の英語教育の諸問題と短絡的に結びつけるのは慎重にしなくてはならない。
【日本を代表する5名の脳科学研究者に大津見解について意見を求めた】
先生の御見識に賛成です。脳科学は、まだまだ経験的に知られていたことを裏付けるレベルにとどまっておりますので、教育法と関連付けた具体的な議論は時期尚早かと思います。実際に英語学習と関連した脳活動を研究されている方もいらっしゃいますが、そのような方ですら、英語教育に成果を生かそうとは思っていらっしゃらないのではないでしょうか。(方便としてそう書かれることはあるかもしれませんが。)【他の4名もほぼ同一見解】
やや古くなってしまったが、執筆時点までの脳科学の研究成果を平易に、かつ、冷静に解説した好著として、
井原康夫. 2005. 『脳はどこまでわかったか(朝日選書)』朝日新聞社.
初等中等教育局国際教育課外国語教育推進室
-- 登録:平成26年04月 --