道徳教育の充実に関する懇談会(第1回) 議事要旨

1.日時

平成25年4月4日(木曜日)8時00分~10時20分

2.場所

東海大学校友会館 望星の間

3.議題

  1. 座長の選任等について
  2. 道徳教育の現状と課題について
  3. 「心のノート」の改訂方針について
  4. その他

4.出席者

委員

今田委員,押谷委員,貝塚委員,坂元委員,白木委員,鈴木委員,銭谷委員,高橋委員,土井委員,鳥居委員,中村委員,西村委員,長谷委員,細川委員,無藤委員,山縣委員,山田委員

文部科学省

下村文部科学大臣,谷川文部科学副大臣,義家大臣政務官,森口事務次官,山中文部科学審議官,前川官房長,布村初等中等教育局長,関大臣官房審議官,佐野総務課長,その他関係官

5.議事要旨

(1)座長として事務局から鳥居委員が推薦され,了承された。
(2)副座長として,鳥居座長から押谷委員,銭谷委員の2名が指名された。
(3)事務局から資料3(会議の公開の取扱いについて)について説明があり,了承された。
(4)議事に関する主な発言は,以下のとおり。

(道徳教育の現状・課題について)

○ 世界のどこの国にもモラルの教育はあるが,我が国では,歴史の中で経験してきた古い時代のいろいろな問題に妨げられて道徳教育を忌避しがちだった。

○ 道徳教育の実施状況調査で,平均35時間を超過しているというデータについて,実感としては怪しいと感じる。学生に聞いても,小学校,中学校のときに受けた授業の印象がほとんどない。

○ 国をつくる,維持するためにどういうことが必要か,自分の命,子々孫々に至る命を守り続けるために何が必要かを子供と一緒に考えることも大事なモラルの教育。

○ 道徳教育で大事にすべき点は,(1)命,生きること自体の尊さを基礎に,(2)よく生きる,あるいは,よく生きるとはどういうことなのかを自ら問い,考えながら,懸命に生きること,(3)よく生きようとする人々が,互いに協力し,共に生きることができる正しい社会の在り方を問い,あるいはその実現に参画していくこと,この三つをバランスよく実現する力を育成すること。これは教育課程全体の課題であり,全体の枠組みの中でしっかりと位置付けていく必要がある。

○ 道徳性の育ち,指導については,(1)子供自身の自己肯定感を育てながら,自己向上心に向けていくことが基本であり,(2)そこから周囲の人,世の中のいろいろな人への配慮,思いやり,共感,同情心が育ち,(3)そのことにより,社会の中の善悪,ルール,さらには具体的な行動のマナーを守る中で,自他の両立が可能となる,(4)その上で,世の中をよくしていこう,社会を素敵なものに変えていこうという志が育つと思う。そういった全体像を考えながら,教科化した場合に何ができるか,他の授業との関係はどうかなどについて考えるべき。

○ グローバル社会だからこそ誇りをもって発信できる日本特有の伝統的な価値観について考えていくべき。

○ 生徒がいろいろな課題に直面する中で,武道など日本文化を支えるものとの技術的な関わりを通して,自分なりの自信と技術を習得しながら成長していくことが大事。

○ 自分の心が動いて自分で判断し,望ましい道徳的行為をするような子供を育てたい。

○ 道徳教育の目標が何かが明確でない。道徳教育は何をもって身に付いたと判断されるかについて明確にする必要がある。仮に規範意識や挨拶,礼儀などがそれであれば,学習指導要領にそう分かりやすく書くことで目標を明確にすべき。道徳教育の目標は突き詰めれば物事の善悪の判断ができるようにすることではないか。

○  道徳の問題を考える際,「多様性」が一つのキーワードになると思う。多様性を尊び,社会の一員としての自らを考える,人のことを考える,そういったことができるようにする教育の在り方を考えたい。

○ キャリア教育との関連でも,道徳の時間における道徳的価値の基盤の育成が重要。その際,現代の子供たちの変容を踏まえたリアリティある内容が必要。

○  単に教材のみで教えるということではなくて,例えばコミュニケーションするにはどうすればよいか,オン・ザ・ジョブ・トレーニングの中で取り入れるような在り方があってよい。

○ 実際の人生の中で道徳的理念を実現していくことはかなり難しいことであり,試行錯誤を繰り返しながらやっていく子供たちを支える必要がある。そういう意味では,ある意味での技法を身に付けることができるような配慮も必要。例えば,コミュニケーションが大事ということが分かるだけでなく,自分の思いを伝える,相手の思いを酌むために必要な技法的な側面も身に付けることができるようにすることが大事。

○ 善悪の判断基準は,宗教上のものの考え方や日本古来の伝統行事の意味するところあたりから身に付いていくのではないか。日本古来の伝統行事について,きちんと子供にも教え,また親にも教えていくのが日本らしい道徳教育の在り方ではないか。

○  日本には礼の文化があることを子供に伝えていくとともに,家庭でもしっかりと育んでいくべき。

○  生涯学習,芸術教育,学校行事,学校給食など,教科ではない特別活動的なもののもつ道徳的な教育力にも注目すべき。

○ 評価が難しいから教科化ができないというロジックは成り立たない。評価が簡単な教科などない。

○ 道徳教育を充実させるためには,資料の充実,指導法,教員の育成が大事。

○ 生きること,よく生きるということが難しい以上,道徳教育が簡単になることはあり得ないので,先生方も悩むことが大事。その意味では,教材もこれさえあればすぐに道徳教育ができるというものではなく,先生方に自分なりの取組や努力を求めるようなものにすべき。

○ 道徳教育を充実させるためには,家庭を巻き込むことが絶対に必要。

○ 道徳の時間が形骸化しているのは,教科でないからである。戦後,道徳教育に関する改善の方針は出尽くしており,それでも活性化させるためには枠組みを変えるしかない。

○  単に教科にすれば道徳教育が充実できるということではなくて,教育の根幹である道徳教育に関するヒト・モノ・カネ,さらには仕組みを抜本的に改善していくことを提案したい。

○ 教科というものが教育学的にどう定義されるのかよく分からないが,道徳を教科化という場合には,算数・数学や国語とは違って,もう少し緩やかな意味で使われているのではないか。緩やかな形にしながらも,各学校において指導が確実に行われるようにすることとの兼ね合いを検討すべき。

(「心のノート」について)

○ 箇所によっては,もう少し字が少なくてもよいのではないか,想像力を養う,イメージアップするような,何かを考えさせるような工夫があってもよいのではないかという気がする。

○ 4冊それぞれの中で体系的にもう少し整理をすることで,読み手が理解しやすくなるのではないか。

○ 「心のノート」の内容は悪くないと思うが,バランスという観点からすると,人物主義的,読み物資料的な内容がやはり不足している。

○ 今の内容に加え,文部科学省が過去に作成していた資料等を組み込んでいくということが必要なのではないか。

○ 情報モラル教育の重要性が高まっている中で,道徳教育の役割は重要である。「心のノート」などでも,その点を想定した内容,部分があってもよいのでは。

○ 文部科学省の歴代の読み物資料には,すばらしい,不易なものが残っているので,これを掘り起こしたり,新しいものが入ったりすれば,また新しい突破口になるのではないか。

○ 「心のノート」は,読み物資料ではなくキャッチコピー的なもの。子供たちの体験に根ざしてつながるかという点では,たたき台にあるように,読み物教材がプラスされることで,また違ってくるだろう。

○ 「心のノート」を更に充実させるためには,書き込むだけではなく,読み物的な資料も大事だと思う。

○ 「心のノート」のよさは,色が綺麗(きれい)で,写真や挿絵なども多く,小学校低学年にとってはとても興味・関心を引きつけられる内容になっている。平成22年度からはダウンロードをしなければならなかったが,率直に言って使い勝手が悪く,引き出すのが大変だったので,平成25年度から全児童に配布されるということは喜ばしい。

○ 東京都が平成25年度から全児童に配布する資料には,読み物資料や格言や故事成語も入っている。そういうようなものも織り込みながら,「心のノート」を作っていくのがベターなのではないか。

○ 読み物教材だけではなくて,武道的な,日本文化を支える技術的な関わりを通しながら,生徒がいろいろな課題に直面して,自分なりの自信と技術を習得しながら成長していくという側面や,伝統文化というものの視点も入れていく必要がある。

○ これまでいろいろあった意見,議論等を踏まえて,新しい「心のノート」が道徳の授業でしっかり活用され,子供たちの心が育っていくようなものにしていく必要がある。そのためには文部科学省がこれまで作成してきた読み物資料の中から「子供たちに与えていきたい」というものを精選すべき。

○ 「心のノート」の内容には,内省的かつ自己チェック的なものが多い。現実にコミュニケーションをするにはどうしたらいいかというのは,一種の技術,アートだと思う。例えば,「挨拶をしましょう」とか,「挨拶しましたか?」というよりも,「じゃあ,隣の人に挨拶してみましょうね。挨拶したのに,挨拶してくれなかったらどういう気持ちがしましたか?」というように,いかにコミュニケーションをとるかということを,単に教材のみで教えるのではなく,オン・ザ・ジョブ・トレーニングでのコミュニケーションを取り入れてもらいたい。

○ 「心のノート」の改訂に当たっては,親と一緒に使えるものを作っていく必要がある。現在の「心のノート」も,小学校低学年では,「お家の方からの一言」とか,そういう欄があるが,もっと親が一緒に,この「心のノート」なり,道徳の教材に参加できるようにする必要がある。

○ 生き方に関しては,いろいろな人物等も取り上げたらよいと思うが,そういったものと具体的な日常生活における心の育成とを関わらせていけるような試みをしていくことが大切。

○ 「心のノート」の中に,あるいは別冊でもよいが,日本には「礼の文化」というものが脈々とあるということをしっかりと子供たちに伝えていくべきで,それは家庭においてもしっかりと育んでいくべきものである。

○ 「心のノート」を2部構成くらいにして,その中で「礼の文化」を伝えていけるようにしたり,和文化を現実生活の中に生かしたりしていくなど,生活の知恵的なものを伝えられるようにして,それを家庭とも連携しながら使えるようになればよいのではないか。

○ 道徳教育は表面的にいい子を育てたり,模範的な回答をする子を育てたりするものではないし,何よりもまず大事なのは,教員自身が悩むことだと思う。教員自身が悩んでいないのに,子供たちがそれをそのまま受け入れるということはないので,その意味では,教材で使い勝手がよいというのは大事だと思うが,しかし,これさえあればすぐに道徳教育ができるというようなものを余り目指さない方がよい。

○ 道徳の時間においては,読み物資料を中心に授業が展開され,「心のノート」は,その際の補助的な資料として活用されてきた。また,道徳ばかりではなく,領域の中でも,「心のノート」の活用が推進されてきた。

○ 道徳の時間が学校経営の中でしっかりと定着していない学校では,「心のノート」を子供に与えるだけで道徳の時間が完結している実態もあった。

○ 現状を踏まえ,「心のノート」の実質的な改善をどのように行い,それが現場でうまく活用されるかということが非常に重要。

○ 小学校段階での「心のノート」の活用の仕方について,授業の際には,導入・展開・終末という学習過程の流れがあるのだが,「心のノート」は1時間を通して資料として使うのではなく,その中の終末とか,導入とか,展開の後段,いわゆる自分を見つめて振り返る部分に主に使われている。

○ 「心のノート」は道徳の時間だけで使うことを目的とするのではなく,全教育課程を通して活用できるように,そして同時に,学校,家庭,地域連携において活用できるようにということが大きな意図としてあった。

○ 「心のノート」に関しては,内容等々も含めて批判があったが,実際には使い勝手が悪かったという状況もある。道徳の資料の中心として使っていくのであれば,学年ごとに作られなければ,ほとんど教育現場では対応できないのではないか。

○ たたき台の方向性はよいと思う。

○ 「心のノート」のアンケートには,自分の考えとも一致する部分があるし,「心のノート」の全面改訂の基本的な考え方も納得できる部分が多々ある。

○ たたき台資料の(1)(児童生徒が道徳的価値や規範的意識について自ら考え,実際に行動できるようになる)に関しては,非常に重要。

○ 「総論では賛成だが,一部や各論では反対」という方がいる中では,やはり仕組みを変えないと,この「心のノート」を作って配ってもなかなか使ってもらえなければ意味がないのではと思う。

○ 「心のノート」は子供たちが心の成長をしていくための糧になるものであってほしい。これまでも子供たちの心を育てていく上で重要な役割を担っていた。

○ 子供の育つ背景には格差があるので,いろいろな教材を作るときには配慮していただきたい。この「心のノート」についても,いわゆる標準的な,モデル的な家庭を前提に作られているところが多少ある。

○ 「心のノート」が配布されているときは活用されていたが,ウェブ化されてからは,残念ながらその活用の頻度は少なくなってきている。心ある教員は,自分で「心のノート」に代わるプリントを刷って配布して授業をするということもやってきていたが,配布が再開されるということで大いに期待をしているし,よりよいものを作らなければならない。

○ 自分が中学校に入ったとき,担任の先生が大きなノートを1冊全員に配った。これは「成長簿」と名付けられており,「3年間このノートを道徳の時間に使うんだ。」と言われた。ノートの左側にその日の教材を貼って,右側に感想を書くというスタイルで,我々にとっての「心のノート」であった。

 

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