安彦座長提出資料

(意見)

安彦忠彦

・今後の日本がどんな社会になっているか,を想定してみる。
(1) 日本は先進国の一員としての役割と責任を負う。→「問題解決能力=思考力」中心
(2) 知識基盤社会が進行し,高度情報化社会となる。→「情報活用能力・情報批判能力」
(3) グローバル化社会が進行し,国境を越える諸課題が拡大する。→「国際的連携能力」
(4) 地球環境問題・環境汚染問題に正面から対応する要あり。→「地球的視野・価値観」
 これらのうち,(1)~(3)は(4)に向けて,幅広く柔軟に,育成すべきものである。
  → ESDを,地球環境問題を中核にして,教育目的の一つの焦点(人類の生存)に据える。主に「総合的な学習の時間」を活用する。
  → (1)~(3)は従来の「能力開発型」教育でよいが,(4)は「能力制御型」教育とし,前者を後者の枠の中に入れて,吟味にかけ,方向付ける。
・これとは別に,高学歴社会が極限に来て,大学への教育が全面展開し始めたことにより,本来の「教育」が入試準備のための「訓練training」に変質していることの問題あり。

(1) 学習指導要領の改善点

(教育目標)
  ・子どもたちを「日本の未来の主権者」と表現して,それにふさわしい資質・能力を提示することが望ましい。「学力」だけがよくなっても,「人格」がよくなければ駄目。
  ・「資質・能力」は両者を明確に区別する必要がある。「資質」は「生来の性質・特性」で「育てられないが,磨けば外に出てくるもの」,「能力」は「育てて,より質の高いものに変えていけるもの」ということでよい。前者は,面接やパフォーマンスにおいてとらえられるもので,ペーパーテストで見るものではない。
  ・「目標・内容」は,「資質」「能力」で表わすが,とくに「人格」(道徳性)は「資質」であらわす。「学力」は「思考力」中心の「能力」で表わすが,「内容」は欠くことはできない。しかし,「内容」は「大学まで必要な知識・技能は何か」という観点から,これまで以上に絞り込む。全体に「最低基準」であることを明記する。
  ・公教育学校全体としても「子どもの自立」をめざすこととし,小学校では「自立の基礎」を,中学校では「自立の基礎」と「個性の探求」を,高校では「自立の準備」と「個性の伸長」を,それぞれ明確に追求するものとする。この視点が欠けてきている。
(教育内容)
  ・「内容」は小学校中学年までの「道具的な知識・技能」と,それらを使って身に付ける「理論的・概念的な知識・思考技能thinking skills」とを区別することが必要である。前者は内容であるとともに認識の手段・方法・用具でもあるという独自性があるので,しっかり記憶ないし行動の定着を,また技能は十分な習熟を図る必要がある。この部分は「到達目標」で表わす。後者の部分は「方向目標」でよい。
  ・「人格形成」と「学力形成」を分け,前者を全体,後者を部分として位置づけ,前者は,学校外の教育の場との協働で推進するという原則を明示する。「道徳教育」は学校外の保護者・地域住民等との連携の下で行うことを明記する。
  ・発達的観点を明らかにして,一定の発達的筋道を,暫定的枠組みとして決める。とくに5歳前後(言語技能)や9歳前後(抽象的思考)に見られる段階に十分に配慮する。
  ・全学校段階で「学び方」「発表・伝達の仕方」「考え方」=「自己教育力」を身につけさせる。
  ・教育課程全体に,「地球環境問題」を核としたESDの概念で関連づけ,方向づける。
(組織原理)
  ・教科目構成については,とくに高校段階では科目に分化するとしても,大学受験教科目は「教科」レベルの問題内容によるものとし,科目レベルの細かい知識は問わないようにさせる。
  ・新教科を立てるのではなく,現在の教科目構成は残すが,教科内容を変えて,経験的な活動を加味して,知識と体験とのバランスをとる。
(履修原理)
  ・小学校4年までの「国語」「算数」の技能部分は到達目標を明確にした「課程主義」,その後は「年齢主義」という,全体としては「半課程主義」の教育課程とする。
  ・小学校中学年まではすべて共通必修教科,小学校高学年から中学校までは,それに加えて「個性をさぐる」ための選択教科(履修原理:広く,浅く,短く,多く,軽く),高校から後は「個性を伸ばす」ための選択教科(履修原理:中学校までと反対)を設ける。
(指導方法・形態) 
  ・学習指導要領に指導方法・指導形態も明記する必要があるとの意見もあるが,それは,学習指導要領の大綱化の流れの中では,「解説書」の方に入れる方が望ましい。解説書を,もっと資料や教え方なども入れて,現場教員が活用できるようなものにする方向を考える方がよい。
  ・最近の指導方法として小集団を活用するものが提案されているが,それだけが絶対ではなく,目的に応じて種々の指導方法を使い分けることが望ましい。その中にICTの利活用も含まれる。
(授業日時数)
  ・授業日数・時数は,「最低基準」の数字だけ示して,具体的な配当は学校現場に任せる。
  ・授業時数は,小学校中学年以下は少なめに,高学年から中学校・高校では多めに配当する必要がある。前者は多いと負担過重となり疲労が出るが,後者は少ないと実験・調査・討論・発表などの活動ができなくなる。
  ・学校五日制は原則として守る。

(2) 学習評価の改善点

  ・量的(数値的)評価でなく,質的評価を重視する。→ ポートフォリオ評価,パフォーマンス評価,文章評価等を前面に出す。前者を副にし,補助的・二次的資料と位置づける。IBコースの評価法に学ぶ必要あり。
  ・評価を目的別に明確に区分する。→ まず,成績(順位)をつけるための評価か(評定),活動改善のための評価か(評価),の区別を明確にする。それによって,評価方法が異なることを教員に自覚させる。活用型学習の成果は「評定」に使わないこと。
  ・小学校中学年までの「国語」と「算数」の「技能」の部分は「到達目標」で表わし,教員が全員到達に責任をもつこととする。それ以外は無理をせず「方向目標」でよい。
  ・高校入試,大学入試に対する提言を含めることが必要。

以上  

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