育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会(第9回) 議事要旨

1.日時

平成25年10月7日(月曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 13階 13F1~3会議室

3.議題

  1. 育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容の構造について
  2. その他

4.出席者

委員

安彦座長,天笠委員,市川委員,奈須委員,西岡委員,松下委員,村川委員

文部科学省

前川初等中等教育局長,義本大臣官房審議官,尾﨑国立教育政策研究所長,勝野教育課程研究センター長,西辻主任視学官,浅田高等教育企画課長,塩見教育課程課長,大金教育課程企画室長,橋田教育課程企画室専門官

5.議事要旨

 育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容の構造について,事務局より説明があり,その後,意見交換が行われた。

【委員】 国内や諸外国,国立教育政策研究所の提案など,資質・能力に関する多様な考え方が出されているが,学校現場の混乱を避けるためにも,これらを何らかの形で整理した方がよい。学校を回っていると,この数年で思考力・判断力・表現力を育成する授業作りが進んでいるように思うが,平成20年の中教審答申において,六つの学習活動が例示され,それを踏まえ,各種の行政研修や校内研修が行われていることが影響しているのではないか。資質・能力については,早々に整理した上で,むしろ具体的な教育活動にどう組んでいくのかを考えた方がよい。その際,余りにも言葉が難しいと,学校現場から遊離してしまうため,いかに現場の先生方に分かるような表現にしていくかが大事である。

【委員】 資質・能力,いわゆるスキルについては,10年以上前から興味を持って研究してきたが,基本的には子供が必要な場面で,主体的に繰り返し活用することによって身に付くものと考える。したがって,具体的な学習活動の中に,子供がスキルを活用したくなる必然的な学びをどう仕組むかが課題となる。その上で,研究開発学校などの先進校から具体的な事例を抽出し,示していくことが大事である。各教科等における資質・能力育成のための具体的な教育方法については,学習指導要領の中では述べられないと思う。これまで日本の各教科の授業作りを支えてきた教育研究団体には各々,流派・流儀がある。それらの取組に水を差さない形で,そうした団体が各教科の目標や授業の進め方を見直す際の指針となるような資料を,国として示すにとどめることが必要である。

【委員】 資料2の1ページ目【社会像】の4番目の丸にあるように,経済や産業の要請に従属するのではなく,純粋に教育の論理で検討した結果,望ましいものを残すという考え方が大事。学校現場では,「子供たちが自分に自信を持ちにくい」,「自分に価値があると思える子供たちが非常に減っている」という話を聞く。「社会の手段としての子供ではなく,人権の主体としての子供にどういう力を育てていく必要があるか」というメッセージが伝わるような報告書にすることが必要。その視点に立つと,同ページの2番目の丸に挙げられた社会像が,社会のニーズに偏った表現になっている点が気になる。教育振興基本計画でも,少子高齢化の問題や,経済の格差,再生産の固定化に対するセーフティネットの保障といった文言が入っており,そうした内容を加えるとともに,例えば,男女共生,人権,平和の問題についても強調する必要がある。

【委員】 資料2の2ページ目に,【資質・能力の内容】として「日本の未来の主権者」にふさわしい資質・能力とあるが,【資質・能力概念】のところには,「資質は能力の下位概念」と書かれている部分もある。資質と能力のどちらが上位かという論点に決着をつけておく必要がある。

【委員】 【資質・能力の内容】の3番目の丸に「『内容』は『大学まで必要な知識・技能は何か』という観点から」とあるが,教育学の世界では,基礎学力を巡る議論の中で,従来から「基礎」を「専門性の基礎」と「社会を生きていく上での基礎」の二つの意味で議論してきた。したがって,「大学までに必要な知識・技能は何か」という点だけでは一面的であり,「社会を生きていく上での基礎」という側面を補う必要がある。

【委員】 資料2の1ページ目の2番目の丸にある「今後の日本がどんな社会になっているか」という点について,第2期教育振興基本計画の提言を前提に資質・能力の在り方を詰めていく方法もあるが,改めて「今後社会がどうなっていくか」という問題の重要性を踏まえ,しっかりと議論しておく必要がある。地球環境問題の重要性に関する意見も,この観点からの指摘ではないか。気象学や自然科学の立場から21世紀論が展開されており,改めて教育の立場からの21世紀論が問われている。まずは,第2期教育振興基本計画がこの問題をカバーし切れているかを検討し,「日本の未来の主権者」という論点に踏み込んだ議論を行うとともに,今後の日本社会の在り方についても,各分野で提起されているデータを踏まえて組み立て,両者をつなぎ合わせる議論が必要。

【委員】 資料1の2ページの一番下に,「生きる力」の捉え方について挙げられているが,参考資料7は,今回の学習指導要領の作成に当たり,それまで漠然としていた「生きる力」を初めて明示したものとして非常に意味がある。ただ,この資料に示された「生きる力」のイメージが,現場の具体的な教育実践の展開につながっているかというと,実際には不十分。「生きる力」は,実社会や実生活と接近させる「つなぎ手」としての力であり,その理念の普及と展開,成果について検証する時期に来ていると思うが,まだ十分に展開され,成果が上がっているとは言えないのではないか。その一つには,現行の学習指導要領が,従来の学習指導要領のスタイルの中に参考資料7のような「生きる力」の構図を押し込んだものだという点がある。この観点からすると,参考資料7を前提にした組み立て方や記述の仕方というのも,今後の学習指導要領の在り方を考える上で,検討の素材になるのではないか。

【委員】 参考資料7について,真ん中の「確かな学力」の部分が学習指導要領の中核であり,「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」の二つの桁で,両者の関わり合いがうまく表現されているが,資質・能力の議論からすると,桁のかい離が大きすぎる。例えば,構想を立てて,実践し,評価する取組は,どの教科でも行われているが,実際には,自然科学における実験や観察と,図工や音楽における創作とでは質が異なっている。このように,資質・能力の中には,表現の仕方や処理の仕方,問題解決において複数の様式があり,それらは各教科の特質に近いところで考えられるため,この間の桁をもう少し詰めていく必要がある。一方で,教科側から見た場合も,例えば,算数の「一つ分の幾つ分」という見方は,一見複雑な事象から背景の構造的な核を見いだすもの。繰り返しのパターンを見ていく方法として,社会的事象や自然的事象などを読み解く際にも有用だが,現状では算数の中だけにとどまってしまい,領域を超えた転移にはつながっていない。カリキュラム全体を見て,資質・能力のレベルから各教科の既に行われている取組を広げて位置付ける作業が必要であり,そのためには,この間の桁が必要。例えば,「問題解決」と言っても,明確な目的を立て,それに適合した解決方策を考案し,計画的に準備し,実行し,評価するといった,合理主義的で直線的なものだけでなく,例えば図工の造形遊びでは,素材との関わりが生み出す創発的な動きの中での流動的でダイナミックな問題解決を子供たちは経験している。それはレヴィ・ストロースが「野生の思考」と呼んだものに近く,理科や数学が育む科学的で合理的な問題解決とは異なる,しかし重要でかけがえのない質を有しているように思う。このような既に各教科が独自に育てている多様な「問題解決」に改めて注目し,これを位置付け直していくことが面白いのではないか。各教科には「各教科の本質」として,既に鍛え上げているものの見方や考え方,処理の仕方,表現の様式がある。今回の学習指導要領でも「共通事項」という形で,教科内の領域を超えて均一化されているが,それと資質・能力をつなぐ桁の議論が必要。その際,資料1の2ページの上から4番目のポツにあるように,カリキュラム全体で育成すべき一般的能力を設定し,それをブレークダウンしていく手順と,各教科の中で重要と思われる能力を抽出し,集積,結合,再編を通じて組み立てる手順の両方が考えられる。どちらの方法をとるにせよ,間の桁を考えていくことが大事。現状では,知識・技能は領域固有の個別的なものに,資質・能力は,過去に教育振興基本計画などで提起されたものも含めて割と大きな桁になり過ぎている。これを各教科の特質に照らして見ていくとともに,各教科の取組を日常的な問題解決に応用する際の処理の変化についても考えるべき。むしろ,教科側から資質・能力の一つ下の桁として既に行われている取組を捉え,それを教科のレーゾンデートルとして接合していく作業も必要ではないか。

【委員】 まず大きな社会像を立て,そこから求められる力を導き出すという方法は各国でもとられているが,参考資料7に示されているような力と,各教科での取組をつなぐところが最も見えにくい。育てたい力が非常に抽象的であるため,一人一人の先生の中で具体的なイメージが結ばれず,学校内でも共有されにくい。先生方に,こうした力について,既に具体的な教科や学習活動の実践において育成されていることに気付いてもらうことが重要。これまでは,どちらかと言えばトップダウンであったが,具体的なところから抽象的な力に結び付けるボトムアップの作業を丁寧に行う必要がある。その際,各国では,具体的な指導や子供たちの学習事例について,各学校の現状に応じて修正可能な形でウェブ上に数多く公開しており,先生方にイメージ豊かに理解してもらうための方法として参考になる。

【委員】 これからの社会像に基づいて,必要な資質・能力を導く議論の仕方もあるが,今後の予想はそれほど正確にできるわけではない。このため,まずは現在の日本の若者の資質・能力の問題点について確認するべき。例えば,コミュニケーション能力などは,ずっと指摘されているにもかかわらず十分でないといったようなことを,しっかりと押さえることが必要。その上で,問題点を踏まえた教育について,学校教育か社会教育か,また,学校教育の場合は発達的な視点も入れて,どの学校段階でどう配分していくかという議論が必要になる。

【委員】 求められる資質・能力を,各教科の具体的な学習活動としてどう育成できるかについて考えてほしい。学習指導要領改訂の際も,この観点から「教科横断的な言語力の育成」を掲げたが,実際に各教科の専門部会に下りていくと,国語だけの問題と捉えられ,なかなか通じなかったという経緯がある。どの教科にも言語に関する内容は含まれるため,その一層の充実を考えたが,専門部会だけでなく学校現場でも,「各教科での言語力育成」とは何が求められているのか,具体的な説明がなければなかなか理解されなかった。例えば,発表やレポートという課題は,中学や高校でもたくさん行われてよいと思うが,学校段階が上がるにつれて言語力育成の意識が薄れ,余り取り組まれなくなっている。言語力だけでなく,他の資質・能力も育成するためには,各教科の具体的な学習活動のレベルで展開方法を伝えていくことが必要。場合によっては,各専門部会の方に趣旨を伝え,これまでの取組にプラスして取り組んでもらうことで,どの教科でもそうした資質・能力の育成が可能であることを示していくべき。

【委員】 今回議論されている資質・能力は全く新しいものが入るということではなく,既に学校現場で取り組まれているものであるが,それがきちんと整理されていないことが問題である。各学校において,将来の予測や若者の問題から必要とされる資質・能力と,目の前の子供たちの状況とをきちんと考えた上で,特に中・高等学校において,教科を超えた授業作りを指導していく必要がある。学習指導要領総則には各学校で教育課程を編成するとあるが,実際には形式的なものにとどまっている。今回の議論を学校現場に浸透させるためには,国において,各学校で授業のレベルに落として検討できるような指針や指導資料を作成し,行政研修や校内研修で実行してもらうことが大事である。

【委員】 生きる力を含めた育成すべき資質・能力のレベルの議論と,それを授業として受け止め展開するレベルの議論との間に課題がある。資質・能力論と授業論の間には,教育課程やカリキュラムが存在しているが,それらは現実には形式的な文章のレベルにとどまっている。これを実践レベルにおいてどう実質化し,豊かなものにしていくかが,資質・能力論と授業論とをつなぐ一つの手立てといえる。各学校が教育課程を編成するということを,この議論とうまく接合させていくことが大切。

【委員】 各学校レベルでの自由度を残しつつ,一定の豊かさを実現していけるような方策について,この検討会で具体的に提案していきたい。その上で,学習指導要領についても,使いやすいものに変えていく必要がある。資料2の4ページから6ページに書かれている内容を体系的に整理する作業が必要になるが,4ページの2番目の丸にある4項目の整理は,的を射ていると考える。丸2の「その教科ならではのものの見方・考え方,処理や表現の方法等」と,5ページの「重大な観念」が対応関係にある。「重大な観念」には,「重要な概念」だけでなく,重要なスキルやプロセスも含まれている点に留意されたい。「スキル」というと個別的なものと受け止められがちであるが,複雑な思考・判断・表現をする上では,複数のスキルを組み合わせて複雑なものを処理するストラテジーやプロセスが重要。このような概念やプロセスを総合し,本人が体系付けるために,「本質的な問い」が求められるという,構造的な整理が必要。

【委員】 資質・能力とは,具体的な問題解決の場面において活用されるものであり,それを支えているのが汎用的・構造的な知識や教科の本質である。これを,単に教え込むのではなく,子供にとって切実な課題を通じ,具体的文脈の中で繰り返し使うことで,概念を明示的に理解し,他の様々な文脈でも適用できるようになる。知識は,具体的な場面でどう実行されるかというIf,Thenの関係を多様に持つことで力になっていく。よって,多様な繰り返しと実践を可能にするためには,資質・能力と汎用的・構造的な知識,教科の本質との関係を整理するとともに,カリキュラムのレベルにおいても,教科の重要な観念や,個別の領域を超えた教科固有の内容について明示することが必要。さらに,教師も実践において,表面的に異なる学習活動や領域が重要な観念のレベルでは共通していることを自覚し,これを明示的に教えていくことで,子供の気付きや問題解決がより鮮明なものになる。こうした取組を計画的・組織的に実行するためには,やはりカリキュラムが必要である。これまでは知識の内容を具体的に示すと,それを教え込むものという誤解が生じ,言語活動についても「各教科等の特性に応じた言語活動」という概念が整理しきれなかった。今回は,資質・能力のレベル,カリキュラムレベル,実践レベルの関係を,きれいに構造化することが大事。

【委員】 資料2の5ページの(履修原理)に書かれている「選択教科(履修原理:広く,浅く,短く,多く,軽く)」とはどういうことか。

【委員】 特に中学校において,いろいろ広い分野に選択の幅を広げ(「広く」),入門的な内容で(「浅く」),通年や3年間ではなく短期的に(「短く」),様々な分野を(「多く」),間違っても取替えが利くというような形で(「軽く」)履修できるようにするという原理の提案。中学校は自分の個性を探る時期であるため,「深める」「伸ばす」以前に,まず自分が何に向いているかを探らせる経験をさせた方がいい。

【委員】 本検討会で議論している資質・能力のレベルの内容を,現場でも分かりやすいものにする工夫が必要。特に,中間のレベルに当たる「間の桁」について,より分かりやすい表現に置き換えることはできないか。例えば,「多重知能」などは,教科別ではない知能論であるが,脳の構造に見合う形で資質・能力を組み立てることで,中間的な表現ができる可能性がある。ただし,議論が転移論に似てくるため,転移について明確化できなければ,うまく表現できたとしても効果がなくなってしまう。現状では,学習指導要領の抽象性により,なかなか現場で具体的な目標や内容となるような資質・能力にはつながりにくい。学校現場において,先生方の教育課程を作る力量を高め,実質的な議論ができるようになるためにも,本検討会で行われているような議論が,現場の先生方の言葉でできるようになるとよい。

【委員】 現場では,教育課程編成は教務主任以上の仕事というイメージがあるが,若い先生であっても,学校づくりを行ったり担当教科を教えたりするのに当たり,1年間のカリキュラムマネジメントが必要となる。1年間の自分の教科の学習を通してどんな児童生徒にしたいのか,考えさせることが必要。「教科書を教えたらいい」「教科の目標や内容を何とかクリアしたらいい」と考える教師もいるが,本来,「教科を教える」ことは手段である。その先の「どんな子供を育てたいのか」という問いを一人一人の教師が考え,その総意として学校の教育課程編成があるという考え方が,十分に浸透してないのではないか。

【委員】 現場の立場からすると,「教育課程」の定義が抽象的すぎる。現場の先生方は,各教科の年間指導計画や単元について,授業の関係の中では受けとめるが,教育課程との関係については,教務主任以上の守備範囲と受けとめがち。本来,年間指導計画や単元もカリキュラムの構成要素の一部であるが,定義が抽象的であったために,学校全体で共通に理解されず,教育課程として授業をつないでいく部分の具体化につながらなかった。一つ一つの授業が,教育課程との関わりの中で位置付けられたものであることについて,学校内で共通認識や組織文化が定着していくと,状況は随分変わってくるのではないか。

【委員】 補足として,文部科学省の解説の定義では,「教育課程」は「指導計画」や「教育計画」として,計画レベルにとどまっている。先生方の意識を変えるためには,実施レベルや結果レベルまで含めた定義へと変える必要がある。

【委員】 「教育課程」には,各教科だけでなく総合的な学習の時間や特別活動なども含まれている。大学教育でも,同様に資質・能力の問題が議論されているが,正規のカリキュラム以外のインパクトが非常に大きいことが明らかになっており,インターンシップや海外研修など,課外活動を含めた全体を通じて,学生の資質・能力を捉える方向に進んでいる。今回の検討会の議論の中では,資質・能力を主に3領域で考えればよいと思うが,その範囲をどこまで考えるかについても検討する必要がある。その際,「重要な観念」がキーになるのではないか。現在の議論では,教科や教科外,特別活動など,それぞれ分離した形で人間性を捉えがちであるが,そもそも資質・能力は,全体を捉えようとするもの。特に中学校や高校では,部活動など教科外の学校教育の影響がとても大きいため,教科外も含めた学校教育全体を通じて,子供たちがどう成長しているのかという視点から,育成すべき資質・能力について議論できればよい。

【委員】 資料1の1ページ目の<主な論点>について,一つ目の丸の下から2番目に挙げられている「『人格』(道徳性)や人間性に関わる資質・能力について,どのように位置付けるか」という議論を何らかの形で整理する必要がある。その観点から見ると,参考資料7に示されている「教科から関心・意欲・態度を外す」という方向性は推進すべき。領域をどう設定するかという議論も重要。

【委員】 学校の教育課程編成をどう実質的なものにしていくかという論点に関して,単元や年間指導計画がカリキュラムの重要な要素であり,学校の教育課程全体と年間指導計画や単元との間を往復させながら改善していくことが必須だと考える。計画を作って終わりではなく,練り直していくことの必要性を強調すべき。

【委員】 資料2の4ページに挙げられている,育成すべき資質・能力の4層構造について,基本的には賛成。従来,教育学においては,実質陶冶と形式陶冶という議論はずっと行われていたが,粗っぽいところがあった。具体的には,今回の学習指導要領では,言語力の育成の一環として「人に説明すること」が重要視されているが,例えば,算数の授業で「比例」を習った子供に「比例」について説明させようとしても,なかなかうまくできない。一つの概念を説明する際には,第1ステップとして定義と具体例を挙げ,第2ステップとして対比される概念や関連する事象との違いを述べるようにすると,分かりやすい説明ができる。これが,「教科・領域を超えた汎用技能」に相当するが,実際には,国語を中心とした各教科において,新しく習った概念を説明する活動が行われているにもかかわらず,「分かりやすい説明の方法」について明示的に教えていないため,結局身に付いていない。説明する活動だけでなく,記憶する活動についても,関連付けて覚えることで理解の促進につながるというように,教科・領域を超えた汎用的なスキルとして各教科で取り組まれているが,意識化はされていない。これらをもう少し表に出して教える活動があってもよいのではないか。学習指導要領上では,学力の4層構造をもとに,ある学習を通じて実は汎用的なスキルも同時に学んでいるということを,例えば,総則などに記載するとよい。比例を学習しながらでも,比例を説明するための「説明の仕方」を学ぶことができるというように,教育における目的の多重性について,先生方に意識していただくことで,いろいろなつながりが出てくるのではないか。

【委員】 今のお話である程度イメージが湧いた。どの場合にどういう資質・能力が育成されるのか,場合分けをして具体例を示すのは大変なことではあるが,何らかの工夫が必要。この点は,今後も更に議論していきたい。

【委員】 資質・能力が各教科の中で取り扱われる場合は,各教科の目標・内容の達成のために活用され,その積み重ねの中で教師や子供が自覚化していくことが大事である。これまで議論してきた資質・能力は,総合的な学習の時間の中で育てようとしてきた力であり,キー・コンピテンシー,キャリア教育の四つの観点,「生きる力」とほとんど重なっている。やはり,総合的な学習の時間の充実が,今考えている汎用的な学力を育てる上で重要になる。まず,○○教育については,既存の教育の中に散りばめられているが,教師や子供に十分自覚されるよう,改めてきちんと示すことが必要である。ただし,各教科で扱われているいわゆる現代的諸課題に関する内容を意識化したとしても,将来何が起こるか分からない時代の中で,全ての課題への対応は難しい。どのような問題にも対応できる力を子供に付けるためには,そのような学習経験を積んでおく必要があり,その意味でも総合的な学習の時間の充実が必要となる。総合的な学習の時間の授業づくりは,最も創意工夫が求められるが,各大学の教員免許の必修にはなっていない。そこで,比較的うまくいっている小学校は現行のままとし,中・高においては教科化を検討してもよいのではないか。教科になって教科書ができれば,その中に育てたい資質・能力を計画的,体系的に組み込むことが可能となる。我が国の先生はまじめであるため,しっかり取り組んでもらえる可能性がある。

【委員】 総合的な学習の時間の教科化は,本来の趣旨に合わないのではないか。教科化の根拠として,教科化すれば先生方の意識が変わるというのは,本質的なものではない。○○教育が断片的に散りばめられている状態が望ましくないということは分かるが,それをどういうふうに総合的な学習の時間に結び付けるのか。

【委員】 各教科の知識や技能が,他の場面でも使えるということを子供が自覚する上で,○○教育が各教科の中に散りばめられていることは,決して悪いことではない。ただし,それが教師や子供に自覚されない限りは,そうした意識は育たず,他の場面で活用することもできない。したがって,何らかの時間が必要であり,そうした時間として総合的な学習の時間が適当と考えている。

【委員】 教育課程上は大きく変える必要はなく,先生方の自覚を促すような研修などの方策を考えればよいことになる。

【委員】 国際バカロレアのカリキュラムの作り方が参考になる。特に,テーマとして幾つか共通に扱わなければならないが,どこで扱うかは各学校の裁量に任されているという点。ただし,余り多くのテーマを扱ってしまうと,扱い切れないという問題が出てくるため,例えば,自分の生き方に関する教育やキャリア教育,公正で平和な社会づくり,自然や環境・防災問題など,三つくらいの柱を立て,それらをカリキュラムのどこかでは扱うというような整理をすればよいのではないか。

【委員】 総合的な学習の時間の一つの狙いは,自分で興味関心を持ったテーマを設定し,それを探究する時間を設けるということであった。それを教科の中にも散りばめるとすると,各教科の中で,教科の内容に即した探求を行うことになる。今回の学習指導要領改訂における授業時数の増加は,知識量の増加だけでなく,活用や探究にも取り組むことを狙いとしていたが,現実的には,教科の習得,活用で手いっぱいになり,それぞれの興味,関心に応じたテーマの探求まではとてもできていない。各教科においても,探究的な活動を教科内容に即して取り入れるというメッセージをより強くし,レポートや発表などの評価にも組み入れるとともに,そこで漏れてしまうテーマを存分に追求する時間として,総合的な学習の時間を活用するのがよいのではないか。実際は,学校段階が上がるにつれて,本来の総合的な学習の時間の趣旨である「自分でテーマを設定して,それを探求する」という状況にすらない場合が多々あると聞いており,何らかの強いメッセージが必要。

【委員】 いわゆる「現代的な課題」と各教科等との関係を再吟味する作業が必要。各教科の単元レベルを見たときに,現代的課題にどれほど対応しているのか。そもそも,教科は固有の継承すべき内容を持っており,必ずしも全ての現代的課題に対応する必要はないという立場や,内容の差し替えによって現代的課題にも比較的柔軟に対応できる立場など,各教科の特性によって様々な立場が考えられる。よって,そうした教科の論理と現代的課題について,丁寧な検討が必要。その上で,いわゆる○○教育や,教科横断的な教育にも対応するためには,各学校において編成・実施する教育課程を実体化し,その中で対応していかざるを得ない。その点において,教育課程の形骸化は,現代的な課題に対応し切れていない一つの証左にもなる。現代的な課題を扱うとともに,それを具体的に展開していくための条件整備の在り方についても,検討していくことが必要。

【委員】 特定の資質・能力は特定の教科等のみで育成すべきか,それとも,どの教科等でも育成できると考えるか。あるいは,児童生徒自身の学び方やメタ認知について,どう位置付けるか。先ほどの算数の比例の例は,算数だけでなく理科や社会科であっても,似たような資質・能力になると考える。「定義を明確にし,例を出して説明する」「関連する事象を構造的に把握して表現する」といった活動は,とてもジェネリックなもの。その意味で,ここで「資質・能力」というものは,教科・領域を超えて子供たちが身に付けるべきものであるとともに,具体的な教科の活動を通して身に付けるもの。できる部分は明確に位置付け,自覚化し,明示的に伝えることを繰り返すことで定着させる。これは,いわゆる学び方の学習,ラーン・ハウ・トゥ・ラーンの考え方に近い。一方で,特定の資質・能力が特定の教科と強く関わることもある。例えば,理科の系統的な観察や個体差の処理は,社会科とは異なるものであり,理科の中でも,物理のような個体差が少ない現象の処理と,生物のような個体差がかなり出る場合の処理の仕方は異なっている。そのような資質・能力については,領域特有のものとして身に付けるとともに,その活用においては,領域内だけでなく先々の社会生活やビジネス,世界経済や環境問題などを読み解く際にも使ってほしい。その意味では,資質・能力の中には,汎用性が高く,明確な位置付けと繰り返しが必要になるものと,教科や領域や活動に固有なものが存在している。後者のように,特定の資質・能力が特定の教科の特性や活動とリンクする場合については,「真ん中の領域」を置く必要がある。教科の本質に近いものを,繰り返しいろいろな文脈で使ってみる経験を通じて,知識ではなくスキルのレベルにしていく。そして,そのスキルの状態や子供の状態を,今度は評価やルーブリックの話として,学力論の中に位置付けて書けるとよい。一方で,子供が学習を自力で進めていく生涯学習の視点や,受験の観点から,領域や活動に依存しない一般的な問題解決の戦略,学習の方略,学習観やメタ認知も重要。さらに,自分の特性や自己の将来展望を持ち,学習内容を選択していくキャリア教育についても,領域依存とは異なるタイプであり,整理が必要。

【委員】 総合的な学習の時間について,今の形で充実化が図れるのであれば,あえて教科化しなくても何の問題もない。ただし,中高の事例を見ると,うまくいっている事例は,中高ともに3年間きちんとしたカリキュラムを作り,その中で若干のアレンジをして進めている。総合的な学習の時間の指針として,望ましいパターンを幾つか示した上で,各学校に合ったものを選択し,アレンジしていけるようにしていくべきである。例えば,生活科においても,飼育・栽培といった共通の目標・内容はあるが,各学校や地域で種類や数が全く異なっている。総合的な学習の時間を教科化する場合には,生活科以上に緩やかなものとし,現代的諸課題についても,地域に見合った課題を選択することで,学校の独自性を重視する教科というものも今後ありうるのではないか。教科化することで,教員免許の必修になる可能性が高いため,教員養成の段階で,子供や地域の実態を踏まえたカリキュラムの作り方を身に付けて教壇に立つことが期待される。

【委員】 いろいろな教科の中に○○教育の要素があり,それをまとめて総合的に教える必要性が主張される時は,その時々の社会的要請として出てきている場合が多い。その要請に応える時間は何らかの形で保障する必要がある。そうしたことについて,これまでまずは総合的な学習の時間で対応することが考えられてきたが,今後もその方向でよいと思う。今後は特に,現代的諸課題として,地球環境問題が非常に重要になる。こうしたテーマを必修にする必要があるのではないか。同時に,総合的な学習の時間は,探究的・自主学習的な活動を重視するため,選択的要素を組み合わせて,一層の充実を図るよう工夫してほしい。

【委員】 各教科と総合的な学習の時間をつなげるため,今回の中教審答申では,活用型の学習の導入を提言したが,現場ではその趣旨が正確に受け止められていない。教科の中で習得した知識・技能を使う経験をさせる必要があり,そのために授業時間数を増やしている。しかし,実際には,小学校段階では習得に時間を割かれ,高校では習得と探求が分かれていて探求につながらなかったり,活用の趣旨を理解していないために一気に高いレベルの課題研究や課題学習を行っていたりするなど,難しい状況にある。教科と総合的な学習の時間をつなぐための工夫として,もう一度具体的に例示し,趣旨の徹底を図る必要がある。

【委員】 資質・能力の次元分けそのものは必要だと思うが,教育内容としては道具的な知識・技能と理論的・概念的な知識・技能の二つに分けられると考える。ここに,主と副の区別を明確に入れることが必要。つまり,探究につながることが主であり,習得を積んでいるのはあくまでも副であるというように,「主として」の要素が入ってくる。例えば,同じ高校の中でも,道具的でしっかり身に付けさせるべき部分もあれば,非常に芸術的で,発想豊かに自由に書かせられる部分もある。各教科の中で,どの時期にどの内容を主に学習させるのか,主と副を分ける考え方を徹底してほしい。先ほどから議論されている「重要な観念」の定義ともつながるが,問題はそれをどういう視点で決めるかということ。これを進めていくことで,現場もより分かりやすく具体的になると考える一方,体系の面からすれば,教科の中身については,今の視点で現場の声を聞いていただきたい。到達目標や資質・能力の体系化,系統などに対し,現場の先生方が,どういう言葉で認識しておられるのか,是非データを頂きたい。

【委員】 総合的な学習の時間に関する各学校の取り組み状況について,公立学校や私立学校の実態の把握は行っているのか。

【文部科学省】 公立学校については,教育課程編成・実施状況調査の中で,総合的な学習の時間で扱う分野について,環境や伝統文化など,どういうものをテーマとしているか調査を行っている。平成25年度について現在調査中である。

【委員】 アンケート調査というよりも,具体的なカリキュラムを出していただくとよい。教科ではないといっても,実際に何をやっているのかについて把握し,趣旨に沿った時間になっているのかどうかを確認すべき。

【委員】 総合的な学習の時間の重要性は,様々な面でこれからも認めていくべきであり,条件整備が必要。

【委員】 資質・能力の組み立て方については,上からと下からの両方のアプローチが必要である。上からというのは,ある段階で国として,汎用的な学力は何かというものを示すことが必要だということである。その上で,各学校が具体的な単元作りをする際に,具体的にどのような学習活動の中で,子供たちがどういう力を使って身に付けていくのかを下から考える。この両方をやらなければならない。現時点では,国として育成すべき資質・能力を早々に整理し,それを具体的なレベルで例示する作業を進めることが必要である。

【委員】 育成すべき資質・能力の候補は,今回の参考資料7や,第6回検討会での国立教育政策研究所からの報告の中にも,かなり出てきている。上からのものに関しては,これまで出てきたものの中からある程度抽出し,それをもとに,今まで不十分であった下からの方に重点を置いて検討するという筋道がとれるのではないか。その際,学習方略や学習観,メタ認知などの汎用性が高いものと,教科に固有なものとがあるため,二つのレベルを区別して議論していく必要がある。

【委員】 国として,国の政策形成と学校現場で開発されているものとを往復させるシステム作りが必要。現在の研究開発学校制度は,教科再編など現行の学習指導要領によらないラディカルな教育課程開発の面では進んでいるが,現行の学習指導要領をよりよくするという面での開発のシステムは十分に整えられていないのではないか。国立教育政策研究所のプレゼンの中で御紹介いただいたオーストラリアの例のように,仮説的なものを一旦作り,それを幾つかのところで試行し,集約して改善していくというような,国の政策形成と学校現場とを往復させるシステムというものを,次の学習指導要領改訂に向けて作る必要がある。

【委員】 研究開発学校制度は,次の学習指導要領改訂のために,現行のものに縛られずに自由に取り組めることがメリット。現行の学習指導要領を前提としたものとしては,普通の研究指定があり,より望ましい実施の仕方や工夫について研究いただいている。それを強化していく方向で対応できる部分がある。

【委員】 上からと下からの議論では,二つの層が想定されている。一つは国レベルとして,中教審で言えば,教育課程部会で産業界や社会からの声が入ってくる中,国として子供たちにどういう力を身に付けてほしいかを議論している。一方,学校現場という話があったが,両者の中間層に当たる,教科教育の専門家の層も含めた3層で考えていかないと,なかなか議論が進まない。教科教育の専門家は,国全体として目指すべき学力や,教科汎用的な資質・能力よりは,自分の教科をハイレベルのものにしたいというモチベーションが強い。よって,時数が増えれば,高度な知識・技能など,教科に固有なものを教えていくことに時間を使いたいと考える。学校現場にしてみると,そんなにたくさん難しいことはできないと考える可能性があり,両者は立場が異なっている。今回の学習指導要領改訂時も,この3層がどう連携をとれるかが非常に問題となった。学習指導要領の各教科の章を実質的に作るのは,教科教育の専門家による縦割り部会の層になるため,それを意識した議論が必要。

【委員】 ここで言う「教科教育の専門家」とは,大学の先生の話か。

【委員】 学会に所属しているような大学の先生や,附属学校の先生で,教科教育に関する本を書いている方など。一般の公立学校の現場とは少し異なる。

【委員】 中教審の専門部会のメンバーは,大学の先生を中心に,現場の先生,その他が少し入っているという構成であるが,提起されているのは専門部会の在り方に関係する問題なのか,あるいは,教科教育の学会まで含めた大学の先生全体に関係する話なのか。

【委員】 専門部会のメンバーの問題についてである。大学の先生や,各学会で中心的な役割を果たしている方が多い中,少し応用的な分野から,例えば,数学の専門部会では,経済学や物理学,社会学の方が入ることで,他の分野での応用の視点を取り入れようとしている。しかし,実際には他分野の先生は余り入ってきていない。

【委員】 上(文部科学省)と下(学校現場)を結ぶもう一つの重要なキーパーソンは,各教育センター,教育研究所の教科・領域専門の指導主事である。その方たちが,講師依頼を含めて行政研修を計画しているため,その中できちんと趣旨が伝わり,資質・能力を踏まえた実践的な研究に取り組んでいただき,現場に下りていくかどうか,指導主事の層も非常に重要である。

【委員】 次元分けの話があったが,指導主事や教科教育の専門家と学者等々が集まって議論するときに,通じ合えるためにはどういう言葉が必要か。例えば,バーンステインが精密コードと限定コードを分けているが,やはり日常生活で使っている言葉では,非常に観念的,概念的で曖昧である。それを,精密な言葉に変えるということは非常に大事であり,これを身に付けないと,あらゆる世界できちんとした議論ができないことになる。この間をつなぐ役割が,学校の先生にはあるのではないか。その点について,教科教育の先生や専門の学者が理解した上で,一緒に協力していくという話にならなければ,なかなかこの話は前進しない。学問の方は自分の牙城を守り,レベルを上げることにしか関心がなく,現場は現場で,子供との密着を重視する余り,いつまでも子供の言葉遣いで終わってしまっている。両者をつなぐということをもう少し意識することが大事。

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