育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会(第8回) 議事要旨

1.日時

平成25年8月30日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 3階 3F1特別会議室

3.議題

  1. 育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

安彦座長,無藤副座長,天笠委員,市川委員,奈須委員,西岡委員,松下委員,村川委員,吉冨委員

文部科学省

前川初等中等教育局長,義本大臣官房審議官,尾﨑国立教育政策研究所長,勝野教育課程研究センター長,塩見教育課程課長,大金教育課程企画室長,橋田教育課程企画室専門官

5.議事要旨

 育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方について,各委員より発表があり,その後,意見交換が行われた。

【委員】 市川委員提出資料の「◆2 教育課程編成上の留意点」について,「早期からの育成」とあるのは,何をいつから育成することを念頭に置いているのか。

【委員】 人前で説明をしたり,自分の意見を述べたりする力について,できれば幼稚園段階から,学校教育の議論としては小学校の低学年から育成すべき。これらは日本人が苦手と言われているが,外国の幼稚園などではしっかり取り組んでいるところもあり,積み重ねによって大きな違いになるため,早くから取り組むべき。

【委員】 安彦座長提出資料の(教育内容)の1点目に「『内容』は小学校中学年までの『道具的な知識・技能』と,それらを使って身に付ける『理論的・概念的な知識・思考技能thinking skills』とを区別することが必要」とあるが,この説明からは,例えば,小学校低学年・中学年では,教科分化型でしっかりと「道具的な知識・技能」を身に付ける必要があり,「生活科」のように体験と思考を重ねながら,教科横断的に生活課題や社会的な課題を取り扱う内容は不要と読めてしまう。この点についてどのように考えているか。

【委員】 不要というのではなく重点を言ったので,この時期は体験や遊びといった総合的な活動も非常に大事な分野。ただ小学校中学年までは「道具的な知識・技能」の方を意識すべきであり,他の時期においては,むしろ総合的な活動が重要。

【委員】 「資質と能力を概念規定した方がいい」という意見が出されたが,「先天的に持っているものが表に現れただけのもの」と「生まれ持ったものではないが育てられたもの」の区別は難しい。したがって,両者を厳密に区別せずに「資質・能力」という言葉をひとくくりで使うようになったものと理解しているが,他の委員はどう考えているか。

【委員】 個人的には「資質・能力」という言葉を使うことはほとんどなく,むしろ文部科学省が以前から政策文書の中で「教員の資質・能力」のように使ってきた言葉であると理解している。「能力」という言葉だけでは足りない曖昧な部分に「資質」を加えることで,より大きく捉えようとするニュアンスで使ってきたのではないか。今回は,文部科学省が使ってきた言葉を受けて,本検討会としてどう捉えるかについて議論になっているが,他の委員はどう考えるか。曖昧なままの方がいいということであれば,そのまま進めていく。

【委員】 「資質」について、辞書的には「生まれながら」という意味合いが含まれているが,例えば,教育基本法では「資質を養う」,他の機関の設置法では「資質の向上」など,法的には「資質」は変わり得るもの,改善できるものという前提に立って用いられている。「能力」という言い方ではカバーできないものを「資質」としてきたのではないか。

【委員】 法律上の言葉としては,「資質」は従来そのように使われてきている。

【委員】 「資質」の従来の辞書的な意味には「『エデュケータブル』でも『メジャラブル』でもない,育てられないもの」という感覚があった。例えば,「意欲」の問題も,かつては人格的・情緒的な変数により「エデュケータブルでない」と考えられていたが,研究の進展により,適正な方法に基づくことで「エデュケータブル」・「メジャラブル」であることが示されてきた。また,「コンピテンシー」の概念を最初に提唱したマクレランドも,初期の研究において「動機」が人格的なものでありながら測定可能であり,操作的に介入することで育成可能であることを明らかにしており,そこから「コンピテンシー」概念へとつながっている。その意味では,人間の持っている「エデュケータブル」な側面が拡張されてきているのではないか。

【委員】 補足すると,マクレランドは「動機」について,「メジャラブル」ではあるが「エデュケータブル」とは考えていなかったのではないか。「メジャラブル」と「エデュケータブル」は区別する必要がある。「資質」についても,法律用語として既に「向上可能なもの」と捉えられているのであれば,それをここで使うことは差し支えないが,個人としては,「資質」は育成が困難である一方,重要な部分でもあり,教育の範囲外には置くべきではないと考える。評価対象にするかという点については,別途議論が必要。

【委員】 少なくとも「資質」の方が「能力」に比べてより基本的・潜在的なものというニュアンスがあり,それが相対的により具体的な形で顕在化したものが「能力」といえる。両者の線引きが難しいため,「資質・能力」のようにつなげて用いているのではないか。

【委員】 「資質・能力」という言葉を使い始めた当初は,そのような理解だったのではないか。ただ,何の断りもなく使うのではなく,今議論したような経緯も含めて説明した上で,言葉を使っていくことが必要。

【委員】 大学教育の存在について,前回・前々回の学習指導要領改訂の際と比べて,検討におけるウエートが増してきている。従来は,小学校から高校の範囲の中で「資質・能力」や必要な内容を検討し,大学教育はその外縁的な存在として考えられてきたが,大学教育の重要性が高まっている現在においては,そのような枠組みの設定,整理の仕方自体を変えざるを得ない。本検討会における議論の一方で,中教審高等学校教育部会などでは高大連携の議論も展開されており,大学教育との距離感やスタンスの取り方が大きなテーマになってきている。従来は,大学教育が要請するものを義務・初等に求め,義務・初等の段階からすれば,上に積み上げていくというのが基本的なスタンスであったが,上に積み上げることと,下に求めることとの摩擦やずれ,整合性についても,詰めて問う必要がある。この点は,従来であれば大学入試の問題に特化できたが,「資質・能力」や社会との関係という観点においては,大学を視野に入れたありようを検討すべきであり,「資質・能力」の組み立て方や,学校段階ごとの位置付けなどについて,これまで積み上げてきた議論の整理が必要。安彦座長の「本来の『教育』が入試準備のための『訓練training』に変質している」という御指摘はとても重要で,今後どういう形で議論を深め,整理していくかという問い掛けにもなっているが,更にお考えがあれば伺いたい。

【委員】 この点はとても大きな問題である。現在の大学進学率は51%程度であり,残り半数は大学に進学していないが,その時期の若者に対する初等中等教育の側(がわ)の狙いや趣旨について,高等教育にも何らかの形で反映させていかざるを得ない段階に入ってきている。大学入試によって本来の教育の姿がゆがめられ,入試準備によって教育の固有の価値である「自立」が頭から消えてしまっている。この問題を今後検討すべき重要な視点の一つとして,芽でもいいから入れておきたいと考えるが,他の委員の御意見はいかがか。

【委員】 平成20年の学習指導要領改訂を踏まえ,学習評価に関する議論を行った「児童生徒の学習評価の在り方についてのワーキンググループ」においても,高校教育の評価の在り方は非常に大きな問題を抱えているとして議論になったが,結局時間切れになってしまった。現在,高大接続特別部会や教育再生実行会議において,いわゆる「到達度テスト」が議論されているが,その作り方によっては高等学校教育が縛られてしまい,本検討会で議論したことが形骸化してしまう危険がある。この問題に対して,本検討会としても意見表明していくことが必要ではないか。

【委員】 大学を問題にすると,確かにほぼ半数の人たちしか関係ないこととなってしまうが,大学教育の中では卒業後と大学との接続についても議論されており,「社会人基礎力」や「成人力」などの概念も出されている。単に労働力としてだけでなく,市民や家庭人としての見方も重要。また,各学校段階において,学校段階を通じた一貫性とともに,学校段階独自の目標も有しているため,高大の接続や大学以降について視野に入れつつ,各学校段階の独自性を考えながら「資質・能力」を検討していくことが必要ではないか。

【委員】 評価について,第7回検討会で新潟県上越市立大手町小学校から「学びの時間」の報告があったが,これは教科や領域,生活,将来,実社会での学習や体験を,月に1・2度自分の言葉でつないでいくというものであった。また,東京学芸大学附属国際中等教育学校の国際バカロレアの取組は,教科を超えた学びを「重要概念」として教師側から提供していくという取組であった。私としては,子供がそれぞれの発達段階において,自分の学んでいる様々な情報や知識・技能を自分の概念でつないでいくような学びの時間を,月に1・2回程度組んでいくことで,自己評価の質が高まるのではないかと考えている。大手町小学校が紹介した「知の総合化」の方法は,元々は徳島県の中学校で開発されたものである。各教科,道徳,特別活動,部活,読書,家でのテレビ,人との語らいなどを通じた様々な学びを,自分の言葉でつないでいくような時間を,カリキュラムの中に組み込めないか,評価の一手法として考えていけないか,と考えている。

【委員】 高校,大学は生涯学習的な視点で考えるべき。生涯学習の中の高等教育,更にその後のキャリア教育まで押さえるような視点を,何らかの形で検討できると良い。この議論は次回以降も更に深めていきたい。

―― 了 ――

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