育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会(第4回) 議事要旨

1.日時

平成25年3月12日(火曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省16階 16F特別会議室

3.議題

  1. 社会的レリバンスの高い教育課程設計と評価の在り方について(本田由紀・東京大学大学院教育学研究科教授より発表)
  2. これからの社会で求められる人材,能力とその力の測定について(新井健一・ベネッセ教育研究開発センター長より発表)
  3. その他

4.出席者

委員

安彦座長,無藤副座長,天笠委員,市川委員,奈須委員,西岡委員,村川委員,吉冨委員

文部科学省

布村初等中等教育局長,関大臣官房審議官,塩見教育課程課長,田中主任視学官,大金教育課程企画室長,勝野国立教育政策研究所教育課程研究センター長,橋田教育課程企画室専門官

5.議事要旨

(1) 本田由紀先生(東京大学大学院教育学研究科教授)より,資料1「社会的レリバンスの高い教育課程設計と評価の在り方」について発表があり,その後,質疑応答が行われた。

【委員】 教育課程の構造化のキューブ型の整理に関して,この考え方の有効性を見る上で,軸に何をとるかが大事。「Subject(対象)」については,どういう観点からどのようなものを取り上げるのか。

【有識者】 Subjectとして何を取り上げるかは大きな問題。できるだけ,まず目下の現実社会の諸状況を取り上げ,その上で時間的,空間的な広がりを持たせるといったやり方が望ましい。「Discipline(教科・学問分野)」については教科横断的な取り上げ方をする場合もあり得る。立体パズルのように,様々な形のものを組み合わせながら,全体を満たすように設計していく必要がある。

【委員】 このような形で構造化することが,最初に指摘のあった格差をはじめとする現状の解決にどのように有効なのか。

【有識者】 これを導入することで格差が縮まる,といったものではない。学力や生きる力の格差を縮めるためには,学年ごとに修得状況を確認し,足りない場合には,足りない部分をできる限り埋めていくような別途の制度的保障が必要。一定の努力は払われているが,今の教育内容は,子どもや若者にとってレリバンスのあるものだとは感じられていない。学ぶことの必然性についての実感がないまま,暗号としての教育内容が広がっていく中,Subjectの吟味や,子どもや若者の主体的なかかわりが授業に導入されていくことで,レリバンスのあるものと感じてもらえれば,多少なりとも格差を減らしていけるのではないか。

【委員】 Subjectについては教科の内容にとらわれず,今の時代あるいはこれからの時代を生きていく上で,遭遇しなければならない課題が並ぶべき。総合的な学習の時間が中心になると思うが,そのような課題に対して,教科の知識・技能を活用しながら解決していくような,ストーリー・単元構成を作る必要がある。このような観点から,3軸は非常に有効と思う。

【有識者】 Subjectについては,御指摘のとおり,解決すべき課題,取り上げる事柄という意味で使っているが,「教科」という意味もあるので,誤解を招くかもしれない。言葉遣いを変えていく必要がある。

【委員】 「適応」と「抵抗」のうち,「抵抗」の部分について,子どもたちはいつ頃から,働く上での大変さなどの陰の部分を理解する必要があるのか。小学校では難しいかもしれないが,例えば,中学校では,職場体験を地域の課題を見つける場面として,そこから地域の活性化のために何をすべきかということを総合的な学習の時間で他の地域の成功事例の分析などを通して考えさせることによって,「抵抗」だけでなく,そのようなものに対してどう対応していくかという考え方も学ぶことができる。子どもの発達段階と,「適応」と「抵抗」のバランスについて教えてほしい。

【有識者】 私が現在行っている研究は,高校生を対象としており,そのまま小中に使えるとは思っていない。中学校は,中学校向けのモデルカリキュラムを作成する必要がある。小学校でも,単なるきれいごとに終わらないような教育は可能だと思う一方,余りにもディープな内容だとついてこられない可能性があり,中学校以降ということになるのかもしれないが,まだはっきりと決めているわけではない。

【委員】 有識者が実践されている金融教育や労働教育は,レリバンスは高いが,共通教養として普通教育の中に位置づけられるべき内容のような印象を受ける。高校教育において,職業準備教育としての職業教育と,普通教育における職業に関する教育との関係を,どのように考えたらよいか。

【有識者】 今回の実験授業は,普通科高校の枠内でも実施できる「職業的レリバンスのある教育」について構想したもの。職業教育を中心に行う専門高校がもっと増えて良いと思うし,柔軟に伸び広がる専門性を伝えていく,「普通科専門コース」のような高校教育がもっとあっていいと思うが,その拡大普及が急には難しいとすれば,一般的な普通科高校において,より実質的なキャリア教育として導入可能な教育内容を考えている。どの程度職業的レリバンスの濃い教育課程を構想するかは,学科や教育段階によって違いがある。今回の実験授業は,レリバンスが最も希薄な例と言えるが,せめてこのぐらいの内容は伝える必要があるという気持ちで作っているものであるため,共通教養的な印象を与えてしまったかもしれない。

【委員】 レリバンスの概念に関して,第一義的には何と関連しているのか。子どもにとっての切実さと,職業世界における必要性と,どちらを主軸と考えるか。

【有識者】 教育の第一義的な目的は,目の前にいる子どもたちに資するということ。子どもたちに資することは何かを追求することを通して,産業界にも間接的に貢献するようなレリバンスを考え,「これだけは必要」という内容を取捨選択し教えていくことが重要。レリバンスという言葉は融通無碍(むげ)であるため,○○的レリバンスというように,文脈に応じて限定した形で用いた方がよい。

【委員】 有識者が実験授業で鍛えている力をもう少し一般的な能力として考えると,クリティカルシンキング,クリティカルリテラシー,あるいはポリティカルリテラシーということになるのではないかと思うが,そのようなものは,日本の教育において伝統的に弱かったところ。そのようなところに日本の教育が踏み込んでいく必要が生じてきたのではないか。先生は,現在の取組を職業教育に限定して考えておられるのか,それとも,これを1つの試金石として,教育課程における資質・能力論を考えようとしているのか。

【有識者】 「抵抗」に関する教育はシチズンシップ教育と近接している。社会に貢献しつつ身近な生活から改善できる人間像ということになると,仕事の現場ということが地に足をつけていくためには非常に役に立つ。現在は,仕事の現場に関して考えていこうということで,踏ん張ろうとしているところ。

【委員】 教育課程の構造化のキューブ型の整理について,縦軸は教育方法に関わるものを暗示している。今後,日本の教育課程を展開する中で,教育方法にまで踏み込んで教育課程を構想していく必要性についても含意しているように感じたがどうか。

【有識者】 「このようにせよ」というようなきつい決めつけではなく,オプションとして示す形のモデルカリキュラムであれば,教育方法にまである程度踏み込むことは可能。いまだ一斉授業的なやり方が色濃い日本の教育現場を変える一助になる。ただし,そのためにはスタッフの拡充などの教育投資の拡充が必要。

【委員】 教育課程の構造化において,「○○力」をどのように位置付けているか。

【有識者】 「○○力」を身に付けるべき,という考え方には批判的。望ましい力を政府や産業界が羅列し,それらの力が付いていない現状との間を埋める取組は,学校現場や個々の生徒の努力に投げられてしまっている印象。したがって,極力そのような発想ではない形で,教育課程や学習評価や制度設計を考えなければならないと思う。

【委員】 学校では,社会生活や職業生活に直接には結び付かないような文化が大事にされている。社会的レリバンス,職業的レリバンスと強調する際,このような文化を重んじる論に対してはどのように考えるか。

【有識者】 文化の重要性を否定するわけではない。例えば,ある工業高校では,木造建築を通して,木と人との関わりから文化や芸術にまで広げて教えている。どこを切り口にしても,その時間と空間の広がりを拡張していくような教え方をしていくことで,文化的な教育は可能。ただし,日本では余りにも職業的レリバンスのバランスが欠けてきたという思いがあるので,現在はそちら側からの提唱をしている。

【委員】 「格差を埋める」というと,これまでの軸を前提に,低い人を押し上げようとするイメージがある。一方,他の軸を立てることが,むしろ格差を解消する方向ではないかという考え方もあるが,この点をどう考えるか。

【有識者】 現状として,学力と生きる力がややクロスに交差するような形で縦軸に立っていて,その高低によって子どもや若者が序列づけられている現状があるとすると,それを横に90度回転し,水平に近い形で並んでいる各分野でいろんな人が居場所や出番を見つけられるような教育システムを構築していくべき。特に,義務教育以降の教育段階において,各専門分野に立脚点を持ちつつ,それらが柔軟に伸び広がって互いに絡まっているような人材形成を実現していきたい。

【委員】 顕在的カリキュラムを組み立てることで,学校の持つ文化のような潜在的カリキュラムにも,インパクトを与えていくことが考えられるが,両者の相互の関係についてどのように考えるか。

【有識者】 求められたことを効率的にやる,秩序を乱さないといったことが,現在の学校に色濃い潜在的な文化になってしまっているとすれば,このような教育課程設計によって,それを打破してほしい。

【委員】 有識者の実験授業について,職業系の高校で試みた場合,どのような結果が出ると考えるか。

【有識者】 職業高校でこのような実験授業のようなことを行うとすれば,全く性質が違ったものになる。例えば工業高校であれば,工業の分野は既に教えられているため,例えば隣接する他の分野と工業がどう絡んでいるかといった,専門性を柔軟に広げていくような科目として構想する必要がある。

【委員】 職業的レリバンスは,社会科や,それを拡大したシチズンシップ教育等に十分含められるのではないか。むしろその方が良いのではないか。大部分の高校生にとって,職業というのは大学進学後の相当先の話。レリバンスといっても,それがカリキュラムとして定着したときに,遠い話でしかないのではないか。

【有識者】 社会科やシチズンシップ教育は,世の中について単に傍観者として知識を伝えるもののように私は感じているが,この実験授業では,自分が担い手として振る舞った場合にどういう考え方やふるまい方が必要になるのかということを伝える授業として作っている。進学校にとっては,実際に仕事につくまでに時間があるが,大学の学部選択などにおいては,将来の仕事をにらんだ上で選択してもらう方が真っ当であるとの思いから,職業的レリバンスを提唱している。社会科やシチズンシップ教育は近いものではあるが,一応は線を引いて考えたい。

【委員】 大学で保育者養成の仕事をしているが,就職が間近になると,初任給やキャリアパスなどのリアルな話を入れている。これらは必要な話ではあるが,学生の動機付けや,教育内容の関連が見えるようになることとは別の話。リアルな話については,仕事についてからでいいとの意見もあるが,どう考えるか。

【有識者】 リアリティに関する教育は,卒業間近に行うのではなく,早い段階から行う方がよい。職業の厳しい面に対して心の準備をしてもらいながら,よい面,悪い面,問題点を組み合わせた形で教えていくことが必要。

【委員】 教育は個人的なことだという点には非常に共感した。

 (2)新井健一先生(ベネッセ教育研究開発センター長)より,資料2「これからの社会で求められる人材,能力とその力の測定」について発表があり,その後,質疑応答が行われた。

【委員】 知識とスキルの関係について,知識は,簡単に言えば脳内の表現であり,スキルは,それを外界の活動につなぐものだと思うので,両者はつながっており,特徴は違うがいずれも必要なものである。スキルベースの考え方は,今回の学習指導要領改訂でもかなり入ってきており,今後重要になるのではないか。「ベネッセが考える必要な能力(2011)」について,情・意がもとになって自立する力や考える力を生み出す,という見方は,幼児教育に限らず,初等レベルでは重要であり,その成果は,小学校を中心として,今後の具体的なカリキュラムに生かされ得ると思う。また,体力についても,体を使うことと頭の中の活動とのつながりを扱った基礎研究はたくさん出てきたが,それを教育に移す作業はこれからであり,重要ではないか。

【有識者】 モデルの認識については御指摘の通り。体力と情・意の上にキー・コンピテンシーが乗り,全体としては重なりがあるように葉っぱの絵にしたという構造。

【委員】 日本版スキル戦略の提案について,言葉が乱舞している現状においては,スキルの構造化や測定可能な方法の開発が避けては通れない課題。そして,スキルの構造化にとどまらずに,これらを現場の先生方にいかに届け,実践を通じて具体化してもらうか,つまり,構造化する立場と現場における実践の立場との双方向の関係づくりの中で,スキルを整理していくことが大切。この点の具体的な段取りについて,どう考えるか。

【有識者】 はじめから,「○○力」というものではなく,どのような力かをまず文章で示し,そこから下位項目を作り,実際の発達段階の活動に落とす際は,更に狙いを絞るというように,段階を経ていかないと難しい。全体像を振り返りつつ,確認していくプロセスになる。

【委員】 キー・コンピテンシーの考え方は,総合的な学習の時間において育むべき資質・能力とほぼ一致している。DeSeCoの会議の中で,日本における総合的な学習の時間の考え方はどのように議論されたのか。総合的な学習の時間に深く関わってきた人間として,この言葉が発表中に出てこないのは残念に思う。【有識者】 総合的な学習の時間をあえて外したわけではないが,各教科の活動を通して横断的に身につけるものであるため,それだけを取り立てることはしなかったということ。

【委員】 参考試案の葉っぱのモデルについて,このようなモデルを考える際は,葉っぱだけでなく,花も実も茎も根も土壌もある中で,子どもたちのどのような力をどのように伸ばすかという視点から,モデル図を作ることが必要。このモデルでは,7つの能力がほぼ並列にしか見えないため,表現の工夫があるとよい。

【有識者】 モデル図は,成長していくイメージのもと,後ろに葉っぱを出しているが,よりよい表現があれば御意見を頂きたい。

【委員】 21世紀型スキルとキー・コンピテンシーの関係について,整理する動きはあるか。

【有識者】 国・地域によってそれぞれ異なるが,日本の場合は,両者を統合する動きについては聞いていない。

【委員】 ベネッセの試案について,これを使って今後どのようなことをされるのか。

【有識者】 今後の方向性を考える上で,本質的なところからの見直しにより,今の事業の領域に限られることなく,新たな領域が生まれてくるかどうか,という観点で使っている。

【委員】 スキルのような高度な認知能力を学力として位置づけようとすると,それをきちんと測っていこうという議論が出てくると思うが,明示的に測ることによって,測りやすい側面と測りにくい側面が出てくる。そうすると,最初に考えていたものが,測りやすい側面にずれていったり,測りやすさによって扱いの軽重に差が出たりというように,評価が結果的にカリキュラムや教育目標を左右するのではないかという意見があるが,どう考えるか。

【有識者】 御指摘は,パネルディスカッションの議論そのもの。21世紀型スキルはどのようなスキルで,どのように測り,育成していけば良いかほとんどわかっていない。測定は可能だが,忍耐と時間が求められる。

【委員】 測る道具によって,測ろうとした概念が逆に規定されるということもある。現場の実践には曖昧さがあった方が,自主性や創造性,豊かさが生まれることがあるが,測定を明示化することで,その可能性を失わせてしまうことはないか。

【有識者】 測定についての正しい理解が必要。評価のための評価ではなく,何のための評価なのかということに立ち返り,評価にはどのような限界があって,どのように読み取れば良いのかといったような能力を上げ,評価をうまく使えるような研修や勉強が必要。

【委員】 基礎・基本という言葉について,例えば,小学校第○学年で共通に指導する内容,あるいは共通に習得させたい○○のスキルのように言わないと,基礎・基本という言葉では論ずる人の思いがばらばらになり,どこまでが何の基礎・基本か混乱する。議論の際は気をつけて使いたい。

【有識者】 ワーディングをもう一度整理する必要がある。知識・技能というときの「技能」は,21世紀型スキルの「スキル」と同じことを意味するのか,より狭い意味なのか,また,基礎・基本という際も,すなわち知識だというふうに思われがちだが,試案のようにスキルと知識とのスパイラルとして考えると,基礎的なスキルという考え方もある。これらの定義やワーディングについて,再整理が必要と認識している。

【委員】 総合的な学習の時間の解説書を作った際,学会や学校現場における用語のとらえ方の相違について議論があり,国レベルで教育用語を整理する必要があるのではという議論を重ねたが,今後の課題として,再度そのようなことも考えていく必要があるのではないか。

【委員】 測定は,具体的にやろうとすることで,足りないところが浮き彫りになり,より進んだ測定・概念の明確化につながる。よって,常に測定そのものと概念とを照らし合わせて進化することを確認しておけば,測定によって明確化しようとすること自体が大切な行為なのではないか。コンテンツについて,スキルにしろ知識にしろ,対象や課題,内容とうまく組み合わせていかないと,細かくなってしまう。全体が包括的にとらえられるということを今後の方向として目指していくべき。

【有識者】 教育現場の先生方の間では,スキルや活用力をどのように考えたらよいかという話が多い。課題解決型の授業の中では,課題に対応した知識,スキルをどう使うかが重要になる。

【委員】 心理学では,ある課題に対する力をつけようとして,課題や対象が変わった際に,そこで得たスキルがどの程度転用できるかという,転移の問題が論争としてある。放っておくとなかなか転移は起こらないため,どのような働きかけによって転移を起こすかという点が,昔からの話題。コンテンツとの組合せの中で,スキル間の関係をどう図っていくかというあたりが,大きな問題。

【有識者】 例えば,授業の終わりに一言二言を加えて,子どもたちへの意識付けをするだけで,転用という点で差が生じる。このような繰り返しによって,転移を促すような設計,プロセスが必要。

【委員】 カリキュラム論では,コンテントサブジェクトとツールサブジェクトをめぐる議論がある。最近は,どうしてもファンクションにウエートを置き,中身や内容にウエートを置かない議論になっている。また,用語も非常に広がって使われており,改めて整理する際には,何を軸にして整理すればよいか。また,国が整理した方がいいのかどうかはわからないが,いずれにせよ,用語が乱れ飛ぶようなことは避けたいところ。

―― 了 ――

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