全国的な学力調査に関する専門家会議(第8回) 議事要旨

1.日時

平成25年3月4日(月曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省庁舎16階 特別会議室

3.出席者

委員

梶田座長、荒井座長代理、相川委員、池田委員、大津委員、小川委員、柴山委員、清水(静)委員、清水(美)委員、田中委員、土屋委員、野嶋委員、福田委員、堀竹委員、耳塚委員、山崎委員

4.議事要旨

(1)平成25年度全国学力・学習状況調査の準備状況等に関する報告

事務局及び国立教育政策研究所より,資料1~資料6に基づき、報告があった。

(2)その他

今後の全国学力・学習状況調査について、各委員から意見を頂いた。主な意見は以下のとおり。

  •  TIMSSの調査結果を見ると、保護者が子供の勉強に対して向ける関心が薄い。それが、数学・理科を使う職業に就きたいと思う子供が少ないことにもつながっているのではないか。これは、保護者自身が理数科目を苦手としていたためではないか。子供の勉強に対する意欲・関心を高めることも重要だが、保護者の意識を高めることも重要だと思う。保護者の調査をして、啓発につなげていただきたい。
  •  学力の向上に関しては、教師の質の改善も重要である。ただ、学校現場は非常に忙しい。現在、年間1,015時間の授業時間に部活指導もある。その改善も併せて進めていただきたい。
  •  全国学力調査はかなりのお金を使っている事業なので、いろいろな役割を負わせたいという考えも分かるが、調査とコンペ(競争)は違うので、もし競争的な要因を入れるとすると、現在の発想とは全く違ったシステム、問題作成から参加方法まで再設計しないと、競争的な要因を取り入れるということは難しいと考える。
  •  学力調査の活用はかなり進んできていると思うが、児童生徒の個人レベルでのフィードバックに関して、もう少し工夫ができるのではないか。自分の受け持っている子供たち一人一人の情報を生かして、よりきめの細かな指導に生かせる方法を是非研究開発していただきたい。
     TIMSSについては、国内の状況だけでなく、東アジア等の地域の結果について、もっと研究を進めていくべきだ。
  •  きめ細かい調査は、単に抽出調査から悉皆(しっかい)調査に変更したというだけではなく、本体調査が「指導のサポート」の役割、追加調査は、教育行政に資する「調査」というように役割分担されてきたという意義があり、今後更にブラッシュアップしていくべきだと思っている。「学力」の全てを数値で測ることはできないが、数値で測れる部分を無視するのではなく、数値で測れる側面と、そうでない側面の切り分けが必要となる。
     ただし、学力調査には、それがハイステークなテストになるほど、表面的な練習効果等で見かけの平均が上がっていく、いわゆるテストスコアのインフレーション現象があり、注目されすぎると有効な指標でなくなってしまうという矛盾を抱えている。その意味からも指導と調査の二つの機能は明確に分離すべきである。
  •  本体調査についての意見の第一は、学習指導や授業の改善ということを視野に入れて考えると、子供たちへ調査の結果が返却されるような形で調査を継続していくのは大変大事なことだと考えている。第二は、全国学力・学習状況調査が当初、国の教育を先導し、新たな地平を示すという意気込みでスタートしたことを思うと、次の10年、20年を視野に入れて調査を設計していくことが必要ではないかと考える。
     きめ細かな調査が実施されることとなり、例えば、経年変化をきちんと捉える仕組みが導入されたことは画期的であり、かなりの前進であり高く評価できる。今後は、さらに、例えば、算数・数学について全国調査でえぐり出された課題は、従前から懸案のものが一層顕在化されているので、この課題について小規模のサンプリング調査や小中学校に研究協力校を設け臨床的なアプローチを充実させるなどして、懸案を解決することに挑戦するもう一歩踏み込んだ新たなきめ細かな調査について検討され、加えていただきたい。
     最後は、国際調査の結果について、例えばTIMSS2011の結果でも、参加国との相対的な関係でいつも我が国の子供たちは教科やその学びへの関心や意欲が低いという結果が出ている。その状況を改善していくためには、例えば、関心や意欲が低い子供たちについてそれはなぜか、また、関心や意欲が高い子供たちについても同様にそれはなぜかを問い、いま一歩踏み込んだ調査の手法を開発し、世界に向けて発信することを視野に入れた対応を期待したい。それはなぜか。例えば、算数や数学やその学びが好きであると答えた子供たちでもその理由や動機が算数や数学の教育が実現を目指そうとしていることからして不適切であったとすれば喜ぶことはできない。逆に、算数や数学やその学びが嫌いであると答えた子供たちの中に、いつも計算やその練習ばかりだからとか先生の説明を聞いて後を追うだけで自分たちに考え工夫する機会を与えてくれないからであるという子供たちがいたとしたら、彼らの方が算数や数学の教育が実現を目指そうとしていることから見て一層適切であるといえる。そうしたところまで踏み込んで子供たちの意識の深層を解明する必要があると考える。そのための手法を開発し、それに基づいて改善している姿を世界に向けて発信することを視野に入れた調査に発展させてほしい。
  •  一つ目は、国内に限らず、TIMSSやPISAのような国際調査も含めた学力調査全般に関わる分析、あるいはデータの扱い等に関する専門的な組織が必要ではないか。例えばシンガポールの国立教育研究所ではTIMSSのデータの2次分析をするセクションがあり、PISAのコンソーシアムに入っているオーストラリアのACERという組織では問題の作成から実施、新しいシステムを導入する実験的な調査方法の検討等も含めていろいろ行っている。
     TIMSSの結果で日本は国際平均と比べて保護者が学校で習っていることを児童生徒には尋ねないという結果になっているが、韓国や台湾、香港、シンガポールあたりと比べるとどうなっているのか。そういったことも見えてきたら面白いと思っている。
     二つ目は、教育施策のPDCAのために調査が使われているが、調査がこれだけ長い時間をかけて進んできていると、調査自体のPDCA、整理整頓が必要な時期が来ているという感じもする。特に平成24年の学習指導要領の全面実施を受けて調査が行われているということは、この調査自体が学習指導要領の評価の役割を果たすような色彩を帯びている。これまでに明らかになった課題を更に細かく調べていくような調査も必要であると考えている。
     現場の先生方に対するメッセージを送るという部分と、きめ細かく調査をするという部分のすみ分けをどうするか。最近の小学校、中学校を訪問すると、学力調査の問題例や記述式問題の仕組み等々で先生方が議論できるようになっているという部分もあるので、そこも忘れてはいけない大事な要素である。
  •  一点目は、社会科をできるだけ早く実施できないかと考えている。追加教科の検討を早く始めていただきたい。
     二点目は、今までの本体調査の方法は、1問について30字ぐらいの記述問題になるが、400字とか何百字も書くような問題を出題する新しい方式が研究できないかなという思いがある。
     三点目は、資料に、各学校での公表の仕方や改善例が幾つか挙がっていて、大変興味深く思った。学校を指定し、PDCAの回し方、公表の仕方、ホームページでの公開のフォーマットの提案等について、学力調査の委員が入っていって、共同開発しても面白いと思う。
  •  全国学力・学習状況調査の1番の成果は、このような調査をして、データに基づいて、次のアクションへつなげていくことをする必要があるということをメッセージとして発信していったということかと思う。
     この学力調査は、始まった時には、いろいろな知恵を出して、工夫をしてきたわけだが、何度も実施していく中で、いろいろな足りない面というのも出てきた。その足りない面を補うために、例えば今回はきめ細かい調査ということで、追加調査というものを計画している。しかし、近い将来、今までの経験を生かして、一から設計をし直す必要があるのではないかと思う。そのときは、観点として、教科、経年変化、学年、全体としての変化だけではなくて、個人としての変化の把握、子供だけではなくて、学校の先生、あるいは保護者といった観点を含めて考える必要があると思う。
     今までは、学力の部分が主たる分析になって、児童生徒質問紙は、学力を説明するための変数的な扱いをされることが多かったと思うが、質問紙の結果というのも基準になるべきものだと思う。
  •  都道府県レベルの平均正答率を基に、都道府県が優秀である、ないとマスコミ等は言うが、これは、データの見方を誤っているのではないかと考えている。平均正答率の分布を見ると分かるが、低位層を上げるということにおいて成功している都道府県は、平均正答率が高い。大都市を見てみると、優秀な学校の層も非常に分厚くいるが、その逆もあるため、平均正答率で見ると、高くならない。
     指導者層のレベルというのは、学校によって本当に違う。優れた学校の先生の話を聞くと、学校の中に教員を育てる文化や仕組みがあることが分かる。
     多くのエネルギーを使った調査が、常に調査結果というだけで消費されていくのではなく、例えば欧米では8年研究というものもあるが、こういう調査をベースとして、教育改革を前提とした研究集団ができ、調査結果を基に教育改革を実行に移していくことが必要だと思う。
  •  学力調査について、安定した制度設計をきちんと国として示すべきだと思う。本年度は悉皆(しっかい)で、来年度は抽出だという予定でいたのに、来年度はまた悉皆(しっかい)になりそうだとかというのは、現場から見ると非常に分かりづらい。
     国の調査以外に、都道府県レベルでの独自調査もあり、その組合せの中で、実際には現場で様々な取組が展開されている。一方がふらついているようでは、都道府県、市町村の教育委員会が、それを補完する意味で何をすべきか、あるいは、主体的には何をすべきか、ということの方向性が見いだせない。また、一方で、全てが国の調査だけで賄えるわけではないので、都道府県等の独自調査をうまく組み合わせて、各現場で課題解決に当たるべきだという考えを持っている。
     科目や学年を増やすということに関して、現場が負担を感じるのではないかという意見がある。しかし、それは、このテストがどのような意義を持つのかということに関して、必ずしも十分な共通理解が図られていないのではないか。実施することに関して負担を感じるだけというのは、その先がないからだと思う。これまでも様々な形で情報提供してきたが、更にきめ細かく現場サイドが活用できるような情報提供をして、この調査を介して、例えば学力の向上を含めた教育改革の新しい方向性が見いだせるという思いを、現場サイドに伝えていけたらいいと思っている。
  •  小学校の教員は全科を担当するため、どうしても教員一人一人を見ると、得手不得手というのは出てくるのはやむを得ないだろうと思っている。それを改善していく、伸ばしていくのは、やはりそれぞれの学校の教員の育成機能がどう働いているかによる部分というのは非常に大きいだろうと思う。それが結局、学力調査の結果にも反映されてくるという中で、学校のそのような状況も踏まえた形で、調査の分析ということも今後は必要になってくるだろう。
     それから、最近の新卒採用の教員を見ると、理科の実験が苦手、そして体育の指導に自信がないというようなことで、教員としてスタートする前に、行政が研修をしなくてはいけないというような実態がある。こういうことを考えると、大学の教員の育成システムそのものにも実は大きく関係してくるのではないかなと個人的に思っている。そのようなことも分析、議論していただきたい。
     もう一つは、今、学力を上げるということは、学校における大変大きな命題になっている。国レベルの学力調査、場合によっては都道府県、さらには市区町村というようなことで、年間で何度も、調査が実施されており、結果を生かす前に、調査に対応することで現場が疲弊をするという状況は、本来の趣旨からすると、違うのではないかと感じている。そういった意味で、もう少し、国、都道府県、市区町村のレベルでの学力調査の在り方ということを、大きく整理をしていく時期に来ているのではないかと思っている。
  •  ここ2年ほどのきめ細かい調査の枠組みをめぐる議論の段階になって、ようやく1段階次のレベルへ行こうとしているというところまで来られたと思っている。年度ごとに調査の実施方法を検討するのではなくて、複数年をまとめてセットで考えるという発想も出てきたし、質問紙には分冊方式も導入された。また、より政策目的に即した調査であるとか、時系列的な学力の変化が今後可能になるような調査も導入されつつあるということから、一定の成果があったのではないかと思う。
     しかし、まだ全く完成形からはほど遠く、これからもっと進歩していかなければならない課題があるだろうと思う。教科も一部に限定されているし、高校段階ではまだ何もない。測定の方法もペーパーテストのみに依存している。テスト理論の導入もまだめどが立っていない。さらに、行政施策の効果の検証という観点から見ても、教育委員会調査もこの4月に初めて実施されるといったことで、まだ緒に就いたばかりだと思う。
     悉皆(しっかい)調査へのニーズは確かに大きなものがあるということは理解しているが、財政上の問題もあり、3年に1度程度実施し、悉皆(しっかい)でない年にいろいろな準備的な調査、特定の課題に関わる調査、実験的な調査を組み合わせ、あるいは分析を深めることが必要ではないか。
  •  一つは、25年度予算の理数関連施策について、小学校の理数科の専科の充実というのは大切だと思うので、400どころか4,000人、各学校に最低一人は要るのではないだろうかと思う。
     もう一つ、調査結果の分析と活用についてだが、データに基づいて指導の改善を図るというのは非常にすばらしいことだと思う。学校レベル、教育行政の現場でもそういう取組がなされているが、まだまだ不十分である。都道府県によっても濃淡があり、もっとそれを推進していく必要があるのではないか。
     PDCAのチェックからアクションにどうつなげていくかということがポイントだと思う。今日も配付資料にいろいろあるが、面白い取組があると思うので、各都道府県の教育委員会の担当者の方が経験を共有することをもう少し拡大していったらいいのではないか。
  •  一点目は、この専門家会議というのは、いろいろ名前を変えて、これまで発展してきたが、今日の各先生方の議論を伺っていて、そろそろサブグループに分かれて議論できる時期にやってきたのかなという気がしている。まず、政策のための調査として、国・地方といった行政の各段階別の調査をどういうふうに役割分担をしていくのか、それから、試験アイテムの一つ一つを含めて、学力調査の方法として、より目的に沿った形で精緻化していくということ、さらに、それを学校現場での個別学習指導にどういうふうに生かしていくかという、大きく三つぐらいのサブグループに分けて、これを更に練り上げていくということが可能な時期にやってきたと感じた。
     二点目は、本体調査をほぼ毎年やっていくことについて改めて検討するべき時期に来ていると考えている。例えば本体調査というものを、3年、4年のインターバルで実施し、その間の2年、3年というところで、理科や社会等の試みを行うことも考えられる。ただ一方で、ようやく導入された時系列的な経年変化の調査については、毎年やっていく必要がある。
     三点目は、現在、中央教育審議会の高校部会で、高校で達成学力の共通調査をやることが議論されているようであるが、これは可能な限り全国学力調査の枠の中に引き込んだ形で、実施されることが望ましいだろうと考える。それは、小学校、中学校の調査をこれだけ積み上げてきて、中学での教育の上に積み上げて行われる高校のところで、最終的に学校教育というものは何を達成できたかというところに、様々な調査的な可能性が埋め込まれていると感じているからである。日本が非常に優れた小学校、中学校の教育をやってきて、それが後期中等教育にどういうふうにつながっていくのかということを、質的保証の中で論じていくことが重要なことだと考えている。

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