暴力行為のない学校づくり研究会(平成22年度)(第2回) 議事要旨

1.日時

平成22年8月27日(金曜日)13時30分から15時30分

2.場所

文部科学省5階3会議室

3.議題

  1. ヒアリング
  2. 協議

4.出席者

委員

尾木座長、石橋委員、桶谷委員、木村委員、佐々木委員、筒井委員、萩原委員、三坂委員

文部科学省

郷治生徒指導室長、井上児童生徒課課長補佐 他

5.議事要旨

開会

議事

(1)ヒアリング

・セカンドステップの実践(品川区教育委員会)

・小学校における生徒指導の実践(公立小学校副校長)

(2)協議

・セカンドステップの実践(品川区教育委員会)

【委員】 道徳教育の領域になると思うのが、市民科という新しく創設した教科の中で、こういったスキルトレーニングと道徳教育はどのように絡み合ってカリキュラムされているのか。

【ヒアリング対象者A】 相互理解のところで、「自分の気持ちを表現し相手の気持ちに共感し、お互いに理解し合い、思いやりのある環境を作る」というのが基本である。したがって、道徳的な要素をまず教える。その子がいかに大事なのか、人がお互いを尊重することがいかに大事であり、仲よくなることによって、どれだけ自分の世界が広がるのかということを教える。

 あくまでもスキルというのはそれを実現するための技術の体得であって、まず基本は、そのことの重要性、必要性という価値をしっかり身につけて、考えてもらいたいということである。

 したがって、私たちのねらいどおり市民科をやられた学校からは、アンケートをとると、「自分のことをたくさん考えるから好きだ」という答えと、「自分のことをたくさん考えなきゃいけないから嫌いだ」という答えが返ってくる。

【委員】 20時間のカリキュラムの中で、「この時間は内面的な資質を養う時間だ」とか「ここは行動様式を養う時間だ」というように分かれているのか。それとも、1時間の中で内面化を図る時間と行動様式を教える時間という形になるのか。

【ヒアリング対象者A】 1時間の中で、まず前提で内面的な問題をやりながら技術、ロールプレーでそれを実際にやっていくなど、1時間、今の45分の中で全部組み込みをしている。もともとは10分、20分単位で毎日やるようなプログラムだが、日本の学校教育の時間割りではうまくいかないということで45分の中で凝縮してやっているというのが今の現状である。

【委員】 この20時間のカリキュラムが年間指導計画の中にどう位置づくかということは、教育委員会としてモデルを示しているのか、あるいは、そこは全く学校にゆだねているのか。また、保護者の方々から、何か反応があれば、教えてほしい。

【ヒアリング対象者A】 モデルは示している。教育委員会で示して、「こういう方法でやってください」とお願いしている。ただ、とにかく子どもが納得するまで、身につくまでやってほしいと学校には話をしている。

 保護者の方も大変喜んでいる。市民科はなるべく保護者を巻き込みたいということで、授業に保護者にも参加してもらって、ロールプレーの相手になってもらったり、子どもたちを指導する1つの役割を果たしてもらったりするなど、参加してもらっている。公開講座、授業公開をやっても非常に反応はいい。もっと家庭に持ち込めるように考えなければいけないと思っている。

【委員】品川区では、まず小学校1、2年生からスタートしているということだが、シアトルのNPO法人がつくられた教育プログラムというのも同じように小学生を対象としたものなのか、あるいは中学校まで含めてつくられているものがあるのか。小学校よりも中学校でプログラムがあったほうが効果があるのかなと感じたので、お聞きしたい。

【ヒアリング対象者A】 コースが4つあって、日本で翻訳されているのは1と2しかない。1が4歳から8歳用で、2が6歳から10歳用で、3が8から12歳用、4が10歳から14歳用という形で、国によっては、このコース2を中学生にやったりしているところもあるらしい。現在、効果が上がっているのは児童相談所だと聞いている。児童相談所で課題のある子どもたちにこのセカンドステップを導入することによって、かなり子どもたちの怒りのコントロールについては効果が出ているということで、かなり多くの児童相談所で採用されていると聞いている。

 教育委員会や学校全体でやっているのは品川区しかないが、幼稚園、保育園で部分的に導入されており、児童養護施設などでも効果的だというのはいわれているので、中学生にも効果的なのかもしれない。

【委員】 現在、特に問題行動を起こす子で、発達障害とかを抱えた子どもたちがいると思うが、そういう子どもたちに対してのプログラムは特にあるのか。それとも一般的に同じような形で指導されるのか。

【ヒアリング対象者A】 発達障害のある子については、子どもによって千差万別のことがあるので、学習支援員という別の研修を受けた人間をつけている。セカンドステップは全員に行っているが、それとは別のプログラムで、その子に応じたプログラムを学習支援員と一緒に対応していくようになっている。

【委員】プログラムの目標を達成したかという評価を行うのか。それから、個別的な子どもの違いに応じたかかわりが工夫されているのか。

【ヒアリング対象者A】 セカンドステップだけではなくて、市民科全体の教科としてやっているので、ABC評価はしないが、何ができて何ができないのかというのは1人1人、はっきりと評価する。個々人を評価しながら進めているので、個に応じたフォローも意識して進めることができている。

・小学校における生徒指導の実践(公立小学校副校長)

【委員】 発達障害を抱えている児童に対する先生側の理解は、どういう理解のされ方をしているのか。

【ヒアリング対象者B】 特別支援教育コーディネーターを中心に研修をしたり、「こういうときはこういう対応」など勉強している。

【委員】 保護者の支援という場合に、具体的にどのような形で学校に来てもらって、どんなところを支援してもらうのか。それから、そのときにどんな話し合いがなされるのか。

【ヒアリング対象者B】 まず、学級でいろいろ問題が起こる。それを教師が静めようと対策を立てて手だてを打つということはもちろんやる。それでも手に余ることは出てくるので、管理職、生活指導部でも話し合って、いい手だてはないかと考える。それでも、だめで、保護者の力を借りたほうがいいんじゃないかという話になれば、そこで緊急の学級または学年単位の保護者会を招集する。学校側の出席者は管理職と担任、または学年である。そこで「こういう状況で困っているんですよ」ということを保護者に素直に話す。そうすると、いいクラスにしたいというのは保護者は願っているので、そういうことだったら協力しましょうということで、本校でやったのは、とにかく来られる人が来るというパターンをやった。仕事を持っている保護者の方は非常に多いですから、仕事がない日に学校へ行って、見守るということをやるようにした。

 しかし、どうしてもいないところは、先生方、事務員さんなど、とにかく大人が教室へ入って後ろで見ている、何かあったら手助けをする、そういう体制を整えていた。

【委員】 受験のストレスのある子どもへの具体的な手だてや、家で暴力を振るわれる、いわゆる虐待という暴力に対してあまり規範意識を持っていない子どもたちへの具体的な取り組みというのはあったか。

 また、いわゆる遅刻が減ったり、あいさつができるようになったり、立ち歩きが少なくなってきたというように、後天的に変わるときに、例えばクラスであるとか学年であるとか学校全体であるとか、「あいさつをしっかりやりましょう」とか、「うちの学校はこういった、いわゆる運動に力を入れましょう」とか、「100升計算で頑張ってやりましょう」とか、みんなで手をつなぎながら一生懸命やって、「やった」という充実感なり自尊感情が高まるような取り組みを何かなされたことがあれば聞きたい。

【ヒアリング対象者B】 受験のストレスについては、保護者にも「家庭でも見てください」と言うこと、授業中にもその子たちに聞くチャンス、教えるチャンスを出したり、楽しく取り組めるようにするなどして、受験のストレスは減ったと思う。

 あとは、バスケットとかサッカーとか、体を目いっぱい動かすことで発散させたこともあった。

 保護者が日常的に暴力を振るうというのは、児童相談所へ相談することもあった。その子と一緒に遊び、最初はその子を中心に数人ずつ入れて遊びの輪を広げていって、ルールを破ると「だめだよ」と教えながら、接したことがある。

 あいさつなどの目標だが、最初から「あいさつを全員できるようにしよう」ではなく、小さなステップにしたことがある。今の学校でも、あまり高い目標を置かないように、1つずつ認めて、1つできたら認める、2つできたらもっと認めるということなどをやったりした。

【委員】 今、小学校段階で、保護者同士が問題を起こす子どもがいると、親も子どもも「あの子がいるから、この学校はだめだ」となってしまう。つまり、昔ならば、「地域の子どもなんだから、みんなで面倒を見よう」という雰囲気があったが、最近は、例えば、学級崩壊でもすると、学校選択制である場合には中学段階になると、親同士が「あの子がどの学校に行くから」という情報を交換して、その子を外して、みんながあちこちの学校に行ってしまうことがある。そういう現状を感じられているか。

 親同士が教育しながら、見回りをやっているという話だが、どのようにもっていけばそういうことができるのか。

【ヒアリング対象者B】 保護者の問題は、本当に難しい。最近は、子どもも個が多いが、保護者も仲のいい数人はグループ化するが、クラス全体で特に若い先生を盛り上げていこう、クラス全体でフォローしていこうというのは弱くなりがちである。

 だから、「そうじゃないんですよ」と親にも話して聞かせる、それから、「この部分は保護者の方にお願いすること」「この部分は学校でやること」という形で明確にしていくことで、1つでも2つでも保護者の協力を得て、少しずつ子どもたちもよくなっていく部分があるんじゃないかと思う。

 今は働いている人が多くて、自分の時間がなかなかとれない、親子で触れ合う時間も少ないということもあって、ますます関係が希薄になっていくんじゃないかと思う。

【委員】 暴力行為のない学校づくりというこの研究会での一番基本のところは、学校の指導対応組織をどう確立していくかが1本の柱であり、もう1本は、個に応じる指導をどう進めていくか、その基本線が明確になったと思う。

 家庭・地域との連携をどう図るか。特に親とのかかわりをどうするかということが今、改めて非常に大きくクローズアップされてきているように思う。

 それから、もう一つ、個に応ずる指導というところで最近強く意識されてきて、特に発達障害等の課題を抱えるお子さんが非常に多くなってきていて、そのお子さんとのかかわりで暴力行為をどうとらえるかということが大きく課題になってきている。

【委員】 高校1年生ぐらいだと、男子は女子の言葉のほうには負けてしまう。言葉であるとか何かを言われると言い返せないという部分がかなり多い。ところが、3年生ぐらいになると、今度は男の子が理論立ててきちっと話して変わってくる。発達段階の部分が大きいと思う。

 小学校でも6年生ぐらいになってくると、言葉で女の子が言うと、それに男の子が対応できなくなってきて今度は力でという部分があると思う。

 小学校段階ですから、発達障害という部分もありますけど、自分をうまく表現できないなど、それ以外のところも大きいと感じる。

【委員】 小・中・高・大、あるいは就学前の幼児期からの発達課題とか教育における課題が未達成のままで、それが暴力行為に結びついているという側面は見逃せないと思う。

【委員】 第一に挙げたいのは、子どもたちのしっかりした基本的生活、規律、習慣をきちんと身につけさせていく。学校の課題とすれば、学校の集団生活の規律が予防的な取り組に展開されると最近感じている。

 それから、できる子どもたちの暴力の問題がある。特に過度に教育熱心な親が子どもをだめにしているという事例が見られる。

 発達的な問題、困難を抱えた子どものほかに、生活習慣規律、養育ネグレクト、もう一つ、極端に逆に熱心にし過ぎて子どもをだめにしているという背景が読み取れてくる。

【ヒアリング対象者B】 現在、医学のほうが進んできて、発達障害とされる事例が多くなっていることは確かだと思う。それに対して、どのように対応できるか、そういうのを学級担任だけでなく、学校の先生全体がそういう子にどう対応するのかということをやっていく必要があると思う。

 生活指導で生活リズムチェック表というのをやったことがある。寝る時刻を書かせて、朝ちゃんと起きたかどうか、朝の排便とか食事とかあいさつなど基本的なことを1週間~10日ぐらい○×△ぐらいを保護者にどうだったか書いてもらって学校へ出す程度だが、「保護者もそういう目で見てください」という形でお願いすることで、家庭の教育力も少しずつアップしてする。考察までやっていないが、生活リズムチェックと暴力行為についても関係があると考えている。

【委員】 子どもの成長が非常に早くなってきているので、従来6年生の切り目が、今は4年生から5年生にかけての切れ目になってきているような兆候がある気がする。5年生、6年生になると、従来、1年生から4年生までで指導していた指導パターンが通じていかないというところはあると思う。

 小学校というイメージだと、ある程度教員のほうで厳しく指導すれば、子どもは言うことを聞くというイメージがあるが、5、6年生になると、そうはいかない。また、中学校の先生のような毅然とした対応がとることも難しい現実がある。

 幼稚園と小学校、中学校との連携、一貫制も含めながら、ある程度子どもの成長に応じた体制も考えていかないと難しいところあるという現実を感じている。

【ヒアリング対象者A】 5年生、6年生になると、いつまでも子ども扱いにしているというのが子どものストレスにつながっていると考えている。

 また、基本的に家庭自身のいろんな課題がそのまま子どもに反映していると思っている。人間関係づくりをうまくできない。親自身がうまくできない、もしくは極めて利己的な考え方を持った保護者も多いので、何か要求が実現しないとキレてしまうというところもあると思う。

 基本的な生活習慣はちゃんと家庭でしっかりやってもらうというところから始めないと

だめだろうなと思う。人間関係でいうと、逆にキレる子どもたちが孤立してしまっているということである。したがって、周りの子どもたちがその子にどう対応していいかわからないので、ますます孤立していくということがあると思う。ルールづくりができない。その子だけじゃなくて、周りの子どもがその子にどう接するかということで、その子を孤立させない。怒ったときにも、無視したりではなく、「いや、それはそうじゃなくて、こういうふうにしたほうがいいよ」と子ども同士でやっていけるような関係をつくらせていきたい。時間をかけて、子どもたち同士でルールづくりをしながら、体感させていくことも重要と思う。

【委員】 小学校であろうと中学校であろうと、学級なり1つの集団の中で起こってきた問題をすべて1人1人の子どもに考えさせて、フィードバックして、そして1人の問題をみんなの問題で考えていくという姿勢が、「支えられている」とか「自分は1人ではない」という孤立を防いでいくことになると思う。

 教師や管理職が忙しさの中で、そういうことを求めていかないという風潮になりつつある。だから、もう一度、集団の中で子どもが育っていくんだということを考えていく必要があると思う。

【委員】 今のキレる子どもは、「自分は大事なんだ」とか「自分が感じることに意味があるんだ」ということをほとんど感じられない子がすごく増えている。自己肯定感、自尊感情ということについて、もうちょっと学校として本格的なかかわりを考える必要があると感じている。

【委員】 中学校では、非常に学級経営に力を入れる先生が減ってきている。学級活動とか学級経営にかかわろうとする先生が減ってきている。これは中学校の場合は明確である。

学級担任なり学校全体の生徒指導の取り組みの弱さが、暴力行為が複雑な形になっている原因となっていると感じる。

【委員】 小学校に目を向ける前に、就学前の状況で、どういう養育状況にあったかという側面を個別の事例で積み重ねていくと、ある種の共通点が見えてくる。

 一つ非常に強く感じているのは、非社会性ということだと思う。例えば、子どもたちがそれぞれ年齢、発達段階で経験する遊びが非常に変化してきている。例えば外遊びが減って、室内遊びが増えて、遊びの人数が減って、なおかつ同年齢の遊びが増えているという状況を組み立てていくと、以前は遊びを通じて経験していたことが、今の子どもたちは経験できなくなってきている、身についていないという状況がある。結果として、非社会性という部分にやはり結びついてくる。子どもたちに具体的にスキルを学習させる、身につけさせるということが、今の現状ではやはり求められていることだと思う。スキルを具体的に学ばせていくことが学校教育の中で求められているのではないかと、ここ数年、感じている。

【委員】 児童相談所で虐待事例の事例を見ていくと、親自身が非常に孤立している。親自身も自分の養育に自信を失っているし、親自身が自尊感情が非常に低い。これをどう回復していくかということは、今後、大いに研究していかなければならないと思う。

【ヒアリング対象者A】 親育ちの絡みで言うと、生まれてから子どもに対してどう育てればいいかというカレンダーを、出産した親御さんに配って、実際、こういうときはどう対処すればいいかということを訪問したりしてやっていこうとしている。

 小学校だけのポイント、中学校だけのポイント、そういう個々のポイントだけとらえていてもなかなか解決しないんではないか。その意味で横断的に組織的に子どもを一貫して育ちを保証していくのかということを考えていくことは大変重要だろうと思う。

その中でそれぞれの段階に応じたスキルトレーニングを親ができないんであれば、替わりに誰かがやるようにしていかないといけないと思う。そこに躊躇があってはいけない。それぞれの段階でしっかりと連携してやることが大変重要という気がしている。もっと家庭にどう踏み込むかとかということも考えなければいけないと思う。

【委員】 1つは、子どもたちの中に潜む攻撃性であるとか、非社会性ということが背景にあって、そうしたことを視野に入れた学校における指導開発。その一つにスキルトレーニングが位置づく。今後、この研究会の中で協議を深めていって、提言の中にどう盛り込んでいくかというのは一つ重要な点であると思う。

 それから、家庭へのアプローチであるとか、指導体制づくりをどうするかということは、もう一本の柱として、これから協議が深められることになるだろうということが今日の話の中からくみ取れたかと思う。   

閉会                                                                            

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初等中等教育局児童生徒課生徒指導室