資料2地域とともにある学校(仮)づくり(仮題)(素案)

地域とともにある学校(仮)づくり(仮題)(素案)

議論の背景と問題意識

1.とりまとめにあたって

  • 学校と地域の連携は、これまでも、主に「地域に開かれた信頼される学校づくり」、「地域全体で学校を支援する体制の構築」といった観点から、教育改革の柱の一つとして推進されてきた。
  • 平成18年に改正された教育基本法において、学校・家庭・地域住民等の相互の連携協力に関する規定が盛り込まれたことを受け、教育振興基本計画(平成20年7月閣議決定)では、「地域ぐるみで学校を支援し子どもたちをはぐくむ活動の推進」、「家庭・地域と一体になった学校の活性化」等、学校と地域の連携施策を推進していくこととしている。また、新学習指導要領総則では、「学校がその目標を達成するため、地域や学校の実態等に応じ家庭や地域の人々の協力を得るなど、家庭や地域社会との連携を深めること」とされている。
  • このように、学校と地域の連携は、教育施策の中心的な柱とされており、本会議では、こうした流れの中で「今後の学校運営改善のあり方」を捉え、学校運営のさらなる充実・発展のための議論を進めてきた。
  • そのような中、東日本大震災の発生とその後の復旧に向けた営みは、本会議の議論にも大きな衝撃を与え、教育論からの学校と地域の連携にとどまらない、「学校と地域の関係」が問われているのだとの認識を共有することとなった。
  • 被災地では多くの学校が避難所となり、子どもの学びの場としてだけではない、地域の礎(砦)としての学校が確かに存在していることを目の当たりにしたとき、学校は地域において最も安全で安心できる場所でなければならず、平素から地域とともにその場所づくりを進めていかなければならないと確信した。
  • 学校が地域に根ざし、地域の礎となっている例は、被災地の学校にとどまらない。このような例は、平素からの学校と地域の関係づくりが、子ども、保護者、地域住民、教職員など、そこに関わるすべての人々の自発的な学びや成長を促し、ひいては、子どもたちを守り、地域を守ることにつながることを示している。
  • 本会議での議論を端緒として、学校のあり方を見つめる取組が展開され、今後、すべての学校が、地域社会の中で役割を果たし、地域とともに発展していく存在となっていくことを期待する。

2.子どもを中心に据えた学校と地域の連携

  • 学校(特に義務教育段階)は、すべての子どもが自立して社会で生き、個人として豊かな人生を送ることができるよう、その基礎となる力を培う場であり、子どもにとって学校は、生活の一部と言える場所である。また、このことは、地域から見れば、学校は地域社会の将来を担う人材を育てる中核的な場所ということであり、学校は地域社会の中で重要な役割を担っている。
  • 子どもの「生きる力」は、多様な人々と関わり、様々な経験を重ねていく中でよりはぐくまれるものであり、学校のみではぐくめるものではない。加えて、近年の社会の変化に伴い、多様化・複雑化するニーズに学校の教職員や行政の力だけで対応していくことは困難となっており、学校が地域社会においてその役割を果たしていくためには、地域の人々(保護者・地域住民等)の支えが必要となっている。
  • さらに、学校の裁量拡大が進められてきた教育改革の流れの中では、公費で運営される公立学校をモニタリングする主体として、保護者・地域住民等の学校関係者が学校運営に関わっていくことも重要となっている。
  • また、子どもを育てる中では、保護者は家庭教育の責任者として、地域住民は地域教育の担い手として、それぞれの責任があり、子どもたちをどのように育てていくのかについて、学校に求めるだけではなく、当事者として自分達の持ち場で積極的に関わっていくという意欲が求められる。
  • 学校と地域の関係は、子どもを中心に据えて、家庭とあわせて三位一体の体制を構築し、子どもの成長とともに、教師や保護者、地域住民等がともに学びあいながら人間的な成長を遂げていくという姿が理想である。その理想を実現していくためには、まずは、それぞれが共通の目標のもとに、一緒に歩み出すことから始めなければならない。
  • 子どもたちの豊かな育ちを確保するために、すべての学校が、地域の人々と目標(「子ども像」)を共有した上で、地域と一体となって子どもたちをはぐくむ「地域とともにある学校(仮)」となることを目指すべきである。

3.「地域とともにある学校(仮)づくり」の促進

  • 学校と地域の連携は、新しいテーマではない。教育基本法には、学校・家庭・地域住民等の相互の連携協力に関する規定が盛り込まれており、また、これまでも、「地域に開かれた信頼される学校づくり」、「地域全体で学校を支援する体制の構築」といった観点から、様々な施策が推進されてきた。今では、地域の実情にあわせ、学校運営協議会制度や学校支援地域本部事業などを活用し、学校と地域が連携した取組が盛んに行われている。
  • その一方で、システムの導入を先行させたために活動が形骸化している例や、人材面、財政面から活動の継続性・安定性に対する懸念が指摘されている。また、子どもたちの育ちは学校単位でおさまるものではなく、地域における子どもの育ちは、学校段階をこえて捉えていくことが求められる。このため、学校単位での取組から発展し、学校段階間の接続や連続性の確保に留意して学校運営を捉えていくことが必要である。
  • さらに、地域社会の中では、学校は「子どもの育ちの場」以外の側面も有している。学校に関わることを通して、地域の大人が成長する場(大人の学びの場)となりうるし、学校が地域の活動拠点となることで、地域コミュニティが結びつきを深める場(地域コミュニティの核)ともなりうる。「地域とともにある学校(仮)づくり」を考える上では、こうした学校の可能性も視野に含めることが必要である。
  • 現状において、理想と現実の間にギャップが存在することは事実と言わざるを得ない。しかし、存在するギャップを埋め、学校と地域の関係を理想的な姿へと近づけるものは、各地域・学校の自発性に基づく具体的な行動であり、具体的な行動を後押しする国の施策の推進である。
  • 本会議では、今後、「地域とともにある学校(仮)づくり」が促進されるよう、目指すべき学校運営の姿とともに、実現に向けた今後の推進方策をビジョンとして提案する。

 

「地域とともにある学校(仮)」

1.目指すべき学校運営のあり方

学校と地域の人々との間での目標の共有

学校と地域の人々が一体となって子どもを育てていくためには、まず、学校と地域の人々が、地域の子どもたちの実態について認識を共有した上で、地域でどのような子どもを育てるのか、何を実現していくのかという目標(「子ども像」)を共有することが必要である。その上で、教職員、保護者、地域住民等がそれぞれの役割と責任を果たしていかなければ、一体感は生まれない。
目標を共有していく際には、当事者間での納得のプロセスが不可欠であり、一方からの押しつけとならないように留意しなければならない。

地域の人々の学校運営への参画

次に、共有した目標に向かって、ともに活動する場が必要である。子どもを中心に据えた学校と地域の人々の「協働」の中核となる場として、学校での教育活動や学校運営への地域の人々の積極的な参画が求められる。
教職員、保護者、地域住民等が、共有した「子ども像」を実現するため、それぞれが果たすべき具体的かつ明確な目標を設定し、チームとしてそれに向かって前進している実感があるときに、人的・物的資源のマネジメントの意識、目標と達成状況の評価を踏まえた実りある議論、当事者意識に基づく高いモチベーションが生まれ、学校はより良く発展していく。

学校運営に備えるべき機能

こうした学校運営を実現していくために、これからの学校運営には、以下の機能を備えることが必要となる。

  • 関係者が当事者意識を持って「熟議(熟慮と議論)」を重ねること
  • 学校と地域の人々が「協働」して活動すること(と役割分担の明確化)
  • 学校が組織として力を発揮するための「マネジメント」

1.関係者による「熟議(熟慮と議論)」

学校と地域の連携のあり方は、学校と地域の人々との「熟議」により、その地域にあったものを自発的に作っていくという形が望ましい。
そのためには、協議の過程が最も大切であり、関係者が「熟議」に参画しやすい仕組みの構築が不可欠となる。「熟議」を重ねることで、学校と地域の人々との相互理解が進み、課題や目標の共有が図られることになる。そのプロセスは、当事者意識の醸成を促し、一体感を生み出す効果を持つ。その過程において、行政には、地域の人々のニーズの調整や環境整備といったサポートが求められる。

熟議の内容例
  • 学校の教育目標(子どもたちに何を身につけさせたいか)
  • 学校と地域の人々との役割分担(学校は何に責任を持ち、地域の人々は何を行うのか)
学校運営に参画する仕組みの例
  • 学校運営協議会
  • 学校関係者評価委員会
  • 学校説明会、関係者連絡会等の形で開かれる意見交換の場 等々

2.学校と地域の人々との「協働」

地域の人々による参加的な取組、学校を支援する取組や学校との協働活動を通じて、そこに関わった人達が学校の実態を理解し、コミュニケーションが促進されることで相互の理解が進む。
そのためには、まず学校から地域の人々への積極的な情報公開が重要となる。

参加的な取組の例
  • 授業参観、学校行事の公開
  • 学校ボランティア、学習支援、ゲスト・ティーチャー 等
学校と地域が協働する仕組みの例
  • 学校運営協議会、学校関係者評価
  • 学校支援地域本部、放課後こども教室 等
積極的な情報公開の例
  • 授業参観、学校だよりの発行、地域広報紙の活用、学校ホームページの開設等のICT活用 等

3.学校の組織としての「マネジメント」

学校と地域が連携するためには、それを上手く進めていくことができるマネジメントが求められる。とりわけ、学校運営の責任者である校長には、地域の人々や教職員の声を汲み取った意志決定を行い、具体的な目標設定とその実施状況の評価に基づいた行動を行う強いリーダーシップが期待される。
また、継続的な取組を行うことや多くの地域の人々の参画を促していくためには、特定の個人が頑張るのではなく、学校と地域の人々が全体として目標を共有し、役割分担を進めながら、取組にふさわしい組織的な体制を構築していかなければならない。特に、コーディネーターの役割が重要となる。

校長に求められる力の例
  • 地域のマネージャーとして、地域の人々の声や願いを実現させることができる力。
  • その時々に必要な人たちを集め、人的資源の管理や時間の管理とともにリスク管理を行える力。
  • 学校という学びの場を大切にし、すべての関係者の学びの場として経営できる力。

2.「地域とともにある学校(仮)づくり」により得られる成果

  • 子どもを中心に据えた学校と地域の連携は、子どもの育ちにとどまらない、大人たちの学びの拠点を創造し、地域の絆を強め、地域づくりの担い手を育てていく。

1.子どもたちの「生きる力」をはぐくむことができる(地域の望む子ども像の実現)

  • 多様な人々との交わりの中で、子どもの社会性の育ちなどが生まれる。
  • 地域の大人からほめられることにより、やる気の向上や重圧からの開放など、心の安寧につながる。
  • 地域の人々に支えられて学んでいくことで、地域への愛着が芽生える。

2.教職員、保護者、地域住民等がともに成長していく(地域の教育力向上)

  • 地域の人々との交わりで得られる多様な経験が、教師としてもっと豊かな指導力の発揮につながる。
  • コミュニティ・スクールも学校支援地域本部も、教育や子どもの成長に責任を持つ人たちが増えるプロセスとなる。
  • 様々な関係者との関わりを通じて、教職員、保護者、地域住民等もともに学びあいながら人間的な成長を遂げていく。

3.学校を核として地域ネットワークが形成される(地域の活力向上)

  • 学校への関わりを通じて、地域の人々同士がつながり、子どもが学校を卒業した後も保護者が地域に関わっていく流れができれば、地域の活力もあがっていく。
  • こうした関係が、「地域づくりの核となる学校」へとつながっていく。

4.地域コミュニティの基礎力が高まる(地域の礎の構築)

  • 地域の大人たちが、学びあいを創造していくプロセスを経て、当事者意識をもった市民として、地域づくりの担い手となっていく。
  • 地域全体としての「生きる力」の高まりや平素からの学校と地域の人々の強いつながりは、震災などの有事の際に「コミュニティの力」として顕著にあらわれる。

3.学校の可能性(「地域づくりの核となる学校」)

  • 東日本大震災において、学校は避難所として、避難生活を支える地域の拠点となった。また、子どもたちの存在が、周りの大人たちの生きていく心の支えとなっている。過去の震災時においても同様の光景がみられたところである。
  • 日本の公立学校は、全国どこの地域にもあり、優秀でまじめな教員が配置されており、震災時の避難所としての機能にとどまらず、全国で地域社会を支えるインフラとなっている、世界でも画期的なシステムと言える。地域に根を張り、地域の礎となっている学校は、地域の教育力向上や学校を核とした地域ネットワークの形成といった形で、地域づくりに貢献することが可能である。
  • すでに、地域によっては、学校の有する物的・人的資源やネットワークを活用して地域づくりに取り組んでおり、学校が地域づくりの核として機能している例が見られる。こうした地域では、学校を核として地域の人々のつながりが強まって、地域の活力が高まり(地域がよくなる)、地域がよくなれば学校もよくなる(学校への支援が強力になる)という好循環が生まれている。
  • さらに、学校における学習課題(例:人権教育、防災教育、環境教育等)は、地域の課題につながるものでもあり、学校づくりと地域づくりが密接に関わっていることを考えれば、今後、学校が、地域の課題を解決するための「協働の場」になる(地域の課題を学校の場所や施設等を使って解決する)という視点が必要となってくる。
施設の活用の例
  • 地域交流室といった地域住民の交流の場や地域づくりの拠点としての場の提供
  • 生涯学習・子どもの居場所づくり(放課後子ども教室)・総合型地域スポーツクラブ・参加型保育のための場の提供 など
機能の活用の例
  • 学校が持つ「授業の魅力」や「学習の機会」、様々なネットワークを活用した新しいタイプの成人教育の場の提供 など

 

  • また、学校を地域の課題を解決するための「協働の場」とする際には、単に施設を開放するだけにとどまらず、その使用法等について、学校と地域の人々との「協働」が必要である。また、地域の人々が主体となった運営を基本とするとともに、学校の体制(内部組織)整備を行い、学校への新たな負担が増すことがないように留意することが必要である。
留意点
  • 学校施設を開放する際は、学校教育に支障がなく利用者が偏らないよう、学校と地域の人々との「協働」が必要。
  • 運営は地域の人々が担うことを基本とし、教職員の参画は自主性に委ねる。
  • 学校や教育委員会はこのような場を提供するためのルールを作る。
  • 学校が担う役割に応じ、必要なスタッフ(体制)を整える。

 

  • 地域の人々が日常的に学校に関わる状態をつくることで、子どもたちが地域の人々に見守られて育つ環境が生まれるとともに、地域を良くしようとする人たちの営みが学校にも向けられ、学校を良くしようという営みと結びついていく。
  • そのために、地域交流室やコミュニティハウスといった、地域住民やNPOが運営できる公設民営的な空間を学校に設けていくことが効果的である。学校を地域活動の「場」とすることで、情報と人が学校に集まり、そこから学校への参画も広がる。
  • こうした取組が機能していくためには、ルール作りをはじめとした教育委員会の環境整備・サポートが必要である。国は、このような取組がさらに広がっていくよう、財政的支援を含め、各種の支援を行っていくべきである。
  • また、地域の礎としての学校の存在や役割を考えたとき、学校施設が備えるべき機能や学校施設の統廃合(学校の適正配置)については、教育的視点や地域づくりの視点に立った検討が求められる。

(4)地域の自発性と独自性の発揮

これまでに示してきた「地域とともにある学校(仮)」は、決まった形を持つものではない。その名の通り、各地域・学校を取り巻く環境や実情に応じ、あるべき学校を実現しようとする自発的な行動によって、初めて具体的な学校として姿が形づくられる。

また、「地域とともにある学校(仮)づくり」にも決まった手法が存在するわけではない。学校を、子どもたちにとって、また、自分たちの地域にとって最良の学校とするために、学校と地域の人々が一緒になって考え、行動していくことが、地域独自の「地域とともにある学校(仮)づくり」となり、「地域づくり」となる。

3.今後の推進の在り方(国は何をしていくべきか)

(1)国の役割

学校運営の改善が、各学校における自発的な取組なしには実現しないのと同様に、「地域とともにある学校(仮)」も、各地域・学校の具体的な行動によって実現する。

しかしながら、行政からどのようなサポートを得られるかは、各地域・学校の取組の成否を左右するといっても過言ではない。とりわけ公立小中学校において、設置者たる市町村教育委員会の役割は大きく、ときには強いリーダーシップを発揮し、地域の実情に応じた学校と地域の連携を推進していくことが期待される。

その上で、国に求められる役割は、今後の具体的な推進方針を打ち出すとともに、各地域・学校での取組を後押しする運用上、制度上、財政上のあらゆる角度からの支援を実施していくことである。

(2)今後の推進方針

「地域とともにある学校(仮)」の学校運営を整えるための手段(アプローチ)として、キーワードとなるのは「熟議」「協働」「マネジメント」である。この切り口をもとに、当面、国においては、以下の施策に重点的に推進していくべきである。

<推進目標1>

今後●年間で、コミュニティ・スクールの数を全公立小中学校の●割に拡大

◆保護者や地域住民等が、子どもを育てていく当事者として学校運営に参画し、学校と地域の人々が一体となった「熟議」と「協働」による学校運営を拡大する。

教育振興基本計画(平成20年7月閣議決定)では、「家庭・地域と一体となった学校の活性化」方策として、「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の設置促進」が盛り込まれている。

※ここでは、法令上の学校運営協議会を設置している学校を「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」と標記する。

保護者や地域住民等が一定の権限と責任を持って学校運営に参画するこの制度は、導入から6年あまりが経過したにすぎず、制度の是非を判断することは時期尚早である。しかし、協議の実質化や継続性の確保という課題を抱えつつも、ソーシャルキャピタルの形成に効果を発揮していると評価でき、現行の制度体系下において、「地域とともにある学校(仮)づくり」のための有効な仕掛けであると言える。

このため、今後とも、国としてその設置促進を図っていくべきであるが、一方で、これまでの取組の中から課題も浮かび上がってきており、制度の普及・拡大にあたっては、これらの課題を解消していくことが必要となる。また、地域の人々による学校運営への関わり方には様々な形があるとの前提に立ち、多様性をもったコミュニティ・スクールの体制構築を進めるべきである。

(多様性のイメージ)

「任用等に関する意見」を主活動として位置づけない運用

地域の人々の責任を強調しない運用(応援団としての参画を求める)

地方教育行政の組織及び運営に関する法律上の学校運営協議会制度によらない形態からの体制導入

(学校評議員の発展型、学校関係者評価委員会の発展型、学校支援地域本部の発展型など)

設置促進に向けた国の責任を明確にする意味でも数値目標は必要であるが、地域の多様性を考慮すれば、地域ごと(例えば都道府県ごと)の目標を設定することは適当でない。また、数あわせに陥ることなく、「地域とともにある学校(仮)づくり」となる内容ある取組が広がっていかなければならない。

そのため、実質のともなった設置促進を担保するためにも、また、継続的・安定的なコミュニティ・スクールの運営を可能とするためにも、コミュニティ・スクールに対し、財政的な支援を講じていく必要がある。

【推進していく上での課題例】

コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)のような、学校運営に対して責任ある意見を述べる制度については、学校側、地域住民側の双方に抵抗感がある。

学校と地域の信頼関係や協力関係が未成熟である場合や、実行体制が整っていない場合等には、協議会そのものが形骸化しやすい。

学校評議員など趣旨が重複する制度が並立しているという印象からくる負担感が存在する。

協議会での議論を活発にする(頻繁に開催する)ための、また、アイデアを実行に移していくための活動経費の確保が困難。

【推進のための具体的方策】

コミュニティ・スクールを推進する運動のネットワーク化の促進

上記のネットワークとも連携し、「地域とともにある学校(仮)づくり」の必要性やその中でのコミュニティ・スクールの意義を普及・啓発

コミュニティ・スクールの多様な形態の事例収集と普及

学校運営への参画という側面のみを捉えるのではなく、学校支援地域本部や放課後子ども教室など、学校と地域の協働体制の構築と一体として普及・拡大(まずは学校支援地域本部から など)

多様性をもったコミュニティ・スクールの普及・拡大とあわせ、学校評議員制度の再評価と見直し

コミュニティ・スクールの継続的・安定的発展を支援するための財政的な措置

<推進目標2>

今後の学校運営の必須アイテムとして、すべての学校で実効性ある学校関係者評価を実施

学校関係者評価が、学校と地域の人々とのコミュニケーション・ツールとして、かつ、学校運営改善のツールとして、実効性のある取組として実施されるよう裾野を拡大する。

学校関係者評価は、「保護者や地域住民などの学校関係者等が、自己評価の客観性・透明性を高めるとともに、学校・家庭・地域が学校の現状と課題について共通理解を深めて相互の連携を促し、学校運営の改善への協力を促進することを目的として行うもの」である(学校評価ガイドライン)。

学校関係者評価は、学校教育法施行規則上は、努力義務として規定されており、教育振興基本計画(平成20年7月閣議決定)でも、「できる限りすべての学校において実施されることを目指す」とされている。

「地域とともにある学校(仮)づくり」を進めていく上で、学校関係者評価は、学校と地域の人々との熟議のきっかけ(コミュニケーション・ツール)として、また、学校運営の改善を目的とした学校と地域の人々との「協働の場」として、すべての学校で活用されることが期待される。

一方、現状において学校関係者評価は約8割の公立学校で実施されているものの、保護者からのアンケートの実施にとどまっているなど双方向的なコミュニケーションが少なく相互の理解が促進されていない、評価項目が網羅的かつ抽象的なことや学校から提供される情報が不十分(定性的で具体性に欠ける、断片的で日常の状況が分からない等)であるため評価が困難となっているなど、実効性に課題が残っている。

学校関係者評価の意義を踏まえれば、努力義務としての制度上の位置づけを見直すことについても検討が必要である。国としては、学校運営を行う上での必須アイテムとして学校関係者評価を位置づけ、学校関係者評価が、すべての学校で実効性を持って実施されるよう施策を展開していくべきである。

その際、学校と地域の人々との間に、熟議の場が生まれ、当事者意識が醸成され、日常的にコミュニケーションがとられる風通しのよい関係が構築されることは、実効性のある学校関係者評価に必須の基盤となる。評価のあり方を改善していくアプローチとともに、コミュニティ・スクールの設置促進や学校支援地域本部などを通じて、学校への協力者を増やしていく取組(推進目標1)も推進すべきである。

また、学校関係者評価を実施することが教育活動や学校運営が充実・改善したとの達成感につながることが重要であり、やってよかったと思える評価が実施されるように支援していくことも必要である。

【推進していく上での課題例】

評価項目の焦点化や評価指標の具体化

学校の現状についての効果的・効率的な地域の人々への情報提供のあり方

学校関係者評価への地域の人々の理解、参画促進

評価実務に精通した人材の不足

学校関係者評価の実施に係る負担感(学校運営が改善されているとの実感不足など)

【推進のための具体的方策】

コミュニケーション・ツールとすることを主眼にした評価項目の検討

日常的な対話を通じた学校関係者評価など、双方向的なコミュニケーションに基づく学校関係者評価の実施手法(学校と地域の人々の対話をつなぐコーディネーターやファシリテーターの活用等)の研究・普及

学力状況調査の結果など学校の現状に関する客観的データの効果的・効率的整理手法の開発・普及

学校関係者評価に関する成果普及、理解増進、研修機会の充実

評価結果に基づく教育委員会による具体的な学校運営改善支援の促進

<推進目標3>

中学校区を運営単位として捉え、複数の小・中学校間の連携・接続に留意した運営体制を拡大

「地域とともにある学校(仮)づくり」を促進する新たな仕組みとして、複数校の連携・接続に留意した運営体制について制度的な課題や推進方策を検討し、その拡大を後押しする。

地域から見た子どもの育ちは、各学校単位で収まるものではない。小学校と中学校の接続の問題にとどまらず、周辺校との連携も「地域とともにある学校(仮)づくり」を考える上では重要なテーマとなる。

また、すべての学校が「地域とともにある学校(仮)」になることを促進する上で、中学校と地域の人々との関係構築が課題である(中学校は、地域の人々からすれば、小学校に比べて「おらが学校」との意識が生まれにくい)。

すでに多くの地域で、複数の小学校・中学校が連携して、9年間を通じた子どもの育ちを実現する教育が取り組まれている。中には、コミュニティ・スクールと組み合わせ、中学校区を一つの運営単位(地域との連携単位)として捉え、複数の小・中学校が連携した運営体制がとられている例も見られる。

中学校区内の複数の学校が連携した運営体制は、「地域とともにある学校(仮)」の運営体制としてふさわしいものと考えられることから、学校運営の新たな仕組みとして、制度的な課題や推進方策等を検討し、こうした取組が拡大していくよう後押ししていくべきである。

その際、小学校区と中学校区の関係性が多様であること、都市部と過疎地域など地域の状況により、学校間の連携の形態は異なることに留意しなければならない。多様なパターンに対応できるように、弾力的な学校運営体制とインセンティブの付与が必要である。

(論点例)

連携した学校間での管理職の職務権限や教職員の校務分掌の弾力的運用

地理的制約(学校間の距離等)のある広域連携への支援

学校間の運営をつなぐ連携コーディネーター(仮称)の加配

【推進していく上での課題例】

小・中学校間の接続の多様性・複雑さ(一つの小学校から複数の中学校へ進学等)

連携した複数の小・中学校を一つの運営体制と捉えた場合の校長間の役割分担、権限関係等の整理

立ち上げ期の負担(混乱)回避

【推進のための具体的方策】

小・中学校間の連携・接続の在り方(制度的な課題や推進方策等)の検討

複数の小・中学校が連携した教育・学校運営の事例収集・普及

地域特性に応じた連携型学校運営への支援(連携コーディネーター(仮称)や事務長の配置、連携型運営に要する経費等)

<推進目標4>

「管理」から「マネジメント」へ意識改革を行い、学校の組織としての総合的なマネジメント力を強化

マネジメント力をもった管理職・教職員の育成を進めるとともに、学校が組織として力を発揮できる体制の構築を進める。

学校が地域との関係を構築し、地域の人々と一体となった取組を進め、これを現実の成果として結実させるためには、学校運営の責任者である校長が、リーダーシップを発揮し、地域の人々や教職員の声を汲み取って意志決定を行い、具体的な目標設定とその実施状況の評価に基づいた行動を行うことが必要である。

「地域とともにある学校(仮)づくり」で求められるのはマネジメント力である。それは、地域のマネージャーとして地域の人々の声や願いを実現させる力であり、その時々に必要な人たちを集め、人的資源の管理や時間の管理とともにリスク管理を行える力である。

このように「地域とともにある学校(仮)」では、学校内の組織運営を管理することにとどまらず、地域との関係を構築し、地域の人々と一体となった取組を進め、成果を挙げることが出来る力を学校が備えるべき「マネジメント力」と捉えるべきである。

マネジメント力は特に、校長をはじめとする管理職に求められる能力であるが、一方で、校長(管理職)になった段階から育成していては、遅すぎるとの意見も多い。また、今後10年間で現職教員が大量退職する見通しがある中で、校長(管理職)となる前段階のなるべく早期から、マネジメント力の向上につながる多様な経験が得られる機会が提供できるよう、環境整備を進めることが喫緊の課題である。

あわせて、学校運営が個人の能力に依存するのではなく、学校が組織として力を発揮していけるよう、総合的なマネジメント力が強化される体制整備を進めていく必要がある。

加えて、学校の自発的な構想が実行に移されるためには、その構想を実現するために必要な人的・物的リソースが入手できる環境が整っていなければならない。このため、「学校のやりたいこと」と「学校に支援できること」のマッチングを図る仕組みを充実していくことも重要。

また、実効性のある学校関係者評価を通じ、学校が抱える課題を的確に把握し、その解決に向けて知恵を出し合うことは、学校のマネジメント力の強化にもつながる。

【推進していく上での課題例】

マネジメント力をもった管理職・教職員の育成と配置

学校が組織として力を発揮するための体制の構築

副校長・教頭や主幹教諭、事務職員を含めたマネジメントを担う組織の充実

学校が必要とするリソースの提供体制の構築

【推進のための具体的方策】

教員研修センター等におけるマネジメント力向上のための研修プログラムの充実(管理職層、ミドルリーダー層、学校事務職員)

研修プログラムのe-Learning化、研修施設以外での実施(出張研修)等多様な研修機会の充実

校長の在職期間の長期化や優秀な民間人校長の積極登用、教員の公募制拡大

校長会や副校長・教頭会などによる自律的な能力開発支援の促進

学校の教員と事務職員が果たすべき役割・標準職務の明確化

学校組織における学校と地域をつなぐコーディネーター機能の位置づけ・役割の明確化

学校マネジメントをサポートするとともに、教員が子どもに向き合う時間を確保できる役割分担を実現するための事務機能の強化(事務の共同実施やコミュニティ・スクールへの事務職員の加配措置)

学校支援地域本部や放課後子ども教室の推進全国的な規模での学校のニーズと学校への支援をつなぐ仕組みの構築

学校の裁量で支出できる運営経費の措置

<推進目標5>

地域コミュニティの核として被災地の学校を再生し、震災復興の推進力となるよう、総合的な支援を実施

教職員加配や運営経費の措置等あらゆる支援を講じ、被災地において「地域コミュニティの核」となる学校を創出する。

東日本大震災からの復興に向けた指針策定のための復興構想について議論する「東日本大震災復興構想会議」が策定した「復興構想7原則」の中には、「被災地の広域性・多様性を踏まえつつ、地域・コミュニティ主体の復興を基本とする」こと、「地域社会の強い絆を守りつつ、災害に強い安全・安心のまち、自然エネルギー活用型地域の建設を進める」ことがあげられている。

「地域とともにある学校(仮)づくり」は、地域の人々が主体となった地域づくりの核となり、地域コミュニティの絆を深めていく効果が期待できることから、震災復興にも寄与するものと考えられる。

このため、国としては、被災地域に対し、復興支援策の一つとして、「地域とともにある学校(仮)づくり」のための総合的な支援を行い、学校の再生を震災復興の推進力としていくべきである。

また、学校は地域において最も安全で安心な場所でなくてはならないとの観点から、教育施設・設備面での整備も重要であり、子どもたちの教育プログラムにも「地域とともにある学校(仮)づくり」の理念は活かされるべきである。なお、これらについては、別の場での十分な議論が行われるべきである。

学びを媒介として地域住民が集い、交流し、地域づくりなどの諸活動を行うとともに、災害時にも力を発揮するネットワークが構築された姿は、日本全体の教育改革につながっていくことが期待される。

【具体的支援例】

地域との連携を強化し、地域の人々と一体となった取組の中核を担う人材の配置に係る支援

学校支援スタッフの配置や地域との協働活動の推進に係る支援

学校と社会教育施設や福祉施設等の複合施設化を含めた一層の連携強化

防災機能の強化やICT基盤の構築など、安全安心な施設・設備の整備

4.さらに検討していくべき中長期的課題

「地域とともにある学校(仮)」を実現していく上では、これまで本会議では主な議論の対象としてこなかった中長期的課題が存在する。また、今後の推進方策を具体化していく上で、これまでの取組に関する検証が不十分と思われる点も存在する。

今後、国において、「地域とともにある学校(仮)づくり」を促進していく上では、現行制度の枠組みを前提とすることなく、また、これまでの取組について十分な検証を行い、今後の地方教育行財政制度のあり方について検討が進められるべきである。

<学校のガバナンスに関する課題>

「地域とともにある学校(仮)」のガバナンスは如何にあるべきか。

  1. 学校が持つべき権限
  2. 都道府県教委と市町村教委の役割分担のあり方
  3. 教育委員会制度のあり方等について、総合的な検討が必要。

<学校における業務と組織体制に関する課題>

「地域とともにある学校(仮)」が担うべき業務、また、それにふさわしい組織体制はどのようなものか。

  1. 学校が担う標準的校務とその実行に必要となる適切な教職員配置
  2. 学校運営業務の効率化等について、総合的な検討が必要。

<教職員の養成に関する課題>

「地域とともにある学校(仮)」を担う教職員、管理職の養成・確保を如何にしていくべきか。

  1. 管理職養成のあり方(資格制度、教職員大学院のありよう等)
  2. 教職員の養成・採用・研修のあり方(免許制度、教職課程のありよう等)等について、総合的な検討が必要。

お問合せ先

初等中等教育局参事官(学校運営支援担当)付

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(初等中等教育局参事官(学校運営支援担当)付)