3.全国高等学校長協会

全高長 第53号
平成22年9月21日

常用漢字表改定に伴う学校教育上の対応に関する専門家会議
主査 様

全国高等学校長協会
会長  青山  彰
(公印省略)

                                          

「常用漢字表改定に伴う学校教育上の対応」に関して全国高等学校校長協会として下記のとおり意見を申し述べます。

「検討事項 整理メモ」(第5回専門家会議)の論点1~3について

論点1

1 常用漢字表改定に伴う「読みの指導」の見直しについて

(2)高等学校における常用漢字の「読みの指導」について
 現行どおり「常用漢字の読みに慣れるようになること」でよい。
 ただし、この文言では余りにも投げやりな感じを受ける。安易に読み飛ばすことを示唆しているようにも受け取れる。声に出して読めればよいというものではないはずである。
 漢字は表意文字であり、我が国の伝統文化の形成に大きく寄与してきた意義を踏まえることと、漢字及び漢語が抽象概念を表す有効なツールであり、国民が論理的な思考を高めるために大きな役割を果たしていること、以上の2点を踏まえる必要がある。意味を理解し、深く読み取る力を養うことの含意を示す表現の工夫を望む。平成18年に制定された新しい教育基本法や今次の学習指導要領の精神にふさわしい表現をお願いしたい。
 学校の実情もあるので、すべての常用漢字に及ばなくてもよいが、実情に即しつつも必要なものをしっかりと身につけさせる指導ができる指針にして欲しい。

 次に、改訂常用漢字表による漢字指導の実施時期についてであるが、正規に指導を開始するのは「新学習指導要領の実施時期」が順当であろう。
 しかし、現行の常用漢字表でもそうであるが、教員は教科書に準拠して指導を行っているものの、日頃から常用漢字に対してはあまり意識が無いのが一般である。そういう教員の意識改革には、常用漢字表が改定されて間がない「中学校の実施時期から実施する」ことが、中学生を受け入れる準備も兼ねて、よい効果があると思われる。ただし、教科書がどうなるのかが課題となろう。

論点2

2 常用漢字表改定に伴う「書きの指導」の見直しについて

(1)高等学校における「書きの指導」について
 現行どおり「主な常用漢字が書けるようになること」でよい。
 ただし、「読み」の所で触れたように、漢字は「読み」「書き」だけではない。表意文字である以上は「分かる」「理解する」が含まれる。「ワープロ時代だからすべて書ける必要はない」という短絡な意見には素直に賛成できない。「読める」「書ける」という知識だけを求めた結果が、規範意識や道徳心の希薄な国民を生み出したという社会の失策に目を向けるべきである。意味を込めて手書きする作業が生徒の時期に必要なのではないだろうか。「主な」常用漢字でよいが、意味を理解して適切に書ける指導をするという含意の表現を工夫して頂きたい。

その対応として、
(ア)「主な常用漢字」の範囲や字種を具体的に示す」は望ましいが、全国のすべての高等学校に当てはまる範囲や字種など誰にも示すことは出来ない。高校生の約半数にとって大きな負担となるだけで、現実的には無意味な試みになる恐れがある。
(イ)「主な常用漢字」の範囲や字種を一律に示すことは難しいので、「改定常用漢字表の性格をしっかり周知することにより、各学校の生徒の実態等に応じて指導する」の方が現実的な対処法であると思われる。ただし、現場に任せる以上は常用漢字表の性格を周知するだけでなく、各学校で指導計画を立て、効果測定などを行うことは当然である。

論点3

3 常用漢字表改定に伴う学校教育での筆写(手書き字形)の取扱いについて

(イ)筆写の指導における字形の基準のようなものを具体的に示すことは難しいので、各学校(高等学校)が生徒の実態に応じて指導する」ことが現実的だと考える。
 印刷文字はデザインの問題で、必ずしも常用漢字表と同じではない。生徒のみならず社会人でも各自の好みでいろいろなバリエーションがある。印刷活字でも「寺」は上の土の下の横棒よりも「寸」の横棒の方が長いものが多いが、「等」では「土」より「寸」が短いものが多い。この程度の違いは許容範囲とすることが出来る。各教科の授業での板書でも教員の癖が出る。余りこだわらない方がよいのではないか。生徒から疑問が出されたら正しい基準を説明できることが必要であろう。その意味では、参考としての字形の基準を示すことも必要かも知れないが、細かく指摘しすぎて、漢字嫌いを生み出すような指導は避けるべきである。

 高校生ともなれば、「現代文」では常用漢字に気を配れても、「古文」「漢文」では常用漢字などはほとんど意味をなさない。振り仮名などを振ってもほとんど意識しない。ましてや、「日本史」や「世界史」の中国史などでは、常用漢字を大きく逸脱した漢字が数多く出てくる。むしろ、そんな学習環境の中で、生徒が漢字に興味を持つこともある。学校によっては、生徒の手書きの作文などでも、常用漢字をはみ出した難しい漢字が多く使われている。

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