参考資料5 常用漢字表の制定に伴う学校教育における漢字指導の在り方について(昭和56年8月31日 教育用漢字調査研究協力者会議のまとめ)

 教育用漢字調査研究協力者会議は、昭和56年3月23日に国語審議会から答申された常用漢字表の内閣告示に備え、学校教育における漢字の取扱いについて、本年4月以降慎重に調査研究を行ってきたが、このたびその結論を得たので、ここに報告する。

第1 常用漢字表の性格と学校教育における漢字指導の基本的な考え方

 常用漢字表は、一般の社会生活で用いる場合の、効率的で共通性の高い漢字を収め、分かりやすく通じやすい文章を書き表すための漢字使用の目安としての性格を有するものであり、相互の伝達や理解を円滑にするために、できるだけ常用漢字表に従った漢字の使用が期待されているのであるから、学校教育においても、常用漢字表に基づいて適切な漢字指導を行っていく必要がある。
 当協力者会議は、このような基本的な考え方に立ち、常用漢字表に基づく漢字指導への移行が円滑に行われるよう、従来の学校おける漢字指導の経緯などに十分配慮しつつ、今後の小・中・高等学校における漢字指導について検討した結果、当面次のような措置を講ずることが適当であるとの結論に達した。

第2 各学校段階における当面の措置

1 小学校

 小学校の漢字指導は、小学校学習指導要領の学年別漢字配当表に基づいて行われているが、学年別漢字配当表の漢字はすべて常用漢字表に含まれているので、引き続き現行の学年別漢字配当表に基づいて指導するものとする。
ただし、「燈」の字体が常用漢字表では「灯」に改められているので、この点については、次のような措置が必要である。

(1)学習指導要領の改正
 「学年別漢字配当表」の第4学年の「燈」の字体を「灯」と改める。

(2)学校における指導
 ア 昭和56年度中は、従来どおりとする。ただし、昭和56年度中においても「灯」で指導してよいものとする。
 イ 昭和57年度以降、「灯」で指導するものとする。ただし、当分の間、児童が「燈」を用いることについて弾力的な取扱いが必要である。                               

2 中学校

 中学校においては、従来、当用漢字の「読み」については、そのすべてにわたって指導し、「書き」については、小学校の学年別漢字配当表の漢字を主として、1,000字程度の当用漢字を使い慣れるよう指導することとしてきた。
 「読み」ついて、そのすべてにわたって指導することとしてきたのは、義務教育の終了までに当用漢字全般にわたる一通りの知識を与えておく必要があると考えられたからである。常用漢字表の漢字についても、義務教育の終了までにそのすべてについて一通り「読み」を指導した方がよいとの考えがあるが、一方また、常用漢字表は、義務教育を終えた後、ある程度実社会や学校での生活を経た人々を対象として考えられたものであることなどの理由から、必ずしも常用漢字のすべてにわたって指導しなくてもよいとする意見も少なくない。
 そこで、当協力者会議は、従来からの中学校における漢字指導の基本的な考え方を踏襲しつつ、次のような措置を講ずることが適当であると考える。

(1)   学習指導要領の改正
 「当用漢字」を「常用漢字」に改めるほか、第3学年について「更にその他の当用漢字も読むこと。」を「更にその他の常用漢字の大体も読むこと。」に改める。

(2)学校における指導
 学校における漢字の指導は、これまでどおり主として国語教科書の本文教材(巻末の付録を除いた部分をいう。)を通じて行うこととするが、常用漢字表に基づく漢字指導への移行が円滑に行われるよう、次のような配慮をすることが必要である。

 ア 昭和56年度においては、従来どおりとする。ただし、当用漢字にない常用漢字についても、現行国語教科書において本文教材に振り仮名付きで提出されているものなどについて、その必要性や使用頻度などを勘案して指導してよいものとする。
 イ 昭和57年度から、改正後の学習指導要領に基づく漢字指導を行うこととする。この場合、国語教科書の本文教材における漢字の取扱いの状況などに配慮しながら適切に指導するものとする。

3 高等学校

 高等学校における漢字の指導は、現在は、昭和45年に改訂された高等学校学習指導要領に基づく「現代国語」において主として行われており、来年度新入学生徒からは、学年進行により、昭和53年に改訂された新高等学校学習指導要領に基づく「国語Ⅰ」及び「国語Ⅱ」において主として行われることになる。現行の第1学年から第3学年までを対象とする「現代国語」においては、当用漢字のすべての音訓が読め、当用漢字のすべてが書けるように指導することとしているが、新しい学習指導要領では、原則として第1学年を対象とする「国語Ⅰ」において、当用漢字の読みに慣れ、主な当用漢字が書けるように指導することとし、「国語Ⅱ」では「国語Ⅰ」の内容に更に習熟させるよう指導することとしている。
 このように、高等学校では、「読み」、「書き」両面において当用漢字を十分に習得させることが求められてきたと考えられるし、常用漢字についても同様の考え方で対応する必要があると思われる。

(1) 学習指導要領の改正
 現行高等学校学習指導要領(昭和45年文部省告示第281号)の「現代国語」については、「当用漢字」及び「当用漢字音訓表」を「常用漢字」に改め、「当用漢字別表」を削除する。
 新高等学校学習指導要領(昭和53年文部省告示第163号)の「国語Ⅰ」については、「当用漢字」を「常用漢字」に改める。

(2)学校における指導
 ア 昭和56年度においては、従来どおりとする。ただし、当用漢字にない常用漢字についても、その必要性や使用頻度などを勘案して指導してよいものとする。
 イ 昭和57年度から、改正後の学習指導要領に基づく漢字指導を行うこととする。

第3 関連する事項

1 教科書における所要措置及び実施年度

 教科書もできるだけ速やかに常用漢字表に基づく新しい漢字指導の方向に沿ったものに改めていかなければならないが、昭和57年度使用教科書については既に印刷等の作業が進んでいること、現在の教科書制度では編集から使用までに相当の期間を要することなどの事情を考慮し、次のような段階的な措置を取ることがよいと思われる。

(1)常用漢字表に基づく新しい表記は、小・中学校の全部の教科書及び新学習指導要領に基づく高等学校の全部の教科書について、昭和58年度使用教科書から実施する。
 なお、昭和58年度以降使用する中学校第3学年用国語教科書、高等学校の「現代国語」、 「国語Ⅰ」及び「国語Ⅱ」の教科書については、常用漢字表を巻末に掲載することが望ましい。

(2)中学校及び高等学校の国語教科書については、常用漢字の指導を効果的に行うために教材の差し替え等が必要な場合も考えられるが、このような改訂は、編集等にある程度の期間を要すると思われるので、中学校、高等学校、それぞれの国語教科書の適当な検定の機会に行うこととする。

2 高等学校入学者選抜試験における取扱い

 高等学校入学者選抜試験における漢字の出題等は、中学校国語教科書の本文教材における常用漢字の提出状況など、中学校における漢字指導の実態を踏まえ、適切な配慮のもとに行われる必要がある。
 なお、昭和57年度入学者選抜試験は従来どおりの範囲で実施することが望ましい。

第4 将来における取扱い

 常用漢字表が内閣告示された後の当面の措置については、以上に述べたとおりであるが、なお、義務教育期間における漢字指導の在り方については、検討を要する問題がある。例えば、常用漢字表に基づいて小学校学習指導要領の学年別漢字配当表を見直すべきであるという意見などがあるが、こうした問題については、今後、更に専門的研究機関による基礎的な調査研究が必要であり、それらの結果などに基づいて改めて検討されるべきであろう。 

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