2 このため、新しい幼稚園教育要領、保育所保育指針、小学校学習指導要領においては、幼小接続に関して相互に留意する旨が規定され、文部科学省・厚生労働省が共同で事例集を作成・周知するなどの取組が行われている。各学校・施設においても、幼児と児童の交流活動や幼小の教職員の意見交換等の取組はある程度行われてきている。 3 しかしながら、
このように、幼小接続の取組を進めるには、何よりもまず子どもの発達や学びの連続性を踏まえた幼児期から児童期にかけての教育のつながりを理解するための道筋を明らかにすることが必要である。 4 こうした状況を踏まえ、本協力者会議では幼小接続の概念整理を中心としつつ、
について議論し取りまとめた。 |
幼児期の教育(幼稚園、保育所、認定こども園における教育。以下同じ。)と児童期の教育(小学校における教育。以下同じ。)は、それぞれの段階における役割と責任を果たすとともに、子どもの発達や学びの連続性を保障するため、両者の教育が円滑に接続し、教育の連続性・一貫性を確保し、子どもに対して体系的な教育が組織的に行われるようにすることは極めて重要である。
幼小接続の重要性に鑑み、平成19年の学校教育法改正において、幼稚園教育の目的として、「義務教育及びその後の教育の基礎を培う」ことが明記されるとともに、平成21年度より全面実施された新しい幼稚園教育要領、保育所保育指針や平成23年度より全面実施される小学校学習指導要領において、幼小接続に関して相互に留意する旨が規定された。また、平成21年には、文部科学省と厚生労働省が共同し、「保育所や幼稚園等と小学校における連携事例集」を作成し、都道府県、市町村の関係部局等に周知した。
【幼稚園教育要領(平成20年3月)】 【保育所保育指針(平成20年3月)】 【小学校学習指導要領(平成20年3月)】 (生活科) (国語科) (音楽科) (図画工作科) |
これらを踏まえ、幼稚園、保育所、認定こども園と小学校(各学校・施設。以下同じ。)では、主として、幼児と児童の交流活動や幼小の教職員の意見交換等の取組はある程度行われてきており、幼稚園と小学校における幼児と児童の交流の実施率は56%、教員同士の意見交換等の交流の実施率は55%となっている(平成20年度「幼児教育実態調査」文部科学省)。
一方、平成21年11月に文部科学省が実施した都道府県・市町村教育委員会に対する調査では、
1
ほとんどの地方公共団体(都道府県教育委員会100%、市町村教育委員会99%)が幼小接続の重要性を認識。
2
しかし、地方公共団体の取組は十分とはいえず、都道府県教育委員会の77%、市町村教育委員会の80%において幼小接続のための取組が行われていない。
3
その理由(複数回答:市町村教育委員会)としては、「接続関係を具体的にすることが難しい」が52%、「幼小の教育の違いについて十分理解・意識していない」が34%、「接続した教育課程の編成に積極的ではない」が23%となっている。
こうした状況を反映して、「幼稚園と小学校が教育課程の編成について連携している」とする幼稚園は、16%にとどまっている(平成20年度「幼児教育実態調査」文部科学省)。
このように、幼小接続の取組を進めるには、何よりもまず子どもの発達や学びの連続性を踏まえた幼児期から児童期にかけての教育のつながりを理解するための道筋を明らかにすることが必要である。
本協力者会議では、先に述べた幼小接続の現状と課題を踏まえ、幼小接続の概念整理を中心としつつ、幼児期の教育や児童期の教育を担当する各学校・施設が教育委員会や首長部局の支援のもと、幼稚園教育要領、保育所保育指針、小学校学習指導要領に基づき、実効性ある接続を一層図っていくための考え方や教育課程編成・指導計画作成上の留意点などについて検討した。(なお、本報告書における「教育課程」には、保育所や認定こども園で編成・実施される「保育課程」を含むものとする。)
本報告書は次のような方針で構成されている。
○幼小接続の現状と課題(第1章)
幼小接続の重要性、幼小接続に関する国、地方公共団体の取組の「現状」と、地方や現場が抱える「課題」とその理由について分析し、本協力者会議での議論の趣旨、報告書の構成について説明する。
○幼小接続の体系(第2章)
幼小接続の取組を適切に進めるためには、その前提として、幼児期の教育と児童期の教育との関係をどう捉えるかが極めて重要となる。幼児期と児童期の教育に連続性・一貫性をもたせ「体系的な教育を組織的に行う」という教育基本法の精神と、各学校・施設での教育課程の構成原理、指導方法などの「尊重すべき違い」をどのように関係付けて捉えるのかなどについて、幼小接続の「3段構造」や「学びの基礎力」の育成、「学びの芽生え」の時期と「自覚的な学び」の時期、「人とのかかわり」と「ものとのかかわり」などの概念を用いて体系的に整理・説明する。
○幼小接続における教育課程編成・指導計画作成上の留意点(第3章)
教育課程編成については、幼児期から児童期にかけて求められる「三つの自立」(学びの自立、生活上の自立、精神的な自立)と小学校以降における「生涯にわたる学習基盤の形成」(「学力の3要素」)との関係について説明する。指導計画作成については、人やものとのかかわりにおいて求められる活動や、言葉や表現との関係、スタートカリキュラムを編成する際の留意点について説明する。
○幼小接続の取組を進めるための方策(第4章)
幼児期と児童期の教育を円滑につなげるための、教職員の交流などの人的な「連携」から教育課程の「接続」に発展する過程や、それを支える教職員の資質・研修の在り方、「接続期」などの幼児期と児童期をつながりとして捉える工夫、家庭や地域社会との連携・協力について説明する。
2 幼児期と児童期の教育の目的・目標は、教育基本法の精神に基づき、学校教育法において連続性・一貫性をもって構成されている。幼児期から児童期にかけての教育の目標は、生涯にわたる学びの基礎となる極めて重要なものであり、「学びの基礎力」の育成というつながりとして捉えることができる。 3 一方、幼児期と児童期における教育課程の構成原理やそれに伴う指導方法等には、発達の段階の違いに起因する「尊重すべき違い」が存在するものの、こうした違いの理解・実践は、あくまで両者の教育の目的・目標が連続性・一貫性をもって構成されているとの前提に立って行われなければならない。 4 また、幼児期と児童期の教育活動には、「学びの芽生え」の時期と「自覚的な学び」の時期という発達の段階の違いからくる、遊びを通した学びと教科等の授業を通した学びという「尊重すべき違い」があるものの、直接的・具体的な対象とのかかわり、すなわち「人とのかかわり」と「ものとのかかわり」という捉え方で双方の教育活動のつながりを見通しつつ、幼児期における遊びを通した学びと児童期における教科等の授業を通した学びを行うことが必要である。 このような考え方のもと、 |
(幼小接続を3段構造で理解する)
幼児期の教育と児童期の教育には、子どもの発達の段階に起因する、教育課程の構成原理や指導方法等の様々な違いが存在する。その一方、子どもの発達や学びは、幼児期と児童期とではっきりと分かれているものではなく、つながっているものであり、幼児期の教育と児童期の教育において連続性・一貫性を確保することが求められる。
このようなことを踏まえると、幼小接続を円滑に行うためには、両者の教育において、「違い」と「連続性・一貫性」の調和を図ることが求められる。しかし、幼児期の教育を担当する教職員(教員と保育士)と児童期の教育を担当する小学校の教員をはじめとした関係者において、この「違い」と「連続性・一貫性」の関係などについて必ずしも十分に理解されているとはいえない。
幼児期の教育と児童期の教育を円滑に接続するには、両者の「違い」や「連続性・一貫性」を含めた接続の構造を体系的に理解するためには、以下に示すように、「教育の目的・目標」→「教育課程」→「教育活動」の順に展開する3段構造でとらえる必要がある。
(1)教育基本法における幼児期の教育と児童期の教育の連続性・一貫性
我が国の教育は、教育基本法に基づき、人格の完成、すなわち個人として、また社会の構成員としての理想の姿を追求することを目的としている。
このため、幼児期や児童期も含め、学校教育、家庭教育、社会教育に共通する目標として、主として教育の基本事項(知・徳・体)に関すること、自分自身に関すること、社会とのかかわりに関すること、自然との共生に関すること、日本人として国際社会のかかわりの中で必要なこと、の五つが掲げられている。
こうした考え方のもとで、幼児期の教育は、「生涯にわたる人格形成の基礎を培う」ものとされ、義務教育は「各個人の有する能力の伸長」を図り「社会において自立的に生きる基礎を培う」とともに、「国家・社会の形成者としての基礎的な資質を養う」ものとされている。発達の段階を踏まえ、幼児期の教育と児童期の教育(義務教育)の表現ぶりに違いはあるものの、両者は個人と社会の構成員としての理想の姿を目指す教育の一環として位置付けられ、また五つの目標の達成によって実現を図ろうとするものである点で共通している。幼児期と児童期の教育の理念は、このように、連続性・一貫性をもって構成されている。
また、幼稚園を含めた学校教育では、「心身の発達に応じて体系的な教育を組織的に行う」ことが求められ、教育を受ける者が、「学校生活を行う上で必要な規律を重んずる」とともに「自ら進んで学習に取り組む意欲を高める」ことを共通して「重視して行われなければならない」事項として掲げ、基本的な生活習慣の形成にはじまり、集団性や社会規範性や学びの姿勢の形成を図ることにも十分な配慮を求めている。こうした考え方は、保育所や認定こども園においても同様の考え方ができるものといえる。
(2)学校教育法における幼児期の教育と児童期の教育の連続性・一貫性
教育基本法における幼児期と児童期の教育の理念を踏まえ、学校教育法においてその目的・目標が具体的に規定されている。これらも、教育基本法と同様、幼児期と児童期において次のような連続性・一貫性をもって構成されている。こうした考え方は、(1)で述べたように、保育所や認定こども園においても同様の考え方ができるものといえる。
(1)幼稚園教育要領、保育所保育指針と小学校学習指導要領における「尊重すべき違い」
幼児期の教育課程の基準である幼稚園教育要領、保育所保育指針と、児童期の教育課程の基準である小学校学習指導要領には、教育課程の構成原理や指導方法等において、様々な違いが見られる。
教育課程の構成原理における顕著な違いとしては、幼児期の教育には、各教科、道徳、特別活動等(各教科等。以下同じ。)といった区別がないことのほかに、方向目標と到達目標の違いが挙げられる。すなわち、幼児期の教育が、幼児期の教育の修了までに育つことが期待される生きる力の基礎となる心情、意欲、態度などについて、「~を味わう」「~を感じる」などのように、いわばその後の教育の「方向付け」を重視するのに対し、児童期の教育は、「~ができるようにする」といった具体的な目標への到達を重視するという違いである。また、こうしたことは、幼児期の教育が幼児の生活や経験を重視する経験カリキュラムに基づき展開されるのに対し、児童期の教育が学問体系の獲得を重視する教科カリキュラムを中心に展開されるといった違いにも現れている。これらの違いは、発達の段階に配慮したものであり、いわば「尊重すべき違い」ということができる。
また、教育課程の構成原理におけるこうした違いは、内容、時間の設定や指導方法等にも顕著な違いをもたらすことになる。幼児期の教育は環境を通して行うこと、つまり幼児を取り巻く人的(教職員自身も含む)・物的要素全てを通して幼児を導くことで、幼児の生活や経験からの学び、自発的意志による学びを重視している。これにふさわしい指導方法が遊びを通した総合的な指導である。幼児期における遊びとは、余暇活動ではなく、学びそのものであり、適切に遊び込む環境(学びに深さと広がりをもたらす環境)をいかに構築するかが教職員の指導における重要な課題となる。一方、児童期の教育においては、教科カリキュラム等の実現のため、各教科等から構成される時間割に基づく学級単位の集団指導が原則となる。ここでは、教育すべき内容を教員がいかに具体化し効果的な指導を行うことによって、児童が目標に到達することができるようにするかが指導における重要な課題となる。これらの違いも、発達の段階に配慮したものであり、いわば「尊重すべき違い」ということができる。
(2)幼児期から児童期にかけて求められる教育課程編成等
しかし、幼児期から児童期の境界の時期の子どもに上記の違いを厳格に使い分けようとすると、子どもの発達や学びに合わないことがある。教育課程の構成原理上は「尊重すべき違い」であっても、先に述べたように幼児期から児童期への子どもの発達や学びはつながっているからである。このように、幼児期と児童期における教育課程の構成原理やそれに伴う指導方法等には、発達の段階の違いに起因する「尊重すべき違い」が存在するものの、こうした違いの理解・実践は、あくまで両者の教育の目的・目標が連続性・一貫性をもって構成されているとの前提に立って行われなければならない。
幼児期の終わりには、自覚的な学びへの芽生えが育ってきており、このため、教科指導こそ行わないものの、気のあった仲間同士の活動だけでなくクラスにおける共通の目標を意識したり、自分の役割を理解したりして、集団の一員としての自覚を育てる活動を重視したり、今まで遊びを通して学んできた知・徳・体の芽生えを総合化し、小学校に向けて学びを高めていくための教育課程の編成・実施が必要となる。
また、児童期の初期においては、学校の時間感覚や集団行動のきまりを理解・遵守させる指導を段階的に取り入れつつ、児童が自分の興味・関心に基づいた活動に夢中になって取り組む中で、課題を発見したり、調べたりするなどによって学びを深めていくことができるような教育課程の編成・実施が必要となる。
(1)「学びの芽生え」の時期から「自覚的な学び」の時期への円滑な移行
幼児期から児童期にかけては、「学びの芽生え」の時期から「自覚的な学び」の時期への円滑な移行をいかに図るかが重要となる。
「学びの芽生え」とは、学ぶということを意識しているわけではないが、楽しいことや好きなことに集中することを通じて、様々なことを学んでいくことであり、幼児期における遊びを通した学びがこれに当たる。一方、「自覚的な学び」とは、学びの意識があり、集中する時間とそうでない時間(休憩の時間等)の区別がつき、与えられた課題を自分の課題として受け止め、計画的に学びを進めることであり、小学校における教科等の授業を通した学びがこれに当たる。
こうした違いは、発達の段階に起因する「尊重すべき違い」であるが、幼児期から児童期にかけての時期は、「学びの芽生え」から次第に「自覚的な学び」へと発展していく時期である。
このため、幼児期から児童期においては、「学びの芽生え」と「自覚的な学び」の両者の調和のとれた教育を展開することが必要である。例えば、幼児期の教育においては、調べる、比べる、尋ねる、協同するなどの様々な手法を組み合わせて楽しみながら課題を解決する取組を通じて、「学びの芽生え」から自覚的に学ぶ意識へとつながっていくような活動を展開することが求められる。一方、児童期の教育においては「自覚的な学び」の確立を図るとともに、楽しいことや好きなことに没頭する中で生じた驚きや発見を大切にし、学ぶ意欲を育てるといった活動を適宜取り入れることが大切である。
(2)直接的・具体的な対象とのかかわり(人とのかかわり、ものとのかかわり)
幼児期から児童期にかけての教育活動、すなわち「学びの芽生え」から「自覚的な学び」への円滑な移行を図る教育活動においては、発達の段階を考慮し、直接的・具体的な対象とのかかわりの中で行われる必要がある。
児童期の教育は、各教科等から構成されているが、幼児期の教育には発達の段階を考慮して、そうした区別は設けられていないという大きな違いがある。しかし、教育活動という視点から整理してみると、幼児期の教育と児童期(低学年)の教育はともに、直接的・具体的な対象とのかかわりを重視している点で共通点が見られる。具体的には、
に大別することができる。また、これらを通じて、対象に内包される法則性や生命や自然に対する畏敬の念といった抽象的で高度な概念とかかわり、獲得していくことになり、さらには、人やものとのかかわりを通して、様々な事物や現象を捉え、認識を深めていくようになる。
なお、このことは、幼稚園教育要領、保育所保育指針に基づく遊びを通した学びや小学校学習指導要領に基づく各教科等における各学年で設定した具体的な資質・能力の育成を目指した学びを軽視するということではない。幼児期の教育では、人とものとのかかわりという捉え方によって児童期とのつながりを見通しつつ、遊びを通じた学びを展開することが、児童期の教育では、人とものとのかかわりという捉え方によって幼児期とのつながりを見通しつつ、各教科等における学びを展開することが必要である。
幼児期から児童期にかけての教育を「3段構造」で捉えたときに、幼児期から児童期にかけて求められる教育とは、次のように整理することができる。
また、その際、幼児期の教育と児童期の教育は、それぞれ発達の段階を踏まえて教育を充実させることが重要であり、一方が他方に合わせるものではないことに留意する必要がある。
幼稚園教育要領や保育所保育指針では、小学校学習指導要領と異なり、方向目標で構成されている。先に述べたように、これは発達の段階からくる「尊重すべき違い」である。 【幼児期の終わりまでに育って欲しい幼児の具体的な姿(参考例)】 (イ)健康な心と体
(ロ)自立心
(ハ)協同性
(ニ)道徳性の芽生え
(ホ)規範意識の芽生え
(ヘ)いろいろな人とのかかわり
(ト)思考力の芽生え
(チ)自然とのかかわり
(リ)生命尊重、公共心等
(ヌ)数量・図形、文字等への関心・感覚
(ル)言葉による伝え合い
(ヲ)豊かな感性と表現
|
(教育課程編成上の留意点) 「学びの自立」…自分にとって興味・関心があり、価値があると感じられる活動を自ら進んで行うとともに、人の話などをよく聞いて、それを参考にして自分の考えを整理したり、さらに考えを深めたりして、自分の思いや考えなどを適切な方法で表現すること。 「生活上の自立」…生活上必要な習慣や技能を身に付けて、身近な人々、社会及び自然と適切にかかわり、自らよりよい生活を創り出していくこと。 「精神的な自立」…自分のよさや可能性に気付き、意欲や自信をもつことによって、現在及び将来における自分自身の在り方に夢や希望をもち、前向きに生活していくこと。 2 児童期以降の教育においては生涯にわたる学習基盤の形成、すなわち「学力の3要素」(「基礎的な知識・技能」、「課題解決のために必要な思考力、判断力、表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)の育成に特に意を用いなければならない。また、「学力の3要素」は「三つの自立」を基礎として成立するものである。 3 このような関係を踏まえ、幼児期の終わりにおいては、この時期にふさわしい「三つの自立」を養うことを目指しつつ、児童期以降における「学力の3要素」を培うことにも留意すること、児童期(低学年)においては、この時期にふさわしい「三つの自立」を養うことを含め、教育活動全体を通じて「学力の3要素」を培うことが求められる。 4 幼児期から児童期にかけての教育においては、自制心や耐性、規範意識が十分に育っていない、小学校1年生などの教室において、学習に集中できない、教諭の話が聞けずに授業が成立しない(いわゆる「小1プロブレム」)などの課題を抱えている学校が見られる。これらの課題は、幼児期の教育の責のみに帰することも、児童期の教育の責のみに帰することもできず、両者が課題を共有し、1~3に留意しつつ共に手を携えて解決のための取組を進めていかなければならない。 (指導計画作成上の留意点) 1 人とのかかわりにおける留意点
2 ものとのかかわりにおける留意点
3 また、人やものとのかかわりを支えるために重要な役割を持つのが言葉や表現である。言葉や表現は「学びの基礎力」を育む上で極めて重要であり、「学びの基礎力」が育まれる中で言葉や表現も発達していく。 4 スタートカリキュラムは、小学校入学当初における学校生活への適応を目指して、各学校において編成するものであり、幼小接続において重要な役割を担うものである。その編成・実施には次の点に留意する必要がある。
|
幼児期から児童期の教育課程や指導計画につながりをもたせるためには、発達の段階に配慮しつつ、以下の点に留意することが必要である。
(1)幼児期から児童期における「三つの自立」
幼児期(幼児期の終わり)における「学びの基礎力」の育成において重要なのは、幼児が人やものに興味をもち、かかわる中で様々なことに気付くとともに、それらを深め、広げていく過程の中で、自己発揮や自己抑制を調整する力を育むことであり、それらを通じて、個人として、また社会の構成員としての自立への基礎を養うことである。
具体的には「学びの自立」「生活上の自立」「精神的な自立」のことであり、それぞれの内容は次のとおりである。また、こうした考え方は、幼児期の教育との接続を図る上で重要な役割を果たす小学校低学年の生活科の目標に通ずるものであることにも留意する必要がある。
「学びの自立」としては、自分にとって興味・関心があり、価値があると感じられる活動を自ら進んで行うとともに、人の話などをよく聞いて、それを参考にして自分の考えを整理したり、さらに考えを深めたりして、自分の思いや考えなどを適切な方法で表現することが求められる。
「生活上の自立」としては、生活上必要な習慣や技能を身に付けて、身近な人々、社会及び自然と適切にかかわり、自らよりよい生活を創り出していくことが求められる。
「精神的な自立」としては、自分のよさや可能性に気付き、意欲や自信をもつことによって、現在及び将来における自分自身の在り方に夢や希望をもち、前向きに生活していくことが求められる。
(2)生涯にわたる学習基盤の形成(「学力の3要素」)
一方、児童期以降の教育において特に意を用いなければならないことは、学校教育法第30条に規定されているように、生涯にわたる学習基盤の形成、すなわち「基礎的な知識・技能」、「課題解決のために必要な思考力、判断力、表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」の育成である。これらは「学力の3要素」と呼ばれるものであり、先に述べた「三つの自立」を基礎として、児童期以降の教育において「学びの基礎力」を育成する上で必要となるものである。
このように、幼児期から児童期(低学年)にかけての「学びの基礎力」の育成は、幼児期、児童期それぞれの時期にふさわしい「三つの自立」を養うことに重点が置かれるとともに、児童期以降の教育において重視される生涯にわたる学習基盤の形成とも密接に関わっている。
(3)「三つの自立」と「学力の3要素」との関係
こうした関係を踏まえ、幼児期の終わりにおいては、この時期にふさわしい「三つの自立」を養うことを目指しつつ、児童期以降における「学力の3要素」を培うことにも留意することが求められる。児童期(低学年)においては、この時期にふさわしい「三つの自立」を養うことを含め、教育活動全体を通じて「学力の3要素」を培うことが求められる。
(4)幼児期と児童期が共通して抱える課題への対応
近年の子どもの育ちについては、基本的な生活習慣が身に付いていない、他者とのかかわりが苦手である、自制心や耐性、規範意識が十分に育っていないなどの課題が指摘されている。また、小学校1年生などの教室において、学習に集中できない、教員の話が聞けずに授業が成立しないなど学級がうまく機能しない状況(いわゆる「小1プロブレム」)にある学校が見られる。加えて、多くの情報に囲まれた環境にいるため、世の中についての知識は増えているものの、それらは断片的で受け身的なものが多く、学びに対する意欲や関心が低いとの指摘がある。
これらはまさに幼児期から児童期にかけての「学びの基礎力」の育成の在り方に関わる問題、すなわち「学びの自立」「生活上の自立」「精神的な自立」を培うことや「基礎的な知識・技能」、「課題解決のために必要な思考力、判断力、表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」といった生涯にわたる学習基盤の形成の在り方に関わる問題である。しかしながら、一般に、幼児期の教育を担当する教職員は児童期の教育にあまり関心を示さず、幼児期の教育とそれ以降の教育との関係を十分に理解・意識せずに幼児を教育する傾向があり、また、児童期の教育を担当する小学校の教員は、幼児期の教育にあまり関心を示さず、十分理解・意識せずに、あたかも児童を白紙の状態から指導しようとする傾向があるといわれる。
幼児期と児童期の教育が連続性・一貫性をもっていることに鑑みれば、これらの課題の責任を幼児期の教育のみに帰することも、児童期の教育のみに帰することもできない。両者が課題を共有し、(1)~(3)に留意しつつ共に手を携えて解決のための取組を進めていかなければならない。
(1)人とのかかわりにおける留意点
1 幼児期
幼児期の終わりにおいては、「社会の構成員」としての自覚をもって活動を始める重要な時期であることに鑑み、各幼稚園、保育所、認定こども園においては、友達同士で自主的に目標をもち、その達成に向け創意工夫してきた仲間関係やクラスへの帰属意識を基盤として、幼児の興味・関心や生活等の状況を踏まえて教職員が方向付けた課題を自分のこととして受け止め、相談したり互いの考えに折り合いをつけたりしながら、クラスやグループみんなで達成感をもってやり遂げる活動を計画的に進めることが必要である。そのため、教職員は指導計画の下でねらいをもって指導に取り組むことが必要である。
2 児童期
児童期(低学年)においては、幼児期における「人とのかかわり」の指導の状況や実際の児童の発達や学びの状況を十分把握しつつ、学校教育活動全体を通じ、与えられた課題について友達と助け合いながら、自分が果たすべき役割(勉強や仕事)をしっかり果たすといった集団規範性の形成を図り、楽しく充実した集団生活ができるような活動を計画的に進めることが必要である。その際、幼児期の教育では、遊びの中から、幼児にルールやきまりを決めさせたりするが、小学校では教員がルールや決まりを児童に指示することが多い。幼児の思いや考えから豊かな学びを展開していくなどといった幼児期の教育の方法を、小学校において、児童の発達段階や各教科等の指導の目標・内容に応じ、取り入れていくことも考えられる。
(2)ものとのかかわりにおける留意点
1 幼児期
幼児期の終わりにおいては、生きる力の基礎となる心情、意欲、態度などである「身近な社会生活、生命及び自然に対する思考力の芽生え」「言葉の正しい使い方」「豊かな感性と表現力の芽生え」(学校教育法)について、今まで学んできたことを総合化し、小学校生活に向けて高めていく時期である。このため、各幼稚園、保育所、認定こども園においては、幼児の興味・関心や生活等の状況を踏まえて教職員が方向付けた課題について、発達の個人差に十分配慮しつつ、これまでの生活や体験の中で感得した法則性、言葉や文字、数量的な関係などを組み合わせて課題を解決したり、場面に応じて適切に使ったりすることについて、クラスやグループみんなで経験できる活動を計画的に進めることが必要である。そのため、教職員は指導計画の下でねらいをもって指導に取り組むことが必要である。
2 児童期
児童期(低学年)においては、幼児期における「ものとのかかわり」の指導の状況や実際の児童の発達や学びの状況を十分把握しつつ、各教科等の指導を通じ、日常生活に必要な基礎的な国語の能力、生活に必要な数量的な関係の正しい理解や基礎的な処理能力、生活にかかわる自然事象についての実感的な理解と基礎的な能力、身近な自然物や人工の材料の形や色などからの発想や構想の能力などの育成のための活動を計画的に進めることが必要である。また、幼児期の教育は、幼児の遊びや生活を基盤に、幼児の興味・関心から活動を展開し、価値ある学びを生み出していくことを中心に展開されている。こうした幼児期の教育の方法を、小学校において、児童の発達の段階や各教科等の目標・内容に応じ、取り入れていくことも考えられる。
(3)人やものとのかかわりと言葉や表現の関係
人やものとのかかわりを支えるために重要な役割を担うのが言葉や表現であり、気付きや思考を深める上で極めて重要である。また、言葉や表現は「学びの基礎力」を育む上でも極めて重要であり、「学びの基礎力」が育まれる中で、言葉や表現も発達していく。
こうした言葉や表現の重要性を踏まえ、各学校・施設においては、言葉や多様な表現を通じて他の子どもや教職員・保護者とのやりとりを行うことで気付きや思考を深めようとする活動が展開されるよう留意することが必要である。
また、小学校においては、特に第1学年において、国語科において幼児期の教育の言葉に関する内容などとの関連、音楽科と図画工作科において幼児期の教育の表現に関する内容などとの関連を考慮することとされていることを十分踏まえて指導の工夫改善を行う必要がある。
なお、教職員には、表に現れた言葉や表現の正確性だけに目を奪われるのではなく、適切に言葉や表現にしようとするために考え込んでいる子どもなどを察知し、具体的に支援することが求められる。
(4)スタートカリキュラムの編成における留意点
スタートカリキュラムは、小学校入学当初における学校生活への適応を目指して、各学校において編成するものであり、幼小接続において重要な役割を担うものである。スタートカリキュラムの編成・実施に当たっては、幼児期の生活や教育の成果を積極的に生かして、その上に立って、小学校教育を進めるという視点が重要である。
児童期の教育において、幼小接続の中心的な役割を果たすのが生活科である。生活科は、教科の性格上、国語、音楽、図画工作などの他教科等との合科的・関連的な指導を行うことが期待されており、その指導に当たっては、小学校低学年全体を視野に入れて行われることが重要である。
このような生活科の性格を踏まえ、小学校学習指導要領生活科の解説では、小学校に入学した児童の学校生活への適応を進めるために「スタートカリキュラム」を編成し、生活科を中心とした合科的な指導を積極的に行うことが示された。
<小学校学習指導要領 第1章 総則> <小学校学習指導要領解説 総則編> <小学校学習指導要領 第2章 第5節 生活> <小学校学習指導要領解説 生活編> |
スタートカリキュラムを編成する上での留意点等は次のとおりである。
(スタートカリキュラムの意義)
幼児期と児童期の教育との接続を円滑に進めることは、児童の円滑な小学校生活のスタートにつながるとともに、小学校としても現在問題となっているいわゆる「小1プロブレム」の発生を防止することにつながるなど、小学校側に大きなメリットを与えるものである。
このため、各小学校では、従来から、小学校入学当初に、学校や学級生活への円滑な適応に関する指導が行われており、学級活動、学校行事、児童会活動など特別活動においても、接続を意識した生活や集団、学習への適応指導や集団活動が行われている。
それに加えて、小学校入学時に幼児期の教育との接続を意識したスタートカリキュラムが生活科などを中心に全国の小学校において進められており、今後ともその取組を進めていく必要がある。
スタートカリキュラムについては、各地域や小学校、児童の状況が異なることから、どのような期間、どのような方法で行うべきかは、それぞれの小学校において判断し、適切に実施されるべきものである。
(スタートカリキュラム編成における主な留意点)
そのような多様性を踏まえた上で、おおむね各小学校において次の点について配慮した適切なスタートカリキュラムを進めることが必要である。
1 幼稚園、保育所、認定こども園と連携協力すること
幼稚園、保育所、認定こども園と小学校との間で、子どもに対する連続性・一貫性のある教育を推進するため、相互に連携協力し、子どもの実態や指導の在り方などについて理解を深めた上で、スタートカリキュラムを編成することが重要である。このことは、それぞれの役割と責任の再確認、広い視野に立った教育活動の改善充実にもつながるものである。
このほか、スタートカリキュラムに、幼児と児童の交流など幼小合同での活動を適宜取り入れることも考えられる。
2 個々の児童に対応した取組であること
小学校入学時は、幼稚園、保育所、認定こども園において教育を受けてきた者、受けてきていない者など、児童一人一人の発達や学びの個人差があることから、児童一人一人の幼児期の教育や経験を見通したきめ細かい指導が求められる。
また、小学校になじめず不適応を起こす児童や、学校が把握しないまま特別な支援が必要な児童が入学することなども考えられることから、それらの児童に対する適切な支援が必要である。
こうした個々の児童に対応したきめ細かい指導や適切な支援のためには、幼稚園、保育所、認定こども園と小学校との間で連携協力し、子どもの発達や学びの状況に関する情報を共有することが大切である。
3 学校全体での取組とすること
小学校入学当初の時期は、その後の学校生活を支え、適切な義務教育のスタートを切るという大切な時期であり、学年における合同授業や異学年の児童との交流活動を行う場合も想定されることから、その意義等について学校全体で共有することが必要である。
また、ティーム・ティーチングや少人数指導など、個々の児童に対応した取組を行うために、学級担任や学年の全担任が参加することはもとより、専科教員や養護教諭、栄養教諭等も含め対応可能な教職員により対応するような例も見られ、学年単位はもとより学校全体での取組を進めることが適当である。
さらに、学校地域支援本部などの協力を求め、ボランティア等の協力を得ることも考えられる。
4 保護者への適切な説明を行うこと
児童の円滑な小学校生活への適応を図る上で、保護者による児童への支援が重要であり、スタートカリキュラムの意義や具体的な指導について保護者に適切に説明することが求められる。
5 授業時間や学習空間などの環境構成、人間関係づくりなどについて工夫すること
幼児期の教育における学びの形態を踏まえ、45分の授業時間にとらわれず、例えば20分や15分程度のモジュールで時間割を構成したりすることも考えられる。また、小学校という学習空間への適応やそこでの人間関係づくりなどが円滑に行われるようなスタートカリキュラムの編成も考えられる。
上記のような点に留意し各小学校において、児童の実態にあわせて実施することが適当である。現在でも各小学校において多様な取組が進められており、各小学校における取組を支援するため、国においても、先進的な取組について事例集を作成するなどの情報収集・提供を進めていくことが求められる。
1 幼小接続の取組は、教職員同士の人的交流(連携)からはじまり、次第に両者が抱える教育上の課題を共有し、やがて幼児期から児童期への教育のつながりを確保する教育課程の編成・実施へと発展していく。その際、都道府県・市町村には、教育委員会を中心として関係部局が連携し、現場へ積極的な支援を行うなどのリーダーシップが求められる。 2 幼小接続のための連携・接続の関係を明らかにして各学校・施設が共有し、後戻りのない取組を進めていくことが必要である。その際、都道府県や市町村の教育委員会等があらかじめ連携・接続に関する基本方針や支援方策を策定し、各学校・施設はそれらを踏まえて連携や接続のための取組を進めることが望ましい。 3 幼小接続に関し教職員に求められる資質としては、
4 幼小接続を積極的に進めるためには、幼児期と児童期をつながりとして捉える工夫が必要。これまで述べてきた「学びの基礎力」の育成や、「学びの芽生え」の時期と「自覚的な学び」の時期、「人とのかかわり」と「ものとのかかわり」などに加えて、幼児期の終わり(年長)から児童期のはじまりの時期(低学年)をつながりとして捉える「接続期」という考え方を普及することが必要。「接続期」の始期・終期については、各学校・施設において、適切な期間を設定して幼小接続の実践を工夫していくことが必要。また、国においては、研究開発学校等において接続期に関する研究を支援するなどの取組が求められる。 5 家庭や地域社会との連携・協力が重要であり、共に子どもを育てていくという視点に立って、家庭や地域社会との連携を深め、子どもの生活の充実と活性化を図ることが大切。このため、幼小接続に関する保護者の理解を得て小学校就学の不安の解消のための取組を行うことが必要。また、障害のある子どもに対する幼小接続に当たっては、家庭や医療、福祉等の関係機関と連携することが必要。家庭や地域の人々、関係機関の理解の広がりは、各学校・施設の教育への連携・協力の意識を高めることが期待できる。 |
(1)連携から接続への取組と教育委員会等の役割
幼小接続の取組は、教職員の交流などの人的な連携からはじまり、次第に両者が抱える教育上の課題を共有し、やがて幼児期から児童期への教育のつながりを確保する教育課程の編成・実施へと発展していく。
こうした取組を進める上で重要なのが、教育委員会をはじめとした各学校・施設の所管部局の役割である。とりわけ、各学校・施設同士の合意形成や連携の開始などの初期段階においては様々な困難を伴うことから、教育委員会を中心として関係部局が連携し、地方公共団体としての積極的な支援を行うなどのリーダーシップを発揮する必要がある。
(2)連携・接続に関する基本方針等の策定・共有
第1章で述べたように、多くの都道府県・市町村が接続の重要性を認識しながらも、「接続関係を具体的にすることが難しい」などの状況にある。連携・接続の取組を後戻りせずに進めていくためには、各教育委員会等がリーダーシップを発揮して、各学校・施設が連携から接続へと発展する過程を共有し、組織的・計画的に取り組むことが必要である。
連携から接続へと発展する過程のおおまかな目安は、次のとおりである。
ステップ0 連携の予定・計画がまだ無い。
⇒地方公共団体が連携の重要性を理解するための教職員向け説明会・研修会等を開催するなど、連携に向けた環境づくりが必要。連携・接続のために各学校・施設同士の合意ができる環境を整えていく
ステップ1 連携・接続に着手したいが、まだ検討中である。
⇒教育委員会等の支援のもと、各学校・施設に担当者を置き、定期的に意見交換会を開催。意見交換の中から、交流授業、行事などを企画・実施し、子ども同士の交流、教職員の交流を推進。
その際、各学校・施設では全教職員の理解と協力のもとで行われるよう留意。
ステップ2 年数回の授業、行事、研究会などの交流があるが、接続を見通した教育課程の編成・実施は行われていない。
⇒年数回程度の授業、行事、研究会などの交流を年間指導計画などに位置付けて実施。事前だけでなく事後の反省・検証を行うことで次につなげていく。教育委員会等の主催・支援のもと、接続を見通した教育課程の編成・実施に向けた取組を始める。
ステップ3 授業、行事、研究会などの交流が充実し、接続を見通した教育課程の編成・実施が行われている。
⇒恒常的な授業、行事、研究会などの交流に発展。連携の実践を踏まえ、接続を見通した教育課程を編成・実施する。
ステップ4 接続を見通して編成・実施された教育課程について、実践結果を踏まえ、更によりよいものとなるよう検討が行われている。
⇒接続を見通した教育課程を編成・実施するとともに、学期末ごとや年度末に事後の反省・検証を行うことにより、PDCAサイクルを確立し、次年度以降の改善につなげる。
その際、都道府県や市町村の教育委員会等が上記の目安を参考にして、あらかじめ幼小の連携・接続に関する基本方針や支援方策を策定し、各学校・施設はそれに基づき連携や接続のための教育課程の編成・実施を進めることが望ましい。
いずれにしても、各学校・施設の所管部局は、連携・接続の進捗状況を把握・評価し、各学校・施設に対し適切な指導・助言等を行うことが求められる。
(1)幼小接続に関し教職員に求められる資質
幼小接続に関し、教職員は、まず長期的かつ柔軟な視点で幼児期と児童期をつながりとして捉え、その上で発達の段階などに留意しつつ、子どものよさや長所を生かす教育活動を冷静に計画・構成し、使命感や情熱を持って目の前の子どもに集中し教え導くことが求められる。
具体的には、
1
幼児期と児童期の教育課程・指導方法等の違い、子どもの発達や学びの現状等を正しく理解する力
2
幼児期の教育を担当する教職員は「その後」の児童期の教育を見通す力児童期の教育を担当する教員は「それまでの」幼児期の教育を見通す力
3
1、2を踏まえ「今の」教育活動を構成・実践する力
4 他の教職員や保護者と連携・接続のために必要な関係を構築する
が求められる。
特に、1~3については、幼稚園、保育所、認定こども園の教職員が幼稚園教育要領や保育所保育指針を理解・実践するだけでも、また、小学校の教員が小学校学習指導要領を理解・実践するだけでも到達しえず、両者の連続性・一貫性を理解し実践することによって初めて成り立つものといえる。
(2)研修体制
教職員の資質向上のためには、それにふさわしい以下のような各学校・施設研修や行政主催研修が必要となる。
各学校・施設研修…1各学校・施設で行う園(校)内研修と、2幼小の関係施設による合同研修。
1の園(校)内研修は、例えばこの報告書をテキストとしながら、教育の目的・目標や教育課程の「連続性・一貫性」と「尊重すべき違い」との関係との整合を体系的に理解することに重点を置くことが必要である。また、幼児期側は学習指導要領、児童期側は教育要領・保育指針を熟読し理解を深め、その上で自らの教育課程の在り方を再検討し、関係する学校・施設等への疑問・要望等を整理することが重要である。
2の合同研修は、1を実施した上で開催し、具体的な連携・接続の取組を進める環境を醸成する上で重要である。互いのよさや違いを実感する観察研修(授業・保育等の見学等)から実際の教育活動に携わる参加研修へと進み、接続を見通した教育課程の編成・実施への基盤づくりとすることが望ましい。
※上記の研修を各学校・施設単独で毎年行うことが困難な場合には、例えば、1⇒2を複数年度で実施することや共催するなどの工夫が必要である。
行政主催研修…1理論研修と2実地研修。
1の理論研修は、例えばこの報告書の内容について、教育学的、心理学的に更に深めることなどが考えられる。
2の実地研修では、各学校・施設研修の2でも言及した観察研修、参加研修を実施した後、接続を見通した教育課程の編成・実施のための相互参加実習を行うことが考えられる。
※行政主催研修を市町村単独で毎年行うことが困難な場合には、例えば、1⇒2を複数年度で実施することや、都道府県や複数市町村と共催するなどの工夫が必要である。
各教育委員会等や各学校・施設においては、上記の内容を踏まえて研修体制を整え、組織的、計画的に研修を進め、教職員の資質向上に努めることが必要である。
なお、大学・短大においては、本報告書の指摘を踏まえ、教員・保育士養成課程における教育の検証・再編を行うなど、幼小接続に関する教職員の資質向上に努めることが求められる。
(1)「接続期」という捉え方の普及
幼児期の教育と児童期の教育は、隣接する教育段階にありながら、発達の段階の違いが強く意識されてきた。しかし、幼小接続を進める観点から、これからは幼児期と児童期をつながりとして捉える工夫が求められる。このため、本報告書では、幼児期と児童期の教育目標を「学びの基礎力」の育成という共通概念で捉えたり、教育活動を「人とのかかわり」と「ものとのかかわり」という共通概念で捉えたりするなどの工夫を行っている。
加えて、本協力者会議では、幼児期と児童期の教育双方が接続を意識する期間を「接続期」というつながりとして捉えることを提唱したい。幼児期と児童期自体をつながりで捉えようとするこの考え方は、これまでも一部の教育関係者の間で行われてきたが、今後、これが関係者の共通概念として一層普及することは、幼小接続の取組を積極的に進める上で極めて重要であると考える。
(2)「接続期」の期間について
接続期は、「学びの基礎力」の育成期間である幼児期と児童期の教育双方が接続を意識する期間であるが、幼児期から児童期の単なる馴致(じゅんち)期間と捉えるべきではない。幼児期の年長から小学校低学年の期間における子どもの発達と学びの連続性を踏まえて、接続期を捉える必要がある。
なお、実際に、各学校・施設において接続期の始期・終期をどのように設定するかについては、各学校・施設が、地域や各学校・施設、子どもの実態等を踏まえ、適切な期間を設定して幼小接続の実践を工夫していくことが必要である。また、国においては、研究開発学校等において接続期に関する研究を支援するなどの取組が求められる。
教育基本法第13条において、「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする」ことが規定されている。各学校・施設においては、家庭や地域の人々、関係機関と共に子どもを育てていくという視点に立って、家庭や地域社会との連携を深め、子どもの生活の充実と活性化を図ることが大切である。
一方、小学校就学前後の保護者は、我が子がうまく小学校生活に馴染めるか不安を抱き、また、そうした不安を解消してくれる機会が増えることを望んでいる。
このため、そうした保護者の不安を解消し、幼小接続に関する理解を深めるため、例えば、各教育委員会や各学校・施設が連携・接続の意義等について説明する機会を設けたり、小学校における学習や生活について情報提供したり、小学校と幼稚園等が双方の保護者と意見交換する機会を設けたり、幼小の合同授業等を参観できる機会を設けたりすることが重要である。このほか、幼稚園、保育所、認定こども園の保護者と小学校の保護者との連携を促し、子育てに関する経験などが保護者同士で共有されるようにすることも効果的である。また、発達障害を含む全ての障害のある子どもに対する幼児期の教育から児童期の教育の円滑な接続に当たっては、家庭や医療、福祉等の関係機関と連携することが必要である。
各学校・施設での教育に対する家庭や地域の人々、関係機関の理解の広がりは、各学校・施設における教育への連携・協力の意識を高めるといった効果が期待できる。
初等中等教育局幼児教育課