今後の学級編制及び教職員定数の改善に関する意見(日本教育大学協会)

平成22年4月27日

今後の学級編制及び教職員定数の改善に関する意見

日本教育大学協会長 村松 泰子

 我が国の教員養成は、戦後の大改革により「大学における教員養成」という理念と施策をとりいれ、当時世界的にも先駆的なものでした。その後、欧米そしてアジア地域・諸国の教育改革は急激に展開し、日本学術会議で指摘するように「1980年代以降、欧米諸国の教育改革の中心は教職の専門職化であった。・・・この改革は、多くの国々で現在も進行中であるが、日本は先進諸国とくらべて約15年の後れをとっている。」(「要望これからの教師の科学的教養と教員養成の在り方について」2007)という状況でもあり、改めて新しい教員養成と教師教育のあり方が求められていると言えます。

 日本教育大学協会は、教育者の養成に責任を持つ大学の連合体として、「教員の資質向上と教育に関する学術の発達を図り、我が国の教育の振興に寄与すること」を目的に1949年に創立されました。本協会は創立以来、教員養成と教員研修の充実と改善、教師の資質能力の向上を目指し、とりわけ近年では教師の「質」の確保・保障という点から教育・研究活動を続けてきましたが、このたびこれらの状況を念頭に置きながら、本協会会長の立場から「今後の学級編制及び教職員定数の改善に関する意見」を申し述べます。なお、教師教育の充実と発展のためには、教員養成機関と教育委員会等との連携の重要性に鑑み、各自の独自性を充分尊重した上で、教員養成ならびに現職教師教育の充実という観点から意見を述べさせていただくことを申し添えます。

1 教育実習による実践的指導力の質保障

 教員養成において「教育実習」は極めて重要な教育プログラムである。大学卒業直後の新任教師に「学級や教科を担任しつつ、教科指導、生徒指導等の職務を著しい支障が生じることなく実践できる資質能力」(平成9年7月28日、文部省の「教育課程審議会第一次答申」)を保障し、その後の自己研鑽への基盤づくりを期待されているからである。また、これからの教育実習は期間の延長の議論のみならずその質的充実が課題となっている。とりわけ、実習校や実習生指導の担当教諭に任せるのではなく、大学・学部授業との往還や各自の実習経験の省察が不可欠となっている。

 このような教員養成における質の担保の観点から、各学校における教育実習生の受入体制の充実が不可欠であり、そのための充分な教員配置が望まれる。そのことは、実習校での教師の長時間勤務や複合的な教育課題に追われている実習校の状況(平成19年3月、文部科学省の「教員勤務実態調査」)を勘案すると急務であると考えられる。

2 大学院修了後の現職教員のフォローアップ体制の構築

 現在、大都市部での初任者教員の大量採用状況が一つの課題となっている。その本質は教員養成の計画的養成に関わるものではあるが、現実的には初任者ならびに若手教員そして中核的教員、管理職教員のそれぞれの層に即した教育・研修の充実と拡充という課題でもある。

 現在まで、新構想大学院(上越・兵庫・鳴門教育大学)をはじめ、教員養成系大学の既存の教育学研究科(修士課程)においても、現職教員を積極的に受け入れ、資質向上のための機能と役割を果たしてきている。また平成20年度に専門職大学院として発足した教職大学院は、地域や学校における指導的役割を果たし得る教員として不可欠な確かな指導理論と優れた実践力・応用力を備えた「スクールリーダー」の養成を開始した。

 これら修士課程ならびに専門職課程修了者は、現職復帰後には中核的な教育実践者、副校長等の管理職、教育委員会の指導主事等として活躍することが期待もされているし、現に活躍している。

 これら現職教員が修士課程ならびに専門職課程での学修を可能とするためには、研修者に対応した代替教員の確保が行える体制整備の拡充が不可欠である。実践的力量をさらに高めたい教員ほど現任校での貢献度も高い傾向がある中で、代替教員の確保と大学院での研修後の適切な職場・職域確保等、派遣元の人的フォローアップ体制の構築が是非とも必要である。現に、教育委員会・指導主事が市町村レベルにおいては配置されていない場合も少なくなく(文部科学省の「平成19年度地方教育費調査」)、現職教員の研修機能と質向上のための教員配置計画の拡充は焦眉の課題といえる。

3 学校教育改善の推進担当教員(正規教職員)の配置

 近年、学校教育の改善が進展する中で、スクールカウンセラーやT.T.(ティームティーチング)、少人数指導、特別支援コーディネーター、図書館司書、栄養教諭、そして地域住民・市民のボランティア等々の学校教育支援員の配置・加配等の施策が提出されている。これらは、学校での教育機能を回復し、拡充するために不可欠なものとして制定されたものであり、教育職とともに専門的職業人・ボランティアと協働する地域コミュニティでの学校教育回復のための新しいシステムづくりの一環である。

 これら学校教育改善の施策を具体化し、促進するためにはその中核的なキーパーソンが不可欠であり、その職責を正規採用教員として確保する等が急務であると考えられる。このことは、上記職掌内容が対処療法的な教育活動・補充教育では根本的な改善には至らないという点に鑑み、「少人数加配」等の加配措置がされる場合にも正規教員の配置が急務であることを付記しておきたい。

4 正規採用教員の拡充と臨時免許状による教員措置の解消

 現在、各学校の教育職配置数は基本的に学級定員数によって規定されている。その配置教員は、正規採用教育職員によらないで「兼務者」として教育活動に従事している場合(いわゆる非常勤)が少なくない(文部科学省の「平成21年度学校基本調査」)。その割合は小学校よりも中学校の場合には2倍以上となっており、特に中学校臨時免許状の発行により技術教育などいわゆる授業時数の少ない教科では正規の免許状を有しない教員が数多くおり、その教員が当該教科を担当しているという現状がある。これは財政的な問題が多分にあると思われるが、生徒の学ぶ権利を平等に保障するものではなく、かつ基礎・基本の学習と青年期前期における人間教育として単なる授業補填者としての教師確保という施策では、この時期の教育活動の改善は期待することはできないと思われる。このためこれらの教員の適正な正規採用教員の配置が不可欠となっている。

5 外国人児童生徒に対する教育への対応

 学校教育の新しい課題として、外国人児童生徒の教育がある。文部科学省の平成20年度の「日本語指導が必要な外国人児童生徒数」調査によると、その数は28、575人に達し、前年度と比較し12.5%増加している。近年は、外国人児童生徒の滞在の長期化、定住化も進行しつつある。外国人児童生徒の喫緊の教育課題として、(1)就学前の教育への支援、(2)教科学習についていくための日本語力の支援、(3)日本語教員、指導員等の増加、(4)外国人児童生徒のための教員研修がある。特に、日系ブラジル人を中心にした集住地域では、児童生徒数が増加し、日本語力が弱いため「低学力」の子どもが多く、多くの問題を抱えている。このためには、外国人児童生徒のために加配教員の増員、特に日本語教育を専門とする教員の配置が不可欠である。

6 教員の給与待遇の改善や職種等の見直し

 教員免許制度の見直しに関連し、絶えず学び続ける教員のライフステージを確立するため、今後は上級免許状取得者に対する給与待遇、プライオリティの確保等が望まれる。特に、教育実習を勤務時間を超えて指導する担任教諭の手当保障、大学との連携研究、地域との連携研究を行うための超過勤務手当などの保障が急務である。

 また、教員の多忙化に対応するため、学校運営を支える教員以外の事務職員を含めたスタッフによるサポート体制の充実が必要である。(平成22年4月17日、「熟議」における参加者の意見)

7 学級編制等について

 昨今の児童・生徒の家庭環境、学習環境等の変化により多様な教育的ニーズがある中で、公立諸学校では少人数学級制又は複数担任制による児童・生徒にきめ細かな指導ができるような学級編制が望まれる。

 また、今日の複合的な現代的教育実践課題に積極的に取り組むためには、以上で述べてきたような教育職員配置の拡充が不可欠であり、そのための計画的政策の策定が喫緊の課題となっている。

 以上のことを鑑み、教育職員定数を規定している学級編制基準を早急に40名未満にすることが必要である。このことは、先進諸国における動向となっている。

 なお、恒常的に研究的実践を開発している国立大学法人の附属学校園においては、先駆的実施が可能となるような施策も必要となっていることを付記しておきたい。

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