資料1‐4 エキスポランドジェットコースター事故現場に居合わせた児童、生徒の保護者の皆様へ
去る5月5日午後0時50分ごろ、大阪の遊園地エキスポランドで痛ましい事故が発生しました。大型連休の中楽しい一日を過ごそうとしていた子供たちにとって、たまたまこの事故に出会ってしまったことは、たいへんなショックだったと想像されます。さらに自分自身もその直前に、このジェットコースターに乗っていたとすると、そこで命が失われたという事実は、言いようのない大きな恐怖感になって、子供たちの心にのしかかってきたはずです。
このような大きなショック、恐怖に遭遇すると、私たちの心にはさまざまなマイナスの変化が起こります。それは次のようなものです。
- 恐怖の記憶がそのまま凍りついてしまい、自分自身でコントロールすることができなくなってしまう。
そのため、日常生活の中で突然その記憶がとけだし、「思い出したくないのにいやなことを思い出す(フラッシュバック)」、「怖い夢を見て夜中に何度も起きる」といったことが起こります。
- いつ記憶が再現するか分からないので、感覚的、身体的にとても過敏になりいつもびくびくしている。
環境のいろいろな変化に敏感になり、どきどきしたり、小さな物音にびっくりしたり、涙が止まらなくなったりといったことが起こります。また、電車や車の音に敏感に反応するといったことも起こるかもしれません。
- 注意がいつも凍結した記憶に向けられているので、感覚的な過敏さとは反対に、意識や思考が鈍感になる。
注意力が散漫になりわけもなくぼーっとしていたり、日常的な記憶があいまいになったり、といったことが起こります。
- 事故に関連したもの、場所を、意識的、無意識的に避ける
もう二度と遊園地に行きたくない、二度とジェットコースターには乗りたくないと思うのは当然として、新聞やテレビでそのニュースが流されたら見たくないと思うでしょうし、それを話題にすることも避けようとするでしょう。
- 上記の変化に付け加えて
- 夜一人で寝られなくなった
- 夜一人でトイレに行けない
- いつもよりお母さんに甘える
- いつも暗く沈みこんでいる
- いらいらして人や物にあたる
といったことがおこっているかもしれません。
事故直後から1週間くらいのあいだに、このような心の変化が起こってきます。これは誰にでも起こることです。大きな体験をしているのに、何事もなかったかのように平然としていることのほうが異常だと考えてください。ただし個人差がありますので、強く反応する子と、比較的元気そうに見える子がいるということはあると思います。
この変化は、大体1~2ヶ月くらい続きますが、普通は自然に収まっていきます。ただし、それが1~2ヶ月で収まらなければ、医療機関での治療が必要となる場合もあります。この変化を自然に収めていくためには、子供たちへの次のようなかかわりが必要です。
- もう大丈夫という安心感、安全感を十分に感じさせる
具体的には次の2つのことを心がけてください。
- A 「こんなつらい目にあったのだから、心にいろいろな変化が起こるのは当然のことなんだよ、それは誰にでも起こるんだよ」という安心感。
涙が出たら、それでいいんだよと言ってやってください。いらいらしていたら、つらいんだねと共感してあげてください。
- B 「いつもお母さんがそばにいるからね」という安心感
一人で寝られなかったら寄り添ってやってください。
- つらいことを無理に思い出させようとしない。
「どんな様子だった?」とたずねるなど、興味本位にそのことを話題にすることのないようにしてください。
- 記憶にふたをしておさえこもうとしない。
「つらいことは早く忘れなさい」などとつい言ってしまいがちですが、自然に事態と向かい合うという姿勢を心がけてください。
- しんどくなったときは、深呼吸やマッサージなど身体的なリラックスを心がける。
フラッシュバックなどが起こると、心や体が硬くこわばってしまいます。そんなときは言葉でなぐさめるより、身体的なリラックスが効果があります。
以上のようなことに注意して、やさしく寄り添ってあげてください。
私たちが生きていくうえで、つらい体験は避けることができません。避けるのではなく、つらい体験に適切に向き合うことによって、心の柔軟性を広げていくことが重要です。
何か不明なこと、疑問なことがある場合は、子供たちの通学している学校のスクールカウンセラーにご遠慮なくご相談ください。
2007年5月8日 兵庫県スクールカウンセラースーパーバイザー
臨床心理士 高橋 哲