兵庫県では、震災や須磨事件への取り組み、その後の予防的対応の試みなど、他地域に先駆けた様々な活動を行ってきたことを受けて、スクールカウンセラーの基本姿勢として、
A 相談室で待機するカウンセリング活動
に加えて
B 対象に積極的に接近するカウンセリング活動
も求められている。そしてその対象も、「いじめ・不登校」だけではなく、暴力行為などを含む「あらゆる問題行動」である。
相談室で待機するカウンセリング活動とは、窓口となる教員が、面接のウェイティングリストを作成し、そのリストにあわせて学校内の相談室で次々に生徒や保護者の面接をこなしていくようなスクールカウンセリングのあり方である。一般的にはスクールカウンセラーの仕事はそのような形で理解されているかもしれない。例えば、不登校が多発する学校で相談対象者が多くいる場合には、これはたいへん重要な業務である。こうした業務が中心となる場合には、勤務する日の1日中相談室で面接をこなさなければならない場合もあり、「忙しい先生だが何をしているのかはもう一つよく分からない」といった評価を受けることもある。従って、担当しているケースに関して、担任や学年、教育相談担当者や養護教諭などと定期的に協議を行い、何がどのように進んでいるのかなど、ケースについての共通理解をもつ努力を怠ってはならない。また、1日中相談室にいると、スクールカウンセラー自身にも、その学校で今起こっていること、たとえばいじめがあってクラスがもめているとか、生徒指導上の問題が多発して一般生徒が高ストレス状況に置かれているとかが見えなくなってしまうことも多い。仮にそんなときに重大な事件が発生すると、その問題に関してスクールカウンセラーは何をしていたのか、せっかく配置されているのに十分な活用がなされていなかったのではないかといった批判が起こりうる。スクールカウンセラーには、何をしているでもない、ただ存在しているだけの時間、即ち学校そのものを感じ、観察する時間が必要である。従って1日の全てを面接相談のみで埋めてしまわないようなスケジュール作りも重要である。
対象に積極的に接近するカウンセリング活動とは、カウンセラー自身が面接に至る状況を作り出していくような関わり方である。一般的に学校で問題となるケースは、当事者が面接を希望していなかったり、誰が面接対象者であるのかがわかりにくかったりするものが多い。そして実は、学校が一番困っていたり、一番カウンセラーの関わりを必要としていたりするのはそうしたケースなのである。例えば次のような場合が考えられる。
このようなケースではコンサルテーションや協議が重要な意味をもつ。例えば関わりの難しい不登校を考えてみよう。まずそうしたケースの中心にいて、それに関わらねばならないしその意欲もあるが、その方法がわからずに困っている担当者とのコンサルテーションの場を設定する。それは職員室の片隅でもよいし、談話室のような場所であってもよい。そこで、そのケースの困難さ難しさに十分共感したうえで、そのケースに関係する職員による協議の場を持つことを提案する。協議では分散している情報を集約し、誰がどのようなかかわりをすることができるのかを、もつれた糸をほぐしていくように明らかにしていく。家族に問題があり、長期に欠席している関わりの難しい不登校では、情報を分析し生徒の家族の中で、話の通じやすいキーパーソンをみつける。次に担任にその家族との連絡をとってもらう。そのあとカウンセラーがその家族に来談を促し、面接し、その情報をもとに再び協議の場で現状の分析を行う。分析の結果親の養育に問題がある場合は、生徒指導担当が子供センターなどの児童福祉にかかわる機関と連携し、また必要があれば保健センターなどの精神保健にかかわる機関とも連携しながら、総合的な観点で問題の解決を図っていく。そうした関わりのコーディネートをスクールカウンセラーが行っていかなければならない。対象に積極的に接近するカウンセリング活動とは、そのような関わりの仕方をいう。
このように兵庫県におけるスクールカウンセラーの基本姿勢は、災害の心のケア、事件への緊急危機対応の経験を受けて、「待機するカウンセリング」だけでなく、「対象に積極的に接近するカウンセリング」をも念頭においた、志向的、活動的なものであることが望ましい。このような活動をたとえていうと、兵庫県のスクールカウンセラーの基本姿勢は、救急心理臨床と呼ぶことができるだろう。救急医療が、最初期の処置を行うために、外科、内科にとどまらず医学のあらゆる領域の知識、技能を必要とするのと同じように、救急心理臨床も臨床心理学のあらゆる領域の知識、技能が要請されるのである。
初等中等教育局児童生徒課