3 兵庫県のスクールカウンセラー制度の歩み

  兵庫県は、スクールカウンセラー制度について、他の地域にはない独特の歴史をもっており、そのことが現在の県のスクールカウンラー制度に大きな影響を与えている。兵庫県のスクールカウンセラーは、そのことをよく自覚して活動しなければならない。

(1)文部省の調査、研究事業としてのスクールカウンセリングの時期

  当初文部省のスクールカウンセラー制度制定の目的は

  1. 激増するいじめ不登校に対応する
      →待機する相談業務
  2. 教職員のカウンセリングマインド獲得を援助する
      →研修業務

  の2点であった。そして実際の活用のための調査研究として、平成7年度に、各都道府県に小中高各1名ずつ計3名のスクールカウンセラーが配置された。しかしながら、兵庫県では、阪神淡路大震災の被災者への援助のために、それに加えて震災関連配置として13名、計16名の配置が行われた。従って、その目的には上記の1.2.に加えて

  1. 震災被災者への心のケア
      →接近する相談業務

  ということも加えられていた。この3.の目的があったために、須磨事件への臨時配置(スクールカウンセラーの緊急危機対応)という先進的な試みが行なわれたことは、特記されなければならない。これら災害や事件といったストレス状況への対応という経験を経る中で、3.の目的の発展として、予防的対応の試みが、その後各校で実験的に行なわれた。その中身は

  • a 生徒の日常的なストレスを調査し、ストレスの高い者には予防的に面接を行い、ストレスが症状化する前にそれに対処する。
  • b 一般生徒の日常的なストレス除去のために、授業などに、ストレスマネージメントを取り入れ、クラスや学校全体のストレスを低減する。

  などである。そのような予防的対応を通して、「いじめ、不登校」だけではなく、非行や暴力行為などの生徒指導に関わる問題行動、保健室に集まる頭痛、腹痛などの身体化された症状、摂食に関わる問題、虐待その他のトラウマによる自傷や健忘を含む解離性の症状、また、広汎性発達障害や特別支援教育に関わる問題などの広い領域において、スクールカウンセリングの有効性が実証されてきた。

(2)県への委託事業としてのスクールカウンセリングの時期

  5年間の国による調査、研究事業の期間を経て、平成13年度からは、この事業は県への委託事業となった。これ以後は各都道府県でそれぞれ特色のあるスクールカウンセラー事業が展開されていくことになる。
  まず制度的な変化としては、兵庫県では、それまで小、中、高に分散していたスクールカウンセラーの配置先を中学校に一本化し、これを拠点校配置として、中学校校区の小学校についても中学校のスクールカウンセラーに担当させるという方式を採用した。(高校については、キャンパスカウンセラー制度と呼ばれる県独自のカウンセラー派遣制度を制定し、年間6回~20回程度のカウンセラー派遣を行っている。)
  また活動の中身としては、兵庫県では、上記の震災被災児童生徒への心のケアや、須磨事件における学校への緊急危機対応の流れを受けて、スクールカウンセリングを「いじめ・不登校に対応する」だけでなく、「あらゆる問題行動に対応する」活動であると位置づけるようになった(資料2)。従って兵庫県のスクールカウンセラーは、相談室に待機して不登校生徒やその保護者のカウンセリングを行うだけでなく、学校で起こるあらゆる問題行動にアンテナを立て、専門の臨床心理学のあらゆる知識、技術を動員して、積極的に対象に接近し、調査、分析を行い、カウンセリングやコンサルテーションの機会を作り出し、問題解決のために活動することが求められている。
  さらに、兵庫県では、全国に先駆けて、平成13年度にスクールカウンセラーのスーパーバイザー制度を制定した。そしてこのスーパーバイザーの業務として、一般スクールカウンセラーのスーパービジョンだけでなく、県下で重大な災害、事件、事故などが発生したときには、現地に出向き、当該校のスクールカウンセラーと協力しながら緊急危機対応、「心のケア」を行うということが公的に規定された。これは全国に例を見ないことであった。
  緊急危機対応については、学校外のさまざまな社会資源との連携が求められるがその連携をコーディネートするために、平成14年度には、学校管理職経験者、警察経験者、精神科医、臨床心理士などによる学校サポートチームが作られ、各教育事務所にこのチームを配置し、子供センターなどの児童福祉にかかわる機関、病院などの医療機関、警察、家庭裁判所などの司法に関わる機関との連携に成果をあげている。そして、スクールカウンセラーのスーパーバイザーも、精神科医とともにこのチームの一員として活動している。

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