資料2 学校危機へのポストベンション-校内での自殺、生徒同士の殺人事件等へのCRT活動の紹介-

2006年10月30日
山口県精神保健福祉センター所長 河野通英
(山口県CRT委員長)

  今回の会議用に大急ぎでまとめましたので、表現が必ずしも適切でないカ所があるかもしれませんが、ご容赦ください。この資料は、自殺に限定せず学校で重大な事件・事故が発生した場合の事後対応(ポストベンション)について説明しています。自殺の事後対応だけをマニュアル化しても今の学校の実状では習得できないでしょうから、危機対応という枠組みの中で、その1つとして児童・生徒の自殺のポストベンションを位置づけ、備えるのが妥当と考えます。

[0]はじめに えっ? まさか! そんなぁ…

はじめに 	 えっ? まさか! そんなぁ…

危機とは

  • 校内で殺傷事件などが起これば、学校は大混乱に陥ります。動揺する子どもへの対応に加え、取材や保護者からの問い合わせへの対応で身動きがとれず、混乱に拍車がかかります。二次的被害が拡大し、学校の対応のまずさから、保護者と子どもの信頼を失い、校内での心のケアはできなくなってしまいます。学校は教育の場としての存在価値を失い、教職員は自信を失ってしまいます。
    ◆図 危機の深刻化のモデル
  • 「事件発生イコール危機」ではなく、連鎖反応的に深刻化するのが危機の特徴です。このように、個人であれば「自分の存在価値」「生きる意味」などに疑問が生じ、組織であれば「組織の存在意味」が問われかねない事態であり、広くは、組織や個人が「対処できない」と感じるような事態を“危機”と考えると良いでしょう。

リーダーと危機

  • 校長(や教育長)などリーダーにとっての危機とは、「判断できない状況で次から次へと判断を強いられる」ことと表現することができます。

リーダーにとっての危機

  • 不十分な情報
  • 次に何が起こるかわからない
  • 考える時間すら無い
  • (対応ノウハウを持たない)
このような状況下で意思決定を強いられる
  • 危機は、組織(学校や教育委員会)にとっての危機であるのみならず、リーダー自身にとっての「人生の危機」となり得るものです。こういった時には、どうしたら自分の責任が少なくて済むかを考える人と、子どもたちのために何ができるかを必死で考える人に別れてしまうようです。
  • 危機時には先手を打って対処していくことが重要で、「様子を見る」「起こったときに考える」という受け身的態度が最も危険です。
  • 「何かをして失敗することよりも何もしないほうがよい」という雰囲気では、部下が次の一歩を踏み出せません。リーダーの「最終責任は私がとるから、しっかりやってくれ」という一言が必要になります。
  • 「指揮官は後方の安全な場所で指揮をとるべきだ」と誤解をしている人を見かけますが、現地指揮官は“弾の飛んでくる”ところで指揮をとるものです。具体的には、保護者会、記者会見、遺族訪問などがこれに当たります。かなりつらい局面が予想されますが、タイミングを逸しては意味が無くなります。

危機時のリーダーのしごと

  1. 決断をする (平時は話し合いによる合意を優先)
  2. 責任をとる (平時は責任の所在が不明なことも)
  3. 前戦に立つ (平時は部下を立てる)
  • 学校危機に対応するには、それなりの知識と経験を要します。しかし、全国に報道されるような学校危機を経験したリーダーは多くありません。都道府県(や大都市)の教育委員会等に危機対応チームを作って支援できる態勢が必要ではないでしょうか。また、危機対応と心のケアに習熟したCRTなどの外部サポートを受ける必要があります。

危機対応の目的・目標

  • 何のための危機対応なのか「目的」や「(達成)目標)」をハッキリさせておく必要があります。迷った時はこの原点に戻ることで、対応がふらつくことを防止します。頭が混乱した時は、「子どもを守る」という1点だけを考えればよいわけです。
危機対応の目的(例) 危機対応の達成目標(例)

1)子どもと職員の体と心を守る

  1. 子どもと職員の安全が守られる
  2. 二次被害の拡大が防止される
  3. 心に傷を受けた人に支援が提供される

2)教育など学校本来の機能を維持する

  1. 学校の日常活動が平常に運営される

3)子ども、保護者、社会からの信頼を保つ

  1. お互いの信頼が保たれる

4)危機からも学び、プラスに変えていく

  1. 互いに気遣い、助け合う関係が育まれる
  2. 危機管理態勢が向上する

  ※7.には、背景調査、安全対策~再発防止策、より良い危機管理態勢の構築が含まれます。

危機対応の手段

  • 危機対応の手段は[1]~[8]に分けることができます。
危機対応の手段 内容
[1]危機対応態勢と計画 状況把握、態勢確保、行事変更、計画
[2]遺族への対応と喪の過程  
[3]保護者への対応 PTAとの協力、保護者会、文書
[4]マスコミ対応  
[5]警察との連携と学校安全活動  
[6]心のケア態勢と計画 被害把握、ケア態勢、学校再開計画
[7]子どもと家庭へのサポート 気になるケースへの関わり、面接、電話
[8]教職員へのサポート 教職員への教育、助言、ケア、サポート

CRTの支援メニュー

  CRT側から見た支援のメニューは5つに分類されます。

CRTの支援メニュー

手段 [1]危機対応態勢と計画

CRT1 評価とケアプラン策定の手助けと計画 -校長への助言-

(1)状況把握と情報管理

  • 積極的な情報発信が必要になります。学校が都合が悪いというだけで出すことをためらっていると信用を失ってしまいます。(もちろん、プライバシーに関わる情報、裏の取れていない情報、断片的な事実は慎重に扱う必要があります)
    ◆図 情報発信の流れ(概念図)◆図 情報発信の流れ(概念図)
  • とりあえずの情報から、レベル(地震の震度のようなもの)を推定します。当初は悪目に設定しておき、それに即した態勢を組んでおくことが大切です。
◆表 学校危機のレベル(衝撃度) ●学校管理下 ○学校管理外
事件規模 レベル 事案例
大規模 6 ●北オセアチア共和国学校テロ
5 ●大阪池田小事件
中規模 4 ●佐世保市の小6殺害事件(全国マスコミ殺到)
●寝屋川市教師殺害事件(全国マスコミ殺到)
●仙台ウォークラリー事故、3人死亡、20人以上重軽傷(全国マスコミ殺到)
●京都宇治小侵入傷害事件(全国マスコミ殺到)
●光高校爆発物事件、数十人救急搬送(全国マスコミ殺到)
3強 ●校内での飛び降り自殺、目撃多数、学校に報道殺到
●小学校のプールで水死、児童目撃多数、学校に報道殺到
3弱 ●児童の列に車、1人死亡、2人怪我、目撃数名、学校に報道多数
○親子心中事件、学校に報道多数
小規模 2 ○親子心中事件、学校に取材無し~僅か(旧基準ではレベル)
○自宅での自殺、学校に取材無し~僅か
●体育中に児童が倒れ、搬送先の病院で死亡
○夏休み中に川での水の事故、複数児童目撃
小規模以下 1 ○家族旅行中の交通事故で児童死亡
○自宅で家族の自殺を児童が目撃

※ 特定個人・家族にとっての衝撃度ではなく、あくまで学校・学級の衝撃度(急性期)で段階を付けている点に注意してください。学校・学級としてはそれほどでなくても、個人・家族にとっては大変な事案はいくらでもありますから。

(2)危機対応態勢

  • 平時の組織態勢のままで危機に対応するのは無謀です。危機対応態勢を作る必要があります。これは平時から準備しておかないとなかなかできません。以下は役割分担の例です。
    危機対応態勢
  • 教職員だけでは人数的に足りません。教育委員会等の支援が必要です。「消防車1台で大丈夫と思って行ってみたら火の勢いが強くてあわてて増援を求めたが、その間に被害が広がってしまった」ということにならないようにしたいものです。人数の目安は以下の通りです。マンパワーの足りない市町村教育委員会の場合には、他の部局や県教委等の協力が得られるよう、日頃から仕組みを作っておく必要があります。
表 派遣人数の目安(当初の3日間)
レベル 教育委員会等派遣職員(注1) 小規模校の場合 必要とする心の専門家
レベル4 常時4人以上の実務者 左記に加え1~2人追加 15人以上(CRT他(注2))
レベル3強 常時3人以上の実務者 10人以上(CRT他(注2))
レベル3弱 常時2人以上の実務者 6人以上(CRT他(注2))
レベル2 常時2人以上の実務者 2人以上(SC)
レベル1 必要に応じて 1人以上(SC)

(注1)朝から晩まで実務を行う職員の数であり、視察や協議に訪れた職員などは人数に含みません。教育委員会職員以外に、自治体の事務職員等も含みます。
(注2)CRTの他に、SC(スクールカウンセラー)、自治体の保健師等を含んだ人数です。

  CRTの活動はこういった人員態勢が前提となります。

(3)危機対応計画

  • 危機対応計画の中心は、一時的にダメージを受けた学校本来の機能を回復させること、すなわち、「学校再開」にあると言えます。
  • CRTは会議や協議に出席し、随時アドバイスをします。隊長は校長の傍にいて、随時アドバイスをし、サポートします。
  • 今後の予定(緊急保護者会、緊急記者会見、学年集会、葬儀等)、休校にするか等について協議します。葬儀までは喪の期間として行事の中止や延期をすることがありますが、それ以降はなるべく平常通りの日常活動に段階的に近づけていくのが基本です(事件規模にもよります)。
  • ※自殺の場合には、連鎖を防ぐ意味から、学校を早期に平常化する必要があり、休校は避けるべきと言われています。とは言え、このあたりは遺族の心情に配慮する必要がありますから、一概には言えません。
  • CRTの支援は最大3日間です。教育委員会はアフターケアの専門家(スクールカウンセラー等)を確保する責務があります。
表 スクールカウンセラーの派遣人数の例

(高校爆発物事件,2005年)

1週目 毎日7~8人
2週目 毎日3~4人
3週目 毎日2~3人
4週目 毎日2人
5、6週目 毎日1人
夏休み中 変則配置
9月以降 週1.5人

手段 [2]保護者(会)への対応

CRT 3 保護者への心理教育-保護者会、遺族への対応のサポート-

  • 保護者への対応での具体的課題は3つです。
    • 1)正確で十分な情報を保護者と学校が共有するための情報発信
    • 2)保護者が落ち着いて、子どもに適切な関わりができるための学習
    • 3)子どものために協力していくことの確認と具体的な計画

(1)保護者への伝え方

  • 全ての保護者に、何が起こったのか、学校がどう対応したのか、これからどうするのかを早急に伝える必要があります。
  • また、子どもへどう関わったら良いかなど、専門家からの説明も必要です。
  • これらを早急に行わないと、保護者の戸惑い、子どもへの不適切な関わり、学校への不信感を助長してしまいます。
  • (事案にもよりますが)早急に緊急保護者会を開くとともに、当初は文書等で毎日情報発信する必要があります。
  • 保護者への重要なお知らせは、できる限り、報道よりも先に保護者に伝わるような努力が必要です。

(2)保護者会とPTA

  • PTAは「学校に協力」ではなく、「保護者として何ができるかを自ら考え、学校に大して言うべきことは言い、協力できるところは協力し、子どもたちを守っていきたい」というのが正しい態度と考えられます。
  • 緊急保護者会は、初日はなかなか開くのが大変でしょうが、開くのならやはり初日です。学校の対応についてはいろいろと不満があるのが普通です。早期に開催することにより、学校が保護者の指摘を受け、対応する道が開けます。
  • 保護者からの苦情がたくさん出る場合もあります。誠実にしっかり受けとめていただく必要があります。ただし、「子どもたちを守りたい」という点では同じ土俵に立っていることが前提です。

 保護者会とPTA

こころだってケガをすることがあるんだよ(保護者のみなさまへ)

  子どもが自分や他人の生命に関わるような衝撃的な出来事を体験したり、目撃したりした直後には、心と体にいろいろな反応や症状が出ることがあります。
  これらは「衝撃的な出来事へのごく自然な反応や症状」であり、その多くは一時的なものです。しかし、その出来事が子どもにとって、あまりにつらく、また、適切な対応を受けていないと反応が長引いたり、症状をこじらせてしまったりすることがあります。
  このパンフレットは、このような事態が起こったとき、子どもの心と体にどんな変化が起こるのか、また、どう接してあげるとよいのかなど、親としての基本的な対応について示したものです。
 (事例については、小学校高学年を想定しています)

こころとからだにおこること

遊び・勉強

  • 遊びや勉強、好きだったことをするのに集中できない

食べる・寝る

  • 食欲がない
  • なかなか眠れない

からだ

  • 頭が痛い
  • お腹が痛い
  • 体がしんどい

ピリピリ

  • 物音にビクつく
  • イライラする
  • すぐに腹を立てる

赤ちゃん返り

  • 一人でいるのをこわがる
  • 幼い子のように甘える
  • 一緒に寝たがる

ぼーっ

  • ぼーっとしている
  • 話をしなくなる

強がり

  • まるで何もなかったかのように普通にふるまう
  • 急にはしゃぎだす

悲しみと怒り

  • 自分を責める
  • 他人を責める

こわい・不安

  • こわがりになる
  • 寝ているときにうなされる
  • こわい夢を見てとびおきる

こころとからだにおこること

まずは、周囲の大人が落ち着いていること

  まわりの大人が落ち着いて子どもに接することで、子どもも落ち着きを取り戻していきます。しかし、大人が落ち着くということは、自分の気持ちをおさえることではありません。大人が自分の気持ちをおさえつけていると、子どもはそれを真似してしまいます。大人であっても、涙が出たり感情がこみあげてきたりするときには、「自分は、今こんなふうに感じている」と、子どもにわかる言葉で説明してあげてください。
  また、子どもから衝撃的な話を聞くと、大人のほうが耐えられなくなることもあります。そのような場合は、別の大人に話を聞いてもらうことも必要です。それでもつらい時には専門家に助けを求めましょう。

話す? 話さない? 子どもが話そうとしている時は、しっかり聞いてあげましょう

  何度も同じ話を繰り返すかもしれませんが、話すことで頭の中が整理されます。もちろん話したがらない子どももいます。話したがらない時には無理に聞き出そうとせず、「話したくなったらいつでも聞くからね。」と伝えてあげてください。

正確な情報 情報は正確に伝え、うわさはやめましょう

  事実を子どもにどう伝えるべきか、悩むところです。きちんとした説明がないと、うわさ話が広がり、いろいろな想像をさせ、かえって子どもを不安にさせてしまいます。そんなときは、学校からの「お知らせ」も参考にしてください。

体の手当 体の症状を訴えている時は、体への手当をしてあげましょう

  体の症状の治療のために病院に連れて行くことが大切です。苦痛を和らげるとともに、手当をしてもらうことで「守られている」という安心感を子どもに与えます。

ひとりぼっちにしない そばにいてあげましょう

  小さい子のように甘え、一人になりたがらないときは、つきはなさないで、できるだけそばにいてあげてください。甘えることで心がいやされるので、たいていは徐々に落ち着いてきます。しばらくは、幼い子のつもりで接してみてください。

子どもをしからない 強がっていても不安でいっぱいです

  まるで何事もなかったかのように普通にふるまったり、逆にはしゃぎすぎたりするので、驚かされることがあります。これは、悲しみやショックを子どもの小さな心で受け止めることができずに、それを打ち消そうと必死で抵抗しているのです。本当は不安でいっぱいなのです。「悲しいね。」と気持ちを代弁してあげてください。いい言葉が見つからないときは、手を握ったり、背中をさすったりするなど、やさしく接してあげましょう。

ふだんの生活 日常生活を保つことも大切です

  予期せぬ出来事を体験すると、目に映る世界がそれまでとは違って見えてきます。だから、学校も家庭も可能な限り普段どおりの生活になるようにしてあげてください。食事、睡眠、勉強、遊びといった、いつもしていることを続けてください。これは悲しみやショックを無視するのではありません。悲しみを中心にしながらも、日常生活を保つことで回復していく力を低下させないためです。もちろんショックが強くて日常生活を保つことができないことがあります。その場合は専門家(カウンセラーや医療機関)に相談してください。
  ※ これまで説明したことは、ほんの一部です。心配なこと、困ったこと、分からないことがあるときは、一人で悩まず、まず学校に相談してください。

手段 [3]遺族への対応と喪の過程

CRT 3 保護者への心理教育-保護者会、PTA、遺族への対応のサポート-

遺族への対応
  • わが子を失った親の悲嘆はどれほどのものでしょうか。  ※自殺の場合、後悔と自責の念に苛まれ、しばしばやり場のない怒りが自分と周囲の人へ向きます。
  • 遺族への対応は最優先でしなければなりません。トップリーダー自ら出向くタイミングを逸しないことが大切です。(リーダーは後ろに下がっているべきと考えている人がまだいるようですが…)
  • 事実を公表するにあたっては、できるだけ遺族の了解を得る必要があります。また、遺族には、他の保護者やマスコミを通じて伝わるよりも先にお知らせしたいものです。学校で配るプリント等が遺族の元に先に届くように配慮します。
  • 学校は遺族の意向を確認しながら、学校として通夜や葬儀にどう対応するかの計画を立て、クラスでは担任教師が子どもに関わります。
  • これらの一連の流れについて、CRTは助言しますが、3日間限定であるため、遺族への直接支援は極めて限定的になります。接触できない場合もあります。
葬儀に向けての学校の取組
  • 葬儀への学校関係者の参列について、遺族の意向を確認する必要があります。密葬なのか、一部の教師なのか、子どもたちにたくさん来て欲しいのか。気持ちが途中で変わってくることもありますし、遠慮して「少人数で」と言われることがあります。柔軟に対応できるようにしておく必要があります。
  • 子どもの参列に際しても、貸し切りバスで教師が引率する方法から、全て保護者に引率してもらうまで、いろいろな方法があります。
  • 「死亡児童のクラスは全員参加、同学年の他のクラスは希望者だけ」というような一律の方法ではなく、あくまで子ども一人一人に選ばせる必要があります。もちろん、低学年は保護者の意向が大切ですし、参列の場合には同伴してもらうほうが安全でしょう。
  • ※アメリカのガイドラインでは、自殺の場合には授業を休ませて葬儀へ参列することを勧めないとありますが、遺族の心情に配慮し、バランスをとる必要があります。
葬儀に向けてのクラスでの関わり
  • 葬儀に向けては、「折り紙、絵、作文」が定番ですが、教師が提案するのではなく、「○○さんのために、今私たちがしてあげられることは何かないかな」と誘い、子どもからいろいろなアイデアが出るようにします。
    葬儀に向けてのクラスでの関わり
  • 「葬儀に出ることでとても辛くなるかもしれないので、そういう時は出ないということも、決して恥ずかしいことではない」と。出ないと決めた子が他の子どもから批判を受けないように配慮し、出棺の時間に合わせて黙祷するなどで参加の方法を考えます。
  • 哀悼にふさわしくない態度を示す子どもがいたりしますが、実はとてもショックを受けていて、それを否認するために場違いな行動に出ていることがしばしばあります。
  • 葬儀のマナーについて教えてあげる必要があります。
  • 子どもが追悼文を読む場合、サポートが必要です。  ※いじめなどの背景が疑われる場合は、慎重に対応する必要があります。自殺の場合、個人の尊厳が保たれ、かつ、死を美化しないように注意が必要になります。
  • 子どもたちが主体的に関わり、「自分たちもやったんだ」という感触を持つことは、トラウマケアの観点からも重要です。葬儀は確かに1つの区切りとなります。
  • CRTは、クラスで葬儀へ向けてどのように子どもたちと準備をするかなど、教師に助言し、必要であればクラスに入ってサポートします。(CRTは通夜や葬儀には参列いたしません。)
葬儀後の遺族への対応
  • 葬儀で終わりではなく始まりです。遺族は、葬儀までは気が張っていて抑えられていた感情が葬儀が終わって一気に出て来ることがあります。
  • ※特に自殺の場合には、様々な相反すると思えるような感情が出てきます。しっかり受けとめてくれる人が必要です。強い怒りの感情が出て来ることがしばしばあります。
  • 遺族は原因解明を望まれるのが一般的です。ただ、時期や方法は専門家も交えて慎重に検討する必要がありますし、子どもと保護者に説明する必要があります。
  • 発生現場から事件の痕跡を消したいと多くの保護者は思います。あるいは、建物ごと取り壊したいと思うかもしれません。しかし、遺族は、記念として残したいという想いがあったりするものです。日にちがたって「現場を見てみたい」と言われることもあります。
  • ※自殺の場合は、連鎖防止の意味から、現場を“特別な場所”にしないほうが良いと考えられます。その子どもが生活した教室などがメモリアルではないでしょうか。
葬儀後の学校の取組
  • 葬儀後も、学校全体の取り組みとクラスでの子どもへの関わりが並行して進むことになります。始業式や終業式、誕生日、1周年、卒業式などでどうするかがテーマです。大きな事件であれば、特別な行事、慰霊碑や植樹なども検討課題となります。
葬儀後のクラスでの関わり
  • 葬儀で終わりではなく、「喪の過程」は卒業まで続きます。机や花や遺品をどうするかを子どもたちと随時話し合って1つ1つ進めていく必要があります。
  • 「一緒に卒業する」という子どもの気持ちを大切にし、卒業までは何らかの対応が必要です。亡くなった友達を大切にすることと、つらい気持ちの友達に配慮すること。こういったアプローチが「命の大切さ」を学ぶ機会となると考えます。
  • なるべく多数決は避けます。「一人でもとてもつらいという友達がいたら、その子のために譲ってあげようね」というような、互いの気持ちを大切にする雰囲気を作ります。回復には個人差が大きく、必ず何人かが取り残されてしまうからです。一番つらい人を気遣う雰囲気を今から作っておくことが大切です。
  • 遺影を掲げることついては、繰り返し想起させられることで辛いと感じることが多いでしょうから、避けた方がいいでしょう。校長室で預かるのも1つの方法です。
  • 遺品や机など全て消してしまう方向で意見がまとまることがあります。その場合は、「まるまる君はこのクラスにいたんだよ。まるまる君がいたことを消してしまうようなことは先生は納得できないな。」などと伝えてみてはどうでしょうか。※背景にいじめなどの生徒間トラブルがある場合には、このようになりがちですが、教師が気づいていない場合があるので、注意が必要です。
学校としての遺書の扱い(私見)
  • 遺書については、前もって何の手当もせずにいきなり公表すると、連鎖の危険があります。責任を感じて誰かが自殺したり、同様の心境にある子ども(この場合は全国)が自殺する危険性を有しています。だからと言って、全く隠しておくことが良いとも思えません。
  • まずは遺族の意向が大切ですから、話し合いを続ける必要があります。
  • 公表するのであれば、いつ、どんな方法で行い、そのために子どもや保護者に事前のお知らせや心理教育などを行っておく必要がありますし、心のケアがある程度行われてからにするのが望ましいと考えられます。
  • 報道に公開する際に、事実を淡々と扱っていただくようにお願いする必要があります。
  • 第三者的な審査委員会(報道、弁護士、専門家などからなる)があれば、こういった問題にも中立の立場でコミットできるのではないでしょうか。

手段 [4]マスコミ対応

CRT 5 その他-マスコミ対応や警察との連携のサポート-

  • マスコミ対応のポイントは次の3つです。
    1. 記者は国民の代表として質問しているので、誠実に対応する。
    2. プライバシーに配慮しつつも、積極的に情報発信する。
    3. 定期的に記者会見を開く。
  • まず、記者は国民の代表として質問しているので、誠実に対応する必要があります。
  • 積極的な情報発信が必要です。プライバシーは守らなければなりませんが、学校や教育委員会に都合が悪いという理由で出し渋ること避けなければなりません。「隠蔽体質」だと思われたら、保護者からも子どもからも信頼を失ってしまい、学校の日常活動も心のケアも背景調査も不可能になるからです。
  • また、10社、20社と殺到している時に、1社ずつ個別の取材を受けていると、それだけで忙殺されてしまいますから、最初の内は定期的に記者会見を(大きな事件では当初は1日2回)開催する必要があります。(もちろん、代表取材であればこの限りではありませんし、会見後のぶらさがり取材にも極力対応するのが望ましいと考えます。)
    手段 [4]マスコミ対応
  • ただ、会見は初めてという校長が多く、サポートがないと学校だけでは無理があります。会見で何を話すか、どんな資料を用意するのかなどの準備が必要になります。
  • CRTはこれらについて助言し、記者会見に同席するなどします。学校や教育委員会が主に説明し、こころのケアの専門的な部分をCRTが説明するという分担になります(CRTが同席する場合)。CRTは心の専門家の立場から、心のケアについて説明し、質問に答えます。
  • 学校や教育委員会とCRTは立場が異なりますから、見解が異なることもあります。
  • ※自殺の場合、手段の詳細、再現映像、場所や道具の写真、見取り図などが報道されると、連鎖自殺を誘発する危険性があることを専門家から丁寧に説明する必要があります。
    ※一方、取材がない場合には、学校や教育委員会が情報発信に不熱心になってしまうのも一方の現実です。

手段 [5]警察との連携と学校安全活動

CRT 5 その他-マスコミ対応や警察との連携のサポート-

  • 中々余力が無いとは思いますが、事情聴取に教師(や専門家)が立ち会うことで、被害程度の把握、二次被害の軽減・早期対応、背景の把握につながります。
  • 警察の被害者支援活動について学校も知っておく必要があります。
  • 子どもが加害者の場合にも警察との連携が重要です。

手段 [6]心のケア態勢と計画

CRT 2 教職員への助言、サポート-一般教職員への助言、ケア、心理教育、活動対応サポート-

(1)被害把握

  • どれぐらいの被害を受けた子どもがどれだけいるかを把握する必要があります。
  • 「被害」や「ダメージ」と一口に言っても、実際にはいろいろな要素を含んでいます。症状や対処法が少し違ってきますので、1~5に分けて考えることにします。ただし、厳密な区別は不要です。1喪失と2トラウマの違いは理解しておいてください。
    図 被害の構造
喪失体験とトラウマの区別

  長期入院していた同級生が亡くなった場合は喪失体験ですが、トラウマにはならないでしょう。
  逆に、全く知らない他人が殺されるのを目撃するのはトラウマとなりえますが、自分と無関係の人が亡くなっても喪失体験にはならないでしょう。

  • いろいろな情報を元に、専門家と教師でひとりひとりの子どもの被害程度を評価します。
  • 「心の健康調査」アンケートを実施することもありますが、質問項目が再曝露になり得るため、専門家の指導のもとで行う必要があります。1週間後と1カ月後に実施して比較するのが良いでしょう。

(2)ケア態勢

  • 各学年主任、養護教諭、教育相談、スクールカウンセラーなどで「ケア会議」を組織し、学校におけるケアのとりまとめをします。必要に応じて、関係する担任、クラブ顧問、管理職等にも加わってもらいます。
    ◆図 ケア会議の構成(例)図 ケア会議の構成(例)
  • 新たに保健室を利用する子どもが想定されますので、保健室の受入態勢が必要です。

(3)ケア計画

  • 心のケアは学校再開(本来の学校の機能を回復させる)という大きな流れの中で行われることになります。
  • 多くの学校では、「全校集会で伝えて黙祷する」ことがごく当たり前と考えられていますが、全校集会では多くの子どもにパニックが広がった場合に対処ができません(小規模校の場合はこの限りではありません)。学年別に3回に分けるか、集会はせずに全校放送を使うなどの、リスク回避方法をとる必要があります。

学年集会

  • 学年集会を行うには、周到な準備が必要です。全校挙げて取り組む必要があります。
    ◆図 学年集会の組み立て◆図 学年集会の組み立て
  • その学年やクラスに応じた事実関係の説明は各クラスで行います。悲しみなどの感情を出す場もクラスです(a、e)。
  • 「子どもにどういう態度で接したら良いのでしょうか?」というのが教師の戸惑いです。しかし、その前に、自分の気持ちと向かい合うのが先です。悲しい、腹立たしい、やるせない…。自分の感情を言葉にしてみることです。教師が自分の体験(経験と気持ち)に向かい合うことで、子どもに向かい合うことができるようになります。
  • 集会に不参加の子どもにも教師が付き添います。「図書室に集まってもらう」など、あらかじめ決めておきます。集会で黙祷がなされる場合、予定時刻に合わせて黙祷をするなどし、「自分たちも参加している」と感じられるようにします(b)。
  • 集会はとにかく短く、校長の話は3分以内(長くても5分)です。集会全体でも10分以内(長くても15分)が目安です。(c)。
  • 事実関係の詳細までは話すと、集会がパニックになりかねませんので、これは各クラスで必要に応じて行います。また、集会では悲しみを強調しすぎないように、サラリと話すことが肝要です。悲しみを共有するのも各クラスです。また、「命を大切に」というようなありきたりの言い方をすると、子どもの心が離れかねません。
  • 気分不良を訴える子どもが出ることが予想されます。保健室が数十人の子どもで溢れるという事態もありえますので、最悪の事態も想定して別室(図書室等)を確保し、対応職員を配置するか、すぐに配置できるように備える必要があります(d)。
  • 特別な見守りが必要なクラスやクラブには、他の教師やCRTなどの専門家が入るなどします。
  • ※自殺の場合、誘発防止のためには集会は開かず、クラスで対応する方が安全と考えられます。事実を伝え、手段の詳細は話さないのが原則です。もちろん、死を美化してはいけませんし、個人の尊厳を守らなければなりません。個人の心情に共感しすぎることにも注意が必要です。

手段 [7]子どもと家庭へのサポート

CRT 4 子どもと保護者への応急対応-子ども(と保護者)への個別対応-

(4)気になるケースへの対応

  • 気になるケースへはCRTなど専門家の直接接触を試みます。治療が必要な場合は医療機関等へつなげます。

(5)個別相談

  • 学校再開に合わせて、個別相談(カウンセリング)態勢を作る必要があります。表は一例です。
表 学校再開時の相談(カウンセリング)態勢例
担当 場所 態勢 備考
CRT 相談室1 CRT2人  
相談室2 CRT2人  
カウンセラー 相談室3 カウンセラー1人 予備2人
相談室4 カウンセラー1人
教職員 相談室5 教師2人  
相談室6 教師2人  

(高専学生殺害事件の例)

  • もちろん、気になるケースは、なるべその前にケアを始めます。
  • 事件規模が大きければ、電話相談のための専用回線が必要になります。

手段 [8]教職員へのサポート

CRT 2 教職員への助言、サポート- 一般教職員への助言、ケア、心理教育、活動対応サポート-

  • 最後になりましたが、CRTの活動では「教職員への助言、サポート」が重要です。「心のケア」というと、大勢の子どもたちを順番にカウンセリングをしているイメージを持つかもしれませんが、CRTはまず教師をしっかりサポートします。教師の安定を図り、子どもへ適切な対応方法を身につけていただきます。被害を受けなかったり目撃しなかった子どもたちの多くは、専門家が直接ケアせずに教師を通したアプローチで安定することが期待できるからです。
  • このように、子どもを取り巻く環境(場)を安定させることを「場」のケアと呼んでいます。
    手段 [8]教職員へのサポート
  • CRTは可能な限りいつでも教職員の相談に乗るようにしています。
    CRTは可能な限りいつでも教職員の相談に乗るようにしています。
  • CRTは、職員会議等を利用して、急性ストレス反応とその対応についての心理教育(30分ぐらいのレクチャー)を行います。
  • 互いの経験を共有し、気持ちを分かち合い、気持ちを楽にし、結束を高めるために、教師のグループワークを行うことがあります。
  • 学校再開時に当該クラスや保健室等には補助の教師とCRTが入って、サポートします。

[9] おわりに 第二の犠牲者を生み出さないために

※背景にいじめなどが疑われる自殺の場合(私見)

  (大人であれば)刑事事件に該当するような事案と、そうでない事案とは一応区別しておく必要があります。以下は、刑事事件に該当しない場合を想定しています。

背景調査の目的

  • まず何の目的で行うのかを明確にする必要があります。責任追及なのか、今後に生かしたいのか、単に事実を知りたいのか…。
  • 責任追及であれば、子どもや保護者の協力は難しくなります。訴訟の可能性があればなおさらです。「本当のことを言ったら損をするかもしれない」状況で、本当のことが語られるでしょうか。事実が語られないのみならず、特定の誰かのせいにされる(スケープゴート)可能性さえ出てきます。果たして、それを見抜けるでしょうか。
  • 遺族のお気持ちは揺れますので、1つの気持ちだけと手をつないでしまって先走らないことが大切です。
  • 背景調査の目的について合意を得るのにはそれなりに日にちがかかると考えられます。学校や教育委員会が「先延ばしをしている」と非難されるようなことがないように、第三者的なチェックが望ましいと考えます。
  • 目的が定まったら、具体的な方法を計画していくことになります。この場合、調査方法がさらなるトラウマにならないか、子どもの人権が守られるか、遺族や被害者の権利が守られるか、公表した場合の法的責任などを第三者的にチェックする必要があります。
1)すぐにできること(1週間以内)
  • 警察の事情聴取に可能な限り立ち会わせてもらうことで、背景がつかみやすくなります。
  • 校長をトップとする「特別対策チーム会議」(仮称)を立ち上げ、教職員からの聞き取り調査を急いで行う必要があります。
  • 子どもが自発的に話そうとすることはしっかり聞く必要があります。
  • 山口県CRTでは、過去の出動事案において、子どもへの一斉の背景調査(聞き取りやアンケート)は6週間待つようにアドバイスしてきました。
2)学校コミュニティーを回復させていく(1カ月以内)
  • 相談(カウンセリング)態勢を作り、何でも語れる雰囲気を作ることが大切です。
  • 教職員、保護者、子どもが協力して解決していくような関係性を作ることに専心します。
  • クラスでは、つらい同級生にみんなで配慮する雰囲気を作っていきます。
  • 状況を見ながら一部の子どもには背景を聴くこともありますが、秘密が守られる必要があります。教師が聴取したということで噂を立てられないように留意します。
  • 背景調査の目的と方法を検討します。遺族はもちろん、保護者や子どもへも十分説明する必要があります。妥当性を第三者の審査委員会がチェックするのが理想です。
3)背景調査
  • 事件規模にもよりますが、学校全体としては1カ月ぐらいで落ち着いてきます(もちろん、ケアが必要な子どもが何人か残ります)。学校全体の落ち着き具体を見て、背景調査(アンケートや一斉聞き取り等)を始めます。
  • 日々の言葉でのちょっとしたこと、大人には見抜けない仲間はずれなどの微妙なやりとりの調査は簡単ではありません。子どもたちの日常の微妙なやりとりを聞き出していくためには、プライバシーが守られる必要があります。
  • 子どもが語ったことがすぐに公表されてしまうと、その後口を閉ざしてしまうかもしれません。その子のせいにされてしまい、重要な事実を誰も語らなくなる可能性があります。
4)分析
  • 現在つかんでいることについても、確度がどれぐらいかの吟味(裏をとる)が必要です。仮に事実だとしても、断片的な事実は「真実」ではありません。公表されることにより、もっと重要な事実が浮かび上がらなくなることもあります。慎重な対応が求められます。
  • いじめに該当する行為がある場合、その子どもの責任はいじめた行為についてであり、結果として起こった事件の責任とイコールでないことに注意が必要です。「原因」、「因果関係」という言い方をすることによって、本人も周囲もそのように考えてしまいます。
  • 事実がわかっても、それがどう影響したかの評価はとても難しいものです。いろいろな背景要因が複雑に絡まっており、1つではありません。単純化しないでください。
  • 「真相究明」と言いますが、真相に近づけば近づくほどわからなくなるような事案もあります。空に浮かんだ雲は遠くで見ればソフトクリームのようにすくえそうですが、近づいて中に入ったら姿形がまるでわからなくなるのと同じです。
5)公表(報告)
  • 進ちょく状況は定期的に発表しますが、内容を公表するにはいろいろと準備が必要です。
  • 中間報告にせよ最終報告にせよ、調査結果の公開には関係者の同意が必要なことが多く、難しい問題を含んでいます。
  • 分析と公表についても、審査委員会がチェックするのが良いと考えます。

まとめ

  • 1)「いじめ自殺」「いじめが原因」という表現を、「背景」「動機」等に言い直していただきたい。
  • 2)背景調査における方法や公表について第三者的に審査する委員会(マスコミ、弁護士、精神保健専門家などで構成)を各県に置いてはどうか。
  • 3)いじめ対策と並行して、いじめを受けた子どもが自殺しないための対策に取り組む必要がある。

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初等中等教育局児童生徒課生徒指導室

(初等中等教育局児童生徒課生徒指導室)