児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成23年度)(第5回) 議事要旨

1.日時

平成24年2月10日(金曜日)14時~16時

2.場所

文部科学省 旧庁舎2階第2会議室

3.議題

  1. 関係者間の合意形成について
  2. 討議
  3. その他

4.出席者

委員

新井委員、荊尾委員、川井委員、菊地委員、窪田委員、阪中委員、中馬委員、高橋委員、村瀬委員

文部科学省

白間児童生徒課長、郷治生徒指導室長、鈴木生徒指導調査官 他

5.議事要旨

開会

議事

 (1)自殺予防教育の実施に向けた関係者間の合意形成に関する委員からの事例紹介及び討議が行われた。

 

(1)関係者間の合意形成に関する紹介等

【委員】第5回児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議を開催する。最初に、事務局から配付資料について説明いただきたい。

【事務局】今日の議事は、関係者の合意形成である。資料1は委員発表資料、資料2と資料3は資料1の参考となるパンフレットである。

 その後、資料4は、文部科学省における地域等との連携事業について文部科学省が行っている取組についての資料である。具体的には、コミュニティ・スクールとも呼ばれている学校運営協議会制度、学校関係者評価、学校支援地域本部、放課後子ども教室の4つについてご紹介している。資料5は、過去に自殺予防教育を実施する際の要点としてご議論があった内容について事務局でまとめた。資料6は、前回の会議の議事要旨である。

【委員】地域等との連携については、今回初めて提示された。実際に学校の現場で行われている具体の実践について、委員からも補足してご紹介をいただけないか。

【委員】自校では、学校関係者評価と放課後子ども教室を実践している。学校関係者評価については、教職員、児童、保護者、地域の方にアンケートなどを行い、自己評価の結果をまとめた上で、評価者委員の方に今年度の取組についての意見や、来年度への学校経営についての提言をいただいた。特に子どもたちの登下校の安全が一番の話題になり、新たに来年度に向けての体制づくりをする必要があるということが話し合われたところ。

 放課後子ども教室については、通学距離が長い子どもたちが多いことから集団登下校の取組をしているので、1、2年生を対象として、3年生以上の授業が終わるまでの1時間程度、放課後の時間を地域の方においでいただいて過ごしている。

【委員】今のご説明と関連して、地域の期待と学校の関心とが乖離することはあるか。

【委員】自校では、保護者の意見、地域の意見、教職員の意見がほとんど一致していた。共通の課題として、登下校の安全に取り組めると思っている。

【委員】他の委員からはどうか。

【委員】私の所属する市では、4つ全てに取り組んでいる。特にコミュニティ・スクールについては、市内の全小中学校で取組を始める計画を立てている。

 学習支援や、登下校の安全支援、環境整備等において、学校を支援するボランティアである学校応援団の組織づくりをして、コーディネーターが学校の要望に応じて、ボランティアを学校の中に参画させていく。同時に、学校運営協議会を組織して、学校のさまざまな課題に対して、お互いがどう責任を持った対応、支援ができるのかというようなところを検討していく。

【委員】他の委員からはどうか。

【委員】本市では、地域のコーディネーターが来年度から全校に付くことになっており、これを利用して地域との連携を活性化していこうとしている。全校で地域のボランティアを集めて、土曜日チャレンジスクールを実施するとともに、放課後子ども教室等とも連携した取組も予定している。

 また、文部科学省において生徒指導に関する総合連携推進事業を推進していたが、現在はそれと類似のモデル地域事業もやっている。

【委員】このテーマについて何か意見、質問があるか。

【委員】この連携事業は、我々が議論している自殺予防の話とどういうところで接点があるのか、お聞かせいただきたい。

【委員】生徒を対象とした自殺予防教育を実施するには、前提となる学校と地域と保護者の間の合意形成、適切な教育内容で教育を行うこと、その後にハイリスクの子どもをスクリーニングし、フォローアップをする体制づくりの3点が重要であるが、特に1点目の合意形成において、こういった既存の事業が参考になるということだろう。

【委員】例えば、学校運営協議会を自殺予防教育とどう関連させるか、というのは今後の議論だろうが、学校を取り巻く保護者の関係の組織としてこういうものがあるという理解をしておけば良いか。

【委員】登下校の子どもの安全を守るという話題が出ているという話もあり、そういうこととリンクさせていくことはできるかもしれない。

【委員】それでは、議事に入りたい。今回は、自殺予防教育を行う前提としての地域の合意形成について、委員からご発表していただく。

【委員】現在も取り組んでいる最中であるが、精神保健福祉センターと教育委員会と臨床心理士会が核となって、連携、協働しながら進めてきた取組の紹介を通じて、地域の合意形成についてお話したい。

 まず、事後対応というところから、自殺の問題への関わりを始めた。2001年の中3女子の自死をきっかけとして、自殺に限らない学校危機、事件・事故後の支援体制を県内で進めてきた。以降、自殺事案に関してはほぼ100%事後対応をしている。スクールカウンセラー活用に関する委託事業を進める中で、臨床心理士会と教育委員会が協働してきた経緯があり、事後対応にスムーズに入ることができた。

 その後、事後対応から予防的対応へという流れが少しずつ出てきている。ある小学校で、学校全体を揺るがす危機が起こったが、そもそも児童間トラブルを原因とした事案だったため、子どもの心を育てる予防的な教育がもっと必要ということで、翌年から、対人スキルアップのための心理教育に学校全体として継続して取り組んでいる。約4年間、臨床心理士が学校に入ってプログラム開発をし、月1回程度の実践を重ねてきた。

 さらに、市全体でこういうことに取り組んでいこうという流れも出てきている。これもきっかけは不幸な事案であり、その事案に関する訴訟の和解のプロセスで、今後は子どもとの温かい人間関係、信頼に基づく教育を実現するため、全市立学校におけるスクールカウンセラーを講師とした対人スキルアップの校内研修の実施を和解条項に盛り込んだ経緯がある。平成22年度には全小学校、平成23年度は全中学校で教師向けの研修を行い、具体的な実践につないでいく予定である。

 本市では、精神保健福祉センターが、職員研修の講師等、行政の中における臨床心理士の登用に関して積極的に支援してきてくれているという経緯がある。平成20年度に自殺対策連絡会が設置され、臨床心理士会や市教育委員会の生徒指導や教育相談を担当する部署など官民の関連団体が入り、県の地域自殺対策緊急強化基金を活用して、児童生徒対象の自殺予防対策を実施する流れになったが、ここでも精神保健福祉センターと連携している。

 学校現場への自殺予防教育の導入に向けた取組は、21年度から始めて丸3年が終わろうとしているところである。初年度は教材開発としてリーフレットと解説書を作成した。当初、精神保健福祉センターからは、子どもを対象とした自殺予防のリーフレットを作りたいという話であったが、ただ物を作るだけでなく、教材としての位置づけで作成するほうが良いという協議があった。22年度は、校長、教頭、生徒主事・主任、スクールカウンセラーに対する研修を進め、23年度は、保健主事の研修及び2年次と10年次の教員研修でも研修の機会を設けている。また、学校で校内研修の講師になれるよう、22年度からスクールカウンセラー向けの研修を実施しており、23年度は模擬授業等を大々的に実施している。現在は、授業プログラム開発というところで、このリーフレット・解説編をテキストとした授業プログラム開発として、指導案を作成したり、模擬授業を実施したりしている。24年度以降、実際に授業の中で活用されるように展開していく流れで進んでいるところである。

 リーフレットは臨床心理士のチームが企画、編集し、対象者は、小学校5年生から高校生までとした。自殺予防のリーフレットであるが、自殺、死にたいという言葉は極力用いていない。また、自死遺族の子どももいることに配慮し、命を大切にしなさいという言い方は極力しないように留意した。

 内容としては、もやもや度、いわゆるストレスと対処法が分かるようなフローチャートを掲載している。現在の心の状態を5段階で判定し、対処法に焦点を当てるというふうにしている。このもやもや度は日によって非常に変わるものであることや、もやもや度が高いといけないとか低いといいとか、そうゆうものではないということは、指導の工夫点として解説書のほうに書いている。

 また、3つのメッセージとして、誰にでも心が苦しいときがある、どんなに苦しくても、必ず終わりがある、誰かに相談できる力、を伝えることを主眼に置いたものにしている。

 傾聴の重要性と方法については、授業ではまだ発展途上で、子ども同士、教師対全生徒などいろいろなパターンを実施し、工夫している。ただ、深刻で、死にたいぐらい絶望的な気持ちでいるときは、必ず信頼できる大人につなぐということを強調している。相談先についての情報提供もしている。

 リーフレットは、単に資料として配布されて終わりにならないよう、必ず説明とともに配布し、研修を重ね、学校側の受け入れ態勢を高めるように工夫した。そのプロセスで、スクールカウンセラーを、学校での研修講師、あるいは、授業実施の際の講師として活用すること、配慮が必要な児童生徒への対応に活用することができるよう配慮している。

 研修を続けてきた中で、昨年実施した保健主事対象アンケートにおいては、学校における児童生徒対象の自殺予防教育の必要性が理解され、今後の取組については、「できれば取り組んでいきたい」、「メンタルヘルス教育として実施できれば取り組みたい」という意見が大勢を占める結果が出た。他方、自殺を直接話題にすることについては7割近くが「不安」としている。

 授業の特徴としては、安全性と具体性を兼ね備えた手法、リーフレットや解説書といったツールの提供、研修実施と人材育成と体制づくりということで、必要性の合意形成、手法の理解・獲得、相談にどう対応していくか、というようなところを重視している。参加者には、児童生徒対象の自殺予防教育の必要性の理解が随分広まったり、不安解消につながりつつある。これ自体が臨床心理士会と教育委員会と精神保健福祉センター、つまり、教育委員会の指導部が企画する研修や、教育委員会の教育センターが企画する研修とかに取り上げてもらったこともある。研修に必要な追加的予算は、自殺対策基金を活用し、精神保健福祉センターが費用負担をするということも含め、3者の既存の関係性を基礎として取り組んだ。

 今後、実際に学校現場でやっていくというところに関していうと、ますます3者の連携を継続することが必要であるということの共通認識が出てきている。今後の課題として、学校の実情などから、教育委員会から一律で下ろすことが難しい面がある。一方で、対人スキル、自尊感情とか、人間関係づくり等を推進していくという流れがあり、それとうまく組み合わせることで実施できるという印象もある。教員に対する継続的な研修、既存のものを活用しながら実施していくということ、そして家庭、地域への拡大というところが今後の課題である。

【委員】子供の自殺事案を正面から受けとめ、繰り返さないためにはどうしたらいいか、から出発している。自殺が起きたとき、いじめの有無という1点で遺族と学校側が対立するのではなく、将来に向けてどのような形で予防の対策を立てていくべきかという点が、地域の合意形成の根本であったということは興味深い点であった。質問や、地域との合意形成についての意見など、どなたからでもどうぞ。

【委員】学校担任など、学校現場の教員の意識は測れているか。

【委員】一般の教員向けの研修は、ほとんど実施できていない。研修に参加した先生は、研修前は危険、不安という認識が非常に強い様子である。そこで、スクールカウンセラーが各学校で教員に向けた研修を実施することから始め、必要性の認識や不安の解消を十分図るプロセスを考えている。

【委員】実際に学校現場で活動を見せていくことが、説得力を増すこともあるだろう。精神保健福祉センターと教育委員会と臨床心理士会の連携という話があったが、精神科病院協会や診療所協会という団体はどのように関与しているのか?

【委員】自殺対策連絡会の中には精神科病院協会の代表者が入っており、取組についての報告などは随時行っている。取組が実際に進んでいけば、フォローアップ等において、今まで以上に地域の精神科医療機関との連携が必要になってくるので、連絡会を通して働きかけを行っていく形をイメージしている。

【委員】リーフレットは小学校5年生以降を対象としているが、その根拠は何か。

 また、リーフレットを配るだけでなく、教員を対象にした研修がセットで行わなければならないとする例をあまり見ないが、そのようにしないと学校には浸透しない、というお考えがあるのかについて更にお伺いしたい。

【委員】まず、自殺は小学校5年生以前でも起きるものだが、よりリスクの高い年齢を対象にしたということ、発達段階として抽象的な概念を理解できるようになるのが11歳前後であること、という考えがあった。また、研修とセットでなければ配れないという例は、これが初めてではないかと思う。まず、スクールカウンセラーが学校で先生方に研修を実施して、そこで十分、不安を解消し、学校の体制を固めた上で、担任の先生とスクールカウンセラーがチームティーチングで授業を行うようにしていきたい。

【委員】死の概念が大人に近いものになるのが10歳前後なので、小学校5年生以上というのは理解できる。

【委員】リーフレットは、子どもに対しても直接何らかの形で活用されているのか。それとも、教師への研修で使っているものなのか。

【委員】子どもには直接届いていない。リーフレットを使った授業の実施はこれからの課題である。

【委員】臨床心理士会が学校で研修を実施するには、臨床心理士会の中で研修が実施され、コンセンサスがとられていないと、伝達する内容がばらばらになってしまうということがあると思うがいかがか。

【委員】スクールカウンセラーについては、昨年度1回と、今年度2回、月1回の研修を実施している。その中の重点テーマという形で、指導案に基づく、模擬授業を実施しており、教材と指導案については共通認識を概ね作りつつある。ただ、スクールカウンセラーも異動があるので、研修はやり続けないといけない。

【委員】発表を伺って、ポストベンションの取組が、将来に向けたプリベンションになるという印象を受けた。健康な人だけに対して予防教育を実施しても他人事のように聞いているが、実際に仲間が自殺してしまったような時に残された人へのケアなどをしながら予防のためのインフォメーションを与えていくと、一生懸命聞いてくれて、なおかつ、予防教育の必要性をわかってもらえる。こうした活動を少しずつ重ねていくと、決して他人事ではなく、予防教育の内容をきちんと理解すべきだという認識が徐々に広まっていく。合意形成だけやろうとしても無理であり、並行して事後対応などの現実の活動を続けていくほうが説得力も増すのだということを思いながら聞いていた。

【委員】何も事案がないのに、必要だからやりましょうということでは、なかなか話が進まない印象はある。

【委員】研修に参加した教師の意識の変化について、実際に研修を実施してみてどのように感じたか。また、研修に参加するとなぜ否定的な考え方が薄れるのか。

【委員】教員は自殺に触れることで、より自殺の危険を高めるのではないかという思いにとらわれていたり、何かしなければいけないがどう手をつけていいか分からなかったりするところがある。研修を実施することで、自殺予防教育がメンタルヘルスの基礎づくりであるということを理解してもらえたり、また、自殺に限らず学校が抱えるいろいろな困難な問題に取り組む中で先生方がこれまでやってきたことが十分活かせる、自分たちでできると認識してもらえたりするように感じている。

【委員】では、そういった点に力点を置いてアプローチすれば、より一層理解が進むということになるだろうか。

【委員】身近なことの延長線上に位置づけられる、具体的な進め方がわかる、という状態になれば、取り組めそうだという印象を持ってもらえると思う。

【委員】教員の意識としては、誰が実施するのかという点が重要であると思う。スクールカウンセラーが授業主体となり、教員がチームティーチングのT2として入る形であれば抵抗感は少なく、教員自身が授業主体となる場合には抵抗感や不安感が出てくる。最終的にはどういう形で実施するのが望ましいとお考えか。

【委員】主たるところは担任の先生が実施できるという形まで、事前の研修や校内の体制づくりができるのが良いと思っているが、丁寧な準備が要る。教員が授業主体となり、スクールカウンセラーが補助的に授業に入る形が理想的だが、当初は役割が逆であってもいいと思っている。

【委員】今後の課題として、各学校の事情が挙げられているが、どういうところが導入に前向きであるといった条件・背景として共通点はあるか。また、家庭教育やPTAへのアプローチについてアイデアが何かあるか。

【委員】1点目については、管理職、生徒指導主事、保健主事など、問題の中核を担う方向けの研修を継続していくので、必要性を感じてもらえる管理職等の関係者が確実に増えていく事を見込んでいる。また、基本的な人間関係づくりや心理教育について取り組んでいると、比較的スムーズではないかという感触はある。

 2点目については、家庭教育学級やPTAの保護者の集まりなどで、スクールカウンセラーから話す機会はよくある。子どもの心に関することを保護者向けに話すような機会は既にあるものなので、特別に自殺予防に関する保護者の研修会を開催するということではなく、既存の機会を意識的に活用していくことが可能だと思う。

【委員】研修受講者からは前向きな評価が多かったと思うが、それは、このリーフレットを使った授業をイメージして評価をした結果なのか。どういう内容を自殺予防教育として話したのか教えて欲しい。

【委員】自殺予防教育の内容は、根幹はメンタルヘルスの基礎づくりであるが、自殺の一般的な情報や相談先についてもきちんと教える、という一般的なことをお伝えしている。その一例として、リーフレットを使った取組を紹介しているので、研修受講者の意識としては、リーフレットを使った授業のイメージで答えている可能性がある。

【委員】リーフレットには、自殺という言葉が1つも書いていないが、自殺という言葉をあえて外した検討経緯があるのか。

【委員】単に配付するという形では使わないとしても、物がひとり歩きする可能性はあり、身近な方を自殺で亡くされた方のことを考えて、生々しく言葉に出ることの危険性は議論された。また、このレベルからでも十分意味があるので、取り組んでみようという意識になるまでの敷居を上げないための配慮もあり、正面から自殺という言葉を使わなかった。高校生に試行的に授業を実施したときは、リーフレットを使用する部分以外で、自殺に関する事実を伝えるパートを別途設けるようにしていた。

 個人的には、実際に予防教育を進めていく中で、誤解や偏見に満ちた情報が子どもに入っている現状において、自殺という言葉を出さないほうがいいのか、まだ整理ができていない。

【委員】さて、合意形成については、ハイリスクの子が見つかったときには精神科から協力を得られるような状況の中で始まった例や、今回発表いただいたような、臨床心理士会、精神保健福祉センター、教育委員会の組織連携があるところから始まった例が紹介されてきた。そういった支えがないところで合意形成を築き上げていくための提案、アドバイスはないだろうか。

【委員】市として、全小中学校でコミュニケーション能力のスキルをつける授業を一斉に始めた際の話だが、当初は、地域や保護者の方から、学校でそこまで教えなければいけないかというご批判を受けた。そうなると、保護者との合意形成をせざるを得ないということで、市のPTA協議会と連携し、市のPTA協議会の参加者に対して、実際の授業を生徒役として受けていただいたことがあった。これはとても好評で、市内の各地域から、ぜひやって欲しいと広がったことがある。

 確かに自殺予防教育の授業をするにあたっては、教員は不安感を持っていると思うが、一番の要因は知識がないこと、そして、どういうことをやったらいいんだろうというイメージがないことである。保護者も同様で、実際に体験してやってみるということが効果的だと考えているところである。

【委員】生徒を直接対象とした自殺予防教育の実施に当たり、その前提として、学校の教員、地域の医療機関、保護者との間で、合意が必要であることは反対のない点だと思う。ただ、現実の問題として、全国のすべての地域で合意形成ができるのかというと難しい面がある。必要性を説明し、実際に行ってみて、効果を少しずつ見せていくということ以外に何か手はあるのか、という点が論点かと思う。経験上、必要性と言うだけではなく、実際にやってみてその効果を少しずつ見せていくことが必要ではないかと感じている。

【委員】研修をうまく実施していくことも重要だと思う。管理職、生徒指導主事、教育相談担当に対して研修をして、必要性の理解が高まってきたときに、では学校で広めて欲しい、と言うだけでは足りないように感じる。ただ、実際にそこまで研修ができるか難しいところだが、教員に広げていくという意味では、効果を実際に見せて広げていくと同時に、うまい形でやる研修が必要だと思う。

【委員】アメリカで2つの高校の視察をしたが、数年の間に何人も若い人たちが亡くなっている地域の学校の方が熱心に取り組んでいた。いかに身近な問題なのかが認識されていないと、うちの地域でもこういうことをしなければいけないというようなところにつながらないのだろうか。

【委員】そう思う。一方で、たくさんの課題の1つとして、自殺予防を取り扱うことになると、どうしてもモチベーションが上がらないということはある。メンタルヘルスの基礎の問題を丁寧に取り上げると、薬物、暴力、その他あらゆることの基礎になると強調しつつ、自殺に特化した内容は、別途伝えるというような工夫がないと難しい。

【委員】リーフレットでまとめられた3つのメッセージというのは、言葉を置き換えるといじめ問題への対応についても使えるし、教職員のメンタルヘルスにも当てはまる。

 自殺予防については、日頃教員が子どもにかかわっていくことで、実際には、自殺をしている子どもを上回る数の子どもが助けられているというところから自殺予防をスタートするのではないか。その考え方に立ったときに、特別に自殺予防と言うから構えられてしまうので、現状でもやっている部分と、自殺予防として区別して行わなければいけない部分をくっつけていくことで、姿が見えてくると感じる。

【委員】ここまでの議論で、合意形成が容易な状況は、自殺が非常に深刻だと受けとめられている状況、周囲からのバックアップが極めて密にとれる状況。そして、自殺予防教育と他のメンタルヘルス、ほかの状況における困難を抱えたときにどういうふうにそれに対処するのかということにかなり共通点があるということが十分に認識されている状況、という3点に絞られてきたように思う。

【委員】自傷行為、薬を飲むといった身近にいる子どもの行動への対応が、自殺予防につながるという視点でも入りやすいのではないか。

【委員】ハイリスクの子どもが圧倒的に多い学校では、必ずきちんとしたフォローをしなければいけないんだという共通認識として最初から成り立っているというような雰囲気があった。個人の情報を保険調査票というような形で聞いて、医療と連携して対応してきたが、気になる話を聞いたら、それに対応してサポートしていくということになるので、そういうスタッフの増員も望まれる。

【委員】保護者や教員の多くは、学校で自殺予防教育が必要であるという意識を持っていないと思う。仮に学校でやるといったときに、保護者がどんなふうに思うかという保護者の意識について、把握している方がいればご意見を聞きたい。

【委員】自殺という言葉を使わず、「だれでも悩んだり、ストレスがたまったりするときは必ずある」、「そういうときには相談することが大切」、「友達から打ち明けられたときは、トークの原則で聞いてあげることは大切」といった内容で授業を実施したので、保護者からは違和感がある雰囲気は見てとれなかったです。本日の発表のような内容であればことをしても、僕は意外とすんなりと保護者に受けとってもらえるんじゃないかなと、今日の発表を聞きながらそういうふうに思っておりました。

【委員】本日の発表のようなリーフレットを使った授業ではなく、中身が変わったときのことは想像がつかず、教職員の共通理解をとるにも時間がかかるように思う。こうした会議の場で話の経過を知っていれば別だが、一般の学校ではこういうことがカリキュラムとしてできることへの抵抗や、理解不足があると思う。

 もう1つは、授業として自殺予防教育を進めていく中で、連携、協働というところはキーポイントになると思う。学校は、子供たちの生活背景を含めて、すべてのことを教員が把握しているので、小さな変化に気づく大事な役目を果たしているが、専門的なところになると、担任が知識として自分のものにするには時間がかかり過ぎる。そうすると、専門の方とのチームとすることで進んでいくと思う。そうすると、つなぐ役目として、地域のコーディネーターが必要になったり、研修の中でもいろいろな立場の人を集めるということにもなりえるので、連携、協働も重要なポイントである。

【委員】一般の学校では、こういったことを進めることに抵抗があるのではないかという部分をもう少し教えていただきたい。

【委員】教育の年間計画を年度当初に作成するが、十分に時間を確保して進めていくことができていない状況で、新たな物をすぐに取り入れて進めることに抵抗がある学校が多いのではないか、ということである。

【委員】様々な教育が行われている中で、このような教育の優先度が上がっていかない理由は何だろうか。学校が扱う範囲ではないといった意識や、そんなことが起きるはずがない、うちの子ども達には関係ない、といった意識があるのだろうか。

【委員】切実感がないという面はあると思う。自殺事案が起きた地域・学校ではすぐにこういう教育をやらなければいけないとなるが、実際に起こっていない地域・学校では限りなく優先度が低くなってしまう傾向があると思う。

 現状でも、学校には様々やらなければいけないことがあるが、新たにこのような教育が入ってくることは避けて通れないと思う。ただ、1つの行事、1つの活動は、1つの目的のためだけにやられているものではない。自殺予防に関わる重要な部分が入っているこれまでの教育に入っている可能性はあり、学校教育の中でも十分できると思う。ただ、新たに自殺予防教育を実施する、と言うと抵抗が大きいことが予想される。

【委員】例えば、こういう問題が非常に深刻にとらえられていて、かつ、バックアップ体制が十分にとれている、他のメンタルヘルスの課題との関連性がきちんと共有できる、という地域で試行的に始めて、その理解が進むにつれて、他の地域でも進めていくというプロセスになるのではないか。この点についてはどう思うか。

【委員】本日の発表は、まさにその取組だと思う。ただ、何かが起こらないとこういう教育が進んでいかない、となってしまうのは残念である。もう1つの側面から、自殺予防教育に必要な要素が、日々行われている教育活動の中に自動的に組み込まれるような仕掛けができないのか、という論点があると思う。

【委員】今のご意見には、教育とは、ある程度のスタンダードで一律にやるという意識があるように思うが、こういう特殊な教育は、一挙にやることが難しいと思う。

【委員】子どもの自殺はどこでも起こり得るものであり、予防の観点からは、一律スタンダードにやるかどうかは別として、日本中で考えていないといけないことではないか。

【委員】予算やマンパワーがない、抵抗感がある、といったところで一挙に進めることは現実としては難しい。十分に人も予算も配置できるところから進めていき、重要性が理解できたら、全国的に少しずつ広げていく考え方で良いのではないかと思うが、いかがか。

【委員】実際、リーフレットに含まれている要素は、違った文脈の中で学校で取り組まれていることがある。意識の仕方によって無理なくやれる内容であるはずの部分は、そこをきちんと抽出して、あきらめずに伝え続けるべきだろうと思う。

 一方、現実的には、比較的取組が進みそうな地域から始めて、プログラム自体を洗練した上で、比較的スムーズにやれる方法、体制を作って広げていくことも必要。この二本立てではないかと思う。

【委員】取組の効果、生涯のメンタルヘルスにつながることの意味合い、年間で3万人ずつ自殺しているという現実。これらを踏まえた発信が重要だと思う。自殺予防は専門性が必要であり、専門家といえどもひとりで担い切れないものである。自殺予防について教えるとなったときには、専門家が近くにいるかどうか、専門的に担える人と一緒にできるか、という点が重要である。こういう人をアドバイザーとして一緒にできる、というものを示したり、そういうシステムがないと、教員が取り組もうという意識になれないと思う。システムとして、こういう組織で、こう動けばできるということも示していく必要がある。

【委員】自殺に全然関係がない、周りにも亡くなった人がほとんどいないという状況の人たちに自殺予防の話をすると、生命倫理や宗教的なものを教える教育を想起されてしまった。

【委員】本日の話でも、無知や無理解が不安を呼んでいるというところに行き着く。日本で年間3万人以上の自殺者がおり、子どものうちから一生にわたるメンタルヘルスの基礎を築き上げるという視点で自殺予防教育をとらえるのが大事であるが、世間にはそこまで理解されてないというのが現状である。

 自殺予防のプログラムを始めるに当たっての合意形成の必要性については誰も反対しないと思うが、それでもなかなか合意が達成できない状況もかなりある。逆に、比較的合意形成が容易な状況というのは、自殺が非常に深刻な問題としてとらえられているような状況である。

 もう1つは、本当に危機的な状況にきちんと対応してくれるような専門機関からのバックアップ体制の存在も非常に重要である。

 さらに、非常に根本的なところで、自殺予防教育と一生の間に問題を抱えたときにどうそれに対応していくのかという対処機制のスキルについての関連が十分に理解されていないと、自殺予防教育の必要性をいくら訴えても地域での合意形成が成り立たないのではないか。本日の話はこのようにまとめられるだろう。

 次回の会議では、自殺予防教育を行った後のスクリーニング方法、また、ハイリスクの子どものフォローアップについても委員から発表いただきたい。

【事務局】平成24年度については、テーマ別討議として、5月ぐらいに1回目の会議を開催したいと考えている。先生のスケジュールを確認した上でまたご連絡したい。

【委員】では、これで今回の会議を閉会したいと思います。ありがとうございました。

閉会

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課生徒指導室