児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成23年度)(第3回) 議事要旨

1.日時

平成23年10月31日(月曜日)14時~16時

2.場所

文部科学省 旧庁舎2階第2会議室

3.議題

  1. 自殺予防教育の取組に関する事例紹介
  2. 討議
  3. その他

4.出席者

委員

新井委員、市川委員、荊尾委員、川井委員、窪田委員、阪中委員、高橋委員、中馬委員、坪井委員、村瀬委員

文部科学省

白間児童生徒課長、郷治生徒指導室長、鈴木生徒指導調査官 他

5.議事要旨

開会

議事

 (1)自殺予防教育の取組に関する委員からの事例紹介及び討議が行われた。
 (2)学校及び教育委員会に送付するアンケートについての討議が行われた。
 (3)本会議の今後の進め方についての討議が行われた。

 

(1)事例紹介及び討議

【委員】それではまず、自尊感情を高める教育と自殺予防教育の統合について委員から話題提供をいただきたい。

【委員】まず、写真から紹介させていただく。子どもたちの実態を見るときに、学力調査をしているが、点数的なことだけではなく、学習状況調査で子どもたちの意欲面にも注目している。自校では学校は楽しいと思っている児童や意欲のある児童は多いが、「最後まで何かをやり遂げた」という項目の値が少し低かったことから、今年は全校で何かをやり遂げる体験をしようとミュージカルに取り組んでいる。その際、がんのため余命数カ月という方が見学に来られ、その方から子どもたちは激励のメッセージをいただいたことで交流が始まった。絆や命のことを学ぶよい機会となった。

 次に、文部科学省が5年に一度実施している、保健室利用状況に関する調査においては、保健室に児童生徒が訪れた主な理由として、小・中・高等学校ともに、主に心に問題があると養護教諭が判断した事例が多いという結果が出ている。

 また、日本学校保健会の心の健康づくりの推進委員会による調査結果が、「子どものメンタルヘルスの理解とその対応」という冊子になっている。平成16年度において、児童生徒数が500人以上である全国の小学校、中学校、高等学校(約1,400校)で調査をした結果、小学校、中学校、高等学校ともに半数以上の子どもが医療機関や相談機関を利用しており、60%以上の中学校、高等学校が医療機関と連携をしているという結果が出ている。

 養護教諭による回答結果として、子どもの受診・相談先は精神科医や心療内科医が多く、中学校、高等学校では特に顕著である。また、子どものメンタルヘルスの主な問題として、人間関係の問題が最も多く、その次が不登校・保健室登校等と回答されている。発達障害もかなり多く回答されている。

 このような状況の中、平成20年6月18日、学校保健法にかわり、学校保健安全法が制定された。この法律において、これまで学校保健は主として養護教諭が担当していたが、保健指導に係る第9条に「養護教諭その他の職員は」という文言が入り、学校全体で学校保健に取り組むということが法に明記された。また、同法第9条においては、どうしても子どもたちの改善が見られない場合には、保護者への指導も行うことが法律で定められた。また、同法第10条においては、地域の医療機関との連携に努めるということが明記された。

 本調査研究協力者会議に前回まで参加してきて、自殺予防教育には、直接的な自殺予防教育と間接的な自殺予防教育があり、発達段階に応じた内容で取り組まなければいけないだろうと感じている。そして、小学校では、直接的な予防教育よりも、自己有用感の向上や、人間関係づくり、コミュニケーション能力の育成など、その基盤となるような自殺予防教育が多く行われ、高校生に近づくにつれて、直接的な予防教育が行われることが必要なのではないかと考えた。

 十分ではないかもしれないが、教科の中における心の健康に関する学習内容を整理してみると、例えば、小学校5年生の体育の保健領域では心の健康が扱われている。中学校や高等学校の教育課程にも、保健分野で心の健康が扱われている。この場面で扱われる学習内容は、全国どこの学校でも学べるため、1つのよい機会になるのではないかと思う。特別活動の中でも、人間関係や、思春期の不安や悩みとその解決といった内容を扱う場面で、心の健康について取り上げることができるのではないか。

 ここで、ある高等学校の事例を紹介していく。ある高等学校では、学校保健の立場から、入学してきた全員に対し、4月から5月の下旬にかけて、昼休みと放課後を使い、3分間カウンセリング(健康相談)を行っている。これは、子どもたちに対し、保健室や相談室というものがあり、誰でも利用できるものだということを伝えるとともに、「困ったときには力になってくれそうなところ」だという印象を入学時に持ってもらうこと、早い段階でのスクリーニングを行い担任への情報提供を行うこと、を目的としている。また、この学校では、1ヶ月に3日以上欠席した生徒については、担任が支援シートへの記入をしている。初回作成時は、欠席の理由や連絡・連携の状況、生徒の登校意欲や生徒の様子、担任所見といったことを記入する。次に3日以上休んだ月があれば、今度は、前回と比べて気になる点を記入したり、養護教諭が把握している情報を記入して担任に伝えたりしている。支援シートの効果としては、生徒個々の欠席の理由や背景が注目されるようになったこと、担任との養護教諭の連携がうまくいくようになったこと、保護者面談やスクールカウンセラーとの面談など早い段階の介入ができるようになったこと、などが挙げられている。

 さらに、この学校では、4月中旬に、全校生徒を対象に「こころの健康状態調査」として、62項目についての質問紙調査を実施しており、健康観察等の直接的な生徒理解や面談等の共感的な生徒理解に加えて、客観的に生徒の心の状態を知ることができること、生徒のかかわりを結ぶきっかけができ、早い段階で支援の方法が検討できたこと、問題が発生した時の情報源として活用できることなどが成果として挙げられる。また、2学期にはいじめに関する調査として、5項目についての調査を行っている。これらは、プライバシーへの配慮から、封筒に入れて提出という形をとっている。

 さらに、提出物の状況や友達との関係づくりの面で気になる生徒を担任や授業担当者がチェックし、複数の教員による小委員会を月に1回開いてその生徒に関する共通理解を図り、複数の教員が複数の項目にチェックをした生徒については再度会議を開く、という3段階で、気になる生徒の実態調査を行っている。中学校、高等学校は教科担任制であり、担任だけで生徒の様子を全て把握することはできないので、授業担当者からの情報も集めながら情報共有に努めているということである。以前視察に行ったフィンランドの学校では、校長が実施主体となり、スクールカウンセラーや関係者を集め、週に一度会議を行わなければいけないことになっていた。日本では、生徒に関する情報を共有する時間がなかなかとりにくい現状にあるが、この高等学校では月に1回必ず時間を設けており、こうした情報交換の機会は必要であると思う。

 以上のような、様々な形の生徒理解や心の調査等を行った成果として、多面的に生徒を見ることができること、平常時から情報を共有する体制ができたこと、問題のとらえ方の幅が広がり見落としが少なくなること、そして、早い段階から連携がとれることで問題発生時のチーム支援がしやすくなったということが挙げられる。

 健康観察は、小・中学校では比較的行われているものの、高等学校ではなかなか行われていなかったように思うが、学校保健安全法において全教職員で行わなければいけないと定められてから、きちんと位置づけられた学校が多いのではないかと思う。危機管理上も健康観察の取組は必要であり、いい流れになってきていると感じる。

 次に、小学校の取組についてご紹介する。小学校で、自己有用感を高めたり、人間関係づくりについて学ぶには、色々な体験をすることが大事ではないかと思う。人との交流の中で、自分の価値について実感できることがあると思う。私の学校でも、1年生から6年生まで全校で3泊4日の長期宿泊体験をしたが、寝食を共にすることで、互いを深く理解をすることができ、子どもたちが主体的に動く場面が多くなったり、お互いに優しくなったりという変化が見られた。

 また、健康観察を重要視しており、始業前から放課後まで、1日の中で教職員が子どもたちのどういう変化に気づくのかについて、ポイントを紹介したリーフレットを作成し、全校の保護者に配布している。

 さらに、卒業前には、スクールカウンセラーとの面談を体験させている。困ったときには相談する場所があるということを伝えるとともに、子どもに、相談するということを肯定的に捉えてもらうために取り入れた。子どもは、面談が終わると、楽しかったと言って帰ってくるが、こうした体験こそが子どもを相談機関につなげる大切な要素だと思う。さまざまな相談機関へのフリーダイヤルが書かれたカード等が各学校では配布されているが、気になる生徒には、それを肌身離さず持っているように個別に指導し、その上で10円玉を何個か持たせていつでも相談できるようにさせている。また、何よりも家族の中での会話が大事であることから、行事があれば必ず家族会議シートというものを作成している。家族で話し合う機会が生まれ、子どもが家族の中で大事にされていることを実感できるように活用している。

 これら以外にも、子どもたちが大きな集団に入ったときに、憶することなく自分の力が発揮できるように、そして、自分の意見がきちんと言えるように、幼稚園との交流や小学校同士の交流に多くの時間を割き、少し広い人間関係をつくることを意識的に行っている。また、コミュニケーションの力をつけるためには語彙力が必要で、図書館教育や読書指導の充実にもかなりの時間を割いている。

 以上、直接的な自殺予防教育まで行かないが、その基礎となるようなレベルの取組について、話題提供させていただいた。

【委員】ありがとうございました。それでは他の委員から意見や質問をどうぞ。

【委員】いまご紹介いただいた内容は、非常に積極的な取組例であるが、現在でも学校で実践されている取組である。自殺予防について推進していく時に、現行の教育の中で行われているものをやっていれば間接的に自殺予防教育につながると考えるか。あるいは、今既に行われている取組であっても、自殺予防教育という切り口を取り入れ、取組の視点を変えることによって、より自殺予防につながると考えるか。

【委員】指導する側がどういうねらいを持っているかということで違ってくる。指導者が、この取組には自殺予防の意味もあるのだという視点で取り組むことは必要になるだろうと思う。

【委員】つまり、現段階では教員はそうした意識を持たずに取り組んでいるということか。

【委員】おそらく、自殺予防という意識ではなく、子どもたちの心の健康や、自己有用感、人間関係づくりを良くするという意識が強いと思う。

【委員】すると、今やっていることに対して教職員の意識が変われば、同じ内容を同じような形で取り扱っても、子どもにとってプラスになるような変化が出てくるとお考えか。

【委員】自殺予防教育のカリキュラムを作成する際に、新たな取組を導入するということだと、学校現場はその時点で気持ち的に引いてしまうところがある。そうではなく、今すでに行われている取組の意図、ねらいを整理して、今やっていることの中で意識的につなげようという考えになれば、より現実的に学校でできるのではないかと思っている。

【委員】今の議論は非常に大事な視点であると思う。小学校でも中学校でも、日常やっている取組で自殺予防教育につながるものは大変多いと感じていた。それらを整理できれば、現場の先生方にとって非常に役に立つと思う。

【委員】基礎的な自己有用感や自尊感情、人間関係づくりの力を付けることや、必要な時に援助を求められるような体験をさせているのは非常に効果的であると感じた。ただ、間接的な自殺予防の取組に加えて、自殺予防に特化した知識を付けるなどプラスアルファの取組があるという考え方で組み立てていくのか、という点が議論になると思う。今後の取り組みかたについての考えをお聞きしたい。

【委員】教員の視点では、自殺予防教育と聞いたときに、教育課程のどこで扱うかを考える。今あるものを活用できるのであればそれを十分活用していくということ、また、集団でできる取組と個別に行う取組を整理することが必要だと思う。自殺予防教育は間接的なものと直接的なものがあるが、この調査研究協力者会議では、自殺予防に特化した取組を、どのように発達段階に沿ってプログラムしていくのかが検討事項だと思っている。自殺予防に特化した取組とすれば、例えば小学校では、アニメやゲームの世界のようにリセットすれば生き返るということはないのだという内容を教えたいと個人的には思っている。

【委員】第1回の会議で委員から情報提供いただいた取組は、小学校や中学校で習ってきたことを踏まえて、自殺予防教育のプログラムを実施していたのではなかったか。

【委員】プログラムの内容は、中学校1年次に、自殺という言葉を用いずに、生と死についてや、レジリエンスについて勉強し、2年次で自殺に関する情報も出しながら正しい知識と理解を深め、自分が辛いときや、友達から死にたいと訴えられたときにどうするか、という内容だった。

【委員】個人的には、保健の領域から、心の健康という広い分野の中で、自殺予防を進めてはどうかと考えている。話題提供の中では、心身の健康等にかかわる学習内容としては、保健や特別活動を挙げられたが、間接的な自殺予防教育と考えられる内容としては道徳が中心に挙げられている。これは、心の健康の分野では、自殺予防を扱うことが難しいとお考えであるということなのか。

【委員】自殺予防と現行の教育課程における学習内容との関連は、特に考えがあってというよりも、まだきちんと整理しきれていないものと考えて欲しい。

【委員】教育課程の中で命の問題や自殺に関連する内容は他の教科にもある。各教科のいろいろな教材の中で、自殺予防に関わる教育ができるという発信を教員に向けてできたらいいと思う。

【委員】先月、北京であった国際自殺予防学会では、学校で行われる自殺予防教育には2つの大きな柱があり、1つはレジリエンスを高めるスキル訓練、もう1つはハイリスクの子どもをスクリーニングして適切な治療に乗せること、という話があった。今日は間接的な自殺予防教育についてお話しいただいたが、直接的な自殺予防教育としてはどのようなことをイメージされているのか。

 また、学会では、スキル訓練は短期的な効果ではだめで、やはり学校でやる以上、長期的な効果が期待できるものであるべきで、その後の人生に役立つような形でのスキルの獲得を目指すべきであるといった話が印象的であった。子どもに相談を体験させて、相談を肯定的に捉えてもらうという発表であったが、そういった働きかけの効果判定は学校ではどのように行っているか。

【委員】直接的な自殺予防教育については、直接死に触れるような内容をイメージしている。働きかけの効果については、小学校において相談を体験した後の効果判定はしておらず、その子の中学校での状態を見ることも始めたばかりであり、十分な評価はできていない。

【委員】死を具体的にイメージさせるような直接的な自殺予防教育を考えた際、教育課程や子どもの発達段階を踏まえると、どれぐらいの時期に扱うのがよいと思うか。

【委員】個人的には、少なくとも小学校の高学年である程度精神的に成長している子、あるいは中学校、高等学校の段階をイメージしている。

【委員】子どもたちは教科の中で、健康について発達段階に応じて理解をしていく。また、体験を通して、自己有用感やコミュニケーション能力などを身につけていく。他方、教師の側は、スクールカウンセラー等と連携しながら、多面的な児童生徒理解ということをやっていく。その双方の延長線上に、子どもの健康な生活が実現していくという考え方が根本にあると感じた。

 これらを教師がしっかりと理解し、実践がなされた上で、自殺予防の特殊性を考慮したプログラムを実施していくことを考えて、具体にどうプログラムを構築していくかを議論していくということでこれまでの議論が整理できた。

 

(2)学校及び教育委員会に送付するアンケートについての討議

【委員】アンケートについて、中心となって作成した委員から説明をお願いしたい。

【委員】今後議論を進めていくために、実際に、全国的な自殺予防教育の実施状況を把握するためにアンケートをやってはどうかという話が出たことを受け、事務局や他の委員とも相談しながら、原案を作成した。

 まず、学校に対するアンケートにおいては、必ずしも「自殺」という語を用いている必要はないが、自殺予防を視野に入れている実践について尋ねているが、一般的な命の教育は含まないということを前提としている。その上で、そうした実践の内容に関する質問、学校として実施しているか、学年単位でやっているか、関心のある教員が個人的に実施しているかといった実施者についての質問、カリキュラム上の位置づけ、自殺予防教育の実施に関する今後の意向についての質問を入れている。最後に、自殺予防について日ごろから感じておられることなどを書く自由記述欄をつけた形で作成した。アンケート調査の範囲は、現状で取組を実施しているところが非常に少ないことが予測できるので、ある程度取り組んでいるだろう学校を教育委員会に選んでもらう形の抽出調査ではどうか、という話が事務局との間で出ている。

 このアンケート調査自体が教育委員会を経由して学校に届くことになるので、教育委員会向けにも、児童生徒対象の自殺予防教育を行う前段階としての教師研修にどの程度取り組んでいるのか、その対象者や内容、教材等について質問するアンケートを作成した。

 文科省としても「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」などを使った研修の実施状況調査をしたばかりということであり、「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」を使った研修に限らず、教育委員会独自の取組も含めて把握できるように質問紙を作成したが、似たようなアンケートが続けて行われることの是非も含めて、議論の必要があると思っている。教育委員会がどのような認識を持っているかは重要な点なので、個人的には研修の実施状況についても改めて調査できればと思うが、現実的な負担も考慮してご検討いただきたい。

【委員】ありがとうございました。アンケートで収集する情報についての意見や、アンケート全体に対する質問があればどうぞ。

【委員】教育委員会向けのアンケートについて、事務局から何かコメントがあるか。

【事務局】7月に、都道府県・指定都市教育委員会に対して、「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」と「子どもの自殺が起きたときの緊急対応の手引き」を使った研修の実施状況に関する調査をしており、現在集計中とである。

【委員】教育委員会の負担を考える一方で、今後の自殺予防教育の進め方についての意見や、研修の対象者などについては分かったほうが良いと思っている。

【事務局】以前行った調査は、自殺予防教育を今後どのように実施していくかという意識で行ったものではなく、教育委員会が自殺予防教育の実施について、今後どのように考えているかということなども聞いていないので、似たようなものではあるが、内容的には全然違っている。このような、この会議にとって必要な情報についてお聞きするのは、構わないという前提で議論いただきたい。

【委員】学校向けのアンケートは、回答した学校名が記入されて、どの学校でどのような実践をやっているのかが分かる形になるか。もし可能であるならば、取組例として参考になるものが上がってきたら、実際に応接していただいたり、本会議に呼んでヒアリングすることも視野に入れていただければと思う。

【事務局】そうさせていただきたい。学校名も分かるように工夫することとしたい。

【委員】教育委員会向けのアンケートでは、実施していない理由や背景などを書き込めるような欄があれば、今後、どうすればこちら側が動機づけや雰囲気を作ることができるかを考える上で参考になるかもしれない。

【委員】アンケート調査に関する集計はいつ頃になるのか。自殺予防教育の内容については、アンケートの結果がかなり行かせるのではないかと思う。

【事務局】調査全体がまとまらなくても、参考になる学校の例が先倒しでピックアップできるかなど、スケジューリングを工夫したい。

 

(3)本会議の今後の進め方についての討議

【委員】残りの時間で、今後この調査研究協力者会議でどこまで話を進めていくのか議論したい。事務局でまとめた今後のスケジュールの案について、説明をお願いしたい。

【事務局】はじめに、今年度の会議で成果物を作成するのは難しいことから、来年度の審議も踏まえた上で成果物をまとめてはどうかと考えている。今年度は、日程的に3回程度しか会議を行えないので、審議の経過や来年度に向けての検討課題などをまとめた中間まとめのようなものを作成していただきたい。来年度に関しては、例えば自殺予防教育の「べからず」集や、児童生徒向けの教材、教員向けの指導参考資料等の作成に向けて検討していただければと思う。

 年度内のスケジュールは、3回ほど会議を行い、今後の課題について再度意見をまとめ、関係者の合意形成、スクリーニングやフォローアップの時期・方法について議論をしていただき、中間まとめの作成をしていただく形としている。来年度は、年度空け早々から、成果物の検討に向けてご議論していただくことを考えている。

【委員】これまでの議論を踏まえると、心身の健康についての教育や働きかけが前提になった上で自殺予防教育があるべきだということは、本会議の委員の合意として考えてよいか。また、心身の健康についてもこの会議で新たに全部取り上げることになるだろうか。それとも、あくまでもそういう土台があった上で、本会議で焦点を当てるのは、自殺予防に特化したものと考えてよいか。

【委員】心身の健康についての教育や働きかけが非常に重要であるということが前提としてあれば、本会議では自殺予防に特化したものを扱っていくのではないか。

【委員】心の健康に関しては、内容を扱うのではなく、自殺予防教育の土台としての位置づけの明確化をする必要があるのではないか。

【委員】本会議では、自殺予防にある程度特化したプログラムを考えることでよいと思う。その場合、どの時間で実施するかという問題が現場では出てくるので、保健や家庭科、公民、道徳など、自殺予防につながる、あるいは活用できる教科の内容などを見取り図のような形で押さえておく必要があるのではないか。一方、例えば小・中・高それぞれの段階でどのようなプログラムが考えられるかを議論していく必要があると思っている。

【事務局】心の健康について各教科の中でどのように扱われているか、学習指導要領の中からピックアップした資料は、参考資料として事務局で作成することはできると思う。

【委員】学校で取り入れられるプログラムにするためには、長大なものを作っても難しいだろう。また、対象として、子どもと教員を別々に考えるか、保護者をどう絡めていくのか、なども想定する必要がある。

【委員】自殺予防教育を開発している研究者の話では、学校現場の状況に合わせたものを実施しなければいけないということを強調している。時間数については、現場の合意の上で決めてもらうのが大事だと思う。

 その他、今後取り上げる内容についてはどうか。事務局案では、自殺予防教育の内容に続いて、関係者の合意形成が来ているが、合意形成を先に議論するのではないか。

【委員】内容と合意形成は相互に関連するので、順番はつけがたい。自殺予防教育の内容についてある程度議論が必要で、その中身に応じて、合意の難しさや、普及の手段についても話を広げていくことになると思う。

【事務局】そういう意味では、第4回、第5回の2回の会議ではどちらかをメインに据えつつも、予防教育の内容と合意形成の両方を視野に入れてご議論いただきたい。

【委員】断片的に入ってくる情報では、色んな人が色んな取組を、学校で子どもを相手に自殺予防教育と称して行っている現状があり、副作用が心配されるものなどもある。自殺予防教育についてある程度のスタンダードを決め、こういう点が守られていないとかえって有害作用が出てしまう可能性があることを、本会議からもきちんと示す必要がある。また、生徒を対象として自殺予防のプログラムを始めるならば、最低限こういうものを使ったほうがいいという提示をすべきなのではないかと考えている。

【委員】「べからず」集について、もう少しかみ砕いて、具体的にどういう懸念があるのか、どういう点で危ないのかについて、議論してみてはどうか。

【委員】スクリーニングやフォローアップの方法の議論と併せて扱うことになるだろう。

【委員】私が知っている、自殺をした子どもたちには大きく幾つかのパターンがあり、1つはいじめや教師からの追及によって希死念慮を持つようになった子、もう1つは性虐待や強姦などの性被害を受け自傷行為などを経て希死念慮を持つようになった子、もう1つは養育放棄を受けて愛着障害を持ち、薬物やアルコール依存に陥った末に死んでしまうような子である。こういった子どもたちが、自殺予防教育を受けていたとしたら、どの時点でどう救われただろうかというのが、いま一つ見えてきてこない。

【委員】アメリカなどでは、もともと健康な子をさらに健康にしようというのと、隠れた虐待や表に出ていない精神障害などのハイリスクを持った子を早い段階で見つけてきちんとした手を打とうという、二本立てで行っている。アメリカでは、虐待についての通報義務や、いじめについて学校が対策をとる義務などがかなりの州で決まっていると聞いているが、日本はどうなのか。

【委員】虐待に関する通告義務はあるが、養育放棄と性虐待は通告につながりにくい。また、いじめに関しては、子どもたちが苦しめられるのは、教師には分からないところで巧妙にやられるいじめだと思っている。そういうところに学校や児童相談所の介入による外からの救いを出すことは難しい。子どもたちがそういう厳しい状況に置かれたときに、自分自身を救うための自殺予防教育の知識があれば救われるのだろうかと考えている。

【委員】虐待を受けた子どもは、自分が悪いからこれをされていて当然だと考えたり、親をかばおうとしたりするような場合がある。自分が嫌だと思っている暴力を我慢する必要はないんだということは、アメリカでは必ず教えられることであるが、そうした内容を自殺予防教育に含めることは可能だろうか。

【委員】年齢や、置かれている環境によって随分違うだろうと思う。子どもにしてみれば、親を否定したら自分を支えてくれる人がいなくなるので、かばうしかないというような状況だろう。ただ、性虐待のように、自ら言わなければ表に出てこないようなものがあることから、そうした動きが出てきたというのもあると思う。

 関連して、アメリカなどの自殺予防教育の先進国で、取組の効果が出たということを統計的に示せるようなフォローはされているのか。日本においても、アウトカムをどう示すかは、ある程度想定する必要があるのではないか。

【委員】アメリカでは、効果判定は必ず行われている。ほとんどの場合、ハイリスクの子も普通の子も、自殺予防教育を分けずに行っている。別々に行うのが理想的だが、コスト面で現実には無理だという考え方もある。

 アウトカムについては、日本では、子どもの自殺率自体が非常に小さく、自殺予防教育をやって率自体をさらに下げるというのは難しい。問題の早期認識と援助希求的な態度という、長期的に見ると自殺予防につながるであろう態度について、実施群と対照群で比べて、差がどう出てきたかというところを見ているの場合が圧倒的に多いと思う。

【委員】学校というのは、自殺などがあってはいけないということを前提としており、自殺予防といったときに最悪の事態を想定していない気がしている。学校において、最悪の事態を想定して、そうならないようにするにはどうしたらいいかという発想をとるのは、とても難しいと思っている。

【委員】最悪のことが起きる可能性はあるんだという前提に立たなければ、学校は自殺予防に本格的に取り組まないのではないか。そういう前提を変えなければいけないという点についてはどう考えるか。

【委員】現状は、自殺の話題がタブー視され、話題に出されなかったり、子どもは元気で前向きなものだと捉えられていたりする。子どもの自殺が起きたことを語らないし、それを生かすような風土に学校がなっていないと思うが、自殺というのはあり得ないことではないんだということを、教師研修などで丁寧に伝えていけば、その中で先生の体験談なども話題に出てくるのではないか。

【委員】タブーという言葉が出てくるが、この場合のタブーは、具体的には誰の誰に対する、どういう内容のタブーと考えたらいいのか。

【委員】教師が、自分の経験を自分の中で整理できていないから話せない、話す機会がない、といった意見は聞いたことがある。自分でもまだ整理できていない。

【委員】学校の先生の中には、精神科医療が必要であるのに、精神科医療に紹介せず、危険な状態の子どもを学校だけで平気で支えていたり、医療の問題になっていると指摘されると驚く先生がいたりする。

【委員】そのような状況は確かにある。ただ、教育と医療がお互いのことをよく知らないことが発端から始まるのではないかと思う。お互いによく連携をとって、こういうことは医療でうまくやってくれる、学校はここまでやってくれる、ということが分かっているところはうまくいく。

【委員】現状では、医療につながなければいけない子が見つかっても、教員から保護者にそのことを伝えて、医療機関にかかってくれと言うところのハードルが高い。伝え方によっては、保護者の反発にあうことある。教員の意識といったことよりも、医療機関につなげる方法がうまくいっていないというのが実情だと思う。

【委員】それでは、本日は時間となったため終了としたい。次回は、具体的な自殺予防教育の内容について、委員から話題提供をいただき議論したい。本日もありがとうございました。

閉会

 

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課生徒指導室