児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成22年度)(第5回) 議事要旨

1.日時

平成23年3月25日(金曜日) 14時~16時

2.場所

文部科学省 旧庁舎第2会議室

3.議題

  1. 審議のまとめ(案)について

4.出席者

委員

高橋主査、新井委員、川井委員、菊地委員、阪中委員、坪井委員

文部科学省

磯谷児童生徒課長、郷治生徒指導室長、清重児童生徒課課長補佐 他

オブザーバー

内閣府、厚生労働省

5.議事要旨

開会

議事

  (1)調査の指針案の検討状況について、背景調査ワーキンググループにおける検討結果について報告があった。
  (2)米国における子どもに対する自殺予防教育について、自殺予防教育ワーキンググループにおける視察及び検討結果について報告があった。

 

1.検討結果の報告及び審議

【委員】本日の議題は、本年度の審議のまとめについてである。審議のまとめの内容としても記載されているが、背景調査ワーキンググループと自殺予防教育ワーキンググループの主査より、それぞれの検討結果について説明していただく。まず、背景調査ワーキンググループについて説明をお願いしたい。

【委員】それでは、子どもの自殺が起きたときの背景調査のあり方について、今までの検討経過とその結果をご報告する。

 本協力者会議では、平成21年度、22年度と2か年にわたり背景調査のあり方について検討を行ってきた。昨年の3月に審議のまとめを提出し、その中では、さらなる検討課題として、文部科学省への報告統一フォーマットの検討、背景調査の指針を提示するにあたっての論点の整理およびその論点に対する回答、という2つが残った。

 まず、文部科学省への報告統一フォーマットに関する検討結果についてである。この統一フォーマットは、子どもの死因が自殺である、又は自殺である可能性を否定できない事案について、早い段階で、その背景についてできるだけ正確なデータを数多く収集・分析し、自殺予防対策を充実させるということを趣旨として、学校の背景、家庭の背景、個人の背景という分類で事案の状況を調べていく、可能ならば事案が発生してから1か月程度を目標に提出していただく、という方針で、自殺予防に資する資料をできるだけ広く集めるものとして考えている。現在、全国4か所で生徒指導、教育相談担当の学校・教育委員会関係者に研修会を実施しており、その中でアンケートの内容に関する検討内容について周知しているところである。

 次に、背景調査の指針を提示するにあたって残されていた論点についてである。

 まず、背景調査の報告書についてだが、調査で判明した事実と分析評価を区別して記載するのが望ましいという結論になった。更に、今後の自殺防止のための課題についての提言を加える形で報告書を作成いただきたいと考えている。分析評価と報告書に盛り込む要素とは、区別して考える必要があると捉えているが、報告書に何をどこまで記載するかについては、調査の実施主体に判断していただくことになる。報告書をまとめる段階においては、御遺族、周囲の子どもなど、関係者へ配慮することが必要となるが、配慮することによって要因間のバランスが変わってしまったり、報告書全体のニュアンスが変わったりすることがないように考えていかねばならないだろう。

 報告書を公表する対象は、御遺族、在校生及びその保護者、当該校の教員、報道機関などが考えられるが、誰に、何を、どのような方法で公表するのかについても、調査の実施主体が逐次、御遺族に対して相談・説明しながら判断していく必要があると考えている。報告書を外部に開示する前に御遺族に見ていただき、報告書の内容および公表の内容について説明することが必要であり、御遺族から要望があった場合、若干の修正があり得るということである。また、在校生に説明する場合は、誰がどのように伝えるのかを考え、できることを実行することが大事である。在校生の保護者に対しては、御遺族の意向を受けながら、報告書そのものではなく、状況に応じて口頭説明あるいは概要版の提供などの方法を考える必要があると思われる。また、報道機関に対して報告書を提供する場合は、改めて御遺族の了解をとることが必要となるだろう。こうした一連の情報提供、報告書の公表の場合には、当該校の教職員の間で報告書の内容について共通理解を図る必要があり、その際には当然、守秘義務についての十分な配慮が大切になる。

 また、平常時の備えについてである。子どもの自殺が不幸にして起きてしまった場合に、急に動いても十分な背景調査はできないことから、平常時より事後対応や初期調査について検討しておくことが大切である。また、規模の小さな市町村教育委員会ではそういった備えをすることは難しいため、都道府県の教育委員会が支援をできるように体制を整えておくことも必要である。平常時に専門家の協力を得て、あらかじめ調査委員の候補者の選定、あるいは調査手順の検討や研修、そして人材確保のための方策等を講じておくことが、緊急時に備えることになる。

 ここで、背景調査全体の流れについても、再度簡単に確認しておきたい。初期調査においては、事後対応を丁寧に行うことと、誠実に御遺族に関わっていくことを基本として、可能ならば事案の発生から3日以内に全教師から、そして数日以内に、関係が深いと思われる子どもたちから聴き取りを行う。次の段階として、初期調査の経緯で明らかになったことについて、御遺族に経過説明を行い、学校要因の可能性があれば、詳しい調査を提案することになる。詳しい調査の実施について確認が得られた場合には、実際の調査を担う実施主体として調査委員会の設置を判断し、調査委員会が実際に設置された場合には、設置主体となる教育委員会等と協議しながら調査方法の手順、人選、内容、報告書の作成等について計画を立てる。計画について御遺族に提示と協議を行い、合意が得られた場合には、子どもと保護者へ説明をした上で詳しい調査を開始する。具体的には、調査委員会が中心となって学校や教育委員会の協力を得ながら情報収集を行い、そこで得られた情報について分析評価を行う。その間、御遺族には随時説明を行い、調査が長引く場合には、中間報告も必要になると考えられる。分析評価に基づき報告書を作成するが、この際も再びご遺族への説明をし、納得を得た上で記載内容をまとめていくという流れである。

 以上の流れはあくまでも一つの例であり、状況によって具体的な流れや取組が変わってくるが、このような背景調査をできるだけ学校、教育委員会が時宜を外さずに行っていくことが必要なのではないか。これを1つの参考としながら、現場の実践により更に知見を得て、自殺防止のための様々なデータや、取組について考えていく手がかりが蓄積されていくことを期待している。

 この調査研究協力者会議としては、今後の自殺の防止に生かすという観点、そして御遺族や子ども、保護者の事実に向き合いたいという希望に応えるという観点から、背景調査をできるだけ進めていってほしいと考えている。また、初期調査から詳しい調査へという流れにおいては、学校及び教育委員会が御遺族との信頼関係のもとに事実としっかり向き合い、例え学校にとって不都合なことがあるとしても事実を明らかにしていくという姿勢が重要であり、そのことが真の自殺の再発防止策の手掛かりにつながっていくのではないかと考えている。

【委員】ありがとうございました。次に、自殺予防教育のワーキンググループについて、説明をお願いしたい。

【委員】米国における子どもに対する自殺予防教育の現況調査については、前回、前々回にも報告をしているが、今回は我が国で自殺予防教育を実施する際の課題として、主に3点お話ししたい。一つ目は、関係者の合意形成に関する課題。二つ目は、条件整備に関する課題。三つ目は、実施に向けての検討点である。

 一つ目の合意形成に関する課題だが、自殺予防教育への抵抗を取り除くためには、子どもたちに自殺予防の適切な情報を提供することの重要性、学校現場における自殺の危険性の高い生徒や、自傷行為をする生徒の多さ、自死遺児が10万人近くいるという深刻な実態について、管理職や生徒指導主事、教育相談担当者、保健主事や養護教諭などの先生方に研修を通して伝えていくことが必要であると考えられる。そのような研修を積んだ教員、精神科医やスクールカウンセラーなど、専門家の先生方も一緒に校内で事例検討会を実施したり、校内で更なる研修を開いたりすることが、自殺予防教育の必要性への合意につながると思われる。

 また、自殺予防教育を実施する際には、児童生徒、保護者への説明と同意が必要不可欠である。自殺の危険の高い生徒や、自死遺児、自殺未遂経験のある保護者の存在も想定し、安心して授業を受けられるように配慮をすることが非常に重要であり、学級懇談会や学年懇談会等で保護者に自殺予防教育の目的と概要を説明するとともに、身近に自殺で亡くなった人がいる子どもや精神的に不安定な子どもについては、授業を受けさせたくないと保護者が思った場合に、そうした申し出を受ける旨を伝えることが必要だと考えられる。

 次に、二つ目の条件整備に関する課題についてだが、米国の学校との大きな違いとして、日本では生徒指導や教育相談を教員が担っており、そのような教員をどのように自殺予防教育で生かしていくのかが、これから自殺予防教育を実施していく上で大事な点となる。また、実際に自殺予防教育を実施していくためには、問題の認識能力や援助希求行動の改善に重点を置いたプログラムを開発するとともに、自殺予防教育においてやるべきことと、やってはいけないことを具体的に示すことが必要である。

 三つ目の実施に向けての検討点について、日本では、いのちに関する教育を総合的な学習の時間、特別活動の時間、国語や社会、道徳、保健、家庭科等の教科の時間で実施することも可能であるが、そうした時間における取扱いと自殺予防教育をどのように関連づけるか、というカリキュラム上の位置づけについて検討していく必要がある。また、それに応じて、実施担当者についても、教科担当の教員が実施する場合、担任教師が中心となって実施する場合、スクールカウンセラー、養護教諭が中心となって行う場合など、様々な可能性が考えられるため、検討が必要である。

 スクリーニングやフォローアップ、効果検証等についても丁寧な検討が必要である。フォローアップについては、たとえば地域の専門家やスクールカウンセラーと、子どもたちとの接触の機会を増やす方法を考えていく必要がある。また児童精神科医や、子どもに丁寧に対応してくれる心療内科医、精神科医が少ない場合は、都道府県レベルで医療スタッフの方をリストアップすることをはじめ、臨床心理士や、教育相談で研修を積んだ教員等の人材を確保して支援体制の充実を図る必要がある。

 次に、これからの方向性については、今年度は全国4か所で『教師が知っておきたい子どもの自殺予防』の冊子を使った研修が実施されたが、更なる研修の充実が必要である。また、自殺予防教育をトップダウンで全国一斉に実施するのは難しいため、モデル地区やモデル校を指定し、試行実施していくのが現実的ではないかと考えている。

【委員】ありがとうございました。それでは、背景調査と米国視察についての説明が終わりましたので、全体を通して質問や追加の御意見がありましたらどうぞ。

【委員】文部科学省への報告統一フォーマットに関してだが、一定期間を経て、一定の数の事例を集積したところで、文部科学省から何らかの内容についての講評を含めた報告等があったほうが良いのではないか。集まってきたものを、文部科学省の中だけでとどめておくのではなく、行政以外のところでも生かせるような方法を考えてほしい。

【事務局】基本的には統計的な分析を試みるための情報収集なので、御指摘の通り、一定期間のデータの蓄積の後に、そうした方向で検討していくべきだろう。ただし、これは新しい取組になるので、どのように実施するかは、審議でまとめをいただいてから、よく検討して進めていかなければならない。

【委員】背景調査の指針に関しては、これを作成するために、実際に書かれた調査報告書等を子細に検討していく中で、学校や教育委員会が事実と真摯に向き合うことが、亡くなった子どもや残された御遺族に対するケアであったり、今後の自殺防止につながっていくと感じた。また、仮に十分な専門家の人材が確保されない場合でも、学校の教職員や地域の人たちが事実にきちんと向き合おうという姿勢が調査報告書の精度を高め、そして自殺防止につながっていくのだろうと感じた。

【委員】遺族からは、学校は調査委員会から外し、完全に第三者で調査を進めてほしいとの要望もあったが、その点について補足いただきたい。

【委員】例えば、学校の中で自殺が起こった場合、子どもや教職員からの聴き取りを円滑に進めていく、あるいは、安心した気持ちの中でいろいろなことを語ってもらうということで言うと、もちろん中立的な専門家は必要だが、学校の関係者を全く含めないという状況は、調査を進めるという点では難しいのではないかということを強く感じている。

 繰り返しになるが、学校が真摯に事実と向き合うという姿勢を持ち続けていけば、遺族の方の理解も得られるのではないかと考える。

【委員】この指針はあくまでも調査研究協力者会議によるたたき台であり、これを一つの参考としながら、現場での工夫をしてもらいたい、という考え方でよいか。

【委員】そうである。スタンダードというよりも一つのサンプルとして、ここに示すような動きをとれば背景調査において必要最小限のところを押さえることができるのではないかという例を示したものと考えていただきたい。資料には承諾書やアンケート等のサンプルも挙げたが、子どもの自殺が起きたという緊急の事態のために一例を示しておくことで、学校や教育委員会、調査委員会が動きやすくなるだろうという考えによるものである。

【委員】他にはいかがでしょうか。

【委員】調査をまとめていく過程で、知っておかなければならない、共有しなければならない点は、背景調査をして事実を明らかにするということは、不可能に近いほど難しいことであるという認識が前提として共有されていなければならない。アンケート調査にしても、子どもたちへの聴き取りについても、それ自体が真実をあらわすことは非常に難しいのだということも知っておいていただきたい。

【委員】委員が仰るように、前提として、事実がどこまで明らかになるのかということに対し、謙虚さを持ち続けるということも大事だと思う。ただ、学校や教育委員会が事実と向き合い、真実には至れないかもしれないが、子どもたちのために、あるいは残された御遺族のために、何が起きていたのかということをできる範囲で突き止めていこうとする姿勢を持つことが、長い目で見たときに今後の自殺防止につながっていくのではないか。そういう姿勢を持つに当たっては、このような方向性が考えられるのではないかという提示が、このガイドラインの持っている意味であろう。

【委員】それでは、次に米国視察の関連について、御意見がありましたらどうぞ。

【委員】ある種のスタンダードを示すことが今後の課題になるとすれば、どのような点に注意する必要があり、どのような点を強調するべきなのか。現在行われている例の問題点も含めてお話いただきたい。

【委員】一例としてではあるが、自殺を断罪したり、一方的な価値観を強く子どもたちに伝えたり、生の尊厳を強調するばかりの内容も見受けられるが、米国ではそうした授業は自殺の危険の高い生徒たちに対しては、その危険をより高めることになりかねないと言われている。

【委員】米国を視察して、欧米では、一生の間に問題を抱えることは誰にでもあるということ、そして、そのようなときには、適切な援助を求めるようにするということの2点を強調し、問題認識能力と、援助希求的態度の改善をねらって、この種の自殺予防教育をしていると感じた。

【委員】命を大事にしなさい、大切にしなさいということは、子どもたちもすでに分かっている。分かっていても自傷行為をしてしまうような子どもたちが持たされた問題や環境等を踏まえて、授業を組み立てていくことが必要だろう。

【委員】自殺予防教育をするに当たって、校内でのコンセンサスづくりは大事で、子どもがどうして死ななければならないのかということを、先生方同士でよく理解していることが前提となる。また、自殺予防のカリキュラムの実施に当たっては、ハイリスクの子どもが出てくる可能性があるため、学校の中でのフォローアップの体制や、地域の専門家との連携を整備しておくことも大切である。そのような配慮に欠けたまま、突然「命は大切だ」ということを教えている場合が多い。

【委員】自殺予防教育を担う方の育成や養成などについて、いま一度お聞かせいただきたい。

【委員】学校や地域によって実情は異なると思うが、管理職や授業担当者、養護教諭等に対する研修を、更に充実させるところからしか始まらないであろう。日本では、米国のように専門性の高いNPO等でプログラム開発や研修の実施がなされているケースは少ないので、教員やスクールカウンセラー等も含め、研修のさらなる充実が必要だと思っている。

【委員】これについても、ある種のスタンダードを示すことが、今後の課題になるということでよいか。

【委員】はい。

【委員】そのときにどういう点を注意したり、強調したりすべきか。

【委員】先ほどあったように、今、散見されている自殺予防教育の例では、価値観を伝えるような、道徳的な側面が強いので、問題認識能力と、援助希求行動の改善に重点を置いた標準的なプログラムを示すことが必要である。

【委員】米国視察の報告書を見ていくと、二つの高校の例が出ており、一つの高校はスクールカウンセラーが自殺予防教育を実施し、もう一つの高校は健康教育の担当教師が実施している。アメリカのスクールカウンセラーは学校の常勤スタッフとして生徒200人から250人に一人の割合で配置されており、生徒指導まで含めて子どもへの支援を担っている。それに対して、日本のスクールカウンセラーは中学校には全校配置されているものの、週に1回来て4時間、長いところで8時間といった勤務形態をとっているのが現状であり、両者は同列には論じられないだろう。それでは健康教育の担当教師が自殺予防教育を担うのかと考えたとき、日本の保健体育の教員にそれが相当するのかという点についても、これからしっかり考えを詰めていく必要がある。

【委員】二つの学校を訪問する中でも、自殺予防教育を進める前に、地域の中で、あるいは学校で、何が問題なのかということをよく話し合い、皆のコンセンサスを得ておくことが非常に大事だということを伝えられた。自分たちの学校や地域の中で、何が問題で、何に取り組まなくてはならないのかをよく議論した上で進めていくべきであり、日本なら日本独自のやり方があるのではないかということであった。

【委員】自殺予防教育を行う前提として気をつけなければいけない部分として、子どもたちの感覚にも違いがあるのではないか。アメリカの子どもたちに対して、日本の子どもたちは余りにも自己否定感や自責感というのが強く、困難を抱えること自体もいけない、だめな人間なんだと思ってしまいがちであるという違いがあるのではないか。

【委員】様々な調査結果でも、自尊感情は日本のほうが本当に低い。日々の教育活動を通して、失敗してもしょうがないという感覚、失敗した後が大事なんだ、失敗することが学びなんだということを教えていくのが大切で、そのために学校として何ができて何ができないのかということを考えていくのがこれからの課題である。

【事務局】では、本日出た意見を踏まえ、最終的に小修正したものを審議のまとめとすることとし、修正内容については主査に御一任いただけるか。(一同うなずく)

 では、委員の皆様の御同意をいただけたので、そのようにさせていただきたい。

 来年度も引き続き調査協力者会議を継続して、今申し上げたことについての議論、あるいは点検等について、引き続き御指導よろしくお願いしたい。どうもありがとうございました。

【委員】 それでは、本日はこれで閉会とさせていただきます。今年度の協力者会議について、本日が最終回となります。委員の皆様におかれましては、この1年間、非常に多くの時間をこの検討会のために割いていただきまして、改めて御礼を申し上げます。まことにありがとうございました。

 では、これで閉会といたします。

閉会

 

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課生徒指導室