第7章 教員のICT活用指導力の向上

 「わかる授業」の実現や情報モラルの育成のためには,一人一人の教員がICT活用指導力の向上の必要性を理解し,校内研修などを積極的に活用して自ら研修を進めるとともに,教育委員会が各学校の研修に積極的に関わったり教育委員会・教育センター等の研修を充実させたりすることが必要である。本章では,教員に必要となるICT活用指導力とそれを身に付けるための研修の在り方について述べる。

第1節教員に必要となるICT活用指導力

1.教員のICT活用指導力の重要性

 社会のあらゆる分野で情報化が進展し,携帯電話やブロードバンド等の普及率が示すとおり情報化の主役は個人となっている。情報社会の進展の中で,一人一人の子どもたちに情報活用能力を身に付けさせることは,ますます重要になっている。
 また,教員あるいは子どもたちがICTを活用して学ぶ場面を効果的に授業に取り入れることにより,子どもたちの学習に対する意欲や興味・関心を高め,「わかる授業」を実現することが求められている。
 こうした社会的な要請を踏まえ,教員のICT活用指導力の向上は,政府の「e-JApAn戦略」(平成13年1月IT戦略本部決定)のもと重要な政策課題として位置付けられ,「概ね全ての教員がコンピュータ等を使って指導できるようにする」ための様々な取組みが実施されてきた。
 「IT新改革戦略」(平成18年1月IT戦略本部決定)では,学校におけるIT環境の一層の整備を進めるとともに,「ITを活用した学力向上等のための効果的な授業や,学ぶ意欲を持った子どもたちがITを活用して効果的に学習できる環境の実現」等のため「全ての教員のICT活用能力を向上させる」ことが目標とされ,そうした能力の基準の具体化・明確化を行うことが求められた。
 当該基準については,次項で述べる「教員のICT活用指導力の基準(チェックリスト)」として文部科学省により策定・公表されたが,その範囲は,授業におけるICT活用の指導だけでなく情報モラルの指導ができることや,校務にICTを活用できることも含まれている。このことは,「教員のICT活用指導力」が,これからの教育の情報化の時代において,全ての教員に求められる基本的な資質能力であることを意味するものである。

2.教員のICT活用指導力チェックリスト

 文部科学省の検討会を経て,平成19年2月に「教員のICT活用指導力」は,5つの大項目(A~E)と計18のチェック項目から構成された「教員のICT活用指導力の基準(チェックリスト)」として策定・公表された。
 この「教員のICT活用指導力チェックリスト」は,児童生徒のICT活用能力の進展や,小学校の学級担任制と中学校・高等学校の教科担任制の違いなどを考慮して,「小学校版」と「中学校・高等学校版」の2種類が作成された。大項目は各学校種での発達の段階が違っても共通になる部分が多いため,「小学校版」では「児童」,「中学校・高等学校版」では「生徒」と記述されている以外は同一の記述となっている。チェック項目は「小学校版」と「中学校・高等学校版」の違いが明らかになるよう記述されている。次に,教員のICT活用指導力チェックリストの5つの大項目と18のチェック項目について説明する。

(1)ICT活用指導力チェックリストの大項目

 「A教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力」は,授業の準備段階及び授業終了後の評価段階において,教員がICTを活用する能力についての大項目である。この大項目は,児童生徒を前にして「指導」している場面ではないことから,狭い意味での「指導力」には含まれないことになるが,各教科等において効果的にICTを活用して授業を行うためには,授業設計や教材研究,授業評価が極めて重要であることから,広い意味での「指導力」の一部と捉え,大項目の1つとしている。

 「B授業中にICTを活用して指導する能力」は,授業の中で教員が資料を利用して説明したり課題を提示したりする場面や児童生徒の知識定着や技能習熟を図る場面において,教員がICTを活用する能力についての大項目である。この大項目は,教員が授業の中でICTを活用して,児童生徒の興味や関心を高めたり,課題を明確に把握させたり,基礎的・基本的な内容を定着させたりする内容を示しており,「わかる授業」を実現するためには極めて重要である。また,基礎的・基本的な内容を定着させるためのICT活用に関する能力基準も含まれる。そこで,教員が授業の中でICTを効果的に活用して授業を展開できる能力を大項目の1つとしている。

 「C児童(生徒)のICT活用を指導する能力」は,学習の主体である児童生徒がICTを活用して効果的に学習を進めることができるよう教員が指導する能力についての大項目である。児童生徒がICTを学習のツールのひとつとして使いこなし,学習に必要とする情報を収集・選択したり,正しく理解したり,創造したり,わかりやすく表現・伝達したりすることなどは,児童生徒にとって必要な能力である。そこで,児童(生徒)がICTを活用して効果的に学習を進めることができるよう教員が指導する能力を大項目の1つとしている。

 「D情報モラルなどを指導する能力」は,携帯電話やインターネットが普及する中で,児童生徒が情報社会で適正に行動するための基となる考え方と態度の育成が求められていることを踏まえ,すべての教員が情報モラルなどを指導する能力を持つべきという観点から位置付けられた大項目である。

 「E校務にICTを活用する能力」は,校務が児童生徒の直接的な指導にかかわる能力ではないものの,校務分掌や学級経営などは教育活動において欠かすことはできないことから位置づけられた大項目である。ここでは,日常的に行われる文書作成や情報の収集・整理などにおいてICTを活用し,校務を効率的にかつ確実に遂行するための能力を挙げている。さらに,校内のネットワーク環境を活かし,教員間で情報共有やコミュニケーションを行う能力も含まれ,インターネットなどを利用して,保護者や地域など校外との連携を図る能力についても想定している。

(2)「A教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力」の4つのチェック項目

 「A-1教育効果をあげるには,どの場面にどのようにしてコンピュータやインターネットなどを利用すればよいかを計画する」は,教員が授業の計画段階において,どの場面にどのようにしてコンピュータやインターネットなどを利用すればよいのか,すなわち,教員が授業におけるICT活用のイメージを持つことができるかどうかの能力を評価するチェック項目である。

 「A-2授業で使う教材や資料などを集めるために,インターネットやCD-ROMなどを活用する」は,教員が指導に必要な資料を収集する際に,インターネットなどの豊富な情報源を利用することが考えられる。それらの情報源を用いて,効率的な収集方法で指導目標に沿った資料を,的確に収集できる能力を評価するチェック項目である。

 「A-3授業に必要なプリントや提示資料を作成するために,ワープロソフトやプレゼンテーションソフトなどを活用する」は,授業で活用する資料を作成する際に,ワープロソフトやプレゼンテーションソフトを活用することが考えられる。資料作成において,ICTを活用して,準備時間を短縮したり効率的に作成したりする能力を評価するチェック項目である。

 「A-4評価を充実させるために,コンピュータやデジタルカメラなどを活用して児童(生徒)の作品・学習状況・成績などを管理し集計する」は,コンピュータやデジタルカメラなどを活用して児童生徒の作品や学習状況,成績などを管理し,表計算ソフトなどを用いて集計することで,より効率的な評価を充実させることが可能となることから,教員が学習評価に必要な能力を評価するチェック項目である。

図7-1教材や資料を集めるためにインターネットを活用

(3)「B授業中にICTを活用して指導する能力」の4つのチェック項目

 「B-1学習に対する児童(生徒)の興味・関心を高めるために,コンピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する」は,教員がコンピュータや提示装置などを活用して,資料などを拡大して提示することで,学習内容に対する児童生徒の興味や関心を高めて,主体的な学習が展開できるようにする能力を評価するチェック項目である。

 「B-2児童(生徒)一人一人に課題を明確につかませるために,コンピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する」は,教員がコンピュータや提示装置などを活用して,児童生徒に課題解決のイメージを持たせ,課題を明確につかませて,自ら学び自ら考える主体的な学習が展開できるようにする能力を示すチェック項目である。

 「B-3わかりやすく説明したり,児童(生徒)の思考や理解を深めたりするために,コンピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する」は,教員がコンピュータや提示装置などを活用することにより児童生徒に課題解決の糸口を与えることが可能であると考えられることから,課題解決の場面において教員がICTを活用して児童生徒の思考を深めたり理解を深めたりする能力を評価するチェック項目である。

 「B-4学習内容をまとめる際に児童(生徒)の知識の定着を図るために,コンピュータや提示装置などを活用して資料などをわかりやすく提示する」は,教員がコンピュータや提示装置などを活用して資料や教材をわかりやすく提示することで児童生徒の知識の定着や技能の習熟を図ることが可能となることから,学習をまとめる場面において教員に必要な能力を評価するチェック項目である。

図7-2わかりやすく説明するために提示装置などを効果的に活用

(4)「C児童(生徒)のICT活用を指導する能力」の4つのチェック項目

 「C-1児童(生徒)がコンピュータやインターネットなどを活用して,情報を収集したり選択したりできるように指導する」は,児童生徒がコンピュータやインターネットなどを活用して,学習に必要な情報を収集したり,収集した多くの情報から課題の解決に必要な情報を選択したりできるように,教員が指導する能力を評価するチェック項目である。

 「C-2児童が自分の考えをワープロソフトで文章にまとめたり,調べたことを表計算ソフトで表や図などにまとめたりすることを指導する(小学校版),生徒が自分の考えをワープロソフトで文章にまとめたり,調べた結果を表計算ソフトで表やグラフなどにまとめたりすることを指導する(中学校・高等学校版)」は,小学校の低学年では児童が自分の考えをお絵かきソフトなどで絵や文字で表したり,小学校の高学年から高等学校では児童生徒が自分の考えをワープロソフトで文章にまとめたり,調べた結果を表計算ソフトで表やグラフなどにまとめたりできるように,教員が指導する能力を評価するチェック項目である。

 「C-3児童がコンピュータやプレゼンテーションソフトなどを活用して,わかりやすく発表したり表現したりできるように指導する(小学校版),生徒がコンピュータやプレゼンテーションソフトなどを活用して,わかりやすく説明したり効果的に表現したりできるように指導する(中学校・高等学校版)」は,児童生徒がプレゼンテーションソフトなどでつくった絵図や表,グラフなどを提示したり印刷したりして,他の児童生徒にわかりやすく説明したり,自分の伝えたいことを効果的に表現したりできるように,教員が指導する能力を評価するチェック項目である。

 「C-4児童(生徒)が学習用ソフトやインターネットなどを活用して,繰り返し学習したり練習したりして,知識の定着や技能の習熟を図れるように指導する」は,児童生徒が学習用ソフトやインターネットなどを活用して,繰り返し学習したり練習したりして,知識の定着を図ったり身に付けたい技能の習熟を図ることができるよう,教員が指導する能力を評価するチェック項目である。

図7-3児童がインターネットを利用して情報を収集できるよう指導

図7-4生徒が繰り返し学習して知識の定着を図れるよう指導

(5)「D情報モラルなどを指導する能力」の4つのチェック項目

 「D-1児童が発信する情報や情報社会での行動に責任を持ち,相手のことを考えた情報のやりとりができるように指導する(小学校版),生徒が情報社会への参画にあたって責任ある態度と義務を果たし,情報に関する自分や他者の権利を理解し尊重できるように指導する(中学校・高等学校版)」は,児童生徒が情報社会に参画する中で,情報を活用する際に責任ある態度と義務が必要であることを理解し,情報に関して正しい判断を行い適正な行動がとれるよう,教員が指導する能力を評価するチェック項目である。

 「D-2児童が情報社会の一員としてルールやマナーを守って,情報を集めたり発信したりできるように指導する(小学校版),生徒が情報の保護や取り扱いに関する基本的なルールや法律の内容を理解し,反社会的な行為や違法な行為などに対して適切に判断し行動できるように指導する(中学校・高等学校版)」は,児童生徒が情報活用する際に,ルール,マナー,法律など社会規範に従って行動するために,授業などの教科指導に限らず,課外活動や校外活動などの授業外においても指導する必要があり,教員がその能力を評価するチェック項目である。

図7-5 生徒が著作権について適切に判断し行動できるよう指導

 「D-3児童がインターネットなどを利用する際に,情報の正しさや安全性などを理解し,健康面に気をつけて活用できるように指導する(小学校版),生徒がインターネットなどを利用する際に,情報の信頼性やネット犯罪の危険性などを理解し,情報を正しく安全に活用できるように指導する(中学校・高等学校版)」は,児童生徒がインターネットなどを利用して情報を収集し利用する際に,健康面や精神面に配慮し,情報の正確さや信頼性などに留意して情報を安全に活用し,悪意のある情報による被害などから身を守れるよう,教員が指導する能力を評価するチェック項目である。

 「D-4児童がパスワードや自他の情報の大切さなど,情報セキュリティの基本的な知識を身につけることができるように指導する(小学校版),生徒が情報セキュリティに関する基本的な知識を身に付け,コンピュータやインターネットを安全に使えるように指導する(中学校・高等学校版)」は,児童生徒が情報を活用する際に,IDやパスワードの必要性を理解し,自分や他人が情報にアクセスする際の権利を守ることの重要性を意識し,情報セキュリティに関する基本的な態度を育成できるよう,教員が指導する能力を評価するチェック項目である。

(6)「E校務にICTを活用する能力」の2つのチェック項目

 「E-1校務分掌や学級経営に必要な情報をインターネットなどで集めて,ワープロソフトや表計算ソフトなどを活用して文書や資料などを作成する」は,校務文書の作成にワープロソフトを活用したり,児童生徒の情報を管理する際に表計算ソフトを活用したり,さらには,校務に必要な情報をインターネットなどを活用して収集するなど,教員が校務や学級経営などにICTを活用する能力を評価するチェック項目である。

 「E-2教員間,保護者・地域の連携協力を密にするため,インターネットや校内ネットワークなどを活用して,必要な情報の交換・共有化を図る」は,校内ネットワークやインターネットなど,比較的時間と場所の制限を受けない情報交換手段を活用することで,教員間での情報共有や保護者・地域住民などとの連携を,個人情報などに配慮しつつ円滑に行う能力を評価するチェック項目である。

図7-6 校務に必要な情報をインターネットで集める

3.学習指導要領と教員のICT活用指導力

 すべての教員が「教員のICT活用指導力チェックリスト」に示された能力を身に付けることは,学習指導要領に示された情報教育の充実,コンピュータ等や教材・教具の活用を図る上で,極めて重要である。ここでは,学習指導要領と教員のICT活用指導力チェックリストの5つの大項目との関係について説明する。
 小学校学習指導要領においては,情報教育の充実,コンピュータ等や教材・教具の活用について,「各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」とされた(第1章第4の2(9))。
 中学校学習指導要領においても,「各教科等の指導に当たっては,生徒が情報モラルを身に付け,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切かつ主体的,積極的に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること」された(第1章第4の2(10))。
 高等学校では,各教科・科目等の指導に当たっては,生徒が情報モラルを身に付け,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切かつ実践的,主体的に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ることが求められている。
 これらは,児童生徒に基礎的・基本的な知識・技能を習得させるとともに,それらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等を育成し,主体的に学習に取り組む態度を養うためには,児童生徒がICTを適切に活用できるようにすること,また,教員がICTを適切に活用して指導することが重要であるとの考え方に基づくものである。即ち,教員は,教材研究・指導の準備・評価などにICTを活用する能力,教員がICTを活用して指導する能力,児童生徒のICT活用を指導する能力,情報モラルを指導する能力を身に付け,かつ,ICTの特性を理解して指導の効果を高める方法や,児童生徒のインターネットや携帯電話の使い方の実態等に基づいた適切な指導について,絶えず研鑚を積むことが必要である。
 さらに,教員は校内のICT環境の整備に努めるとともに,日常的に行われる文書作成や情報の収集・整理などにおいてICTを活用し,校務を効率的にかつ確実に遂行するための能力を身に付けるよう求められており,校務にICTを活用する能力を向上させるよう研修を進めていかなくてはならない。

図7-7 生徒に基礎的・基本的な知識・技能を身に付けさせるためにICTを活用

図7-7教員がICTを適切に活用して指導できるよう研修

4.教員のICT活用指導力の調査

 「e-Japan戦略」のもとで進められた「概ね全ての教員がコンピュータ等を使って指導できるようにする」ための取り組みの結果は,全国の全公立学校を対象に,自己評価を行う形で調査されてきた。この調査によると「各教科等においてコンピュータ等を使って指導できる教員の割合」は平成18年3月で,76.8パーセントにまで高まっていた。平成19年3月からは,「IT新改革戦略」に掲げられた教育の情報化の目標の達成状況等について把握するため,「教員のICT活用指導力のチェックリスト」に基づいた調査が始められた。調査はチェックリストの18項目について,4段階(「わりにできる」,「ややできる」,「あまりできない」,「ほとんどできない」)の自己評価を行う形で実施されており,これらを更に高めるために,各自治体や学校での研修を計画的に進める必要がある。
 「教員のICT活用指導力のチェックリスト」に基づいた調査によると,都道府県別「教員のICT活用指導力」の状況には,地域間の格差が見られる。一人一人の児童生徒に計画的・体系的に情報活用能力を育成することが,ますます大切になってきており,地域間の格差を是正する必要がある。
 学校のICT環境を整備したり自治体がネットワーク環境を整備したりして,教員一人1台のコンピュータが整備されたり,全ての教室にプロジェクタや電子黒板が導入されたり,ブロードバンド環境が整って校内のどこでも高速に大容量のデータをやりとりできるようになると,「教員のICT活用指導力のチェックリスト」に基づいた調査結果が低くなることがある。これは,ICT環境の整備以前には,できなかったICTの活用ができるようになると同時に,新しい機器の操作スキルの習得や授業などでの新たなICT活用の習熟ための時間や研修が必要となったり,学習展開の工夫が求められたりして,教員の慣れが必要となるからである。そこで,事前に予想されるICT環境等の変更にともなう見通しをもった研修を計画的に実施する必要がある。
 また,年度末の人事異動や分掌の変更にともなってICT活用に支障をきたさないよう,情報教育の担当にだけ校内LAN等の管理が任されたり研修が任されたりしないよう,情報教育と校内研修の担当等が連携して組織として研修を進めることが必要である。

第2節効果的な研修活動

 教員のICT活用指導力を向上させるためには,教員のICT活用指導力チェックリストを積極的に活用し,情報教育や校内研修の担当教員は,研修ロードマップ等を作成して,ねらいを明確にした研修を計画的に実施する必要がある。

図7-8研修ロードマップ例

1.教員のICT活用指導力を高める校内研修

(1)教員のICT活用指導力チェックリストを活用した校内研修

 学校現場においては,教員のICT活用指導力チェックリストを活用して,5つの大項目をバランスよく研修できるよう全体研修や個人研修を実施する。情報教育や校内研修の担当教員は,学校の実態に合わせて研修計画を作成し,情報担当や校内研修担当が講師となって研修を進めたり,教育センター等の研修に参加した教員を講師として研修を行ったり,必要に応じて外部の講師を招いたり,ワークショップ形式の研修を取り入れたりして,研修内容に適した全体研修を行う。
 また,情報教育や校内研修の担当者は,教員のICT活用指導力を把握し,一人一人の教員の実態にあった研修内容や研修方法をアドバイスし,計画的に個人研修が実施されるよう働きかける。その際,教員のICT活用指導力チェックリストを活用して,一人一人の達成度を設定して研修計画を立て,学校独自で中間評価を行って,研修計画や研修内容を修正して実施することが効果的な研修につながる。情報教育や校内研修の担当者は,学校CIO(校長・副校長・教頭)の指示を得ながら,学校独自の中間評価による研修計画の修正,年度末の評価の分析による年間研修計画の作成・達成度の設定が適切に実施されるよう研修ロードマップなどを作成して,計画的に教員研修を実施する。
 教育委員会・教育センター等では,管理職のリーダーシップおよびマネジメントに関する研修,情報教育や校内研修の担当への校内研修を活性化する研修,各教科等での研修,情報モラル指導の研修などが実施されており,計画的にこれらの研修に参加する。研修の成果は校内研修などで校内に広めたり,指導計画にICT活用を位置づけた授業を公開したりして,研修の成果を学校全体に波及させる。教員のICT活用指導力チェックリストを活用した校内研修や教育センターの集合研修などを相互に関連させ,研修内容が深まったり広まったりする総合的な研修を実施することが大切である。

図7-9 総合的な研修の実施

(2)ICT活用のねらいを明確にした校内研修

 効果的な研修を実施するためには,ICT活用のねらいを明確にした研修を実施する必要がある。教員のICT活用指導力チェックリストのどの大項目に関わる研修であるのかを明確にして研修を実施し,教員のICT活用指導力チェックリストを活用して研修の成果を自己評価する。コンピュータの操作スキル習得が常に全面に出るような研修ではなく,「教科の目標及び内容を達成するために児童生徒の興味や関心を高めたり,課題を明確に把握させたり,基礎的・基本的な内容を定着させるためのICT活用」「児童生徒が情報社会で適正に行動するための基となる考え方と態度の育成するためのICT活用」などといった,指導面でのねらいを明確にした研修を実施する必要がある。
 教員のICT活用指導力チェックリストの大項目B~Dをねらいとする研修を実施するに当たっては,実際の授業に即して,児童生徒役の教員を決めて行う模擬授業を取り入れることはICT活用の効果や問題点をはっきりさせる上で効果的である。
 学校によってICT環境や児童生徒のICT活用の実態は異なっている。教員のICT活用指導力チェックリストの大項目Cの研修では,学校のICT環境や児童生徒のICT活用の実態に即した研修が必要とされる場合がある。そこで,常にコンピュータありきの研修ではなく,デジタルカメラや実物投影機など他のICT機器を活用する研修も必要である。

(3)校内研修の形態

 教員一人一人のICT活用指導力を向上させるためには校内研修を充実させる必要があるが,単に研修の時間を増やすのではなく,限られた時間の中で,学校や教員の実態に応じた校内研修の形態を工夫して実施することが必要である。
 例えば,1伝達型の研修スタイルから,全教職員が主体的に参加することが可能なワークショップ型の研修を取り入れる,2複数の教員がそれぞれの得意分野及び専門性を生かせることや,児童生徒へのきめ細かな指導が可能となるティーム・ティーチングを導入し,模擬授業を取り入れた研修を行う,3民間団体等が実施する研修と校内研修を組み合わせたり,外部から講師を招いて校内研修を実施する,4先進校の視察や公開授業と組み合わせた校内研修を実施するなどである。また,これらの研修にICT支援員を参加させたり研修支援をさせたりすることなどは効果的な研修につながる。

図7-10 公開授業と組み合わせた研修

 授業や校務等でのICT活用に堪能な教員が,具体的な仕事を通じて,仕事に必要な知識・技術・技能・態度などを,意図的・計画的・継続的に指導し,習得させるOJT(On the Job Training)を活用した研修も大切である。情報教育や校内研修の担当者は,必要に応じて場所や時間を確保して,OJTが円滑に行えるよう働きかける必要がある。
 校内研修には,全体研修,学年や教科・領域別の集団研修,個人研修などの形態があり,全体研修や集団研修で習得できないスキルなどは個人研修で習得する必要がある。e-ラーニング(ICTを活用して行う学習)は,個人のペースにあわせて,学校や家庭で行うことができる研修である。例えば,「教員研修Web総合システムTRAIN」などは,ネットワークに接続されたコンピュータがあれば,いつでも学校や家庭から利用することができる。「TRAIN」には,教員のICT活用指導力チェックリストによる評価の仕組みや,ICTを活用した授業の実践事例,操作スキルを習得するための教材などが整っている。校内研修にe-ラーニングを取り入れることで,よりきめ細かな研修が可能になる。

図7-11OJTを活用した研修

図7-12 e-ラーニングによる研修

2.教育委員会・教育センター等が実施する研修

 教育委員会・教育センター等が実施する研修においても教員のICT活用指導力チェックリストを活用して研修を行い,自治体の実態を把握して,5つの大項目がバランスよく研修されるよう研修講座を実施したり,各学校で研修ロードマップなどを作成して計画的に研修が実施されるよう働きかけたりする必要がある。教育委員会・教育センター等では,悉皆研修と希望研修が実施されており,希望研修だけでなく悉皆研修においてもICT活用指導力を高める研修を位置づけておくことが,地域間の格差を是正したり,各学校での総合的な研修を実施したりする上で大切なことである。また,管理職,情報教育や校内研修の担当者を対象とした研修に,指導力を高めるためのカリキュラム作成や研修方法を学ぶ機会も位置づけて,ICT活用指導力を高める研修を位置付けておくことも大切である。
 教育委員会・教育センター等は,各学校の管理職(校長等)を対象に,教育の情報化について統括的な責任をもちビジョンを構築し実行できるよう,リーダーシップおよびマネジメントに関する研修を実施することが必要である。管理職は学校CIOとして,地方自治体のビジョン等に基づいてICT化の取組みを学校内外との連絡調整を図りながら確実にマネジメントし実行しなければならない。そのため,管理職を対象とした研修の中で,情報化による授業改善と情報教育の充実,学校のICT環境の整備,リスクマネジメント,情報公開・広報・公聴,人材育成・活用といった分野を取り上げた研修を実施することが必要である。
 学校の情報教育担当は学校CIOの指示・委任を受けて学校のICT化を推進したり,学校のICT化に資する企画提案を行ったりする。また,校内研修の担当は情報教育の担当と協力して,校内での円滑な研修が行われるよう,研修ロードマップや研修計画を作成し,教員のICT活用指導力チェックリストを活用した中間評価や学年末の評価を行って研修計画を改善して効果的な研修を進める。教育委員会・教育センター等は,これらのことが実施できるよう,情報教育や校内研修の担当者を対象とした研修を実施する。研修内容として,情報化に対応した学習の実践事例の紹介,学習におけるICT活用の評価,校内の情報管理を含む情報セキュリティポリシー,情報公開・広報・公聴,予算を含む情報化推進計画の策定,教員研修と研修計画,校務の情報化などがある。

3.研修プログラムの作成

 校内研修には,全体研修,集団研修,個人的研修などがあり,OJTの活用やe-ラーニングなどと組み合わせて総合的な研修を実施する必要がある。
 また,教育委員会や教育センター等が実施する研修においても,全体研修,模擬授業,e-ラーニングなどを組み合わせて効果的な研修を実施する必要がある。
 そこで,研修プログラムを作成し,ねらいを明確にして研修を実施する。次に研修プログラムの事例を紹介する。

研修事例1:授業での活用-プロジェクタと書画カメラを活用して拡大して提示-
  • 対象とするチェックリストの大項目:A,B
  • 研修の種類:校内研修,悉皆研修
  • 研修場所:学校,教育センター等
  • 研修時間:90分
講義1実践事例の紹介(機器の紹介も兼ねる)
事例として「教員研修Web総合システムTRAIN」等の紹介
演習1模擬授業の企画(ワークショップ型研修)
テーマ「映してわかる:教科書を利用して」
演習2模擬授業の発表と評価
講義2まとめ「ICTを活用した授業づくりのポイント」

※教育委員会・教育センター等で実施される各教科の研修の一部として実施することも効果的である。

研修事例2:校務の効率化
  • 対象とするチェックリストの大項目:E
  • 研修の種類:校内研修(全体研修とOJT)
  • 研修場所:学校
  • 研修時間:演習の部分90分,OJTは随時実施
演習職務遂行上の基本的な取り決め事項について学ぶ。
(長期休業中の全体研修,または,集団研修で行う)
ネットワーク内のファイルの保存,引き出し,整理の取り決めなど
OJT職務遂行を通して,情報教育の担当やICT活用に堪能な教員の指導を受けて,意図的・計画的・継続的に実施する。
※管理職は,校務などの効率化に向けて,個人的研修を支援する立場から,意図的・計画的・継続的な研修計画の策定やOJTで指導的な立場となる教員の選出を行うことが重要である。

※管理職は、校務などの効率化に向けて、個人的研修を支援する立場から、意図的・計画的・継続的な研修計画の策定やOJTで指導的な立場となる教員の選出を行うことが重要である。

研修事例3:学校の課題と管理職の役割
  • ねらい:リーダーシップおよびマネジメント
  • 研修の種類:管理職研修(悉皆研修,希望研修)
  • 研修場所:教育センター等
  • 時間:120分
講義1教育の情報化推進における管理職の役割
事例として「管理職のための戦略的ICT研修カリキュラム」等を利用
演習1グループ討議(ワークショップ型研修)
テーマ「学校の運営に必要なこと」など
演習2評価と討議「演習1の発表」
(相互評価,講師からのコメント)
講義2まとめ「教育の情報化のためのアクションプランの作成」
講義1や演習1~2をもとに,自校の教育の情報化のためのアクションプランを作成

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初等中等教育局 参事官付課

(初等中等教育局 参事官付課)