第5章 特別支援教育体制の専門性の強化

1 総合的な取組の必要性

(1)障害のある児童生徒に対して適切な教育を行うために、教員等の配置、学級編制、施設や設備の整備等様々な面で手厚い措置を講じてきたが、盲・聾・養護学校において、又は、小・中学校における特殊学級等においてそれぞれ指導の専門性の向上や両者間における連携協力、福祉、医療等関係機関との連携協力が十分であるとはいえない状況にある。
 今後は、校長、教頭をはじめとした教員一人一人の障害のある児童生徒に対する理解や指導上の専門性を高めること、組織として一体となった取組が可能となるような学校内での支援体制を構築すること、学校外の専門家等の人材を学校で有効に活用すること、関係機関との有機的な連携協力体制を構築すること等により、特別支援教育体制の専門性の強化に向けた取組が重要である。
 また、国として指導内容や方法の面で重要と考える課題や先進的な課題について、積極的に研究が行われ、その成果が研修等により、各自治体や学校に迅速に普及させていくことも質の高い教育を行う上で重要な課題である。このため、国立特殊教育総合研究所、国立久里浜養護学校、関係の大学等を特別支援教育を推進していく上での資源又は重要な専門機関として捉え、積極的に活用する総合的な教育研究体制の構築を目指す必要がある。

(2)担当教員の基本的な資質能力を確保する免許制度は障害のある子どもの教育を支える上でも重要な基盤の一つである。現行制度において特殊教育免許は対象となる障害種が特定されているが、近年みられる児童生徒の障害の重度・重複化や多様化の状況に対応して免許制度についても改善が図られることが重要である。
 国の中央教育審議会教員養成部会において平成13年12月に特殊教育免許の総合化に関するワーキンググループが設置され、障害種別に対応した専門性を確保しつつ多様な障害へ対応することが可能となることを目指して特殊教育に係る免許制度の改善について検討が行われている。現在、本調査研究協力者会議におけるこれまでの審議状況も踏まえて免許制度の見直しについて調査審議が行われているが、原則として学校の種類ごとに免許を必要とする現行免許制度との整合性、学校内外の人材又は機関による総合的な連携体制の構築による一層質の高い教育の確保や小・中学校等におけるより適切な教育的対応等の観点も踏まえ、特別支援教育を進める上で適切な制度となるよう同ワーキンググループにおいて具体的な検討が行われることを強く期待する。

(3)盲・聾・養護学校の教員の特殊教育教諭免許状保有率が十分でないという実状に鑑み、「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」を踏まえて、各自治体において特別支援教育における専門性の重要性を十分に理解し保有率の向上に向けた一層の取組が求められる。また、盲・聾・養護学校の教職員、特殊学級や通級指導教室担当教員について、教育はもちろん、コーディネーターとしての資質・能力の向上のため、地域のニーズも踏まえつつ、国立特殊教育総合研究所、都道府県等の教育センター、大学等により適切な研修プログラムの提供を行うことが重要である。

(4)就学前の子どもに対する教育相談や、乳幼児期からの「個別の教育支援計画」の作成に盲・聾・養護学校の幼稚部や小学部が積極的に関わることが重要であり、乳児期から療育に取り組む福祉関係機関に対し積極的に協力、支援を行うことが求められる。また、障害のある者に対し、卒業後の学習機会の充実のため、盲・聾・養護学校は、関係機関と連携して、生涯学習を支援する機関としての役割を果たしていくことも重要である。

(5)障害の状態に応じた適切な教育を行う上で先導的な指導方法の開発等が重要であり、これまでも国立特殊教育総合研究所、大学等において関連の調査及び研究が行われてきているが、この成果が円滑に学校において普及し、指導に活かされるようにすることが重要である。
 なお、最近では、脳の発達と学習方法、コミュニケーション等脳科学からの知見の蓄積を育児や学習指導に活かしていくことが重要との認識の下、国内外で脳科学と教育との関わりを重視した取組が行われている。文部科学省においても、個人が有する能力の健全な発達や維持又はその妨げとなる要因を適切に除去又は克服するとの視点に立って「脳科学と教育」研究を重要な研究分野として捉え、文部科学省内に設置した「脳科学と教育」研究に関する検討会に、ワーキンググループを設けて今後の取組方策等について検討を行ってきている。言語障害、LD、ADHD等のように脳の発達と密接な関連があるものもあり、障害のある児童生徒についても脳科学の成果を踏まえて適切な教育的対応を図ることが一層効果的と考えられるものがあるため、現在行われている検討の結果も踏まえ、教育サイドからの課題の提示を踏まえた「脳科学と教育」研究が進展することが望まれる。この場合に、国立特殊教育総合研究所等教育に関わる機関や研究者も積極的な対応を図ることが期待される。

2 国立特殊教育総合研究所の在り方

(1)国立特殊教育総合研究所は、平成13年4月に独立行政法人になった。同研究所の独立行政法人への移行に当たっては、平成13年1月の「21世紀の特殊教育の在り方(最終報告)」において、我が国の特殊教育のナショナルセンターとしての機能を高めることが必要であり、このため、国の行政施策の企画立案及び実施に寄与する研究の推進と実践的な研究の充実、体系的、専門的な研修の充実、教育相談活動の研究と教育相談に関する情報提供等の機能の充実の必要性が提言された。ここで提言された内容は、今後も有効なものである。

(2)特殊教育をめぐる諸情勢の変化、財政的な事情等を踏まえ、より質が高く、より社会的要請に対応した研究を効果的に行う必要があり、このため同研究所は、LD、ADHD、自閉症等の新たな課題の研究への取組はもちろん、国内外の大学、研究機関等とのネットワークの構築により効果的かつ効率的に研究を実施するための組織体制の構築が重要であり、社会的なニーズの高い課題について弾力的に取り組めるような体制を整備することが必要である。

(3)また、同研究所は、長期又は短期研修、講習会等を通じて、学級担任から指導的な立場にある者も含め教員等の資質の向上のために幅広い分野、領域で貢献してきた。近年では、都道府県等各自治体における研修も活発に行われるようになってきており、今後は、自治体独自で実施することが困難な内容の研修の開催や自治体の研修活動への協力を行うとともに、また、情報技術の活用等を通じて、研修活動の一層効率的、効果的な実施に向けて具体的に取り組んでいくことが求められる。

(4)このように、障害種にとらわれず、社会的要請に弾力的に対応するという視点に加えて、地方公共団体や関係機関とのネットワークを通じてその取組を補完、若しくは、支援する、又は、関係機関との共同研究・事業の企画、調整する役割を担う機関として、我が国全体を視野に入れて、特別支援教育の研究や研修を総合的に推進していくという視点が重要である。

(5)国立久里浜養護学校との連携においても、同研究所は、昭和48年に国立久里浜養護学校が設立されて以来、重度・重複障害の子どもを中心に、実際的な研究の推進や研修面における教育実践のための相互協力を行ってきた。これにより、同研究所の研究や研修活動の成果は、養護学校における重度・重複障害の児童生徒に対する適切な教育や指導法の確立に活かされ、その学習機会の保障の実現に大きく貢献してきた。

(6)今後とも、新たな課題に対応して国立久里浜養護学校との相互協力により研究、研修活動等に取り組むことが必要であり、特に、これまで養護学校において様々な教育が実践されてきたにもかかわらず有効な指導方法が十分確立されていない自閉症について、大学等の関係機関との連携を図りつつ、国立久里浜養護学校との相互協力の充実を図る必要がある。

3 国立久里浜養護学校の在り方

(1)国立久里浜養護学校は、昭和48年9月に重度・重複障害の児童生徒を受け入れる国立の養護学校として設置され、国立特殊教育総合研究所との相互協力の下で、教育研究や研修の充実に取り組んできた。養護学校への就学の義務化を控えて重度・重複障害の児童生徒の教育や指導の方法を開発することは重要な政策課題であり、実際的な教育研究や研修面での臨床実践の場として機能し、当該児童生徒の就学の確保に大きく貢献した。
 しかしながら、全国的に養護学校が整備され、また、重度・重複障害の児童生徒の受入れも進められてきている一方で、国立大学の法人化が具体化し、国立久里浜養護学校を含め国立学校の今後の在り方が問題となったところである。

(2)現在、前述のように自閉症の児童生徒に対する教育・指導の方法の開発が重要な課題となっており、教育研究の成果の体系的な蓄積やそれに基づく研修等のプログラムの提供等が重要である。「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」においても、自閉症の児童生徒の教育的対応については、知的障害との違いを考慮しつつ障害の特性に応じた対応について今後も研究が必要であり、国においては、知的障害養護学校等における効果的な指導の在り方について調査研究を行う必要があることが指摘されている。
 これらを効果的かつ効率的に実施するためには、自閉症の児童生徒の教育研究を行う場として、あるいは、教員が指導の方法、技術等を実践し体得する研修の場としての機能を有する学校が必要である。

(3)近年、国立久里浜養護学校においても自閉症の指導プログラムの開発のための実践研究を進めてきているが、今後は、国立特殊教育総合研究所、大学等関係機関との連携協力の下で、自閉症の児童生徒の教育研究の場として、又は、指導や研修の実践の場として機能することにより、我が国の自閉症の児童生徒への教育的対応についての研究や研修に積極的に貢献していくことが必要である。その場合、自閉症の児童生徒への指導の経験を有する教員を計画的に配置する等、自閉症の児童生徒への指導を的確に行うために必要な体制整備を都道府県等とも連携しながら進めていく必要がある。
 なお、国立大学等の法人化に伴い国立学校の一つである国立久里浜養護学校の設置形態の検討が必要となるが、自閉症の児童生徒への指導方法の研究を効果的に進めるためには、基礎的な研究を含め総合的な取組が必要となること、また、幅広い研究スタッフ、蓄積された研究の成果の活用が円滑に行えること等にも十分に配慮する必要がある。このため、障害のある子どもの教育について研究実績の豊富な大学の附属学校とすることにより、大学の基礎研究と国立特殊教育総合研究所の実際的な研究との密接な連携を確保し自閉症の児童生徒の教育研究を支える学校としての機能が最大限に発揮されることを期待する。

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