今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)  はじめに

 障害のある子どもの教育をめぐっては、近年のノーマライゼーションの進展や障害の重度・重複化及び多様化の中で、本人や保護者の教育に対するニーズの高まりのほか、地域の実情を踏まえた学校や地域づくりと教育の地方分権の進展等、様々な状況の変化がみられる。
 こうした障害のある子どもの教育を取り巻く最近の状況の変化を踏まえ、21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議が、平成13年1月に「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」をとりまとめ、乳幼児期から学校卒業後まで一貫した障害のある子どもとその保護者等に対する相談支援体制の整備、盲学校、聾学校又は養護学校(以下「盲・聾・養護学校」という。)に就学すべき児童生徒の障害の程度に関する基準や就学指導の在り方の見直し、学習障害(LD:Learning Disabilities)等の特別な教育的支援を必要とする児童生徒への対応などについて幅広い視点から提言を行った。
 この提言の中にみられる基本的な考え方は、障害のある児童生徒の視点に立って一人一人のニーズを把握して必要な教育的支援を行うという考え方に基づいて対応を図るというものである。

 国及び地方公共団体においては、この考え方に基づいて同報告書に盛り込まれた内容の実施に努めてきている。例えば、国は、平成14年4月に、障害のある児童生徒の就学指導の在り方の見直しを内容とする学校教育法施行令の改正を行い、各地方公共団体において本年4月の入学者を対象に新しい制度に基づく就学手続が進められた。

 平成14年末、平成15年度を初年度として10年間を見通した障害者関連施策の基本的な方向を盛り込んだ新しい「障害者基本計画」が閣議決定された。
 この中では、障害者の社会への参加や参画に向けた施策の一層の推進を図ることを目的に、障害のある者一人一人のニーズに対応して総合的かつ適切な支援を行うこと、障害の特性に応じた適切な施策の推進を図ること、バリアフリー化の推進等の視点が示され、教育に関しては、障害のある子ども一人一人のニーズに応じたきめ細かな支援を行うため、乳幼児期から学校卒業まで一貫して計画的に教育や療育を行うとともに、LD、注意欠陥/多動性障害(ADHD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)、自閉症などについて教育的支援を行うといった基本方針が盛り込まれた。
 さらに、ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)が1992(平成4)年に決議した「アジア太平洋障害者の十年」の最終年に当たる昨年、この「十年」が更に10年間延長されることが決定されたほか、障害者の社会参加や生活改善に向けた新たな行動目標について関係国の参加の下で議論され、平成14年10月に滋賀県で開催されたハイレベル政府間会合において、「びわこミレニアムフレームワーク」が決定された。この中で、教育も優先分野の一つとされ、2015(平成27)年までに、障害のある子どもを含め、子どもたちはいかなる場所でも、また男女の別なく、初等教育を修了するとともに、あらゆる段階の教育において男女平等である旨の目標が決められた。

 このように、障害のある者の自立や社会参加を支援するという観点から様々な取組が行われている中にあって、本調査研究協力者会議は、「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」の提言の基本となっている考え方の下に、障害のある児童生徒に対する教育の一層の充実を図るという観点から、個々の障害に固有の事柄、あるいは学校における具体的な指導内容といった個別具体的な課題ではなく、学校の役割や機能、新たな教育のニーズに対応するための体制など、学校教育の全体的なシステムやそれに関わる法令制度に主に焦点を当てて、障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校の在り方、小・中学校等におけるLD、ADHD等への教育的対応について2つの作業部会を設け、様々な分野の有識者や専門家により検討を進めてきた。

 平成14年10月22日に、本調査研究協力者会議の意見を整理して、中間まとめとして公表した。本中間まとめについては、広く一般からの意見募集を行い、300を超える各界からの意見を踏まえ、更に審議を行い最終報告をとりまとめた。
 本調査研究協力者会議が検討を進めてきた特別支援教育は、障害のある子ども一人一人の教育的ニーズを大切にするものである。これまでも、個々の教員の努力や学校の独自の工夫により教育的ニーズに対応させる努力は行われてきたが、近年の教育をめぐる諸情勢の変化を踏まえれば、個々の教員の資質に任せた対応、又は学校のみによる対応には限界がきていると考えなければならない。従来の特殊教育のシステムや制度において制約となっていた様々な要因に目を向けて必要な改善に向けて大胆に取り組むことが重要との認識に立っている。
 障害のある子どもの教育の新たなシステムづくりや制度の再構築を目指すという点で、新しく、大きなチャレンジであり、このためには行政や学校はもちろん、家庭や地域社会においても意識改革が必要である。チャレンジがなければ成果もないことを肝に銘じて、教育に関わる者全員が協力して障害のある子どもに対する新しい教育の姿を切り拓いていくことを強く期待する。

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