特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議(第16回) 議事要旨

1.日時

平成21年8月27日(木曜日)10時~12時半

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.議題

  1. 高等学校WG報告書について
  2. 特別支援学校高等部における就労支援について (岩井委員による説明)
  3. 自由討議
  4. その他

4.議事要旨

(1)   髙倉座長より挨拶が行われた。

(2)   事務局より配布資料の確認が行われた後、説明が行われた。

(3)   宮﨑副座長より資料1に基づき報告が行われた後、事務局より資料2から5について説明があり、その後、岩井委員より資料6に基づき発表が行われ、自由討議となった。討議等の概要は以下のとおり。

 〔概要〕○:委員 ◎:ヒアリング者 △:事務局

(宮﨑副座長(高等学校WG主査)による、高等学校WG報告書について)

○ 障害によりコミュニケーションをとることが苦手な者は、大学に進学できても孤立してしまう場合がある。高等学校や大学での障害のある者に対する支援について、動向や取組などを教えてほしい。

◎ 各大学では具体的な取組が始まっていると認識しているが、これまで大学の実態調査は行われてきていない。なお、高等学校WGにおいては、障害のある生徒の大学進学について、報告書18ページに示されているように大学等との連携などについて論議を行った。また、高等学校WGWGは、高等学校における支援が十分でないということから、まずは高等学校における障害のある生徒に対する配慮や支援に重点に置いて検討を行ったところである。高等学校での具体的な取組が進めば、各大学における支援にもつながる。

△ 高等学校における全国的な調査は無いが、高等学校WG報告書4ページの○1から○4のモデル事業や研究開発学校の中では専門家を活用したソーシャルスキルの指導方法や授業方法、教育課程上の工夫等を行っている。また、報告書9ページ・10ページで示されているような社会生活上必要とされる人間関係形成や生活集団形成などのスキルを高めることは非常に大きな課題となっており、そのようなスキルの指導についてはモデル事業や研究開発学校により取組を進めている段階である。

○ 大学等への進学に関しての情報提供だが、日本学生支援機構では、障害のある学生について先進的な取組を行っている大学を拠点校として設定し、その拠点校が大学からの障害のある学生の受け入れの相談に対応するという「障害学生修学支援ネットワーク」を構築した。同時に、「障害学生修学支援メニュー」も作成し、昨年度は見直しを行ったところである。

○ 日本学生支援機構では、障害のある学生の支援に関する大学の教職員の研修プログラム作成委員会が昨年から始まり、各大学の事例も冊子としてまとまっている。本年7月には、大学での教職員研修や事務職員研修のための障害のある学生の受け入れに関する百数十枚のスライド資料を作成した。そのスライド資料は、大学が必要な部分のみを抽出して研修に使用することも可能なものとなっている。今後、モデル校における研修を経て、スライド資料や研修プログラムが公表されることになると思う。

○ 国立特別支援教育総合研究所では、平成18年から日本学生支援機構と共同して研究開発を行ってきた。また、国立高等専門学校機構とも共同研究に取り組んでいる。今後は高等学校や大学における特別支援教育の推進に向けた取組についても進めていきたい。

○ 高等学校WG報告書9ページの社会生活上必要とされるスキルなどについては、学習の支援だけではなくて、社会的な活動や男女のつき合いなどに関する社会スキルについても学校教育の中で積極的に支援するという理解で良いのか。また、小・中学校ではこのような取組を意識的に行っているのかを教えてほしい。

◎ 社会生活上必要とされるスキルなどについて、小学校では通級による指導等で実施されていることが多く、通常の学級の中で如何にして実施していくかが課題となっている。

△ 高等学校WG報告書9ページに関連する小・中学校での発達障害のある子どもの指導について、学習指導要領では言語力の育成を課題としている。言語力の育成にはコミュニケーション能力を高めることが含まれるが、コミュニケーションの機会を多くすることは、小中学校の学習指導要領の解説の中でも示されている。また、道徳に関しても、子どもの自尊感情について解説等で触れている。それらの点から、発達障害にかかわらず、現在の子どもの実態に即したコミュニケーション能力の指導が工夫されていくものと思う。

△ 発達障害のある子どもについて、通級指導や特別支援学級の教育課程を編成する際には、特別支援学校学習指導要領の自立活動を参考にしてほしい。特別支援学校の新学習指導要領では、自立活動の内容に「人間関係の形成」という区分を新たに設定した。それを参考にすることで、報告書に示されているような社会生活上必要とされるスキル等に関する指導が工夫されていくことが期待される。

○ 高等学校WG報告書6ページの相談体制の充実の中で挙げられているスクールカウンセラーについて、少し前までは、小・中学校に配属されているスクールカウンセラーは不登校を対象としたカウンセリングが中心で、発達障害に対する専門性がほとんど無い状態であった。スクールカウンセラーについては、臨床心理士などの養成課程と併せて検討する必要がある。

◎ スクールカウンセラーについて、確かに発達障害に対する支援については十分ではなかった。カウンセラー養成課程上の課題もあるが、カウンセラー協会等も発達障害に関する研修を積み重ねており、また市町村教育委員会等でもカウンセラーに発達障害の研修を実施するなどと状況は変わりつつある。今後、臨床心理士などの養成と合わせてカウンセラーの養成にもこのような対応が求められることと思う。

○ 高等学校WG報告書6ページの支援員の配置について、専門性のある支援員の配置に当たっては、教員との役割分担等について整理するなどの慎重な対応が必要である。そのような支援員について、高等学校WGではどのような議論がおこなわれたのか、教えてほしい。

◎ 支援員の配置については、高等学校から、発達障害に詳しい支援員の配置を望む意見があった。ただし、支援員に関しては様々な意見があり、高等学校WGでは「各都道府県においては、当面、設置者として各高等学校の実態に応じた支援員の配置に努めることが望まれる」とまとめた。どのような形で配置されるかは、それぞれの地域で実情を踏まえて考えていく必要がある。

△ 支援員の配置に関して、高等学校WG報告書34ページの「公立高等学校における特別支援教育支援員(介助員及び学習支援員等)活用状況」に示されている「特別支援教育支援員」は仮称であり、各都道府県で配置されている支援員の性格や位置づけなどの実態は様々である。支援員については、報告書に示されているように、まずは都道府県単位で対応を進めていただくのが先決であると考えているが、国においても都道府県が高等学校の支援員の配置に取り組めるよう財政措置の検討が必要であると認識している。また、高等学校では教科指導などの踏み込んだ支援も求められるので、小・中学校の支援員と同様の考え方ではなく、もう少し専門性の高い支援員を配置することが望ましいのではないかと考える。

○ 高等学校WG報告書15ページの中央教育審議会キャリア教育・職業教育特別部会における審議経過報告については、高等教育段階のキャリア教育に重点を置いた報道がなされているが、後期中等教育段階にも重点を置き、発達障害を含め障害のある生徒についてのキャリア教育等について検討する必要がある。

△ キャリア教育・職業教育特別部会について、特別部会の下には高等教育のWGと後期中等教育のWGの2部会が設置され、後期中等教育の課題についても集中的な検討・議論がなされてきている。普通科等のキャリア教育の在り方を議論する中で、特別支援教育の観点も入るように問題提起していきたいと思っている。また、専門高校についても様々な課題があり、専門高校と特別支援学校の連携なども重要な視点と考えるので、その点についても、制度や対応について検討していきたい。

(岩井委員による、特別支援学校高等部における就労支援について)

○ 資料6(10ページ)の平成20年度の進路状況の地区別について、学校の所在地の区分なのか、生徒の居住地の区分なのか教えてほしい。

◎ 学校ごとに学区域が設定されている。このため、学校の所在地と生徒の居住地の区域は一致している。

(自由討議)

○ 障害者雇用における課題の1つに運転免許証の取得がある。運転免許証を保有することで就労できる職業の幅が広がるが、障害のある者は、とりわけ運転免許証の筆記試験の合格点の高さが取得の障害となっている。ハンディを勘案した運転免許制度を検討しても良いのではないか。

○ 障害者雇用の法定雇用率について、地方公共団体の中には、入札条件に障害者雇用や法定雇用率を含めている地域もある。特に官公庁などの公立の機関が、それらを入札条件に加えることは障害者雇用を促進する上では非常に有用である。

○ SST(ソーシャルスキル・トレーニング)については、ぜひ教育現場にも導入してほしい。就労で求められるのは学力ではなくて社会性であるため、就労の場面では孤立は顕著な問題となる。また、社会的な学習を高等学校段階で導入することは、小・中学校段階においても目標の明確化につながる。

○ SSTについては、高等学校WGでも検討したところである。特に、報告書16ページの2つ目から4つ目のパラグラフで大事なポイントとして示したところである。

○ 資料6(3ページ)の「新たな作業学習の展開」について、これは都道府県ごとに実態に合わせた作業学習を設定することが望まれるのではないかと思う。

○ 高等学校WG報告書16ページ・17ページのセンター的機能の活用については、実習等を含む職業教育に特別支援学校のセンター的機能を活用するなどの提案も含まれているが、このことについて特別支援学校からの感想を聞かせてほしい。

○ 特別支援学校の中には既にそのような取組を行っている学校もある。特に、軽度の知的障害の生徒を対象とした特別支援学校の場合は、専門高校と相互に生徒の受け入れを行いながら取り組んでいる。高等学校に準ずる教育課程では、単位交換等も含めた取組が進んでいると思う。

○ 高等学校WG報告書8ページの私立高等学校における取組に関して、私立の高等学校にも発達障害のある子どもを含めて支援を必要とする子どもは在籍しているが、学校全体で取り組む、あるいは公的支援を受けるなどといったことはほとんどない。私立高等学校に在籍する子どもへの支援を含め対応は着実に行うべきである。

○ 障害のある生徒の公的機関への受け入れについて、当県では、平成4、5年頃から県の出先機関で養護学校高等部の生徒の実習を始め、また平成15年からは、県庁内の実習を始めた。その後は、特別支援教育課ではなく高校教育課などで実習の受け入れを進めているが、なかなか進まない。受け入れを進めるには、理解啓発など様々な取組を進める必要がある。

○ 新たな作業学習の展開に関して、当県では教室不足が非常に顕著なために、新たな作業種を設定したくても場所の確保ができないという実態がある。しかし、流通・サービス関係やビルメンテナンス作業の学習については取り組みたいと考えている校長はいる。

○ 作業の体験学習については、全国的にも、中学校においても実施されているのが実態ではないかと思う。これらは教育課程の中に組み込まれ、一つ一つの作業の体験学習を重ねながら行われているものと思う。このため、中学校では、高等学校への接続を見据えて職業体験を充実することが大切である。また、作業学習技能検定に関しては、本校でも、授業時間を工夫して、子どもの励みとなるように様々な取組を検定事業として実施している。具体的には、エプロンを後ろで結ぶ、靴ひもを結ぶ、電話で相手と会話ができる、自分の名前が言えるなどのような項目を設定して、生活検定を行っている。

○ コミュニケーション能力に関して、特別支援学校の新学習指導要領には、人間関係の形成が新しく追加されたので、小・中学校においても新学習指導要領に準じて実践されていくことになると思う。特に特別支援学級では、自立活動とともにコミュニケーション、人間関係の形成が教育課程に位置づけられて、育成が図られることになると思う。

○ 報告書の内容を浸透させるために最も大切なことは、全日本中学校長会や全国連合小学校長会も含めて、全国高等学校長協会などの校長会にも報告書を伝え、校長一人一人にまで周知することである。

○ 高等学校WG報告書11ページの「他方、高等学校における『特別の教育課程』による特別支援学級の設置」について、「改めて検討」とあるが、その扱いは、どうなるのか。

○ 高等学校WG報告書9ページでは、「障害の特性に応じた教科指導の配慮や工夫」と示されているが、ここでは、自立活動の視点も含まれているので、教科指導「等」と、「等」を入れるべきではないのか。また、「さらに、放課後等における補習の形式を取りつつ」の「等」は何を示すのか明確に示していく必要があると思う。さらに、資料1-1の「高等学校WG報告主なポイント」の現状で「小・中に比し体制整備に相対的遅れ」と示されているが、これは相対的遅れで良いのか。

○ 「小・中に比し体制整備に相対的遅れ」について、報告書23ページに掲載されている高等学校関係の体制整備状況の集計結果によると、小学校や中学校と比較して、高等学校では多くの項目が遅れている。体制整備への着手が遅かったことから生じた問題もあるが、これについて「相対的遅れ」と示しているところである。また、9ページに関しては、高校で実施されている様々な取組状況を踏まえて報告に含めたものであるが、この部分については全校体制の中で実施するとともに、補習を含めてそれぞれのところで対応する必要がある。

○ 高等学校においては、自尊感情などの様々な問題から、障害のある生徒を個別に指導するよりも、障害のない生徒が活動している教育活動の中で障害のある生徒をそれとなく指導することの方が多いのが実態である。このため、放課後に行われているような進学のための補習などを全校体制で実施する中で、同時に障害のある生徒を対象としたメニューを設定すると、対象の生徒が通いやすいようになるので、「放課後等における補習の形式を取りつつ」と示している。

○ 懸念されるのが私立学校における体制整備である。これまでも学校を取り巻く制度の改正等が行われてきたが、私立学校は最後になることが多かった。

○ 都市部では、就労支援の考え方や仕組み、あるいは企業が多くあるなどで、就労については非常に恵まれた環境かもしれないが、全国を見ると必ずしも同じ状況にはならない地域もあると思う。

○ 高等学校WGの報告等については、特にリーダーシップを求められている校長が認識することが非常に大切である。

○ 非常に懸念しているところは、中学校から高等学校に進学する段階で、知的障害のない高機能自閉症の子どもなどの受け入れをどう考えていくのかである。高等学校で体制整備を図らなければならないと思うが、実態としては難しい。特別支援学校の高等部の問題と併せて議論できればと思う。

○ 小・中学校の子どもの集団の質はこの10年間くらいで非常に変わってきており、特別支援教育だけではなく、不登校や非行、いじめ、虐待、校内暴力など、非常に多様なニーズが生じている。それに加えて、人間関係が苦手な子どもや生活指導の必要な子どもも多い。そのような中で、個別の支援ではやっていけず、学校全体の共通認識、共通理解、共通の指導というものが非常に重要視されるようになってきた。高等学校WGの報告の中でも「理解啓発」という言葉で、周囲の生徒の理解啓発、保護者の理解啓発の必要性が示されたところだが、子どもを受け入れる集団づくりや、人権教育、道徳、特別活動などは今後一層求められるようになると思う。小・中学校では、新学習指導要領の説明にもあったように、言語活動の重視や人間関係の形成というものが指導内容として含まれたので、高等学校でも今後進めてほしい。

○ 高等学校WG報告書10ページの「(3)ICT機器等を活用した支援の推進」に関して、機器類を含めてその子どもの特性に合った教材の利用を図ると言うと、「周囲の子どもが不公平と感じる」との意見を出されることが多い。このため、今後、高等学校向けの教育情報化に関する手引きを作成する際は、その子どもが周囲に気兼ねなく教材を使用できる状況を整備するよう促す記述を盛り込むことが必要である。

○ 高等学校WG報告書6ページの支援員の配置について、高等学校からは専門性のある支援員配置の要望があると記述されているが、支援員の専門性は幼稚園から必要だと思う。

○ 肢体不自由を対象とした特別支援学校の高等部では、通常の小・中学校に在籍していた生徒が進学することが多い。そのような生徒は、身体の障害により、補助具を使用することが多く、また小・中学校段階でいじめの対象になりやすい。このため家族の保護やカバーが次第に進むようになり、結果としてその子どもの他者への依存心が高くなってしまうように感じる。進学などを考えると、通常の小・中学校の段階から「障害のある子どもには補助や機器が必要」というような障害についての理解・啓発を促進し、過度な対応が不要となることで子どもの自立が進むよう期待したい。

△ 雇用施策や福祉施策等に関して厚労省との連携を一層深めていきたい。また、私立学校に対する支援については、まずは早期からの指導・支援が重要ということで、本年度から公立幼稚園の特別支援教育支援員のための地方財政措置を始めたが、来年度は私立幼稚園の支援を充実したいと考えている。また、私立高等学校に対する支援については、まずはモデル事業等の取組を充実させながら様々なメニューを実践して、その上で共通のメニューが出せるよう取り組みたい。また、ICT機器の活用について、高等学校WG報告書10ページの中で「授業の中で違和感なく」と記述されていることについては、周囲の子どもに「ICT機器は発達障害の児童にとり眼鏡と同じような位置づけである」という理解を図り、気兼ねなく使用できるようにとの意味も含まれていると認識している。また、高等学校WG報告書については、様々な機会に全日本中学校長会や全国連合小学校長会にも説明・周知をしたい。

(4) 事務局より今後の会議の運営について説明があり、閉会した。

 

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)