3.子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題

(子どもの発達段階に応じた支援の必要性)

○ 子どもの成長過程においては、個人差はあ るものの、多くの子どもに共通して見られる発達段階ごとの特徴がある。子どもは発達段階ごと に、視野を広げ、自己探求を深め、志を高めていくが、各発達段階における特徴 を踏まえた成長をそれぞれの段階で達成することで、子どもの継続性ある望ましい発達 が期待される。一方、こうした段階における望ましい発達がなされなかった場合には、 その後の発達にも支障が生じる可能性がありうることが指摘されている。

○ こうした指摘に加え、2.(1)で述べたような、現代の子どもたちをめぐる社会環境も考慮すると、子どもの豊かな心身の育成 にあたっては、子どもの発達段階における成長の特徴を、従来より一層踏まえて、適切 な対応と支援を行っていくことが重要である。

○ このような考えから、本懇談会では、発達 段階ごとの子どもの成長の主な特徴について、発達心理学等の知見も踏まえながら検討 してきた。以下は、現代の子どもの成長に関して、特に重視すべき課題について示すものである。

(1)乳幼児期

○ 乳幼児期は、母親や父親など特定の大人と の間に、愛着関係を形成する時期である。乳幼児は、愛情に基づく情緒的な絆による安 心感や信頼感の中ではぐくまれながら、さらに複数の人とのかかわりを深め、興味・関 心の対象を広げ、認知や情緒を発達させていく。また、身体の発達とともに、食事や排 泄、衣服の着脱などの自立が可能になるとともに、食事や睡眠などの生活リ ズムが形成される時期でもある。
 さらに、幼児期には、周囲の人や物、自然 などの環境とかかわり、全身で感じることにつながる体験を繰り返し有することで、徐 々に、自らと違う他者の存在やその視点に気づきはじめていく。いわば、遊びなどによ る体験活動を中心に、道徳性や社会性の原点を持つことになる時期である。

○ 現在の我が国における乳幼児期の子育ての 課題としては、親子関係では、親の子育てへの無関心や放任などの問題から、過保護や 甘やかせすぎ、さらには虐待といった、多様な問題が指摘されている。さらには、少子 化の影響で、子ども同士の地域での触れ合いが減少している問題も見られる。

○ これらを踏まえて、乳幼児期における子ど もの発達において、重視すべき課題としては、以下があげられる。

  • 愛着の形成(人に対する基本的信頼感の獲得)
  • 基本的な生活習慣の形成
  • 道徳性や社会性の芽生えとなる遊びな どを通じた子ども同士の体験活動の充実

(2)学童期

(小学校低学年)

○ 小学校低学年の時期の子どもは、 幼児期の特徴を残しながらも、 「大人が『いけない』と言うことは、してはならない」といったよ うに、大人の言うことを守る中で、善悪についての理解と判断ができるようになる。ま た、言語能力や認識力も高まり、自然等への関心が増える時期である。

○ また、この時期に限らず、家庭における子 どもの徳育にかかわる課題として、都市化や地域における地縁的つながりの希薄化、価 値基準の流動化等により、保護者が自信を持って子育てに取り組めなくなっている状況 がある。さらに小学校低学年の時期においては、こうした家庭における子育て不安の問 題や、子ども同士の交流活動や自然体験の減少などから、子どもが社会性を十分身につ けることができないまま小学校に入学することにより、精神的にも不安定さをもち、周 りの児童との人間関係をうまく構築できず集団生活になじめない、いわゆる「小1プロ ブレム」という形で、問題が顕在化することが多くなっている。

○ これらを踏まえて、小学校低学年の時期に おける子どもの発達において、重視すべき課題としては、以下があげられる。

  • 「人として、行ってはならないこと」 についての知識と感性の涵養や、集団や社会のルールを守る態度など、善悪の判断 や規範意識の基礎の形成
  • 自然や美しいものに感動する心などの育成(情操の涵養)

(小学校高学年)

○ 9歳以降の小学校高学年の時期には、幼児 期を離れ、物事をある程度対象化して認識することができるようになる。対象との間に 距離をおいた分析ができるようになり、知的な活動においてもより分化した追求が可能 となる。自分のことも客観的にとらえられるようになるが、一方、発達の個人差も顕著 になる(いわゆる「9歳の壁」 ) 。身体も大きく成長し、自己肯定感を持ちはじめる時期 であるが、反面、発達の個人差も大きく見られることから、自己に対する肯定的な意識 を持てず、劣等感を持ちやすくなる時期でもある。
 また、集団の規則を理解して、集団活動に 主体的に関与したり、遊びなどでは自分たちで決まりを作り、ルールを守るようになる 一方、ギャングエイジとも言われるこの時期は、閉鎖的な子どもの仲間集団 が発生し、付和雷同的な行動が見られる。

○ 現在の我が国における小学校高学年の時期 における子育ての課題としては、インターネット等を通じた擬似的・間接的な体験が増 加する反面、人やもの、自然に直接触れるという体験活動の機会の減少があげられる。

○ これらを踏まえて、小学校高学年の時期に おける子どもの発達において、重視すべき課題としては、以下があげられる。

  • 抽象的な思考への適応や他者の視点に対する理解
  •  自己肯定感の育成
  • 自他の尊重の意識や他者への思いやりなどの涵養
  • 集団における役割の自覚や主体的な責任意識の育成
  • 体験活動の実施など実社会 への興味・関心を持つきっかけづくり

(3)青年前期(中学校)

○ 中学生になるこの時期は、思春期に入り、 親や友達と異なる自分独自の内面の世界があることに気づきはじめるとともに、自意識 と客観的事実との違いに悩み、様々な葛藤の中で、自らの生き方を模索しはじめる時期 である。また、大人との関係よりも、友人関係に自らへの強い意味を見いだす。さらに 、親に対する反抗期を迎えたり、親子のコミュニケーションが不足しがちな時期でもあ り、思春期特有の課題が現れる。また、仲間同士の評価を強く意識する反面、他者との 交流に消極的な傾向も見られる。性意識が高まり、異性への興味関心も高まる時期でもある。

○ 現在の我が国においては、生徒指導に関す る問題行動などが表出しやすいのが、思春期を迎えるこの時期の特徴であり、また、不 登校の子どもの割合が増加するなどの傾向や、さらには、青年期すべてに共通する引き こもりの増加といった傾向が見られる。

○ これらを踏まえて、青年前期の子どもの発 達において、重視すべき課題としては、以下があげられる。

  • 人間としての生き方を踏まえ、自己を 見つめ、向上を図るなど自己の在り方に関する思考
  • 社会の一員として自立した生活を営む力の育成
  • 法やきまりの意義の理解や公徳心の自覚

(4)青年中期(高等学校)

○ 親の保護のもとから、社会へ参画し貢献す る、自立した大人となるための最終的な移行時期である。思春期の混乱から脱しつつ、 大人の社会を展望するようになり、大人の社会でどのように生きるのかという課題に対 して、真剣に模索する時期である。

○ 現在、我が国では、こうした大人社会の直 前の準備時期であるにもかかわらず、自らの将来を真剣に考えることを放棄したり、目 の前の楽しさだけを追い求める刹那主義的な傾向の若者が増加している。さらには、特 定の仲間の集団の中では濃密な人間関係を持つが、集団の外の人に対しては無関心とな り、さらには、社会や公共に対する意識・関心の低下といった指摘がある。

○ これらを踏まえて、青年中期の子どもの発 達において、重視すべき課題としては、以下があげられる。

  • 人間としての在り方生き方を踏まえ、 自らの生き方について考え、主体的な選択と進路の決定
  • 他者の善意や支えへの感謝の気持ちとそれにこたえること
  • 社会の一員としての自覚を持った行動

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