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資料7

文科省 「検討会議」ヒアリング資料

全国町村教育長会 会長 内田 弘之

1 学校の組織運営について

(1)学校が組織として問題解決に当たる体制の構築のための条件整備について

  • ア 定数改善の推進
     主幹や指導教諭といった「肩書き」だけではなく頭数を、特に、小学校の教員に1日、1〜2時間の自由な時間(児童と向き合う、研修など)を与える。
  • イ 現代的な課題に対応するための新たな機関・スタッフの配置

    • IT化への対応(教育指導にととまらず、業務のIT化の推進)
    • 保護者等の不当な要求等に対応する際の理論武装(「スクール弁護士」等の配置・・・数校に1名の割合で)
  • ウ 学校職員として新たな職の配置
     定数改善計画による教員は児童生徒の教育指導充実のため、事務職員は教職員の給与・服務等に係る事務処理のため、用務員は学校の庶務…‥とすると、いわゆる教員の職務を支援する新たな職(学級事務、教材作成、成績処理、文書作成 等、教育指導に付随する様々な教務を担当する職)の配置を検討する必要がある。

(2)教員が現在行っている業務の、他の組織等への委譲について

  • 1 教員が行っている業務のほとんどは、それぞれが密接にリンクしており、その1つだけを切り離して、分離・委譲(委託)するのは容易ではない。一昔前、「学校のスリム化」ということが声高々にいわれたが、結局、学校の責任・業務が軽減されたかというと、否である。本当に、時代や社会が学校の役割から削除してもよいというものは淘汰されるが、実際は違う。それどころか、その時代、その時代のニーズが学校に押し寄せ、「スクラップ&ビルド」どころか「ビルド&ビルド」の状態である。文書1つみても、文科省関連だけでなく、他省庁関連、県教育局外の関係依頼等が、まるですり鉢の底のように学校に押し寄せている。
     だとすれば、学校の役割を見直して、削るのではなく、その時代のニーズに応えるための方策を講じることも論じられてよい。教育に限らず、このところの行政は「金がない→仕事ができない・しない→業務内容を見直す→行政サービスの低下」という構図だが、教育はそうであってはならない。
  • 2 現在の学校は、教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間の指導の他、行政の要望によりありとあらゆるものが詰め込まれている実態がある。もう一度、学校の機能を見直す必要がある。
     そこで、現在教員が所掌している業務の中で、外部組織に委託が可能なものは、以下のとおり。
    • ア 教材費、積立金、給食費などの会計事務
       中学校では、学年単位でこれらを処理する教員が1名おり、大きな負担となっている。
    • イ 準要保護、要保護に係る業務
       学校によって事務職員が処理することもあるが、教務主任が担当していることもある。教務主任は、業務量が多いため、こうした業務は大きな負担となっている。
    • ウ 学校基本調査等の業務
       年度当初教頭は、調査書類の事務に追われ、教職員に目が行き届かない。
    • エ 学校施設の修繕等の管理に係る業務
       簡単な修繕は、学校で対応しているが、全て別の組織が対応してもよいのではないか。
    • オ 健康診断の業務
       学校保健法の関係で健康診断を実施しているが、果たして学校で実施すべきものなのか。長期休業中に指定の医療機関で検診を受けるのではどうか。
    • カ 作文、ポスターなどの作品募集に係る業務
       これらの作品募集が年間を通して非常に多い。長期休業日前には、一覧を作り児童生徒に選択させ作品を提出させたりしている。各団体との関係でやらざるを得ないものもあり、教員には負担感がある。

2 教員の勤務とその処遇について

(1)教員の勤務時間管理の適正化に係る課題と解決のための方策について
(4)いわゆる持ち帰り業務に関して、教員の負担軽減の観点から、必要な対応について

(1)(4)は、問題の根っこは同じなので、合わせて論じる。
 同じ学校でも、小・中と比較して、幼・高・大の勤務実態はどうか。過酷な勤務実態が取りざたされるのは、小・中が圧倒的である。なぜか。単に発達段階の違いとはいえない。社会が学校に期待(要求)する事柄の絶対量の違いである。(小学校教員の持時間数を減じ、十分児童と向き合える時間を確保する。その方が結果的に金がかからないですむ。)
 また、教員の勤務時間や持ち帰り業務等が問題視され、こうまでして負担軽減を検討しているのは、他の国も同じなのか。否。
 1−(2)でも論じたが、学校全体としての業務量の削減・委譲は多寡が知れている。つまるところは「人」である。
 よって、定数改善を敢然と推進することが不可欠である。ただし、定数改善の目的は児童生徒の教育指導の充実がその趣旨であるため、教員の負担軽減には直接的には波及しない。そこで、教員以外の新たな職(たとえば、教材作成支援員、学級事務等を担任から分離して行うための教育事務支援員 等)の設置はどうか。(ボランティアでよい。学校応援団を含める。)

(2)教員の能力・実績に応じた処遇やメリハリのある給与体系について

 考え方としては結構。ただし、給料査定の根拠となる大元の「能力・実績」を誰が、どう査定するがが問題である。校長にその最終責任を持ってきたのでは、制度は形骸化するだけで、現場の混乱は大きい。(つまり、人情として人は最終責任を自分が負うことに一番警戒感を持っている。これが、客観的な事実に基づいて誰もが明らかな事柄について決裁するのならともかく、教員の能力・実績といった、不確実性を含む内容の場合、かつての勤務評定がそうだったように、形骸化するのは目に見えている。極端な場合、校長は人の恨みを買うのを恐れ、混乱を避けるために部下を皆、A評価にする。)

(3)教員の負担改善のための、部活動指導に対する対応について

 極論を言えば、部活動の役割自体を社会教育・社会体育への全面的な移行をすることである。
 これまでにも、外部指導者やボランティアの導入などで、実技指導面では、僅かだが負担軽減がなされた。しかし、根本的な問題の解決には至らない。
 たとえばある部活動で外部指導者を委託して、土曜日の指導を依頼している場合、練習の数時間の実技指導は面倒見てもらえるが、生徒や施設・設備等の管理責任まで委託できるわけではない。肉体的負担は軽減できても、精神的・時間的負担はなんら変わらないところに課題は残る。
 中には部活動を生き甲斐にしているような教員もいる。一方で、生徒・保護者・地域の期待に応えるために、負担を感じながら、それが教員の使命とあきらめて指導している教員も多い。
 問題なのは、給料外だからと割り切って、名ばかりの顧問としてほとんど指導せず、生徒・保護者等の期待に応えられないことが、学校への不信につながっているケースもある。この場合、その教員は服務上の法令等に反しているわけではなく、勤務としては全く非難されるべきところではないが、社会のニーズ(部活動の役割)を考えれば、学校としては頭の痛いところである。(たいがい、こういう場合は人事異動等で対症療法的に対応してしまうことが多い。)
 これらは、部活動が教員の職務として、非常にグレーゾーンに位置づけられているからである。(給料外でありながら、やらなければ肩身が狭いという現実。)

3 教職調整額の見直し方策について

(1)時間外勤務について、一律の処遇を見直し、時間外勤務にふさわしい手当を支払うべき、との意見に対する考え

 反対。
 教員の仕事は、その質を高めようとすれば際限がない。多くの教員はその質を高めて保護者・生徒の信頼・期待に応えるために、正規の勤務時間を度外視して奮闘している。しかし、それは教職に対しての使命感・責任感からくるもので、決して金銭的な動機付けからではない。しかし、職務の専門性・特殊性からそれなりの待遇がなされているところ(人確法・給特法)であり、それら関係法令等の制定時の精神は尊重されるべきである。

(2)逆にほとんど時間外勤務をしていない教員には4パーセント(の教職調整額)を支払うことは適当ではない、との意見に対する考え

 「ほとんど時間外勤務をしていない教員」とは何か。単に学校に定時に出勤し、定時退勤する教員をさしているとすれば、そうとは言い切れない。自宅に持ち帰っての業務や電話等での相談や苦情に対する対応、土日や休日に出できての仕事、休憩時間を度外視した勤務実態、等々、教員の現実の勤務実態は一様ではない。
 「時間外勤務」が給特条例7条を適用した「命令」に基づく勤務と「狭義な定義」によれば教員の時間外勤務はいたって少ない。しかし、問題はいわゆる「命令外の自発的な、あるいは義務的な業務」が多くの教員の多忙感を生み出している。
  こういった多様な「広義の時間外勤務」こそが、職務の専門性・勤務態様の特殊性であり、ここに教職調整額が導入された所以がある。

(3)仮に、教職調整額を廃止し、時間外勤務手当を導入する場合の課題と対応策について
(4)仮に、時間外勤務手当を導入する場合の必要な準備と、それに要する期間について

【問題点】

  • ア 教員に、「金のために仕事をする」という姿勢を植えつけることにならないか。
  • イ 時間外勤務の管理・監督を誰がするのか、校長・教頭(主幹)がすべてを管理監督することが果たして可能か。(書類の上でだけなら可能かもしれないが、本当に必要不可欠な業務なのかどうか、やったほうがベターな業務なのか、どちらでもよい業務なのか、等の見極めをどうするか)
  • ウ 財政上、時間外勤務手当の財源に上限が設定されると、その範囲内での時間外勤務だけが認知されることになる。
  • エ 教員には、その教員でなくては対応できないといった、職務の特殊性・専門性がある。何らかの事情で、仕事を持ち帰えらざるを得ない教員は、時間外勤務と認知されなくなる恐れがある。特に、家事、育児に多忙な女子教員は仕事を家に持ち帰り、家族で手伝わななければできない状況がある。

【対応策等】

 教職調整額を減額(例えば4パーセントから3パーセントに)してでも維持しつつ、時間外勤務手当を導入する。
 時間外勤務手当を支給する際の対象となる業務を、運用で厳格に限定する。また、実績について「天井」を設けることはせず、そのための財源は確保する。
 社会やマスコミ、現場への周知・理解を進めるためにも、複数年の準備期間を設け、制度導入後、10年を目安にして制度の再評価をする。

4 その他

 予算(財源)は行政の源泉であることは百も承知だが、このかた10年、あらゆるものが経済効率のみを尺度にして評価・実施されている。(よく言われることだが)
 何事も成果を挙げるには「人・もの・金・情報」を投入しなければならないのは自明の理である。国家百年の大計としての教育行政に「米百表」の精神はどうしたのか。制度をいじることだけで、ローコスト・ハイリターンを望んでばかりいないか。
 日本はこの100年、何が国を支えたのかといえば、他ならない「人材」である。今後100年を考えた場合、エネルギー危機、食糧問題、外交、国際協調、環境問題・・等々、どれをとっても未曾有の局面が控えている。いま、10年、20年のスパンではなく100年後、200年後のわが国のあるべき姿を描いて、将来への積極的なかつ戦略的な投資としての教育財源の投入をすべきである。

「1年単位の変形時間労働制」の導入について

  • 「1年単位の変形時間労働制」の定義が不明なので、ここでは、例えば課業中と比較して、長期休業中は業務量が少ないとの前提で、課業中の勤務時間を例えば9時間とし、その分、長期休業中の勤務時間を例えば6時間にするなどして、年間の1日あたりの平均勤務時間を8時間にすること、との前提で考察する。

【考察】

  1.  長期休業中は業務量が少ないか?→ある意味そういえる。しかし、「少ない」というのは、学期中と比べての相対的な量であって、「8時間勤務」にふさわしい量と比べて「少ない」わけではない。初任者研修、5年次、10年次研修、さらに教員免許の更新で、研修時間が急増している。(つまり、教員は休業中に出勤して遊んでいる、というわけではない。)
     例えば夏季休業中は、休業中ならではの業務がある。(各種研究協議会や研修会等の出張、校内研修会、会議、校内研修会、補習授業、プール指導、部活動や大会引率、家庭訪問や面談、校外パトロール等の生徒指導関係 等々)
  2.  ある中学校の今年度の1年間の要勤務日数は242日(1日8時間として、1,936時間)だが、現実の教員の仕事としては1,936時間をはるかに超える仕事量をこなしている。ここに「教職調整額」の存在意義があるのではないか。
     したがって、学期中と休業日の勤務時間をシフトしても、業務の絶対量が減るわけではなく、「1年単位の変形時間労働制」の導入はまさに「朝三暮四」である。
  3.  仮に「1年単位の変形時間労働制」を導入したとしての問題点は、
    • (1)教員の士気の低下への懸念
    • (2)教員の健康面(身体的・精神的)、家庭生活への影響
    • (3)休業中(仮に勤務時間が6時間として)の時間外勤務の増加
    • (4)保護者、地域住民、社会の無理解(つまり、学校の先生は夏休みは遊んでいるとの、「一般的な誤解」の増幅)
    • (5)比較的短期間の常勤の臨時的任用教員(例えば9月〜11月での3ヶ月程度の病代等)の勤務時間の割り振りはどうあるべきか。(1日9時間勤務なのか)
    • (6)休暇の申請・承認の手続き(休業中は1日イコール6時間、課業中は1日イコール9時間として、時間単位で与えるのか。)
    • (7)教員の反発(?)からくる、「勤務開始時刻の出勤、勤務終了時刻での退勤」の励行による学校運営の支障(施設管理、部活動、生徒指導、家庭・地域との連携 等々)
  4.  「給特条例」の歯止め4項目に関して、
     給特条例7条2項を適用して、校長が時間外勤務を命じることはめったにない。(臨時・緊急の場合であるから当然)
     問題は、校長が時間外勤務として命じたわけではないが、やらなくてはならない業務(民間で言うところのサービス残業)が圧倒的に多いという勤務実態がある。
     したがって、歯止め4項目を拡大しても、現実問題としてあまり意味はないのではないか。

平成20年度(平成20年4月1日〜平成21年3月31日)における(ある中学校の場合)

生徒の休業日 166日(うち、長期休業日の日数は68日)
教職員の週休日・休日の合計日数 123日
教職員の要勤務日数 242日(365日マイナス123日 1,936時間)