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資料6

教職調整額の見直し等に関する日教組の考え方

2008年6月30日
日本教職員組合

「ワーク・ライフ・バランス」が教育の質を高めていく

 まず冒頭に、日教組の基本的な考え方を示したい。

  •  日教組は、教職員が心身の健康を取り戻し、その力量を十分に発揮することが、子どもたちの豊かな学びと育ちを保障することになるという立場にたっている。
     こうしたことから、文科省・各県教育委員会に対して、給特法の遵守と超過勤務の実態を調査するよう長年にわたり要請してきた。長時間労働に従事する教職員はそれによって疲労し、その蓄積が健康破壊をもたらす。休職者は2006年度7,655人と1996年度の2.0倍、その内、精神疾患による休職者は2006年度4,675人と1996年度の3.4倍にも増大している。
  •  現状の学校は、一人ひとりの子どもにそくしたきめ細やかな対応、保護者や地域社会からの期待や要請への的確な対応が必要になっている。
     一方、改正社会教育法では「国及び地方公共団体は(中略)社会教育が学校教育及び家庭教育との密接な関係性を有することにかんがみ、学校教育との連携の確保に努める」となっており、学校は社会教育全体の中で関わりが求められることになる。
  •  教育現場で働く教職員も、一人の生活者であり、市民社会を構成する一人の主権者である。ワークとライフそれぞれが調和(バランス)がとれる「ワーク・ライフ・バランス」は日々の教育活動にも影響を及ぼすことであり、こうした視点に立った教職員のワークルールの確立が必要である。
  •  子どもとの関わりは、極論すれば24時間体制にあり、そのことを、いとうものではない。そうした職であることを自覚して教職に就いている。
     教員の超勤が1日平均2時間程度というのは、「今の日本では普通のことであり特別のことではない」とする指摘がある。しかし、休憩時間の取得が夏期休業中を除けば、平均10分程度となっていることに象徴されているように、たえず、子どもの様子や安全面に気配りする必要があり、学校現場は、他の職場と異なる現状があることを訴えたい。

 こうした視点に立って、34時間に及ぶ超勤・持ち帰り残業時間縮減のための実効ある対策と教職の正当な評価を行う必要がある。そのための基本は、教職員の定数改善と人材を確保するための教職員賃金水準の確保である。

教員が子どもと向き合う時間を拡充するために必要な施策は

  •  地域社会の希薄化の中で、多岐にわたる内容を学校が担っている面がある。環境教育、キャリア教育、体験活動は重要なことではあるが、精選が必要である。一方で、学校・子どもの状況をしっかりふまえた教育施策の立案が必要である。現場実態と乖離した教育施策の実施によって、学校が多忙となっている面があることは否定できない。
  •  教員は、直接的な子どもとの関わりとそのための教材研究・授業準備などに時間を割くことについては、多忙であっても許容はできる。しかし、個に応じたきめ細やかな教育がより必要となっていることから、少人数教育を推進するための教職員定数改善こそが重要である。
  •  一方で、多忙に拍車をかけているのが、直接的な子どもとの関わりとは違う業務が増えているからである。また、学校外主催の行事や研究会活動の多さ、部活動の過熱などが多忙の原因である。こうした面の解消を図ることも重要となっている。(資料の「多忙の要因とその改善策」を参照)
  •  ボランティアの方による学校支援については、否定するものではない。一方、ボランティアの方にお願いすると非効率になるものもあること、また、責任の所在の明確化を指摘しておきたい。また、全国的にボランティアの方が確保できるのかも疑問がある。

給特法の趣旨について

  •  給特法制定時、「自発性・創造性に基づく勤務に期待が多いのが教員であって、勤務時間の内外を問わず再評価するものとして、つけたしの手当ではなく、本俸そのものを引き上げる4パーセントの調整額を支給する」と、当時の人事院総裁の国会答弁があった。この答弁が給特法の趣旨である。
  •  給特法制定時、当時の坂田文部大臣の「この法案が通ったからといって、それによって今まで以上にぎゅうぎゅうと先生方の労働を強いていくというようなことにつながっていかない」との国会答弁があった。しかし、現在の状況は、文科省による勤務実態調査でも明確な様に、そうはなっていない。
  •  「教員は、自発性・創造性に基づく勤務に期待が多い」ことは、その通りであり、そのことは、日教組も強く認識している。

 40年前とは次の様な状況の違いが生じてきている。

  • 1 学校・教員を取り巻く環境が変化してきていることや、保護者や地域社会からの要請が高まっていること。
  • 2 環境教育、キャリア教育、体験活動、ボランティア活動など教育活動や授業内容が増加していること。また、「しつけ」や「健康」「食育」などの生活指導の増加や学校・通学時の安全確保など様々な課題への対応が必要となっていること。
  • 3 こうした中で、40年前と比較した超勤実態が増大していること。(8時間から34時間)

 こうしたことを考慮すれば、「勤務の内外を再評価」する意義は、給特法の制定時よりも現在の方が格段に高まっている。

「給特法体制」の矛盾と実態との乖離について

  •  現状の「給特法体制」は、次の点において矛盾が生じている。
    • ア.無定量な超勤実態の抑制となっていないこと。
    • イ.超勤実態と支給額が見合っていないこと。
      •  40年前の月平均約8時間の超勤を考慮して、教職調整額は、給料月額の4パーセント(はね返り含めて6パーセント)となっており現在に至っている。しかし、現在は超勤34時間に増大している。
      •  一般公務員の時間外勤務手当財源は7パーセント、教員の教職調整額財源は6パーセント(はね返り分含めて)となっている。一般公務員よりも低額となっている。
    • ウ.長期休業中の勤務形態も異なってきていること。
    • エ.「適切な配慮」「研修」の活用が十分されていない。
    • オ.今後も「自発的な勤務」の名のもとに、無定量な超過勤務実態が拡大する可能性が大であること。
     こうした実態があるにも拘らず、これを改善せずに、これからも労基法37条から適用除外し続ける一方で、
    • 1実質の超勤の抑制に結びつかず、「超勤実態の固定化・拡大」につながること、
    • 2「一律支給」と「はね返り」を廃止し賃金が削減されること、
    は認めることはできない。

教職調整額の見直し方策について

1.「教職調整額」を見直す場合の手法

教職調整額を見直す場合の手法は、次の三つが考えられる。

  • 1本俸に組み込む。
     「給特法」本来の理念に沿えば、本俸に組み込むべきである。
  • 2「給特法」の精神を活かす。
     ただし、次の担保が必要である。
    • ア.40年前との「勤務の内外の再評価の相違」と「超勤8時間から34時間への増加」を考慮して、教職調整額の率を最低、現在の2倍とすること。ただし、大幅な教職員定数改善が実現できなければ4倍とすること。
    • イ.本俸を引き上げるのが趣旨であることから、「一律支給」と「はね返り」を維持すること。
    • ウ.無定量な超過勤務実態を解消するための、具体的な施策が必要である。また、実効の伴った「適切な配慮」を確保すること。
    • エ.「自発的勤務」が隘路となり、公務災害認定に不利に働かないこと。
  • 3時間外勤務手当化とする。

2.「時間外勤務手当」とすべきである

 前述の手法の1の実現や、2のアからエまでの担保ができないのであれば、労基法の原則である時間外勤務手当とすべきである。なお、教員の職務は、教員一人ひとりの自発性・創造性に支えられていることを否定するものではない。

3.「時間外勤務手当」化の留意点

  • 1 時間外勤務手当の財源確保について、一般行政職7パーセント、消防職8パーセント、警察職13パーセントとなっているが、超勤34時間を考慮し、職種間の均衡が図られる財源措置(最低12パーセント程度)が必要である。なお、定数改善が図られなければ、24パーセントとすべきである。
  • 2 時間外勤務手当の対象とすべき事由は、労働基準法36条の「労使協定」に基づき定めることとし、現在の教員の勤務実態をふまえ認定されるべきである。その際、仕事量の多い実情から行っている「持ち帰り」の実態も考慮すること。
  • 3 文科省が時間外勤務の範囲等をガイドライン等で定める場合は、学校や教員が行う仕事を明確にすることの観点を含めて、日教組と十分協議を行う必要がある。
     なお、日教組との協議の必要性は、給特法制定時の「中央労働基準審議会(現、労働政策審議会)」の建議においても触れられていることを強調しておきたい。
  • 4 時間外勤務手当にする場合は、学校現場に混乱が起きないよう、超勤対象範囲の確認、実態に見合った十分な財源確保、法制的な整理などをきちんと行った上で実施すること。また、そのことが確保できるような準備期間を設定すべきである。
  • 5 部活動については、次の事項に留意すべきである。
    • ア.部活動は、教職員の自主的・主体的判断とされ、「付加的な職務」としている現行の枠組みを維持すべきである。なお、平日を含めた部活動の超勤分は、時間外勤務手当の対象とはせずに、特勤手当の対象とすべきである。
       部活動を、教員の本来職務とした場合、人事評価の対象となる可能性が出てくる。例えば、「部活動の指導技術が不適切であった」「部活動で自校の成績が良くなった」と、免許を伴わない部活動指導が評価対象となれば、重大な問題である。教員の本来職務は、「授業」であり、そちらに専念できず影響が出ることにつながってしまう可能性がある。
    • イ.部活動を時間外勤務手当の対象とせざるを得ない場合には、次の取扱いを行う必要がある。
      1. 時間外勤務手当の対象とした場合であっても、部活動の時間外及び週休日等の勤務は、「教職員に義務付けるものでないこと」、「強制するものでないこと」を明確にする必要がある。
      2. 部活動を時間外勤務手当の対象とした場合、十分な財源の確保を義務教育費国庫負担金と地方交付税で確保すること。
    • ウ.部活動は、近い将来、社会教育へ移行すべきである。そのため、外部指導者の指導者育成にかかわる予算を拡充すること。その過渡期として、教職員が部活動指導を担う場合、「教職員」としての身分を離れ、市区町村職員・都道府県職員としての立場で委嘱料を受けるようにすべきである。
    • エ.部活動が過熱化しないよう十分に配慮する必要がある。具体的に、活動日数・時間について、子どもや教職員の生活全体のバランスを失わないよう配慮し、短時間で効果の上がる質の高い内容をめざすなど、文科省が責任を持って教育委員会に指導徹底する必要がある。

教員給与や勤務条件の見直しに対する意見

  •  40年前に比較して大多数の教員が多忙となっていることは、文科省の勤務実態調査でも明確となった。教職員は、40年振りに行われたこの文科省の勤務実態調査の結果が施策に反映されることを強く望んでいる。勤務実態調査を踏まえた給与措置等を強く要請したい。
  •  教員の大量退職・採用時期を迎え、優秀な人材を確保する必要性が高まっていることから、人材確保法の趣旨を正しくふまえた本給水準の確保などの給与措置を強く求めたい。
  •  教員給与についてメリハリ論があるが、一般公務員との均衡を失する「メリハリ」をつけるべきではない。また、教員の職務の特殊性を踏まえた特殊勤務手当を充実することを求めたい。
  •  本年4月から、改正労働安全衛生法が完全実施となり、教職員50人未満の学校においても、管理者(教育委員会、校長)による、「適正な労働時間の把握・管理」と「過重労働の対策」に万全を期すことが必要となった。このことは、給特法体制においても何ら変わるものではない。一部、誤解のある教育委員会や校長が存在するが周知徹底を強く求めたい。
  •  1年単位の変形労働時間制については、超勤実態の固定化につながり、健康破壊につながるものであることから導入に反対する。なお、夏期休業期間においても、プール指導や林間学校、部活動、補習・個別指導、地域活動への学校としての関わりなどが行われており、教育委員会等による研修会・研究会・講習会も多く実施されており、決して休みやすい状態ではないことを指摘しておきたい。
  •  地方自治体できちんと教職員給与が支給されるように、国が責任を持って義務教育費国庫負担金及び地方交付税の措置を確実に行うことを求めたい。また、多くの自治体で財政難を口実にした給与カットが行われており、教職員の人材確保に支障が生じることが危惧されている。こうしたことが生じないよう、「義務教育費国庫負担金の2分の1復元」と、「給与の国準拠制復活」の実現を最後に強く求めたい。

資料

多忙の要因とその改善策

  •  教員の授業以外に多くなっている仕事の主なものは、次の通りである。
    • 1 生活指導、個別指導、補習、家庭・保護者への対応
    • 2 部活動
    • 3 野外活動・体験活動
    • 4 運動会・記録会・コンクールイコール「学校内」の他に「市町単位」「県単位」「外部団体主催」のものもある。
    • 5 研究活動イコール「学校内研究」の他に「文科省・教育委員会・校長会等からの研究指定」のものもある。
    • 6 初任者研修、10年研修、行政主催の研修会
    • 7 事務イコール「子どもに関係する事務」と「学校運営・管理的な事務」に分類できるが、両者とも増えてきている。教育委員会等からの調査(報告)。
    • 8 学校施設の安全対策
    • 9 学校の防犯対策、給食時の安全衛生確認、登下校時の通学路の安全指導。
    • 10 地域の様々な活動への関わり

多忙の改善策

  • 1  教職員の定数改善こそが必要であり、有効である。
  • 2 生活指導、個別指導、家庭・保護者への対応
    •  社会や環境変化などにより、個々の子どもへの指導内容が多くなっておりきめ細かく対応するためには、少人数教育の推進が必要。
    •   スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等を増員すべき。
  • 3 部活動
    •  中体連、中文連、高体連、高文連等の約束ごとで、「部活顧問は必ず学校の教員でなくてはならない」となっている。監督やコーチは民間人でも、顧問は教員となっている。
    •   「部活顧問は教員でなくても良い」とすること。学校対抗の自粛をすべき。
    •   部活動を社会教育へ移行することとし、当面、外部指導者を大幅に増員すること。
  • 4 野外活動・体験活動
    •   学校で行うことを精選し、地域社会活動として実施する。
  • 5 運動会・記録会・コンクールイコール「学校内」と「市町単位」「県単位」「外部団体主催」
    •  これらは、学校が主体的な判断で実施することは良いが、市単位、町単位、県単位で行うことは自粛する。
  • 6 研究活動イコール「学校内研究」と「文科省・教育委員会・校長会等からの研究指定」
    •  学校が自校の子どもの状況を見て、主体的にテーマを設定して研究することは良いが、文科省・教育委員会・校長会等からの研究指定は厳選する。
  • 7 事務イコール「子どもに関係する事務」と「学校運営・管理的な事務」
    •  「子どもに関係する事務」(成績処理、指導記録、ノート添削、学級通信など)は、なかなか減らすことができないし、ボランティアなど他の人が代わって事務処理することも難しい。教員一人あたりの子どもの人数を減少させる。
    •  「学校運営・管理的な事務」は、学級・学年費など学校納入金会計、教科書事務、転出転入など学籍事務、管財、調査統計事務、給食事務、外部との渉外などがある。事務職員の増員などによって教員から移行する。
    •  議会の中で、「質問があるかもしれない」ということで、教育委員会、他部局等から学校に調査や照会が来る場合がある。厳選すべき。
  • 8 学校施設の安全対策
    • 学校現業職員の専門性を活用する。
  • 9 学校の防犯対策、給食時の安全確認、登下校時の通学路の安全指導。
    • 学校安全職員(仮称)等を配置する。
  • 10 初任者研修、10年研修、行政主催の研修会
    •  教育委員会等の研修が多すぎる。また、事前準備や事後総括のために時間を費やしている。研修回数・内容の精選をすべき。
    •  10年研修と免許更新講習の実施に重なりが出てくる。法定研修の見直しをすべき。