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資料2

学校の組織運営の在り方を踏まえた教職調整額の見直し等に関する検討会議ヒアリング

日本高等学校教職員組合
平成20年6月30日

(1)学校の組織運営について

1 学校が組織として問題解決に当たる体制の構築のために、具体的にどのような条件整備等が必要と考えますか。

 さまざまな教育問題に対して、個人だけではなく学校が組織として当たることによって、問題解決を容易にするとともに、そのノウハウを蓄積、共有できると考えられる。また、教員の勤務負担の軽減と適正化(平準化)を図るためにも必要である。
 具体的には、1業務の精選、2加配による教頭の複数配置の促進、定数法に位置づけた「新たな職」の配置による組織運営体制の構築、3ボランティア、スクールカウンセラー等外部専門家の活用と適切な役割分担、4教員が行う学校事務の軽減と効率化が必要である。人的配置に関わる条件整備については、財政上の措置が不可欠である。

2 教員の子どもと向き合う時間を確保し、教育に専念できるようにするため、教員が現在行っている業務のうち、具体的にどのような業務については、外部の専門家や地域のボランティア、他の組織等に委ねることができると考えますか。

  • 1<高度な>教育相談、生徒指導上の相談や助言(カウンセリング)
  • 2登下校時における学校周辺の巡回・見回り、長期休業中における校外補導
  • 3保護者からの苦情等の処理
  • 4部活動指導(社会体育)

など

(2)教員の勤務とその処遇について

1 労働法制上、公立学校の教員についても他の労働者と同様に勤務時間管理を適正に行うことが求められております。時間外勤務を縮減するため、教員の勤務時間管理を適正に行うことについて、どのようなことが課題であると考えますか。また、その課題の解決のためには、どのような対応が必要であると考えますか。

 労働安全衛生法の観点から、過労死や精神性疾患を防止するため、教員の勤務時間管理を適正に行うことは必要である。しかし、時間外勤務を縮減しようとする考えが強く作用すると、教員の自発性・創造性に基づく教育活動を阻害することに繋がる恐れがあることに留意する必要がある。相当数の教員の勤務時間管理をどうするのか、また、家庭訪問など学校外での勤務時間管理も課題である。勤務時間管理が時間外勤務の縮減に直接結びつくとは限らず、管理強化にならないようにする配慮も必要である。

2 教員の処遇について、一人ひとりの能力実績に応じたものとすることや、メリハリある給与体系を実現して頑張る教員の処遇の充実を図ることについて、どう考えますか。

 教員の能力実績をどのように評価、判断するかは難しい問題である。その基準は、客観性、公平性、公正性、納得性の要件を満たしたものでなければならないが、教職員評価も今のところ確立した制度になっているとは言えない。また、「頑張る教員」の処遇の充実を図ることは、一見、保護者(国民)の理解を得やすいと思われるが、そもそも「頑張る教員」とはどのような教員を指すのか。「頑張る教員」とそうでない教員を区別することは不可能である。
 教員の勤務の特殊性から、時間外勤務の長短がそのまま職務負担を反映しているとは限らない。職務負担に不均衡が生じていることが指摘されるが、それは特定の教員に仕事が偏っていることが最大の原因である。そのような不均衡が生じないように、職務の精選や学校運営上の問題を解決し、職務の平準化を図ることが求められる。客観的に職務負荷の少ないと評価される教員の志気の低下もまた問題である。学校現場の協働性を阻害することがないように十分な配慮が必要である。
 一方、主幹教諭、指導教諭等は客観的に職務負担が多いと考えられるため、給料表「特2級」が適用される。これによって教員の処遇のメリハリは十分に付いたと考えられ、極端なメリハリを付ける必要性はない。また、各教育委員会が独自の表彰制度等を運用し、メリハリを付けているケースもある。
 児童生徒の指導に直接関わらない休職中の者などについては、別途検討を要する。

3 部活動指導について、教員の勤務負担を改善するために、どのような対応が必要であると考えますか。

 現在の部活動は、教員の熱意と善意(ボランティア)に支えられていると言っても過言ではない。
 高等学校における部活動は、一部で外部の指導者に依頼しているケースもあるが、教職員が顧問として指導や対外試合引率、大会運営をしている場合がほとんどである。顧問として、必ずしも得意な分野を指導している訳ではなく、休日も休むことができない実態がある。加えて、生徒の事故(怪我)から責任問題に発展することもあり、顧問の負担は非常に大きい。しかしながら、特色ある学校づくりを進める上で部活動を柱に据える学校も多く、外部の指導者ではなく教職員が直接指導することによってもたらされる教育的効果は計り知れない。
 一つの対応として、社会体育に移行することが考えられるが、現段階では受け皿が極めて少なく、地域間格差も大きい。徐々に受け皿を構築していくとともに、外部の指導者の育成が求められる。教員が休日に部活動指導をした場合は、代休を取得しやすくしたり、部活動指導手当を大幅に増額するなどの対応が必要である。

4 いわゆる持ち帰り業務については、適正な情報管理や教員の勤務負担の軽減という観点から、これを改善するために、どのような対応が必要であると考えますか。

 持ち帰り業務をしなければならなのは、言うまでもなく教員が多忙であることが最大の理由である。授業の他に、児童生徒への対応や部活動、あるいは児童生徒の指導に直接関わる業務以外のデスクワークに追われ、勤務時間内に業務が終わることはまれである。育児や看護のために学校で残業が出来ない場合は、家庭でテストの採点などをしなければならないこともしばしばである。個人情報保護やワーク・ライフ・バランスの観点から、持ち帰り業務をしなくても済むようにすることは重要である。
 最も有効な対応は、教職員定数を抜本的に改善することである。また、新たな職務負担の増加にならないように配慮した上で、事務処理(成績処理や文書作成等)を効率的に行うため、教員にパソコン1台を配備すべきである。やむを得ず個人所有のパソコンを使用している実態は早急に改善しなければならない。

(3)教職調整額の見直し方策について

1 教員の時間外勤務については、個々人によりその実態には大きな差があります。一律の処遇を見直し、長時間の時間外勤務には、それにふさわしい手当を支払うべきとの意見がありますが、どのように考えますか。

 教員勤務実態調査(高等学校)から、勤務日、休日とも残業時間量等に教員によってバラツキが大きいことが判明した。これには性別、年齢、職階、担当教科、担任や部活動顧問の有無などが大きく関係している。
 教職調整額は、時間外勤務手当を支給しない代わりに、勤務時間の内外を包括的に評価して一律に支給するものであるから、個々人の時間外勤務を評価して率を引き上げる等の措置を行うことは難しく、また、法制上の問題もあると考えられる。
 教員の職務が自発性、創造性に期待する面が大きいことは、教職調整額が創設された当時も現在も何ら変わることがない。長時間の時間外勤務にふさわしい手当を求める声があることも事実だが、時間外勤務手当は教員にはなじまないと言わざるを得ない。
 したがって、教職調整額が創設された趣旨を最大限に尊重し、教員の職務と勤務態様の特殊性も踏まえつつ、一律の教職調整額を維持した上で、水準の改善を検討すべきである。

2 また、逆に、全くあるいは殆ど時間外勤務をしていない人には、4パーセント支払うことは適当でないという意見もありますが、どのように考えますか。

 教員勤務実態調査(高等学校)によれば、全日制教員の平均残業時間量はおよそ1時間40分、平均持ち帰り時間量はおよそ25分、平均労働時間は10時間にも及ぶ。それに対して、勤務日・1日あたりの平均残業時間量が「0分」の教員は1.1パーセントに過ぎない。本調査は、平成18年10月から12月という、年間のうち限られた時期、また、1教員につき2週間という短期間の勤務状況を調査したものであることに注意しなければならない。日常的に休憩・休息を十分に取れない実態もあり、年度始めや年度末には残業がさらに長時間に及ぶことは容易に想像でき、育児や介護のために、持ち帰り業務をしている教員も多い。
 教職調整額4パーセントは、40年前の調査で1日の残業が15分程度であったことが根拠である。このことを考えれば、4パーセントという水準を勤務実態に合わせて大幅に引き上げるべきである。

3 仮に、教職調整額を廃止し、時間外勤務手当を導入する場合、具体的にどのような課題がありますか。また、その課題の解決のためには、どのような対応が必要であると考えますか。

  • 1必要な財源の確保
  • 2教員の勤務時間管理
  • 3持ち帰り残業の評価の在り方
  • 4適正な時間外勤務手当の水準の決定
  • 5法制上の問題

など

4 仮に、同様に時間外勤務手当を導入する場合、どのような準備が必要であり、また、どれぐらいの準備期間が必要であると考えますか。

 誰もが納得できる、教員の勤務時間管理を適正に行う方法を構築する必要がある。また、時間外勤務手当(超勤手当)は、通常、正規の勤務時間よりも高率(高額)の支給割合であるから(例えば125/100など)、勤務した全時間に対して支給(完全支給)するだけの財源を確保しなければならない。教員勤務実態調査の結果から考えれば、時間外勤務手当を導入すれば、原資は相当膨らむことが容易に想像できる。
 教員の職務は勤務時間だけでは推し量れるものではない。教員の理解と納得はもちろんのことであるが、社会的コンセンサスを得る必要があり、準備には相当の時間を要すると思われる。

5 いわゆる超勤4項目(「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」第2号に掲げる業務)があることにより、学校の運営において支障となっている事例がありますか。また、仮に超勤4項目を拡大する場合、どのような項目を追加すべきと考えますか。

 現在の超勤4項目が、学校の組織運営において大きな支障になっているとは言えない。しかし、教員は日常的に勤務時間を超えて学習指導、生徒指導、進路指導、部活動指導、事務処理、授業準備などを行っているため、仮に時間外勤務手当を導入する場合には、これらの職務を超勤と認め、時間外勤務手当を支給すべきである。

(4)その他

1 仮に、1年単位の変形労働時間制を導入する場合、具体的にどのような課題がありますか。また、その課題の解決のためには、どのような対応が必要であると考えますか。

 教員勤務実態調査(小・中学校)の結果を見ると、夏期休業期の平均残業時間量は勤務日も休日のどちらも通常期より相当少ない。これは基本的に授業がなく、児童生徒が休業中であるためであるが、2学期に向けた準備や教材研究などの通常の職務に加えて、研修、部活動等を行っている。
 概して、通常期に多忙な教員は夏期休業期にも多忙である場合が多い。1年単位の変形労働時間制が導入された場合、結果として休める人と休めない人の格差が拡大することが危惧される。平成21年度からは教員免許更新制が導入され、更新講習が夏期休業期に集中していることも考慮しなければならない。
 そもそも、通常期の平均労働時間が10時間にも及ぶことが問題であり、まずこの点を是正すべきである。また、通常期と夏期休業期で辻褄を合わせようとする発想ではなく、学校という職場に本当に導入が可能なのか、メリットとデメリットは何かを十分に検討するなど、極めて慎重な態度で臨まなければならない。育児のための短時間勤務制度の導入、ワーク・ライフ・バランスの観点からも問題が大きい。教育公務員にのみ変形労働時間制が適用できるのかどうか、法制上の問題(労働協約締結権)もあると考えられる。

2 その他、教員給与や勤務条件の見直しに関して、ご意見等がございましたら、お願いいたします。

 教員の大量退職期を迎え、教育に優秀な人材を確保することは極めて重要な課題である。教育の機会均等や人材確保法の趣旨を再確認して、教育予算の拡充、教職員定数の抜本的な改善を図っていただきたい。