高校における弱視生徒への教育方法・教材のあり方ワーキンググループ(第8回) 議事要旨

1.日時

平成21年2月20日(金曜日)10時00分~13時00分

2.場所

文部科学省3階 3F2共用会議室

3.議題

  1. 拡大教科書の普及推進について
  2. その他

4.出席者

委員

香川主査、大内委員、太田委員、齋木委員、土屋委員、永田委員、橋本委員、松浦委員、村上委員、守屋委員、安元委員、宇野委員、大旗委員、齋藤(肇)委員、田中委員、千田委員、花香委員、山田委員、渡辺(能)委員

文部科学省

永山特別支援教育課長、美濃特別支援教育課専門官、池尻特別支援教育調査官、新津教科書課課長補佐、三輪教科書課課長補佐

5.議事要旨

(1)事務局から著作権法の解釈について説明があった。

(2)議題に対する自由討議が行われた。主な意見は以下のとおり。

【委員】
 全国盲学校長会が実施したアンケート調査の結果については、弱視生徒の数が337名在籍しており、そのうち254名が高校の学習内容に準ずる内容を履修していると記述されている。残りの83名は、学校教育法附則第9条で規定する教科用図書を使用している生徒と解釈してよいか。

【事務局】
 この83名には、視覚障害のみの生徒のほか、重複障害で視覚障害を併せ有する生徒が含まれる。そのため、同法附則第9条で規定する教科用図書を使用している者や下学年の内容として中学校の教科書を使用している者も該当すると考えられる。

【委員】
 報告案の記述では、残りの83名の生徒は検定教科書を使用していないかのように解釈されてしまう危惧があることから、同法附則第9条で規定する教科用図書やそれを拡大したものを使用していることが分かるような記述にしてはどうか。

【委員】
 高校段階では、教科書発行者による拡大教科書の発行が行われておらず、利用実績もあまり多くないことから、効果の検証等が十分に行われていないという記述があるが、そもそも必要な教科書が供給されていないため、使用したくても使用できない生徒が多いのが実態である。また、高校段階は、義務教育段階に比べてニーズが一層多様化しており、生徒が学習しやすい環境を整備することが大切である。

【委員】
 特別支援学校(視覚障害)と高校では、実態が異なることから、それぞれを分けて記述すべきである。具体的な対応もそれぞれ異なってもよいと思う。

【委員】
 中学校段階で拡大教科書を使用していた生徒について、高校における拡大教科書の使用状況を調査することが大切である。

【委員】
 特別支援学校(視覚障害)高等部における生徒のニーズに応じた必要な支援を行うため、実態把握を行い、その後、関係機関が連携して適切な支援を行うという流れをつくるべきである。実態把握については、普及啓発の項で明記すべきである。また、特別支援学校(視覚障害)と高校は、分けて考えることには賛成であり、それぞれのニーズに合った保障をすることが大切である。

【委員】
 視覚障害の児童生徒は、その障害の特性から、最適文字サイズが大きくなる場合もあれば、小さくなる場合もある。このため、児童生徒には様々なニーズがあり、そのニーズが高校段階では一層多様化することを明記してはどうか。

【委員】
 通常の学校の教員が、障害のある児童生徒の担当をした際に、どのように指導してよいか分からないことがあると聞く。まずは、特別支援教育を担当する教員に対して教育を行う必要がある。また、希望する生徒に拡大教科書を提供するという文言があるが、実際には、生徒が希望しても行き渡らないケースもあることから、そのようなことがないようにすべきである。

【委員】
 高校では、義務教育段階に比べて授業の進度が速く、情報量も多く、生徒のニーズも多様化しているという実態がある。このようなニーズに対応できるよう教科書の供給体制を構築することが大切である。例えば、中学校までは26ポイントのレイアウト変更した拡大教科書を使用していた子どもが、高校で17ポイントの単純拡大した教科書を使用することに耐えられるかどうかも疑問である。特に、重度の視覚障害者に対する支援を優先すべきであり、この点について盛り込むべきである。

【委員】
 単純拡大した教科書を優先的に作成し、レイアウト変更した拡大教科書の作成は後回しということではない。生徒の実態が分からない中で、まずできるところから段階的に対応していくということは一つの筋道である。

【委員】
 重度の視覚障害者を優先すべきという点については十分に検討する必要がある。ただ、ニーズとしての最大公約数的なところで対応するということから、高校段階においてもそこから入っていく必要がある。また、拡大教科書を無理に使用させて学習効率を落とすことがよい対応とは限らないので、現実的には、効率性を踏まえた対応をすることが重要である。さらに、拡大教科書を保障するだけですべてを解決できないこともあるので、多様な環境を設定していくことが大切である。

【委員】
 弱視生徒は、視力、視機能などの個人差が大きいことから、標準拡大教科書を作成しても、十分に対応できない子どももいる。また、単純拡大した教科書でも使い勝手がよい生徒もいる。そのため、様々な選択肢を用意しながら、今後発展させていく筋道を検討することが大切である。同時に、紙媒体の拡大教科書だけでなく、一人一人の実態に応じた教材をどのように提供していくかを検討することが大切である。

【委員】
 高校段階で標準拡大教科書を作成すれば、多様なニーズに応じたことになるかについては十分な検討を要する。生徒のニーズが多様化していることから、どのような拡大教科書を作成してもすべてに対応しきれないのではないか。そのため、デジタルデータや視覚補助具を活用して、個別に対応していくことが考えられる。

【委員】
 確かに拡大教科書のみですべてに対応することは困難であるが、教育とは教師の理解や指導方法・内容など総合的に行われるものであり、この会議では、教科書や教材を必要とする生徒にいかに提供していくかを検討する必要がある。生徒が何らかの困難によって学習がしにくいという状況があるのであれば、それを取り除き、生活しやすい環境を整備することが大切である。

【委員】
 現実的な対応が必要であると思うが、拡大教科書の作成については、単純拡大した教科書と同等に、レイアウト変更した拡大教科書についての記述も大事であることが分かるように盛り込むべきである。

【委員】
 B4判やA3判の拡大教科書を作成できるかどうか疑問である。

【委員】
 レイアウト変更した拡大教科書については、一定数の教科書を発行した上で、実証的な調査研究を行うことが示されているが、一定数では分かりにくいため、特別支援学校(視覚障害)高等部で採択している教科書46点としてはどうか。また、高校についても、平成21年度から単純拡大した教科書を作成すると解釈してよいか。

【事務局】
 拡大教科書普及推進会議での最終報告を踏まえ、教科書会社等の関係者とも相談の上、.平成21年度予算でどのような対応が可能なのか、どのくらいの財源措置が可能なのかなどについて検討していきたいと考えている。

【委員】
 翌年度の拡大教科書が必要な生徒の数を秋頃までに把握する旨の記述があるが、高校2年生になり文系、理系に分かれて授業を受けるようになる場合、実際に1年生の9月の段階で生徒自身が文系に進むか、理系に進むかの判断が可能なのか。

【委員】
 学校によって若干の違いはあるが、概ね前年度の11月、12月には翌年度の選択科目が決まっているというケースが多いのではないか。

【委員】
 翌年度の選択科目が前年度に決まっているのであれば、そのような情報は教科書会社だけでなく、民間会社、特別支援学校等で共有し、協力しながら対応する必要がある。また、拡大教科書を作成したボランティア団体や教科・科目等についての情報は発行目録に記載して、幅広く共有できるようにすることが大切である。

【委員】
 どのような教科書がボランティア団体や発行者で製作されているという情報を、文部科学省で集約し、ホームページ等に掲載してほしい。

【委員】
 拡大教科書をいつ作成するかという情報は早めに提供することが大切である。特に、高校の場合には、ボランティア団体と民間会社で競合することもあり得るため、単純拡大した教科書を作成するにしても、レイアウト変更した拡大教科書を作成するにしても慎重に検討する必要がある。

【委員】
 まずは、報告書に特別支援学校(視覚障害)の教科書46点に対してレイアウト変更した拡大教科書を作成することが理想的であることを明記すべきである。しかし、現実対応として、46点のすべてに対応することが困難であれば、まずは、受験科目又は必修科目からレイアウト変更した拡大教科書を作成する旨を明記すべきである。

【委員】
 理念はよいと思うが、現在、義務教育段階の拡大教科書の発行で現場に混乱が見られる状況であり、高校段階については、じっくりと検討すべきである。

【委員】
 「拡大教科書の作成を希望する学校に対して、著作権等に関する必要な調整を行った上で、高等学校段階の教科書デジタルデータを提供する」という記述があるが、学校の立場からすれば、適切な教科書が供給されることを望んではいるが、それがないために作成せざるを得ないという状況であり、学校が自ら作成を希望しているわけではない点に留意する必要がある。

【委員】
 PDF形式のデータは、学校や生徒にとって使い勝手がよいとはいえない。報告案では、教科書発行者から、PDF形式のデータとJPEG形式のデータが提供されて、テキストファイルについては、データ管理機関がPDF形式のデータから取り出して学校に提供すると読み取れる。そうであれば、学校には、テキストデータとJPEG形式のデータの2つが提供されることになり、使いやすいと思う。また、高校は、教師用指導書に添付されたデジタルデータを所持している割合が非常に高いため、そこに教科書の本文以外の情報を加えれば、十分なデータが作成できる。

【委員】
 提供するデータの形式については、教科書デジタルデータ提供促進ワーキンググループでの議論を踏まえ、PDF形式のデータが適切という結論を得た。この点は、教科書発行者でも対応が可能であることから、義務教育段階で提供を進めているところである。また、PDF形式のデータを提供するに当たって、教師用指導書に添付されているデジタルデータを併せて提供することも考えられる。

【委員】
 高校の普通教科の約7割の教師用指導書にデジタルデータが添付されている。形式はテキストファイルやワードが多く、教科書の注や本文、数学の問題などの形で保存されていることが多い。現状としては、一定のデータはそろっているといえる。

【委員】
 PDF形式のデータは、例えば、情報が表になっている場合には、分散して見にくくなってしまうこともあり、使い勝手がよいとはいえない。そのため、データ管理機関が、教師用指導書添付のデジタルデータにPDF形式のデータから欠けている情報をテキストで抜き出すなどの煩雑な作業を行わなくてはいけなくなる。こうしたことから、十分な文字情報が入ったテキストデータを提供することが望ましい。

【委員】
 デジタルデータの提供については、第一次報告に盛り込まれた教科書デジタルデータ提供促進ワーキンググループにおける議論に沿ったものである。ただし、高校の実態を考慮して、拡大教科書を学校にも提供することを盛り込んでいる点が第一次報告との相違点である。

【委員】
 教師用指導書添付のデジタルデータには、単元のまとめや復習などのデータが盛り込まれておらず、授業で十分に活用できないこともある。そのため、学校や生徒にとって使い勝手のよいデータの提供が望まれる。

【委員】
 学校で拡大教科書を作成するとは、複製するということか、それとも完成した拡大教科書を作成するということか。

【事務局】
 学校が拡大教科書を作成するのであれば、学校が教科用特定図書等を発行する者に該当するので、法律上の問題はない。ただし、学校が拡大教科書の一部分しか作成しない場合には、学校が教科用特定図書等を発行する者に該当しないため、著作権者の承諾を得る必要が生じてくる。

【委員】
 デジタルデータの提供を受けた教員が、生徒にそのデータを渡してもよいのか。

【事務局】
 法律では、教科用特定図書等を発行する者にデジタルデータを提供することになっているが、提供先は学校とすることが妥当であると考える。今後は、学校から生徒にデジタルデータを渡すことの可否についても検討する必要がある。

【委員】
 教科書発行者がデータ管理機関にデジタルデータを提供する際の形式として、PDF形式のデータと併せてJPEG形式による画像のデータとの記述があるが、実際に検証してみて、PDF形式のデータから容易に画像を取り出せることが判明したため、「必要に応じて」JPEG形式による画像のデータも併せて提供とした方が実態に沿うのではないか。

【委員】
 教科書デジタルデータを学校に対して提供する際に行う「著作権等に関する必要な調整」とは、具体的にどのようなことを想定しているのか。また、この文言は、第一次報告にも盛り込まれていたのか。

【事務局】
 この文言は、第二次報告で初めて盛り込もうとしているものである。教科用特定図書等を発行する者以外の者にデジタルデータを提供する場合、著作権法が適用されることから、データ管理機関が著作権者に対し、承諾を得る必要が生じてくることを想定している。

【委員】
 学校では、弱視生徒に対してパソコンで教科書を提示したいというニーズがあるため、教員に提供されたデジタルデータを生徒に渡すことができなければ大変困ったことになる。著作権法第35条でデジタルデータの複製ができると解釈することは可能なのか。

【事務局】
 同法第35条は、授業の過程で使用に供することを目的とする場合には複製することが可能であるという条文であり、この条文に照らせば、学校や教員にデジタルデータを提供することは可能であると思われる。生徒にデジタルデータを渡すということになれば、「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」が適用されないことから、著作権者に承諾を得る必要がある。

【委員】
 デジタルデータには、教師用指導書に添付されているデジタルデータとPDF形式のデータの2つがあるが、これは将来的に一元化されるのか。または別々のままなのか。それによって費用はどのようになるのか。

【委員】
 教師用指導書に添付されているデジタルデータと、PDF形式のデジタルデータは全く別物であり、現時点では一元化する予定はない。教師用指導書に添付されているデジタルデータは商品としてのデータであり、データ管理機関から提供されるデータは、教科用特定図書を作成する目的以外には、使用することができないものである。仮に目的外使用をすれば、教科書発行者が損等賠償を請求することもあり得る。

【委員】
 ボランティア団体が拡大教科書を作成する際に、教師用指導書に添付されているデジタルデータと、データ管理機関から提供されるデジタルデータの2つを一緒に使用することはあり得る。それらのデータをどのように管理していけばよいのか。

【委員】
 教師用指導書に添付されているデジタルデータに比べて、データ管理機関から提供されるデジタルデータの方が、拡大教科書を作成する上では、利便性が高い。例えば、データ管理機関から提供されるデータは、無償で入手するものなので、それを無償で第三者に提供してもよいと解釈してしまう場合もあり得る。このため、データ管理機関が周知徹底を行うべき内容についても細かに規定する必要がある。

【委員】
 ボランティア団体が一人の生徒のために作成したデータが、別の生徒にも有効である場合、ボランティア団体から直接別の生徒にデータを提供するのではなく、一旦データ管理機関にデータを預けて、データ管理機関から該当の生徒に提供されるようにすることが考えられる。

【委員】
 教科書発行者がデジタルデータの提供を受ける場合、教科書協会等に誓約書を提出することになっているが、それによれば、目的とする拡大教科書の製作を終了した時点で、提供されたデジタルデータを廃棄することになっているが、拡大教科書として作成し直したデータの管理はどのように行われるのか。また、提供されたデータのみを廃棄しても、実際に作成された拡大教科書のデータが残っているので、データの管理に関する仕組みを整備する必要がある。

【委員】
 視覚補助具を使用しても、かなり大きな文字で書かれた教科書を望む者もいれば、読み速度が落ちたり、疲れてしまったりする者もいる。視覚補助具を使用しても、必ずしも社会適応できるとは限らない。

【委員】
 視覚補助具とはどのようなもので、どのように使われるのかについて、あまり知られていない。このため、視覚補助具についての情報が高校や生徒、保護者などに伝わるような取組が必要である。

【委員】
 特別支援学校(視覚障害)がセンター的機能の一環として、最新の視覚補助具に関する情報を発信することが大切である。同時に、国で費用負担をして、各学校で情報を発信できるようにすることが重要である。

【委員】
 例えば、ボランティア団体や一部の教員など、情報が特定の者に偏っている現状があると認識している。そのため、多くの人が視覚補助具を含めた様々な情報が入手できるよう体制を整備する必要がある。

【委員】
 「視覚補助具等」の中には、視覚補強機器、レンズ類等に加えて、情報機器が含まれていると考えられるので、この点について明記してはどうか。

【委員】
 「弱視生徒への指導については、個々の視機能を適切に評価した上で、拡大教科書を含めた種々の支援策が効果的に選択されることが必要であり、そのような指導法の充実が求められる」は、脚注ではなく、本文に明記すべきである。また、拡大教科書等の普及推進のための財政措置については、非常に重要な点であることから、最後の方ではなく、もう少し前の方で明記してはどうか。

【委員】
 特別支援教育コーディネータは、本市ではすべての学校で配置されているが、教員との兼務ということで専門性という面では十分に担保されているとは言い難い。

【委員】
 実際に作成された拡大教科書のサンプルをHP上で閲覧できるようなシステムがあればよい。

【委員】
 特別支援教育コーディネータについては、全国的に視覚障害に関する専門性は低いのではないか。特別支援学校(視覚障害)からの情報発信が重要である。

【委員】
 高校に在籍する弱視生徒の数が、約400名程度と推定されるとの記述があるが、この中には、例えば、視覚狭窄で中心の視力がしっかりとしている生徒は含まれていないと思う。そのような生徒は、授業や行事などで様々な困難があることが予想される。そのため、高校の実態把握をしっかりと行うことが重要である。

【委員】
 特別支援学校(視覚障害)のセンター的機能として、1つの項を設けて具体的に記述してはどうか。また、実態把握についても、今後の普及啓発の中で、何らかの形で盛り込んではどうか。

(3)事務局より今後の日程について説明があり、閉会となった。

(以上)

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)