高校における弱視生徒への教育方法・教材のあり方ワーキンググループ(第4回) 議事要旨

1.日時

平成20年10月3日(金曜日) 16時~18時

2.場所

文部科学省5階 5F5会議室

3.議題

  1. 拡大教科書の普及推進について
  2. その他

4.出席者

委員

香川主査、大内委員、齋木委員、土屋委員、永田委員、橋本委員、松浦委員、村上委員、守屋委員、安元委員、宇野委員、大旗委員、齋藤委員、千田委員、渡辺(能)委員

文部科学省

伯井教科書課長、永山特別支援教育課長、水野特別支援教育課専門官、池尻特別支援教育調査官、三輪教科書課課長補佐

5.議事要旨

(1)事務局から資料についての説明の後、議題についての自由討議が行われた。主な概要は以下のとおり。

  • 弱視の生徒がルーペや拡大読書器等を使って社会適応していくことは大事であるが、それらの指導は自立活動の中で行われており、国語や数学などの教科学習とは分けて考えるべきである。
     多くの弱視生徒の中で、拡大教科書を必要とする生徒にどのように支援をしたらよいかを検討すべきである。
     また、高校では、小中学校に比べて履修する教科・科目が多いからといって、すべての教科・科目の拡大教科書を整備することが困難であるというのは、大人の立場からの考え方である。教育や教科書の保障に当たっては、子どもを中心に考えるべきであり、子どもの学力を保障するための学習手段を確保するという視点をもつことが大切である。
  • 高校の教科書は900点以上あり、高校より教科の数が少ない小中学校においても、拡大教科書の数が限られてしまっているという状況である。高校の拡大教科書については、まず、単純拡大した場合に、補償金が必要となるかどうか、次に、現在は拡大教科書が存在しない状況の中で技術的に比較的容易な単純拡大した教科書の作成であっても、大きな一歩と見なせるかどうか。
  • 高校の教科書は900点以上あり、これらに対応するためには、段階的にどう進めていくか検討する必要がある。まず、特別支援学校(視覚障害)高等部については、まとまった人数が見込まれることから、標準規格に適合させた教科書を作成し、平成21年4月から対応すべきと思われる。また、高校については、単純拡大した教科書だけですべてのニーズに対応できるとは限らないが、履修する教科・科目等も多く採択も幅広く行われることから、デジタルデータの利用とともに、第一段階として単純拡大した教科書での対応から始めていくということは考えられる。
  • 特別支援学校(視覚障害)高等部においては、生徒のニーズも様々であるので、実態を把握した上でそれに対応した拡大教科書の在り方について検討していく必要がある。
  • 高校段階の特徴として挙げられているものは、特別支援学校(視覚障害)小・中・高等部を含む弱視の児童生徒の特徴でもある。高校段階では、生徒のニーズが多様であるからといって対応が多様になるということではなく、標準規格WGで検討されている3種類のポイント数でニーズに対応できると考える。
     点字教科書を作成していることと同様に、弱視の児童生徒に対応した環境を整えるという視点をもつことが大切である。
  • 高校段階では、中途で弱視になった生徒もおり、拡大読書器を使って文字を非常に大きくしないと見えないなど、生徒の実態は一層多様化している。
  • 全盲の生徒の場合、情報源は点字か音声しか存在しないが、弱視の場合には、視覚補助具の活用によって様々な情報を得ることができる。また、特別支援学校高等部の段階は、学習内容や個々の生徒の学力のレベル、障害の状態等が非常に多岐にわたっているという特徴がある。
  • 教科指導と自立活動とは別々に考えるべきであるという意見に関して、自立活動は学校の教育活動全体で行われるものであると考える。したがって、例えば、視覚補助具をどう活用するかについては、自立活動の時間に学習し、それを各教科の中で活用していくなど、各教科と自立活動は一体としてとらえるのが適切である。
  • 視覚補助具については、できる限り早い段階から指導して、児童生徒に習熟させた方がよい。しかし、ルーペを使用すると読む速度が落ちたり、拡大読書器を使用すると目が疲れたりする子どももおり、このような拡大教科書を必要とする子どもたちにどのように支援をしたらよいかを検討する必要がある。
  • 日本の教育の発展を考えると、教科書の多様性を保障していくということは非常に重要である。その前提に立って、多様な教科書に対して拡大教科書等をどのように保障していくのかを議論すべきである。
    教科書の単純拡大については、拡大教科書をレイアウトし直すのに比べると、作業は容易であり、製造原価も比較的安く抑えることができる。しかし、DTPデータからオンデマンド印刷をする場合には、多少の製造原価がかかる。そうなると、個人的な負担は困難であることから、経済的支援が必要になる。
     また、教科書の字体の問題もある。多くの教科書では明朝体が使用されているが、15ポイント程度の明朝体がどこまで有効なのか。例えば、DTPデータをオンデマンド印刷をする際には、フォントを変更することはできるが、明朝体から丸ゴシック体に変更すると、文字の送りや行なども変わってしまうことがある。
     単純拡大しフォントを変更することと、レイアウトを変更することでは、手間や費用の面では差があるが、これらと学習上の効果の差を比較するとどちらが有効なのかは一概にいえないのではないか。
  • 特別支援学校(視覚障害)高等部では、教科書購入費については、就学奨励費で支給されるという制度があるが、高校についてはそのような制度が存在しないため、教科書を購入するための費用がかかる。また、一般的に拡大教科書は、検定教科書よりも費用がかかり、生徒にとって経済的な負担が増えることになる。高校において、障害に応じた教科書の費用が他の生徒よりもかかるということは解決すべき問題である。
  • 教科学習と視覚補助具の活用については、高校と特別支援学校(視覚障害)高等部とでは状況が異なる。高校においては、教科学習が大事であり、視覚障害の生徒が学習するに当たって、できるだけ見やすい教科書を作成することが大切である。
  • 高校の専門学科では、教科書だけでなく、問題集なども使用しており、教科書の文字だけを拡大しても対応できない。
  • 県内の高校にアンケート調査した結果、高校には様々な視覚障害や見えにくい生徒が在籍しており、教科書の部分拡大をしたり、図やグラフを拡大したり、単純拡大した教科書で対応しているなど実際の指導場面で配慮を行っているという実態がある。高校に対して、特別支援学校のセンター的機能を発揮することが求められる。
  • 高校での特別な支援は遅れている状況にある。弱視の児童生徒については、小中学校の通級や特別支援学級(弱視)で指導を受けて、いかに必要とされる力を身に付けて、高校に進学するかということになる。また、高校では、特別支援教育の専門の教員から指導や支援が行われるわけではないため、自らの力で文字処理を行うということができていないと厳しい状況がある。
     また、高校は学校間で学力差があり、教師が作成したプリントを中心に学習している学校など、教科書では学習しにくい実態もある。
  • 小中学校では、教科書の章の順に沿って授業が進められることが一般的であるが、高校では、章をまたがったり、順序を入れ替えて授業が行われることもある。
  • 特別支援学校(視覚障害)高等部の生徒で、小学部の頃から視覚補助具を活用してきている生徒でさえ、拡大教科書を希望している者がいる。
  • 現段階では、視覚障害の児童生徒にPDFをそのまま渡して活用するということは、まだ使い勝手がよいとはいえない。将来的には電子教科書が作成されることはあり得ると思うが、高校段階ではそれを求める生徒に試行的に始めるのがよいと思う。まずは、紙媒体でどのように保障するのかを検討して、電子教科書に移行していけるようにしてはどうか。また、電子教科書を作成するならば、情報が階層化されて、章や節の検索がしやすいマークアップ言語を利用するのがよいと思う。このように整理された電子教科書であれば、パソコンに移行するメリットはある。
  • PDFには様々な制約があるが、その一方で、高校の新教育課程実施に伴う教科書が使用されると思われる平成25年度から、電子教科書を実施するのは困難ではないか。そのつなぎという意味で、PDFデータが有効であれば、検討すべき課題である。拡大教科書の作成に当たって、PDFデータをボランティアに提供する際に、いかに目的外使用やデータの流用を防ぐかが大きな課題の一つである。PDFデータを学校や生徒が活用するためには、ボランティアへの提供以上に難しい課題があると思われ、その点をどうクリアするか検討する必要がある。
  • PDFはマークアップ言語と比べると、不便な面はあるが、辞書や地図などの必要な箇所を拡大する場合には、非常に有効である。
  • 各教科書会社では、マークアップ言語の共通化を図ろうとしたが、できなかったという事実がある。電子教科書を作成するためには、すべての教科書会社を網羅したマークアップ言語が必要になる。そのため、デジタルデータを管理する組織でPDFに手を加えて、階層化の構造を持たせることはどうか。また、パソコンについても、技術的な進歩が著しいことから、その時点での性能や機能を踏まえた議論が必要になる。
  • すぐに各教科書会社でマークアップ言語の共通化を図ることは困難かもしれない。今後は、多くの教科書会社がインデザインを使うことが予想される。そのインデザインで作ったものをXMLに保存すると、いわゆるワンソース・マルチユースに適合するのではないかと思われるので、今後の検討課題である。
     また、児童生徒が利用する際に最も便利なのが、テキストファイルだと思う。教科書の文字の部分だけでもテキストファイルが入手できれば、生徒がパソコン上でできることが多いのではないか。
  • 授業では教科書が使われているため、教科書と同じように見られるものが現状では一番適切だと思う。まずは、PDFを利用していくのがよいのではないか。
  • 高校の教科書は900点以上あるが、このすべてに拡大教科書やデジタルデータが必要になるとは考えられない。したがって、どの教科書にどの程度の需要が出てくるのかをどの段階で知らされるか、それに対して拡大教科書が必要になるのか、単純拡大した教科書が必要になるのかなど、製作工程や時間的な問題も含めて、実務的に議論していただけるとありがたい。
  • 高校では、総合選択制等で様々な教科・科目があり、教科書の数よりも、はるかに多くの教材が活用されているという実態がある。
  • 高校2年生、3年生であれば、前年度の8月から9月頃にニーズを把握して、行政を通してそれを出版社に伝えるという仕組みを作ることは可能だと思う。しかし、高校1年生については、受験が2月から3月にかけて行われ、その数ヶ月後に使用する教科書の対応を迫られることになる。そのため、高校1年生の段階では無駄になる可能性もあるが、例えば、あらかじめすべての教科・科目について拡大教科書を準備しておく。または、教科書会社がクオークやインデザインのデータを加工できる機関に拡大教科書の作成を委ねるという選択肢が考えられる。いずれにしても、高校1年時の教科書採択については、非常に悩ましい問題である。
  • 高校1年生の全点について、準備をしておくという話については、教科書会社の立場から言えば、1点についてもかなりの費用がかかることがあり、それが何点になるかということを考えていただきたい。また、お金だけではなくて、手間の問題がある。教科書会社にも、実際に作る人がいないのが現状である。
  • 弱視生徒の教育をどう保障するかが求められており、手間がかかるのであれば、国としてどのように体制を構築して、子どものを支援していくかを検討する必要がある。
     また、教科書の分冊をまたがって使用することについては、一概に使いにくいというわけではなく、その生徒が学習しやすいと判断してニーズがある限りは、分冊だから使いにくいというのは一面的な見方ではないか。

(2)事務局より今後の日程について説明があり、閉会となった。

(以上)

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