高校における弱視生徒への教育方法・教材のあり方ワーキンググループ(第2回) 議事要旨

1.日時

平成20年6月23日(月曜日)14時~16時45分

2.場所

オカモトヤビル 4階会議室

3.議題

  1. 拡大教科書の普及推進について
  2. その他

4.出席者

委員

香川主査、井上委員、大賀委員、太田委員、齋木委員、土屋委員、永田委員、橋本委員、松浦委員、村上委員、守屋委員、安元委員、宇野委員、大旗委員、渡辺(能)委員

文部科学省

伯井教科書課長、永山特別支援教育課長、水野特別支援教育課専門官、池尻特別支援教育調査官、矢崎教科書課課長補佐、松木教科書課課長補佐

5.議事要旨

  • (1)事務局から資料についての説明の後、4名の委員から高校及び特別支援学校(視覚障害)に在学する弱視生徒への配慮事項等について説明があった。主な概要は以下のとおり。
    • ア A高等学校
      •  2学年に1名の弱視生徒が在籍している。
      •  地図、数学のグラフ・表など文字や線が重なったものの認識が困難である。
      •  拡大教科書については、ボランティアの方により、今年度は現時点で2~3教科作成したところである。拡大教科書にかかる費用は、一定額までは公費で措置している。
      •  拡大教科書が作成されていない教科については、ルーペ・単眼鏡・拡大読書器を使用している。
      •  教科指導上、カラー拡大読書器やデジタルビデオカメラなどの補助具を使用している。使用するプリントは130パーセントに拡大したものを準備している。パソコンは使用時にフォントを変更したり、白黒を反転したりしている。試験時には、別室で受験し、時間を1.3倍に延長している。そのほか、板書時には白、黄色のチョークを使用すること、座席を窓際の前列にすること、UVカットのカーテンを使用するなどの配慮を行っている。
      •  拡大教科書の大きさについては、単に大きければ良いというわけでなく、文字を読むに当たって負担の少ないものが望ましい。
      •  拡大教科書中の図表やカラー資料についての配慮についても検討の余地がある。
      •  生徒本人は、図、グラフ、ふりがなが見やすい拡大教科書を希望している。また、適度に行間を開けたものや原本とページ数が同じものを希望している。
      •  中学校時には、拡大教科書のほか、単眼鏡・ルーペも使用していた。また、特注した大型の机も使用していた。
    • イ B高等学校
      •  1学年に1名の弱視生徒が在籍している。
      •  まぶしさを感じる。地図・図・グラフなどの読み取りに困難が見られるが、黒地に白字で書かれた文章は比較的読みやすい傾向にある。
      •  世界史、英語、化学の3教科について、それぞれ別のボランティアが拡大教科書を作成している。
      •  板書は大きな文字で行い、白や黄色のチョークを使用している。使用するプリントは、文字の大きさ・行間・字間などを考慮し、適宜拡大コピーをしている。定期試験では、見やすい大きさに拡大コピーしている。時間の延長は行っていない。
      •  拡大教科書は分冊になっていることがデメリットであり、分冊が少なくなると、1冊が厚いものになり、持ち運びが困難になる。
      •  高校の場合には、入学する直前の4月に使用する教科書が決まるため、授業開始前に拡大教科書を納入することが困難であり、ボランティアが対応しきれない現状にある。
      •  生徒本人は、5教科の拡大教科書のほか、漢字、図、表、地図などの拡大コピーを希望している。さらに、資料集は拡大したものを希望している。
      •  小学校時には、弱視学級に週1回通い、単眼鏡・ルーペ・パソコンの使用法についての訓練を受けた。中学校時には、5教科で拡大教科書を使用したほか、他の教科はルーペを使用していた。
    • ウ C高等学校
      •  2学年に1名の弱視生徒が在籍している。
      •  拡大教科書は使用していないが、国語の教科書など縦書きのものが読みにくい。
      •  ルーペや単眼鏡は家庭学習時に必要に応じて使用している。
      •  生徒の希望を踏まえ、座席を前列にしている。また、板書は大きな文字を書くほか、黒板の端には文字を書かないようにしている。その際には、赤、青、蛍光のチョークは使用しない。その他の特別な配慮は行っておらず、日常生活は他の生徒と変わらない。
      •  試験時には、問題用紙をB4判とA3判の2種類を用意し、生徒自身が使用しやすい方を選択している。
      •  生徒本人は、通常の教科書と同じ大きさの拡大教科書があるとよいと考えている。また、図や挿絵は大きくなくてもよいが、使用されている文字は大きい方がよいと考えている。
      •  中学校1年時に、拡大教科書を使用したことがある。
    • エ D特別支援学校(視覚障害)
      •  特別支援学校高等部(本科)在籍生徒25名のうち、12名が弱視の生徒である。そのうち8名が高校と同じ科目を学習しており、1名が拡大教科書を使用している。
      •  国語、英語、政治経済の3教科について、本人又は保護者がA3判に拡大コピーし、二つ折りにした教科書を使用している。A3を二つ折りにすれば持ち運びしやすい、また、1ページに収まる情報量を非常に大事にしている。
      •  拡大教科書を使用している生徒は、対象を見る際には顔を近づけたり、ルーペを使用したりしている。
      •  板書は大きな文字で行い、白や黄色のチョークを使用している。試験時には、問題用紙を拡大している。
      •  本校の拡大教科書を使用している生徒と使用していない生徒の状況を鑑みると、視力0.06~0.02程度の範囲が拡大教科書を使用するのが適切ではないかと考えられ、拡大教科書の恩恵を受けるのは、視覚障害生徒のごく一部と思われる。
      •  拡大教科書を使用すると、使用しない場合に比べて読書時間を短縮することができ、目の負担を軽減することができるため、学習が進む。
      •  拡大教科書は、かさばりやすく、持ち運びが不便であり、視覚補助具の活用ができる高校段階では、拡大教科書の必要性と煩雑さを考えると、煩雑さに見合うほどの必要性は感じてはいないと思われる。
  • (2)説明についての意見交換は以下のとおり。
    •  原本に合わせたページ数にしてほしいという生徒からの希望があるようだが、拡大すると原本とページ数を合わせるのは困難である。そのため、どのページが原本と対応しているかが分かるようにページの振り方を工夫しているのが現状である。
    •  以前は、当該生徒とボランティアが話し合いながら、拡大教科書を作成していた時期があったが、現在では学校を経由して拡大教科書を提供するため、生徒の希望が作成者に伝わりにくい現状にある。
    •  2月頃に学校で使用する教科書が分かるまで、拡大教科書の作成に取りかかれないのは、高校だけでなく、小学校、中学校も同じである。
    •  障害について、周りから理解されず、苦しい立場に追い込まれる場合がある。様々な障害のある子どもについて、他人と違って当たり前であるという心理的抵抗を払拭することが別の面での特別支援教育の課題である。
    •  弱視者は、目を近づけて見た時に、どのくらい小さな指標が見えるかということが、最も大切な情報源になる。30センチ離して見たのが近距離視力表であるが、それをどこまで目を近づけてよいか、どこまで小さいものが見えるのか。これが弱視の実用的な見る力であり、この力がどのくらいかということが大切な情報と思われる。
    •  拡大教科書の恩恵にあずかるのは視覚障害の生徒のごく一部と考えられるとの話があったが、特別支援学校(視覚障害)高等部の生徒と高等学校の生徒では条件が異なる。例えば、高校の授業はスピードが速く、それに対応するためには、拡大したものがあると便利と思われる。こうした学習環境も含めて考えていく必要がある。
    •  特別支援学校(視覚障害)高等部の生徒に聞いたところでは、ルーペでは読む速度が落ちる、拡大読書器を使用すると目が疲れてしまうなど、様々な補助具の問題点を訴える者も多く、拡大教科書を希望する生徒も少なからずいる。
       また、全国盲学校普通教育連絡協議会で、過去に特別支援学校(視覚障害)高等部の実態調査等を行った。その中では、3人に2人の割合で拡大教科書がほしいという声が上がっている。特別支援学校(視覚障害)においても文字の大きな教材を提供するという手段は有効な場面は多々あると考える。
  • (3)議題に対する自由討議が行われた。主な意見は以下のとおり。

    【委員】

     小中学校は、基本的な文字や知識を習得するため、文字などをはっきり見て概念の枠組みやイメージを培う段階である。高等学校は、小中学校で培った基本的な見る力や概念、イメージなどを踏まえ、いろいろな方法を使いながら自分で工夫して見ていく段階である。

    【委員】

     卒業後、社会に出ると自分で工夫していくこととなり、そのために必要な教育を学校段階でも考えることが必要である。

    【委員】

     拡大教科書作成の過程で、文章と図が同じページに収まるように編集を行っているが、そのためには、内容を理解することが必要になる。高校レベルになると内容が高度になるため、それを理解して編集作業を行うことが困難な場合もある。また、技術的な面では、小・中学校レベルであれば、記号、文字の種類などパソコンにある既存のフォントで対応できるが、高校レベルになると、古文、漢文、数式、化学記号など既存のフォントでは対応しきれないものが出てくる。

    【委員】

     本県の公立高校には、弱視生徒が3名在学している。
     拡大教科書は3名とも使用していないが、1名は部分拡大した教科書を使用している。プリントは、3名とも1.2倍に拡大したり、B4判をA3判に拡大したりしている。
     また、授業中に弱視レンズを使用しているのは3名のうち1名であり、読書時や黒板や算数のグラフなどを見る時に使用している。自宅では拡大読書器を使用している。
     座席については、前列に配置するなど3名とも配慮している。
     教科書のデジタルデータについては、3名ともデジタルデータの存在を知らず、見たこともなかった。
     また、拡大教科書があれば使用するかという問いに対しては、2名は必要と回答し、すべての教科、特に国語の漢字や数学の2乗、3乗を読む際に必要とのことであった。また、1名は必要ないと回答した。その理由としては、通常、ルーペを使用していて、ルーペで小さい文字を読んだ方が早く読めるため、必要なものだけを拡大するほうがよいとのことであった。
     ノートパソコンは3名とも授業中に使用していないが、2名は使用したいとの希望があった。定期試験は3名とも全教科について問題用紙を拡大して実施している。試験時間は1名が時間を延長して別室受験をしている。
     教材以外では、黒板の字を大きくしたり、家庭科の時間の裁縫など実技の際の支援、パソコン画面の拡大などの配慮をしている。
     高校用の拡大教科書については、文字はすべて大きくして、写真はカラーにしてほしいとのことであった。
     このほか、自分で文字の大きさを調節できる機器、さらに、そのような機器を置く机や教材・教具を置くものもあればよいとのことであった。
     高校生は、自分で拡大したり、教材づくりをするノウハウが備わっており、文字の大きさを自由に拡大できるものを希望するなど、このような点が小中学校と異なると思われる。

    【委員】

     データの提供はできるだけ使用者の希望に添える形になればよいと考える。ただし、作業上の問題やデータの提供の困難さなど様々な問題があるので、それらを解決できればよい。そのためには、教科書を作成する段階から、データを提供する時点のことを考慮する必要がある。

    【委員】

     高校や大学は、学生が自分の将来に向けて自らの力で学ぼうとする場であり、そこでの教育は一方的に与えるだけでなく、選択させることが理想である。

    【委員】

     本人が工夫できるように教育することが大事だと考える。そのためには、高校段階ではデジタルデータを提供し、画面で見ることができるようにするのが理想的であると考える。

    【委員】

     拡大教科書を使用することと、ルーペ・拡大読書器などを使用して自助努力をすることは、二者択一ではなく、子どもたちが自分の希望する方法を選択できるよう環境を整備することが大切である。
     また、高校では、例えば、物理の記号や漢文、数学、化学などの添え字などが読めないと学習に支障が出てくるので、この点についての配慮も必要ではないか。
     さらに、以前、中学生を対象に拡大教科書について調査をした際、3割~4割程度、黒白反転したものにもニーズがあった。これまで議論してきたように、中学校と高校では違いがある一方で、このように中高一貫したニーズがあるという考え方も必要である。
     デジタルデータについては、将来的には電子教科書が大いに望まれるところであるが、例えば、PDFをそのまま提供されても、PDFは拡大すると文字は大きくなるが、ページ内のどこを見ているのか把握することが困難であり、このような点に配慮されたソフトウェアがないと難しい。

    【委員】

     弱視生徒への支援の第一歩として、拡大コピーをすると少しゆがんだりするので、生徒の希望に応じ、教科書会社から拡大したプリント提供をしていただくことはどうか。

    【委員】

     教科書を単純拡大することは比較的容易であるが、教科書の注や写真の説明などは、単純拡大だけでは十分に対応できないと思われる。小・中学校の拡大教科書と同様にレイアウトし直す必要が出てきた場合、高校は教科・科目の種類が多いので、対応も困難になるのではないか。
     また、高校は普通教科の教師用指導書に一定のデジタルデータが提供されているため、既存のデジタルデータを提供して拡大教科書作成に活用することが考えられる。

    【委員】

     PDFだけでは使いづらいとの意見があったが、PDFは全体を見ることも部分的に拡大することも可能であり、PDFをどのように活用するかということも視野に入れた検討が必要と思われる。

    【委員】

     PDFを拡大して読む場合、横スクロールや縦スクロールをしなければならないため、もっと使いやすい形に加工したものをデジタル教科書として提供することは、可能性があると思われる。また、教科書指導書に添付されているデジタルデータが、ボランティアの間ではあまり普及しなかったのは、テキストの内容が本文だけであり、その他の注釈、新出単語、図版など手を加える部分が多かったため、活用が少なかったと思われる。

    【委員】

     PDFもXMLも共にテキストである。PDFではフォントを一括置換したり、音声読み上げ用の教科書を作ることは可能である。また、PDFは大体のパソコンで見ることが可能であるが、一方で、特殊な拡大教科書用のXMLを作成した場合には、読めるソフトがないと誰も受け取れなくなる危険性がある。

  • (4)事務局より今後の日程について説明があり、閉会となった。

(以上)

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)