資料2 児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議 (第2回) 議事概要

1.日時

 平成20年4月25日(金曜日) 14時~16時

2.場所

 合同庁舎7号館東館3階 3F2特別会議室

3.出席者

委員

 高橋委員、新井委員、大垣委員、河野委員、菊地委員、阪中委員、笹原委員、中司委員

文部科学省

 木岡児童生徒課長、佐藤生徒指導室長、大西課長補佐

4.議事

  1. 菊地委員より資料1に基づき、「『危機予防・介入プログラム』の作成と作戦会議の実施」について発表があった。
  2. 阪中委員より資料2に基づき、「教員向け『子どもの自殺予防』プログラムの実施」について発表があった。
  3. 発表内容について質疑応答が行われた。主な内容は以下のとおり。
    <菊地委員の発表に関して>
    • 若手の先生は責任感は強いがプライドが高く傷つきやすいので、自殺というものをなかなか受け入れられない。若手の先生を対象に何か話をしているか。
       → 若手の先生だけを対象として何かやっているわけではないが、本校では作戦会議が定着していて、出ないわけにはいかないという雰囲気になっている。そういった活動を通じ、みんなでかかわるということを重ねて経験してもらっている。チームでかかわる経験の積み重ねが重要。
    • 相談担当の教諭が常駐しているということであるが、単位制の学校であり、担任の業務が通常と違うというような制度的な違いがあるのか。
       → 平成3年に開設した学校であり、開設当時はまだスクールカウンセラーの配置もなかったので、授業を持たない相談専任の教諭を2名配置した。単位制の学校であり、朝から晩まで開いているので、生徒は来ているが担任が出勤していないという状況がある。そういったすき間を相談担当の専任教諭が埋め、担任の先生の仕事を補う役割を果たしているという意味合いが強い。
    • 相談担当の教諭が専任で常駐しているというのはなかなかないと思うが、そういう立場で高校生の相談を受けていて、その意義や効果をどのように感じているか。
       → 小さいことでもいつでも相談に行けるということを生徒がよく言っている。普段からいつでも開いていて、誰か大人がいるということは意味のあることだと思う。家庭の問題が背景にあることもあるが、多くは学校の問題であり、学校教育の一環として相談にのり、生徒たちも、授業を持たずにいつでも相談にのってくれる人たちとして認識しているということに効果があると考えている。臨床心理的に1時間の枠の中で毎週1回というように、特別な場所で行われるわけではなく、ちょっとしたことから相談に来て、常連になると家庭の問題が出てきたりというようなことはよくある。
    • 相談担当の教諭がガイダンス機能を果たしていることによって、生徒との密着度や生徒が来室する動機づけが進んでいるのではないか。
       → 中卒の生徒や他の学校を中退したことにより単位をほとんど持たずに入学する生徒のクラスと、単位をたくさん持っていて卒業に3年間かからない生徒のクラスと合わせて12クラスあり、まず最初に総合学習の中で自己探索学習としてグループワークを行い、2人のカウンセラーが仲間づくりの援助・支援を行う。これがよかったといって後から訪ねてくる生徒もいる。常駐しているとマイナスということもあるかもしれないが、日頃からいるので特別な相談ではなくちょっとしたことでも聞きに行くことができ、そういった雰囲気があるため、大きな問題を抱えている場合でも、ここであれば聞いてくれるだろうというきっかけづくりにはなっていると思う。
    • 相談担当の専任が配置されていることはとても大きい。人材がいない一般の中学校においては、スクールカウンセラーも含めて組織としてどう対応していくのかということが大切。先生方は、一人一人はとても熱心に対応しているのに、組織として対応するのがうまくない。校長がどのようにチームワークをとっていくかが参考になった。
    <阪中委員からの発表に関して>
    • 発表していただいた教材を広く活用するには、教師のトレーニングが必要になったり、あるいはもう少し簡易にしないと実施できなかったりするのではないか。
       → もちろん、まず教師が自殺予防の正しい知識と理解を得ていることが前提となり、その上で実施する必要がある。生徒に対して実施する前に研修や打ち合わせを綿密にすることで、共通理解が深まる。指導案は、学級の実態や先生の経験に応じ、授業者が自分の体験を語ったり納得できるものを選択して活用できるように柔軟に作ることが望ましいと考える。
    • ごく普通の中学校で、先生向けの子どもの自殺予防のプログラムを始めようとしたとき、最初は周囲にどう受け入れられたのか。
       → 以前に教師向けのプログラムを実施したときは、「死にたい」と訴えたり、リストカットする生徒がいたため実施が可能だった。周囲の先生方からは、よかったとの振り返りが多かったように思う。生徒のための自殺予防プログラムは、数年前に自殺予防にふれる授業を行うことができ、一昨年の入学生に対しては、系統立てていのちと死の教育を実施し、2年次には、自殺予防に特化した学習を2時間実施することができた。
    • 自殺予防の研究をはじめたきっかけは、自校で自分で始めたのか、それとも市や県の研修会に参加したのか。
       → 2年間、大学院に内地留学の修論のテーマとして「教師向け自殺予防プログラムの開発」を研究し、勤務校でも協力してもらって取り組むことができた。
    <全般的な意見、感想>
    • 自殺という一番学校で起こってはいけない危機的な状況に向けて、教育相談体制をいかにしっかり確立していくかということが大切である。通常の小・中学校においては、非常勤のスクールカウンセラーが教師に対してコンサルタントとして活動できるような共同体制をいかに構築していくか、スクールカウンセラーがどのように子どもにつながっていくのか、教員がいかに相談しやすい学校の風土づくりをしていくかということが課題。
    • 予防教育については、小・中・高校と発達段階に応じて行う必要がある。例えば小学校では自殺に特化した教育というのはなじまず、道徳などの中で命の教育を行う。授業の中で先生方が発達段階に応じた予防教育をいかにプログラム的に扱っていくかが課題。
    • ストレスマネジメント教育を授業の中でどのようにプログラム化していくか、うつ病などの基礎的な精神医学やいわゆる生徒理解といった問題を教員の研修の中にどのように入れていくかということもマニュアルの作成にあたっては重要。
  4. 高橋主査から、第1回会議で出された意見のまとめが提示され、教員向けの自殺予防マニュアルづくりに向けて討議が行われた。
    <高橋主査による第1回会議での意見のまとめ>
    • 自殺予防という非常に複雑な問題に関し、現場にわかりやすいマニュアルをつくりたい。マニュアルとA4版2枚程度のまとめとしてはどうか。
    • 学校の先生は現場のいろいろな仕事でくたびれ切っている。教師のバーンアウト対策や学校での自殺予防において教師ができることとできないこと、能力と限界についても含めてほしい。
    • 家族が自殺を公表しないでほしいという場合に具体的にどう取り扱ったらいいかということも含めてほしい。
    • 非常に複雑な事例を扱っていかなければならない場合は、医療の分野と同様に学校にもスーパーバイザーを配置するべきであるということをマニュアルに入れてはどうか。
    • 校内でのネットワーキングや地域でのネットワーキングという考え方を含めないと自殺予防にはつながらない。
    • 自殺そのものではなく、かなり頻度の多いリストカッティングや自殺未遂、インターネットの問題などへの対応というものもマニュアルに含めてほしい。
    • 自殺予防に特化すべきなのか、それとも命を大切にする教育まで含めるか。発達段階に応じた自殺予防教育をどの辺りまで細かくマニュアルに含めていくか。
    • 自殺というのは最終的な悲劇であり、そこに至るまでにはいろいろな問題があって、その問題というのはごく日常的な問題である。それを取り扱うことが自殺予防につながる。
    • 自殺を予防するのは当然であるが、自殺が起きてしまった際のポストベンションも含めなくてはいけない。
    • マニュアルを作って終わりというのではなく、実際にこれを活用して研修等を行う必要がある。
    • どういう子どもがハイリスクなのか、具体的なハイリスクの子どものポストベンションにどう対応するかをマニュアルに含める必要がある。
    • 学校だけではうまくいかないケースが多いので、家庭や医療と連携しながら子どもを守っていくという発想をきちんとマニュアルに含めていく必要がある。
    <主な意見>
    • 経験の多い先生と若い先生とでは危機感が違い、対応に差がある。年配の先生は、この子は自殺するかもしれないといってチームをつくって対応することが意外と簡単にできるが、若い先生はカウンセリングの研修を受けてもなかなか現場に生かしにくいところがあり、自分一人で抱え込んでしまい、子どもがそういった状況にあることを周りの教員が知りにくいという実態がある。作戦会議が立てられればよいが、教員も忙しい状況にあり、子どものそういった状況を表に相談する機会がつくりにくいということに配慮する必要がある。特に自殺に関しては、一人で抱え込まずに周りに相談するということが第一である。
    • 中学校や高校では担任だけでなくいろいろな教科の教員がかかわっているので、子どものサインをキャッチしやすいのではないか。キャッチした人から相談があれば、作戦会議を開き、関係者みんなで対応していく。関係者みんながそういうものだと認識している。
    • 子どもの危機を誰かが見つけたら、一人で抱え込まず、自殺予防は学校全体の問題であり、家庭との連携、場合によっては医療との連携も必要になるということを強調すべきである。
    • 現職の教員の中で、問題行動とは何かという議論をすると、自殺がでてくるのはかなり後ろになる。中学校や高校で困っているのは、自傷行為であり、自殺関連行為ということで自傷行為への対応というのを入れておくと教員の関心も高まるのではないか。
    • 実際に自殺が起こるのは少数例外であり、自分の学校で自殺が起こると教員は相当のダメージを受ける。自殺は予防できるということだけを前面に出すと、自殺が起こってしまったときにその周りの人は自責的になるので、自殺は全力で予防しなくてはいけないが、どんなに綿密に対応していても自殺は起こり得るということをマニュアルに含めるべき。そのときにどう対応すべきかということで、ポストベンションは入れるべきであり、また周りの子どもや教員への影響は大きいので、その人たちがどのようなケアを受けられるのかということもマニュアルに入れておくべき。
    • 子どもの自殺は都道府県で年に数件であり、そのような頻度のものを研修でやるというのはかなり難しいので、都道府県や指定都市の教育委員会レベルで対応していかないと、学校単位で取り組めるものではない。
    • 子どもが亡くなると周りの子どもや先生たちには非常に強い心理的な反応が起きる。ある程度の強度を超えたら、きちんと医療につなぐことが大切である。
    • 自殺に特化したポストベンションか、危機対応の一つとして自殺を取り上げるかによって書き方が変わってくる。自殺に特化したものというのは研修の機会を設けるのが難しいので、自殺以外の危機対応にもそのまま使える構造にした方が学校のニーズには合うのではないか。
    • 実際に自殺に特化した研修を実施するのは難しい面があるが、教師向け自殺予防プルグラム実施後アンケートでは、8、9割の教員はこういった研修が必要だと答えている。各学校でも生徒指導・教育相談・人権教育に関する校内研修の一つとして実施することは可能だと考えている。
    • 専門家が入った集中的・組織的なポストベンションは、頻度が少なく、実施が難しいのは当然であるが、こういう場合にどのような対応が必要かということ自体を伝えておくことは必要なことである。
    • マニュアルについても研修についても、危機対応という形で進めるか、自殺予防に特化して進めるかによって組み方が変わってくる。その中で誰が研修の担い手になるのか、精神科医なのか、教員なのか、指導主事なのか、もう少し時間をかけて詰める必要ある。
  5. 事務局から、今後のスケジュールについて、6、7月でマニュアルの案をまとめ、8月下旬くらいに数校の一般教員から意見聴取、9月に再調整、10月末にまとめを目標とし、具体的なワーキンググループのメンバーについては今後検討することが提案され、同意を得た。
  6. 次回は、5月19日(月曜日)15時30分~17時30分に開催する連絡が事務局からあった。

以上

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課