全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議(第7回) 議事要旨

1.日時

平成20年11月26日(水曜日) 10時~12時

2.場所

霞ヶ関ビル 科学技術政策研究所会議室

3.出席者

委員

梶田座長、神山委員、清水(静)委員、清水(美)委員、田中委員、土屋委員、福田委員、牧原委員、八島委員

文部科学省

徳久審議官(初等中等教育担当)、藤野教育水準向上PT総括リーダー、小松学力調査室長、原学力調査室室長補佐、田中主任視学官、宮崎視学官、吉川視学官、中岡教育課程研究センター長、梅澤研究開発部長、森下学力調査課長 他

4.議事要旨

(1) 全国市町村教育委員会連合会の相上興信事務局長から全国学力・学習状況調査の実施方法等についての意見を聴取した。主な意見は以下の通り。

    ○全国学力・学習状況調査の市町村別、学校別の調査結果に関しては、それぞ市町村教育委員会、学校の判断に委ねられている。全国の市町村教育委員会としては、文部科学省の方針に合意した上で参加しており、自らの判断による公表以外はしないという前提で、悉皆調査が実施されているものである。もし、調査結果を国や都道府県が一方的に公表することとなると、今後は参加しないという自治体や学校が出ることも予想され、そうなると、実施の意味が薄れることになる。
    ○離島・山間・へき地等における小中学校においては、正規の教員の配置が少なく、臨時的任用教員による教科指導、中学校では免許外教科指導も行われている。教育を受ける児童生徒が、同じ条件で学習できていない現状がある。これを改善することが、喫緊の問題ではなかろうか。全国一律に教育環境が平等でないことを踏まえると、調査結果を一律に公表することは問題がある。
    ○調査結果の一部でしかない数値の公表の弊害が懸念される中、首長が予算措置の権限をちらつかせながら公表を迫る行為は地方自治権の否定につながりかねない。正答率が低いところの予算をカットするのではなく、分析結果から課題が浮かび上がった場合は、むしろ予算措置を講じながら人的配置などの手当をする必要がある。
    ○地域住民の教育への関心が高まり、情報公開請求が高まってきている傾向があり、公表論がある一方、公表されたくない側面(守秘義務)も含めて考えていかなければならない。住民の知る権利との関連をも考えていく必要がある。
    ○小6・中3の国語、算数・数学と対象学年・教科が限られており、この調査によって測定できるのは、学力の特定の一部に過ぎない。この一部の点数により人間にとって大切なものが評価されるものではない。
    ○地域住民の教育への関心が高まり、情報公開請求が高まってきている傾向があり、公表論がある一方、公表されたくない側面(守秘義務)も含めて考えていかなければならない。住民の知る権利との関連をも考えていく必要がある。
    ○市町村は調査の基本的な参加主体であり、市町村教育委員会が保護者や地域住民に対して説明責任を果たすことは大切である。また、各市町村教育委員会において、市町村の情報公開条例との関連をしっかりと押さえていかなければならない。
    ○調査結果を公表するときは、その趣旨、意義や見方などを国民、市民に説明すると同時に、それぞれの関係する団体・関係者に安心感を与えるものでなければ、その効果は高まらない。序列化や過度な競争につながらないように、配慮することが当然必要であり、序列化を招く可能性のある個々の学校名は明らかにしないことが望ましい。
    ○国が学力を把握するだけの調査ではなくて、調査結果を基に児童生徒の学習意欲の向上・改善につなげていくためには、悉皆調査は非常に意義を持つ。それと同時に、学校全体で指導方法の改善に生かすということを十分考えていかなければならないし、児童生徒に確かな学力を身につけさせるための指導方法の工夫・改善に、本調査が大いに参考になる。本調査は、各学校の校内研修で取り組んでいる授業改善のさらなる向上というものに結びつけられる。

 

(2) 秋田県教育委員会の根岸均教育長から全国学力・学習状況調査の実施方法等についての意見を聴取した。主な意見は以下の通り。

    ○昭和40年前後に実施された最初の学力調査に関する資料に、本県の児童生徒の学力は予想以上に低いとか、農村部が悪いとかと記載されている。特に中3の数学では、地域類型別学校平均点で、最高が商業市街の49.6点に対して、最低が山村の18.0。つまり、3倍近い開きがあった。半世紀近く過ぎ、よくぞここまで教育の機会均等が実現されたという思いをしている。とりわけ、この度の全国学力・学習状況調査において、商業地区、山村においては、本県では逆転現象さえ出ている。これまでの旧文部省、文部科学省の取組に改めて敬意を表したい。
    ○秋田県教育委員会がなぜ公表にこだわるのかという根拠は2点ある。まず1点目として、一般的に国民の知る権利に基づくもの。2点目は、公表することでより充実した教育実践になり得るということである。私以外の5人の教育委員は全員民間人であるが、学力の保障という観点からは、公表すべきであるという姿勢はほぼ一致している。
    ○市町村等にはいろいろな事情があることは理解しているので、県教育委員会のスタンスとしては、実施要領に基づいて市町村教育委員会等の自主的な公表を促すこととしている。強制的にデータを出しても実際のところマイナスの方が大きい。人間、最後は感情なので恨みつらみが大きくなる。公表自体が目的ではなく、あくまで一つの考え方、手法の一つであって、最終的には学力向上につながることが重要である。公表自体が妙にクローズアップされて、イエスかノーか、白か黒かという議論になっているのは誠に残念。
    ○県内の現状は、地域により若干の差はあるけれども、概して各地域、各学校とも数値アレルギー的な動きがあり、せっかくのデータが死蔵状態になっている感がある。全国学力・学習状況調査の4科目を400点満点に換算すると、本県においても市町村間、あるいはすぐ近い学校間で60点ぐらいの開きがあるところがある。これは1科目平均15点の差であり、このデータを入手した以上、県教育委員会として、この点について「はい、そうですか」と言うわけにはいかない。
    ○悉皆調査をして、課題を持った地域や学校が明確になったということであるが、本県の25市町村教育委員会において、公表する動きは見られない。市町村教育委員会は、十分対応しています、対応できますと言うが、発信しなければ受信もできない。みんなが関心を持って、みんなで育てる、県民総参加型の教育を目指すためには、公表する姿勢が不可欠である。そして、地域を信頼し、公表することでさらに効果的に対応でき、その姿勢がほかの教育活動にもいい影響を与えるのではないか。
    ○全国学力・学習状況調査に関する要望は3つある。1点目は、実施要領で「都道府県教育委員会は結果を公表しない」という箇所があるが、これを少し緩める表現、考え方をしてほしい。公表する場合に、「実施要領に反する」という感じの批判を受ける。少なくとも禁止の表現は止めて、例えば「原則として」としたりするなど、運用面で幅を持たせてほしい。2点目は、実施要領で「各市町村教委はそれぞれの判断で公表が可能」という箇所があるが、これをもっと強調してほしい。現に、少なくともこのように公表している市がありますよということぐらいは、情報提供してほしい。3点目として、資料提供の範囲について、都道府県教育委員会であれ、市町村教育委員会であれ、教育委員には事務局が持つのと同水準のデータを提供することを義務づけてほしい。判断材料であるデータを加工したりして部分的に示すようにするのはレイマンコントロールの理念に反する。住民の目線でチェックを行うことが教育委員会の存在意義であり、そのメンバーに対してきちんとしたデータを提供しないのは、教育委員会自体の否定にもつながる。各首長にデータを提供するかどうかは別問題であるが、少なくとも教育委員は、事務局と同水準のデータが提供されるべきである。
    ○調査から得られたデータは、当初とその後はどうなったのかという「変容」に焦点を絞って、活用すべきである。そのためにはデータを公表する姿勢が、絶対に切っても切り離せないものである。自分たちだけで情報を独占するのは、法理からいっても、教育学的にいってもおかしい。ただし、「テスト結果に重点を置くと、授業自体がそれに傾きがちで、子どもたちが勉強嫌いになる可能性がある」という、ある大学教授の指摘については重く受けとめる。確かにそっちのほうに走ってしまえば元も子もない。この点は警戒しなければならない。

 

(3) (1)、(2)に関し、質疑応答や意見交換が行われた。主な意見は以下の通り。

    ○秋田県教育長が話されたとおり、公表に関して市町村教育委員会、都道府県教育委員会、中には知事が入って、どうするかということが話題になっている。全国学力・学習状況調査の結果を公表するとかしないとか、そんなレベルで論議されていることは大変不幸である。2回目が終わって、今後の調査を考えていくときに、公表を含めどのような方針で臨むのかについて議論しておく必要がある。
    ○都道府県教育委員会と市町村教育委員会との間が、必ずしもスムーズな連携になっていない。文部科学省においても、都道府県教育委員会への提供資料の充実を図り、都道府県教育委員会、市町村教育委員会等がそれぞれ調査結果を活用できる方向を検討する必要がある。
    ○秋田県では、今年度も検証改善委員会を設置し大学教授を中心に冷静な目で分析をして、活用に当たっている。各市町村教育委員会においても、工夫をして、システム化に向けて努力している。
    ○各学校で授業改善とか、教育指導の改善ということから見たときに、さらにどういう情報があると都合がよいのかというようなことが話題になっているのか。
    ○全国学力・学習状況調査は、自らの学校の問題であると同時に、どのように行政からバックアップされ、それにどう応えるかというのが大事な視点である。
    ○秋田県では「教育専門監」を、十数名任命し、所属する拠点校を中心に近隣の小中学校を回り、様々な教科指導を行っている。もちろん少人数学習も行っている。指導主事は教科の指導以外の仕事が多く、教科指導に集中できない状況もあり、平成17年から、理数の指導に特化した「算数・数学学力向上推進班」を設けた。校種を超えて、小中高の籍の者が入り、全県下を回っている。

 

(4) 全国学力・学習状況調査の実施方法等について、事務局から説明後、意見交換が行われた。主な意見は以下のとおり。

    ○学校では、結果を受けて、自校の長所、短所を数値で把握し、その実態を踏まえて、短期、中期、長期において、学校で取り組まなければならないことを校内で検討し、提供されるさまざまなデータを活用しながら、教員も授業の改善に努めている。次年度に向けて学校で中心に置かなければならない教育課程の編成、補わなければならない補習等の対応もやっている。学校はどう説明責任をとるのかであるとか、公表・非公表の問題などに注目されがちであるが、実際の学校現場においては地道に授業改善に向けてのデータとして悉皆調査を十分に生かしながらやっている。
    ○学校現場では、分析したり結果を細かく見る時間を確保することは難しいため、結果チャートが公表の一つのこれからのスタイルになるのではないか。平均より出ているか、へこんでいるかという、その程度のものはやはり必要ではないか。
    ○本県では、独自の学力調査を平成14年度から実施しており、各市町の平均値を公表している。各学校も誤答例等を分析して改善策にどう生かしているのかということを、お互いに情報交換できるように公表をしている。実態として、本県の場合は、議会だより、教育委員会議、それから学校の説明等々、何らかの形ですべての市町は平均正答率をはじめとして改善策等を公表している。それについての問題等が具体的に出ているという情報は入ってきていない。
    ○先ほど、秋田県教育長が要望という形で言われた中に関連するが、事前に市町が認めるといいますか、公表していいですよということがあれば、県教委としても施策を打つという意味だとか、応援するという意味で、それは了解のもとでやるということも認めていくべきではないか。
    ○都道府県教育委員会の立場から事前に同意を得るという側からの見方と、市町村教育委員会の側から事前に同意を得られるという意味の、そこの微妙な温度差のようなものがどうしても出てくるのかなということを思った。
     先ほど、市町村教育委員会連合会のご説明にも、離島や小さな規模の教育委員会の問題等々のことに触れられておりましたけれども、非公開が主たるというようなニュアンスではない方向に行ったにしても、そこのところの仕組みをどういうふうに押さえておくかというのは、やはり大きなポイントになってくる。秋田県以外の都道府県でどういうことが起こるかということを、少し予想してみると、いろいろな問題がそこに出てきそうな感じもするので、そこをどう詰めていくかということも考えてみる必要がある。
    ○全国学力・学習状況調査は、子どもたちにしっかりと力をつけさせるというのが大前提であるので、仕組みや対応が担保できるのであれば、正直に出していくのが方向としてはよい。この調査の場合には、平均正答率はあくまで一つの指標であって、課題がたくさんあったとしても、幾つかに絞り込んで、文部科学省が対応策をもっと鮮明に出し、しっかりと指導するようにしていけば、数字のひとり歩きというのは抑えられるのではないか。
    ○文部科学省からの提供資料については、各都道府県教育委員会と各市町村の教育委員会との間で、意思疎通を欠く原因にもなりかねないので、ある程度、必要な情報を都道府県教育委員会側に提供できるような方策というのを考えていくべきであり、各都道府県の教育委員会、各市町村教育委員会が共有の情報のもとで議論できるような配慮を望む。
    ○知事による公表の動きがあった後、教育委員会とか学校とかの意見を聞くと、今後不参加を検討せざるを得なくなるような市区町村が出てくるのではないかと心配する声が強く聞かれた。不参加の可能性が出てくるところは、地域的に、経済的・社会的な課題が大きな地域であり、原因を学校・教師だけに求められることの不安がある。よって、一律に何か公表するとか、数値で公表してほしいとかということを、実施要領に明記することは難しい。しかし、自主的・主体的な形で公表する場合については、現在でも学校が自主的にやる場合はできるとされているわけであるから、そのようなことは都道府県や市区町村ができるような緩和はしてもいい。
    ○一番問題なのは、自主的に公表すべきという判断した場合に、児童生徒の質問紙調査で特に相関が高い教科学力のところや、学校質問紙は公開しないところが多いということである。校長先生が責任を持って学校を見たときの授業改善の進行度合とか、授業中での規律や集中力の問題、あるいは学校評価の実施状況とかを、もう少し地域に開き、学校改善に資するような手立てを講ずる必要性がある。やや幅の広い視点から、データを地域の方や保護者の方に開示していくことを、もう少し推進する立場にしてもいい。
    ○PDCAを今後、学校で回していかなければいけない。この学力調査の結果をもとにして、どんな改善をしたか、どれぐらい改善されていったか、アクションプランの公開やその実施状況、改善状況の実態をもっと公表しなければならない。ある民間の調査では、学校がそのような授業改善の努力をし、データや情報を公開することに対して、保護者の学校への満足度が高まるという結果も出ている。改善状況をもっと公開するように促進するべき。
    ○公表、公開に当たって気をつけなければならないのが、小規模教育委員会や小規模学校が非常に多いということである。教育委員会や学校の規模を大きい規模のものとして想定しながら議論をすると、方向性を誤る危険性がある。
    ○調査対象が小学校6年生、中学校3年生の4月だと、提供された結果を学校で分析し、活用することを考えると、児童生徒は卒業間近になっており、それが生かせないということもあるのではないか。実施のスケジュールについて再検討していただきたい。
    ○全国学力・学習状況調査は、メインの効果が2つある。一つは全国の子どもたちの学力向上に資するものであるということ。つまり、子どもたちの現状をチェックしてアクションへつなげるために悉皆調査という形で実施しているということ。もう一つは、課題がある学校や地域に対し行政的にどういう支援をしていくかということを考えることである。これを生かす形で来年度の調査に何とかうまくつなげていきたい。

 

(5) 前回の会議において、委員からの教科に関する調査の結果について、例えば他の教科の調査結果とのクロス分析などを進めて、調査結果報告書に反映することが望ましいとの意見に対する国立教育政策研究所からの回答が中岡センター長より以下のとおりあった。

     4月の調査終了時点に公表される解説資料、あるいは8月に公表する調査結果報告書は全国の教育委員会だけではなくて、個々の学校にまで配付される。国立教育政策研究所に置かれた各分析委員会の先生方には、学習指導に当たっての参考情報など、特に学校現場において役に立つと考えられる情報を掲載するべく分析を進めていただいている。
     国立教育政策研究所としてはこのような資料について、学校現場における教科の学習指導に当たってより一層活用していただきたいと考えており、そのためには、やはり現場のニーズが高いと思われる、例えば課題の見られた問題などについて、学習指導において具体的にどのように対応したらいいのかという点の記述をさらに充実する必要がある。
     来年度調査に向けて、解説資料、あるいは調査結果報告書がより充実したものになるよう、さらに一層取り組んでいく。

 

(6) 座長より、次回会議については、来年度調査の実施方法を検討するに当たり、固有の自治体名を出す可能性もあることから、非公開とすることが了承された。

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初等中等教育局学力調査室