資料3 「24時間いじめ電話相談」に当たっての留意事項
平成19年6月
全国統一番号(0570-0-78310)による24時間いじめ電話相談は、昨年10月以降相次いだ、いじめ自殺の問題を受けて、全国都道府県・指定都市教育委員会の格段の協力を得て、2月21日から本格実施(2月7日から試行実施)した。これまで夜間・休日の相談を行っていなかった各都道府県・指定都市では、自らの相談体制を充実したり、警察、福祉機関又は民間機関と連携するなどにより体制の整備を図った。
本資料は、各都道府県・指定都市の相談体制の充実の参考となるよう、いじめ等により不安を抱えている児童生徒等からの電話相談に対して、留意すべき事項として、いわゆるガイドラインとなるものを示したものである。
電話相談は、もとよりその内容等が多種多様であり、相談する際の指針を全て一律に示すことは困難である。したがって、実際の運用に当たっては、本ガイドラインに掲げた事項を参考としながら、相談者や相談内容等に応じ、柔軟かつ適切に相談に当たっていただくことが必要である。
1 電話相談の特質
電話相談は対面式の教育相談と異なり、次のような特質を有する。
- いつでも自分の好きな時に相談できる。(即時性)
- 地理的移動に伴う時間や交通費などの負担を省くことができる。(利便性)
- 相談者は匿名であることが多く、このため、安心して自分のことを語ることができる。その反面、相談者は相談員に対して、いかなる口調であたることもできる。(匿名性)
- 相談員は顔が見えない存在であり、相談者は自由に相談を中断することができる。(優位性)
2 電話相談に当たっての留意すべき点
上記1に示した電話相談の特質を踏まえて、電話相談に当たっては、以下の諸点に留意することが適当である。
1.相談員の基本姿勢
- 相談者の気持ちを受け止め、相談者が気持ちの整理や建設的な対応に一歩踏み出す気持ちになれるような姿勢で対応する。このため、電話相談に当たっては、1積極的傾聴、2受容的態度、3共感的理解に基づく姿勢で臨むよう心がける。
- かけてきた子供の声に寄り添い、安心して話しができる環境をつくる。
- 相談者は話しづらいことを話そうと努力していることを十分念頭に置き、その心情に配慮し、焦らず粘り強く相談に当たる。
- 相談者が自ら解決の糸口を見つけ出していくことができるよう、批判的になったり、せっかちになったりせず、話し出すまで待つ姿勢で相談に当たる。
- 電話をかけてきたこと自体で相当の勇気や葛藤があることに配慮し、つらい気持ちや苦しさ、怒りや悲しみの気持ちを真摯に受け止めるよう努める。
- 指示やお説教はしない。
- 一定の価値観や一般論を押し付けたりしない。
- 子供の心をほぐし、子供が自分で考え自己決定することができるように誘導することを心がける。
2.相談者の安心感の醸成
- 相談者に匿名でも良いことを明らかにする。
- 相談の状況から、生命の危機等の切迫した状態であることが予想される場合や事態の改善が図られる期待がかなり高いなどの場合を除き、相談者が匿名を希望する場合は、個人が特定されるような情報を無理に求めることにならないよう配慮する。
- 繰返しの相談に対して、相談者が自分自身を明らかにしない場合は、常に初回の相談者としての対応を心がける。なお、この際、下記4に留意することも必要である。
- 相談者が相談しやすい状態を作り出すため、テレフォンネーム(仮の名前)で相談にのることも考えられる。
3.関係機関等との連携
- 相談者の了解を得ない限り、相談により知り得た内容を口外しないことを伝える。ただし、相談者が適切な機関に伝えてほしい旨の気持ちを持っている場合、又は生命の危機等が切迫した状態であることが予想されたり、虐待など法令に基づく対応が必要な場合等緊急な対応が必要不可欠と考える場合には、教育委員会、学校、保護者、スクールカウンセラーの相談員や警察、医療又は福祉などの関係諸機関と適切な連携を図る。なお、連絡を受けた教育委員会は、必要に応じて、その他の関係機関・関係者との連携を図る。
- 関係機関と連携する場合、相談者がたらい回しの状態にならないように、必要かつ速やかな連携を図る。
- 教育委員会が中心となって、都道府県・指定都市内の多様な相談窓口との連携を図るよう努め、相談の内容や程度により、適切な他の相談窓口を紹介することができるような体制を整備することや、他の電話相談窓口との実際的なネットワークを構築するよう努める。
- 相談者の気持ちを受け止めつつ、相談員が自分では対応が難しいと感じたときには、他の相談員と相談したり、相談員を交代したり、面談による相談につなげることを勧めたりすることも検討する。
3 電話相談の際の具体的な対応の仕方
1.電話相談を受けたとき(電話がかかり、相談が流れに乗るまで)
- 相談者と相談員の関係は顔が見えない関係にある。電話が切れたら、相談は終了するという緊張感と意識を持つ。
- 「つらかったですね」「なになにで、これまでずっと悩まれていたのですね」など、相談者の悩みを共感的に聞き、信頼関係をつくることに専心する。
- 「あ、間違いました」という電話の中には、勇気をふりしぼってかけてきたり、ためらってかけている場合もあることを考慮し、「念のため、おかけになった電話番号の確認をなさいますか?」など、相談者とのコミュニケーションをとる用意があることを示す。
- 話すことをためらっているように感じられた場合、「何か相談したいことがおありですね」「お待ちしていますので、ゆっくりお話なさっていいですよ」など、さりげない言葉掛けをして待つようにする。
- 沈黙の場合、「待っていますよ」「良かったらお話下さい」など、押しつけにならないようにする。
- 最も話したいことは何かをつかむよう努力し、それを察知することができたら、そこに焦点を当てて対応するよう心がける。
2.電話相談を受けている最中
- 相談者の言葉に合わせ軽く頷きながら聞くことで相談のリズムにのれることがある。また、その際、相談者の言葉を繰り返して会話する方法も有効な場合がある。
- 話や感情の流れを妨げないように留意し、不明なことは質問する。
- 相談に対しては、原則として即答は避けた方が良い場合が多い。
- 相談内容に対しては、先入観を持たずに聞く。
- 相談者が自分の気持ちや考えを話した後、「もう少し詳しく話して頂けますか」のように、親身になって聞いている態度が伝わるような言葉掛けを行う。
3.電話相談の総括を行う(電話を終了するとき)
- 相談者に対しては、相談者の理解の範囲を考慮して、複数の情報提供や解決につながる行動へのヒントを提供する。
- 相手の気持ちや心理状態を第一に考えて援助するよう心がける。(例えば、「がんばりなさい」という言葉は、がんばれない人・ギリギリがんばっている人には酷な場合があり、「お話したことを参考にしていただいて、できることからお試しになってみて下さい」「ご自分のペースやリズムに合わせて無理のないようになさってみて下さい」「ご自分で納得できるやり方をよく検討なさってから実行に移してみてはいかがですか」等、背中をそっと押すようなニュアンスで当たることも考えられる。)
- 相談者ができる限り満足した状態で電話を切ることができるよう、また、困ったときにはいつでも力になりたいこと、電話することができるなど、温かい気持ちを伝える。(例えば、「良かったですね。私もうれしいです。お困りのことがあって電話をしたくなったら、いつでもお電話下さい。」等)
4 問題があると思われる電話への対応
- 相談内容が、非難・攻撃、誹謗中傷、作り話と思われるときは、とりあえず一旦話を聴き、気持ちを落ち着かせるよう配慮する。なお、相談者が非難しても、相談員は同調しないことが必要である。
- 明らかないたずらや、相談とはかけ離れている内容の電話を受けたとき、また、長時間にわたる不要な電話を受けたときなどは、他にも電話相談を待っている児童生徒等がいることを理由として、毅然として相談を打ち切る。
- 教育委員会が中心となって、電話相談のルールを定めるなどにより、問題があると思われる電話に適切に対応するための対策を検討することが必要である。
- 相談員のメンタルケアのためのサポーターやスーパーバイザーの役割を果たす者を定めておくことも大切である。