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植山委員

いじめ問題への対応策報告書作成の当たっての留意点・覚え書き

平成19年1月4日 植山 起佐子

1  基本的姿勢
1. 基本的な知識、例えば、“いじめ”といわれるモノの本質をどう理解するか(発生機序の心理学的・社会学的理解)と対応のヒントの共通理解ができるような報告書であること。
2. 具体的で、現場で応用が可能な事例をできるだけ多く、利用しやすいようにタイプ別に並べて集録したものであること。
3. 大人が主役になって解決するのではなく、子どもが持てる力を最大限に発揮できるよう促すものであること(子どもの当事者性の重視と成長促進モデル)

2  「対応のヒント」の掲載の仕方
 <以下の3点に分けて例を掲載>
1.  土壌つくり(予防啓発教育)−嫌がらせや意地悪、からかいなどが致命的にならない環境作りのために
1)  人権感覚を鋭敏にし、自ら生活環境に働きかけ、自らの人生の主体となる力を育てる教育
 ;誰もが安心して満足できる学校生活が送れる環境を保障するための基本。お互いの尊厳を認めあうこと。(自らの尊厳を認識することから→尊厳を認められたことのない人は他者の尊厳を認めることができない)安心して生活するための秩序を自ら策定し、その結果を踏まえて自ら修正を加え、より安心と満足の環境を作る力が獲得できるような働きかけ。
2)  多様性教育
 ;人はそれぞれの特徴を持っており、まったく同じ人は存在しない。お互いの違いを認めあい、それぞれの良さを活かしながら生活すること。
3)  自己認知・他者認知(感情の分化に関する教育、葛藤解決に関する教育)
 ;自らの中に生ずる感情や考えに気づくこと。感情をどのように理解し、自己制御するか、また、それをどのように表出するかを年齢に応じて身につけられるように支援する。自分の考えや葛藤状況に気づくこと、またそれをどのように表出したり、解決したりするかの基本的なスキル(自己主張訓練やストレス・マネージメントのスキル)を獲得させること。
4)  自己主張訓練(表現方法の教育)
 ;自己も他者も傷つけたり、不快にしたりしない(できるだけ)表出方法の獲得。
5)  問題解決技法(ピア・サポート、子ども同士での問題解決を目指して)
 ;何らかの問題が生じた際に、子ども自身が、事実を事実として正確に認識し、問題解決の糸口を見つけ、問題解決を可能にする力の獲得
 例)事実確認の仕方、関係性の整理の仕方、感情と事実関係の認識、仲裁や仲介のやり方・・・など。

なお、以上は、学級活動や道徳の中に組み込むだけでなく、日常生活や各教科の授業の中でも実際に体験できるように、教職員が基本姿勢として身につけられることが望ましい。(そのための研修や実践のために必要な物理的条件の確保が望まれる。)

2.  緊急介入;緊急事態(いじめ事件の発生)を最短時間で解決し、関係者すべての傷つきを最小限にするために。
1)  事実の訴えがあった場合(事実関係が確認できる場合、できない場合)
2)  訴えはないが可能性を感じた場合(事実関係が確認できる場合、できない場合)
 上記それぞれレベル(校内対応可能な例から犯罪認定可能な重篤な例まで)別に幾つかの実践例を示し、理解と対応の基礎知識を提供する。
  例えば、1事実関係をいかに迅速に把握するか、2把握できない場合にはどう対応するか、3被害者、加害者が特定された場合、どのように両者に対応するか、4特定できない、あるいは特定が非常に困難な場合、どのように対応するか、5校内での対応チームの結成やその対応の実際、6外部専門家チームとの連携のタイミングとその方法など。
3)  外部専門家チーム(オンブズマン的な存在あるいは緊急支援チーム的な存在)の結成と連携の試行(できれば、土壌作りから側面支援を受けられ事が望ましい)に関する実践例の掲載。

3.  再発防止対応(個別支援と全体への支援)
1)  被害者対応
1 心的外傷後ストレス反応予防のための対応
2 心的エネルギー回復のための支援
 家庭との連携など必要な資源を迅速に活用して行う実際の例をタイプ別に掲載。

2)  加害者対応
1 加害を認めた場合
2 加害を認めない場合
3 初発の場合
4 頻回の場合
5 保護者が協力的な場合
6 保護者が非協力的な場合
7 単独の場合
8 集団の場合
9 加害の程度が比較的軽度の場合
10 加害の程度が深刻な場合

3)  中間層への対応
 被害・加害両者が同じ集団内に存在し、再び、同じ集団内で生活を共にする事を前提にした振り返りと展望を持たせるための働きかけ、基本は予防啓発教育の再確認。当事者性、主体性の回復と失敗からの学びの促進。
 →具体的な実践例の掲載。

 これらは、単なる報告書としてだけ各学校に配付されても、実際対応に活かされる可能性は低いと言わざるを得ないので、地域ごとに実際状況に即した応用可能な研修会の実施をセットで行う必要性を感じている。(本当に困っている事態に対応できるよう専門家との合同研修会など各地域で工夫して行えるような条件整備が必要)

3  実施のために配慮すべき条件
1. 教職員の人員配置を生徒数に比して手厚くすること
2. スクールカウンセラーなどの援助専門職の配置をより手厚くするとともにその専門的サービスの質の均質化と維持向上を目指す施策を行う事
3. 教職員各人がそれぞれの特性に応じて自らの感性をより一層豊かにするための研修機会の保障をすること
4. 保護者にも基本事項の理解と対応への協力を求めるための懇談会の開催などが可能な条件を整える事
5. 各教育委員会レベルで、それぞれの実体に即した具体的な学校支援策を準備できるよう物理的条件を整える事


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