資料5

子どもとメディアが提唱するネットメディア総合対策とネットパトロール隊の位置付け・仕組み

2008年3月6日
NPO法人 子どもとメディア
ネットメディアリテラシー部会
常務理事 古野陽一

1.ネットメディア総合対策

■基本方針

1)子どもの最善の利益

 子ども一人ひとりの自然な発達段階に沿った心身の健全な発達の保障。子どもの権利の擁護。

2)大人のネットメディアへの認識と対応

 親、教師、地域の大人など子どもに関わる大人がネットメディアの現状を知り必要な対応を学び、実践する。

3)直接的コミュニケーション力の回復

 家庭、学校、地域において、子どもと大人、子どもと子ども、大人と大人が直接会話し、コミュニケーションを取る力を回復する。

4)ネットメディア問題への対応体制づくり

 子どもたちが関わるネットメディアから起きてくる問題を発見し、見守り、個々のケースに応じて適切な対応を取れる地域の体制づくりと、それを支える専門家のネットワークを構築する。

5)子どもへのネットメディアリテラシー教育

 子どもたちを見守り、守る体制ができた上で、子どもごとに異なるネットメディア接触の度合いに応じたリテラシー教育を行う。

 まず、ネットメディアについて大人が学び、子どもを守る体制を作り、子どもが適切な発達段階に到達してからネットメディアの世界に段階的に子どもを招待するという考え方を基本におく。
 過酷なネットメディア社会に子どもを放り込み、サバイバルさせるのは、大人が果たすべき責任・義務を子どもに転嫁していることに他ならない。
 サバイバルは、とんでもないモンスターを産み出すリスクでもある。
 特殊な何人かというようなレベルではなく、放り込まれた子どもたちの何割かがそうなる危険。
 すでに乳幼児期からゲームに代表される電子メディアが子どもたちの日常に喰い込んでおり、ネットメディア社会に過剰適応し、暴走するだけの素養が子どもたちの中に出来上がっている。
 今、子どもたちをネットメディア社会から守らなければ、ネットメディア社会でモンスター化した子どもたちから社会全体を守らなければならない日が必ず来る。
 猶予は数年しかない。

■総合対策体系

1)ノーメディア運動

 電子メディアを「やめてみる」ことによって、電子メディアが家庭、子どもたちから奪っていたもの(時間、会話、愛情、健康…etc)を認識し、電子メディアとの主体的な関係を作り出す運動。家庭内での直接的コミュニケーション力の向上にも、学力向上にも効果がある。

2)ノーメディア運動支援プログラム

 家庭でのノーメディア運動の取り組みには、個々に困難な問題が生じてきて、講演会や呼びかけだけではなかなか定着しない。学校や地域を単位として数十家族で、3ヶ月程度のワークショップ形式の連続講座に参加し、ノーメディア運動への取り組みを定着させる。その過程で、参加者の直接コミュニケーション力の向上を図り、さらに、地域や学校単位での、家庭間の直接的人的ネットワークを構築する。

3)ネットメディアインストラクター

 ネットメディア社会の実情とその中での子どもたちの実態を、親、教師、地域の大人に知らせ、対応の必要性を考え始めるきっかけを作る啓発活動を行う。
 ネットパトロール隊の編成・指導、子どもたちへのネットメディアリテラシー教育も担当する。

4)ネットパトロール隊

 地域の子どもたちが出没しているネットメディアの居場所を発見し、見守る活動。
 親、教師、地域の大人で編成。身近な子どもとネットメディアの実情を知り、対策を地域で考えていく人的ネットワークの基盤となる。
 対策については、3)、5)、6)の体制と連携をとりながら実働を部分的に担う。
 子どもたちの行動を監視し、不適切な行動に対して注意・指導する役割ではない。

5)ネットメディアコミュニケーター

 ネットパトロール隊の活動から、介入の必要性がある子どもに対して、ネットメディアを介してコミュニケーションを取る役割。子どもの権利擁護の姿勢を保ちつつ、子どもの安全確保、犯罪予防のためのコミュニケーションを取る。専門的な学習・訓練が必要。

6)ネットメディア対策専門家ネットワーク

 ネットメディアで起きてくる多様な問題に対応するための専門家のネットワーク。
 子どもの発達や教育の専門家、臨床心理や思春期の専門家、人権擁護、消費者問題等法律の専門家、メディアの専門家、警察、IT技術者など問題に応じて専門的な相談ができるネットワーク。自治体の実情に応じて構築する。窓口となるソーシャルワーカーの存在が不可欠。

※親支援プログラム

 別の側面からの対応として、特に貧困・若年の親への親支援プログラムの必要性があげられる。
 親が社会的に十分育っていない、社会的に満たされていないことが、子どものネットメディア問題を深刻化させる一つの要因となっている。

※起きてくる問題の例

ネットいじめ、裏サイトでの有害情報発信、脅迫・恐喝、性犯罪、違法サイトとの接触、生活習慣の乱れ、不登校、ネット依存症、健康被害、性の商品化、命の軽視、暴力容認、悪徳商法への勧誘、チェーンメール被害、個人情報開示、著作権侵害、名誉毀損、詐欺行為

2.ネットパトロール隊

■枠組み

  • 1地域単位(小学校区、中学校区)で編成
  • 2親、教師、地域の大人の有志で編成。数名〜十数名。

■役割

  • 1地域の子どもたちが出没しているネットメディアの居場所の発見
  • 2発見した居場所の見守り、記録
  • 3要注意対象者の検出と継続的見守り
  • 4パトロール隊の定期的ミーティングとオンラインミーティングでの個々のケースの検討
  • 5インストラクター、コミュニケーター、専門家ネットワークと連携しての具体的対応策の検討と実施
  • 6親同士のネットワークでの問題解決行動
  • 7地域でのネットメディア問題啓発活動への協力

■養成方法

1基礎知識講座

ネットメディアの特性、子どもの発達、子どもの権利、ネットメディアに関連する法知識等
2〜3講座

2実技習得

インターネット、ケータイでの子どものサイトの探し方
操作実技
パトロール隊としての具体的活動の習得
活動範囲の限界を正しく把握する
グループ活動の基盤づくりイコールパトロール隊内部の直接的コミュニケーションの確立
3〜4講座

3実務訓練

地域の子どものサイトの発見、見守り活動をインストラクターの指導のもと実施。
3〜6ヶ月間。
月に1回程度のミーティング、日常的なオンラインコミュニケーションでグループとしての機能を向上させ、孤立、独断、暴走しない仕組みを作る。

4他機関連携

インストラクター、コミュニケーター、専門家ネットワークへ、全体対応や個別対応の必要なケースを引継ぎ、適切な対策が行われるようにする。
そのための判断基準、相談経路を確立する。

  • 学校を単位としているため、親の場合は子どもの卒業、仕事の都合、教師の場合は異動などで、活動継続できない事態が生ずる。年1回くらいのサイクルで養成講座を実施する必要性がある。

3.福岡県筑後市でのネットパトロール隊養成講座

■背景

 2006年度から、筑後市教育委員会、筑後市PTA連合の連携でノーメディア運動に取り組んでいる。
 市教育委員会、市PTA連合は、ネットメディア問題の深刻さを知り、九州大谷短期大学(筑後市)の社会人講座として、子どもとメディアとも協力してネットパトロール隊養成講座を実施する。

■講座内容

1基礎知識講座

  • 第1回 インターネットとは何か。内包する問題。
    • 日程
      2008年6月9日(月曜日) 19時30分〜21時
    • 講師
      坂川和彦(九州大谷短大表現学科準教授) 原陽一郎(九州大谷短大幼児教育学科講師)
  • 第2回 子どもの発達と「メディア」
    • 日程
      2008年7月14日(月曜日) 19時30分〜21時
    • 講師
      山田真理子(本学幼児教育学科教授)

2実技習得

  • 第3回〜6回 子どもたちが接しているインターネット内の情報・文化への接触の仕方−これらのコンテンツの基礎と問題。実際の接触−
    • 日程
      2008年8月11、18、25日 19時30分〜21時
    • 講師
      古野陽一(NPO子どもとメディア常務理事) 原陽一郎(九州大谷短大幼児教育学科講師)

3実務訓練への移行

  • 第7回 総括と今後の活動方針の確認
    • 日程
      2008年9月8日(月曜日) 19時30分〜21時
    • 講師
      山田真理子(九州大谷短大幼児教育学科教授) 原陽一郎(九州大谷短大幼児教育学科講師)
  • 学校を基本単位に、数グループを構成して活動を開始できるようにする。
    定期的なミーティング、オンラインコミュニケーションの体制を作る。

■実務訓練

9月〜12月の3ヶ月間を試行的実務訓練期間とする。

■他機関連携

1ネットメディアインストラクター

NPO法人子どもとメディアが担当

2ネットメディアコミュニケーター

NPO法人チャイルドライン「もしもしキモチ」と連携して対応の可能性を模索する。

3専門家ネットワーク

九州大谷短期大学講師陣、NPO法人子どもとメディアの連携で対応
不足する要素(法律家、警察等)は、順次整備