平成18年7月6日
広島大学大学院教育学研究科
角屋 重樹
本資料の目的は、言語力の育成について、「1.国語と他教科である理科との関連」や「学習指導要領(理科)をどのように改善すればよいのか」を検討することから、各教科等を通じた言語力の育成方略等を明らかにすることである。そこで、本資料では、まず、国語と他教科である理科との関連について、次に学習指導要領(理科)をどのように改善すればよいのか、について記すことにする。
これからの国語は、文学作品などの読解を通して児童生徒に感性を育成するとともに、PISAの基底である「キー・コンピテンシー」などを考慮すると、(1)論理的表現力や(2)コミュニケーション能力など、言語的スキルの育成が急務の課題である(文献1参照)。この言語的スキルの育成という課題解決のためには、言語的スキルの育成の基盤である国語と、各教科との関連を明らかにし、教科相互でその育成を図ることが大切になる。
そこで、本論では、言語的スキルの育成の基盤となる国語において、まず、目指すべき言語的スキルの段階を設定し、次に、その段階に対応する理科における言語力の育成を検討する。
論理については、主に、1.イメージの形成、2.具体物での論理構成、3.抽象的なものでの論理構成、4.自己の世界観の確立という段階に大別できる(例えば、文献2参照)。
そこで、言語的スキルの段階として、
多くの体験をすること。
事実を正確に理解することや、記録したり伝達したりすること。
概念の意味を理解したり、概念に基づいて説明すること。
文章や資料を読解し、評価し自分の考えを論述すること。
が国語科において想定できる。
上述の段階を、理科という教科で対応させるとすれば、次のようになると考えられる。
例えば、成長するという問題意識や予想のもとに、アサガオを観察すると、「現在観察しているアサガオは10日前のものと比べると、葉っぱや茎が伸びているので、成長している。」というように、問題意識や予想にもとづいて、事実を的確に記録したり伝達したりすること。
科学的な概念、例えば、「重量の保存則」を理解したり、「重量は保存されるので、水の中で溶けた物は目に見えないような小さな粒子になって存在している」というように概念に基づいて説明すること。
文章や資料を用いて科学的概念を、結果とそれを検証するデータとの関係から読み解き、実証性や再現性、客観性などの視点から評価し、自分の仮説に基づき科学的にデータを収集し、論述できること。
理科において、コミュニケーション能力を育成する場面は、例えば、次のようなことが考えられる。
同一の事象を観察しても発想する予想(仮説)は異なる。例えば、冷たいコップに付着した水を観察しても、子どもは、1.水がコップから漏れたと考えたり、2.水蒸気が冷えて水になり付着したと考えたりするように、同一の事象を観察しても発想する予想(仮説)は異なる。そこで、発想した予想(仮説)とその検証方法を互いに発表し、互いの予想(仮説)とその検証方法を承認しあい、それぞれの観察・実験方法で予想(仮説)をテストすることが、コミュニケーション能力を育成する一つの方法と考えられる。
観察・実験の結果を、予想(仮説)や観察・実験の方法から解釈する場面では、予想(仮説)を確証したり、反証したりする場合がある。このように、結果の確証や反証から、観察・実験の方法や予想(仮説)の真偽を検討しあうことが、コミュニケーション能力を育成する一つの方法と考えられる。
言語力を育成する学習指導過程を明示すること。そして、その過程を、各教科で、「指導計画の作成と各学年にわたる内容の取扱い」という項目に付加することが考えられる。
初等中等教育局教育課程課教育課程企画室
-- 登録:平成21年以前 --