松本委員説明資料 「言語力育成に関する話題提供-コミュニケーション教育の視座から-」

立教大学経営学部国際経営学科
松本茂(コミュニケーション教育学)

0.はじめに

  • 具体論に入る前に…
  • 言語力とは何?
    • 言語を運用する力?/個人の力?/集団の力?
    • 言語力と思考力など他の「力・発想」の関連性
    • 「言語力を育成する」という指導目的と指導法、教材との関連
  • 目標と指導のギャップ
    • 「個人能力に焦点をあてた到達目標と集団に属している個への(教師主導型)指導」
      • → 「集団としての目標と集団に対する指導」へ

1.コミュニケーションと言語の関係

  • コミュニケーションとは?
     2名以上の人間が、言語・準言語・非言語を媒体として少なくとも1名がなんらかの意識的あるいは無意識のうちに働きかけをしているか、あるいは他の人から影響を受けている状況。(松本:2006)
  • コミュニケーション行為とは?
     言語・準言語・非言語によるメッセージの交換を通して互いに意味を創出しようとする動作。
     社会との結びつきを創り・保つ動作・思考でもある。(松本:2006)
  • コミュニケーション行為の前提
    • 相手の言わんとすることを(前後の文脈、経験、言語知識等を総動員して)理解しようと志向し、わかった(と思いこむ)ことで、ひとつのコミュニケーション行為が完結する。
  • 理解・誤解と言語
    • 辞書に掲載されている一般的な意味とは違う意味を意図的に、あるいは無意識のうちに言葉に込めて使用する。この意味のズレを受け手が理解しようとするか、あるいはできるかどうか。

2.コミュニケーションを「伝達」と捉えることの問題

  • コミュニケーションを単純化しすぎている
    • → 言語を伝達のための「道具」として捉える
      • → 「道具を使いこなす技術を効率的に向上させる」ことを目的とした教育
        • → 言語に関する知識を増やす指導
        • → 言語をパーツや機能に分けた指導
        • → 内容を軽視した指導
          • → トレーニング・訓練中心の指導に
          • → 正しいか正しくないかを重視した指導に
          • → 型(form)を重視した指導に
          • → 教師主体の指導に

3.言語力・コミュニケーション能力を「個人に内在するもの」と捉えることの問題

  • コミュニケーションの「関係性」「複雑さ」を前提としていない。
    • → クラス内のコミュニケーションの充実に貢献しない可能性が高い
      • なぜならば指導内容が単純化されすぎる
      • なぜならば個に対する指導が中心となる
    • → 言語力(コミュニケーション能力)というもうひとつの個人評価の指標(規準)をつくることになる
      • → 個人の力を評価する傾向が強くなる
      • → 結果(product)を重視する評価になりがちである
        • → コミュニケーションの特質に矛盾する
        • → 生徒の「言語力」に関する能力比較を明示する

4.クラス(集団)の言語力に焦点をあてた教育の可能性

  • 生徒どうしの関わり合い(コミュニケーション)の質を高めることで、学びの質を高めることを目的とした教育へ
    • → 言語を使ったコミュニケーションの体験を積む
    • → 授業での活動の拡張性を重視する(現実社会との結びつきを重視する)
      • → 学び合う集団になる
      • → 他者との関係性を大切にする集団になる
        • → 個人の言語に関する知識、使おうとする態度、実際の言動が向上する
  • 生徒どうしの関わり合いを重視した学び
    • 発達段階に応じた意味あるコミュニケーション活動(タスク&プロジェクト)
    • 教科内容と関連したコミュニケーション活動(タスク&プロジェクト)
  • 省察を重視した授業研究
  • 教員研修の改善と充実

5.言語力よりも発想や視座なのかも

  • 文学作品の特異性(読み手の行為として)
    • 論説文等の場合は、読み手は書き手の言わんとしていることを理解しようという直接的なコミュニケーション行為
    • 文学作品の場合は、書き手が創造・構築した世界を作家と共有しようという間接的なコミュニケーション行為
  • ディベート教育と判断留保(エポケー)
    • 使用する言語の特徴やコミュニケーションのやり取りの特徴ばかりに焦点があたりすぎる。
    • 自分が「客観的」だと思い込んでいる判断を一時中止し(肯定もせず、否定もせず)、一時的に物事を肯定と否定の両方から「主観的に」捉えることによって、より「客観的な」捉え方ができるようになるという考えをベースにする。
    • 「実存的な(主観的な)世界視線」と「客観的な世界視線」(竹田:2004)の両方を意識的に使いこなすことにつながる。

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